(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来から用いられる環境試験装置は、加熱用ヒータと、加湿用ヒータとを別個に有してしている。このような構成では、加熱用ヒータおよび加湿用ヒータの各容量(具体的にはヒータ容量あるいはそれに相当する電源容量)は、冷熱源機器(たとえば冷凍機23)における全負荷(すなわち顕熱負荷と潜熱負荷の総和)にそれぞれ等しい容量を有する必要がある。なぜならば、冷熱源機器(冷凍機23)は最大負荷を考えて選定され、その冷熱源機器の能力が可変でない場合に負荷が最小になったときに余った冷熱源能力を打ち消すために、当該冷熱源機器の能力に相当する加熱用ヒータおよび加湿用ヒータの能力がそれぞれ必要になるからである。例えば、冷熱源装置が顕熱比1(すなわち全熱量が顕熱変化に用いられた場合)で働けば、それを打ち消すために加熱器の能力は冷熱源機器能力に等しい能力が必要である。一方、冷熱源装置が顕熱比0(すべて除湿に働く)で働けば、それを打ち消すために加湿用ヒータの能力は冷熱源機器の能力に等しい能力が必要になる。
【0007】
したがって、加熱用ヒータの容量と加湿用ヒータの容量との合計は、冷熱源装置の能力の倍にならざるをえない。そのため、従来の環境試験装置の構成では、加熱器24および加湿器25のそれぞれのヒータ(加熱用ヒータおよび加湿用ヒータ)を合わせた容量を低減することが困難である。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、空気の加熱および加湿を行う発熱部の容量を低減することが可能な温湿度調整器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためのものとして、本発明の温湿度調整器は、対象空間の温湿度を調整する温湿度調整器であって、水を貯留することが可能な貯留部と、当該貯留部の内部に収納され、当該貯留部の内部で発熱する発熱部と、前記発熱部のうち前記貯留部内部に貯留された水に浸かる部分の割合を調整する調整部と、前記調整部を前記割合が変わるように制御する制御部とを備えていることを特徴とする。
【0010】
この構成では、調整部によって、発熱部のうち貯留部内部に貯留された水に浸かる部分の割合を調整することが可能である。これにより、1つの発熱部が、蒸気を生成する加湿用ヒータとして機能する部分と当該蒸気を加熱する加熱用ヒータとして機能する部分とを有することになる。そして、上記の水に浸かる部分の割合の調整によって、発熱部によって発生する熱量の使われる割合、すなわち、蒸気を発生するための潜熱に利用される熱量と当該蒸気を含む空気の温度を上昇させる顕熱に利用される熱量との割合を変えることが可能である。これにより、対象空間の空気の加熱および加湿のために要求される能力に応じて、当該空気の熱水分比(すなわち、絶対湿度の変化量に対する比エンタルピの変化量の割合)を任意に制御することが可能である。その結果、従来の環境試験装置で用いられる加熱器および加湿器の合計の容量と比較して当該発熱部の容量を大幅に低減することが可能になる。
【0011】
前記調整部は、前記割合を調整するために前記貯留部の水位を調整する構成を有するのが好ましい。
【0012】
かかる構成では、調整部が貯留部の水位を調整することにより、発熱部が水に浸かる部分の割合を容易に調整することが可能である。
【0013】
前記制御部は、前記発熱部を当該発熱部が発生する熱量を変えるように制御を行うのが好ましい。
【0014】
かかる構成では、調整部によって発熱部が水に浸かる部分の割合を調整するだけでなく、発熱部が発生する熱量も変えることにより、空気の熱水分比をより細かく調整することが可能である。これにより、空気の温度および湿度を早期に目標の温度および湿度に到達するように調整することが可能である。
【0015】
前記対象空間の空気の温度を検出する温度検出部をさらに備え、前記制御部は、前記空気の温度に基づいて、前記発熱部を当該発熱部が発生する熱量を変えるように制御するのが好ましい。
【0016】
かかる構成では、温度検出部によって検出される空気の温度に基づいて、発熱部が発生する熱量を変えることが可能になり、空気の温度を目標の温度に正確に到達するように調整することが可能である。
【0017】
前記対象空間の空気の湿度を検出する湿度検出部をさらに備え、前記制御部は、前記湿度検出部によって検出された前記空気の湿度に基づいて、前記調整部を前記割合が変わるように制御するのが好ましい。
【0018】
かかる構成では、湿度検出部によって検出される空気の湿度に基づいて、調整部によって発熱部が水に浸かっている割合を変えることが可能になり、空気の湿度を目標の湿度に正確に到達するように調整することが可能である。
【0019】
前記対象空間の空気の温度を検出する温度検出部と、前記対象空間の空気の湿度を検出する湿度検出部とをさらに備え、前記温度検出部で検出された温度に基づいて空気の加熱のために要求される前記発熱部における水に浸かっていない部分の出力における前記発熱部全体の最大出力に対する割合を加熱出力D%、前記湿度検出部で検出された湿度に基づいて空気の加湿のために要求される前記発熱部における水に浸かっている部分の出力における前記発熱部の最大出力に対する割合を加湿出力W%とした場合において、前記発熱部の出力H%が、D+W≦100の場合には、H=(D+W)%、D+W>100の場合には、H=100%になるように、前記制御部は、前記発熱部の出力Hを制御してもよい。
【0020】
この構成では、発熱部の出力を最大出力100%以下に収まるように加熱および加湿に要求される出力に応じて最適に調整することが可能である。そのため、発熱部の全体の容量を確実に低減することが可能である。
【0021】
本発明の環境試験装置は、前記対象空間であり、試料が収容される試験室と、前記試験室の空気の温度調整を行う空調部と、前記空調部で温度調整された空気の温度および湿度を調整する、前記温湿度調整器とを備えていることを特徴とする。
【0022】
かかる構成では、試料が収容される試験室の空気の温度調整を空調部で行った後、1個の温湿度調整器によって当該空気の温度および湿度の両方を目標の温度および湿度に調整することが可能である。したがって、従来の環境試験装置のように空調部の能力相当の加熱器および加湿器をそれぞれ別個に備える必要がなくなり、空気の加熱および加湿のための発熱部の容量を大幅に低減することが可能になる。その結果、環境試験装置全体の設備電力を低減することが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明の温湿度調整器によれば、空気の加熱および加湿を行う発熱部の容量を低減することができる。
【0024】
本発明の環境試験装置によれば、温湿度調整器を備えていることにより、環境試験装置全体の設備電力を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の温湿度調整器および環境試験装置の実施形態についてさらに詳細に説明する。
【0027】
図1に示される環境試験装置1は、チャンバ2と、冷凍機3と、温湿度調整器4と、送風機8とを備えている。
【0028】
チャンバ2は、環境試験のための試料50を収容する試験室2aと、当該試験室2aに上下2か所の開口で連通する空調室2bとを有する。試験室2aは、温湿度調整器4によって温湿度が調整される対象空間である。送風機8によって、試験室2aと空調室2bとを循環する空気流れが生成される。チャンバ2の外壁は、断熱壁で構成されている。
【0029】
本実施形態では、空調室2bの内部には仕切り壁12が設けられている。仕切り壁12によって、冷凍機3が収容された空間と送風機8が収容された空間とに分けられている。2つの空間は、吸入管10、温湿度調整器4(具体的には貯留部5)および排出管11を経由して空気が流通できるように連通している。
【0030】
冷凍機3は、試験室2aから空調室2bへ導入された空気を冷却および除湿する。冷凍機3は空調室2bから試験室2aに導入される空気の温度を調整する空調部として機能する。なお、本発明の空調部は、空気の温度を調整できればよく、冷凍機3に限らず、他の冷却機器でもよく、空気の加熱および冷却をできる空調機であってもよい。
【0031】
温湿度調整器4は、冷凍機3で冷却および除湿された空気の温度および湿度を調整する構成を有する。
【0032】
具体的には、温湿度調整器4は、
図1〜2に示されるように、水Wを貯留する貯留部5と、貯留部5内部で発熱する発熱部6と、貯留部5の水位を調整する調整部7と、温度検出部13と、湿度検出部14と、制御部15とを備える。
【0033】
貯留部5は、水Wを貯留することが可能な空間部を有する。空間部は、水位の最大変化量よりも大きい高さを有する上下方向に長い円柱状または直方体の空間である。貯留部5は、上記の空調室2bの2つの空間に連通する吸入管10および排出管11が接続されている。吸入管10の貯留部5側の出口は、貯留部5内部の水が流入しないように、水位の最大変化量の高さよりも上方に配置されている。
【0034】
発熱部6は、当該貯留部5の内部に収納され、当該貯留部5の内部で発熱する。具体的には、発熱部6は、通電時に発熱する電気発熱体6aと、電気発熱体6aへ電流を供給する電流供給部6bとを有する。電気発熱体6aは、貯留部5の内部に収納されている。電流供給部6bは、貯留部5の外部に配置され、当該電気発熱体6aと電気的に接続されている。
【0035】
電気発熱体6aは、上下方向に長い棒状またはコイル状の形状を有する。電気発熱体6aは、貯留部5の内部に立てられた状態で配置される。
図1〜2では、電気発熱体6aは、貯留部5の底に付かないように配置されているが、底に付いて配置されてもよい。
【0036】
電気発熱体6aは、通電時に発熱するものであればよく、ニクロム線などの電熱線を有する。電熱線をセラミックや金属製のさやなどで保護してもよく、その場合、電熱線の保護だけでなく、電気発熱体6a周囲の貯留部5の壁などの損傷も防止できる。
【0037】
調整部7は、発熱部6(具体的には電気発熱体6a)が貯留部5内部に貯留される水Wに浸かる部分の割合R(具体的には、電気発熱体6aの高さに対する水Wに浸かる部分6a1の割合)を調整するために、水Wを貯留する貯留部5の水位を調整する構成を有する。
【0038】
具体的には、調整部7は、水位調整槽7aと、貯留部5と水位調整槽とをつなぐ一対の均圧管7b、7cと、給水制御弁7dと、排水制御弁7eと、水位調整槽7a内部の水位を検出するレベルセンサ7fとを有する。
【0039】
貯留部5と水位調整槽7aとは、それぞれの上端部および下端部において、一対の均圧管7b、7cによって連通している。これにより、貯留部5および水位調整槽7aの水頭圧(ヘッド)が均一化され、水位調整槽7aの水位は常に貯留部5の水位と同じに保たれる。なお、水位調整槽7aを設けずに、貯留部5内への水の供給、排出で水位を調整する構成にしてもよい。
【0040】
給水制御弁7dは、水位調整槽7a内部へ供給する水の量を調節する。排水制御弁7eは、水位調整槽7aから外部へ排出する水の量を調節する。なお、給水制御弁7dおよび排水制御弁7eを貯留部5に設けてもよい。また、給水と排水をまとめて一系統にして水位を制御する構成にしてもよい。
【0041】
レベルセンサ7fは、水位調整槽7aの水位を検出することにより、貯留部5の水位(とくに、最高水位および最低水位)を監視することが可能である。また、レベルセンサ7fは、水位を所定の高さごとに監視(いわゆる分割監視)することも可能である。
【0042】
温度検出部13は、試験室2aの空気の温度を検出する。湿度検出部14は、試験室2aの空気の湿度を検出する。これら温度検出部13および湿度検出部14は、例えば、試験室2a内部のうち空調室2bの上側の出口付近に設けられているが、試験室2aの他の場所に設けてもよい。
【0043】
制御部15は、発熱部6(具体的には電気発熱体6a)が貯留部5内部に貯留される水Wに浸かる部分の割合Rが変わるように調整部7を制御するとともに、発熱部6が発生する熱量を変えるように当該発熱部6を制御する。
【0044】
調整部7が貯留部5の水位をL
1(すなわち水位を発熱部6の電気発熱体6aの下方の位置)に変えたときには、発熱部6の全てが水Wに浸かっていないので、上記の割合Rは0になる。この場合、温湿度調整器4は、空気を加熱する加熱器として機能する(言いかれば、顕熱比1として(すなわち、発熱部6の全熱量を顕熱変化に用いるように)機能する)。一方、水位をL
2(すなわち発熱部6の電気発熱体6aの上方の位置)に変えたときには、上記の割合Rは1になる。この場合、発熱部6は、蒸気を発生する加湿器として作用する(言いかえれば、温湿度調整器4は、顕熱比0として(すなわち、発熱部6の全熱量を潜熱変化に用いるように)機能する)。
【0045】
したがって、水Wに浸かる部分の割合Rが0<R<1の範囲では、温湿度調整器4は加熱器および加湿器の両方の機能を発揮することが可能になる。
【0046】
具体的には、調整部7によって発熱部6の水Wに浸かる部分の割合Rが変わる場合には、貯留部5を出る蒸気のみかけ熱水分比が変わる。熱水分比とは、絶対湿度の変化量に対する比エンタルピの変化量の割合であり、具体的には、水1kgを蒸発させるために要する熱量に相当する。
【0047】
例えば、
図3に示される空気線図(横軸に乾球温度x、縦軸に絶対湿度z)において、調整部7によって水位を変えることにより、初期状態の熱水分比ベクトルB
0の方向が変わる。ここで、熱水分比ベクトルB
0とは、
図4に示されるように、加熱ベクトルBx(空気線図の等蒸気量の線上を動くベクトル)と、加湿ベクトルBh(大気圧の環境下において640kcal/kgの熱水分比の方向を向くベクトル)とを合成したベクトルのことを意味する。
【0048】
例えば、温湿度調整器4の加湿出力を増やす場合には、調整部7は水位を上げる。このとき、熱水分比ベクトルB
0の先端Qは、等エンタルピ線Eに沿って左上方(矢印B
1の方向)へ変位することにより、熱水分比ベクトルB
0の方向がより上向きに変わる。一方、加湿出力を減らすときには水位を下げる。このとき、熱水分比ベクトルB
0の先端Qは、等エンタルピ線Eに沿って右下方(矢印B
2の方向)へ変位することにより、熱水分比ベクトルB
0の方向がより下方へ変わる。
【0049】
上記のように水位を変えることによって、電気発熱体6aの水Wに浸かっている部分6a1の割合Rを変えることが可能になり、1個の電気発熱体6aのうち、水Wに浸かっている部分6a1を加湿(潜熱)用の部分として使用し、浸かっていない部分6a2を加熱(顕熱)用の部分として使用することが可能である。
【0050】
したがって、貯留部5の内部では、電気発熱体6aのうち水Wに浸かっている部分6a1によって水Wを蒸発することにより発生した蒸気を水Wに浸かっていない部分6a2によって加熱することが可能である。これにより、温湿度調整器4から排出する空気の熱水分比を変えることが可能になる。
【0051】
一方、制御部15が発熱部6を当該発熱部6が発生する熱量を変えるように制御するときには、
図3に示される空気線図において、熱水分比ベクトルB
0の長さが変わる。
【0052】
例えば、温湿度調整器4の加熱出力を増やす場合には、発熱部6の出力を上げる。このとき、熱水分比ベクトルB
0の先端Qは、当該ベクトルB
0に沿った線上で前方(矢印B
3の方向)へ移動することにより、熱水分比ベクトルB
0は長くなる。一方、加熱出力を減らす場合には、発熱部6の出力を下げる。このとき、熱水分比ベクトルB
0の先端Qは、当該ベクトルB
0に沿った線上で後方(矢印B
4の方向)へ移動することにより、熱水分比ベクトルB
0は短くなる。
【0053】
以上のように、
図3に示されるように、制御部15が調整部7による水位調整と発熱部6の出力とを制御することにより、熱水分比ベクトルBの方向と長さを任意に変更することが可能である。これにより、試験室2aの空気の加熱および加湿のために要求される能力に応じて、空気の熱水分比を精度よく調整することが可能になる。
【0054】
具体的には、制御部15は、空気の加熱に要求される出力(加熱出力)および加湿に要求される出力(加湿出力)に応じて、発熱部6の出力Hを以下のように制御する。
【0055】
ここで、温度検出部13で検出された温度に基づいて空気の加熱のために要求される発熱部6における水Wに浸かっていない部分6a2の出力における発熱部6全体の最大出力に対する割合を加熱出力D%とする。湿度検出部14で検出された湿度に基づいて空気の加湿のために要求される発熱部6における水Wに浸かっている部分6a1の出力における発熱部6の最大出力に対する割合を加湿出力W%とする。
【0056】
この場合において、発熱部6の出力H%が、
D+W≦100の場合には、H=(D+W)%
D+W>100の場合には、H=100%
になるように、制御部15は、発熱部6の出力Hを制御する。これにより、加熱および加湿に要求される出力(すなわち、加熱出力Dおよび加湿出力W)に応じて、発熱部6の出力Hを最大出力100%以下に収まるように最適に調整することが可能である。そのため、発熱部6の全体の容量を確実に低減することが可能である。
【0057】
なお、温度優先で出力制御を行う場合には、D+W>100のときには、加熱出力Dを維持して、加湿出力WをW=100−Dに変更すればよい(なお、D、Wは0以上100以下の範囲内である)。すなわち、加湿に優先させて加熱を行い、目標温度に到達後、目標湿度に到達させる制御を行えばよい。
【0058】
また、制御部15は、上記の加熱出力Dおよび加湿出力Wに応じて、水位L%についてL={W/(D+W)}×100%として制御を行う。ここで、水位Lは、例えば、発熱部6(具体的には電気発熱体6a)の下端に触れない直近の高さを0%、発熱部6の上端の高さを100%とする。
【0059】
水位Lが0%のときは、蒸気が発生せず空気が加熱される(すなわち顕熱が上昇する)のみであるので、送風機8によって貯留部5へ導入される空気を用いて、貯留部5内部で上昇した顕熱を試験室2aに搬送(熱搬送)することが可能である。
【0060】
つぎに、本実施形態の温湿度調整器4を用いて、試験室2a内部の空気の温度および湿度を調整する方法を説明する。
【0061】
図5に示されるように、試験室2a内部の空気の初期の温度をT
1℃、相対湿度をY
1%(点P
0の位置)とし、温湿度調整器4を用いて、目標の温度T
2℃、相対湿度Y
2%(点P
6の位置)へ調整する場合を考える(温度T
1、T
2はいずれも乾球温度である)。
【0062】
まず、ステップS1として、制御部15は、温度検出部13で検出される試験室2aの空気の温度が目標のT
2℃になるまで水位Lが0%の状態で発熱部6が出力100%(最大出力)で空気を加熱するように発熱部6を制御する(
図5の点P
0→点P
1への移行)。
【0063】
目標のT
2℃に到達したとき、ステップS2として、制御部15は、発熱部6の出力を下げる制御をするとともに、湿度を上げるために貯留部5の水位を上昇するように調整部7を制御する(
図5の点P
1→点P
2への移行)。このとき、発熱部6における空気の加熱に使われる熱量が減るので、空気の温度が低下する。この動きは、空気線図上の熱水分比ベクトルP
0P
1の先端P
1が等エンタルピ線E1に沿って左上方へ移行することに対応する。
【0064】
ついで、ステップS3として、制御部15は、点P
1→点P
2への移行時に空気の温度が下がった分を取り戻すために、水位を点P
2のときと変わらない状態で、発熱部6の出力(加熱出力)を増やして再び目標のT
2℃になるまで空気を加熱するように制御する(
図5の点P
2→点P
3への移行)。
【0065】
その後、目標の温度T
2℃、相対湿度Y
2%(点P
6の位置)に到達するまで、制御部15は上記のステップS1〜S3を繰り返す。当該目標の温度、湿度に到達後は、その温度、湿度を維持するように温湿度調整器4が引き続き動作する。
【0066】
上記のステップS1〜S3のように温湿度調整器4が温度優先で温湿度運転を行う場合、目標の温度に到達すれば加熱出力を下げる制御が行われるので、運転時に空気の温度が目標の温度を超えるおそれがなく、安全である。一方、湿度優先で温湿度運転が行われた場合には、目標の相対湿度に到達していない限り加湿し続け、熱水分比に基づいて加湿とともに加熱も続けられるため、加熱出力の上昇の歯止めがきかなくなるおそれが懸念される。よって、温湿度調整器4は温度優先の運転を行う方が湿度優先の運転よりも安全である。
【0067】
ここで、環境試験装置1の試験室2a内部の温度および湿度は、上記の温湿度調整器4による温湿度調整だけでなく、様々な要因によって変化する。例えば、その要因として、試験室2a内の試料50の発熱による温度上昇、送風機8における軸動力などによる温度上昇、およびこれらの温度上昇を抑えるための冷凍機3による冷却などが挙げられる。
【0068】
そこで、環境試験装置1の通常の運転では、これらの要因を考慮して温湿度調整器4を運転する必要がある。具体的には、
図6の空気線図に示されるように目標の状態C(試験室2aの温度が目標の温度および湿度にある状態)を維持するように温湿度調整器4を運転する場合には、送風機8における温度上昇ベクトルJ
1と試料50による温度上昇ベクトルJ
2と冷凍機3による冷却ベクトルJ
3との合成ベクトルを打ち消す熱水分比ベクトルJ
4(状態Aから状態C′へ戻すベクトル)が得られるように、制御部15は、発熱部6の出力および貯留部5の水位を制御する。これにより、等エンタルピ線E
A上にある上記のベクトルJ
1〜J
3の負荷がかかった状態Aから等エンタルピ線E
C′上にある目標の状態Cの送風機の手前の状態C′へ移行することが可能である。とくに、水位の制御によって等エンタルピ線E
C′に沿って状態C′へ近づけるように熱水分比ベクトルJ
4の方向を変える制御を容易に行うことが可能になる。ここで、従来の環境試験装置のように加熱器および加湿器が別個にある場合には、上記の温湿度調整器4による出力制御と比べて、加湿器による加湿ベクトルK1と加熱器による加熱ベクトルK2とを合成して状態Aから状態Cへ戻す出力制御が必要になり、当該制御に時間がかかるおそれがある。
【0069】
また、
図1における空調室2bの仕切り壁12に開口12aが形成されている場合には、温湿度調整器4を通る空気と当該温湿度調整器4を通らずに開口12aを通る空気とが混合したものが試験室2aへ排出される。このような条件下において、
図7の空気線図に示されるように目標の状態Cを維持するように温湿度調整器4を運転することを想定した場合、開口12aを通る空気(等エンタルピ線E
A上にあるベクトルJ
1〜J
3の負荷がかかった状態A)と、温湿度調整器4を通る空気(等エンタルピ線E
B上にある状態B)との混合空気が状態C′になるように、制御部15は、発熱部6の出力および貯留部5の水位を制御すればよい。また、開口12aを有する場合、全量を温湿度調整器4に空気を流さない制御期間を設けるように構成してもよい。
【0070】
以上のように、本実施形態の温湿度調整器4では、調整部7によって、発熱部6が貯留部5内部に貯留される水Wに浸かる部分の割合Rを調整することが可能である。これにより、1つの発熱部6が、蒸気を生成する加湿用ヒータとして機能する部分と当該蒸気を加熱する加熱用ヒータとして機能する部分とを有することになる。そして、上記の水に浸かる部分の割合Rの調整によって、発熱部6によって発生する熱量の使われる割合、すなわち、蒸気を発生するための潜熱に利用される熱量と当該蒸気を含む空気の温度を上昇させる顕熱に利用される熱量との割合を変えることが可能である。これにより、試験室2aの空気の加熱および加湿のために要求される能力に応じて、当該空気の熱水分比を任意に制御することが可能である。その結果、従来の環境試験装置で用いられる加熱器および加湿器のそれぞれのヒータの合計の容量と比較して当該発熱部6の容量を大幅に低減(最大では半減)することが可能になる。
【0071】
また、発熱部6の容量を低減することができるので、温湿度調整器4を含む環境試験装置1の製品仕様の最大負荷電流および定格出力を抑えることが可能になり、省エネルギー効果が高い。また、環境試験装置1の一次側設備(例えば電源トランス容量)や電気配線工事費の低減も可能になる。
【0072】
本実施形態の温湿度調整器4では、調整部7が水Wを貯留する貯留部5の水位を調整することにより、発熱部6が水Wに浸かる部分の割合Rを容易に調整することが可能である。
【0073】
本実施形態の温湿度調整器4では、制御部15は、発熱部6を当該発熱部6が発生する熱量を変えるように制御を行うので、調整部7によって発熱部6が水Wに浸かる部分の割合Rを調整するだけでなく、発熱部6が発生する熱量も変えることも可能である。これにより、空気の熱水分比をより細かく調整することが可能であり、その結果、空気の温度および湿度を早期に目標の温度および湿度に到達するように調整することが可能である。
【0074】
本実施形態の温湿度調整器4では、温度検出部13によって検出される空気の温度に基づいて発熱部6が発生する熱量を変えることが可能になるので、空気の温度を目標の温度に正確に到達するように調整することが可能である。
【0075】
本実施形態の温湿度調整器4では、湿度検出部14によって検出される空気の湿度に基づいて、調整部7によって発熱部6が水Wに浸かっている割合Rを変えることが可能になるので、空気の湿度を目標の湿度に正確に到達するように調整することが可能である。
【0076】
本実施形態の環境試験装置1では、冷凍機3で温度調整された空気の温度および湿度を調整する上記の温湿度調整器4を備えているので、試料50が収容される試験室2aの空気の温度調整を冷凍機3(空調部)で行った後、1個の温湿度調整器4によって当該空気の温度および湿度の両方を目標の温度および湿度に調整することが可能である。したがって、従来の環境試験装置のように冷凍機3(空調部)の能力相当の加熱器および加湿器をそれぞれ別個に備える必要がなくなり、空気の加熱および加湿のための発熱部6の容量を大幅に低減することが可能になる。その結果、環境試験装置全体の設備電力を低減することが可能になる。
【0077】
上記実施形態では、調整部7は、水Wを貯留する貯留部5の水位を調整するために給水制御弁7dおよび排水制御弁7eを備えた構成を有しているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の温湿度調整器の変形例として、
図8に示されるように、調整部16は、貯留部5の水位を調整するための構成として、貯留部5の底壁を貫通して上下にスライド自在に取り付けられたオーバーフロー管16aと、オーバーフロー管16aを上下に移動する駆動部16bと、貯留部5に水を供給する供給部16cとを備えていてもよい。この構成では、オーバーフロー管16aの上端開口の位置は、駆動部16bがオーバーフロー管16aを上方または下方へ移動させることにより変位することが可能である。貯留部5の最高水位は、オーバーフロー管16aの上端開口の位置によって制限される。そのため、オーバーフロー管16aを下方へ移動させることにより、所望の水位に正確に下げることが可能である。一方、水位を上げるときには、オーバーフロー管16aの上端開口の位置を目標の水位よりも上方の位置になるようにオーバーフロー管16aを上昇させ、その後、供給部16cから水を貯留部5に供給すればよい。
【0078】
上記実施形態では、調整部7は、発熱部6が貯留部5内部に貯留される水Wに浸かる部分の割合Rを調整するために、貯留部5の水位を調整する構成を有しているが、本発明はこれに限定されない。調整部は、当該割合Rを調整できる構成であればよい。
【0079】
例えば、本発明の他の変形例として、
図9に示されるように、貯留部5の内部の発熱部6の電気発熱体6aを上下に移動させる発熱部昇降部18を有してもよい。この場合、貯留部5の水位は一定であっても、発熱部昇降部18によって電気発熱体6aが上下に移動することにより、電気発熱体6aが貯留部5内部に貯留される水Wに浸かる部分の割合Rを調整することが可能である。
【0080】
発熱部6は、貯留部5内部で発熱する構成であればよく、複数の電気発熱体6aから構成されていてもよい。