【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第5650回QCサークル全国大会 開催日:平成26年12月11日・12日 刊行物名:第5650回QCサークル全国大会体験事例要旨集 発行者名:QCサークル本部 発行日:平成26年12月11日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記研削部材の鉛直方向下側に、前記研削部材により削り取られた錆を収容可能な収容部をさらに有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のトロリー線清掃装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1のトロリー線清掃装置100では、上述したようにモータ101を設ける必要があり、清掃装置自体が大型化してしまう。電動走行クレーンなどの移動体は、狭い工場内で使用されることが多く、このような大型の清掃装置を移動体に連結して使用することが難しい。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、別に駆動装置を利用することなく、移動体の駆動力のみを利用して、コンパクトで効率的に錆を削り取ることが可能なトロリー線清掃装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のトロリー線清掃装置は、トロリー線に沿って移動する移動体に取り付けられ、前記トロリー線に当接して前記トロリー線の表面に生成した錆を削り取るトロリー線清掃装置であって、前記移動体に取り付けられる基部と、前記基部に取り付けられ、前記基部から前記トロリー線に向かって、前記移動体の移動方向側に、前記トロリー線の軸線方向に対して傾斜して延びる研削部材とを備え、前記トロリー線と当接する前記研削部材の端部が、錆を削り取るエッジ部を有し、前記移動体が移動することにより、前記エッジ部により前記錆を削り取るように構成されることを特徴とする。
【0008】
また、前記研削部材のエッジ部が、前記トロリー線よりも軟質な金属材料により形成されることが好ましい。
【0009】
また、前記金属材料がアルミであることが好ましい。
【0010】
また、前記研削部材が、板状の研削部材であり、前記板状の研削部材が、互いに離間して略平行に隣接して複数配置され、前記隣接して配置された板状の研削部材の間に形成された空間を通って、研削部材により削り取られた錆が排出されるように構成されることが好ましい。
【0011】
また、前記基部に第2研削部材が取り付けられ、前記第2研削部材が、前記基部から前記トロリー線に向かって、前記研削部材と交差するように、前記トロリー線の軸線方向に対して傾斜して延び、前記トロリー線と当接する前記第2研削部材の端部が、錆を削り取るエッジ部を有し、前記移動体が移動することにより、前記第2研削部材のエッジ部により前記錆を削り取るように構成されることが好ましい。
【0012】
また、前記第2研削部材が、板状の第2研削部材であり、前記板状の第2研削部材が、互いに離間して略平行に隣接して複数配置され、前記隣接して配置された板状の第2研削部材の間に形成された空間を通って、第2研削部材により削り取られた錆が排出されるように構成されることが好ましい。
【0013】
また、前記基部が、前記トロリー線の軸線方向に垂直かつ水平方向に延びる回転軸を中心に回転可能に構成され、前記研削部材および前記第2研削部材を前記トロリー線側に付勢する付勢機構をさらに備えることが好ましい。
【0014】
また、前記トロリー線清掃装置が、前記基部に固定され、前記トロリー線の軸線方向における段差部において前記研削部材を誘導する誘導部材をさらに備え、前記誘導部材の前記トロリー線側の端部が、前記研削部材のエッジ部よりも、前記移動体の移動方向側に位置し、前記トロリー線と前記段差部との段差に応じて、前記トロリー線の表面から所定距離だけ離間した位置に配置され、前記誘導部材の端部が、前記移動体の移動にともなって前記段差部に当接すると、前記段差部に当接した誘導部材が、前記付勢機構の付勢力に抗して、前記トロリー線Tから離間する方向に前記基部を移動させて、前記研削部材の端部が前記段差部の段差を乗り越えるように前記研削部材を誘導することが好ましい。
【0015】
また、前記研削部材の鉛直方向下側に、前記研削部材により削り取られた錆を収容可能な収容部をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、別に駆動装置を利用することなく、移動体の駆動力のみを利用して、コンパクトで効率的に錆を削り取ることが可能なトロリー線清掃装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明のトロリー線清掃装置の一実施形態を説明する。
【0019】
図1は、トロリー線Tから電力の供給を受けて、電動走行クレーンや、電車などの電動走行車両などの移動体Cが移動する移動体システムCSの例を概略的に示している。移動体システムCSでは、移動体Cが、トロリー線Tに当接するポールコレクタやパンタグラフなどの集電装置Pを介して、図示しない電源に接続されたトロリー線Tから供給される電力により、トロリー線Tに沿って移動する。トロリー線Tは、たとえば銅などにより形成された長尺の導電体であり、イヤーなどの支持装置Hを介して建屋の天井などの取付対象Rに取り付けられ、移動体Cの移動方向CXに沿って架設される。上述したように、集電装置Pが当接するトロリー線Tの表面には、時間の経過にともなって、トロリー線Tと集電装置Pとの間の導通を阻害する錆が生成するが、本発明のトロリー線清掃装置1は、移動体Cに取り付けられ、トロリー線Tに当接して、トロリー線Tの表面に生成した錆を削り取る。
【0020】
本発明のトロリー線清掃装置1は、
図2および
図3に示されるように、移動体Cに取り付けられる基部2と、基部2に取り付けられる研削部材3および第2研削部材4とを備えている。
【0021】
基部2は、移動体Cに取り付けられ、研削部材3および第2研削部材4を保持する部材である。基部2は、
図2および
図3に示されるように、後述する付勢機構9および収容部10とともに、取付部11により移動体Cに取り付けられる。しかし、基部2は、移動体Cに取り付けられ、研削部材3および第2研削部材4を保持することができればよく、本実施形態に限定されることはなく、移動体Cに直接取り付けられてもよい。
【0022】
基部2は、特に限定されることはないが、
図2および
図4に示されるように、研削部材3が取り付けられる研削部材取付部21と、第2研削部材4が取り付けられる第2研削部材取付部22とを備えている。研削部材取付部21および第2研削部材取付部22は、ともに略矩形状の板状に形成され、互いに交差するように(詳細には、略直交するように)それぞれの端部が接続されている。基部2は、研削部材取付部21および第2研削部材取付部22が互いに接続されて、断面が略V字状の柱状に形成されている。また、基部2は、基部2の長手方向両端に設けられた互いに略平行な2つのフランジ部23、23(
図3を参照)と、研削部材取付部21および第2研削部材取付部22の間に位置し、基部2の長手方向に延びるようにフランジ部23、23に取り付けられた、両端が開口した略円筒状の軸挿通部24(
図4を参照)とを備えている。そして、基部2は、略V字状に開いた部分がトロリー線Tに面し、略V字状の断面がトロリー線Tの軸線方向TXに沿い、長手方向が、トロリー線Tの軸線方向TXに垂直な方向かつ水平方向に沿うように配置されている。そして、基部2は、後述する付勢機構9に設けられた図示しないシャフトが軸挿通部24に挿通されて、付勢機構9に回転可能に取り付けられている。ただし、基部2は、移動体Cに取り付けられ、研削部材3および第2研削部材4を保持することができれば、上述した形状に限定されることはなく、他の形状であってもよい。また、基部2の材質は、研削部材3および第2研削部材4を保持することができればいかなるものであってもよいが、強度や耐食性などの観点から、ステンレスなどの鋼材が好適に採用される。
【0023】
研削部材3および第2研削部材4は、トロリー線Tの表面に生成した錆を削り取る部材である。研削部材3は、
図4に示されるように、基部2からトロリー線Tに向かって、移動体Cの移動方向CX側に、トロリー線Tの軸線方向TXに対して傾斜して延びるように配置されている。一方、第2研削部材4は、基部2からトロリー線Tに向かって、研削部材3と交差するように、すなわち移動体Cの移動方向CXとは反対側に、トロリー線Tの軸線方向TXに対して傾斜して延びるように配置されている。より詳細には、研削部材3および第2研削部材4は、互いに略直交するように延び、トロリー線Tの軸線方向TXに垂直な方向かつ水平方向から見た時に略V字状になるように配置されている。そして、トロリー線Tと当接する研削部材3および第2研削部材4の端部31、41がそれぞれ、錆を削り取るエッジ部31a、41aを有しており、トロリー線清掃装置1は、移動体Cが移動することにより、エッジ部31a、41aにより錆を削り取るように構成されている。
【0024】
トロリー線清掃装置1は、本実施形態では研削部材3および第2研削部材4の両方を備えているが、移動体Cの移動方向CX側に配置された研削部材3だけを備えていてもよい。研削部材3が、基部2からトロリー線Tに向かって、移動体Cの移動方向CX側に、トロリー線Tの軸線方向TXに対して傾斜して延びるように配置されて、研削部材3のエッジ部31aが、移動体Cの移動にともなって、トロリー線Tの表面に当接しながら移動することにより、トロリー線清掃装置1は、トロリー線Tの表面の錆を効率的に削り取ることができる。トロリー線清掃装置1は、研削部材3だけでなく第2研削部材4もあわせて備えることにより、より効率的に錆を削り取ることができるとともに、移動体Cを移動方向CXとは反対の方向に移動させる場合にも、トロリー線清掃装置1の配置を変更する必要がなく、移動体Cを往復移動させるだけで錆を容易に削り取ることができる。
【0025】
研削部材3および第2研削部材4は、
図2〜
図4に示されるように、略矩形状の板状体であり、アルミにより形成されている。しかし、研削部材3および第2研削部材4は、基部2に取り付けられて、トロリー線Tの表面に生成した錆を削り取ることができれば、その形状や材質に限定されることはなく、柱状などの他の形状を有していてもよく、他の金属材料などにより形成されてもよい。
【0026】
研削部材3および第2研削部材4のエッジ部31a、41aは、トロリー線Tの表面に当接して、トロリー線Tの表面の錆を削り取る部位である。本実施形態のエッジ部31a、41aは、
図4に示されるように、板状に形成された研削部材3および第2研削部材4の角により構成されている。しかし、エッジ部31a、41aは、トロリー線Tの表面の錆を削り取ることができればよく、本実施形態に限定されることはなく、たとえば鋭角に尖った尖端などの他の形状を有するものであってもよいし、研削部材3および第2研削部材4とは別体として形成されて研削部材3および第2研削部材4に固定されたものであってもよい。また、エッジ部31a、41aは、錆を削り取ることができる強度を有していれば、その材質は特に限定されることはないが、トロリー線Tよりも軟質な金属材料により形成されることが好ましい。エッジ部31a、41aが、トロリー線Tよりも軟質な金属材料により形成されることにより、エッジ部31a、41aによりトロリー線Tそのものが研磨されることが抑制されるので、トロリー線Tの不要な摩耗を抑制することができ、トロリー線Tの長寿命化を図ることができる。たとえば、トロリー線Tが銅により形成されている場合には、金属材料が銅よりも軟質なアルミであることが好ましい。
【0027】
研削部材3および第2研削部材4は、
図2〜
図4に示された本実施形態では、板状の研削部材であり、板状の研削部材3および第2研削部材4がそれぞれ、互いに離間して略平行に隣接して複数配置されている。そして、
図5に示されるように、隣接して配置された板状の研削部材3、3の間、および隣接して配置された板状の第2研削部材4、4の間にはそれぞれ、空間Sが形成され(第2研削部材4、4については図示していない)、その空間Sを通って研削部材3および第2研削部材4それぞれにより削り取られた錆Oが排出される。このように研削部材3および第2研削部材4がそれぞれ複数配置されることにより、1つの研削部材3または1つの第2研削部材4で削り残した錆を他の研削部材3または第2研削部材4で削り取ることができるので、より確実に錆を削り取ることができる。さらに、複数の研削部材3、3および複数の第2研削部材4、4それぞれの間に形成された空間Sを通って錆Oが排出されることにより、複数の研削部材3、3の間および複数の第2研削部材4、4の間、特に複数のエッジ部31a、31aの間および複数のエッジ部41a、41aの間に錆Oが目詰まりするのが抑えられ、目詰まりする錆Oによりエッジ部31a、31aおよびエッジ部41a、41aが丸みを帯びることによってエッジ部31a、31aおよびエッジ部41a、41aの研削機能が低下するのが抑制される。したがって、トロリー線清掃装置1は、研削部材3および第2研削部材4がそれぞれ、離間して複数備えられることにより、長期間安定して錆を削り取ることができる。なお、研削部材3および第2研削部材4はそれぞれ、本実施形態では2つ設けられているが、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、研削部材3だけが複数で、第2研削部材4が1つだけであるなど、研削部材3および第2研削部材4それぞれの数が異なっていてもよい。
【0028】
研削部材3および第2研削部材4はそれぞれ、
図4に示されるように、取付手段7により基部2の研削部材取付部21および第2研削部材取付部22に取り付けられる。また、研削部材3および第2研削部材4がそれぞれ複数設けられる場合には、研削部材3、3の間および第2研削部材4、4の間それぞれに空間Sを形成するために、研削部材3、3の間および第2研削部材4、4の間それぞれに介挿部材8が設けられる。取付手段7および介挿部材8はそれぞれ、本実施形態では公知のボルトおよびワッシャーが用いられるが、基部2に研削部材3および第2研削部材4を取り付けることができ、研削部材3、3の間および第2研削部材4、4の間それぞれに空間Sを形成することができれば、本実施形態に限定されることはなく、接着や溶着などの他の取付手段が用いられてもよいし、単なる金属板などの他の介挿部材が用いられてもよい。
【0029】
トロリー線清掃装置1は、
図2および
図3に示されるように、研削部材3および第2研削部材4をトロリー線T側に付勢する付勢機構9をさらに備えている。研削部材3および第2研削部材4は、付勢機構9の付勢力に従ってトロリー線T側に移動可能であり、付勢機構9の付勢力に抗してトロリー線Tから離間する方向に移動可能である。さらに、基部2が、トロリー線Tの軸線方向TXに垂直かつ水平方向に延びる回転軸2Xを中心に回転可能に構成されており、これによって研削部材3および第2研削部材4は、回転軸2Xを中心に回転移動が可能である。このように研削部材3および第2研削部材4の移動の自由度が高いことによって、トロリー線Tの形状に追従して研削部材3および第2研削部材4を移動させることができるので、研削部材3および第2研削部材4のエッジ部31a、41aをトロリー線Tの表面により確実に摺接させることができ、錆をより確実に削り取ることができる。逆に、研削部材3および第2研削部材4のエッジ部31a、41aが摩耗して、研削部材3および第2研削部材4の端部31、41の形状が変化しても、その形状変化に追従して、研削部材3および第2研削部材4の端部31、41をトロリー線Tの表面により確実に摺接させることができるので、錆をより確実に削り取ることができる。
【0030】
付勢機構9は、
図2および
図3に示されるように、公知のリンク機構91および付勢部材92を備えている。そして、リンク機構91には、リンク機構91の上端に固定された図示しないシャフトが基部2の軸挿通部24(
図4を参照)に挿通され、基部2が回転可能に取り付けられている。ただし、付勢機構9は、研削部材3および第2研削部材4をトロリー線T側に付勢することができればよく、本実施形態に限定されることはなく、移動体Cに一般的に用いられるポールコレクタやパンタグラフなどの付勢機構を用いることもできるし、リンク機構91を含まず付勢部材92のみによって構成されるものであってもよい。また、本実施形態のように移動体Cに取り付けられた付勢機構9に基部2が取り付けられてもよいし、逆に、移動体Cに回転可能に取り付けられた基部2に付勢機構9が取り付けられてもよい。
【0031】
トロリー線清掃装置1は、
図2〜
図4に示されるように、基部2に固定される誘導部材5および第2誘導部材6をさらに備えている。誘導部材5は、
図6および
図8に示されるように、トロリー線Tの軸線方向TXにおける、たとえば支持装置Hなどにより生じた段差部U、U’において研削部材3を誘導する部材である。誘導部材5のトロリー線T側の端部51は、
図7および
図9に示されるように、研削部材3のエッジ部31aよりも、移動体Cの移動方向CX側に位置し、トロリー線Tと段差部U、U’との段差h1、h2、h1’に応じて、トロリー線Tの表面から所定距離h3だけ離間した位置に配置されている。一方、第2誘導部材6は、図示しないが、移動体Cが移動方向CXとは反対方向に移動したときに、トロリー線Tの軸線方向TXにおける段差部において第2研削部材4を誘導する部材である。第2誘導部材6のトロリー線T側の端部61は、第2研削部材4のエッジ部41aよりも、移動体Cの移動方向CXとは反対側に位置し、トロリー線Tと段差部との段差に応じて、トロリー線Tの表面から所定距離だけ離間した位置に配置されている。
【0032】
ここで、異なる2つの種類の段差部U、U’を例にあげ、誘導部材5が研削部材3を誘導する機構を
図5〜
図9を用いて詳細に説明する。なお、移動体Cが移動方向CXと反対の方向に移動するときの、第2誘導部材6の構成や、第2誘導部材6が第2研削部材4を誘導する機構は、移動体Cが移動方向CXに移動するときの、上述した誘導部材5の構成や、誘導部材5が研削部材3を誘導する、以下で説明する機構と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0033】
図6に示された段差部Uは、トロリー線Tに対して略垂直に延びる壁部Uwと、壁部Uwの先端から移動体Cの移動方向CXに段差が大きくなるように延びるテーパー段部Utとを有している。この例では、まず、移動体Cが段差の無いトロリー線Tに沿って移動している際には、研削部材3のエッジ部31aがトロリー線Tの表面に当接しながら移動する(
図6(a))。つぎに、移動体Cの移動にともなって、研削部材3のエッジ部31aが段差部Uに近接すると、研削部材3のエッジ部31aの移動方向CX前方に位置する誘導部材5の端部51が段差部Uのテーパー段部Utに当接する(
図6(b))。ここで、例示された誘導部材5の端部51は、トロリー線Tの表面から離間した距離h3が、段差部Uの壁部Uwの段差h1(トロリー線Tの表面からの距離)よりも大きく、段差部Uのテーパー段部Utの最大段差h2(トロリー線Tの表面からの距離)よりも小さくなるように配置されているので(
図7を参照)、誘導部材5の端部51は、研削部材3の端部31が段差部Uの壁部Uwに当接する前に、段差部Uのテーパー段部Utに当接する(
図6(b))。移動体Cがトロリー線Tに沿ってさらに移動すると(
図6(b)から
図6(c))、誘導部材5の端部51は、テーパー段部Utのテーパー面に案内されて、図中の左下方向に移動する。このとき、基部2および研削部材3は、誘導部材5のこの移動にともなって、図中の反時計方向(移動方向M1)に回転すると同時に、図中の下方向(移動方向M2)に移動する。その結果、移動体Cがトロリー線Tに沿ってさらに移動すると、研削部材3の端部31が、段差部Uの壁部Uwの段差h1を乗り越え、研削部材3のエッジ部31aが、段差部Uのテーパー段部Utに当接する(
図6(c))。つまり、段差部Uのテーパー段部Utに当接した誘導部材5が、付勢機構9の付勢力に抗して、トロリー線Tから離間する方向に基部2を移動させて、研削部材3の端部31が段差部Uの壁部Uwの段差h1を乗り越えるように研削部材3を誘導する。壁部Uwの段差h1を乗り越えた研削部材3の端部31は、移動体Cの移動にともなって、テーパー段部Utのテーパー面に沿って移動して、最終的にテーパー段部Utの最大段差h2を乗り越える。
【0034】
つぎに、
図8を用いて、もう一つの種類の段差部U’において誘導部材5が研削部材3を誘導する機構を説明する。
図8に示された段差部U’は、トロリー線Tに対して略垂直に延びる壁部Uw’と、壁部Uw’の先端から移動体Cの移動方向CXに段差が一定に延びる平坦部Upとを有している。この例では、まず、移動体Cが段差の無いトロリー線Tに沿って移動している際には、研削部材3のエッジ部31aがトロリー線Tの表面に当接しながら移動する(
図8(a))。さらに移動体Cがトロリー線Tに沿って移動すると、研削部材3の端部31が、段差部U’の壁部Uw’に当接する(
図8(b))。このとき、例示された誘導部材5の端部51は、トロリー線Tの表面から離間した距離h3が、段差部U’の壁部Uw’の段差h1(トロリー線Tの表面からの距離)よりも大きくなるように配置されているので(
図9を参照)、この時点で誘導部材5の端部51が段差部U’に当接することはない(
図8(b))。さらに移動体Cがトロリー線Tに沿って移動すると(
図8(b)から
図8(c))、研削部材3の端部31と段差部U’の壁部Uw’との当接箇所が支点となって、基部2が図中の時計方向に回転する。基部2が図中の時計方向に回転すると、誘導部材5の端部51が段差部U’の平坦部Upに当接して、今度は誘導部材5の端部51と段差部U’の平坦部Upとの当接箇所が支点となって、基部2および研削部材3が、図中の時計方向(移動方向M3)に回転すると同時に、図中の下方向(移動方向M4)に移動する。その結果、移動体Cがトロリー線Tに沿ってさらに移動すると、研削部材3の端部31が、段差部U’の壁部Uw’の段差h1’を乗り越え、研削部材3のエッジ部31aが、段差部U’の平坦部Upに当接する。つまり、この段差部U’の場合には、段差部U’の平坦部Upに当接した誘導部材5が、付勢機構9の付勢力に抗して、トロリー線Tから離間する方向に基部2を移動させて、研削部材3の端部31が段差部U’の壁部Uw’の段差h1’を乗り越えるように研削部材3を誘導する。研削部材3の端部31が段差部U’の壁部Uw’の段差h’を乗り越えて、研削部材3のエッジ部31aが段差部U’の平坦部Upの表面に当接した後は、研削部材3のエッジ部31aと段差部U’の平坦部Upとの当接箇所を支点として、付勢機構9の付勢力により基部2が図中の反時計方向に回転して、第2研削部材4のエッジ部41aがトロリー線Tの表面に当接する。
【0035】
なお、第2研削部材6については、図面を用いた詳細な説明は省略するが、段差部U、U’のいずれの場合にも、研削部材3の端部31が段差部U、U’の段差を乗り越えた後、移動体Cが移動方向CXにさらに移動すると、第2研削部材4の側面または端部41が、段差部U、U’に当接し、段差部U、U’から受ける反力により
図6、
図8中の時計方向に回転しながら段差部U、U’に沿って移動することにより、段差部U、U’の段差h1、h2、h1’を容易に乗り越えることができる。
【0036】
以上に示してきたように、トロリー線Tに段差部U、U’があるような場合でも、誘導部材5が、研削部材3の端部31が段差部U、U’の段差h1、h1’を乗り越えるように研削部材3を誘導するので、研削部材3による錆の削り取りがスムーズに行なわれるとともに、研削部材3の端部31が、段差部U、U’の壁部Uw、Uw’から大きな衝撃を受けて摩耗するのを抑制することができる。したがって、本実施形態のトロリー線清掃装置1によれば、トロリー線Tに段差部U、U’があっても、長期間にわたって安定して、トロリー線Tの表面の錆を効率よく削り取ることができる。さらに、トロリー線清掃装置1は、研削部材3だけでなく第2研削部材4もあわせて備えることにより、トロリー線Tに段差部U、U’があるような場合でも、より効率的に錆を削り取ることができる。また、移動体Cを移動方向CXとは反対の方向に移動させる場合にも、第2誘導部材6が、第2研削部材4の端部41が段差部の段差を乗り越えるように第2研削部材4を誘導するので、トロリー線清掃装置1の配置を変更する必要がなく、移動体Cを往復移動させるだけで錆を容易に削り取ることができる。
【0037】
ここで、誘導部材5および第2誘導部材6はそれぞれ、
図2〜
図4に示された本実施形態では、略矩形状の板状に形成され、研削部材3および第2研削部材4と略平行になるように、取付手段7により研削部材3および第2研削部材4とともに基部2に取り付けられている。しかし、誘導部材5および第2誘導部材6はそれぞれ、その端部51、61が、研削部材3および第2研削部材4のエッジ部31a、41aよりも、移動体Cの移動方向CX側およびその反対側に位置し、かつトロリー線Tの表面から所定距離h3だけ離間した位置に配置されるように基部2に取り付けられ、研削部材3および第2研削部材4の端部31、41が段差部U、U’の段差h1、h1’を乗り越えるように研削部材3および第2研削部材4を誘導することができればよく、たとえば柱状などの他の形状に形成されていてもよいし、接着や溶着などの他の方法で基部2に取り付けられてもよい。また、誘導部材5および第2誘導部材6の端部51、61は、本実施形態では研削部材3および第2研削部材4の端部31、41と同様にエッジ部を有しているが、その形状は特に限定されることはなく、たとえば段差部U、U’に当接した際に段差部U、U’上を容易に摺動できるように、湾曲した形状を有していてもよい。
【0038】
誘導部材5および第2誘導部材6の端部51、61のそれぞれがトロリー線Tの表面から離間する距離h3は、研削部材3および第2研削部材4の端部31、41のそれぞれが段差部U、U’の段差h1、h1’を乗り越えるように、誘導部材5および第2誘導部材6がそれぞれ研削部材3および第2研削部材4を誘導することができるように、トロリー線Tと段差部U、U’との段差h1、h2、h1’に応じて予め設定することができる。たとえば、誘導部材5を例に説明すると、
図6および
図7に示されるように、段差部Uがテーパー状に形成されている場合には、誘導部材5の端部51が、段差部Uの壁部Uwの段差h1を容易に乗り越え、段差部Uのテーパー段部Utのテーパー面に案内されるように、距離h3は、段差h1以上で、段差h2以下に設定することができる。あるいは、
図8および
図9に示されるように、段差部U’が平坦に形成されている場合には、誘導部材5の端部51が、段差部U’の壁部Uw’の段差h1’を容易に乗り越えるように、距離h3は、段差h1’以上に設定することができる。また、いずれの段差部U、U’の場合にも、距離h3を段差h1、h1’と略同一に設定することにより、誘導部材5の端部51の段差部U、U’への当接を素早く行ない、研削部材3の誘導をより確実にすることもできる。ただし、誘導部材5(第2誘導部材6)の端部51(61)がトロリー線Tの表面から離間する距離h3は、誘導部材5(第2誘導部材6)が研削部材3(第2研削部材4)を誘導することができるように設定され、かつ、研削部材3(第2研削部材4)の端部31(41)が段差部U、U’の壁部Uw、Uw’に当接して、その当接箇所を支点として基部2が回転したときに、その後に研削部材3(第2研削部材4)のエッジ部31a(41a)と段差部U、U’との当接箇所を支点として、第2研削部材4(研削部材3)のエッジ部41a(31a)がトロリー線Tの表面に当接するまで、基部2が付勢機構9の付勢力によって反対方向に回転して戻ることができる回転位置まで、基部2が回転する前に、誘導部材5(第2誘導部材6)の端部51(61)が段差部U、U’に当接するような距離に設定されればよく、いかなる値であっても構わない。
【0039】
誘導部材5および第2誘導部材6はそれぞれ、本実施形態ではアルミ板であるが、誘導部材5および第2誘導部材6の端部51、61が、段差部U、U’に当接して、付勢機構9の付勢力に抗して、トロリー線Tから離間する方向に基部2を移動させて、研削部材3および第2研削部材4を誘導することができる強度を有していれば、その材質は、特に限定されることはない。ただし、誘導部材5および第2誘導部材6の端部51、61は、段差部U、U’に当接した時に段差部U、U’そのものが研磨されることを抑えるという観点から、段差部U、U’よりも軟質な金属材料により形成されることが好ましい。たとえば、段差部U、U’が銅により形成されている場合には、その金属材料は銅よりも軟質なアルミであることが好ましい。
【0040】
なお、トロリー線清掃装置1はさらに、
図2および
図3に示されるように、研削部材3の鉛直方向下側に、研削部材3により削り取られた錆を収容可能な収容部10をさらに有していてもよい。このようにトロリー線清掃装置1が収容部10を有することにより、削り取られた錆を他に散らすことなく集められるので、あらためてトロリー線Tの周辺を掃除する必要がないだけでなく、人体に悪影響を及ぼすことがない。
【0041】
また、トロリー線清掃装置1は、本実施形態では取付部11を介して移動体Cの上壁に取り付けられているが、移動体Cおよびトロリー線Tの互いの配置関係に応じて、移動体Cの側壁や底壁に取り付けられてもよく、取り付けられる位置は特に限定されない。