特許第6404665号(P6404665)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404665
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】蛍光特性を有する複合体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/195 20060101AFI20181001BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20181001BHJP
【FI】
   C07K14/195ZNA
   !C12N15/31
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-202984(P2014-202984)
(22)【出願日】2014年10月1日
(65)【公開番号】特開2016-69351(P2016-69351A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年9月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】成川 礼
(72)【発明者】
【氏名】池内 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 守俊
【審査官】 北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 Wesley D. Swingley et al., Niche adaptation and genome expansion in the chlorophyll d-producing cyanobacterium Acaryochloris marina, PNAS,2008, Vol.105, No.6, p.2005-2010
【文献】 Rei Narikawa et al., A New Type of Dual-Cys Cyanobacteriochrome GAF Domain Found in Cyanobacterium Acaryochloris marina, Which Has an Unusual Red/Blue Reversible Photoconversion Cycle, Biochemistry, 2014.7.16, Vol.53, p.5051-5059
【文献】 Michele E. Auldridge et al., Bacterial phytochromes: More than meets the light, Critical reviews in Biochemistry and Molecular Biology, 2011, Vol.46, No.1, p.67-88
【文献】 Uniprot[online],Accession No.B0C946, URL: http://www.uniprot.org/uniprot/B0C946.txt?version=46, 公知日2014.6.11(entry version 46), 検索日2018.8.6, Swingley W.D. et al., Definition: Subname: Full=Two-component hybrid sensor and regulator
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/195
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY/WPIDS(STN)
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するタンパク質と、ビリベルジンと、が配列番号1に記載のアミノ酸配列の85番目又はそれに相当するシステインを介して結合し、蛍光特性を有する複合体。
【請求項2】
前記複合体を構成するタンパク質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、請求項1に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光特性を有する複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
光は時間・空間分解能が高く、また、波長及び強度という二つのパラメーターによって細かく制御することができる。そのため、細胞内におけるタンパク質の局在などの測定に、緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光分子による、光を利用する分子イメージング手法が近年利用されている。しかしながら、細胞に存在する様々な要因(ヘモグロビン、メラニン、水など)により、低波長領域の光の多くは吸収されてしまうことから、低波長領域の光を吸収して蛍光を発するGFPなどの蛍光分子を生体内で利用しようとすると、励起光が蛍光分子まで届きにくく、また蛍光の検出も困難であった。そのため、生体内での分子イメージングには、吸収され難い長波長光吸収型の蛍光分子が望まれている。
【0003】
近年、長波長領域の光を吸収するビリベルジン(BV)と結合するバクテリオフィトクロムという光受容体が注目されている。バクテリオフィトクロムは、ビリベルジンと共有結合することで、700nm及び750nmの波長により、可逆的に光変換する光受容体である。非特許文献1及び2には、このバクテリオフィトクロムを用いて、700nm付近の波長の光を吸収し、725nm付近の波長の蛍光を発する蛍光プローブが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Filonovら、Nature Biotechnology vol.29(2011),pp.757〜761
【非特許文献2】Shuら、Science vol.324(2009),pp.804〜807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バクテリオフィトクロムを用いた蛍光プローブは、色素を結合するタンパク質領域の分子量が比較的大きく、また、タンパク質が二量体以上の多量体を形成するなどの課題がある。このような課題は、上記蛍光プローブを実用化する上で問題となる。
【0006】
ところで、シアノバクテリアが有するフィトクロム様光受容タンパク質として、シアノバクテリオクロムが知られている。シアノバクテリオクロムは、フィコシアノビリン(PCB)及びフィコビオロビリンなどの開環テトラピロールと結合し、紫−青/緑色光、紫/黄色光及び緑/赤色光の間で可逆的に光変換を示す。シアノバクテリオクロムは、25kDa程度の発色団結合ドメイン(GAFドメイン)単量体で色素と結合することができるため、上記のフィトクロムを用いた蛍光プローブよりも低分子で利用できる。しかしながら、フィコシアノビリンよりも長波長領域の光を吸収する色素と結合するシアノバクテリオクロムは従来知られていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、分子量が小さく単量体で機能し、且つ、長波長領域の光を吸収し、蛍光を発する蛍光プローブとして利用できる複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定のシアノバクテリオクロムのGAFドメインがビリベルジンと結合し、長波長領域の光を吸収し、蛍光を発することを新たに見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の[1]及び[2]に関する。
[1]配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するタンパク質と、ビリベルジンと、が配列番号1に記載のアミノ酸配列の85番目又はそれに相当するシステインを介して結合し、蛍光特性を有する複合体。
[2]前記複合体を構成するタンパク質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、[1]に記載の複合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、分子量が小さく単量体で機能し、且つ、長波長領域の光を吸収し、蛍光を発する蛍光プローブとして利用できる複合体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、AM1_1557g2のCBB染色及び亜鉛を用いた蛍光染色を示す。
図2図2A〜Fは、AM1_1557g2と色素の複合体の吸収スペクトルを示す。A及びDにおいて、実線はPr型、破線はPg型の吸収スペクトルを示す。B及びEにおいて、実線はPfr型、破線はPo型の吸収スペクトルを示す。C及びFにおいて、実線はAM1_1557g2−PCB、破線はAM1_1557g2−BVの差スペクトルを示す。図2G及びHは、AM1_1557g2−PCB及びAM1_1557g2−BVの光変換を示す。図2Iは、AM1_1557g2が各種色素と結合した複合体が示す極大吸収波長を示す。
図3図3は、AM1_1557g2が各種色素と結合した複合体を、光変換させたときの吸収スペクトルを示す。
図4図4Aは、AM1_1557g2−C85AのCBB染色及び亜鉛を用いた蛍光染色を示す。図4Bは、AM1_1557g2−C85Aの吸収スペクトルを示す。Bにおいて、実線はAM1_1557g2−BVのPfr型、破線はAM1_1557g2−C85Aの吸収スペクトルを示す。
図5図5は、AM1_1557g2が各種色素と結合した複合体を光変換させたときの蛍光スペクトルを示す。図5において、実線はAM1_1557g2−BVのPfr型、破線はAM1_1557g2−PCBのPr型の蛍光スペクトルを示す。
図6図6A〜Cは、AM1_1557g2−PCB及びフリーのPCBの蛍光変化を示す。A及びBにおいて、aはフリーのPCB、bはAM1_1557g2−PCBを示す。図6D〜Fは、AM1_1557g2−BV及びフリーのBVの蛍光変化を示す。D及びEにおいて、aはフリーのBV、bはAM1_1557g2−BVを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本明細書において「蛍光特性」とは、特定の波長領域の光を吸収し、蛍光を発する機能のことである。
【0014】
本実施形態の複合体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するタンパク質と、ビリベルジンと、が配列番号1に記載のアミノ酸配列の85番目又はそれに相当するシステインを介して結合し、蛍光特性を有する。
【0015】
本明細書において「相応するシステイン」とは、アミノ酸配列を配列番号1に記載のアミノ酸配列と比較した際に、配列番号1に記載のアミノ酸配列の85番目のシステインに対応するシステインのことである。
【0016】
蛍光特性を有する複合体を構成するタンパク質としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するタンパク質であることが好ましく、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質であることがより好ましい。
【0017】
配列番号1に記載のアミノ酸配列は、シアノバクテリウム(Acaryochloris marina MBIC11017)由来のシアノバクテリオクロムの2番目のGAFドメインである「AM1_1557g2」のアミノ酸配列である(以下、配列番号1に記載のアミノ酸配列が示すタンパク質及びこれと90%以上の同一性を有し、蛍光特性を有するタンパク質を「AM1_1557g2等」と総称する場合もある。)。
【0018】
AM1_1557g2等の調製方法については、特に限定されるものではなく、シアノバクテリウムから精製してもよく、化学合成したものでもよく、遺伝子組み換え技術により作製した組み換えタンパク質であってもよい。組み換えタンパク質は、AM1_1557g2等をコードするDNAを適切なベクターに組み入れ、発現系に導入することにより、産生することができる。AM1_1557g2等の発現系は、特に限定されるものではなく、例えば、大腸菌が挙げられる。
【0019】
AM1_1557g2は、配列番号1に記載のアミノ酸配列の85番目のシステインを介して、色素と結合する。そのため、配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するタンパク質においても、配列番号1に記載のアミノ酸配列の85番目のシステインに相応するシステインが保存されている必要がある。また、AM1_1557g2等は、上記システインを有しているため、単量体の状態で色素と結合することができる。
【0020】
AM1_1557g2等と結合する色素としては、開環テトラピロール類が挙げられる。開環テトラピロール類としては、例えば、フィコシアノビリン(PCB)、フィコビオロビリンなどの低波長領域の光を吸収するもの、ビリベルジン(BV)などの長波長領域の光を吸収するものなどが挙げられる。色素としてBVを用いる場合、複合体は600nm以上の長波長領域の光を吸収することができる。色素の調製方法は、特に限定されるものではないが、例えば、PCBの生合成を可能にするpKT271やBVの生合成を可能にするpKT270などのベクターを大腸菌に導入し、発現させてもよい。
【0021】
AM1_1557g2等とPCBが結合した複合体は、530nm〜560nmの波長領域に極大吸収波長を有する緑色光吸収型(Pg型)、及び640nm〜660nmの波長領域に極大吸収波長を有する赤色光吸収型(Pr型)の二つの形態を有する。この複合体は、Pg型の時に、530nm〜560nmの波長領域の光が照射されることでPr型になり、Pr型の時に、640nm〜660nmの波長領域の光が照射されることでPg型になり、Pg型とPr型は可逆的に光変換することができる。また、この複合体は、Pr型の時には660nm〜690nmの波長領域に極大蛍光波長を有する蛍光を発し、Pg型の時にはほぼ蛍光を発しない。
【0022】
AM1_1557g2等とBVが結合した本実施形態の複合体は、605nm〜635nmの波長領域に極大吸収波長を有する橙色光吸収型(Po型)、及び690nm〜710nmの波長領域に極大吸収波長を有する遠赤色光吸収型(Pfr型)の二つの形態を有する。本実施形態の複合体は、Po型の時に、605nm〜635nmの波長領域の光が照射されることでPfr型になり、Pfr型の時に、690nm〜710nmの波長領域の光が照射されることでPo型になり、Po型とPfr型は可逆的に光変換することができる。また、本実施形態の複合体は、Pfr型の時には715nm〜745nmの波長領域に極大蛍光波長を有する蛍光を発し、Po型の時にはPfr型の時よりも蛍光が減少する。
【0023】
複合体の吸収波長及び蛍光波長は、特に限定されるものではないが、例えば、分光器により測定することができる。
【0024】
本実施形態の複合体の作製方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、単離したAM1_1557g2等及びBVを混合してもよく、細胞内でAM1_1557g2等及びヘムからBVを合成するヘムオキシゲナーゼを同時に発現させてもよく、細胞内で発現させたAM1_1557g2等に外部からBVを添加してもよい。
【0025】
本実施形態の複合体は、蛍光特性を有することから蛍光プローブとして利用することができる。例えば、標的タンパク質及びAM1_1557g2等が融合タンパク質として発現するベクターを設計し、これを宿主細胞に導入、発現後、BVと結合させることで、標的タンパク質の局在、挙動などを、発する蛍光により観測することができる。この際のビリベルジンの添加方法については、特に限定されるものではなく、直接細胞に透過させて導入させてもよいし、BVを発現するベクターを組み込んでもよい。本実施形態の複合体は、長波長領域の光を吸収し、遠赤色光の蛍光を発することができるため、励起光や発する蛍光が生体内の要因により吸収され難く、動物体内(in vivo)における蛍光プローブとして、特に有用である。
【0026】
本実施形態の複合体は、照射する光の波長を切り替えることにより、可逆的にPo型とPfr型とを光変換することができるため、発する蛍光の強度を切り替えられる光スイッチング能を有する。複合体がこの光スイッチング能を有することにより、例えば、移動する生体分子を本実施形態の複合体で標識することで、標識した生体分子の動きを観測した後に、蛍光を減少させることができるため、同一の細胞で何度も繰り返して標識した生体分子の動きを観測することができる。そのため、本実施形態の複合体は、移動する生体分子の分子動態の時間的変化を解析するための蛍光プローブとしても利用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
<実施例1:AM1_1557g2と色素が結合した複合体の確認>
(AM1_1557g2の調製)
AM1_1557g2をコードするDNAは、Acaryochloris marina MBIC11017のゲノムDNAを鋳型に用いて、配列番号2及び3に記載の塩基配列のプライマーによりPCRで増幅した。PCRで増幅したDNA断片を、インフュージョンシステム(タカラバイオ社製)を用いて、pET28aベクターに導入し、pET28a_AM1_1557g2を調製した。
【0029】
(AM1_1557g2と色素の複合体の調製)
BV又はPCBの生合成を可能とするpKT270又はpKT271を導入した発現用大腸菌C41株(Novagen社製)に、pET28a_AM1_1557g2を導入し、培養した。大腸菌の細胞内で形成されたAM1_1557g2とBV又はPCBとが結合した複合体は、His−Tagを利用してニッケルアフィニティーカラムにより精製した。
【0030】
(複合体の確認)
BV又はPCBが結合した複合体をSDS−PAGEに供し、ゲルをCBB染色又は亜鉛を用いた蛍光測定に使用した。蛍光染色はSDS−PAGEのゲルを20μMの酢酸亜鉛に室温で30分浸透処理して行われ、その後、蛍光イメージアナライザー(FMBIO II、タカラバイオ社製)を用いて蛍光を測定した。
【0031】
CBB染色及び蛍光測定の結果を図1に示す。蛍光測定の結果から、BV及びPCBは、AM1_1557g2と結合して複合体を形成していることが示された。また、CBB染色及び蛍光測定の結果から、AM1_1557g2とBV又はPCBが結合した複合体は、およそ25kDaであることが示された。
【0032】
<実施例2:複合体の吸収スペクトルの測定>
複合体の吸収波長は、分光光度計(UV−2600、島津製作所社製)を用いて、室温で測定した。様々な波長の光は、波長可変光源(Opto−Spectrum Generator、浜松ホトニクス社製)を用いて照射した。タンパク質が変性した複合体の波長は、複合体を8Mの尿素(pH2.0)で変性したものを用いて、測定を行った。
【0033】
AM1_1557g2とPCBが結合した複合体(AM1_1557g2−PCB)は、649nmに極大吸収波長を有するPr型と545nmに極大吸収波長を有するPg型との間で、可逆的に光変換した(図2A)。AM1_1557g2−PCB水溶液は、この光変換に伴い、青色(Pr型)からピンク色(Pg型)に変化した(図2G)。AM1_1557g2とBVが結合した複合体(AM1_1557g2−BV)は、697nmに極大吸収波長を有するPfr型と622nmに極大吸収波長を有するPo型との間で、可逆的に光変換した(図2B)。AM1_1557g2−BV水溶液は、この光変換に伴い、緑色(Pr型)から青色(Po型)に変化した(図2H)。AM1_1557g2−BVのPfr型及びPo型の極大吸収波長は、AM1_1557g2−PCBのPr型及びPg型の極大吸収波長から、それぞれ赤色光側に48nm及び77nmシフトしていた(図2I)。AM1_1557g2−PCBのPr型のスペクトルからPg型のスペクトルを引いた差スペクトルをとった結果、649nm及び351nmにポジティブピークが確認でき、540nmにネガティブピークが確認された(図2Cの破線)。AM1_1557g2−BVのPfr型のスペクトルからPo型のスペクトルを引いた差スペクトルをとった結果、699nm及び378nmにポジティブピークが確認でき、606nmにネガティブピークが確認された(図2Cの実線)。AM1_1557g2−PCB及びAM1_1557g2−BVを酸処理した結果、それぞれ図2D及びEのスペクトルを示した。また、酸処理したAM1_1557g2−PCB及びAM1_1557g2−BVの差スペクトルは図2Fのようになった。
【0034】
AM1_1557g2−PCBの光変換における吸収スペクトルの変化を測定した結果、584nm及び449nmにおいて等吸収点が見られた(図3A)。AM1_1557g2−BVの光変換における吸収スペクトルの変化を測定した結果、652nm及び480nmにおいて等吸収点が見られた(図3A)。
【0035】
<実施例3:AM1_1557g2と色素の結合位置の探索>
AM1_1557g2の85番目のシステインをアラニンに置換した変異体AM1_1557g2_C85Aの作製を行った。pET28a_AM1_1557g2を鋳型にして、配列番号4及び5に記載の塩基配列のプライマー及びPrimeSTAR Max mutagenesis kit(タカラバイオ社製)に用いてpET28a_AM1_1557g2_C85Aを作製した。pKT270又はpKT271を導入した発現用大腸菌C41株で発現させた。発現させたAM1_1557g2_C85Aを、SDS−PAGEに供し、ゲルをCBB染色及び亜鉛を用いた蛍光測定に使用した。
【0036】
CBB染色ではおよそ25kDaの位置にAM1_1557g2_C85Aのバンドが確認できるが、蛍光測定では何も見られなかった(図4A)。また、AM1_1557g2_C85Aの吸収スペクトルを測定した結果(実線)、通常のAM1_1557g2のPfr型(破線)と異なり、BVに由来する吸収スペクトルを示さなくなった(図4B)。AM1_1557g2_C85Aは、BVを発現する大腸菌を用いて作製したにもかかわらず、AM1_1557g2に対するBVの結合も見られず、BVに由来する吸収スペクトルも示さなかったことから、AM1_1557g2とBVの結合には、アミノ酸配列で85番目のシステインが重要であることが判明した。
【0037】
<実施例4:複合体の蛍光スペクトルの測定>
(複合体の蛍光スペクトルの測定)
複合体の蛍光スペクトルは、SILVER−Novaスペクトロメーター(StellarNet社製)を用いて測定した。
【0038】
それぞれの複合体の蛍光スペクトルを測定した結果、AM1_1557g2−PCBのPr型(破線)は676nmに極大蛍光波長を有し、一方でAM1_1557g2−BVのPfr型(実線)は730nmに極大蛍光波長を有していた(図5)。AM1_1557g2−BVの蛍光極大波長はAM1_1557g2−PCBの蛍光極大波長よりも、赤色光側に54nmシフトしていた。
【0039】
(複合体の光スイッチング能の測定)
複合体の蛍光イメージは、CCDカメラ(Rolera−XR Fast 1394、Q−imaging社製)を備えた蛍光顕微鏡(MVX10、オリンパス社製)で測定した。CCDカメラは、MetaMorphソフトウェア(Molecular Devices社製)で制御した。AM1_1557g2−PCBは、655±20nmの波長の光で励起し、716±20nmの光を透過するフィルターを用いて蛍光イメージを測定した。AM1_1557g2−BVは、710±37.5nmの波長の光で励起し、810±45nmの光を透過するフィルターを用いて蛍光イメージを測定した。タイムラプス撮影は50msの露光時間で、500ms間隔で行った。AM1_1557g2−PCBの蛍光イメージは、655±20nmの赤色光を常時照射しておき、時々510±20nmの緑色光を照射した時に発する蛍光を測定した。AM1_1557g2−BVの蛍光イメージは、710±37.5nmの遠赤色光を常時照射しておき、時々590±20nmの橙色光を照射した時に発する蛍光を測定した。
【0040】
フリーのPCB(図中a)及びAM1_1557g2−PCB(図中b)は、透過光では変化しないが、緑色光を照射するとAM1_1557g2−PCBのみ蛍光を発した(図6A及びB)。また、AM1_1557g2−PCBがPg型の時に緑色光を照射すると、Pr型に光変換して蛍光を発するようになるが、緑色光から赤色光に切り替えると、Pr型から再びPg型に光変換し、蛍光はほとんど発しなくなった(図6C)。
【0041】
フリーのBV(図中a)及びAM1_1557g2−BV(図中b)は、透過光では変化しないが、橙色光を照射するとAM1_1557g2−BVのみ蛍光を発した(図6D及びE)。また、AM1_1557g2−BVがPo型の時に橙色光を照射すると、Pfr型に光変換して蛍光を発するようになるが、橙色光から遠赤色光に切り替えると、Pfr型から再びPo型に光変換し、蛍光強度は減少した(図6F)。
【0042】
AM1_1557g2−BVは、照射する光の波長を切り替えることで、繰り返し光変換することができた。さらにAM1_1557g2−BVは、光変換を繰り返しても、蛍光強度には影響がなかった。そのため、AM1_1557g2−BVは、優れた光スイッチング能を有しているといえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]