特許第6404698号(P6404698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404698
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】下敷きテープ
(51)【国際特許分類】
   E04F 21/18 20060101AFI20181001BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   E04F21/18 G
   E04F13/07 G
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-250754(P2014-250754)
(22)【出願日】2014年12月11日
(65)【公開番号】特開2016-113753(P2016-113753A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】508079175
【氏名又は名称】栗田煙草苗育布製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】特許業務法人たかはし国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100109966
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】栗田 重雄
【審査官】 五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−100600(JP,A)
【文献】 米国特許第04924594(US,A)
【文献】 米国特許第03439420(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 21/18
E04F 13/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地材の表面にクロスを貼付する際、隣接する側部相互の重ね合わせ部の該下地材と該クロスとの間に一時的に設置する下敷きテープにおいて、該下敷きテープは引張破断強度が13g/d以上、引張初期弾性率が350g/d以上の高強度繊維を切断した短繊維が少なくとも30重量パーセント以上の構成となるようにした0.2mm厚以下の湿式法で抄造した紙よりなることを特徴とする下敷きテープ。
【請求項2】
紙の厚みを0.03〜0.2mm厚としたことを特徴とする請求項1記載の下敷きテープ。
【請求項3】
高強度繊維は、高分子量ポリエチレン繊維、高分子量ポリビニルアルコール繊維、パラアラミド繊維、ポリアリレート繊維及びPBO繊維等の単独、或いは、それらの繊維を複数組み合わせたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の下敷きテープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の壁面や天井面となる下地材(ボードや板材等)にクロスや壁紙等(以下、単にクロスという)を貼り付け施工する場合、該クロスとそのクロスに隣接する他のクロスとの付き合わせ部(繋ぎ合わせ部、ジョイント部)をカッターで切断することになるが、その際、クロスの切断箇所と下地材との間に一時的に設置するもので、該カッターの刃により該クロスは切断するが、下地材には損傷が生じないようにそれを保護し、該クロスの切断後において該クロスの側部を拡開することにより除去することのできる下敷きテープを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の室内の壁面や天井面の内装工事において、石膏ボード等の下地材の表面にクロスを貼り付ける工法が一般的となっている。該クロスは、所定の幅で製造された、例えば95cm幅の定尺品等が使用されている。その定尺品を広い壁面や天井面となる下地材に貼る場合、該クロスを繋ぎ合わせながら下地材に貼り付けて行く。その際、繋ぎ合わせ部はクロスの側部と該クロスに隣接する他のクロスの側部とを重ね合わせ(オーバーラッピング)、その状態で重ね合わせ部をカッターで連続的に切断し、下地材に貼り付けるクロス以外の不要なクロスは除去することになる。
【0003】
その際、該カッターにより該クロスを切断することができるが、その刃先は該クロスを貫通して下地材まで到達することになる。そこで、該下地材を傷付けないために、該下地材と該クロスとの間に下地材を保護する下敷きテープを一時的に設置する施工が行われている。従って、該クロスの切断後においてクロスの側部を拡開して該下敷きテープを除去することになる。
【0004】
該クロスは、下地材との貼り付け面に糊や粘着剤が付与され、下地材に容易に貼り付けることができる構成となっており、該下敷きテープの除去後、該クロスの側部を元に戻すことにより、クロスの側部相互が隙間なく付き合わされ、仕上面となる表面は平滑な面となり、繋ぎ合わせ部が判別しにくい綺麗な仕上げとすることが可能となる。
【0005】
しかし、従来の下敷きテープは、十分な耐切創性を有していないため、カッターでクロスを切断する際、該カッターにより下敷きテープを貫通して下地材に傷が生じ、この傷がクロスの貼着終了後において該クロスの表面に凹部となって現われて美観を損ねると共に、深い傷の場合には、その部分が空隙となるためクロスの接着が不十分となり、当該箇所から該クロスが剥がれるという問題点が生じていた。
上記欠点を解決する目的で下記の特許が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−30779号公報
【特許文献2】特開2004−19411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1は、ナイロン等を採用し、その引張破断強度は10g/d未満の合成繊維や天然繊維で形成した網状の織編物からなる下敷きテープを提案している。この下敷きテープは、カッターによって容易に切断され、下地材を傷付けない目的を十分には達成できるものではなかった。
【0008】
また、上記特許文献2は、耐切創性を改良する目的で特許文献1の織編物を合成樹脂フィルムで包んだ構成としている。その構成により内側の織物の横糸が切り難くなり、その結果、連続的な傷ではなく、断続的な傷となり、傷が軽減されるとしている。しかし、下地材に傷を付けない目的を十分に達成できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記欠点を解決すべく鋭意検討した結果、引張破断強度が13g/d以上で、且つ、引張初期弾性率が350g/d以上の高強度繊維を切断した短繊維が、少なくとも30重量パーセント以上の構成にて形成した、厚みが0.2mm以下の湿式法で抄造した紙からなるテープを下敷きテープとして採用することにより上記欠点を解決したものである。
【0010】
上記構成により製造された紙は、幅が広いため、巻き取りされた紙の長さ方向に幅20〜50mm毎にスリット加工して下敷きテープとする。該下敷きテープの厚みは、厚いほど耐切創性においては優れるが、高価格になるため好ましくなく、また、スリット加工時に切断し難くなるとともに、クロスの突き合わせ部において綺麗に突き合わせすることができない欠点があった。
【0011】
上記欠点を考慮し、該下敷きテープは0.2mm厚以下が好ましい。しかし、薄くすることにより上記欠点は改善されることになるが、引張り時に破れ易くなる欠点があり、0.03〜0.2mm厚が好ましい。最適値は0.05〜0.1mm厚である。
【0012】
前記高強度繊維は、パラアラミド繊維、ポリアリレート繊維、高分子量ポリエチレン繊維、高分子量ポリビニルアルコール繊維及びPBO繊維等の単独、或いは、それらの繊維を複数組み合わせたものである。
上記高強度繊維を材料とし、湿式法により紙として抄造することになる。
【0013】
該下敷きテープは、一時的にクロスの糊や粘着剤と接触するため、該下敷きテープを除去する際に糊や粘着剤が該下敷きテープ側に移行しない剥がし易い性質のものが望まれる。その点、高分子量ポリエチレン繊維製の下敷きテープは、粘着剤との接着性が良くないので該下敷きテープ面に粘着剤が残りにくいので最も好ましい。
該下敷きテープの片面若しくは両面に撥水加工を施すことにより、剥がれ易い下敷きテープとすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
高強度短繊維を湿式抄紙した材料よりなる本発明の下敷きテープは、ボード等の下地材の表面にクロスを貼る場合、該クロスのジョイント部となる下地材と該クロスとの間に該下敷きテープを挿入する。該クロスの表面側からカッター等の刃物で該クロスを切断し、切断後は該下敷きテープを取り除くことになるが、極めて容易に取り除くことができ、且つ、ボード等の下地材を傷つけることが殆どない優れた耐切創性を有する下敷きテープを提供することが可能となった。
【0015】
また、該下敷きテープを用いることにより、従来より問題となっていたボード等の下地材に傷が付きにくくなり、ジョイント部でのクロスの剥離を大幅に減らすことができ、更に、該下敷きテープは紙製で、しなやかなため耐屈曲性に優れ、取扱いが便利で、クロスを貼る施工時においても工事が容易となる。また、耐切創性に非常に優れているため、ジョイント部の切断時に掛かる力を調整する必要がなく、熟練者でなくても施工することが容易で、工期を短縮することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る下敷きテープを実施例に沿って詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
単糸繊度1.0d(デニール)、引張破断強度30g/d、引張初期弾性率1,100g/dの高強度、高弾性率のポリエチレン繊維(ダイニーマ・ジャパン株式会社製、商品名「ダイニーマ(登録商標)SK60」)を6mmの長さに切断し、湿式抄紙の原料とした。バインダーとして、平均繊維長0.45mm、繊維径が0.5〜7.0μm、カナディアンフリーネス400mLのポリオレフィンパルプ(商品名:ティアラ(登録商標)KY−430M、ダイセル株式会社製)を使用した。配合比は繊維90重量パーセント、パルプ10重量パーセントとした。
【0018】
この原料を水中に分散し、粘剤としてポリエチレンオキサイドを極少量添加し、更に、リファイナーを通して分散を進め、濃度1重量パーセントのスラリーを製造し、目付け50g/mの湿式シートを製造し、そのシートをドラムドライヤで乾燥して紙を得た。この紙はこのままでも十分な耐切創性を有していた。別途、紙を薄くすることと、均一性を向上させるため、その紙を線圧250kg/cm、ロール温度95℃の熱カレンダーでプレスして紙を得た。この紙の耐切創性を後記する表1に示した。
【実施例2】
【0019】
単糸繊度1.1d(デニール)、引張破断強度15g/d、引張初期弾性率420g/dの高強度、高弾性率のポリエチレン繊維(東洋紡株式会社製、商品名「ツヌーガ(登録商標)」)を6mmの長さに切断し、湿式抄紙の原料とした。バインダーとして、平均繊維長0.45mm、繊維径が0.5〜7.0μm、カナディアンフリーネス400mLのポリオレフィンパルプ(商品名:ティアラKY−430M、ダイセル株式会社製)を使用した。配合比は繊維90重量パーセント、パルプ10重量パーセントとした。
【0020】
この原料を水中に分散し、粘剤としてポリエチレンオキサイドを極少量添加し、更に、リファイナーを通して分散を進め、濃度1重量パーセントのスラリーを製造し、目付け61g/mの湿式シートを製造し、そのシートをドラムドライヤで乾燥して紙を得た。この紙はこのままでも十分な耐切創性を有していた。別途、紙の均一性を向上させるため、その紙を線圧250kg/cm、ロール温度95℃で、熱カレンダーでプレスして紙を得た。この紙の耐切創性を後記する表1に示した。
【実施例3】
【0021】
単糸繊度1.5d(デニール)、引張破断強度22g/d、引張初期弾性率800g/dの高擦力、高弾性率のパラアラミド繊維を湿式抄紙の原料とした紙の耐切創性を測定した。結果を後記する表1に示した。
【0022】
比較例1
配合比を繊維20重量パーセント、パルプ80重量パーセントとした以外は実施例1と同じ条件で紙を得た。この紙の耐切創性を後記する表1に示した。
表に示すように、この紙の耐切創性は十分ではなかった。
【0023】
比較例2
市販のポリエチレン繊維を湿式抄紙した紙を用いて耐切創性をテストした。結果を後記する表1に示した。
【0024】
下敷きテープとなる紙の引張り強度と耐切創性は次の方法で測定した。
(1)引張り強さ:JIS L1096(一般織物試験方法)。
(2)耐切創性:市販のカッター(オルファ(登録商標)特専A型144B)を用い、下地材としての石膏ボード上に、A4サイズの紙を配置し、その端を両面テープで固定した。その際、紙の周囲端のみを幅15mmの両面テープで固定し、中央部は固定せずに実工法に近似した状態とした。その紙の中央部に定規を当て、定規の縁に沿って、該紙に一定の荷重が掛かるようにカッターを手で引っ張って切断し、その後、該紙の切断状態と石膏ボードの傷を目視判定した。
上記実施例中に紙の製造を記したが、高強度、高弾性率のポリエチレン繊維(ダイニーマ、ツヌーガ)の湿式抄紙については、エチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂又はプロピレン−(メタ)アクリル酸系樹脂を少なくとも1種含有する樹脂バインダーを使用する方法によっても良好な紙が得られた。
【0025】
【表1】
【0026】
表1から判断できるように、引張り破断強度が13g/d、引張初期弾性率が350g/d以上のツヌーガ以上の高強度繊維を用い、且つ、該繊維の比率が30重量パーセント以上の紙が下敷きテープとしての耐切創性に優れていることが分かった。
なお、引張り破断強度が8g/d程度の高強度のポリエステル繊維やポリアミド繊維も製造は可能であるが、これらの繊維の耐切創性は良くなかった。
また、引張り破断強度が10〜12g/dのツヌーガも製造は可能であるが、やはり繊維自体の耐切創性は不十分であった。
【0027】
下敷きテープとしての性能は、高分子量ポリエチレン繊維のダイニーマが最も優れており、高強力ポリエチレン繊維のツヌーガ、パラアラミド繊維からなる紙の順番になった。
特にダイニーマとツヌーガからなる紙はクロスの裏面に付与されている糊剤が紙に移行せず、クロスの接着性を阻害しなかった。これらの繊維は接着性が良くないオレフィンで構成されているためと判断した。