特許第6404663号(P6404663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
  • 特許6404663-透明導電積層体の製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404663
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】透明導電積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20181001BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20181001BHJP
   B32B 9/04 20060101ALI20181001BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20181001BHJP
   C23C 14/10 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   B32B15/08 J
   H01B5/14 A
   B32B9/04
   B32B15/20
   C23C14/10
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-201802(P2014-201802)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-68470(P2016-68470A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】大本 慎也
(72)【発明者】
【氏名】口山 崇
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/103104(WO,A1)
【文献】 特開2013−149196(JP,A)
【文献】 特開平10−151696(JP,A)
【文献】 特開2002−197925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00−43/00
H01B 5/00− 5/16
C23C14/00−14/58
DB等 DWPI(Derwent Innovation)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルム基板の少なくとも片面に酸化珪素層と銅層とが順に積層され、前記銅層が1〜10μmの線幅に導電パターン化された透明導電積層体を製造する方法であって、
前記酸化珪素層はSiOx(1.6≦x≦2.0)であり、アルゴンガスと酸素ガスを含む混合ガスに対し前記酸素ガスの導入量が35体積%〜60体積%の酸化物モードのスパッタ法により10〜30nmの厚さで製膜され、
前記酸化珪素層上に接して前記銅層がスパッタ法により製膜され、
前記酸化珪素層と銅層の密着力35N/m〜80N/mであることを特徴とする透明導電積層体の製造方法
【請求項2】
前記透明フィルム基板の前記酸化珪素層と接する面がポリエステル系樹脂である請求項1に記載の透明導電積層体の製造方法
【請求項3】
透明導電積層体の前記銅層が除去された部分における全光線透過率が90%以上である請求項1または2に記載の透明導電積層体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明フィルム基板に銅系膜が積層された透明導電積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タッチパネルには、ドットスペーサーを介在させて対向配置した2つの導電膜(電極層)間のタッチ位置での導通を検知するアナログ抵抗膜方式が多く用いられていたが、近年では、静電容量の変化を利用して指先のタッチ位置を検出する静電容量方式のタッチパネルの開発が普及し、スマートフォン、タブレット、パソコン等種々の機器に搭載されるようになってきた。
【0003】
このような静電容量方式タッチパネルなどの表示機器において、透明電極としては、透明性に優れるインジウム−錫複合酸化物(ITO)薄膜が使用されているが、金属単体に比べて比抵抗が10倍以上高いため、大型画面への適用は難しいと言われている。そこで、このITOに代わって、静電容量制御の感度を高められると共に、低抵抗導電体であり、機械的強度にも優れるメッシュパターン銅ラインが着目され、最近では、多角形からなるメッシュパターンを表面電極とする表示機器の商品化が試みられるようになってきた。電極をメッシュパターンとする理由は、静電容量を向上させるために導電体を面状に配置するためと、銅ラインは光を透過しない故に幾何学的に開口率を拡大させるためである。
【0004】
上記銅パターンを有する透明導電積層体は、表示機器の薄膜化、軽量化に伴いフィルム基板を用いることが望まれている一方、フィルムと銅パターンの密着性に乏しいことが知られている。そのため、フィルムと銅層との密着層としてマンガン(Mn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、スズ(Sn)またはそれらの合金等からなる薄膜を用いることが検討され、密着力を改善する対策がとられてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
他方で、フィルムを通過した水分や不純ガスの銅薄膜内への拡散(ブリード)も重要な課題である。水分や不純ガスは導電性薄膜の劣化に影響を及ぼすため、耐熱性や耐湿熱性の向上のために金属酸化膜を用いたバリア層をフィルム上に設けることで、耐久試験後において外観不良防止の対策がとられてきた(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、特許文献3には、金属酸化物薄膜を形成する際の雰囲気ガス中の酸素濃度を5体積%〜15体積%で金属酸化物薄膜の形成を行った場合、金属酸化物薄膜に隣接する金属薄膜は高い導電性を確保できることが示されている。さらに、酸素濃度15体積%以上では金属酸化物薄膜の抵抗値も高くなる傾向があることが示されている。しかし、金属酸化物薄膜とそれに隣接する金属薄膜間の密着性や、金属薄膜の信頼性に関しては何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−128593号公報
【特許文献2】特開2002−197925号公報
【特許文献3】特開2001−329363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
メッシュパターン銅ラインからなる透明導電膜を作製するにあたり、フィルムと銅層の密着性を改善するために、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、スズ(Sn)等の金属薄膜をフィルムと銅層との間に形成すると、銅層と金属薄膜のエッチングレートの差が大きく異なるため、線幅10μm以下の細線パターニングが難しいという課題がある。金属配線パターンを細線化しなければ、透明フィルム基板上に金属配線パターンを形成した際に配線パターン跡が見えてしまい、所謂、配線パターンの非視認性が悪い状態となってしまい、透明導電性フィルムの透明性を確保できず、透明導電性フィルムとして用いることに不都合が生じてしまう。
【0009】
上記の対策として、特許文献2では、フィルムと金属薄膜の密着層として珪素化合物を形成している。その珪素化合物は、フィルムを通過する水分や不純ガスに対しては、バリア層として有効である。特許文献2では、PDP(プラズマディスプレイパネル)の前面板への使用を目的としているものであり、タッチパネルに必要な特性は想定されていない。そこで本発明は、このような課題に鑑み、スパッタリング製膜により酸化珪素を特定の条件で形成することで、フィルムと銅層の高い密着性を達成することを可能にし、かつ、バリア性に優れ高い導電性をもった静電容量方式タッチパネル用透明導電積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、発明者らが鋭意検討した結果、酸化珪素を所定の製膜条件で形成することにより、フィルムと銅層の密着性に優れ、かつ、バリア性に優れた、1〜10μmの線幅の銅パターンが形成された透明導電積層体を得られるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、透明フィルムと銅層の間には少なくとも酸化珪素層が製膜され、かつ、酸化珪素層は製膜雰囲気ガス中の酸素濃度が全導入ガス量に対して35体積%〜60体積%の環境下で酸化珪素層を酸化物モードで形成する透明導電積層体の製造方法である。酸化珪素層の成膜時のO濃度が35体積%未満の場合、珪素化合物の透過率が大幅に減少し、あるいは、密着性が乏しくなることを見出した。
【0012】
本発明は、上記フィルムの酸化珪素側がポリエステル系樹脂であることが好ましい。製膜中の酸素分圧は4.0×10−5Pa〜9.0×10−5Paが好ましく、酸化珪素はSiOx(1.6≦x≦2.0)が好ましく、その厚さは10〜30nmが好ましく、その平均表面粗さSaは0.5nm〜5nm以下であることが好ましい。
【0013】
銅層は、パターニング処理後の開口率が80%以上であることが好ましく、酸化珪素は、マグネトロンスパッタリングにより形成されることが好ましい。
【0014】
本発明の別の形態は、少なくとも最表面がポリエステル系樹脂である透明基板上に、製膜雰囲気ガス中の酸素濃度が全導入ガス量に対して35体積%〜60体積%の環境下で酸化珪素層を形成し、さらにそのあとに銅層を積層し、銅層のみをパターニングし、線幅1〜10μmの導電パターンにする透明導電積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、銅層の下地層として酸化珪素層を用い、酸化珪素層製膜時の条件として、酸素ガスとアルゴンガスの混合ガスに対して酸素ガスの割合を35体積%〜60体積%としたことにより、高い密着性、耐久性及び光透明性に優れる透明導電積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1電積層体を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明について、図面を参照しながら説明する。図1は、透明フィルム基板10上に、酸化珪素層21と銅層22を順に積層した導電性フィルム100の模式断面図である。酸化珪素層21と銅層22を合わせて積層膜23とする。
【0018】
以下に透明導電性フィルムの製造工程について説明する。透明導電性フィルムの製造工程として、透明フィルム基板10上に酸化珪素層21を形成する工程は、巻取式スパッタリング装置を用いて、ロール・トゥー・ロール法により製膜することが好ましい。また、銅層に関しては、スパッタリング法またはめっき法で製膜することが望ましい。
【0019】
<透明フィルム基板>
透明フィルム基板10は、少なくとも可視光領域で無色透明であるものが好ましい。透明フィルム基板の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフテレート(PBT)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂やシクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。透明フィルム基板10は、最表面にポリエステル系樹脂が形成されていることが好ましい。透明フィルム基板10上に、ポリエステル系樹脂を介しあるいは介さずに、ハードコート層等の機能性層や光学調整層として機能するインデックスマッチング層が形成されていてもよい。
【0020】
ポリエステル系樹脂と酸化珪素層とが接している場合、ポリエステル系樹脂が有する炭素及び酸素を介して結合が強固され、透明フィルム基板との密着力が強くなると推定され好ましい。透明フィルム基板10の厚みは特に限定されないが、10μm〜400μmが好ましく、25μm〜200μmがより好ましい。透明フィルム基板10の厚みが上記範囲であれば、耐久性と適度な柔軟性とを有し得る。そのため、透明フィルム基板上に、透明誘電体層21および銅層22を、巻取式スパッタリング製膜装置を用いたロール・トゥー・ロール方式により、生産性高く製膜することが可能である。透明フィルム基板10は、片面又は両面にハードコート層等の機能性層が形成されたものでもよい。
【0021】
この透明高分子フィルム基板上に密着性向上のため、予め表面にプラズマ処理やコロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化等のエッチング処理を施して粗面化処理等の表面処理をしてもよい。
【0022】
<酸化珪素層の製膜>
透明フィルム基板10上には酸化珪素層21が形成される。酸化珪素層には、その上に銅層22が形成されることで、透明フィルム基板10からの水分や有機物質の揮発を抑制するガスバリア層や、透明フィルム基板に対するプラズマダメージを低減する保護層として作用し得る。さらに、本発明においては、フィルム基板からのブリードによる銅層の劣化を抑制する作用をもたらし、さらには環境に対する信頼性を満足させることができる。
【0023】
透明フィルム基板10への酸化珪素層21の形成は、ナノメートルレベルの均一な薄膜を形成しやす、数ナノメートル単位で膜厚を制御し、硬度や光学特性を調整する観点から、スパッタリング法により行われる。透明フィルム基板10と酸化珪素層21との密着性を高める観点から、透明フィルム基板10の表面に、コロナ放電処理やプラズマ処理等の表面処理が行われてもよい。
【0024】
化珪素は反応性スパッタリングで形成される。反応性スパッタリングとしては、成膜速度や膜質の異なる3つの状態での製膜がある。一般的には、金属モード、遷移モード、酸化物モードと呼ばれる三態である。スパッタガスとしてAr(アルゴンガス)と酸素の混合ガスを用い、シリコン系ターゲットをスパッタする場合、酸化物モードと金属モードと遷移モードがある。
【0025】
酸化物モードは、シリコン系ターゲットを化合物化させるのに十分な量の反応性ガスがチャンバ内に存在し、シリコン系ターゲット表面が酸化されていくため、成膜速度は非常に遅いが、状態としては非常に安定であり、珪素十分に酸化され透明性の高い酸化珪素膜を形成できるモードである。
【0026】
金属モードは、酸素流量が少なくターゲット表面を化合物化するには不十分な量の反応性ガスしかチャンバ内に存在しない状態であるが、これは、ターゲット表面に入射して表面に吸着する酸素分子の割合よりも入射イオンによってシリコンと一緒にたたき出される酸素分子(原子)の数の方が多いためである。そのため、成膜速度は非常に速く、状態としても非常に安定であるが、成膜物はほとんど未化合の状態で、金属的な膜が得られるため、酸化珪素膜の透明性も低い状態となる。
【0027】
遷移モードは、ターゲットが部分的に化合物化される程度の量の反応性ガスがチャンバ内に存在している状態である。ターゲット表面が部分的に化合物化されているので、化合物状態と金属状態との中間的な、非常に不安定な状態である。
【0028】
通常、生産性や酸化珪素膜の透過率の観点から、遷移モードで形成されることが多い。金属モードで酸化珪素を形成した場合、透過率が急激に悪化する。他方、酸化物モードで形成した場合、製膜スピードが落ちてしまうことが懸念される。しかし、本願において導入ガスはアルゴンガスと酸素ガスの混合ガスに対して、酸素濃度が35体積%〜60体積%で形成されることが好ましく、より好ましくは35体積%〜45体積%の酸化物モードで形成されることが、密着性に対して望ましいことを見出した。酸化珪素膜形成において酸素量が多ければ、膜の屈折率が下がり、透過率の向上が期待できる。しかし、60体積%より大の酸素濃度で形成すると、酸化珪素層がポーラスな形状となり、耐湿熱耐性の悪化が懸念される。生産性に関しても、金属膜に対して十分薄膜であり、本願の範囲内においては問題にならない。
【0029】
製膜時のパワー密度は、透明フィルムに過剰な熱を与えず、かつ生産性を損なわない範囲で調整され得る。パワー密度の適正値は、平板型や円筒型などのカソードの形状や大きさに依存するが、平板型カソードの場合には、0.5W/cm〜10.0W/cm程度が好ましい。酸化珪素層製膜時の製膜室内の圧力(全圧)は、5.0×10−3Pa〜4.0×10−1Paが好ましく、1.0×10−2Pa〜2.0×10−1Paがより好ましい。酸化珪素製膜時の全圧に対する酸素分圧は4.0×10−5Pa〜9.0×10−5Paが好ましい。
【0030】
本発明者らの検討によれば、製膜圧力の変化に伴ってモルフォロジーが変化し、製膜圧力が高いほど、結晶粒が粗大化する傾向がある。酸化珪素層の表面粗さSaは0.5nm〜5nmが好ましく、0.5nm〜2nmがより好ましい。このようなモルフォロジーの変化によって、透明導電膜の比抵抗に影響を与えると考えられる。酸化珪素層の膜厚は10〜30nmが好ましい。このような厚さ関係としたときに密着性が十分に改善可能である。
【0031】
これに対し、酸化珪素層の厚さが薄すぎると、連続膜として形成されず密着層としての機能を十分に発揮できず、また、上記膜厚より厚くすると、透過率が減少してしまう。酸化珪素層形成時の基板温度は、透明フィルム基板が耐熱性を有する範囲であればよく、例えば、60℃以下が好ましい。基板温度は、−20℃〜40℃がより好ましく、−10℃〜20℃がさらに好ましい。基板温度を上記範囲とすることで、透明フィルム基板の脆化や寸法変化が抑制されるため、良質の薄膜を形成することができる。
【0032】
<銅層の製膜>
銅層は透明フィルム基板の側から順に酸化珪素層の上に積層され形成される。銅層に関しては、スパッタリング法のみ、またはめっき法のみによる製膜が可能であるが、スパッタリング法でめっき法のための下地薄膜層を形成し、その後めっき法で銅膜を形成することが生産速度および生産コストの観点から好ましい。巻取式スパッタリング装置により製膜が行われる場合、透明フィルム基板10上に、酸化珪素層21と銅層22とが、連続して製膜されてもよい。
【0033】
例えば、スパッタリング法を用いて形成される場合、銅層製膜時の基板温度やパワー密度は特に制限されず、例えば、銅層の製膜に関して上述した基板温度やパワー密度の範囲であってもよい。
【0034】
膜製膜時の導入ガスは、アルゴンガスが好ましい。銅層製膜時の製膜室内の圧力(全圧)は、0.1Pa〜1.0Paが好ましく、0.2Pa〜0.8Paがより好ましい。製膜圧力を上記範囲とすることで、電極層の導電性を向上させることができる。
【0035】
<静電容量方式タッチパネル用透明導電積層体の製造工程>
本発明の静電容量方式タッチパネル用透明導電積層体の製造工程として、好ましくは、第1工程として透明フィルム基板に、酸化珪素層をスパッタリング法により形成し、第2工程として前記酸化珪素層の上に銅層をスパッタリング法により積層し、第3工程として銅層上に防錆処理を行い、第4工程として前記銅層上にレジストを形成し、第5工程として前記レジストを現像し、銅層を露出させ、第6工程として前記レジストパターンをマスクとして、銅をエッチングし、パターニングを行い、最後に第7工程として残ったレジストパターンを剥離する。銅パターンの線幅は非視認性の観点から、1〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。
【0036】
[透明導電性フィルムの用途]
本発明の静電容量方式タッチパネル用透明導電積層体は、特に、パターンの非視認性、密着性が向上されていることから、静電容量方式タッチパネルの位置検出用の電極として、好ましく用いられる。それ故、酸化珪素層と銅層は交互積層膜より、それぞれ単膜であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
下記実施例および比較例で得られた透明導電積層体について、透明導電積層体形成時の酸素分圧、透明導電積層体の膜厚、密着力、85℃120時間試験後の反射色層の評価を行った。結果表1に示す。
【0038】
<膜厚測定>
エッチング前の銅層の膜厚は透過型電子顕微鏡により測定を行った。
【0039】
<密着力>
透明フィルム基板上の酸化珪素層とパターニング前の銅層との密着力はサイカス装置(表面界面物性解析装置)NN−05型(株式会社 三ツワフロンテック)を用いて測定した。測定は刃物を一定速度のもとで水平垂直方向へ動かし、切削、剥離を行うモードで実施した。切刀は単結晶ダイヤモンド切刃を用いた。
【0040】
<色(反射)>
透明フィルム基板上に酸化珪素層、銅層を順次積層させた後、大気中の経時変化加速試験として、80℃120時間加熱処理を実施した。分光測色計CM−3600d(ミノルタ株式会社)を用いて測定を行い、反射aを求めた。加熱前の銅層のaは12.2であった。
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
(酸化珪素層の製膜)
透明フィルム基板として、ポリエステル系樹脂からなる易接着層が形成された厚み125μmの二軸延伸PETフィルムを用いた。透明フィルム基板上に酸化珪素層を形成する前に、透明フィルム基板内の水分や不純ガスを取り除くために70℃で1分間加熱処理した。その後、前記易接着層と接するように酸化珪素層を形成した。B(ボロン)がドープされたSiターゲットを用いて、酸素ガス(流量:27.5scccm)とアルゴンガス(流量:50sccm)の混合ガス(酸素濃度:36%)を装置内に導入しながら、製膜室内圧力:9.7×10−2Pa、酸素分圧:4.6×10−5Pa、パワー密度:1.5W/cmの条件でスパッタリング製膜を行なった。得られた酸化珪素層の膜厚は20nmであった。
【0043】
(銅層の製膜)
前記酸化珪素層上に、銅層をスパッタリング法で形成した。銅ターゲットを用い、アルゴンガス(流量:270sccm)を装置内に導入しながら、製膜室内圧力:0.4Pa、パワー密度:4.2W/cmの条件でスパッタリング製膜を行なった。得られた層の膜厚は300nmであった。
【0044】
(金属電極パターニング)
上記銅層を形成後、銅層上に防錆処理を行い、フォトリソグラフィー法によりレジストパターニングし、配線パターン部を露出させ、前記レジストパターンをマスクとして、銅層のみを塩化鉄(III)水溶液5体積%を用いてエッチングしパターニングを行い、最後に残ったレジストパターンを剥離して、細線化した
【0045】
(実施例2)
実施例1に対して、酸化珪素層の製膜時の酸素ガス量を流量:40.0sccm(酸素分圧:5.8×10−5Pa)に変更したその他の条件を変更せずに透明導電積層体を作製した。
【0046】
(実施例3)
実施例1に対して、酸化珪素層の製膜時の酸素ガス量を流量:52.0sccm(酸素分圧:7.8×10−5Pa)に変更したその他の条件を変更せずに透明導電積層体を作製した。
【0047】
(比較例1)
実施例1に対して、酸化珪素層を形成しなかったその他の条件を変更せずに透明導電積層体を作製した。
【0048】
(比較例2)
実施例1に対して、酸化珪素層を形成しなかったのに加え、透明フィルム基板の加熱処理をしなかったその他の条件を変更せずに透明導電積層体を作製した。
【0049】
(比較例3)
実施例1に対して、酸化珪素層の製膜時の酸素ガス量を流量:20.0sccm(酸素分圧:3.3×10−5Pa)に変更して透明導電積層体を作製した。
【0050】
【表1】
【0051】
上記表1より明らかなように、実施例の透明導電性積層体は、酸化珪素を形成することで、高い密着性を維持しつつ、加熱試験後の反射aの変化が小さく、色目を維持できている事がわかる。他方、酸化珪素を形成していない比較例1,2に関しては、加熱試験後のが大きくなっており、加熱試験で赤色化することを確認した。比較例1、2を比較すると、酸化珪素形成前に基板の加熱処理をしていない比較例2の方がaが大きいことから、基板の中の水分や不純ガスに起因していると推察される。比較例3に関しては、酸化珪素を形成しているが、酸化珪素形成時の酸素濃度が実施例の濃度より低く、密着力が低い結果となった。
【0052】
酸素濃度が高い環境下では、酸化珪素と銅層との界面で銅層が酸化銅などに改質され、密着力が向上すると推察され、また、酸化珪素膜の酸化度が増し、酸化珪素膜表面がより活性化され銅膜に対する濡れ性が向上したと考えられる。しかし、酸化度を上げるために製膜中の酸素量を所定の範囲より過剰に導入してしまうと、酸化珪素層がポーラス膜となりバリア層としての機能を失い、高温高湿信頼性が悪化してしまうことが懸念される。また、下地層として酸化珪素層ではなく、ニッケル層等の金属膜を形成すると、銅層とのエッチングレートの違いからパターニング不良を起こし、全光線透過率が悪化すると想定される。
【符号の説明】
【0053】
100 電積層体
10 透明フィルム基板
21 酸化珪素層
22 銅層
23 層膜
図1