【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
<実施例1:AM1_1557g2と色素が結合した複合体の確認>
(AM1_1557g2の調製)
AM1_1557g2をコードするDNAは、Acaryochloris marina MBIC11017のゲノムDNAを鋳型に用いて、配列番号2及び3に記載の塩基配列のプライマーによりPCRで増幅した。PCRで増幅したDNA断片を、インフュージョンシステム(タカラバイオ社製)を用いて、pET28aベクターに導入し、pET28a_AM1_1557g2を調製した。
【0029】
(AM1_1557g2と色素の複合体の調製)
BV又はPCBの生合成を可能とするpKT270又はpKT271を導入した発現用大腸菌C41株(Novagen社製)に、pET28a_AM1_1557g2を導入し、培養した。大腸菌の細胞内で形成されたAM1_1557g2とBV又はPCBとが結合した複合体は、His−Tagを利用してニッケルアフィニティーカラムにより精製した。
【0030】
(複合体の確認)
BV又はPCBが結合した複合体をSDS−PAGEに供し、ゲルをCBB染色又は亜鉛を用いた蛍光測定に使用した。蛍光染色はSDS−PAGEのゲルを20μMの酢酸亜鉛に室温で30分浸透処理して行われ、その後、蛍光イメージアナライザー(FMBIO II、タカラバイオ社製)を用いて蛍光を測定した。
【0031】
CBB染色及び蛍光測定の結果を
図1に示す。蛍光測定の結果から、BV及びPCBは、AM1_1557g2と結合して複合体を形成していることが示された。また、CBB染色及び蛍光測定の結果から、AM1_1557g2とBV又はPCBが結合した複合体は、およそ25kDaであることが示された。
【0032】
<実施例2:複合体の吸収スペクトルの測定>
複合体の吸収波長は、分光光度計(UV−2600、島津製作所社製)を用いて、室温で測定した。様々な波長の光は、波長可変光源(Opto−Spectrum Generator、浜松ホトニクス社製)を用いて照射した。タンパク質が変性した複合体の波長は、複合体を8Mの尿素(pH2.0)で変性したものを用いて、測定を行った。
【0033】
AM1_1557g2とPCBが結合した複合体(AM1_1557g2−PCB)は、649nmに極大吸収波長を有するPr型と545nmに極大吸収波長を有するPg型との間で、可逆的に光変換した(
図2A)。AM1_1557g2−PCB水溶液は、この光変換に伴い、青色(Pr型)からピンク色(Pg型)に変化した(
図2G)。AM1_1557g2とBVが結合した複合体(AM1_1557g2−BV)は、697nmに極大吸収波長を有するPfr型と622nmに極大吸収波長を有するPo型との間で、可逆的に光変換した(
図2B)。AM1_1557g2−BV水溶液は、この光変換に伴い、緑色(Pr型)から青色(Po型)に変化した(
図2H)。AM1_1557g2−BVのPfr型及びPo型の極大吸収波長は、AM1_1557g2−PCBのPr型及びPg型の極大吸収波長から、それぞれ赤色光側に48nm及び77nmシフトしていた(
図2I)。AM1_1557g2−PCBのPr型のスペクトルからPg型のスペクトルを引いた差スペクトルをとった結果、649nm及び351nmにポジティブピークが確認でき、540nmにネガティブピークが確認された(
図2Cの破線)。AM1_1557g2−BVのPfr型のスペクトルからPo型のスペクトルを引いた差スペクトルをとった結果、699nm及び378nmにポジティブピークが確認でき、606nmにネガティブピークが確認された(
図2Cの実線)。AM1_1557g2−PCB及びAM1_1557g2−BVを酸処理した結果、それぞれ
図2D及びEのスペクトルを示した。また、酸処理したAM1_1557g2−PCB及びAM1_1557g2−BVの差スペクトルは
図2Fのようになった。
【0034】
AM1_1557g2−PCBの光変換における吸収スペクトルの変化を測定した結果、584nm及び449nmにおいて等吸収点が見られた(
図3A)。AM1_1557g2−BVの光変換における吸収スペクトルの変化を測定した結果、652nm及び480nmにおいて等吸収点が見られた(
図3A)。
【0035】
<実施例3:AM1_1557g2と色素の結合位置の探索>
AM1_1557g2の85番目のシステインをアラニンに置換した変異体AM1_1557g2_C85Aの作製を行った。pET28a_AM1_1557g2を鋳型にして、配列番号4及び5に記載の塩基配列のプライマー及びPrimeSTAR Max mutagenesis kit(タカラバイオ社製)に用いてpET28a_AM1_1557g2_C85Aを作製した。pKT270又はpKT271を導入した発現用大腸菌C41株で発現させた。発現させたAM1_1557g2_C85Aを、SDS−PAGEに供し、ゲルをCBB染色及び亜鉛を用いた蛍光測定に使用した。
【0036】
CBB染色ではおよそ25kDaの位置にAM1_1557g2_C85Aのバンドが確認できるが、蛍光測定では何も見られなかった(
図4A)。また、AM1_1557g2_C85Aの吸収スペクトルを測定した結果(実線)、通常のAM1_1557g2のPfr型(破線)と異なり、BVに由来する吸収スペクトルを示さなくなった(
図4B)。AM1_1557g2_C85Aは、BVを発現する大腸菌を用いて作製したにもかかわらず、AM1_1557g2に対するBVの結合も見られず、BVに由来する吸収スペクトルも示さなかったことから、AM1_1557g2とBVの結合には、アミノ酸配列で85番目のシステインが重要であることが判明した。
【0037】
<実施例4:複合体の蛍光スペクトルの測定>
(複合体の蛍光スペクトルの測定)
複合体の蛍光スペクトルは、SILVER−Novaスペクトロメーター(StellarNet社製)を用いて測定した。
【0038】
それぞれの複合体の蛍光スペクトルを測定した結果、AM1_1557g2−PCBのPr型(破線)は676nmに極大蛍光波長を有し、一方でAM1_1557g2−BVのPfr型(実線)は730nmに極大蛍光波長を有していた(
図5)。AM1_1557g2−BVの蛍光極大波長はAM1_1557g2−PCBの蛍光極大波長よりも、赤色光側に54nmシフトしていた。
【0039】
(複合体の光スイッチング能の測定)
複合体の蛍光イメージは、CCDカメラ(Rolera−XR Fast 1394、Q−imaging社製)を備えた蛍光顕微鏡(MVX10、オリンパス社製)で測定した。CCDカメラは、MetaMorphソフトウェア(Molecular Devices社製)で制御した。AM1_1557g2−PCBは、655±20nmの波長の光で励起し、716±20nmの光を透過するフィルターを用いて蛍光イメージを測定した。AM1_1557g2−BVは、710±37.5nmの波長の光で励起し、810±45nmの光を透過するフィルターを用いて蛍光イメージを測定した。タイムラプス撮影は50msの露光時間で、500ms間隔で行った。AM1_1557g2−PCBの蛍光イメージは、655±20nmの赤色光を常時照射しておき、時々510±20nmの緑色光を照射した時に発する蛍光を測定した。AM1_1557g2−BVの蛍光イメージは、710±37.5nmの遠赤色光を常時照射しておき、時々590±20nmの橙色光を照射した時に発する蛍光を測定した。
【0040】
フリーのPCB(図中a)及びAM1_1557g2−PCB(図中b)は、透過光では変化しないが、緑色光を照射するとAM1_1557g2−PCBのみ蛍光を発した(
図6A及びB)。また、AM1_1557g2−PCBがPg型の時に緑色光を照射すると、Pr型に光変換して蛍光を発するようになるが、緑色光から赤色光に切り替えると、Pr型から再びPg型に光変換し、蛍光はほとんど発しなくなった(
図6C)。
【0041】
フリーのBV(図中a)及びAM1_1557g2−BV(図中b)は、透過光では変化しないが、橙色光を照射するとAM1_1557g2−BVのみ蛍光を発した(
図6D及びE)。また、AM1_1557g2−BVがPo型の時に橙色光を照射すると、Pfr型に光変換して蛍光を発するようになるが、橙色光から遠赤色光に切り替えると、Pfr型から再びPo型に光変換し、蛍光強度は減少した(
図6F)。
【0042】
AM1_1557g2−BVは、照射する光の波長を切り替えることで、繰り返し光変換することができた。さらにAM1_1557g2−BVは、光変換を繰り返しても、蛍光強度には影響がなかった。そのため、AM1_1557g2−BVは、優れた光スイッチング能を有しているといえる。