【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題は、独立請求項の主題により解決され、更なる実施形態が、従属請求項に組み込まれる。以下に説明される本発明の態様は、検査される組織又は細胞試料上のカバー層の印刷を制御する印刷制御デバイス、カバー層を印刷するシステム、組織又は細胞試料上のカバー層の印刷制御方法、コンピュータプログラム、及びコンピュータ可読媒体にも適用される点に留意されたい。
【0006】
本発明によれば、検査される組織又は細胞試料上のカバー層の印刷を制御する印刷制御デバイスが提示される。印刷制御デバイスは、撮像ユニットと印刷制御ユニットとを有する。撮像ユニットは、試料の画像データを提供し、画像データから局所画像パラメータを決定するよう構成される。局所画像パラメータは、試料の局所組織多孔性及び/又は局所的な毛管力に関連する。局所的な組織多孔度及び毛細管力の決定は、
図2から
図4において詳細に説明される。印刷制御ユニットは、局所画像パラメータに基づき試料上のカバー層を印刷するための印刷パラメータを制御するよう構成される。
【0007】
言い換えると、画像分析を用いて、局所組織多孔度及び/又は毛管現象が確立され、これを入力として用いて、印刷プロセスが最適化され、好ましくは関心領域(ROI)の外側の完全に閉じた稠密なカバー層が作成される。印刷プロセスは、主に、印刷された液滴の有効な局所ピッチ及びそれらを適用するシーケンスを介して制御されることができる。
【0008】
言い換えると、本発明は、試料抽出のために組織、塗抹又は細胞試料上のROIの外側にカバー層を印刷するデバイス及び方法に関する。それは、例えば、癌患者の層別化のための配列決定及びPCRのような腫瘍診断における分子試験(MDX)を実行するため、又は試薬若しくはインクが多孔質で不均一な形態を備える基材上に堆積される一般にすべての用途に対して使用されることができる。
【0009】
組織又は細胞試料は、デジタル及び/又は分子病理における使用のために、スライド上の身体組織のスライス又は細胞の層であり、染色された又は染色されていないものであり得る。典型的には、試料が提供されることができるスライド、キャリア又は基板の材料は、ガラス、透明プラスチック、及び/又はガラスとプラスチックの複合体を有し、オプションで生物学的試料との所望の相互作用のための表面層を備える。
【0010】
可能な染色アッセイは、形態学のためのH&E(ヘマトキシリン-エオシン)、IHC(免疫組織化学)、IF(免疫蛍光)、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)、PLA(近接ライゲーションアッセイ)、PPA(パドロックプローブアッセイ)、ローリングサークル増幅、RCA、分枝DNA信号増幅、及びこれらの技術の組み合わせ、又は特定の生物学的情報を得るための他のアッセイを有する。染色は特に、特定の細胞型若しくは組織型、及び/又は細胞の特定の特性、機能若しくは異常を示す分子を特定するのに役立ち得る。
【0011】
インクジェット印刷技術、任意の種類の(マイクロ)接触印刷などが使用されることができる。印刷パターン及びシーケンスの形態の印刷パラメータが、最良の空間解像度及びコントラストを実現するため局所画像パラメータに基づき決定されることができる。組織パラメータは、デジタル病理スキャナで得られたH&E画像として画像データから決定されることができる。
【0012】
試料の画像データは、顕微鏡画像であってもよい。即ち、それは、肉眼では見えない細部を明らかにする。追加的又は代替的に、それはデジタル画像であってもよく、従って多用途のデジタル画像処理手順の適用が可能にされる。更に、画像は、走査により、即ち試料のより小さな部分のサブ画像の連続的な生成により生成されてもよい。更に、生成された顕微鏡画像は、明視野若しくは蛍光画像、又は異なる画像の組み合わせであり得る。画像データから、組織又は細胞物質の多孔性及び毛管現象の分布が局所画像パラメータとして計算されることができる。局所画像パラメータは、印刷された液滴の局所解像度又はピッチ、及びこれらの液滴を印刷するシーケンスを決定するために使用されてもよい。このようにして、より良好な印刷品質、特に良好な印刷精度及び再現性が得られることができ、設計されたROIが、印刷されたカバー又はバリア層又はコーティングに高精度かつ忠実に転写されることができる。結果として、画像解析を用いた最適化されたプリント戦略が実現されることができ、これは、例えば、MDXに対する試料選択に使用されることができる。これにより、組織又は細胞物質の選択も、精度及び再現性の観点から改善される。
【0013】
言い換えると、組織又は細胞物質は不均質であり得るので、多孔性及び毛管力、及びこれにより周囲の組織又は細胞物質へのインクの浸入の程度は、組織多孔度及び毛細管力により変化し得る。その結果、局所的に異なる印刷設定を使用することにより、試料にわたる最適かつ均一なカバー層の厚さが実現されることができる。印刷されたカバー層は、ROI外で完全に閉じられ、ROI内において完全に存在しないとすることができる。
【0014】
言い換えると、本発明は、例えば分子診断に関し試料選択及び/又は抽出のため、組織又は細胞試料にROIを戦略的に印刷するデバイスに関する。これにより、デジタル病理学及び分子診断の容易な統合が達成される。一例では、印刷制御ユニットは、印刷のための印刷パラメータを制御し、特に、少なくとも試料の関心領域に関連付けられるカバー層をインクジェット印刷するよう構成される。ROIは、任意の形状とサイズにすることができる。複数の別個の領域が関心領域を有することができる。一例では、印刷制御ユニットは、生体分子が抽出される、又は別の処理が想定される試料の少なくとも関心領域を確保するよう、カバー層を印刷する、特にインクジェット印刷するよう印刷パラメータを制御する。関心領域を確保することにより、生体分子が抽出される組織又は細胞物質の関連領域が選択又は示されることができる。組織又は細胞物質の非関連領域は、カバー層により覆われることができ、その結果、生体分子の抽出又は他の処理が可能である。次いで、更なる下流分析法を用いて生体分子が分析されることができる。生体分子は、核酸、タンパク質などであり得る。
【0015】
ROIの選択は、適切な画像処理ルーチンにより、ユーザの手動入力により、又はその両方の混合により自動的に行われてもよい。従って、このデバイスは、画像解析モジュール、例えばデジタル画像の分析のための関連ソフトウェアを備えたデジタルマイクロプロセッサを有することができる。追加的又は代替的に、このデバイスは、ROIの選択を参照してユーザがデータを入力することができる入力手段を含むユーザインタフェースを有することができる。典型的には、ユーザインタフェースはまた、出力手段、例えば、試料の画像が表示されることができるディスプレイ又はモニターを有する。これは、オプションで、現在規定されるROIの表現を備え、オプションで、印刷パラメータのための入力として使用される局所画像パラメータの表現を備え、オプションで、計算された局所印刷パラメータの表現を備える。出力手段は、調節可能なズーミング係数を備える試料画像の表現示を可能にすることができる。画像解析装置は、適切な画像処理ソフトウェアを備えるデジタルデータ処理ユニットであってもよく、これにより局所画像パラメータが自動的に決定されることができる。
【0016】
一例では、印刷パラメータは、印刷液滴の局所ピッチ、印刷掃引のシーケンス、及び印刷パルスの形状又は高さを含むグループの少なくとも1つである。印刷液滴の局所的なピッチは、Y方向と呼ばれる順方向印刷方向において使用される解像度としてのYピッチを有し、このYピッチは、印刷ヘッドの発射周波数を速度で除算した大きさで制限され自由に選択されることができる。印刷液滴の局所ピッチは、Y方向に垂直なX方向において使用される解像度であり、プリントヘッドのノズルピッチの倍数であるXピッチを更に有する。両方のピッチについて、ピッチが小さいほど、結果として生じる層の平均厚さがより大きくなると想定される。
【0017】
別の印刷パラメータは、印刷パターンがいくつかの掃引にわたって分散されるときの印刷掃引のシーケンスである。こうして、Xピッチは、Xピッチよりも小さいオフセットを選択することにより調整されることができる。同時に、必要な解像度を実現するため、印刷パターンが局所的に変更されることができる。液体の広がりは動的なプロセスであるため、逐次の広がりは、液体の流れ方向及び最終的な液体の分布を制御するのを助けることができる。印刷液滴の局所ピッチ及び印刷掃引のシーケンスの決定が、
図5から
図8に詳細に説明される。別の印刷パラメータは、印刷パルスの形状又は高さである。通常、印刷パルスはブロックパルスで構成され、ある時間期間の間にノズルに印加される電圧を意味する。パルスは、液滴体積に影響を及ぼす正パルス又は負パルスのいずれかであり得る。液滴体積に影響を及ぼし得る他の因子は、パルス幅(パルスの持続時間)又はパルスの立ち上がり及び立ち下がりの急峻度である。更に、ダブルパルスが、プリントヘッドに印加されることができる。
【0018】
一例では、撮像ユニットは、試料上のインクの広がりに関連する局所画像パラメータを導出するため、前又は第1の印刷ステップの後に試料の画像データを提供するよう構成される。次いで、印刷制御ユニットは、局所画像パラメータとは無関係に試料上の初期カバー層を最初に印刷するための初期印刷パラメータを制御するよう構成される。一例では、局所画像パラメータは、試料上の印刷インキの局所的な広がり特性に関連する。ここで、画像データから局所画像パラメータを決定することなく、又は印刷前に画像を解析することなく、インク層又はインクの特定のパターンが、第1に又は最初により大きな領域に堆積され、そこでは、ROIを溢れさせるリスクはない。次に、試料の画像データが提供されるか、又は画像が作成され、局所的なインクの広がりが分析される。局所画像パラメータとしての局所インクの広がりに基づき、試料上のカバー層を印刷するための印刷パラメータ又は第2の印刷ビットマップが、作成され、第1又は最初の印刷パターンが微調整されることができる。次に、2回印刷された試料の画像データから局所画像パラメータが決定されることができ、局所画像パラメータは、試料の局所組織多孔度及び/又は局所毛細管力に関連し、この局所画像パラメータに基づき、試料上のカバー層の第3の印刷のための印刷パラメータが決定されることができる。
【0019】
一例では、印刷制御ユニットは、少なくとも部分的に印刷した後、初期カバー層及び/又はカバー層を硬化させるための硬化パラメータを制御するよう更に構成される。これは、例えばUV光による硬化が、印刷工程間の間欠的硬化として、及び/又は単一又は最終印刷後の最終硬化としてなされることができることを意味する。硬化した(一部の)カバー層は、液体に寄与せず、従って、例えば、連続印刷工程におけるインクの流れを制御するのに役立つ。局所拡散は、累積拡散よりも予測が容易である。一例として、ROIの定義がこの正面の1次元の広がりにより制御される第1のステップにおいて、ROIの周りの閉じた正面が印刷されることができる。硬化後、ROI外の領域は堤防により閉じ込められ、従って、ROIへと広がる危険なしに、より厚いインク層で充填されることができる。
【0020】
本発明によれば、検査される組織又は細胞試料上にカバー層を印刷するシステムも提示される。このシステムは、上述した印刷制御デバイスと、印刷モジュールとを有する。印刷制御デバイスは、試料上のカバー層の印刷を制御するよう構成される。印刷モジュールは、試料上にカバー層を印刷するよう構成される。
【0021】
印刷モジュールは、デジタル病理画像管理システム(IMS)と一体化されるユニットとして、又は一体化されたカメラを備えたスタンドアロンユニットとして機能することができる。両方の場合において、(デジタル病理(DP)スキャナからの)高解像度画像又は(プリンタからの)スナップショット画像のいずれかが利用可能である。画像がDPスキャナから来る場合、印刷するため、システム上の画像とこの画像との最初の位置合わせが行われる必要がある。
【0022】
システムは、視覚化モジュールを更に有することができる。画像解析の結果を視覚化する様々な方法が使用されることができる。例えば、組織多孔性マップが作成される、又は実質的に逸脱する特性を備えるセクションだけがマーキングされることができる。
【0023】
例示的に、印刷最適化に使用される局所画像パラメータは、ROI選択の間のフィードバックにも使用され得る。言い換えると、最初にROI選択のフィードバックを提供するのに、組織特性の知識が用いられることができる。病理学者により示されたROI又は他の画像分析ソフトウェアツールにより決定されたROIは、印刷を容易にするため事前に修正されることができ、新しいROIの特性が表示されることができる。
【0024】
本発明によれば、検査される組織又は細胞試料上のカバー層の印刷を制御する方法も提示される。それは、必ずしもこの順序ではなく、以下のステップを有する。
【0025】
試料の画像データを提供するステップと、
上記画像データから局所画像パラメータを決定するステップと、
上記局所画像パラメータに基づき上記試料上の上記カバー層を印刷するための印刷パラメータを制御するステップとである。
【0026】
局所画像パラメータは、試料の局所組織多孔性及び/又は局所的な毛管力に関連する。
【0027】
一例では、この方法は、試料上に初期カバー層を最初に印刷するための初期印刷パラメータを制御するステップを更に有する。この初期印刷は、ステップa)の前に行われることができる。
【0028】
一例では、この方法は、初期カバー層及び/又はカバー層を硬化させるための硬化パラメータを制御するステップを更に有する。例えば、UV光への曝露又は加熱工程によるこの硬化は、最初の印刷後及び/又はステップc)の後に行われることができる。
【0029】
一例では、この方法は、カバー層の印刷後に試料の関心領域を除去するステップを更に有する。例示的には、このステップは、カバー層により示されているか、及び/又はカバー層により覆われていない試料の関心領域を除去することである。典型的には、この工程は、カバー層の印刷後に関心領域から分子を除去することである。除去は、ステップc)の後に行われることができる。
【0030】
言い換えると、病理学者は、試料選択プロセス中に組織スライドにおける関心領域内の細胞又は組織を選択することができる。例えば、その後の分子分析を可能にするため、このROIからのみ核酸が抽出される必要がある。詳細には、病理学者は、グラフィカルユーザインターフェース上でROIを選択し、分子試験に使用される組織スライド上にこのROIをマッピングし、ROI以外の全てを、例えばインクジェット印刷を介して堆積されるカバー層でカバーし、例えばUV光に暴露し、スライド全体を抽出媒体に暴露することによりカバー層を硬化させて、組織上の固体層を得る。これは、カバー層により覆われていない組織からのみ核酸が放出されることをもたらす。
【0031】
本発明によれば、コンピュータプログラムも提示され、コンピュータプログラムは、上記コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、独立請求項に規定されたデバイス及び/又はシステムに、独立請求項に規定される方法のステップを実行させるプログラムコード手段を有する。
【0032】
独立項による、カバー層の印刷を制御する印刷制御デバイス、カバー層を印刷するシステム、組織又は細胞試料上のカバー層の印刷を制御する方法、斯かるデバイスを制御するためのコンピュータプログラム、及び斯かるコンピュータプログラムが格納されたコンピュータ可読媒体は、特に、従属請求項に規定されるように、同様の及び/又は同一の好ましい実施形態を有する点を理解されたい。本発明の好ましい実施形態は、個別の独立項と従属項との任意の組合せとすることもできる点を理解されたい。