特許第6404808号(P6404808)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404808
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】物品の分解方法
(51)【国際特許分類】
   B02C 19/18 20060101AFI20181004BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20181004BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   B02C19/18 ZZAB
   B09B3/00 Z
   B09B5/00 C
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-239598(P2015-239598)
(22)【出願日】2015年12月8日
(65)【公開番号】特開2017-104796(P2017-104796A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】秦 裕一
(72)【発明者】
【氏名】内海 省吾
(72)【発明者】
【氏名】松田 源一郎
(72)【発明者】
【氏名】浪平 隆男
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−037622(JP,A)
【文献】 特開2000−246132(JP,A)
【文献】 特表2014−532548(JP,A)
【文献】 特開2006−051441(JP,A)
【文献】 特表2013−503096(JP,A)
【文献】 特開2003−334464(JP,A)
【文献】 特開平10−180133(JP,A)
【文献】 米国特許第04540127(US,A)
【文献】 特開2007−080769(JP,A)
【文献】 国際公開第02/092499(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/005562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 19/18
B09B 3/00−5/00
B01J 19/08
H05H 1/24
H01T 14/00
H01T 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中で複数回放電を行うことにより基板もしくは前記基板を含む物品を分解する物品の分解方法であって、
液体を保持する容器と、前記容器内の前記液体中に正電極とアース電極とを有し、かつ前記液体中の前記正電極と前記アース電極間の放電経路若しくは放電によって発生する衝撃波が伝播する領域に前記基板もしくは前記基板を含む物品を設置した状態で、
前記正電極と前記アース電極との少なくとも一方を初期位置へ移動させた後、
放電電流の波形の幅が1μs以上9μs以下となる条件で放電を行い、
放電時に前記放電経路を流れる放電電流のピーク値を計測し
前記放電電流のピーク値が、10kA以上、30kA以下の範囲で、所定の範囲に収まっているかを判定し、
前記放電電流のピーク値が所定の範囲に収まっている場合は、同じ放電条件で次の放電を行い、
前記放電電流のピーク値が所定の値を下回った場合は、前記電極間の距離を近づけるかまたは前記放電電圧を上げるかの少なくとも一方を行って次の放電を行い
前記放電電流のピーク値が所定の値を上回った場合は、前記電極間の距離を遠ざけるかまたは前記放電電圧を下げるかの少なくとも一方を行って次の放電を行うことを、
あらかじめ設定した放電回数に到達するまで繰り返す、
品の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中においてパルスパワー放電を起こすことにより、基板もしくは基板を含む物品を分解する物品の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済み家電製品などをリサイクルするためには、多様な作業が必要である。解体では、多種多様な形態のビス止め部や半田付け部などを個別に分解する必要が有るため、自動化が困難であり、作業者による手解体が主流となっている。手解体により、作業の柔軟性は確保されるものの、作業効率が低いため、多種多様な使用済み家電製品を自動的かつ効率的に解体する方法が求められている。
【0003】
特許文献1には、液体を満たした反応容器中に、バッテリー、ヒューズなどのセラミック部品、コンピュータ構成要素部品、コンデンサなどのリサイクル対象品を静置し、液体中に設けた複数の電極ロッドと容器基板間でパルス放電を発生させることでプラスチック製の外装などを破壊する方法が記載されている。
【0004】
図9は、特許文献1に示されている従来の物品の分解装置の構成を示す図である。装置101はリサイクル材料を収容するための、液体で満たされた容器102を含む。示されている容器102は、特に簡単な実施形態において、例えばステンレス鋼からなる容器本体103を有し、容器本体103は、カバー側(上側)フランジ及び底側(下側)フランジと、容器カバー104a及び容器基板104bとを含む。3つの電極105は、好ましくは互いに等距離に、容器カバー104aに挿入または一体化されている。電極105は垂直方向の延伸部分、すなわち、容器本体103の円筒状の壁と実質的に平行である延伸部分を有する。容器カバー104a及び容器基板104bは、周囲に均一に分散された多数の接続部によって、容器本体103の対応するフランジに接続される。コンデンサ107は、抵抗器109を介して、充電器108によって充電される。電極105は、アースまたは大地電位に接続された高電圧開閉装置106a及び安全開閉装置切断器106bを介してコンデンサ107と接続される。コンデンサ107と電極105とが接続されることでパルス放電が発生し、液体媒体に導入されるリサイクル対象品はパルス放電によって分解される。この際、高電圧パルスを所定の繰返し数以内及び所定の時間間隔で複数回印加(以下、連続放電と略す)し、分解を進める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014−532548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、連続放電によって処理を進める際、一定放電条件で分解処理を進めるため、処理に伴う周辺の液体の電気伝導度の変化と処理物の形状との変化によって、リサイクル対象品に加わるエネルギーが連続放電の前と連続放電中で異なってしまい、処理後の処理物に未分解や過度の分解が発生する。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、分解処理中の液体の電気伝導度の変化と処理物の形状の変化とに対応するように、一定回数の放電で物品の分解を可能とする物品の分解方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の物品の分解方法は、液体中で複数回放電を行うことにより基板もしくは前記基板を含む物品を分解する物品の分解方法であって、
液体を保持する容器と、前記容器内の前記液体中に正電極とアース電極とを有し、かつ前記液体中の前記正電極と前記アース電極間の放電経路若しくは放電によって発生する衝撃波が伝播する領域に前記基板もしくは前記基板を含む物品を設置した状態で、
前記正電極と前記アース電極との少なくとも一方を初期位置へ移動させた後、
放電電流の波形の幅が1μs以上9μs以下となる条件で放電を行い、
放電時に前記放電経路を流れる放電電流のピーク値を計測し
前記放電電流のピーク値が、10kA以上、30kA以下の範囲で、所定の範囲に収まっているかを判定し、
前記放電電流のピーク値が所定の範囲に収まっている場合は、同じ放電条件で次の放電を行い、
前記放電電流のピーク値が所定の値を下回った場合は、前記電極間の距離を近づけるかまたは前記放電電圧を上げるかの少なくとも一方を行って次の放電を行い
前記放電電流のピーク値が所定の値を上回った場合は、前記電極間の距離を遠ざけるかまたは前記放電電圧を下げるかの少なくとも一方を行って次の放電を行うことを、
あらかじめ設定した放電回数に到達するまで繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の前記態様により、分解処理中の液体の電気伝導度の変化と処理物の形状の変化とに対応するように一定回数の放電で物品の分解を可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態においてパルスパワー放電を用いる物品の分解装置の概略図
図2】パルスパワー放電を用いる物品の分解において放電電極間の距離を変更することで放電電流ピーク値を一定にする工程図
図3】パルスパワー放電を用いる物品の分解において放電電圧を変更することで放電電流ピーク値を一定にする工程図
図4】放電電流ピーク値を変更したときの基板からの部品の分離と基板の分解の評価結果を示す図
図5】放電電流ピーク値と放電回数を変更したときの樹脂ケースの分解、基板からの部品の分離と、基板の分解の評価結果を示す図
図6】パルスパワー放電において電圧と電極間距離が及ぼす放電電流ピーク値への影響を示す図
図7】放電電流の幅を変更したときの基板からの部品の分離と樹脂ケースの分解、樹脂ケースの過分解の評価結果を示す図
図8】物品移動保持機構を有するパルスパワー放電を用いる物品の分解装置の概略図
図9】従来のパルスパワー放電を用いる物品の分解装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態にかかる物品の分解装置及び分解方法は、液体中に静置された電極間でパルス放電を発生させ、放電、もしくは放電により誘起された衝撃波を利用して物品の分解を行うというものである。
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態の実施の形態について説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の物品の分解装置の一様態を表す。
【0015】
物品分解装置1は、液体2を保持した例えば満たした容器3と、液体2中で互いに間隔をあけて対向して配置される正電極4及びアース電極5と、正電極4に高電圧パルスを印加するパルス電源6と、放電電流を測定(計測)する電流計7と、少なくとも正電極4を上下方向に移動させる電極間距離調整機構8とを備える。アース電極5は接地されている。電極間距離調整機構8は放電条件調整装置の一例として機能する。
【0016】
物品9は分解処理する対象物であり、正電極4とアース電極5との間の液体2中に保持される。図1では、アース電極5上に載置しているが、支持手段により電極4又は5に接しないように支持してもよい。
【0017】
制御部10は、パルス電源6と、電流計7と、電極間距離調整機構8とに接続される。制御部10は、電極間距離調整機構8を制御して、正電極4とアース電極5との間の距離(電極間距離)を調整する。
【0018】
パルス電源6は、任意の電圧を印加できる。一例として、パルス電源6にはマルクス発生器を用いることができる。放電は、正電極4とアース電極5との間に生じる。そして正電極4とアース電極5との間に保持された物品9は、放電もしくは放電により誘起された衝撃波により分解される。
【0019】
正電極4の形状及びアース電極5の形状について、図1では正電極4の先端を円錐形状とし、アース電極5を平板状で例示しているが、放電が起これば分解が進むため、物品9の形状、若しくは材料、又は、分解後に目的とする形状に合わせて、多様な形態が適用できる。アース電極5は、例えば平板状以外に、網状、格子状、渦巻き状などであってもよい。
【0020】
また、正電極4とアース電極5との位置は、図1では物品9を挟むように対向させて設置しているが、それぞれ少なくとも1つあり、その正電極4とアース電極5との間の最も近い距離が100mmよりも小さければ液体中で放電が起こるため、電極の位置は問わない。例えば、正電極4とアース電極5とを物品9の上方に設置したりしても良い。また、正電極4とアース電極5とのそれぞれの数も、一方もしくは両方が複数本存在しても良い。また、放電の発生は、正電極4とアース電極5とのそれぞれの先端の方向にほとんど影響されないため、これらの方向も問わない。
【0021】
正電極4及びアース電極5に対する物品9の位置は、液体中の電極4,5間の放電経路上か、もしくは放電によって発生する衝撃波が伝播する領域に存在させれば分解が進むため、必ずしも物品9を正電極4もしくはアース電極5に接触させたり、電極4,5間に存在させたりする必要は無い。
【0022】
電極間距離調整機構8は、正電極4とアース電極5との間の距離を移動変更できる機構である。図1では、電極間距離調整機構8として、正電極4の高さを変更できる機構を示すが、アース電極5の高さを変更する機構であっても良い。移動距離は、処理対象の物品9の大きさ又は放電条件にも依存するので、一概に特定できないが、移動ストロークの一例として、液体2の電気伝導度の大幅な変化にも対応できるよう、本設備構成にて液体中でパルス放電を発生させられる上限である100mmまで移動できる構成としている。また、移動精度の一例としては、基板から電子部品が剥離した際に生じる、電極と処理物との間の距離の変化に追従できるようにするため、電子部品の厚さである1mm以下としている。
【0023】
分解対象の物品9としては、特に特定されないが、放電による衝撃波の効果を全体に均等に及ぼすためには、薄型の物品が好ましい。例えば、携帯電話、ゲーム機、もしくは薄型テレビなどの電気製品、電子基板、又は、太陽電池などが挙げられる。上記の物品9の分解装置の構成により、液体2の電気伝導度の変化と分解に伴う物品9の形状変化とに合わせるように、電流計7で計測された放電電流が一定になるように調整が可能となる。
【0024】
図2は、液体中に少なくとも正電極4及びアース電極5を備え、液体中の電極4,5間の放電経路上もしくは放電によって発生する衝撃波が伝播する領域に基板もしくは基板を含む物品9を設置し、正電極4から複数回放電させる事によって物品9を分解する際に、放電電流のピーク値が、基板もしくは基板を含む物品9から基板上の部品を破壊することなく部品を分解できる所定の範囲の値で一定になるように、放電電極4,5間の距離を変更する工程を表す図である。なお、放電電流のピーク値は、放電動作時に流れる電流の最大値のことである。電流最大値は、条件によってはノイズ成分を除去して設定しても良い。基板もしくは基板を含む物品9から基板上の部品を破壊することなく部品を分解できる放電電流のピーク値は、後で詳細を述べる。
【0025】
上記の工程は、
電極4又は5の位置を初期位置へ移動させるステップS001と、
任意の放電電圧と放電電流の立ち上がりからゼロ電位に戻るまでの時間である放電電流の幅(以下、パルス幅と略す)で放電させるステップS002と、
上記ステップS002後の放電回数の合計値が、あらかじめ設定した目標放電回数に到達しているかを制御部10で判定するステップS003と、
上記ステップS002の放電の放電電流ピーク値が、所定の範囲に収まっているかを制御部10で判定するステップS004と、
上記ステップS002の放電の放電電流ピーク値が、所定の値を下回っているかを制御部10で判定するステップS005と、
上記ステップS005で放電電流ピーク値が、所定の値を下回った際に電極間距離を制御部10の制御の下に電極間距離調整機構8で狭めるステップS006と、
上記ステップS005で放電電流ピーク値が所定の値未満でない場合に制御部10の制御の下に電極間距離調整機構8で電極間距離を広げるステップS007との7個のステップで構成される。
【0026】
まず、ステップS001で、電極4又は5の位置を初期位置へ移動させる。電極を移動させる初期位置は、放電電流のピーク値が所定の値を超えず、なおかつ放電が起こる範囲であればよい。
【0027】
次いで、ステップS002で、任意の放電電圧と放電電流の立ち上がりからゼロ電位に戻るまでの時間である放電電流の幅(以下、パルス幅と略す)で放電させる。放電の電圧とパルス幅とは、好ましくは処理物の材質又は硬さ、又は目標とする分解状態と放電回数を踏まえて、あらかじめ見出した条件が好ましい。特に、好ましいパルス幅については、詳細を後に述べる。
【0028】
次いで、ステップS003で、上記ステップS002後の放電回数の合計値が、あらかじめ設定した目標放電回数に到達しているかを制御部10で判定する。放電回数の合計値が、あらかじめ設定した目標放電回数に到達していると制御部10で判定すると、処理を終了する。放電回数の合計値が、あらかじめ設定した目標放電回数に到達していないと制御部10で判定すると、ステップS005に進む。任意の目標放電回数は、回数が少ないと基板もしくは基板を含む物品9が十分に分解されず、逆に回数が多いと基板もしくは基板を含む物品9が細かい粉塵等が発生し、液体の浄化などの処理が必要になるため、適した放電回数をあらかじめ見出しておくことが好ましい。
【0029】
ステップS004において上記ステップS002の放電の放電電流ピーク値が、所定の値を下回っているか、すなわち、所定の範囲に収まっているかを制御部10で判定する。放電電流ピーク値が所定の範囲に収まっていないと制御部10で判定する場合、ステップS005に進む。放電電流ピーク値が所定の範囲に収まっていると制御部10で判定する場合、ステップS002に戻る。
【0030】
ステップS005において、放電電流ピーク値が所定の値未満かどうか、すなわち、所定の範囲に収まっているかを制御部10で判定する。放電電流ピーク値が、所定の範囲に収まっていると制御部10で判定する場合、ステップS006に進む。放電電流ピーク値が、所定の範囲に収まっていないと制御部10で判定する場合、ステップS007に進む。
【0031】
ステップS006にて、制御部10の制御の下に電極間距離調整機構8により、正電極4及びアース電極5間の距離を狭める。電極4,5を接近させることで、放電電流間の抵抗が下がるため、放電電流ピーク値が上がり、次の放電が所定の範囲に収まる可能性が高まる。
【0032】
ステップS006の後、再度、ステップS002に戻り、放電を実施する。なお、放電電流のピーク値の測定は、放電電極間以外に回路の一部を流れる電流、例えばアース電極とGNDの間の配線を流れる電流などを測定しても良い。
【0033】
一方、ステップS005において、放電電流ピーク値が所定の値未満でない(所定の範囲に収まっていない)と制御部10で判定する場合、ステップS005の前に実施するステップS004の判定を踏まえると、放電電流ピーク値が所定の値を上回っていることになるため、放電電流ピーク値を下げるために、ステップS007で、制御部10の制御の下に電極間距離調整機構8により、電極間距離を広げる。電極間距離を広げることで、電極間の抵抗が上がるため、放電電流のピーク値を下げることができる。上記ステップS007の後、再度、放電ステップS002に戻り、放電を行う。
【0034】
この図2のように処理することにより、放電電流ピーク値を所定の範囲内で一定に保つことができる。
【0035】
図3は、液体中に少なくとも正電極4及びアース電5を備え、液体中の電極間の放電経路上もしくは放電によって発生する衝撃波が伝播する領域に基板もしくは基板を含む物品を液体中に設置し、電極から複数回放電させる事によって物品9を分解する際に、放電電流のピーク値が所定の範囲内で一定になるように、パルス電源6により放電電圧を変更する工程を表す図である。ここでは、パルス電源6は、放電条件調整装置の一例、例えば放電電圧調整機構として機能する。
【0036】
ステップS001からステップS005のステップの処理内容は、図1と同じであるため、詳細な説明は省略する。ステップS005で放電電流ピーク値が所定の値未満(所定範囲内)であると制御部10で判定する場合、制御部10の制御の下にパルス電源6により電圧を上げるステップS008を実施する。電圧を上げることで、同じ電極間距離であっても放電時の電流が増え、放電電流ピーク値を上げることができる。ステップS008の後、放電するステップS002を再度実施する。
【0037】
ステップS005で放電電流ピーク値が所定の値未満(所定範囲内)ではないと制御部10で判定する場合、放電電流ピーク値を下げるためにステップS009にて制御部10の制御の下にパルス電源6により電圧を下げる。その後、放電するステップS002を再度実施する。
【0038】
このように図3の処理を行うことにより、放電電流ピーク値を所定の範囲内で一定に保つことができる。
【0039】
次に、基板を破砕することなく基板から部品を分離できる、放電電流ピーク値について説明する。
【0040】
部品がはんだ付けで実装された基板について、図1に示す物品の分解装置を用いて分解処理試験を行った。
【0041】
物品9の製作条件を以下に記載する。
【0042】
製作条件としては、基板上に、部品として16ピンのIC素子の16ピンすべてを基板にはんだ付けし、はんだ強度が1kgf/個となるようにした基板を用いた。このときの実装後の素子の高さは5mmにした。この条件で一つの基板上に5個のIC素子を実装した。
【0043】
一例として、物品9を、図1に示す装置にて、放電電圧250kV、パルス周波数1Hz、パルス回数10回で放電させて分解した。放電電流ピーク値は、正電極4とアース電極5間の距離を変更する事により、7kAから34kAの間の任意の値で一定に保持した。物品9はアース電極5上に載置した状態で処理した。
【0044】
上記分解処理試験の評価は、試験後の個々の物品に対して、基板からのIC素子の分離と、基板の分解の2つの観点で評価した。図4は、この実験により、放電電流ピーク値を変更したときの基板からのIC素子の分離と基板の分解の評価結果である。図4において、基板からのIC素子の分解は、放電後に5個のIC素子が全て基板から分離した場合を「○」とし、分離しなかった場合を「×」で示す。また基板の分解については、基板が2つ以上の破片に分解しなかった場合を「○」2つ以上の破片に分解した場合を「×」で示す。なお分解処理試験で物品9は分解されてしまうため、1〜9の実験条件ごとに、同一条件で製作した物品9を1つずつ使用し、上記分解処理試験で合計9個の物品を用いた。
【0045】
図4から、放電電流ピーク値が10kA以上30kA以下のときに、基板を分解することなく基板から部品を分離できることがわかる。
【0046】
次に、基板を含む物品、例えば樹脂ケース内に部品がはんだ付けされている基板が固定されている物品から、基板を分解することなく、基板から部品を分離できる放電電流ピーク値について説明する。
【0047】
基板を含む物品について図1に示す物品の分解装置を用いて分解処理試験を行った。
【0048】
物品9の製作条件を以下に記載する。
【0049】
製作条件としては、下記試料1及び試料2の二種類の試料で製作している。試料1は、50×100×t30mmの大きさのABS樹脂ケース内に基板をネジ止めして設置し、基板を設置したABSケースの蓋は4箇所のネジ止めによって固定した。基板は、部品として16ピンのIC素子の16ピンすべてを基板にはんだ付けし、はんだ強度が1kgf/個となるようにしたものを用いた。このときの実装後の素子の高さは5mmにした。この条件で一つの基板上に5個のIC素子を実装した。
【0050】
試料2は、50×100×t30mmの大きさのABS樹脂ケース内に、上記試料1で用いたものと同じ基板をネジ止めして設置し、基板を設置したABSケースの蓋は嵌め合いで固定した。
【0051】
上記処理物を、図1に示す装置にて、放電電圧250kV、パルス周波数1Hzで放電させて分解した。放電電流ピーク値は、正電極4とアース電極5間の距離を変更する事で、8kAから34kAの範囲の任意の値で一定に保持した。物品9はアース電極5上に載置した状態で処理した。
【0052】
パルス回数は30回と50回の2種類の分解処理を実施した。実験条件1〜7がパルス回数30回の条件であり、実験条件8〜14がパルス回数50回の条件であり、合計14条件で実験を行った。
【0053】
各条件では、物品9の分解処理が進むにつれ、樹脂ケースの分解、基板からの部品の分離、基板の分解が順次、または条件によっては同時に起こる。
【0054】
上記分解処理試験の評価は、試験後の個々の物品に対して、樹脂ケースの分解と、基板からのIC素子の分解と、基板の分解の3つの観点で評価した。図5は放電電流ピーク値と放電回数を変更したときの樹脂ケースの分解と、基板からのIC素子の分離と、基板の分解の評価結果である。
【0055】
樹脂ケースの分解については、樹脂ケースの蓋がケースから分離したものを「○」分離しなかったものを「×」で示す。基板からのIC素子の分離は、放電後に5個のIC素子が全て基板から分離した場合を「○」とし、分離しなかった場合を「×」で示す。樹脂ケースが分解しなかった場合は、上記ABSケースの蓋を外し、内部の基板の状態を確認して評価した。
【0056】
また基板の分解については、基板が2つ以上の破片に分解しなかった場合を「○」2つ以上の破片に分解した場合を「×」で示す。樹脂ケースが分解しなかった場合は、上記ABSケースの蓋を外し、内部の基板の状態を確認して評価した。
【0057】
なお、分解処理試験で物品9は分解されてしまうため、1〜14の実験条件ごとに、同一条件で製作した試料1及び試料2を各1つずつ使用し、上記分解処理試験で合計28個の物品を用いた。
【0058】
図5から、樹脂ケースの破壊には放電電流ピーク値の影響が無く、分解しなかった樹脂ケースもパルス回数を増やせば分解できることが分かる。一方で放電電流ピーク値が10kA以上30kA以下であれば、基板を分解することなく、基板からICを分離できることがわかる。
【0059】
次に、電極間距離及び放電電圧が及ぼす放電電流ピーク値への影響について説明する。
【0060】
図1に示す物品の分解装置を用いて影響を検証した。ただし、物品9は存在しない状態で検証した。
【0061】
液体2は水道水を用い、放電した際の放電電流ピーク値を測定した。
【0062】
正電極4とアース電極5間の距離は、10、20、30mmとした。
【0063】
放電電圧は100、230、350kVとした。
【0064】
図6に結果を示す。図6はパルスパワー放電において電圧と電極間距離が及ぼす放電電流ピーク値への影響を示すグラフである。この図から、正電極4とアース電極5間の距離と放電電圧により放電電流ピーク値が制御できる。電極間距離を広げると放電電流ピーク値を下げる事ができ、逆に電極間距離を狭めると放電電流ピーク値を上げる事ができる。また放電電圧を上げると放電電流ピーク値を上げる事ができ、逆に放電電圧を下げると放電電流ピーク値を下げる事ができる。
【0065】
放電電流最大値を制御するための数式は、下記のような手順で求めることができる。
【0066】
まず、図7中の3本の線分それぞれについて原点を通る直線で近似し、放電電流ピーク値(Imax)と放電電圧(E)の関係式を書き(1)式の通り求める。
【0067】
Imax=a×E (1)
ここでaは電極間距離ごとに求められる近似直線の傾きであり、物品9の有無及び種類によって変わる。
【0068】
次に、傾きaと電極間距離(x)との関係を2次関数で近似すると、下記の数式(2)の定数b、c、dを求める事ができる。2次関数で近似することにより、直線近似より正確に近似することができるとともに、他の関数よりは簡便な近似が可能である。
【0069】
a=bx+cx+d (2)
数式(1)、(2)から、放電電流ピーク値(Imax)を求めるために、下記数式(3)を求める事ができる。
【0070】
Imax=(bx+cx+d)×E (3)
図7に示すデータからは、Imaxの単位をkA、電圧の単位をkV、電極間距離の単位をmmとするならば、定数b、c、dは下記の値になる。
【0071】
b=−1.64×10−5
c=2.90×10−4
d=4.75×10−2
連続放電して物品の分解処理を進める際に、上記手順で式(3)の定数b、c、dを求め、電極間距離もしくは放電電圧の少なくとも一方にフィードバックすることで、放電電流ピーク値を一定に保つことができる。
【0072】
ただしb、c、dは定数であるが、分解処理に伴う物品9の形状の変化又は液体の電気伝導度の変化によって変動するため、複数回、好ましくは毎回の放電毎に数式を導出しながら電極間距離もしくは放電電圧の少なくとも一方にフィードバックをかけることで、放電電流ピーク値を一定に保つ事が望ましい。
【0073】
次に、基板を含む物品、例えば樹脂ケース内に部品がはんだ付けされている基板が固定されている物品を分解するために好ましいパルス幅について説明する。
【0074】
基板を含む物品について図1に示す物品の分解装置を用いて分解処理試験を行った。分解処理試験の評価は、試験後の個々の物品に対し、放電電流の幅を変更したときの樹脂ケースの分解と、基板からの部品の分離と、樹脂ケースの過分解との、3つの観点で評価した。
【0075】
物品9として、図5に示す分解処理試験で使用した試料2を使用した。製作条件の詳細は、既に説明しているため省略する。試料2を、図1に示す装置にて、パルス回数30回で放電させて分解した。正電極4とアース電極5との間の距離は25mmとした。処理物70はアース電極5上に載置した状態で処理した。放電電圧を150kV〜350kVと変えるとともに図1の装置の回路のコンデンサの数と容量、放電回路全体のインピーダンスを変更することで、放電電流最大値が23kAで一定にしつつ、パルス幅だけを変えて分解処理した。
【0076】
上記分解処理試験の評価は、試験後の個々の物品に対して、樹脂ケースの分解と、基板からのIC素子の分離と、樹脂ケースの過分解との、3つの観点で評価した。図7は、放電電流の幅を変更したときの基板からの部品の分離と樹脂ケースの分解と、樹脂ケースの過分解との評価結果を示す図である。
【0077】
樹脂ケースの過分解は、分解後の樹脂材料の分別を踏まえると、起こらないほうが好ましい。
【0078】
樹脂ケースの分解については、樹脂ケースの蓋がケースから分離したものを「○」分離しなかったものを「×」で示す。基板からのIC素子の分離は、放電後に5個のIC素子が全て基板から分離した場合を「○」とし、分離しなかった場合を「×」で示す。樹脂ケースの過分解については、樹脂ケースが2つ以上の破片に分解しなかったものを「○」分解したものを「×」で示す。樹脂ケースからの蓋の分離は、樹脂ケースの過分解には含めない。
【0079】
なお、実験で物品9は分解されてしまうため、実験条件1〜6で合計6個の物品9を使用した。
【0080】
図7から、放電電流ピーク値が一定であっても、放電電流の波形の幅が1μs未満だと樹脂ケースの分解がほとんど進まない事がわかる。また、放電電流の波形の幅が9μsを超えると、樹脂ケースの過分解が起きることがわかる。
【0081】
このことから、放電電流の波形の幅が1〜9μsの条件であれば、樹脂ケースが分解でき、なおかつ樹脂ケースの過分解が防げる。
【0082】
以上のように、第1実施形態によれば、液体2中における放電によって基板もしくは基板を含む物品9を分解する際に、分解処理中の液体2の電気伝導度の変化と処理物の形状の変化とに対応するように一定回数の放電で物品9の分解を可能となる。また、様々な形状もしくは材料の基板もしくは基板を含む物品9を分解する場合でも、処理物の形状と材料に適した条件とで分解を行えるため、一定回数の放電で物品9の分解が可能となる。
【0083】
(第2実施形態)
第2実施形態にかかる図8の物品分解装置11は、図1の装置に物品移動保持機構12を付加したものである。
【0084】
物品移動保持機構12は、未処理の物品9を、放電によって分解される場所に移動させるための搬送機能を有する。これにより、前記した作用効果に加えて、物品9を、放電によって分解される場所に連続的に搬送することが可能となり、連続的な分解処理が可能となる。また、物品移動保持機構12は、正電極4とアース電極5とに対して特定の位置で物品9を保持することが出来る。この際、物品移動保持機構12が直接物品9を保持しても良いし、物品9を保持する保持具または容器を物品移動保持機構12が保持してもよい。制御部10は、パルス電源6と、電流計7と、電極間距離調整機構8と、物品移動保持機構12とに接続される。制御部10は、電極間距離調整機構8を制御して、正電極4とアース電極5との間の距離のデータに基づいて、正電極4とアース電極5との間の距離を調整する。
【0085】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の前記態様にかかる基板もしくは基板を含む物品の分解方法は、処理中の液体の電気伝導度の変化や処理物の形状の変化によらず、処理後の分解状態や破壊状態を一定に保つことができ、リサイクルを目的とした携帯電話やゲーム機などの小型情報家電や電子基板の物品の分解方法として適用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 物品分解装置
2 液体
3 容器
4 正電極
5 アース電極
6 パルス電源
7 電流計
8 電極間距離調整機構
9 物品
10 制御部
11 物品分解装置
12 物品移動保持機構
101 装置
102 容器
103 容器本体
104a 容器カバー
104b 容器基板
105 電極
106a 高電圧開閉装置
106b 安全開閉装置切断器
107 コンデンサ
108 充電器
109 抵抗器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9