特許第6404522号(P6404522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6404522
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】電磁波吸収複合シート
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20181001BHJP
【FI】
   H05K9/00 M
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-127168(P2018-127168)
(22)【出願日】2018年7月3日
【審査請求日】2018年7月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391009408
【氏名又は名称】加川 清二
(73)【特許権者】
【識別番号】000123631
【氏名又は名称】加川 敦子
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】加川 清二
【審査官】 石坂 博明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/093027(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/081043(WO,A1)
【文献】 特開2004−140194(JP,A)
【文献】 特開2012−124291(JP,A)
【文献】 特開平10−135682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波吸収複合シートであって、
電磁波吸収フィルムの上に電磁波シールドフィルムを積層してなり、
前記電磁波吸収フィルムが、プラスチックフィルムの一面に表面抵抗が50〜200Ω/□の範囲内のNi薄膜又は導電性ポリマー薄膜を形成してなり、
前記電磁波吸収フィルムに対する前記電磁波シールドフィルムの面積率が20〜80%であることを特徴とする電磁波吸収複合シート。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁波吸収複合シートにおいて、前記電磁波吸収フィルムに対する前記電磁波シールドフィルムの面積率が30〜70%であることを特徴とする電磁波吸収複合シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電磁波吸収複合シートにおいて、前記電磁波シールドフィルムが導電性金属の箔、導電性金属の薄膜又は塗膜を有するプラスチックフィルム、又はカーボンシートであることを特徴とする電磁波吸収複合シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電磁波吸収複合シートにおいて、前記電磁波吸収フィルム及び前記電磁波シールドフィルムがいずれも長方形又は正方形であることを特徴とする電磁波吸収複合シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は所望の周波数域の電磁波ノイズに対して高い吸収能を有するとともに、電磁波ノイズ吸収能が極大化する周波数域をシフトすることができる電磁波吸収複合シートに関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器及び電子機器から電磁波ノイズが放射されるだけでなく、周囲の電磁波ノイズが侵入し、もって信号にノイズが混入することになる。電磁波ノイズの放射及び侵入を防止するために、従来から電気機器及び電子機器を金属シートでシールドすることが行われている。また、電気機器及び電子機器内に電磁波吸収フィルムを設け、電磁波ノイズを吸収することも提案されている。
【0003】
例えば、WO 2010/093027 A1(特許文献1)は、プラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けたNi薄膜とを有し、前記Ni薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする電磁波吸収能の異方性が低減された線状痕付きNi薄膜−プラスチック複合フィルムを開示している。特許文献1は、線状痕付きNi薄膜−プラスチック複合フィルムと電磁波反射体(金属のシート、ネット又はメッシュ、Ni薄膜を形成したプラスチックフィルム等)とを誘電体層を介して積層し、複合型電磁波吸収体とすることができることを記載している。この複合型電磁波吸収体は広い周波数の電磁波ノイズに対して高い吸収能を有するが、特定の周波数の電磁波ノイズに対して特に大きな吸収能を発揮するという機能、及び電磁波ノイズ吸収能が極大化する周波数域をシフトする機能は有していない。
【0004】
WO 2013/081043 A1(特許文献2)は、(a) プラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けたNi薄膜とを有し、前記Ni薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成された第一の電磁波吸収フィルムと、(b) 磁性粒子又は非磁性導電性粒子が分散した樹脂又はゴムからなる第二の電磁波吸収フィルムとからなることを特徴とする複合電磁波吸収シートを開示している。この複合型電磁波吸収体は広い周波数の電磁波ノイズに対して高い吸収能を有するが、特定の周波数の電磁波ノイズに対して特に大きな吸収能を発揮するという機能、及び電磁波ノイズ吸収能が極大化する周波数域をシフトする機能は有していない。
【0005】
【特許文献1】WO 2010/093027 A1公報
【特許文献2】WO 2013/081043 A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、所望の周波数域の電磁波ノイズに対して高い吸収能を有するとともに、電磁波ノイズ吸収能が極大化する周波数域をシフトすることができる電磁波吸収複合シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、Ni薄膜又は導電性ポリマー薄膜を有する電磁波吸収フィルムの上に電磁波シールドフィルムを積層し、かつ前記電磁波吸収フィルムに対する前記電磁波シールドフィルムの面積率を20〜80%に設定することにより、所望の周波数域の電磁波ノイズに対して高い吸収能を有する電磁波吸収複合シートが得られることを発見し、本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明の電磁波吸収複合シートは、
電磁波吸収フィルムの上に電磁波シールドフィルムを積層してなり、
前記電磁波吸収フィルムが、プラスチックフィルムの一面に表面抵抗が50〜200Ω/□の範囲内のNi薄膜又は導電性ポリマー薄膜を形成してなり、
前記電磁波吸収フィルムに対する前記電磁波シールドフィルムの面積率が20〜80%であることを特徴とする。
【0009】
前記電磁波吸収フィルムに対する前記電磁波シールドフィルムの面積率は30〜70%であるのが好ましく、40〜60%であるのがより好ましい。
【0010】
前記電磁波シールドフィルムは導電性金属の箔、導電性金属の薄膜又は塗膜を有するプラスチックフィルム、又はカーボンシートであるのが好ましい。
【0011】
前記電磁波シールドフィルムにおける前記導電性金属はアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。
【0012】
前記電磁波吸収フィルム及び前記電磁波シールドフィルムはいずれも長方形又は正方形であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成を有する本発明の電磁波吸収複合シートは、優れた電磁波吸収能を有するとともに、電磁波吸収フィルムに対する電磁波シールドフィルムの面積率を20〜80%の範囲内で変更することにより、所望の周波数域の電磁波ノイズに対する吸収能を最大化することができる。このような電磁波吸収複合シートは、特定の周波数の電磁波ノイズを出す電子機器や電子部品に使用することにより、その電磁波ノイズを効率的に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1(a)】本発明の電磁波吸収複合シートの一例を示す分解平面図である。
図1(b)】本発明の電磁波吸収複合シートの一例を示す平面図である。
図2】本発明の電磁波吸収複合シートを構成する電磁波吸収フィルムの一例を示す断面図である。
図3】電磁波吸収フィルムのNi薄膜の詳細を示す部分断面図である。
図4(a)】電磁波吸収フィルムの表面抵抗を測定する装置を示す斜視図である。
図4(b)】図4(a) の装置を用いて電磁波吸収フィルムの表面抵抗を測定する様子を示す平面図である。
図4(c)】図4(b) のA-A断面図である。
図5(a)】本発明の電磁波吸収複合シートの別の例を示す平面図である。
図5(b)】本発明の電磁波吸収複合シートのさらに別の例を示す平面図である。
図6(a)】入射波に対する反射波の電力及び透過波の電力を測定するシステムを示す平面図である。
図6(b)】図6(a) のシステムを示す部分断面概略図である。
図7】マイクロストリップラインMSL上に配置されたサンプルの一例を示す平面図である。
図8】電磁波吸収複合シートのサンプル1(アルミニウム箔の面積率=0%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図9】電磁波吸収複合シートのサンプル2(アルミニウム箔の面積率=20%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図10】電磁波吸収複合シートのサンプル3(アルミニウム箔の面積率=40%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図11】電磁波吸収複合シートのサンプル4(アルミニウム箔の面積率=50%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図12】電磁波吸収複合シートのサンプル5(アルミニウム箔の面積率=60%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図13】電磁波吸収複合シートのサンプル6(アルミニウム箔の面積率=80%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図14】電磁波吸収複合シートのサンプル7(アルミニウム箔の面積率=100%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図15】電磁波吸収複合シートのサンプル21及び22(51及び52)を示す平面図である。
図16(a)】Ni薄膜を有する電磁波吸収フィルム片の中央部に正方形のアルミニウム箔片を積層してなる電磁波吸収複合シートのサンプル21のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図16(b)】Ni薄膜を有する電磁波吸収フィルム片上に正方形の枠形のアルミニウム箔片を積層してなる電磁波吸収複合シートのサンプル22のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図17(a)】実施例4の電磁波吸収複合シートをFire Stick TVのICチップ上に配置したときに、Fire Stick TVから漏洩する周波数3 GHz近傍の電磁波ノイズを示すグラフである。
図17(b)】実施例1と同じNi薄膜を有する電磁波吸収フィルムのみをFire Stick TVのICチップ上に配置したときに、Fire Stick TVから漏洩する周波数3 GHz近傍の電磁波ノイズを示すグラフである。
図17(c)】実施例4の電磁波吸収複合シートなしにFire Stick TVから漏洩する周波数3 GHz近傍の電磁波ノイズを示すグラフである。
図18】電磁波シールドフィルムとしてグラファイト粉末/カーボンブラックのカーボンシート片を用いた実施例5の電磁波吸収複合シートのノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図19】電磁波吸収複合シートのサンプル31(アルミニウム箔の面積率=0%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図20】電磁波吸収複合シートのサンプル32(アルミニウム箔の面積率=20%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図21】電磁波吸収複合シートのサンプル33(アルミニウム箔の面積率=40%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図22】電磁波吸収複合シートのサンプル34(アルミニウム箔の面積率=50%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図23】電磁波吸収複合シートのサンプル35(アルミニウム箔の面積率=60%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図24】電磁波吸収複合シートのサンプル36(アルミニウム箔の面積率=80%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図25】電磁波吸収複合シートのサンプル37(アルミニウム箔の面積率=100%)のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図26(a)】導電性ポリマー薄膜を有する電磁波吸収フィルム片の中央部に正方形のアルミニウム箔片を積層してなる電磁波吸収複合シートのサンプル51のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図26(b)】導電性ポリマー薄膜を有する電磁波吸収フィルム片上に正方形の枠形のアルミニウム箔片を積層してなる電磁波吸収複合シートのサンプル52のノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
図27(a)】実施例9の電磁波吸収複合シートをFire Stick TVのICチップ上に配置したときに、Fire Stick TVから漏洩する周波数3 GHz近傍の電磁波ノイズを示すグラフである。
図27(b)】導電性ポリマー薄膜を有する電磁波吸収フィルムのみを配置したときに、Fire Stick TVから漏洩する周波数3 GHz近傍の電磁波ノイズを示すグラフである。
図28】電磁波シールドフィルムとしてグラファイト粉末/カーボンブラックのカーボンシート片を用いた実施例10の電磁波吸収複合シートのノイズ吸収率Ploss/Pinを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明するが、特に断りがなければ一つの実施形態に関する説明は他の実施形態にも適用される。また下記説明は限定的ではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更をしても良い。
【0016】
図1(a) は本発明の電磁波吸収複合シート10を構成する電磁波吸収フィルム1と、電磁波吸収フィルム1の上に積層する電磁波シールドフィルム2とを示し、図1(b) は電磁波吸収フィルム1と電磁波シールドフィルム2からなる本発明の電磁波吸収複合シート10の一例を示す。
【0017】
[1] 電磁波吸収フィルム
図2に示すように、電磁波吸収フィルム1は、プラスチックフィルム11と、その少なくとも一面に設けた表面抵抗が50〜200Ω/□の範囲内の薄膜とからなる。表面抵抗が50〜200Ω/□の範囲内の薄膜としては、Ni薄膜及び導電性ポリマー薄膜が挙げられる。
【0018】
プラスチックフィルム11を形成する樹脂は、絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されず、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアリーレンサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等が挙げられる。強度及びコストの観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。プラスチックフィルム11の厚さは8〜30μm程度で良い。
【0019】
(1) Ni薄膜
Ni薄膜の厚さは5〜100 nmが好ましく、10〜50 nmがより好ましく、10〜30 nmが最も好ましい。このように薄いNi薄膜は蒸着法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、又はプラズマCVD法、熱CVD法、光CVD法等の化学気相蒸着法)により形成することができる。
【0020】
図3に示すように、5〜100 nmと非常に薄いNi薄膜112は厚さが不均一であり、厚く形成された領域112aと、薄く形成された領域又は全く形成されていない領域112bとがある。そのため、Ni薄膜112の厚さを正確に測定するのは困難である。そこで、Ni薄膜112の厚さを波長660 nmのレーザ光の透過率(単に「光透過率」という。)で表しても良い。光透過率はNi薄膜112の任意の複数箇所の測定値を平均して求める。測定箇所数が5以上であると、光透過率の平均値は安定する。プラスチックフィルム11の厚さが30μm以下であるとプラスチックフィルム11自身の光透過率はほぼ100%であるので、電磁波吸収フィルム12の光透過率がNi薄膜112の光透過率と一致する。しかし、プラスチックフィルム11がそれより厚い場合には、電磁波吸収フィルム12の光透過率からプラスチックフィルム11の光透過率を引いた値がNi薄膜112の光透過率である。
【0021】
Ni薄膜112の光透過率は3〜50%の範囲内であるのが好ましい。光透過率が3%未満であると、Ni薄膜112が厚くなり過ぎて金属箔のような挙動を示し、電磁波反射率が高く、電磁波ノイズの吸収能は低い。一方、光透過率が50%超であると、Ni薄膜112が薄すぎて電磁波吸収能が不十分である。Ni薄膜112の光透過率はより好ましくは5〜45%であり、最も好ましくは8〜30%である。
【0022】
光透過率が3〜50%と薄いNi薄膜112の表面抵抗は測定方法により大きく異なる。そのため、Ni薄膜112と電極との接触面積をできるだけ大きくするとともに、Ni薄膜112と電極とができるだけ均一に密着するように、図4(a)〜図4(c) に示す装置を用いて、加圧下での直流二端子法(単に「加圧二端子法」と言う)により表面抵抗を測定する。具体的には、硬質な絶縁性平坦面上にNi薄膜112を上にして載置した10 cm×10 cmの電磁波吸収フィルム12の正方形試験片TPの対向辺部に、長さ10 cm×幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極本体部111aと、電極本体部111aの中央側部から延びる幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極延長部111bとからなる一対の電極111,111を載置し、試験片TPと両電極111,111を完全に覆うようにそれらの上に10 cm×10 cm×厚さ5 mmの透明アクリル板113を載せ、透明アクリル板113の上に直径10 cmの円柱状重り114(3.85 kg)を載せた後で、両電極延長部111b,11b間を流れる電流から表面抵抗を求める。
【0023】
Ni薄膜112の表面抵抗は50〜200Ω/□の範囲内である必要がある。表面抵抗が50Ω/□未満であると、Ni薄膜112が厚すぎて金属箔のような挙動を示し、電磁波ノイズの吸収能が低い。一方、表面抵抗が200Ω/□超であると、Ni薄膜112が薄すぎてやはり電磁波吸収能が不十分である。Ni薄膜112の表面抵抗は好ましくは70〜180Ω/□であり、より好ましくは80〜150Ω/□であり、最も好ましくは90〜130Ω/□である。
【0024】
非常に薄いNi薄膜112は、図3に示すように全体的に厚さムラがあり、比較的厚い領域112aと比較的薄い(又は薄膜がない)領域112bとを有する。比較的薄い領域112bは磁気ギャップ及び高抵抗領域として作用し、近傍界ノイズによりNi薄膜112内を流れる磁束及び電流を減衰させると考えられる。しかし、このような薄いNi薄膜112の状態は製造条件により大きく異なり、一定の光透過率及び表面抵抗を有するNi薄膜112を安定的に形成するのは非常に困難であることが分った。そこで鋭意研究した結果、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム11上に蒸着法により形成したNi薄膜112に対して、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム11の熱収縮が起こり得る110〜170℃の範囲内の温度で短時間(10分〜1時間)熱処理すると、Ni薄膜112の表面抵抗は若干低下するとともに安定化し、経時変化が実質的になくなる。熱処理によりポリエチレンテレフタレートフィルム11が僅かに熱収縮するだけで、Ni薄膜112の表面抵抗が僅かに低下するとともに安定化し、もって電磁波ノイズ吸収能も安定化する。ここで、電磁波ノイズ吸収能の安定化とは、電磁波ノイズ吸収能の経時変化が実質的になくなるだけでなく、製造条件によるばらつき及び製造ロット間のばらつきも低下することを意味する。
【0025】
熱処理条件を変えることにより表面抵抗を調整することができる。例えば、表面抵抗が高めのNi薄膜112に対しては、熱処理温度を高くするか熱処理時間を長くすることにより、表面抵抗を所望の値に低下させることができる。逆に、表面抵抗が低めのNi薄膜112に対しては、熱処理温度を低くするか熱処理時間を短くすることにより表面抵抗の低下を抑制することができる。
【0026】
熱処理温度は110〜170℃の範囲内である。熱処理温度が110℃未満であると、熱処理による電磁波吸収能の向上及びバラツキの低減の効果が実質的に得られない。一方、熱処理温度が170℃超であると、Ni薄膜112の表面酸化が起こるだけでなく、十分な耐熱性を有さないポリエチレンテレフタレートフィルムでは熱収縮が大きくなり過ぎる。熱処理温度は120〜170℃が好ましく、130〜160℃がより好ましい。熱処理時間は熱処理温度により異なるが、一般に10分〜1時間であり、20〜40分が好ましい。
【0027】
(2) 導電性ポリマー薄膜
導電性ポリマー薄膜は、置換又は無置換のポリアニリンにドーパントをドープしたポリアニリン複合体からなるのが好ましい。ポリアニリンの重量平均分子量は20,000以上が好ましく、20,000〜500,000がより好ましい。ポリアニリンの置換基としては、メチル基、エチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分岐のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基(-CF3基)等のハロゲン化アルキル等が挙げられる。置換又は無置換のポリアニリンは、リン酸等の塩素原子を含まない酸の存在下での重合により生成することができる。
【0028】
ポリアニリン複合体のドーパントとしては、例えばブレンステッド酸又はその塩から生じるブレンステッド酸イオンが挙げられ、具体的にはジイソオクチルスルホコハク酸、ジイソオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が好ましい。
【0029】
ポリアニリンに対するドーパントのドープ率は0.35〜0.65が好ましく、0.4〜0.6がより好ましい。]
【0030】
導電性ポリマー薄膜は塗布法により形成するのが好ましい。以下ポリアニリン薄膜を例にとって説明するが、その説明は他の導電性ポリマー薄膜の形成にもそのまま適用可能である。プラスチックフィルム11に塗布するポリアニリン溶液を調製するのに用いる溶媒は有機溶媒が好ましい。有機溶媒は親水性でも疎水性でも良い。親水性有機溶媒としては、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、Nメチルピロリドン等の極性溶媒等が挙げられる。また疎水性有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等の含ハロゲン炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル系溶媒、メチメチルエチルケトン、シクロペンタノン等のケトン系溶媒、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒等が挙げられる。
【0031】
Ni薄膜と同様に、導電性ポリマー薄膜は50〜200Ω/□の範囲内の表面抵抗を有する必要がある。表面抵抗が50Ω/□未満であると、導電性ポリマー薄膜が厚すぎて金属箔のような挙動を示し、電磁波ノイズの吸収能が低い。一方、表面抵抗が200Ω/□超であると、導電性ポリマー薄膜が薄すぎてやはり電磁波吸収能が不十分である。導電性ポリマー薄膜の表面抵抗は好ましくは70〜180Ω/□であり、より好ましくは80〜150Ω/□であり、最も好ましくは90〜130Ω/□である。
【0032】
[2] 電磁波シールドフィルム
電磁波吸収フィルム1を透過した電磁波ノイズを反射して電磁波吸収フィルム1に再投入させるために、電磁波シールドフィルム2は電磁波ノイズを反射する機能を有する必要がある。かかる機能を効果的に発揮するために、電磁波シールドフィルム2は導電性金属の箔、導電性金属の薄膜又は塗膜を有するプラスチックフィルム、又はカーボンシートであるのが好ましい。電磁波吸収フィルム1と電磁波シールドフィルム2の積層は、非導電性接着剤を介して行うのが好ましい。接着剤又は粘着剤は公知のもので良い。
【0033】
(1) 導電性金属の箔
前記導電性金属はアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属からなるのが好ましい。導電性金属の箔は5〜50μmの厚さを有するものが好ましい。
【0034】
(2) 導電性金属の薄膜又は塗膜
前記導電性金属の薄膜は前記導電性金属の蒸着膜であるのが好ましい。金属蒸着膜の厚さは数十nm〜数十μmであれば良い。前記導電性金属の蒸着膜を形成するプラスチックフィルムは電磁波吸収フィルム1のプラスチックフィルム11と同じで良い。
【0035】
(3) 導電性金属の塗膜
前記導電性金属の塗膜は、熱可塑樹脂又は光硬化性樹脂に銀粉等の導電性金属粉を高分散させたインク(ペースト)をプラスチックフィルムに塗布し、乾燥させた後、紫外線照射を行うことにより形成することができる。導電性インク(ペースト)は公知のもので良く、例えば70〜90質量%の導電性フィラー、光重合開始剤及び高分子分散剤を含有し、導電性フィラーの50質量%以上が鱗片状、箔状又はフレーク状であって、D50の粒径が0.3〜3.0μmの銀粉である光硬化型導電性インク組成物(特開2016-14111号)を使用することができる。前記導電性金属の塗膜を形成するプラスチックフィルムは電磁波吸収フィルム1のプラスチックフィルム11と同じで良い。
【0036】
(4) カーボンシート
電磁波シールドフィルムとして使用するカーボンシートは、ポリイミドフィルムを不活性ガス中で超高温加熱処理することにより形成した市販のPGS(登録商標)グラファイトシート(パナソニック株式会社)、グラファイト粉末とカーボンブラックからなるカーボンシート(放熱シート)等である。
【0037】
グラファイト粉末/カーボンブラックのカーボンシートとして、グラファイト微粒子の間にカーボンブラックが均一に分散した構造を有し、グラファイト微粒子/カーボンブラックの質量比が75/25〜95/5であり、1.9 g/cm3以上の密度を有し、かつ面内方向に570 W/mK以上の熱伝導率を有する放熱シート(特開2015-170660号)を使用することができる。グラファイト微粒子は5〜100μmの平均径及び200 nm以上の平均厚さを有するのが好ましい。この放熱シートは25〜250μmの厚さを有するのが好ましい。
【0038】
この放熱シートは、(1) 合計で5〜25質量%のグラファイト微粒子及びカーボンブラックと、0.05〜2.5質量%のバインダ樹脂とを含有し、前記グラファイト微粒子と前記カーボンブラックとの質量比が75/25〜95/5である有機溶媒分散液を調製し、(2) 前記分散液を支持板の一面に塗布した後乾燥する工程を複数回繰り返すことにより、前記グラファイト微粒子、前記カーボンブラック及び前記バインダ樹脂からなる樹脂含有複合シートを形成し、(3) 前記樹脂含有複合シートを焼成することにより前記バインダ樹脂を除去し、(4) 得られたグラファイト微粒子/カーボンブラック複合シートをプレスすることにより緻密化する方法により形成することができる。
【0039】
[3] 電磁波吸収フィルムと電磁波シールドフィルムの配置
(1) 面積比
図1(b) に示すように、電磁波吸収フィルム1に対する電磁波シールドフィルム2の面積率は20〜80%である。面積率が20%未満であるか80%超であると、所望の周波数域での電磁波ノイズに対する吸収能の極大化が十分でなくなる。これは予期できなかった結果であり、電磁波吸収フィルム1に対する電磁波シールドフィルム2の面積率が20〜80%であることは本発明の重要な特徴である。面積率の下限は30%が好ましく、40%がより好ましく、45%が最も好ましい。また、面積率の上限は70%が好ましく、65%がより好ましく、60%が最も好ましい。電磁波吸収フィルム1に対する電磁波シールドフィルム2の面積率の範囲は、例えば、30〜70%が好ましく、40〜65%がより好ましく、45〜60%が最も好ましい。
【0040】
(2) 位置
電磁波吸収フィルム1の中心に電磁波シールドフィルム2の中心が位置するのが好ましいが、電磁波吸収能のピーク周波数を変えるためにずらしても良い。電磁波シールドフィルム2の位置ずれには、図5(a) に示すように電磁波吸収フィルム1に対して電磁波シールドフィルム2を一方向にずらす場合、及び図5(b) に示すように電磁波シールドフィルム2の四辺が電磁波吸収フィルム1の四辺から離隔するように、電磁波シールドフィルム2のサイズを小さくする場合がある。いずれの場合も電磁波吸収能のピーク周波数に影響があるので、電磁波吸収能が極大化する周波数域に応じて電磁波シールドフィルム2のずらし方及びサイズを適宜設定するのが好ましい。なお、図5(a) の場合及び図5(b) の場合のいずれでも、電磁波吸収フィルム1に対する電磁波シールドフィルム2の面積率は上記条件を満たす必要がある。
【0041】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0042】
実施例1
厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム11に真空蒸着法により厚さ20 nmのNi薄膜112を形成し、長尺のNi蒸着フィルムを作製した。Ni蒸着フィルムの任意の部分から10 cm×10 cmの試験片TPを5枚切り出した。各試験片TPの表面抵抗を図4に示すように加圧二端子法により測定した。各電極111は長さ10 cm×幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極本体部111aと幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極延長部111bとからなり、透明アクリル板113は10 cm×10 cm×厚さ5 mmであり、円柱状重り114は10 cmの直径を有し、3.85 kgであった。両電極111,111を鶴賀電機株式会社製の抵抗計(型名:3565)に接続し、得られた電流値から表面抵抗を求めた。全試験片TPの平均表面抵抗は110Ω/□であった。
【0043】
長尺のNi蒸着フィルムから50 mm×50 mmの電磁波吸収フィルム片1を切り出し、各電磁波吸収フィルム片1に、L(0 mm,10 mm,20 mm,25 mm,30 mm,40 mm,50 mm,)×50 mmのサイズのアルミニウム箔片(厚さ:15μm)2をそれぞれ非導電性接着剤を介して積層し、サンプル1〜7を作成した。各サンプルにおいて、アルミニウム箔片2の中心は電磁波吸収フィルム片1の中心と一致していた。
【0044】
図6(a) 及び図6(b) に示すように、50ΩのマイクロストリップラインMSL(64.4 mm×4.4 mm)と、マイクロストリップラインMSLを支持する絶縁基板300と、絶縁基板300の下面に接合された接地グランド電極301と、マイクロストリップラインMSLの両端に接続された導電性ピン302,302と、ネットワークアナライザNAと、ネットワークアナライザNAを導電性ピン302,302に接続する同軸ケーブル303,303とで構成されたシステムを用い、図7に示すように各サンプルの中心がマイクロストリップラインMSLの中心と一致するように、絶縁基板300に各サンプルを粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの入射波に対して、反射波S11の電力及び透過波S12の電力を測定した。
【0045】
図6(a) 及び図6(b) に示すシステムに入射した電力から反射波S11の電力及び透過波S12の電力を差し引くことにより、電力損失Plossを求め、Plossを入射電力Pinで割ることによりノイズ吸収率Ploss/Pinを求めた。結果を図8図14及び表1に示す。
【0046】
【表1】
注:(1) 電磁波吸収フィルム片に対するアルミニウム箔片の面積率。
(2) Ploss/Pinのピークなし。
*印を有するサンプルは比較例。
【0047】
電磁波吸収フィルム片にアルミニウム箔片を積層しないサンプル1では最大ノイズ吸収率Ploss/Pinは0.97と高かったが、そのときの周波数は5〜6 GHzであり、Ploss/Pinはピークがなく、平坦であった。一方、電磁波吸収フィルム片に同サイズのアルミニウム箔片を積層したサンプル7では最大ノイズ吸収率Ploss/Pinは全体的に小さかった。これに対して、電磁波吸収フィルム片に面積率が20〜80%のサイズのアルミニウム箔片を積層したサンプル2〜6では、最大ノイズ吸収率Ploss/Pinが0.98〜1.00と高く、そのときの周波数は2〜4 GHzの範囲内(3 GHz近傍)であった。従って、2〜4 GHzの周波数域でノイズ吸収率Ploss/Pinを最大化するには、電磁波吸収フィルムに対するアルミニウム箔(電磁波シールドフィルム)の面積率を20〜80%とする必要があることが分かる。
【0048】
実施例2
実施例1で用いた50 mm×50 mmのサイズのNi薄膜を有する電磁波吸収フィルム片に、25 mm×50 mmのサイズのアルミニウム箔片(厚さ:15μm)を、図5(a) に示すように電磁波吸収フィルム片の一辺X1とアルミニウム箔片の一辺X2(X1と平行)との距離Dが0 mm,5 mm,10 mm,15 mm、20 mm及び25 mmとなるように、非導電性接着剤を介して積層し、サンプル11〜16を作成した。各サンプルを、図6(a) に示すように絶縁基板300上のマイクロストリップラインMSLの上に載置し、0.1〜6 GHzにおけるノイズ吸収率Ploss/Pinを測定した。各サンプルの距離D、2 GHzにおけるノイズ吸収率Ploss/Pin、及び最大ノイズ吸収率Ploss/Pin並びにそのときの周波数を表2に示す。
【0049】
【表2】
注:(1) Dは電磁波吸収フィルム片の一辺X1とアルミニウム箔片の一辺X2との距離を表す。
【0050】
表2から明らかなように、Ni薄膜を有する電磁波吸収フィルム片に対してアルミニウム箔片がずれると、2 GHzにおけるPloss/Pin及び最大Ploss/Pinが大きく変化した。これから、所望の周波数域でのノイズ吸収率Ploss/Pinを極大化するには、アルミニウム箔片の中心を電磁波吸収フィルム片の中心からずらせば良いことが分かる。
【0051】
実施例3
図15に示すように、実施例1と同じ50 mm×50 mmのサイズのNi薄膜を有する電磁波吸収フィルム片上に、面積率が50%で正方形のアルミニウム箔片、及び面積率が50%で正方形の枠形のアルミニウム箔片をそれぞれ中心が一致するように積層し、サンプル21及び22を作成した。各サンプルのノイズ吸収率Ploss/Pinを測定した。測定結果を図16(a) 及び図16(b) に示す。
【0052】
図16(a) 及び図16(b) から明らかなように、面積率が50%で正方形のアルミニウム箔片を積層したサンプル21は、同じ面積率だが正方形の枠形のアルミニウム箔片を積層したサンプル22のノイズ吸収率Ploss/Pinより、著しく良好なノイズ吸収率Ploss/Pinを示した。これから、アルミニウム箔片は電磁波吸収フィルムの中央部に位置するのが好ましいことが分かる。
【0053】
実施例4
アマゾンのFire Stick TVのICチップを覆う大きさの電磁波吸収複合シートを作成した。電磁波吸収フィルムはICチップと同じ大きの正方形であり、アルミニウム箔は電磁波吸収フィルムに対する面積率が50%の長方形であった。また、アルミニウム箔の一方の対向辺は電磁波吸収フィルムの一方の対向辺と一致しており、かつ積層されたアルミニウム箔の中心は電磁波吸収フィルムの中心と一致していた。すなわち、実施例4の電磁波吸収複合シートは、図1(b) に示す形状を有していた。
【0054】
Fire Stick TVのカバーを取り外し、実施例4の電磁波吸収複合シートをFire Stick TVのICチップ上に配置し、株式会社計測技術研究所のスペクトラムアナライザVSA6G2Aにより、Fire Stick TVから漏洩する電磁波ノイズを計測した。結果を図17(a) に示す。また、カバーを取り外したFire Stick TVのICチップ上に、Ni薄膜を有する電磁波吸収フィルム(実施例1と同じ)のみを配置した場合、及び実施例4の電磁波吸収複合シートを配置しない場合について、それぞれFire Stick TVから漏洩する電磁波ノイズを計測した。結果を図17(b) 及び図17(c) に示す。図17(a)〜図17(c) から明らかなように、本発明の電磁波吸収複合シートをICチップ上に配置することにより、Ni薄膜を有する電磁波吸収フィルムのみを配置した場合及び電磁波吸収複合シートを配置しない場合に比較して、Fire Stick TVから漏洩する周波数が3 GHz近傍の電磁波ノイズは著しく減少した。
【0055】
実施例5
アルミニウム箔片の代わりに25 mm×50 mmのサイズのグラファイト粉末/カーボンブラックのカーボンシート片を、50 mm×50 mmのサイズの電磁波吸収フィルムにそれぞれの中心が一致するように積層した以外、実施例1と同様にして電磁波吸収複合シートを作成した。なお、グラファイト粉末/カーボンブラックのカーボンシートは特開2015-170660号の実施例1と同じ方法により形成した。電磁波吸収複合シートのノイズ吸収率Ploss/Pinを実施例1と同様にして測定した。結果を図18に示す。図18から明らかなように、アルミニウム箔片の代わりにカーボンシート片を使用しても、実施例1と同様の結果が得られた。
【0056】
実施例6
導電性ポリマー薄膜を有する電磁波吸収フィルムとして竹内工業株式会社製のPCF-005を準備し、それから10 cm×10 cmの試験片TPを5枚切り出した。各試験片TPの表面抵抗を実施例1と同様にして加圧二端子法により測定した。その結果、全試験片TPの平均表面抵抗は110Ω/□であった。
【0057】
PCF-005フィルムから50 mm×50 mmの電磁波吸収フィルム片1を切り出し、各電磁波吸収フィルム片1に、L(0 mm,10 mm,20 mm,25 mm,30 mm,40 mm,50 mm,)×50 mmのサイズのアルミニウム箔片(厚さ:15μm)2をそれぞれ非導電性接着剤を介して積層し、サンプル31〜37を作成した。各サンプルにおいて、アルミニウム箔片2の中心は電磁波吸収フィルム片1の中心と一致していた。各サンプルの中心がマイクロストリップラインMSLの中心と一致するように、図6に示す絶縁基板300に各サンプルを粘着剤により貼付し、実施例1と同様にして、0.1〜6 GHzの入射波に対して反射波S11の電力及び透過波S12の電力を測定し、ノイズ吸収率Ploss/Pinを求めた。結果を図19図25及び表3に示す。
【0058】
【表3】
注:(1) 電磁波吸収フィルム片に対するアルミニウム箔片の面積率。
(2) Ploss/Pinのピークなし。
*印を有するサンプルは比較例。
【0059】
電磁波吸収フィルム片にアルミニウム箔片を積層しないサンプル31では、最大ノイズ吸収率Ploss/Pinにピークがなく、平坦であった。一方、電磁波吸収フィルム片に同サイズのアルミニウム箔片を積層したサンプル37では最大ノイズ吸収率Ploss/Pinは全体的に小さかった。これに対して、電磁波吸収フィルム片に面積率が20〜80%のサイズのアルミニウム箔片を積層したサンプル32〜36では、最大ノイズ吸収率Ploss/Pinが0.96〜0.97と高く、そのときの周波数は2〜4 GHzの範囲内(3 GHz近傍)であった。従って、2〜4 GHzの周波数域でノイズ吸収率Ploss/Pinを最大化するには、電磁波吸収フィルムに対するアルミニウム箔(電磁波シールドフィルム)の面積率を20〜80%とする必要があることが分かる。
【0060】
実施例7
実施例6で用いた50 mm×50 mmのサイズの電磁波吸収フィルム片に、25 mm×50 mmのサイズのアルミニウム箔片(厚さ:15μm)を、図5(a) に示すように電磁波吸収フィルム片の一辺X1とアルミニウム箔片の一辺X2(X1と平行)との距離Dが0 mm,5 mm,10 mm,15 mm、20 mm及び25 mmとなるように、非導電性接着剤を介して積層し、サンプル41〜46を作成した。各サンプルを、図6(a) に示すように絶縁基板300上のマイクロストリップラインMSLの上に載置し、0.1〜6 GHzにおけるノイズ吸収率Ploss/Pinを測定した。各サンプルの距離D、2 GHzにおけるノイズ吸収率Ploss/Pin、及び最大ノイズ吸収率Ploss/Pin並びにそのときの周波数を表4に示す。
【0061】
【表4】
注:(1) Dは電磁波吸収フィルム片の一辺X1とアルミニウム箔片の一辺X2との距離を表す。
【0062】
表4から明らかなように、アルミニウム箔片が電磁波吸収フィルム片に対してずれると、2 GHzにおけるPloss/Pin及び最大Ploss/Pinが大きく変化した。これから、所望の周波数域でのノイズ吸収率Ploss/Pinを極大化するには、アルミニウム箔片の中心を電磁波吸収フィルム片の中心からずらせば良いことが分かる。
【0063】
実施例8
図15に示すように、導電性ポリマー薄膜を有する50 mm×50 mmのサイズの電磁波吸収フィルム片上に、面積率が50%で正方形のアルミニウム箔片、及び面積率が50%で正方形の枠形のアルミニウム箔片をそれぞれ中心が一致するように積層し、サンプル51及び52を作成した。各サンプルのノイズ吸収率Ploss/Pinを測定した。測定結果を図26(a) 及び図26(b) に示す。
【0064】
図16(a) 及び図16(b) から明らかなように、面積率が50%で正方形のアルミニウム箔片を積層したサンプル51は、同じ面積率だが正方形の枠形のアルミニウム箔片を積層したサンプル52のノイズ吸収率Ploss/Pinより、著しく良好なノイズ吸収率Ploss/Pinを示した。これから、アルミニウム箔片は電磁波吸収フィルムの中央部に位置するのが好ましいことが分かる。
【0065】
実施例9
アマゾンのFire Stick TVのICチップを覆う大きさの電磁波吸収複合シートを作成した。電磁波吸収フィルムはICチップと同じ大きの正方形であり、アルミニウム箔は電磁波吸収フィルムに対する面積率が50%の長方形であった。また、アルミニウム箔の一方の対向辺は電磁波吸収フィルムの一方の対向辺と一致しており、かつ積層されたアルミニウム箔の中心は電磁波吸収フィルムの中心と一致していた。すなわち、実施例9の電磁波吸収複合シートは、図1(b) に示す形状を有していた。
【0066】
Fire Stick TVのカバーを取り外し、実施例9の電磁波吸収複合シートをFire Stick TVのICチップ上に配置し、株式会社計測技術研究所のスペクトラムアナライザVSA6G2Aにより、Fire Stick TVから漏洩する電磁波ノイズを計測した。結果を図27(a) に示す。また、カバーを取り外したFire Stick TVのICチップ上に、導電性ポリマー薄膜を有する電磁波吸収フィルム(実施例6と同じ)のみを配置した場合について、Fire Stick TVから漏洩する電磁波ノイズを計測した。結果を図27(b) に示す。図27(a)、図27(b) 及び図17(c) から明らかなように、本発明の電磁波吸収複合シートをICチップ上に配置することにより、導電性ポリマー薄膜を有する電磁波吸収フィルムのみを配置した場合及び電磁波吸収複合シートを配置しない場合に比較して、Fire Stick TVから漏洩する周波数が3 GHz近傍の電磁波ノイズは著しく減少した。
【0067】
実施例10
アルミニウム箔片の代わりに25 mm×50 mmのサイズのグラファイト粉末/カーボンブラックのカーボンシート片を、50 mm×50 mmのサイズの電磁波吸収フィルムにそれぞれの中心が一致するように積層した以外、実施例6と同様にして電磁波吸収複合シートを作成した。なお、グラファイト粉末/カーボンブラックのカーボンシートは特開2015-170660号の実施例1と同じ方法により形成した。電磁波吸収複合シートのノイズ吸収率Ploss/Pinを実施例6と同様にして測定した。結果を図28に示す。図28から明らかなように、アルミニウム箔片の代わりにカーボンシート片を使用しても、実施例6と同様の結果が得られた。
【0068】
上記実施例では電磁波吸収フィルムに、電磁波シールドフィルムとしてアルミニウム箔、及びグラファイト粉末/カーボンブラックのカーボンシートを積層した電磁波吸収複合シートを使用したが、本発明はこられの電磁波吸収複合シートに限定されず、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。電磁波シールドフィルムとしてアルミニウム箔以外にも、銅箔や、アルミニウム、銅、銀等の粉末を分散させた導電性インクの塗膜等も同様に使用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1・・・電磁波吸収フィルム
2・・・電磁波シールドフィルム
10・・・電磁波吸収複合シート
11・・・プラスチックフィルム
12・・・電磁波吸収フィルム
111・・・電極
112・・・Ni薄膜
113・・・透明アクリル板
114・・・円柱状重り
300・・・絶縁基板
301・・・接地グランド電極
302・・・導電性ピン
303・・・同軸ケーブル
D・・・電磁波吸収フィルム片の一辺X1とアルミニウム箔片の一辺X2との距離
MSL・・・マイクロストリップライン
NA・・・ネットワークアナライザ
【要約】
【課題】 所望の周波数域の電磁波ノイズに対して高い吸収能を有する電磁波吸収複合シートを提供する。
【解決手段】 電磁波吸収フィルムの上に電磁波シールドフィルムを積層してなり、電磁波吸収フィルムが、プラスチックフィルムの一面に表面抵抗が50〜200Ω/□の範囲内のNi薄膜又は導電性ポリマー薄膜を形成してなり、電磁波シールドフィルムが、導電性金属の箔、導電性金属の薄膜又は塗膜を有するプラスチックフィルム、又はカーボンシートであり、電磁波吸収フィルムに対する電磁波シールドフィルムの面積率が20〜80%である電磁波吸収複合シート。
【選択図】 図1(b)
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図4(c)】
図5(a)】
図5(b)】
図6(a)】
図6(b)】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16(a)】
図16(b)】
図17(a)】
図17(b)】
図17(c)】
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26(a)】
図26(b)】
図27(a)】
図27(b)】
図28