(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404652
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】ジョイント点検システム及びジョイント点検方法
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20181001BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-187109(P2014-187109)
(22)【出願日】2014年9月12日
(65)【公開番号】特開2016-61570(P2016-61570A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】593153428
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】今枝 徳晴
【審査官】
山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−242294(JP,A)
【文献】
特開2002−257625(JP,A)
【文献】
特開2014−051811(JP,A)
【文献】
特開2009−250792(JP,A)
【文献】
特開2013−134090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 − 17/00
G01M 99/00
G01M 7/00 − 7/06
G01N 29/00 − 29/52
E01C 11/02
E01D 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集音手段、撮像手段及び記憶手段を搭載した車両と、損傷判断手段を有し、
前記集音手段は前記車両の後輪が地面と接触することにより発生する走行音を収集し、前記撮像手段は前記後輪が接触している地面を前記後輪と共に撮影し、前記記憶手段は前記集音手段により得た音データと前記撮像手段により得た画像データを時系列で記憶し、
前記損傷判断手段は、前記画像データを参照し、前記後輪が点検対象ジョイントに接触していた時間域を特定し、前記音データをウェーブレット変換して得られた判定用音データの前記時間域における所定の周波数の音のパワースペクトル値に変化が出現したとき、前記点検対象ジョイントに損傷若しくは損傷に至る前の変状があるものと判定することを特徴とするジョイント点検システム。
【請求項2】
集音手段、撮像手段及び記憶手段を搭載した車両で走行し、前記集音手段により前記車両の後輪が地面と接触することにより発生する走行音を収集し、前記撮像手段により前記後輪が接触している地面を前記後輪と共に撮影し、前記記憶手段により前記集音手段により得た音データと前記撮像手段により得た画像データを時系列で記憶し、前記画像データを参照し、前記後輪が点検対象ジョイントに接触していた時間域を特定し、前記音データをウェーブレット変換して得られた判定用音データの前記時間域における所定の周波数の音のパワースペクトル値に変化が出現したとき、前記点検対象ジョイントに損傷若しくは損傷に至る前の変状があるものと判定することを特徴とするジョイント点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路用橋梁において道路を構成する部材の伸縮を吸収するためのジョイントの損傷の有無、若しくは損傷に至る前の変状を判定するジョイント点検システム及びジョイント点検方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度成長期に大量整備された社会資本は、劣化の進展期や加速期を経て、今後集中的に更新期を迎えることになる。そこで、このような状況を背景に、点検手法の自動化・効率化の要請が高まっている。道路用橋梁において道路を構成する部材の伸縮を吸収するためのジョイントについても様々な点検手法が提案されており、例えば、特開2013−134090号公報には、フィンガージョイントの固有振動周波数を利用して破損を判定する方法が開示されている。
【0003】
この破損判定方法では、複数のマイクロフォンを備えた音採取手段を用いて、道路用橋梁に設置されているフィンガージョイントのフェースプレートが振動している時に発生する音の音圧信号を採取し、その音圧信号から予め設定されたフィンガージョイントの固有振動周波数より高い周波数帯域にある音の音源方向を推定する。また、フェースプレートの映像を撮影し、推定された音源方向のデータと撮影されたフェースプレートの画像データとを合成して推定された音源方向を示す図形が描画された破損判定用画像を作成する。フィンガージョイントが破損している場合には破損判定用画像に特定周波数帯域の音の音源方向を示す図形が描写されるので、作成された破損判定用画像によりフィンガージョイントが破損しているか否かを容易にかつ短時間で把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−134090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ジョイントの破損の有無を判定するための従来の方法では、判定に必要となる音を発生させるためにジョイントを叩く作業が必要となり、一つのジョイントについての判定に時間を要するという問題があった。
【0006】
なお、ジョイントを叩く作業に要する時間を短縮するために、車両の走行音を利用する方法も考えられるが、従来の方法では、判定に利用する音をジョイント近傍の特定の場所で採取することを前提としている。そのため、仮に、ジョイントを叩いて音を発生させる替わりに車両の走行音を利用するとしても、車両の重量は一定とはなっていないことから、走行音も車両毎に異なるものとなってしまう。そのため、走行音を利用して、ジョイントの損傷の有無、若しくは損傷に至る前の変状を迅速に判定することは難しかった。
【0007】
そこで、本発明は、ジョイントの損傷若しくは損傷に至る前の変状があることを、時間をかけることなく迅速に判定できるジョイント点検システム及びジョイント点検方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るジョイント点検システムは、集音手段、撮像手段及び記憶手段を搭載した車両と、損傷判断手段を有する。前記集音手段は、前記車両の後輪が地面と接触することにより発生する走行音を収集する。前記撮像手段は、前記後輪が接触している地面を前記後輪と共に撮影する。前記記憶手段は、前記集音手段により得た音データと前記撮像手段により得た画像データを時系列で記憶する。前記損傷判断手段は、まず、前記画像データを参照し、前記後輪が点検対象に接触していた時間域を特定する。そして、前記音データをウェーブレット変換して得られた判定用音データの前記時間域における所定の周波数の音のパワースペクトル値に変化が出現したとき、前記点検対象ジョイントの損傷若しくは損傷に至る前の変状があるものと判定する。
【0009】
本発明に係るジョイント点検方法では、まず、集音手段、撮像手段及び記憶手段を搭載した車両で走行し、前記集音手段により前記車両の後輪が地面と接触することにより発生する走行音を収集し、前記撮像手段により前記後輪が接触している地面を前記後輪と共に撮影し、前記記憶手段により前記集音手段により得た音データと前記撮像手段により得た画像データを時系列で記憶する。次に、前記画像データを参照し、前記後輪が点検対象ジョイントに接触していた時間域を特定する。そして、前記音データをウェーブレット変換して得られた判定用音データの前記時間域における所定の周波数の音のパワースペクトル値に変化が出現したとき、前記点検対象ジョイントの損傷若しくは損傷に至る前の変状があるものと判定する。
【0010】
なお、本発明において音のパワースペクトル値(P(f))とは、単位時間あたりの音のスペクトルを対象時間領域(t:ジョイント通過時間)に現した以下の数式(1)で得られる値とする。
【数1】
ただし、数式(1)において、fsはサンプリング周波数、x(f)はスペクトル、t1はジョイント通過開始時刻、t2はジョイント通過終了時刻である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検査対象ジョイントの損傷の有無、若しくは損傷に至る前の変状の判定のために、音データをウェーブレット変換して得られた判定用音データを利用することとしたため、周波数の音を時系列で解析することができる。そのため、検査対象となるジョイントを特定してその近傍に集音手段を設置することなく、集音手段と撮像手段を搭載した車両で走行して得られた音データと画像データに基づいた判定が可能となる。そして、走行する車両で音データを収集する場合は、ジョイントを叩く作業が不要となり、また、同じ車両の走行音を使用することから車両の重量変動による影響を受けることもなく、検査対象ジョイントの損傷若しくは損傷に至る前の変状があることを、時間をかけることなく迅速に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るジョイント点検システムの車両の側面図である。
【
図3】実施例及び比較例とした鋼製フィンガージョイントの設置状態を示す図面代用写真である。
【
図4】実施例及び比較例の判別用音データと後輪が試験体に接触した状態を撮影した画像データを示す図面代用写真である。
【
図5】車両が走行したときに損傷試験体から発生する音の特性を示すグラフである。
【
図6】損傷試験体を叩いたときに発生する音の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1〜4を参照しながら、本発明に係るジョイント点検システム及びジョイント点検方法の実施形態について説明する。
このジョイント点検システムは、集音手段11、撮像手段12及び記憶手段13を搭載した車両10と、図示しない損傷判断手段を有する。車両10には市販のトラック(仕様:全長6900mm、全幅2200mm、全高3380mm、総排気量7960cc、乗車定員7名)が採用されている。荷台には機材収容部14が設けられ、撮像手段12、記憶手段13の他、音データの採取作業に必要な機材が搭載されている。そして、車両10の重量は、全重量5650kg、前軸2180kg、後軸3520kgとされている。
【0014】
集音手段11には公知のマイクロフォンが採用され、地面から20cmの高さで、車両10の各後輪に対し車両後方に20cm離れた位置にそれぞれ取り付けられている。なお、集音手段11は、車両10の後輪が地面と接触することにより発生する走行音を収集できれば、設置位置に制限はなく、性能や機能に応じて適宜調節すればよい。
【0015】
撮像手段12には公知のビデオカメラが採用され、既述のように、機材収容部14の中に配置されている。そして、荷台底部に設けられた貫通孔を通し、車両10の後輪が撮影できる位置に配置されている。なお、撮像手段12は、後輪が接触している地面を後輪と共に撮影できれば、設置位置に制限はなく、性能や機能に応じて適宜調節すればよい。
【0016】
記憶手段13には公知のデータロガー(プロクスロガー、シナノケンシ株式会社、登録商標)が採用され、既述のように、機材収容部14の中に配置されている。そして、集音手段11及び撮像手段12が接続され、集音手段11により得た音データと撮像手段12により得た画像データを時系列で記憶する。
【0017】
損傷判断手段には公知のPCが採用され、撮像手段12に記録されている画像データを参照し、後輪が接触していた部分を解析対象時間とし、記憶手段13に記憶されている音データから解析対象時間をウェーブレット変換して判定用音データを算出する。そして、得られた判定用音データにおける所定の周波数の音のパワースペクトル値に変化が出現したとき、前記点検対象ジョイントに損傷若しくは損傷に至る前の変状があるものと判定する。
【0018】
なお、この実施形態において損傷判断手段は、地上の所定の場所に設置されているが、車両10に搭載してもよい。
【実施例】
【0019】
図3に示すように、テストコース20に、損傷試験体21及び健全試験体22(本発明の点検対象に相当)として、鋼製フィンガージョイントを設置し、車両10を走行させ、得られた音データ及び画像データを使用して損傷の有無の判定を行った。なお、損傷試験体21は、損傷メカニズムに関する既往の知見に沿って、アンカープレート・リブプレートの破断、ウェブプレート上端部付近への疲労亀裂、亀裂の進展(亀裂長さ=97cm、亀裂幅=5mm以上のスリット)、フェースプレート下面の空洞を模擬して制作したものである。
【0020】
走行により得られた音データをウェーブレット変換した結果(本発明の判定用音データ)を
図4に示す。なお、ウェーブレット変換の結果では、周波数毎に音のパワースペクトル値が色分けされ、低い周波数が下側に、高い周波数が上側に示されている。また、横軸は時間である。
【0021】
ウェーブレット変換した結果において横軸に直交する黒い破線で挟まれた領域(フェースプレートと表示されている領域)は、後輪が損傷試験体21又は健全試験体22に接触している時間域である。すなわち、損傷試験体21又は健全試験体22から音が発生している時間域であり、音データと同時に取得した画像データを参照して求められている。以下、この時間域を「フェースプレート領域」とする。
【0022】
図4のフェースプレート領域では、損傷試験体21に対応する結果(
図4の下段のデータ)と健全試験体22に対応する結果(
図4の上段のデータ)を比較すると、133Hz近傍(
図4において白い破線の下側の楕円で囲まれた部分)の色彩が大きく異なっている。より具体的には、損傷試験体21では、133Hz近傍の音のパワースペクトル値が大きくなっている。
【0023】
この結果から、健全なジョイントからは発生せず、損傷したジョイントのみから発生する音の周波数とそのパワースペクトル値を予め調べておき、その周波数とパワースペクトル値に基づいて損傷の有無、若しくは損傷に至る前の変状を判断できることがわかる。
【0024】
ただし、損傷したジョイントのみから発生する音の周波数とパワースペクトル値は、ジョイントの形状や損傷の状態により異なる。そのため、予め想定される損傷を模擬して制作した試験体や実際に損傷したジョイントを使用して、音の周波数とパワースペクトル値を調べておくことが好ましい。なお、この実施例における損傷試験体21の場合は、
図5に示すように、133Hz近傍の音のパワースペクトル値が0.025に到達するものであることが確認されている。
【0025】
また、ジョイントであっても、叩いて得られる音と走行音ではその周波数特性が異なるものとなるため、損傷したジョイントのみから発生する音の周波数とパワースペクトル値は、音データと画像データの収集に実際に用いられる車両を使用して調べることが好ましい。例えば、この実施例における損傷試験体21を叩いたときに発生する音の特性は、
図6に示すように、133Hz近傍に変化は見られるものの、640Hz近傍の音のパワースペクトル値が0.03に到達するものとなり、走行車両に発生する音の特性とは全く異なるものとなる。
【符号の説明】
【0026】
10 車両
11 集音手段
12 撮像手段
13 記憶手段
14 機材収容部
20 テストコース
21 損傷試験体
22 健全試験体