(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)食用油脂と(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルと(c)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルと(d)グリセリン酢酸脂肪酸エステルとを含有することを特徴とする麺用品質改良剤。
(a)食用油脂と(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルと(c)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルと(d)グリセリン酢酸脂肪酸エステルとを含有する油脂組成物であることを特徴とする麺用品質改良剤。
【背景技術】
【0002】
茹で麺や蒸し麺等の麺類は、製造直後は良好なほぐれ性を示すが、時間の経過と共に、麺線表面の糊化された澱粉の粘着性により麺線が互いに結着し、遂には麺線全体が塊状に固結し、ほぐれ性が損なわれるという欠点を有している。
【0003】
このような問題を解決するため、麺類の加熱工程後に、増粘多糖類や乳化剤等を含有する油脂組成物又は水分散液を麺線に塗布或いは噴霧するなどして該麺線の表面にほぐれ性の改良に有効な成分を付着させる方法が種々検討されている。このような方法の中でも、麺類に良好なほぐれ性を付与するだけでなく、麺類の風味に対する影響が少なく、良好な風味の麺類を製造できる方法が幾つか知られている。
【0004】
例えば、フコイダン、ファーセルラン、アガロペクチン、ポリフィラン、ヘパリンの群から選ばれる1種以上を有効成分としてなる麺ほぐれ改良用組成物(特許文献1)、構成脂肪酸のうちオレイン酸含量70%以上、かつ、リノレン酸含量5%以下である食用油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びレシチンを含有することを特徴とする麺ほぐれ改良用油脂組成物(特許文献2)、構成脂肪酸のうちオレイン酸含量70%以上、かつ、リノレン酸含量5%以下である食用油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びレシチンを含有することを特徴とする麺ほぐれ改良用油脂組成物(特許文献3)等が知られている。
【0005】
一方、麺類は、製造後、時間の経過に伴い水分移行が起こる結果、艶(光沢)が失われ、食欲をそそる外観が保たれないという問題もある。このような問題を解決するための方法としては、例えば、食用油脂100重量部に対してポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.1〜5.0重量部配合してなる麺用ツヤ出し剤(特許文献4)、アラビアガムを含有することを特徴とする粉末状の麺類用品質改良剤(特許文献5)、ヒドロキシプロピルセルロースを含むことを特徴とする麺質改良剤(特許文献6)等が知られている。
【0006】
このように、麺類に対する風味の影響が少なく、麺類にほぐれ性を付与する麺用品質改良剤、或いは、麺に良好な艶を付与する麺用品質改良剤については、それぞれ検討が行われていたにもかかわらず、これら全ての効果について十分な性能を備えた麺用品質改良剤は、未だに得られていないのが実情である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いられる食用油脂としては、例えばコメ油、コーン油、キャノーラ油、オリーブ油、米ぬか油、大豆油、大豆白絞油、サフラワー油、ごま油、パーム油、パーム核油、やし油、ヒマワリ油、綿実油、菜種油、菜種白絞油、落花生油、グレープシード油、しそ油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、魚油、乳脂又はラード等の動物性油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)及びこれらのエステル交換油、分別油、水素添加油等が挙げられる他、グリセリン脂肪酸ジエステル及びプロピレングリコールジ脂肪酸エステルもこれらに含まれる。これら食用油脂は、1種類で用いてもよいし、2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明で用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化生成物であり、エステル化反応等自体公知の方法で製造される。
【0014】
上記ポリグリセリンは、通常グリセリン又はグリシドールあるいはエピクロルヒドリン等を加熱し、重縮合反応させて得られる重合度の異なるポリグリセリンの混合物である。本発明で用いられるポリグリセリンとしては平均重合度が約2〜10程度のもの、例えば、具体的にはジグリセリン(平均重合度2)、トリグリセリン(平均重合度3)、テトラグリセリン(平均重合度4)、ヘキサグリセリン(平均重合度6)、オクタグリセリン(平均重合度8)又はデカグリセリン(平均重合度10)等が挙げられ、好ましくはジグリセリン、トリグリセリン又はテトラグリセリン、より好ましくはジグリセリンが挙げられる。
【0015】
上記ジグリセリンとしては、グリセリンの平均重合度が約1.5〜2.4のジグリセリン組成物又はグリセリン2分子からなるジグリセリンの含有量が50質量%以上、好ましくは約70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であるジグリセリン組成物が挙げられる。ジグリセリンを高濃度化するための精製法としては、例えば蒸留あるいはカラムクロマトグラフィー等自体公知の方法が用いられる。
【0016】
上記脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖の飽和又は不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数8〜18の直鎖の飽和又は不飽和脂肪酸、より好ましくは炭素数18の直鎖の不飽和脂肪酸が挙げられる。例えば、具体的にはオレイン酸、リノール酸及びリノレン酸の群から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸が挙げられ、好ましくはオレイン酸を約50質量%以上、より好ましくは約70質量%以上含有する脂肪酸又は脂肪酸混合物が挙げられる。
【0017】
本発明で用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例として、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを高濃度に含むジグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。即ち、上記高純度のジグリセリンと脂肪酸を、例えば等モルで、エステル化反応させることにより、未反応のジグリセリン、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリンジ脂肪酸エステル、ジグリセリントリ脂肪酸エステル又はジグリセリンテトラ脂肪酸エステル等を含む混合物が得られる。次に、該混合物から自体公知の方法で未反応のジグリセリン等を除き、更に、該混合物を高真空蒸留、例えば分子蒸留することにより、留分として、例えばジグリセリンモノ脂肪酸エステルを70質量%以上含むジグリセリン脂肪酸エステルが得られる。
【0018】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ポエムDO−100V(商品名;ジグリセリンモノ脂肪酸エステル含有量80質量%;理研ビタミン社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0019】
本発明で用いられるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは、ポリグリセリンと縮合リシノール酸とのエステル化生成物であり、エステル化反応等自体公知の方法で製造される。
【0020】
上記ポリグリセリンは、通常グリセリンもしくはグリシドール或いはエピクロルヒドリン等を加熱し、重縮合反応させて得られる重合度の異なるポリグリセリンの混合物である。本発明で用いられるポリグリセリンとしては平均重合度が2〜15程度のものが挙げられ、具体的にはジグリセリン(平均重合度2)、トリグリセリン(平均重合度3)、テトラグリセリン(平均重合度4)、ヘキサグリセリン(平均重合度6)、オクタグリセリン(平均重合度8)、デカグリセリン(平均重合度10)等を例示できるが、好ましくは平均重合度が3〜10程度のものである。
【0021】
上記縮合リシノール酸はリシノール酸を加熱し、重縮合反応させて得られる混合物である。本発明で用いられる縮合リシノール酸としては平均重合度が2〜10程度のものが挙げられ、好ましくは平均重合度が3〜6程度のものである。
【0022】
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとしては、例えば、ポエムPR−100(商品名;理研ビタミン社製)、ポエムPR−300(商品名;理研ビタミン社製)、SYグリスターCR−310(商品名;阪本薬品工業社製)、SYグリスターCR−500(商品名;阪本薬品工業社製)、サンソフト818SK(商品名;太陽化学社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0023】
本発明で用いられるグリセリン酢酸脂肪酸エステルは、グリセリンと酢酸と脂肪酸とのエステル化生成物であり、例えばグリセリンモノ脂肪酸エステルと無水酢酸との反応又はグリセリンと酢酸と脂肪酸とのエステル化反応により得ることができる。得られた反応物は、グリセリンモノ酢酸モノ脂肪酸エステル、グリセリンジ酢酸モノ脂肪酸エステル等を含む混合物である。グリセリン酢酸脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする飽和脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等)が挙げられ、好ましくは炭素数10〜14の飽和脂肪酸である。工業的には、炭素数10〜14の飽和脂肪酸から選ばれる一種又は二種以上の飽和脂肪酸を約90質量%以上含有する脂肪酸混合物を用いるのが好ましい。
【0024】
グリセリン酢酸脂肪酸エステルとしては、例えば、ポエムG−002(製品名;理研ビタミン社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0025】
本発明の麺用品質改良剤は、上記(a)食用油脂と(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルと(c)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルと(d)グリセリン酢酸脂肪酸エステルとを含有する油脂組成物の形態を有する。このような油脂組成物は、例えば、上記(a)食用油脂と(b)ポリグリセリン脂肪酸エステルと(c)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルと(d)グリセリン酢酸脂肪酸エステルとを混合し、例えば60〜90℃に加熱して、溶解することにより製造することができる。
【0026】
本発明の麺用品質改良剤100質量%中の食用油脂の含有量は、通常60〜99.5質量%である。また、本発明の麺用品質改良剤100質量%中のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、通常0.04〜5質量%である。また、本発明の麺用品質改良剤100質量%中のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含有量は、通常0.04〜5質量%である。また、本発明の麺用品質改良剤100質量%中のグリセリン酢酸脂肪酸エステルの含有量は、通常0.02〜3質量%である。
【0027】
また、本発明の麺用品質改良剤は、使用の前に食用油脂で希釈することを前提として、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及びグリセリン酢酸脂肪酸エステルの含有量を高めた油脂組成物として調製することができる。具体的には、本発明の麺用品質改良剤100質量%中の食用油脂の含有量は、上記の前提においては、通常20〜80質量%である。また、本発明の麺用品質改良剤100質量%中のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、上記の前提においては、通常1〜30質量%である。また、本発明の麺用品質改良剤100質量%中のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含有量は、上記の前提においては、通常1〜30質量%である。また、本発明の麺用品質改良剤100質量%中のグリセリン酢酸脂肪酸エステルの含有量は、上記の前提においては、通常0.5〜18質量%である。
【0028】
尚、本発明の麺用品質改良剤中には、本発明の目的を阻害しない範囲で、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル又はレシチン等の食品用乳化剤を加えることができる。ここで、グリセリン脂肪酸エステルには、グリセリンと脂肪酸のエステルの他、グリセリン酢酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル又はグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル等が含まれる。またレシチンには、分別レシチン、酵素分解レシチン又は酵素処理レシチン等が含まれる。
【0029】
本発明の麺用品質改良剤の使用対象である麺類は、小麦粉、そば粉、米粉等の穀粉と水を主原料として、必要であれば食塩、かん水その他の原材料を混合し、常法により製麺等の加工をすることにより得られる食品であれば特に制限はないが、例えばうどん、きしめん、沖縄そば、中華麺、日本そば、稲庭うどん、ひやむぎ、そうめん、冷麺、スパゲッティー、マカロニ類、米粉麺、大麦麺、春雨、餃子の皮、焼売の皮、ワンタンの皮、春巻きの皮等が挙げられる。
【0030】
本発明の麺用品質改良剤の使用方法に特に制限はないが、通常麺に麺用品質改良剤を付着させて用いられる。付着方法に特に制限はないが、例えば噴霧、浸漬、塗布、和え等が挙げられ、中でも麺用品質改良剤を麺に和える方法(即ち、例えば麺用品質改良剤を麺に添加及び混合する方法)が好ましい。上記付着方法を実施するタイミングに特に制限はないが、例えば、茹で、蒸し等の加熱工程後に実施することが好ましい。
【0031】
本発明の麺用品質改良剤の使用量は、麺類の種類、茹で加減等により異なり一様ではないが、例えば、麺100質量%に対して0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%、更に好ましくは0.5〜2質量%である。
【0032】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
[麺用品質改良剤の製造]
(1)原材料
1)なたね白絞油(商品名:ナタネ白絞油;ボーソー油脂社製)
2)ジグリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムDO−100V;理研ビタミン社製)
3)テトラグリセリン脂肪酸エステル(商品名:SYグリスターMO−3S;阪本薬品工業社製)
4)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:ポエムPR−300;理研ビタミン社製)
5)グリセリン酢酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムG−002;理研ビタミン社製)
6)グリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムOL−200V;理研ビタミン社製)
7)グリセリンクエン酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムK−37V;理研ビタミン社製)
8)グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル(商品名:パノダンAB−100VEG;ダニスコジャパン社製)
【0034】
(2)麺用品質改良剤の配合
上記原材料を用いて作製した麺用品質改良剤1〜12の配合組成を表1に示した。この内、麺用品質改良剤1〜3は本発明に係る実施例であり、麺用品質改良剤4〜12はそれらに対する比較例である。
【0035】
【表1】
【0036】
(3)麺用品質改良剤の製造方法
表1に示した原材料の配合割合に基づいて、所定の原材料を500ml容ガラス製ビーカーに入れ、ガラス棒で攪拌しながら80℃まで加熱して溶解した後、室温まで冷却し、米飯用品質改良剤1〜12を調製した。これら麺用品質改良剤の作製量は各400gとした。
【0037】
[麺の作製と評価]
(1)麺の作製
乾麺(商品名:HORECAスパゲティ1.7mm;イタリア産)200gを、食塩10gを加えた熱湯2000gで10分間茹で上げた。茹でた麺300gと麺用品質改良剤(1〜12のうちいずれか)0.9gをポリエチレン製の袋に入れ、空気を含むように該袋の口を閉じたものを把持して10秒間振り混ぜ、麺1〜12を得た。また、対照として、麺用品質改良剤を添加せずに同様に作製し、麺13を得た。
【0038】
(2)ほぐれ性の評価試験
(1)で作製した麺1〜13各120gを、開口部寸法が105mm×80mm、底面寸法が90mm×65mm、深さが30mmの矩形の食品包装用容器に充填・密封し、5℃で24時間保存した。保存後の麺を皿の上に取り出したものを、食品用ラップフィルムで包み、電子レンジ(600W)で1分間加熱した。箸を用いて加熱後の麺をほぐし、麺線同士の付着がなくなるまでの時間を測定した。試験は10名のパネラーで行い、測定した時間の平均値を以下の基準に従って記号化した。結果を表3に示す。
◎:極めて良好 平均値35秒未満
○:良好 平均値35秒以上、45秒未満
△:やや悪い 平均値45秒以上、50秒未満
×:悪い 平均値50秒以上
【0039】
(3)艶及び風味の評価試験
(2)の試験後、麺1〜13の艶及び風味を評価するため評価試験を行った。試験では、下記表2に示す評価基準に従い15名のパネラーで評価を行い、評点の平均点を求め、以下の基準に従って記号化した。結果を表3に示す。
◎:極めて良好 平均点3.5以上
○:良好 平均点2.5以上、3.5未満
△:やや悪い 平均点1.5以上、2.5未満
×:悪い 平均点1.5未満
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
表3の結果から明らかなように、本発明の麺用品質改良剤1〜3を添加して得られた麺1〜3は、ほぐれ性、艶及び風味の全ての評価項目において「○」以上の結果を得た。これに対し、比較例の麺用品質改良剤4〜12を添加して得られた麺4〜12及び対照の麺13では、ほぐれ性、艶及び風味のうち少なくとも1以上の評価項目において「△」以下の結果であり、本発明のものに比べて劣っていた。