(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
蓄電システムを充放電制御することによって急激に変動する太陽光発電の出力を平準化して配電線系統に供給する電力フィルタとしての電力平準化システムにおいて、太陽光発電の出力変動の最大値と、配電系統に供給する電力の変動速度の許容値から必要となる減衰量を決め、当該減衰量から電力フィルタを構成する変動抑制フィルタの遮断周波数を決定することを特徴とする電力平準化システムにおける電力伝達関数の設計方法。
蓄電システムを充放電制御することによって急激に変動する太陽光発電の出力を平準化して配電線系統に供給する電力フィルタとしての電力平準化システムにおいて、電力フィルタを構成する変動抑制フィルタの遮断周波数に対応する蓄電量比率を求め、該蓄電量比率と1日の総発電量を乗算することによって蓄電池容量の最小値を決定することを特徴とする電力平準化システムにおける蓄電池容量の算出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力平準化システムの機能は、急激に変動する太陽光発電の出力を平準化して系統に供給することである。この機能を実現するためには、太陽光発電の出力を平滑化するローパスフィルタを構成して系統に接続すれば良い。
【0006】
すなわち、電力平準化システムを構成することは、電力フィルタを構成することと同じとなる。電力フィルタの減衰量を大きくすればするほど平準化ができるが、逆に蓄電池容量の増大化を招く。このため、システムを最適化するには、電力フィルタの電力伝達関数を如何に設計するかに尽きる。
【0007】
そこで、本発明では、電力平準化システムを構成する電力フィルタの電力伝達関数を最適に設計する方法と、電力平準化システムの性能及びコストの面から重要な役割を占める蓄電池容量を最適化するための算出方法について提示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、蓄電システムを充放電制御することによって急激に変動する太陽光発電の出力を平準化して配電線系統に供給する電力フィルタとしての電力平準化システムにおいて、太陽光発電の出力変動の最大値と、配電系統に供給する電力の変動速度の許容値から必要となる減衰量を決め、当該減衰量から電力フィルタを構成する変動抑制フィルタの遮断周波数を決定することに特徴を有する。
【0009】
請求項2記載の発明は、蓄電システムを充放電制御することによって急激に変動する太陽光発電の出力を平準化して配電線系統に供給する電力フィルタとしての電力平準化システムにおいて、電力フィルタを構成する変動抑制フィルタの遮断周波数に対応する蓄電量比率を求め、該蓄電量比率と1日の総発電量を乗算することによって蓄電池容量の最小値(理想値)を求め、それに充放電効率等を考慮することで必要な蓄電容量を決定することに特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、電力フィルタとして機能する電力平準化システムにおける電力伝達関数の設計が容易に実現できる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、太陽光発電の出力変動を許容値以下に抑えるために必要となる最小の蓄電池容量を算出することができ、システム設計上優位である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について
図1乃至
図6を用いて説明する。
図1に本発明に係る電力平準化システム(電力フィルタ)Aの制御構成を示す。太陽光発電の出力電力P
inを変動抑制フィルタ1により平滑化処理を行ったものが、系統に供給する電力の目標値P
o*となる。その目標値と太陽光発電の出力の差分を、後述する蓄電池及び蓄電池パワコンから構成される蓄電池システム2の出力電力指令値P
bs*とする。蓄電池システム2は、その指令値にしたがって蓄電池の電力を充放電制御する。
【0014】
図1において、P
out =
P
in +
P
bsであり、P
bs* =
P
o* −
P
in、P
o* =
G
f P
inである。蓄電池システム2はP
bs =
P
bs*となるように出力電力P
bsを制御するので、P
out =
P
in +
P
bs*=P
in +
G
f P
in −
P
in=G
f P
inとなり、結果、変動抑制フィルタ1の伝達関数G
f=電力フィルタ(電力平準化システムA)の伝達関数G
pとなる。
【0015】
図2は
図1の制御構成にしたがって太陽光発電に対し交流側で並列に接続する形とした電力平準化システムAの構成を示している。電力平準化システムAは、蓄電池3と、太陽光発電7や蓄電池3の出力電力を計測するトランスデューサ等のセンサ4a〜4d、それからの値を基に電力平準化制御を行って蓄電池3の出力電流指令値を生成する平準化コントローラ5、生成された指令値を基に蓄電池3の出力電流を制御し充放電を行うパワーコンディショナー(以下、蓄電池パワコン)6から構成されている。なお、前記太陽光発電7は、太陽電池8とパワーコンディショナー(以下、太陽光パワコンという)9から構成されている。
【0016】
図3は前記平準化コントローラ5の制御ブロック図である。平準化コントローラ5は、変動抑制フィルタ1の機能と、蓄電池3及び蓄電池パワコン6からなる蓄電池システム2における蓄電池パワコン6の出力電力P
bsをフィードバック制御する機能を有している。
【0017】
以下に電力フィルタの遮断周波数と、蓄電池容量の算出法を記す。出力変動の激しさを表す指標として、変動速度の絶対値の最大値|dP
/
dt|
maxを用いる。電力フィルタ通過後に|dP
/
dt|
maxがどの程度小さくなるかで電力フィルタの性能(電力平準化の度合)を評価する。この評価により電力フィルタを決めると、太陽光発電の容量に応じて蓄電池容量B
capが決まってくる。
【0018】
最初に、蓄電池容量算出の概略手順を示し、その後、その詳細を説明する。なお、これ以降、電力や出力の変動速度のことを単に電力変動とか出力変動と言う。蓄電池容量算出の概略手順は次のようになる。
【0019】
(1)最初に、電力フィルタ通過後に|dP
/
dt|
maxがどの程度減衰するかを把握する。入出力における|dP
/
dt|
maxの比を電力変動減衰量Gとする。そして、その電力変動減衰量Gと電力フィルタの遮断周波数f
cとの関係を把握する。数種類のフィルタについて上記の関係を把握し、最終的にその中から最適なフィルタを選択する。
【0020】
(2)次に、系統に供給する電力の変動速度|dP
out /
dt|の許容値と太陽光発電の出力変動|dP
in /
dt|
maxの比から必要な電力変動減衰量を決める。
【0021】
(3)そして各フィルタについて、上で求めた減衰量を得るために必要となる遮断周波数f
cを求める。
【0022】
(4)最後に、各フィルタを用いて平準化を行なった場合に、1日の中で蓄電池3に蓄えられる電力量が最大となるポイント(最大蓄電量)を求める。そして、年間を通じてこの値の最大値を求める。この最大値が最小となるフィルタがシステムに最適なフィルタであり、その値が必要となる蓄電池容量の最小値B
o(理想値)である。このB
oに対して、蓄電池やパワコンの充放電効率や、蓄電池を使用する際の放電深度(蓄電池容量に対する放電量の比)を考慮したものが、実際に必要な蓄電池容量B
capとなる。
【0023】
上記手順を実施するにあたり、まず(1)の手順として、数種類のフィルタに対して遮断周波数と電力変動減衰量の関係を把握する。次に(4)の手順として、各フィルタに対して遮断周波数と最大蓄電量の関係をあらかじめ把握しておく。ここでは、太陽光発電設備(100
kWと10
kW)を対象とし、その出力データ(1秒サンプリングデータ)を基にしてこれらの関係を把握した場合について説明する。
【0024】
最初に、電力フィルタの遮断周波数f
cと電力変動減衰量Gの関係を調べる。 具体的には、対象とする太陽光発電の実際の出力データをもとにしたP
inを電力フィルタに入力してその出力を計算する。その結果から、フィルタの入力の最大変動速度|dP
in /
dt|
maxと出力の最大変動速度|dP
out /
dt|
maxの比G(電力変動減衰量)を求める。そして、数種類のフィルタについて、遮断周波数f
cを変化させて電力変動減衰量Gがどのように変化するかを調べる。
【0025】
電力フィルタは1次と2次、3次のバタワース型LPFとした。その理由は、太陽光発電の出力はステップ状に急変する場合があるので、ステップ応答特性が良い点や設計が容易な点を考慮したためである。
【0026】
まず、対象とする太陽光発電の出力データの中から、変動が激しい日のデータを数日分選び、そのデータによるP
inを電力フィルタに入力してその出力を計算する。そして、その結果から電力変動減衰量を求めグラフ化する。
【0027】
太陽光発電の出力変化の様相はさまざまであり、特に変動が激しい日の出力変化パターンは千差万別である。そのため、電力変動減衰量が最も小さくなる場合のグラフを用いる必要がある。調査した中で、電力変動減衰量が最小となる場合のグラフを
図4に示す。
【0028】
電力フィルタの遮断周波数f
cを変化させて電力変動減衰量Gを求めた結果、両者の間には近似的に式(1):G
=
10
log
10 (|dP
out /
dt|
max /|dP
in /
dt|
max )=
a
1 log
10 (
f
c )
+
b
1のような関係があることがわかった。
【0029】
電力フィルタの遮断周波数f
cと電力変動減衰量Gの関係を把握したことで、必要な減衰量Gを得るための各フィルタのf
cを求めることができる。
【0030】
次に、各電力フィルタを用いて平準化を行なった場合に、最大蓄電量Q
maxがどの程度になるかを計算する。そして、電力フィルタの遮断周波数を変化させて最大蓄電量Q
maxがどのように変化するかを調べる。
【0031】
図1に示す電力フィルタの制御構成から、出力電力P
bsと同じ電力が蓄電池3に充放電される。蓄電池3に蓄えられる電力量Q(t
)は瞬時電力P(t
)の積分値であるから、蓄電量は出力電力P
bsを積分することにより求めることができる。この蓄電量Q(t
)の1日の中の最大値が最大蓄電量Q
maxであり、年間を通じたQ
maxの最大値が、必要となる蓄電池容量の最小値B
oとなる。
【0032】
年間を通じて最大蓄電量が最も大きくなるのは、1日の総発電量が多い日である。このため、このような日を選んで遮断周波数と最大蓄電量の関係を調べる。ただし、最大蓄電量の値そのままでは1日の総発電量に依存するので、総発電量で規格化した式(2):蓄電量比率C
b=
最大蓄電量
/
1日の総発電量で検討する。
【0033】
1日の総発電量で規格化することにより、遮断周波数と蓄電量比率の関係は、いろいろな容量の太陽光発電に適用可能となる。今回、対象とする太陽光発電の出力データの中から、1日の総発電量が多い日を数日選び、蓄電量比率を計算した。
【0034】
各電力フィルタについて、遮断周波数f
cを変化させて蓄電量比率C
bとの関係を調べた結果を
図5に示す。その関係は、式(3) :log
10 (
C
b )
=
a
2 log
10 (
f
c )
+
b
2のように対数直線で近似できる。また、近似直線の傾きa
2と切片b
2は、太陽光発電の容量や日によらない。これは1日の総発電量が多い日の発電パターンが類似しているためだと考えられる。近似直線の傾きa
2がほぼ−1であることから、f
cとC
bは反比例の関係にあることがわかる。
【0035】
各電力フィルタについて、遮断周波数f
cと電力変動減衰量Gとの関係、および蓄電量比率C
bとの関係から電力変動減衰量Gと蓄電量比率C
bとの関係を導き出すことができる。
【0036】
式(1)と式(3)から電力変動減衰量Gと蓄電量比率C
bの関係式を導出した結果は、式(4):log
10 (
C
b )
=
(
a
2 /
a
1 )
(
G
−
b
1 )
+
b
2=
(
a
2 /
a
1 )
G
−
a
2 b
1 /
a
1 +
b
2であり、そのグラフを
図6に示す。
【0037】
図6のグラフにより、必要な電力変動減衰量Gに対して、蓄電量比率C
bが最小となるフィルタの種類とC
bの値が容易に得られる。
【0038】
以下に、蓄電池容量の計算手順を記す。対象とする太陽光発電の最大出力変動|dP
in /
dt|
maxと、系統に供給する電力の変動速度の許容値|dP
r /
dt|から、必要な電力変動減衰量G
rを式(5):G
r =
10
log
10 (|dP
r /
dt|/|dP
in /
dt|
max )より求める。
【0039】
図4に示すような遮断周波数と電力変動減衰量の関係から、必要減衰量G
rを得るために必要となる各フィルタの遮断周波数f
cを求める。
【0040】
図5に示すような遮断周波数と蓄電量比率の関係から、各フィルタについて、前項で決定した遮断周波数f
cに対する蓄電量比率C
bを求める。蓄電池容量が最小となるのは、C
bが最小となる場合である。したがって、
図5に示すような関係グラフの中からC
bが最小となるフィルタを選択する。
【0041】
ただし、
図6に示すような電力変動減衰量と蓄電量比率の関係が導出できている場合は、それを用いて、必要な電力変動減衰量G
rに対して蓄電量比率C
bが最小となるフィルタを選択する。
【0042】
太陽光発電の出力データから1日の総発電量の最大値W
maxを求める。
【0043】
得られたC
bとW
maxを乗算することにより蓄電池容量が求められる。しかしこの値は、蓄電池3やパワコン6の充放電効率や、蓄電池3を使用する際の放電深度(蓄電池容量に対する放電量の比)を100%とした場合の理想値であり、実際的な値ではない。このため、これらの効率や放電深度を考慮する必要がある。
【0044】
蓄電池パワコン6の電力変換効率をη
bpcとすると、蓄電池3に充電される電力量は、理想値B
o(=C
b W
max)に対してη
bpc倍(η
bpc B
o )となる。
【0045】
蓄電池3の充電効率(=
放電電力量
/
充電電力量)をη
bとすると、放電可能な電力量は、充電電力量η
bpc B
oに対して、蓄電池3でη
b倍となり、さらに蓄電池パワコン6から放電するのでη
bpc倍となる。結局、最終的に放電可能な電力量は、η
b η
bpc倍(η
b η
bpc2 B
o )となる。
【0046】
蓄電池3に充電した1日の太陽光発電の電力は、その日の内にはすべて系統へ放電される。見かけ上、太陽光発電により最大B
oの電力を充電することになるので、同量の電力を放電することになる。ところが、前項により放電可能な電力量はη
b η
bpc2 B
oとなるので、その損失分(1
−
η
b η
bpc2 )
B
oをあらかじめ夜間に補充しておく必要がある。補充した電力についても100%放電できるわけではない。前項同様、補充分に対する放電可能な電力量はη
b η
bpc倍となる。したがって、あらかじめ充電しておく電力量は、式(6):(1
−
η
b η
bpc2 )
B
o /
(η
b η
bpc )
=
((η
b η
bpc )
-1 −
η
bpc )
B
oとなる。
【0047】
蓄電池3を使用する際の最大放電深度K
dodを考慮すると、必要となる蓄電池3の容量B
capは式(7):B
cap =
(η
bpc B
o +
((η
b η
bpc )
-1 −
η
bpc )
B
o )
/
K
dod=
B
o /
(η
b η
bpc K
dod )=
C
b W
max /
(η
b η
bpc K
dod )で求められる。
【0048】
以下に、実際に蓄電池3の容量を求めた計算例を記す。対象としたのは100kW太陽光発電設備である。当該太陽光発電の最大出力変動を|dP
in /
dt|
max =
43
kW/sとする。これを石炭火力発電機が追従可能な出力変動3%
/分以下に抑えるものとする。つまり、系統に供給する電力の変動速度の許容値を0.05kW/sとした場合、必要な電力変動減衰量は、式(5)からG
r =
−29.3dBとなる。
【0049】
この場合、
図6の関係から電力フィルタは、バタワース型2次LPFを選択する。電力変動減衰量が−29.3dBとなる電力フィルタの遮断周波数f
cを
図4から求めると、0.21
mHzとなる。
【0050】
図6から蓄電量比率C
bを求めると、4.1
%となる。
【0051】
太陽光発電の1日の総発電量の最大値W
max =
650
kWhであるとき、使用する蓄電池3の最大放電深度を80
%、充電効率を95
%、蓄電池パワコン6の効率を94
%とすると、必要な蓄電池3の容量は、式(7)からB
cap =
37
kWhとなる。
【0052】
以上説明したように、本発明によれば、必要な電力変動減衰量を得るためのフィルタの遮断周波数を求めることができ、システムを最適化できる。
【0053】
また、太陽光発電の容量に応じた蓄電池容量を算出することができ、システム設計上、優位となる。
【0054】
なお、本発明は太陽光発電の場合のみならず、風力発電等の電力平準化にも適用可能であることは当然である。