特許第6404429号(P6404429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6404429袋状表皮一体発泡成形品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404429
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】袋状表皮一体発泡成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B68G 7/06 20060101AFI20181001BHJP
   A47C 7/38 20060101ALI20181001BHJP
   B60N 2/80 20180101ALI20181001BHJP
【FI】
   B68G7/06 A
   A47C7/38
   B60N2/80
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-198217(P2017-198217)
(22)【出願日】2017年10月12日
(62)【分割の表示】特願2014-8956(P2014-8956)の分割
【原出願日】2014年1月21日
(65)【公開番号】特開2018-29989(P2018-29989A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2017年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100101627
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 宜延
(72)【発明者】
【氏名】那須 裕史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 吉彦
【審査官】 山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−201968(JP,A)
【文献】 特開2002−210271(JP,A)
【文献】 特開2006−188152(JP,A)
【文献】 米国特許第05855831(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68G 7/06
A47C 7/38
B60N 2/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの表皮片(3)主部(31)から張り出す舌片部(33)を有し、両表皮片(3)の裏面(3b)を外向きにして両表皮片(3)の意匠面(3a)を対向させ、二枚重ねにした該舌片部(33)の両側縁(33a)沿いを縫い合わせて扁平筒部(4)を形成し、且つ二つの該表皮片(3)を含めて裏面(3b)が外向きの袋状に縫製し袋状表皮(2)が、表返しされ、前記主部(31)がつくる底面部分(231)から折り曲げられる前記扁平筒部(4)袋状表皮内(20)に収めた表返し状態の袋状表皮(2)と、前記扁平筒部(4)の筒口(40)から該袋状表皮内(20)へ発泡原料(g)を注入して一体発泡成形された発泡体(F)と、を備える袋状表皮一体発泡成形品において、
前記二つの表皮片は、弾発力が違う表皮片(3)であり、前記扁平筒部(4)が在る前記袋状表皮(2)の底面部域(232)を残して、前記二つの表皮片(3)の主部(31)に、底面部(23)を形成する縫目ライン(5)が縫合されるのに加え、弾発力が高い方の前記表皮片(3)の舌片部(33)が前記底面部分(231)から折れ曲がる部位(E)に、弾性復元力を弱めて折り曲げを容易にする筋状の脆弱部分(34)が設けられてなることを特徴とする袋状表皮一体発泡成形品。
【請求項2】
弾発力が高い方の前記表皮片(3)が裏当てシート部材(3d)を含む積層材からなり、且つ該裏当てシート部材(3d)が発泡ポリエチレン製シート又は発泡ポリプロピレン製シートからなる請求項1記載の袋状表皮一体発泡成形品。
【請求項3】
前記脆弱部分(34)が、前記底面部(23)を形成する両縫目ライン(5)で挟まれた前記舌片部(33)が屈曲するその付け根部位で、該縫目ライン(5)のライン延長上に設けられた請求項1又は2に記載の袋状表皮一体発泡成形品。
【請求項4】
前記脆弱部分(34)が、表皮片(3)を貫通させる空縫いのミシン目(35)で形成された請求項1乃至3のいずれか1項に記載の袋状表皮一体発泡成形品。
【請求項5】
前記脆弱部分(34)が、縫糸を用い、表皮片(3)を貫通させて縫目にしたステッチ(36)で形成された請求項1乃至3のいずれか1項に記載の袋状表皮一体発泡成形品。
【請求項6】
前記脆弱部分(34)が、前記裏当てシート部材(3d)に貫通させたスリット(37)で形成されるか、又は前記裏当てシート部材(3d)の裏面(3d1)からその表面(3d2)寄りにまで達する凹溝(38)で形成された請求項2に記載の袋状表皮一体発泡成形品。
【請求項7】
二つの表皮片(3)主部(31)から張り出す舌片部(33)を有し、両表皮片(3)の裏面(3b)を外向きにして両表皮片(3)の意匠面(3a)を対向させ、二枚重ねにした該舌片部(33)の両側縁(33a)沿いを縫い合わせて扁平筒部(4)を形成し、且つ二つの該表皮片(3)を含めて裏面(3b)が外向きの袋状に縫製し袋状表皮(2)が、表返しされ、前記主部(31)がつくる底面部分(231)から折り曲げられる前記扁平筒部(4)袋状表皮内(20)に収めた表返し状態の袋状表皮(2)にした後、前記扁平筒部(4)の筒口(40)を上にして袋状表皮(2)を発泡型(9)にセットし、その後、筒口(40)から袋状表皮内(20)へ発泡原料(g)を注入して袋状表皮と一体の発泡体(F)を発泡成形する袋状表皮一体発泡成形品の製造方法において、
前記二つの表皮片は、弾発力が違う表皮片(3)とし、前記袋状表皮(2)に縫製する前または縫製後に、前記扁平筒部(4)を構成する弾発力が高い方の前記表皮片(3)の舌片部(33)で、前記扁平筒部(4)の折り曲げられる部位に対応する折れ曲がる部位(E)に、弾性復元力を弱めて折り曲げを容易にする筋状の脆弱部分(34)を設け、その後、裏返し状態の袋状表皮(2)を表返しし、前記扁平筒部(4)を袋状表皮内(20)に収めると共に、前記筒口(40)を上にして袋状表皮(2)を発泡型(9)にセットするようにしたことを特徴とする袋状表皮一体発泡成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドレストやアームレスト等の袋状表皮一体発泡成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のヘッドレストでは、袋状表皮に底面部から表皮内方へ延在させた扁平筒部を設けて、その筒口(注入口)からウレタン発泡原料を注入し、発泡体を袋状表皮と一体発泡成形させた袋状表皮一体発泡成形品が知られている。発泡成形で、発泡原料が上昇して扁平筒部の注入口を自己シールさせることができる。それでも、注入口が安定せず、外観不良が発生する場合があった。
こうした事態を改善する発明がいくつか提案されている(例えば特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−95198号公報
【特許文献2】特開平10-14707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1は、その請求の範囲に記載のごとく「…袋状表皮材(2)の底部内面には前記折曲部(5a)、(5a)に内周縁が位置する一対の水平弾性板(6)、(6)を貼着一体化してあることを特徴とする車輌用ヘッドレスト。」であり、別に水平弾性板を準備しなければならず、部品点数の増加に伴うコストアップ,在庫管理負担を強いられた。
特許文献2は、その特許請求範囲に記載のごとく「…注入口の端部を開口した状態で注入口の端部に沿ってミシン糸が一周縫着され、…端部を外方へ引っ張り、注入口の端部にテンションを加えて密閉させた状態でパッド材が一体発泡成形されていることを特徴とする表皮材一体発泡ヘッドレスト。」であり、端部を外方へ引っ張る引張装置を必要とし、さらにヘッドレストの製造ではその引っ張り処理工程を要し、生産性を低下させた。
【0005】
また、最近は乗員頭部が当たる表皮部分だけを、クッション性,快適性を高めるべく軟らかくすることも検討されている。斯かる場合、特許文献1の折曲部(5a)、(5a)や特許文献2の端部(15a),(15b)が同じにはならず、外観不良を抑えるのが難しくなる。
例えば、図10(イ)のごとく、乗員頭部が当たる箇所にして軟らかな車両前方側表皮片S1と、これよりも弾発力が高い素材からなる車両後方側表皮片S2とで、ヘッドレスト底面部から袋状表皮内へ向かう舌片部P,P(折曲部,端部)からなる筒部Tを形成したと仮定する。すると、弾発力に勝る車両後方側表皮片S2が打ち勝って、該舌片部Pが車両前方側へ倒れてしまう問題がある。発泡型9への袋状表皮Sのセット段階でも(図12)、前述した弾発力に勝る車両後方側表皮片S2が打ち勝って、筒部Tが車両前方側へ倒れてしまう。図10(ロ)のごとくヘッドレストの発泡成形品になったとき、筒口T1周りに段差Dを発生させたり、意匠面にシワWやよたりYの不具合を引き起こしたりする。
図11(イ)のごとく、舌片部P1,P2を形成する前表皮片S1と後表皮片S2が、共に軟らかくてコシが弱いウレタンスラブを使用していれば、ヘッドレスト底面部から舌片部が安定して袋状表皮内へと向かうが、舌片部P1,P2の素材の弾発力が強くなると、図11(ロ)のごとく筒口T1周りに変形を起こし、図10(ロ)と同じような問題を抱える。前表皮片S1,後表皮片S2の舌片部P1,P2が表皮内の中まで入らないため、袋状表皮Sが縦方向で、発泡型9との正寸に対して余ることになりシワWができる。さらに表皮片S2が折れ曲がらず、図10(イ),図12のように舌片部Pが倒れてしまうと、高低差Hがある段差Dの凹みのみならず、底面部と筒部Tが重なって、その領域の厚みが増し、よたりYが発生する問題を引き起こす。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するもので、部品点数を増加させず、また治具装置なしで生産性を落とすことがなく、さらに舌片部を形成する二つの表皮片の弾発力が違っていても、品質が安定した袋状表皮一体発泡成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、二つの表皮片(3)主部(31)から張り出す舌片部(33)を有し、両表皮片(3)の裏面(3b)を外向きにして両表皮片(3)の意匠面(3a)を対向させ、二枚重ねにした該舌片部(33)の両側縁(33a)沿いを縫い合わせて扁平筒部(4)を形成し、且つ二つの該表皮片(3)を含めて裏面(3b)が外向きの袋状に縫製し袋状表皮(2)が、表返しされ、前記主部(31)がつくる底面部分(231)から折り曲げられる前記扁平筒部(4)袋状表皮内(20)に収めた表返し状態の袋状表皮(2)と、前記扁平筒部(4)の筒口(40)から該袋状表皮内(20)へ発泡原料(g)を注入して一体発泡成形された発泡体(F)と、を備える袋状表皮一体発泡成形品において、前記二つの表皮片は、弾発力が違う表皮片(3)であり、前記扁平筒部(4)が在る前記袋状表皮(2)の底面部域(232)を残して、前記二つの表皮片(3)の主部(31)に、底面部(23)を形成する縫目ライン(5)が縫合されるのに加え、弾発力が高い方の前記表皮片(3)の舌片部(33)が前記底面部分(231)から折れ曲がる部位(E)に、弾性復元力を弱めて折り曲げを容易にする筋状の脆弱部分(34)が設けられてなることを特徴とする袋状表皮一体発泡成形品にある。請求項2の発明たる袋状表皮一体発泡成形品は、請求項1で、弾発力が高い方の前記表皮片(3)が裏当てシート部材(3d)を含む積層材からなり、且つ該裏当てシート部材(3d)が発泡ポリエチレン製シート又は発泡ポリプロピレン製シートからなることを特徴とする。
請求項3の発明たる袋状表皮一体発泡成形品は、請求項1又は2で、脆弱部分(34)が、前記底面部(23)を形成する両縫目ライン(5)で挟まれた前記舌片部(33)が屈曲するその付け根部位で、該縫目ライン(5)のライン延長上に設けられたことを特徴とする。請求項4の発明たる袋状表皮一体発泡成形品は、請求項1〜3で、脆弱部分(34)が、表皮片(3)を貫通させる空縫いのミシン目(35)で形成されたことを特徴とする。請求項5の発明たる袋状表皮一体発泡成形品は、請求項1〜3で、脆弱部分(34)が、縫糸を用い、表皮片(3)を貫通させて縫目にしたステッチ(36)で形成されたことを特徴とする。請求項6の発明たる袋状表皮一体発泡成形品は、請求項2で、脆弱部分(34)が、前記裏当てシート部材(3d)に貫通させたスリット(37)で形成されるか、又は前記裏当てシート部材(3d)の裏面(3d1)からその表面(3d2)寄りにまで達する凹溝(38)で形成されたことを特徴とする。
請求項7に記載の発明の要旨は、二つの表皮片(3)主部(31)から張り出す舌片部(33)を有し、両表皮片(3)の裏面(3b)を外向きにして両表皮片(3)の意匠面(3a)を対向させ、二枚重ねにした該舌片部(33)の両側縁(33a)沿いを縫い合わせて扁平筒部(4)を形成し、且つ二つの該表皮片(3)を含めて裏面(3b)が外向きの袋状に縫製し袋状表皮(2)が、表返しされ、前記主部(31)がつくる底面部分(231)から折り曲げられる前記扁平筒部(4)袋状表皮内(20)に収めた表返し状態の袋状表皮(2)にした後、前記扁平筒部(4)の筒口(40)を上にして袋状表皮(2)を発泡型(9)にセットし、その後、筒口(40)から袋状表皮内(20)へ発泡原料(g)を注入して袋状表皮と一体の発泡体(F)を発泡成形する袋状表皮一体発泡成形品の製造方法において、前記二つの表皮片は、弾発力が違う表皮片(3)とし、前記袋状表皮(2)に縫製する前または縫製後に、前記扁平筒部(4)を構成する弾発力が高い方の前記表皮片(3)の舌片部(33)で、前記扁平筒部(4)の折り曲げられる部位に対応する折れ曲がる部位(E)に、弾性復元力を弱めて折り曲げを容易にする筋状の脆弱部分(34)を設け、その後、裏返し状態の袋状表皮(2)を表返しし、前記扁平筒部(4)を袋状表皮内(20)に収めると共に、前記筒口(40)を上にして袋状表皮(2)を発泡型(9)にセットするようにしたことを特徴とする袋状表皮一体発泡成形品の製造方法にある。
【0008】
請求項1,7の発明のごとく、二つの表皮片は、弾発力が違う表皮片(3)であり、弾発力が高い方の前記表皮片(3)の舌片部(33)が底面部分(231)から折れ曲がる部位(E)に、弾性復元力を弱めて折り曲げを容易にする筋状の脆弱部分(34)が設けられると、曲げてもコシがあるため跳ね上がっていた弾発力のある部材でもそのコシが弱まり、底面部分から扁平筒部を折り曲げて袋状表皮内へ所望の形にして円滑セットできる。脆弱部分によって底面部分から折り曲げられるその箇所が集中的に弱められているので、特許文献2の引っ張る外力の助けを借りることなく、扁平筒部が折り曲げられてできた屈曲角部の状態を、袋状表皮そのもので自律的に保持できる。
請求項2の発明のごとく、発泡ポリエチレン製シート又は発泡ポリプロピレン製シートからなる裏当てシート部材(3d)を含む積層材にして、裏当てシート部材(3d)が在る方の表皮片(3)に脆弱部分(34)が設けられると、発泡ポリエチレン製シートや発泡ポリプロピレン製シートが独立気泡タイプの発泡体にして硬度が硬いので、発泡成形時に袋状表皮を縫製した縫目から外へ発泡原料が漏出するのを有効に阻止できる。従来、表皮片同士の縫合箇所では、その周縁を含めた縫い代部分をラップするフィルムを取付けて発泡原料の漏出防止を図ってきたが(特開平11-225846号)、こうしたフィルムの取付け作業が不要になる。製品の大幅なコストダウンにつながる。請求項3のごとく、底面部(23)を形成する両縫目ライン(5)で挟まれた前記舌片部(33)が屈曲するその付け根部位で、該縫目ライン(5)のライン延長上に設けられると、縫目ラインと扁平筒部(4)が底面部分(231)から折れ曲がる部位(E)とが線上に一致するので、筒口(40)周りがよたり難くなる。請求項4,6のごとくのミシン目(35),スリット(36),凹溝(38)等の脆弱部分が形成されると、舌片部(33)が底面部分(231)から折れ曲がる部位(E)の表皮片層に、欠落部分が集中的にでき、脆弱部分における表皮片の折り曲げが容易になる。請求項5のごとくのステッチが形成されると、曲げてもコシがあるため跳ね上がっていた弾発力のある部材でも、ステッチの絞り込みによって弾発力が規制されるので、脆弱部分として機能発揮する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の袋状表皮一体発泡成形品及びその製造方法は、部品点数が増えることなく、また特段の別装置を要せず、簡便な加工形成にして低コストで対応でき、しかも舌片部を形成する二つの表皮片の弾発力が違っていても、生産性を落とすこともなく品質安定した良品を生産できなど数々の優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】発明の袋状表皮一体発泡成形品及びその製造方法の一形態で、袋状表皮に係る各表皮片の展開平面図である。
図2図1の各表皮片を縫合してなる袋状表皮の裏面側斜視図である。
図3】発泡型に袋状表皮,ステーをセットし、型閉じした説明断面図である。
図4図3の後、袋状表皮内へ発泡原料の注入する様子を示した説明断面図である。
図5図4の後、発泡成形する様子を示した説明断面図である。
図6】(イ)が図5の後、脱型して取り出したヘッドレストの斜視図、(ロ)が(イ)のVI-VI線矢視図である。
図7図1図6に代わる他態様図で、(イ)が脆弱部分周りの表皮片の説明正面図、(ロ)が(イ)の要部断面図、(ハ)が(イ)の表皮片で形成した袋状表皮,ステーをセットし、型閉じした説明断面図、(ニ)が(ハ)の筒部周りの拡大図である。
図8図7とは異なる他態様図で、(イ)が脆弱部分周りの表皮片の説明正面図、(ロ)が(イ)の要部断面図、(ハ)が(イ)の表皮片で形成した袋状表皮,ステーをセットし、型閉じした説明断面図、(ニ)が(ハ)の筒部周りの拡大図である。
図9】別態様の袋状表皮で、(イ)がその部分拡大図、(ロ)が発泡型に袋状表皮をセットした図3の円内拡大図に対応する説明断面図である。
図10】(イ)が従来技術の袋状表皮の説明断面図、(ロ)が(イ)の袋状表皮を用いたヘッドレストの斜視図である。
図11】従来技術の説明断面図である。
図12】従来技術の説明断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る袋状表皮一体発泡成形品及びその製造方法について詳述する。図1図9は本発明の袋状表皮一体発泡成形品(以下、単に「表皮一体発泡成形品」ともいう。)及びその製造方法の一形態で、図1は各表皮片の平面図、図2図1の各表皮片を縫合してなる袋状表皮の裏面側斜視図、図3は発泡型に袋状表皮をセットした説明断面図、図4図3の後、発泡原料の注入する様子を示した説明断面図、図5図4の後、発泡成形する様子を示した説明断面図、図6は(イ)が脱型して取り出したヘッドレストの斜視図、(ロ)が(イ)のVI-VI線矢視図、図7図9図1図6に代わる他態様,別態様の説明図を示す。図1は縫製前であるが、縫目ライン5,縫い合わせライン6の位置を判り易くするため便宜的に描く。また断面を表示するハッチング図示を適宜省略する。
【0012】
(1)袋状表皮一体発泡成形品の製造方法
袋状表皮一体発泡成形品の製造方法は、例えば図6(イ)のような枕形状をしたヘッドレスト1の製造方法に適用する。底面部23及び扁平筒部4をつくる二つの表皮片3を具備して袋状に縫製加工した袋状表皮2と、扁平筒部4の筒口40から該袋状表皮内20へ発泡原料gを注入して一体発泡成形された発泡体Fと、を備えるヘッドレストである。
【0013】
まず、製造に先立ち、ヘッドレスト用袋状表皮2が平面展開してできる表皮片3と、表皮小片7とを準備する。ここでの表皮片3は、図1,図6のごとく、乗員頭部が当たるヘッドレスト前面部22から車両前方側の底面部分231を形成する前表皮片3Aと、ヘッドレスト後面部24から車両後方側の底面部分231を形成する後表皮片3Bと、からなる。表皮小片7は、左右対称品が準備され、ヘッドレスト車幅方向の両側面部25を形成する。二つの表皮片3には、夫々の主部31がつくる底面部分231から舌片部33が張り出す。表皮片3,表皮小片7の周縁には一定必要量の縫い代39,79が予め補われている。
【0014】
前記表皮片3,表皮小片7の素材については、ファブリック表皮等が用いられるが、少なくとも一方の表皮片3が、意匠面形成用ファブリック表皮3fと、この裏面側に配した発泡ポリエチレン製シート又は発泡ポリプロピレン製シートからなる裏当てシート部材3dとを含む積層材とする。本実施形態は、図3,図6の円内拡大図のごとく、前表皮片3Aが意匠面形成用ファブリック表皮3fの裏面に、発泡ウレタンで6mm程の厚板からなるウレタンスラブ3eと、フィルム3mとを重ね合わせ一体化したものである。これに対し、後表皮片3B,表皮小片7は、意匠面形成用ファブリック表皮3fと、この裏面側に配した発泡ポリエチレン製シート(又は発泡ポリプロピレン製シート)からなる裏当てシート部材3dとを含む積層材とする。具体的にはファブリック表皮3fの裏面に結合用ウレタンラミネート3cを付与して、ウレタンスラブ3eよりも厚みが薄い2mm厚ほどの発泡ポリエチレン樹脂シートたる裏当て部材3dを貼り合せている(図3)。
【0015】
そして、各表皮片3,表皮小片7は裏面3b,7bを外向きにして縫合し、袋状表皮2を縫製する(図2)。二つの表皮片3に係る舌片部33の意匠面3aを対向させ、二枚重ねにした舌片部33の両側縁33a沿いを縫い合わせて短筒状の扁平筒部4を形成する。二つの表皮片3の主部31に、扁平筒部4が在る底面部域232を残して、底面部23を形成する縫目ライン5が縫合される。さらに両主部31と他の前記表皮小片7との縫合により、縫い合わせライン6が形成されて、図2のような袋状表皮2になる。尚、図3の符号61は表皮片3A,3Bでヘッドレスト頂部を形成する縫い合わせラインを示す。これと相前後して、少なくとも一方の表皮片3の舌片部33がその底面部分231から折れ曲がる部位Eに、折り曲げを容易にする筋状の脆弱部分34を設ける。折れ曲がる部位Eは舌片部33の付け根部分、又は舌片部33と主部31との境界域になる。発泡型9に袋状表皮2をセットして、発泡体Fが袋状表皮2と一体成形された図6でいうと、底面部分231から舌片部33へと断面L字状に曲がる屈曲角部が該当する。
【0016】
本実施形態は、発泡ポリエチレン製シートを有する後表皮片3Bに、前記脆弱部分34が設けられる。該脆弱部分34が縫目ライン5の延長部に配設される。発泡ポリエチレン製シートを有する表皮片3が用いられるので、発泡成形時のミシン目からの発泡原料gの漏れ防止等に効を奏する。しかし、発泡ポリエチレン製シートは、ウレタンスラブ3eに比べて厚みが薄いにもかかわらず、曲げてもコシがあるため跳ね上がってしまう難点がある。底面部分231の先で折り曲げ形成した舌片部33の基端域での反発力(弾性復元力)が大きいため、図10のごとく、後表皮片S2の舌片部Pが屈曲部で折れずに、前表皮片S1側の舌片部P側へ倒れ込み乗っかる不具合を招く。この不具合を脆弱部分34が解消する。
【0017】
脆弱部分34は、表皮片3を折り曲げた際、該表皮片3の反発力(弾性復元力)が弱められている部分であり、裏当てシート部材3dが在る方の表皮片3に設けられる。ここでは、縫製用ミシンを用い、表皮片3を貫通させる空縫い(空打ち)のミシン目35で形成された図1,図2のような点線ライン状の脆弱部分34とする。二つの表皮片3で底面部23を形成する縫目ライン5の延長部(延長先)で、後表皮片3B側の舌片部33が折れ曲がる部位Eに、空縫いのミシン目35を筋状に形成する。空縫いのミシン目35は舌片部33の根元部分で、主部31から張り出す舌片部33を横断するよう設けられる。空縫いのミシン目35が底面部23に近い舌片部33の付け根部位に、例えば点線ライン状に2mmピッチで連続して開孔される(図1)。舌片部33が折れ曲がる部位Eに、ミシン目孔35eが貫通し、曲げに伴うその箇所における表皮片3の反発力(弾性復元力)が弱められる。
【0018】
次いで、脆弱部分34を設け且つ裏返し状態で縫製を終えた図2の脆弱部分34付き袋状表皮2を、意匠面2aが外側になるよう表返しにする。さらに、扁平筒部4を底面部分231に対し折り曲げて、袋状表皮内20に収める。また、ステー8の脚部81をステー孔32へ通し突き出し状態を保って、連結部82を袋状表皮内20に収める。
【0019】
しかる後、図3の鎖線で示す分割型9a,9bが開いた型開状態下、底面部23を上にして、発泡型9にステー8付き袋状表皮2をセットする。扁平筒部4の筒口40を上にして、底面部分231から脆弱部分34で舌片部33が袋状表皮内20へ向け断面L字状に折れ曲がってなる袋状表皮2を、発泡型9にセットし、その後、仮り型閉じする。
ステー8を係止保持する図示しない係止具が、ステー8を介して袋状表皮2の底面部23を持ち上げており、発泡型9の上型面911へ底面部23を当接させる。筒入り口401側にあたる屈曲角部での弾性復元力が、前記脆弱部分34の形成により弱められている
ので、後表皮片3Bは底面部分231から折れ曲がる部位Eでの舌片部33の折曲が楽で且つ安定する。
【0020】
斯かる状態を確保した後、漏斗Rを経由して発泡原料g(例えば液状ポリウレタンフォーム原料)を、筒口40から袋状表皮内20へ所定量注入する(図4)。図中、符号94は発泡型9に設けた発泡原料注入口、符号90はキャビティ、符号96はヒンジを示す。その後、完全に型閉じし、袋状表皮2と一体の発泡体Fを発泡成形する(図5)。
袋状表皮内20へ突き出す扁平筒部4は、発泡成形で発生する発泡圧で、両サイドから締め付けられることによって筒口40が塞がれる。後表皮片3Bに設けた脆弱部分34が、折れ曲がる部位Eの屈曲角部に配されているので、曲げられた状態になっても、該屈曲角部周りが保形維持されている。扁平筒部4は、底面部23から鉛直に下がった状態のまま、その両サイドから発泡圧で筒口40を閉じる。こうして、意匠面2aに現れる筒口40が真一文字に綺麗に閉じて、発泡体Fに扁平筒部4が一体化固定される。漏斗Rは発泡成形後に取除いても構わない。発泡成形後に取除いても、発泡体Fの残圧で漏斗管径程度の残跡は消失する。
かくのごとくして発泡成形を終え、脱型すれば、図6ごとくの外観が良好な所望のヘッドレスト1(袋状表皮一体発泡成形品)が得られる。
【0021】
図7図1図6の脆弱部分34に代わる他態様の脆弱部分34を示す。図7の脆弱部分34は、後表皮片3Bの舌片部33が折れ曲がる部位Eに、折り曲げを容易にする筋状のスリット37を形成したものである。裏当てシート部材3dを貫通形成したスリット37であり、後表皮片3Bを構成するコシのある裏当てシート部材3dに、細長い線状の切込みを入れている。スリット37があることによってその部分の弾性復元力,コシが弱まり、図3のように袋状表皮2を発泡型9にセットしたとき、空縫いのミシン目35で形成された脆弱部分34と同様、底面部23から方向を変え、扁平筒部4(舌片部33)に向かう箇所で折り曲げられる屈曲角部Eを安定して保形維持できる。図7中、符号7Bは図1図6の後表皮片3Bから分割された後表皮小片を示す。
図7に代え、裏当てシート部材3dに図8のようなハーフスリット37の凹溝38で形成した脆弱部分34とすることもできる。裏当てシート部材3dの裏面3dからその表面3d寄りにまで達する凹溝38が形成される。凹溝38は熱プレス、具体的にはストローク調整したトムソン型等を用いて作製する。凹溝38の溝幅をスリット37の場合よりも大きくして、スリット37や空縫いミシン目の場合と同様、扁平筒部4を構成する舌片部33の付け根に形成される屈曲角部Eを保形維持できる。
【0022】
また、図1図6は空縫いでミシン目35を形成したが、図9のごとく縫糸36aを用い、表皮片3を貫通させて縫目にしたステッチ36で脆弱部分34を形成することもできる。縫糸36aがあるステッチ36にすることによって、発泡型9に袋状表皮2をセットした図9(ロ)の拡大図に見られるように、後表皮片3Bは折れ曲がる部位Eでステッチ36の部分が絞られて、裏当てシート部材3dの弾発力,コシが弱められる。符号36jはステッチ36により絞られた窪みを示す。扁平筒部4に係る舌片部33を底面部分23に対し折り曲げてできる断面L字状の屈曲角部Eを、ステッチ36が在ることで保形維持できる。
尚、図7図9で、同図に示す脆弱部分34を用いたヘッドレスト(袋状表皮一体発泡成形品)の製造方法について、他の構成は図1図6の説明と同じであり、その説明を省く。図1図6と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0023】
(2)袋状表皮一体発泡成形品
袋状表皮一体発泡成形品1は、袋状表皮2と脆弱部分34と発泡体Fとを具備し、例えば前述した袋状表皮一体発泡成形品の製造方法で造ることができる。本実施形態は袋状表皮一体発泡成形品1として、図1図6ごとくのヘッドレストに適用する。
【0024】
前記ヘッドレストの製造方法によって得られたヘッドレスト1は、既述のごとく袋状表皮2と発泡体Fと脆弱部分34を具備する。
袋状表皮2は、二つの表皮片3を含めて袋状にした縫製表皮である。図1,図2の袋状表皮2は二つの表皮片3と二つの表皮小片7とで形成するが、勿論、二つの表皮片3だけで袋状表皮2を形成できる。二つの表皮片3と単数又は三枚以上の表皮小片7で袋状表皮2を形成することもできる。二つの表皮片3には主部31から張り出す舌片部33が延在する。夫々の主部31がつくる底面部分231から延在する舌片部33を意匠面3aが対向するようにして、二枚重ね部分になった該舌片部33の両側縁33a沿いを縫い合わせて扁平筒部4が形成される。
【0025】
そして、前記表皮片3は、少なくとも一方の前記表皮片3が、意匠面形成用ファブリック表皮3fと、この裏面側に配した発泡ポリエチレン製シート又は発泡ポリプロピレン製シートからなる裏当てシート部材3dとを含む積層材とする(図3)。両表皮片3,表皮小片7の全てに対し裏当てシート部材3dを含む積層材とすることもできるが、ここでは、後表皮片3Bと二つの表皮小片7にとどめる。前表皮片3Aは、乗員頭部が当たるため快適性を追求し、既述のごとく軟らかく且つ厚みがあるウレタンスラブ3eの発泡体がファブリック表皮3fに裏打ちされたものとする。
【0026】
脆弱部分34は、少なくとも一方の前記表皮片3の舌片部33が折れ曲がる部位Eで、折り曲げを容易にするために設けられる筋状ラインである(図1図3)。袋状表皮2の縫製にあたって、扁平筒部4が在る袋状表皮2の底面部域232を残して、二つの前記表皮片3の主部31に、底面部23を形成する縫目ライン5が縫合されるが、この底面部域232から舌片部33が折れ曲がる部位Eに脆弱部分34が形成される。少なくとも一方の表皮片3の舌片部33が折れ曲がる部位Eに、折り曲げを容易にする筋状の脆弱部分34が設けられる。両表皮片3に脆弱部分34を設けることも勿論できる。
【0027】
本実施形態は、表皮片3を貫通させる空縫いのミシン目35で形成された筋状の脆弱部分34になっている。そして、発泡ポリエチレンシートの裏当てシート部材3dが在る方の表皮片3、すなわち後表皮片3Bに脆弱部分34が設けられる。脆弱部分34は縫目ライン5の延長部に設けられ、具体的には、底面部23を形成する両縫目ライン5,5で挟まれた舌片部33が屈曲するその付け根部位に設けられる。
【0028】
脆弱部分34については、空縫いの前記ミシン目35で形成する他、縫糸36aを用い、一の表皮片3を貫通させて縫目にしたステッチ36で筋状形成することもできる(図9)。ここで、縫目ライン5のライン延長上に、前記ミシン目35やステッチ36からなる脆弱部分34が設けられるとより好ましくなる。脆弱部分34が縫目ライン5の延長部に設けられると、縫目ライン5と扁平筒部4が底面部分231から折れ曲がる部位Eとが線上に一致するので、筒口40周りがよたり難くなるからである。尚、ステッチ36に関しては、ファブリック表皮3fの色が例えばブラウン等で、ステッチ用縫糸36aとの色合わせが難しいときは、ステッチ36を屈曲部位Eに配しながらも、図9(ロ)の位置よりも少し下方側に奥まった舌片部33の基端部分の方がより好ましい。ステッチ用縫糸36aが隠れるようになり、品質が良好に保てるからである。
また、脆弱部分34は、裏当てシート部材3dに貫通させたスリット37で形成された筋状ラインであってもよい(図7)。裏当てシート部材3dの裏面3dからその表面3d寄りにまで達する凹溝38で形成された筋状の脆弱部分34であってもよい(図8)。
いずれの脆弱部分34も、舌片部33が底面部分231から折れ曲がる部位Eに、折り曲げを容易にする脆弱部分34として機能発揮する。その結果、発泡型9への袋状表皮2のセットが容易で、且つ段差D等の不具合が生じない品質良好の製品が得られる。発泡型9へ上下逆向きにして袋状表皮2がセットされると、図3のごとく型面91に袋状表皮2の外面が当接する。このとき底面部分231から折れ曲がって、舌片部33が垂れるようにさせている屈曲部分の保形維持は、脆弱部分34を設けたことによって成り立つ。斯かる状態が保たれて、発泡体Fが該袋状表皮2と一体発泡成形される。
【0029】
発泡体Fは、舌片部33でつくる扁平筒部4の筒口40から袋状表皮内20へ発泡原料gを注入して、袋状表皮2と一体発泡成形されたプラスチックフォームの塊状体である(図5)。前述のごとく、扁平筒部4の後表皮片3Bに、曲げてもコシがあって跳ね上がってしまう裏当てシート部材3dを備える積層材を採用するが、その底面部分231から折れ曲がる部位Eに、前記脆弱部分34が形成されている。ステー8がインサートセットされた袋状表皮2を、上下逆にして発泡型9にセットすると(図3)、該脆弱部分34によって底面部23から屈曲角部Eを形成維持して袋状表皮内20へ、扁平筒部4が略鉛直に垂れ下がる。扁平筒部4は、図10の段部Dが在るいびつな形状にならず、底面部23から鉛直に垂れ下がっている。
斯かる状態を保ったまま、筒口40から袋状表皮内20へ発泡原料gが注入されると(図4)、発泡成形過程で発泡原料gが上昇し、扁平筒部4に対しその両側面への発泡圧で筒口40を真一文字に閉じさせた発泡体Fが発泡成形される。発泡体Fによって、筒口40が図6(イ)のごとく一の字のようにまっすぐな形で自己シールされる。
【0030】
かくして、袋状表皮内20にステー8の連結部82を埋め込んだ発泡体Fが成形され、該発泡体Fは袋状表皮2の内面及び図3に示す扁平筒部4の外面(表皮片3の裏面3bになる)にも一体化されることとなる。他の構成は、(1)袋状表皮一体発泡成形品の製造方法の説明と同様であり、その説明を省く。
ヘッドレスト(袋状表皮一体の発泡体F)は、袋状表皮2,脆弱部分34,発泡体Fを具備し、扁平筒部4付き袋状表皮2の舌片部33が底面部分231から折れ曲がる屈曲角部Eに、前記脆弱部分34が設けられることで、筒口40詳しくは筒入り口401が綺麗に閉じ、段差D等のない所望の製品に仕上がる。
【0031】
(3)効果
このように構成した袋状表皮一体発泡成形品及びその製造方法は、少なくとも一方の表皮片3の舌片部33が底面部分231から折れ曲がる部位Eに、折り曲げを容易にする筋状の脆弱部分34を設けるので、底面部分231から扁平筒部4を袋状表皮内20へすんなりと向かわせることができる。図3のごとく底面部分231を上にして扁平筒部4が垂れ下がる姿態になるので、袋状表皮2の筒入り口401周りに段差Dができず、綺麗な形に収めることができる。袋状表皮2を上下逆にして発泡型9にセットし、発泡原料gを筒口40から袋状表皮内20へ注入し発泡成形された袋状表皮一体発泡成形品1(ヘッドレスト)は、筒口40が真一文字に閉じ、従来技術で説明した段差DやシワW,よたりYが発生しない品質良好な製品となる(図6)。高品質の袋状表皮一体発泡成形品1を安定して生産できるようになる。
しかも、脆弱部分34を設けるだけで足り、特許文献1のような別部材を必要とせず、部品増によるコストアップや在庫管理負担がない。また特許文献2の引張装置等を要せず、その装置コストがかからず、引っ張り工程を加える必要がないので生産性向上につながる。
【0032】
表皮片3に発泡ポリエチレン製シート又は発泡ポリプロピレン製シートからなる裏当て
シート部材3dを備える積層材を採用しても、舌片部33が底面部分231から折れ曲がる部位Eに筋状の脆弱部分34を設けることによって、品質良好な袋状表皮一体発泡成形品1を得ることができる。裏当てシート部材3dが在る舌片部33を曲げて袋状表皮内20へ扁平筒部4を配設したとき、脆弱部分34が在ることによって弾性復元力が弱められて、折れ曲がる部位Eでの曲げを容易にするだけでなく曲げられたその屈曲角部が保形維持されるので、発泡型9への袋状表皮2のセットが円滑に進む。そして、発泡成形されたヘッドレスト1等の袋状表皮一体発泡成形品に段差DやシワW,よたりYが発生しなくなる。
【0033】
また、脆弱部分34が、裏当てシート部材3dに貫通させたスリット37で形成されるか、又は裏当てシート部材3dの裏面3dからその表面3d寄りにまで達する凹溝38で形成されると、簡便に脆弱部分34を形成できる。空縫いのミシン目35,スリット36,凹溝38等の脆弱部分34は、表皮片3の屈曲角部Eの表皮層に欠落部分が形成されるので、曲げに伴う表皮片3の反発性残留応力をたやすく取り除くことができる。
脆弱部分34が、表皮片3を貫通させる空縫いのミシン目35で形成されるか、縫糸36aを用い、表皮片3を貫通させて縫目にしたステッチ36で形成されても、簡便に脆弱部分34を形成できる。空縫いのミシン目35やステッチ36で脆弱部分34を形成する場合は、縫目ライン5を縫合するのと同じミシンを使って処理できるので、新たに作業設備を導入する必要もない。
【0034】
尚、空縫いのミシン目35やスリット37等では、表皮片3を貫通するミシン目孔35eやスリット37が設けられ、袋状表皮2外への発泡原料gの漏出問題が懸念されるが、本発明はこれらの脆弱部分34の配設位置によって漏出が抑制される。脆弱部分34は折れ曲がる部位Eに配されるので、折れ曲がる部位Eの表皮片3の内面側は圧縮されてミシン目35やスリット37が閉じる方向にある。図3の円内拡大図はミシン目35を判り易く図示したもので、実際、図6の円内拡大図のごとくとなり、後表皮片3Bの内面側ミシン目35は塞がれる。発泡成形時に発泡原料gの袋状表皮2外への漏出が抑えられる。屈曲角部Eに脆弱部分34を設けることで、発泡原料gの漏出を抑えつつ、舌片部33を折り曲げた屈曲角部の保形維持を果たす。
【0035】
加えて、発泡ポリエチレン製シート又は発泡ポリプロピレン製シートからなる裏当てシート部材3dが在る方の表皮片3に脆弱部分34が設けられると、発泡成形時にミシン目35,ステッチ36等から袋状表皮2外へ発泡原料gが漏れ出すのを阻止できる効果がある。例えば発泡ポリエチレン製シートは独立気泡タイプの発泡体で、しかもウレタンスラブ3eに比べて硬いので、発泡成形時における空縫いのミシン目35やステッチ36でできるミシン目孔から袋状表皮2外への発泡原料の漏出を完全阻止できる。従来、表皮片同士の縫合箇所では、その周縁を含めた縫い代部分をラップするフィルムを取付けて発泡原料gの漏出防止を図ってきたが(特開平11-225846号)、こうしたフィルムの取付け作業が不要になる。図2のステー孔32周りに貼着してきた発泡原料gの漏出防止用ドーナツ止片(特開平8-66572号)も不要になる。製品の大幅なコストダウンにつながる。さらに、発泡ポリエチレン製シートが独立気泡タイプであることから、ウレタンスラブ3eのように発泡体Fと接触する表皮片3の裏面側にフィルム3mを貼着する必要もなくなっている。
さらにいえば、品質面から見たとき、発泡ポリエチレン製シートを用いた表皮片3は、硬度が硬いので、ウレタンスラブ3eを用いた場合と比べるとシワが入りにくい等のメリットも有する。
このように、本袋状表皮一体発泡成形品及びその製造方法は、上述した数々の優れた効果を発揮し、極めて有益である。
【0036】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。袋状表皮2,表皮片3,主部31,舌片部33,脆弱部分34,扁平筒部4,縫目ライン5,発泡体F等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。実施形態はヘッドレストに適用したが、アームレスト等の袋状表皮一体発泡成形品1にも適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 袋状表皮一体発泡発泡成形品(ヘッドレスト)
2 袋状表皮
23 底面部
231 底面部分
3 表皮片
31 主部
34 脆弱部分
35 ミシン目
36 ステッチ
37 スリット
38 凹溝
4 扁平筒部
5 縫目ライン
E 折れ曲がる部位(屈曲角部)
F 発泡体
g 発泡原料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12