特許第6404617号(P6404617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404617
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】タイル施工方法及び外壁タイル構造
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/08 20060101AFI20181001BHJP
   E04F 13/14 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   E04F13/08 101V
   E04F13/14 103F
【請求項の数】5
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-132311(P2014-132311)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-11496(P2016-11496A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 俊之
【審査官】 五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−302321(JP,A)
【文献】 特開2003−206613(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0203899(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0169183(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/00−13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体コンクリートに下地処理(A1)を施す工程(A)、
下地処理(A1)を施した面に繊維を含有するポリマーセメントモルタル系下地調整モルタル(a)を施工しタイル下地を形成する工程(B)、
下地調整モルタル(a)の表面に、水性ポリマーディスパージョンを塗布する下地処理(C1)を施す工程(C)、
および下地処理(C1)を施した面に軽量細骨材及び繊維を含有するポリマーセメントモルタル系接着材(b)でタイルを張る工程(D)からなるタイル施工方法。
【請求項2】
躯体コンクリートに施す下地処理(A1)が、散水または水性ポリマーディスパージョンの塗布を施す請求項1記載のタイル施工方法。
【請求項3】
躯体コンクリートの不陸箇所に下地処理(A1)を施し、次いで繊維を含有するポリマーセメントモルタル系下地調整モルタル(a)で躯体コンクリートの不陸調整を施し、不陸調整を施した後の面全体に前記下地処理(A1)を施し、次いで下地処理(A1)を施した面全体に前記下地調整モルタル(a)を施工してタイル下地を形成し、再度前記下地処理(C1)を施す工程(C)及び前記タイル張り工程(D)を行う請求項1又は2記載のタイル施工方法。
【請求項4】
下地処理(A1)を施す工程(A)の次に実施する躯体コンクリートの下地不陸調整又はタイル下地形成工程(B)を前記接着材(b)で行う請求項記載のタイル施工方法。
【請求項5】
躯体コンクリート外壁として内部から順に次の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)の層を有する外壁タイル構造。
(A)躯体コンクリート
(B)下地処理層(A1)、
(C)繊維を含有するポリマーセメント系下地調整モルタル(a)
(D)水性ポリマーディスパージョンを塗布した下地処理層(C1)、
(E)軽量細骨材及び繊維を含有するポリマーセメントモルタル系接着材(b)層
(F)タイル
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形追従性に優れた下地調整モルタルとタイル張付けモルタルの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築工事では塗装合板がコンクリート型枠に使用されるとともに高強度コンクリートを打設される物件が増えてきている。その場合、躯体コンクリート表面は平滑で水密性が向上している。このような、躯体コンクリートにタイルを施工する場合、下地調整モルタルやタイル張付けモルタルを施工すると吸水調整材を塗布しても十分な付着性が得られないことが多い。そのため、超高圧水で目粗しを行うことで付着性の改善を行う事例が増えている。例えば、コンクリート型枠に凝結遅延剤を塗布し、型枠を外す際に躯体コンクリート表面を粗面に仕上げ、超高圧水、ディスクサンダーによる目粗しを容易にする工法が考案されている(特許文献1)。しかし、型枠の組立てが煩雑になるとともに、現場の気温に応じ凝結遅延剤をその都度調整する必要があるなどの問題がある。
【0003】
また、下地調整モルタルとタイル張付けモルタルの付着強さを向上する工法として下地調整モルタルを2回に分けて施工し1層目は合成繊維製ネットを伏せ込み、2層目は短繊維含有下地調整モルタルを施工し、ローラー掛けすることで繊維を起毛する工法が考案されている(特許文献2)。しかし、作業工程と作業者が増え、現場管理が難しく、作業工程が増えるとともに工期が長くなる。作業工程が増えることは施工欠陥の増加に繋がる恐れがある。
【0004】
一般に外壁にタイルを張り付ける場合は、剥落の危険を考慮して付着強度の高いセメントモルタルを用いている。しかし、施工費用を低廉化するため、躯体コンクリートに直接セメントモルタルで張り付ける直張り工法を採用する事例が増加してきた。直張り工法は、施工管理が難しく、施工面積が大きい現場では、躯体コンクリートとの付着力を施工箇所全体に安定的に出すことが困難である。そのため、有機発泡軽量骨材を使用することでヤング率を低減し、曲げじん性、破断時の伸びを向上することにより日中と夜間の温度差によるタイルの膨張と収縮に対し安定的な付着力を維持する方策も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−2634号公報
【特許文献2】特開2001−342730号公報
【特許文献3】特許第4308513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリート型枠に凝結遅延剤を塗布し、コンクリート型枠を取り外す際に躯体コンクリート表面を粗し、さらに超高圧水、ディスクサンダーによる躯体コンクリートの目粗しを行う方法は作業工程数が多い上に凝結遅延剤の調整が高温期,低温期には難しくなる恐れがある。下地調整モルタルとタイル張付けモルタルの付着強さを向上する工法として下地調整モルタルを2回に分け、1層目に合成繊維製ネットを伏せ込む工法は、合成繊維ネットとモルタルの付着性が得にくく剥離する恐れがある。
【0007】
有機発泡軽量骨材を使用したタイル張り材を使用した直張り工法は、躯体コンクリートの凹部の補修を行ってからタイル張付けモルタルを施工する必要があり、補修箇所と補修を行っていない箇所の吸水量が変わるため、均一な付着強さを得られない恐れがある。また、補修箇所に使用する材料がタイル張付けモルタルと違う場合には、同一な硬化性状が得られくなり耐久性が低下する恐れがある。
【0008】
したがって、本発明の課題は施工性及びコンクリートとの付着性に優れ、剥離、剥落のない耐久性に優れたタイルの施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は、施工性及びコンクリートとの付着性に優れたタイルの施工方法を種々検討した結果、下地処理後の面に特定のポリマーセメントモルタルで下地調整モルタルを施工した後、再度下地処理を施してから特定のポリマーセメントモルタル系接着材でタイル張りを行えば、施工性及びコンクリートとの付着性に優れ、剥離、剥落のない耐久性に優れたタイル施工ができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、次の[1]〜[]を提供するものである。
【0011】
[1]躯体コンクリートに下地処理(A1)を施す工程(A)、
下地処理(A1)を施した面に繊維を含有するポリマーセメントモルタル系下地調整モルタル(a)を施工しタイル下地を形成する工程(B)、
下地調整モルタル(a)の表面に、水性ポリマーディスパージョンを塗布する下地処理(C1)を施す工程(C)、
および下地処理(C1)を施した面に軽量細骨材及び繊維を含有するポリマーセメントモルタル系接着材(b)でタイルを張る工程(D)からなるタイル施工方法。
[2]躯体コンクリートに施す下地処理(A1)が、散水または水性ポリマーディスパージョンの塗布を施す[1]記載のタイル施工方法。
[3]躯体コンクリートの不陸箇所に下地処理(A1)を施し、次いで繊維を含有するポリマーセメントモルタル系下地調整モルタル(a)で躯体コンクリートの不陸調整を施し、不陸調整を施した後の面全体に前記下地処理(A1)を施し、次いで下地処理(A1)を施した面全体に前記下地調整モルタル(a)を施工してタイル下地を形成し、再度前記下地処理(C1)を施す工程(C)及び前記タイル張り工程(D)を行う[1]又は[2]記載のタイル施工方法。
[4]下地処理(A1)を施す工程(A)の次に実施する躯体コンクリートの不陸調整又はタイル下地形成工程(B)を前記接着材(b)で行う[3]記載のタイル施工方法。
[5]躯体コンクリート外壁として内部から順に次の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)の層を有する外壁タイル構造。
(A)躯体コンクリート
(B)下地処理層(A1)、
(C)繊維を含有するポリマーセメント系下地調整モルタル(a)
(D)水性ポリマーディスパージョンを塗布した下地処理層(C1)、
(E)軽量細骨材及び繊維を含有するポリマーセメントモルタル系接着材(b)層
(F)タイル
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、施工性及びコンクリートとの付着性に優れ、剥離、剥落のない耐久性に優れたタイル施工方法ができる。特に、接着材(b)を下地調整モルタル(a)として使用することにより変形追従性と層間付着性を向上することが可能となる。したがって、タイルの剥離、剥落を防止し、優れた耐久性の得られる施工方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】躯体コンクリートに施す下地処理(A1)が散水または水性ポリマーディスパージョンの塗布を施した場合の施工断面の解説図である。
図2】躯体コンクリートに施す下地処理(A1)が、散水または水性ポリマーディスパージョンの塗布を不陸箇所のみに施し、次いで下地調整モルタル(a)で躯体コンクリートの不陸調整を行い、さらに散水、水性ポリマーディスパージョンの塗布を施す場合の施工断面の解説図である。
図3】躯体コンクリートに施す下地処理(A1)が、散水または水性ポリマーディスパージョンの塗布を不陸箇所以外にも施し、次いで下地調整モルタル(a)で躯体コンクリートの不陸調整を行い、さらに散水、水性ポリマーディスパージョンの塗布を施す場合の施工断面の解説図である。
図4】躯体コンクリートに直接下地調整モルタル(a)を施し、散水または水性ポリマーディスパージョンの塗布下地処理(C1)を施した場合の施工断面の解説図である。
図5】躯体コンクリートに散水または水性ポリマーディスパージョンの塗布下地処理(A1)を施し、接着材(b)でタイルを張る場合の施工断面の解説図である。
図6】下地調整モルタル(a)に施す下地処理(C1)を省いた場合の工断面の解説図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のタイル施工方法は、躯体コンクリートに下地処理(A1)を施す工程(A)、下地処理(A1)を施した面に繊維を含有するポリマーセメントモルタル系下地調整モルタル(a)を施工しタイル下地を形成する工程(B)、下地調整モルタル(a)の表面に再度下地処理(C1)を施す工程(C)、および下地処理(C1)を施した面に軽量細骨材及び繊維を含有するポリマーセメントモルタル系接着材(b)でタイルを張る工程(D)からなることを特徴とする(図1参照)。
【0015】
本発明の下地処理(A1)は、下地調整モルタル(a)の水分が躯体コンクリートに過剰に取られドライアウトするのを防ぐため、下地処理(A1)として清水またはポリマーディスパージョンを散布する。ポリマーディスパージョンとしては、エチレン酢酸ビニル、又はポリアクリル酸エステルなどを主成分とするポリマーディスパージョンが挙げられる。例えば、太平洋マテリアル(株)製「太平洋トフコンE」、「太平洋モルヒットエマルション」等を清水で希釈して使用することができる。希釈倍率の目安は、適切な吸水調整効果の点から、3〜8倍が好ましい。塗布量の目安は、吸水調整効果と付着力の点から、100〜200g/m2が好ましい。
【0016】
躯体コンクリートがコンクリート型枠の影響等で目違いが起きている場合には、下地調整材(a)で不陸調整を行い平滑にする必要がある。その場合は、下地調整モルタル(a)の水分が躯体コンクリートに過剰に取られドライアウトするのを防ぐため、躯体コンクリートの不陸箇所に下地処理(A1)を行った後、下地調整モルタル(a)で躯体コンクリートの不陸調整を行う(図2参照)。下地処理(A1)としてポリマーディスパージョンを散布する場合は、下地調整モルタル(a)を施工する箇所(不陸箇所)のみとし、必要以上に塗布する範囲を広げないようにする。下地調整モルタル(a)を施工しない場所に塗布すると塵、埃が付着し、タイル下地調整を行うために下地調整モルタル(a)を施工する際、再度ポリマーディスパージョンを散布することの意味を失い、付着不良の原因となる。下地調整モルタル(a)は施工後、適切な養生期間を取り、再度下地処理(A1)を施す。その後、下地調整モルタル(a)を適切な厚さで施工し、タイルを張り付けるための下地とする。
【0017】
本発明の下地調整モルタル(a)は、下地処理(A1)に次いで工程(B)として施工する。下地調整モルタル(a)は、繊維を含有するポリマーセメントモルタルであり、セメント、細骨材、繊維及びポリマーを含有する。
【0018】
本発明の下地調整モルタル(a)に使用できるセメントは、水硬性のものならば制限されない。具体的には、普通、早強、超早強、中庸等、低熱等のポルトランドセメント、高炉セメントやフライアッシュセメントのような各種混合セメント、白色セメントやエコセメントのような特殊セメントを例示することができる。ここに例示した以外のセメントや2種以上のセメントを併用しても良い。
【0019】
本発明の下地調整モルタル(a)に使用できる細骨材は、細骨材としては、施工厚さにより普通細骨材のみでも良いし、軽量細骨材と軽量細骨材以外の細骨材を併用することも可能である。施工厚さが5mm以上であれば、軽量細骨材と軽量細骨材以外の細骨材を併用した方がダレにくく施工効率が良い。
【0020】
軽量細骨材としては、例えばEVA発泡骨材やスチレン発泡骨材等の有機材質の軽量骨材や、天然又は人工の無機材質の軽量骨材の何れでも使用できる。好ましくは気孔率が40〜90%程度の軽量骨材を使用する。軽量細骨材の成分としては特に限定されない。例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体の発泡体、発泡ポリスチレン系樹脂、天然又は人工の多孔質無機系骨材、概ね中空状の無機系骨材であるパーライト等を挙げることができる。より好ましくは、左官施工性に優れたモルタル組成物が得られ易いことから、エチレン酢酸ビニル共重合体の発泡体、発泡ポリスチレン系樹脂及びパーライトの2種以上を併用することも可能である。
また、軽量細骨材の粒径は、最大粒径2400μm以下が好ましく、最大粒径2000μm以下がより好ましい。
【0021】
軽量骨材以外の細骨材としては、モルタルやコンクリートに使用できる普通細骨材なら何れのものでも良く、例えば、市販の珪砂、寒水石、石灰石砂その他、川砂、海砂、山砂、砕砂等を挙げることができる。
軽量細骨材以外の細骨材の粒径は、最大粒径2400μm以下が好ましく、最大粒径2000μm以下がより好ましいが、粒度管理された市販の珪砂が本発明の下地調整モルタル(a)の品質を管理する上では好ましい。
【0022】
軽量細骨材は、ポルトランドセメント100質量部に対し、1.0〜9.5質量部含むのが、ヤング率、施工性、付着強さ等の点で好ましい。軽量細骨材以外の細骨材は、ポルトランドセメント100質量部に対し、76〜91質量部を含むのが、乾燥収縮防止、付着強さ、ヤング率等の点で好ましい。
より好ましい軽量細骨材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、1.1〜7.7質量部である。またより好ましい軽量細骨材以外の細骨材の含有量はポルトランドセメント100質量部に対し、80〜90質量部である。
【0023】
本発明の下地調整モルタル(a)に使用できる繊維としては厚塗り性と強度を低下させないように、繊維長10mm以上が望ましい。好ましくは10〜35mmであり、さらに好ましくは10〜25mmである。繊維としては、耐アルカリ性を有すればモルタルに混和可能な有機繊維、ガラス繊維とも使用可能である。有機繊維としては、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ビニロン等が使用可能であり、ガラス繊維は耐アルカリ性を有するガラス繊維が使用可能である。
また、繊維長10mm以上の繊維を含有すれば、他の繊維、10mm未満の短繊維を併用することもできる。
本発明に使用できる繊維の含有量は、付着性、剥離防止、強度の点から、ポルトランドセメント100質量部に対し0.27〜0.45質量部が好ましく、より好ましくは、0.30〜0.42質量部であり、さらに好ましくは0.31〜0.42質量部である。
【0024】
本発明の下地調整モルタル(a)に使用できるポリマーは、市販の再乳化形粉末樹脂とポリマーディスパージョンのどちらも使用可能である。再乳化形粉末樹脂としては、JIS A 6203に規定されたものが使用でき、ポリマーディスパージョンも同じくJIS A6203に規定されたものを使用することができる。すなわち、前記再乳化形粉末樹脂としては、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステルなどを主成分とする粉末状の樹脂を使用することができる。また、再乳化形粉末樹脂の製造方法は限定されることなく、粉末化方法やブロッキング防止法などのいずれの製法によって製造しても良い。また、前記ポリマーディスパージョンとしては、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン、又はエチレン酢酸ビニルなどを主成分とする樹脂を使用することができる。現場管理を考慮すると工場製造時に混和できる再乳化形粉末樹脂が好ましい。
【0025】
ポリマーには、水に容易に溶解する親水性再乳化形粉末樹脂と水に溶解しくい疎水性再乳化形粉末樹脂がある。保水剤として混和されるセルロース誘導体、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースと併用すると粘性が高くなりコテ作業性が低下する。
そのため、親水性再乳化形粉末樹脂と疎水性再乳化形粉末樹脂を併用し疎水性再乳化形粉末樹脂が本発明の下地調整モルタル(a)の施工後に再乳化するように調整することにより施工中の粘度増加を抑制することができる。その結果、ポリマーと保水剤を併用してもコテ作業性の低下を抑えることができる。
【0026】
ポリマーは、セメント100質量部に対して、追従性、付着強度の点から、固形分換算で2.4〜4.1質量部が好ましく、より好ましくは、2.7〜3.5質量部である。さらに疎水性ポリマーと親水性ポリマーの比率は0.18〜0.43が好ましく、より好ましくは0.37〜0.42である。
【0027】
本発明の下地調整モルタル(a)には、さらに必要により膨張材、増粘剤、シラン系撥水剤を使用することができる。
【0028】
本発明の下地調整モルタル(a)に使用できる膨張材としては、モルタルやコンクリートに使用可能なものであれば特に限定されず、水和膨張性の膨張材として生石灰を有効成分とするものやカルシウムサルフォアルミネートを有効成分とするものを挙げることができる。膨張材を配合使用することで、主に乾燥収縮が抑制され、施工箇所の形状寸法安定性が図れると共に収縮亀裂の発生を防ぐことができる。例えば、太平洋マテリアル(株)製商品名「太平洋エクスパン(構造用)」、商品名「太平洋ジプカル」等が挙げられる。
【0029】
膨張材の使用量は、収縮低減効果、ひび割れ防止の点から、セメント100質量部に対し4.5〜5.7質量部が好ましく、より好ましくは4.7〜5.7質量部である。
【0030】
本発明の下地調整モルタル(a)に使用する増粘剤は、モルタル又はコンクリートで使用できるものなら何れのものでも良く、例えば水溶性セルロース誘導体やポリビニルアルコール類を挙げることができる。水溶性セルロース誘導体としては、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロース硫酸エステル等のセルロース誘導体を挙げることができる。例えば、信越化学工業(株)製商品名「メトローズSBP30501」が使用可能である。
【0031】
増粘剤を使用することでモルタルの左官施工時の躯体コンクリートへの付着性を向上することができ、硬化後の乾燥ひび割れの発生や剥離・剥落を防ぐことができる。増粘剤の使用量は、セメント100質量部に対し、0.09〜0.20質量部が好ましい。
【0032】
本発明の下地調整モルタル(a)に使用できるシラン系撥水剤は、セメントモルタルに混和し高アルカリ条件下で反応性のシラノールとなるシラン化合物が好ましい。例えば、有機シラン、ポリシラン等である。具体例としては、アクゾノーベル(株)製商品名「シール80」等である。反応性シラノールは、シラノール基間の架橋や無機化合物との反応により表面が疎水性に変性される。そのため、シラン系撥水剤は練混ぜ性状が良く、硬化後優れた撥水性を発揮する。
【0033】
シラン系撥水剤の使用量は、セメント100質量部に対し、0.22〜0.36質量部が好ましく、より好ましくは0.22〜0.30質量部である。
【0034】
本発明の下地調整モルタル(a)は前記のように、繊維含有ポリマーセメントモルタルであればよいが、軽量細骨材と繊維とを含有するポリマーセメントモルタル、すなわち接着材(b)を使用するのが、変形追従性と層間付着性を向上させる点でより好ましい。さらに、軽量細骨材と繊維と増粘剤を含有するポリマーセメントモルタルを用いるのが好ましい。
【0035】
下地調整モルタル(a)の施工厚さは、例えば図1のような下地処理(A)の後に施工する場合は、付着性、追従性の点から、1〜20mmが好ましく、2〜15mmがより好ましく、2〜10mmがさらに好ましい。また、不陸箇所への施工厚さは、不陸箇所をなくするための厚さである。
【0036】
本発明においては、下地調整モルタル(a)によるタイル下地形成工程(B)の後に、再度下地処理(C1)を施す。かかる下地処理(C1)としては、清水散布又はポリマーディスパージョン散布のいずれでもよいが、水分が下地調整モルタル(a)に過剰に取られドライアウトするのを防ぐため、下地処理(C1)としてポリマーディスパージョンを散布するのが好ましい。接着材(b)の吸水調整材は、下地調整モルタル(a)に比べ施工時間を要することを考慮すると散水では効果にばらつきがでるため、ポリマーディスパージョンを使用した方が好ましい。
ポリマーディスパージョンとしては、下地処理(A1)と同様にエチレン酢酸ビニル、又はポリアクリル酸エステルなどを主成分とするポリマーディスパージョンが挙げられる。例えば、太平洋マテリアル(株)製「太平洋トフコンE」、「太平洋モルヒットエマルション」等を清水で希釈して使用することができる。希釈倍率の目安は、適切な吸水調整効果の点から、3〜8倍が好ましい。塗布量の目安は吸水調整効果と付着力の点から、100〜200g/m2が好ましい。
【0037】
本発明施工方法では、次に下地処理(C1)を施した面に軽量細骨材及び繊維を含有するポリマーセメントモルタル系接着材(b)でタイルを張る工程(D)を行う。
【0038】
接着材(b)は、軽量細骨材及び繊維を含有するポリマーセメントモルタルであり、軽量細骨材、繊維、セメント及びポリマーを含有する。
【0039】
接着材(b)に用いられるセメントは、下地調整モルタルに使用するセメントと同様である。また、繊維及び軽量細骨材も前記下地調整モルタルに使用できるものが挙げられる。
【0040】
本発明の接着材(b)に使用できるポリマーとしては、JISA6203で規定するポリマーディスパージョンや再乳化粉末樹脂が使用可能であり併用も可能である。ポリマーディスパージョンとしては、エチレン酢酸ビニル、スチレンブタジエン、又はポリアクリル酸エステルなどを主成分とする樹脂を使用することができる。また、再乳化形粉末樹脂としては、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエンなどを主成分とする粉末状の樹脂を使用することができる。ポリマーディスパージョンの製造方法は限定されることなく、界面活性剤をポリマーディスパージョンの乳化剤とした製法などによって製造してもよい。さらに、再乳化形粉末樹脂の製造方法は限定されることなく、粉末化方法やブロッキング防止法などによって製造してもよい。
【0041】
ポリマーの含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、施工性、タイル付着性の点から、固形分換算で1.54〜6.03質量部が好ましく、より好ましくは3.33〜5.9質量部である。
【0042】
繊維と軽量細骨材との質量比(繊維/軽量骨材)は、作業性、タイルとの付着性の点から、0.04〜0.31が好ましく、より好ましくは0.05〜0.27であり、さらに好ましくは0.06〜0.16である。
【0043】
繊維とポリマーとの質量比(繊維/ポリマー)は、作業性、タイルとの付着性の点から、固形分換算で0.05〜0.20が好ましく、より好ましくは0.06〜0.15であり、さらに好ましくは0.07〜0.13である。
【0044】
接着材(b)には、さらに、凝結遅延剤、膨張材、増粘剤等が使用可能である。特に増粘剤を配合するのが付着性の点で好ましい。
【0045】
凝結遅延剤としては、セメントの凝結を遅延できるものなら特に限定されない。一般的には、クエン酸、酒石酸、酒石酸カリウムナトリウム、グルコン酸カルシウム等を例示できる。凝結遅延剤は、夏場のように気温が高い環境条件でセメントの凝結始発時間が早まることを防ぎ、施工作業可能な時間を確保することに有用である。本発明の弾性接着材には、二水石膏のような硫酸塩や酒石酸のような有機酸又はその塩が好適に使用できる。
【0046】
凝結遅延剤の含有量は、施工性の点から、ポルトランドセメント100質量部に対し、0.10〜0.24質量部が好ましく、より好ましくは、0.10〜0.22質量部である。さらに好ましくは、0.10〜0.18質量部である。
【0047】
増粘剤としては、セルロース誘導体が好ましい。セルロース誘導体としては水に溶解するものであればいずれのものでも良く、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロース硫酸エステル等の水溶性セルロース誘導体が挙げられる。これらの中でもメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。
【0048】
増粘剤の含有量は、施工性の点から、ポルトランドセメント100質量部に対し0.27〜0.36質量部が好ましく、より好ましくは0.29〜0.35質量部であり、さらに好ましくは、0.30〜0.34質量部である。増粘剤としてセルロース誘導体とともにスターチ類を併用することが可能である。スターチ類としては、コーンスターチ、ポテトスターチ、タピオカスターチなどが使用可能である。
【0049】
本発明の接着材(b)の製造方法は、特に限定されるものではなく、一般的なセメントモルタルやセメントペーストと概ね同様な方法で製造することができる。例えば、市販のモルタルミキサーに配合材料を投入し、適宜練り混ぜるだけで容易に得ることができる。
【0050】
本発明の接着材(b)を練り混ぜる際の水量は作業性、変形追従性、タイル張付け性の点から、ポルトランドセメント100質量部に対し44〜58質量部が好ましく、より好ましくは45〜56質量部であり、さらに好ましくは47〜52質量部である。
【0051】
本発明の接着材(b)の施工厚さは、施工するタイルの寸法により変わる。45角タイルや45二丁掛けタイルを施工する場合には、一般に3〜5mm塗り付けられる。また、小口タイル、二丁掛け以上の大型タイルを施工する場合は、5mmを超えた施工厚さでタイル寸法に合わせて施工する必要がある。
【0052】
本発明のタイル施工方法によれば、躯体コンクリート外壁として内部から順に次の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)の層を有する外壁タイル構造が得られる(図1参照)。
(A)躯体コンクリート
(B)下地処理層(A1)、
(C)繊維を含有するポリマーセメント系下地調整モルタル(a)
(D)下地処理層(C1)、
(E)軽量細骨材及び繊維を含有するポリマーセメントモルタル系接着材(b)層。
(F)タイル
【0053】
また、躯体コンクリートの一部を不陸調整を行った場合は、図2のように一部に不陸調整された部分を有し、かつ(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)の層を有する外壁タイル構造が得られる。
【実施例】
【0054】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0055】
まず、各種試験方法について説明する。
【0056】
<フレッシュ性状の確認>
1−1.フロー試験
20℃の試験室でJISR5201により測定した。
1−2.単位容積質量の測定
20℃の試験室で500mLステンレス製容器を用い、JISA1171により測定した。
1−3.保水率
JISA6916附属書によりろ紙5Aを用いて60分後の保水率を測定した。
【0057】
【表1】
【0058】
<硬化性状の確認>
2−1.吸水試験
JISA1171に従って、20℃の試験室で24時間の吸水量を測定した。評価基準は表2の通りである。
【0059】
【表2】
【0060】
2−2.曲げ強さ試験
JISA1171に従って、20℃の試験室で作製した4×4×16cmの試験体を用い、材齢7日で次の試験を実施した。試験はn=3とし、平均値を試験値とした。
(1)強さ試験
JISR5201による曲げ強さを測定し、曲げ試験終了後の供試体を用いて圧縮強さを測定した。
(2)曲げタフネス試験
たわみ量0.5mm/min一定で実施し、一次変位量、二次変位量、曲げ強さを測定した。一次変位量は、試験開始から最大曲げ応力までの変位量とし、二次範囲量は、最大曲げ応力から最大変曲点までの変位量とした。曲げ強さ試験の評価を表3に、曲げタフネス試験の評価項目を表4に、曲げ強さ試験の評価基準を表5に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
2−4.静弾性係数の測定
JISA1171に従って作製した各試料のφ10×20cm試験体を材齢7日でJIS1149により静弾性係数を測定した。試験はn=3で実施し、平均値を試験値とした。
【0065】
2−5.長さ変化試験
JISA1171に従って、20℃の試験室で7日後に長さ変化率を測定した。
【0066】
2−6.付着試験
(1)試験板
300×300×60mmのコンクリート平板の表面をディスクサンダーで研磨し、清水で洗浄した後、20℃の試験室で乾燥した。その後、太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋トフコンEの5倍液を150g/m2塗布、乾燥した後、試験に用いた。
(2)付着試験体の作製
20℃の試験室で300×300×60mmのコンクリート平板に下地調整モルタルを塗り付け、48時間20℃湿度80%RH以上の養生槽で養生した後、材齢7日まで20℃60%RHの試験室で養生した。その後、太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋トフコンEの5倍液を1再度150g/m2塗布、乾燥した後、各試料を4mm厚さに金ゴテで塗り付け、図4に示すように45角モザイクタイルを5枚張り付けた。その後、コンクリート平板に達するまでタイル周辺に切れ目を入れ、20℃、60%RHの試験室で材齢14日まで乾燥養生を行った。
【0067】
(3)付着試験
45角モザイクタイルの周囲にコンクリート平板に達する切れ目を入れ、45×45mm鋼鉄製アタッチメントをエポキシ樹脂接着剤で張り付け、建研式接着力試験機で付着強度を基礎物性の評価基準を表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
<耐久性の確認>
[熱冷繰返し後の付着強さの評価]
4−1.試験体の作製
(1)下地板の準備
温度20℃、湿度60%の実験室で300×300×60mmのコンクリート平板と半分を厚さを55mmに調整した300×300mmコンクリート平板を下地板として準備した。表面は、ディスクサンダーで研磨した。下地板は、各試料2枚ずつ用意し、熱冷繰返し試験前と300サイクル実施後の外観観察と付着強さの確認を行った。
【0070】
(2)下地処理(A1)が、散水または水性ポリマーディスパージョンの塗布である場合
温度20℃、湿度60%の実験室で300×300×60mmのコンクリート平板に太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋トフコンEの5倍希釈液を150g/m2塗布、乾燥した後、下地調整モルタル(a)を塗り付けた。施工厚さは、4mmと7mmとした。同様に、太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋モルヒットエマルションの8倍希釈液を150g/m2塗布、乾燥し、施工厚さ4mmと7mmで下地調整モルタル(a)を塗り付けた。また、散水は清水を300g/m2散布し、コンクリート平板に浮き水がない表面のみ乾燥した状態で施工厚さ4mmと7mmで下地調整モルタル(a)を塗り付けた。
試験体は、48時間20℃湿度80%RH以上の養生槽で養生した後、20℃60%RHの試験室で5日間養生した。その後、太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋トフコンEの5倍液を1再度150g/m2塗布、乾燥した後、各試料を4mm厚さに金ゴテで塗り付け、45二丁掛けタイルを1シート(18枚)張り付けた。その後、20℃、60%RHの試験室で材齢14日まで乾燥養生を行った。材齢10日でシリコンシーリング材でタイル張付け面以外の5面をシールし、材齢14日で試験に使用した。
【0071】
(3)下地処理(A1)で不陸調整を行う場合
厚さを55mmと60mmに半分ずつ調整した300×300mmコンクリート平板に温度20℃、湿度60%の実験室で太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋トフコンEの5倍希釈液を150g/m2塗布、乾燥した後、下地調整モルタル(a)を塗り付け厚さが60mmになるように平滑に調整した。48時間20℃湿度80%RH以上の養生槽で養生した後、20℃60%RHの試験室で5日間養生した。
太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋トフコンEの5倍液を150g/m2塗布、乾燥した後、下地調整モルタル(a)を施工した。厚さは、4mmと7mmとし、1枚ずつ作製した。試験体は、48時間20℃湿度80%RH以上の養生槽で養生した後、20℃60%RHの試験室で5日間養生した。その後、太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋トフコンEの5倍液を1再度150g/m2塗布、乾燥した後、各試料を4mm厚さに金ゴ
テで塗り付け、45二丁掛けタイルを1シート(18枚)張り付けた。その後、20℃、60%RHの試験室で材齢14日まで乾燥養生を行った。材齢10日でシリコンシーリング材でタイル張付け面以外の5面をシールし、材齢14日で試験に使用した。
同様な操作で太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋モルヒットエマルションは8倍希釈液を150g/m2塗布し、散水は清水を300g/m2散布し、コンクリート平板に浮き水がない表面のみ乾燥した状態で下地調整モルタル(a)を塗り付け厚さが60mmになるように平滑に調整した。7日後に再度太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋モルヒットエマルションは8倍希釈液を150g/m2塗布、乾燥した後、各試料を4mm厚さに金ゴテで塗り付け、図5に示すように45二丁掛けタイルを1シート(18枚)張り付けた。その後、20℃、60%RHの試験室で材齢14日まで乾燥養生を行った。材齢10日でシリコンシーリング材でタイル張付け面以外の5面をシールし、材齢14日で試験に使用した。
【0072】
4−2.試験方法
日本建築仕上学会規格M−101セメントモルタル塗り用吸水調整材の試験方法により熱冷繰返し300サイクルを実施した後、外観観察と付着強さを実施した。評価基準を表7に示す。
【0073】
【表7】
【0074】
[熱劣化による付着強さの評価]
5−1.試験体
「熱冷繰り返しによる付着強さの評価」と同様に温度20℃、湿度60%の実験室で300×300×60mmのコンクリート平板と半分を厚さを55mmに調整した300×300mmコンクリート平板を下地板として準備した。表面は、ディスクサンダーで研磨した。
下地処理(A1)が、散水または水性ポリマーディスパージョンの塗布の場合と不陸調整も合わせて行う場合でそれぞれ2体ずつ300×300mm角の試験体を作製した。熱劣化試験開始前と試験終了後に外観観察と付着強さを測定した。
【0075】
5−2.試験方法
タイル業協会規格に従い、温度20℃、湿度60%の実験室で300×300×60mmのコンクリート平板にタイル接着材を5mm厚さで塗り付け、小口タイルを張り付けた。材齢14日まで温度20℃、湿度60%の実験室で養生を行い、70℃の乾燥機に7日間入れ付着強さを測定した。評価基準を表8に示す。
【0076】
【表8】
【0077】
<施工性の確認>
20℃の試験室で450×900×60mmコンクリート板を2枚,450×900mmで厚さを60mmと55mmに調整したコンクリート板を2枚用意し、下地処理(A1)、下地調整モルタル(a)、下地処理(C)、接着材(b)を連続施工した際の施工性を評価した。
【0078】
<下地調整モルタル(a)の施工性評価基準>
下地調整モルタル(a)のコテ作業性の評価基準を表9に示す。施工厚さは3〜10mmとし、不陸調整は5mm厚さとし、タイル施工の下地調整を行う施工厚さは4mm及び7mmとした。コテ作業性の評価方法と評価基準を表10に示す。
【0079】
【表9】
【0080】
【表10】
【0081】
<タイル張付け性の評価基準>
下地調整モルタル(a)を施工し、20℃の試験室で7日間養生した後、45二丁掛けタイル及び小口タイルを張り付けて接着材(b)のタイル張付け性を確認した。施工厚さは、45二丁掛けタイルが4mm、小口タイルは7mmとした。評価項目はコテ切れ、コテ伸び、タイルとの密着性、オープンタイムが30分以上取れることとした。
オープンタイムは接着材(b)塗り付け後、時間を空けてタイルを張付け、直後に剥がしタイル裏の凹凸部「タイルの裏足」に接着材(b)が75%以上充填可能である時間をいう。
各試料をコンクリート板に塗り付け、10分間隔で40分まで45二丁掛けタイル及び小口タイルを張り付けた。タイルの張付けと剥がす作業を繰り返し、タイル裏足と下地調整モルタル(a)側に残った各試料の状態を確認し、タイル裏足の充填率で密着性の評価するとともにオープンタイムの測定も行い、接着材(b)のタイル張付け性の評価を表11により実施した。タイル張付け性の評価基準を表12に示す。
【0082】
【表11】
【0083】
【表12】
【0084】
<総合評価>
下地調整モルタル(a)と接着材(b)の評価結果から施工性の総合評価の基準を表13に示す。
【0085】
【表13】
【0086】
試験に用いた下地調整モルタル(a)の使用材料を表14に、接着材(b)の使用材料を表15に示す。
【0087】
【表14】
【0088】
【表15】
【0089】
表14に記載の材料を用いて、表16及び表17の配合処方で下地調整モルタル(a)を製造し、物性を評価した。その結果を表18及び表19に示す。
その結果、ポリマーを含まない下地調整モルタル(参考品a11)は付着強度が十分でなかったのに対し、繊維含有ポリマーセメントモルタルは付着強度が優れていた。
【0090】
【表16】
【0091】
【表17】
【0092】
【表18】
【0093】
【表19】
【0094】
表15に記載の材料を用いて、表20及び表21の配合処方で接着材(b)を製造し、物性を評価した。その結果を表22及び表23に示す。
その結果、軽量細骨材又は繊維を含まない接着材(b11、b12)は曲げタフネス、長さ変化率、静弾性係数が十分でなかったのに対し、軽量細骨材及び繊維を含むポリマーセメントモルタルは、良好な物性を示した。
【0095】
【表20】
【0096】
【表21】
【0097】
【表22】
【0098】
【表23】
【0099】
表16及び表17の下地調整モルタル(a)及び表21及び表22の接着材(b)を用いて、タイル施工を行った。その結果を表24〜表26に示す。
【0100】
【表24】
【0101】
【表25】
【0102】
【表26】
【符号の説明】
【0103】
1 躯体コンクリート
2 下地処理(A1)
3 下地調整モルタル(a)
4 下地処理(c1)
5 接着材(b)
6 タイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6