(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、熱電変換素子を高温側熱交換器と低温側熱交換器との間に配置して発電を行う熱電発電が知られている。熱電変換素子は、ゼーベック効果と呼ばれる熱電効果を応用したものである。熱電材料として半導体材料を用いる場合には、P型の半導体熱電材料で形成された熱電変換素子と、N型の半導体熱電材料で形成された熱電変換素子とを、電極を介して電気的に接続することにより、熱電発電モジュールが構成される。
【0003】
そのような熱電発電モジュールは、構造が簡単かつ取り扱いが容易で、安定な特性を維持できることから、自動車のエンジンや工場の炉等から排出されるガス中の熱を利用して発電を行う熱電発電への適用に向けて、広く研究が進められている。
【0004】
一般に、熱電発電モジュールは、高い熱電変換効率を得るために、高温部の温度(Th)と低温部の温度(Tc)との差が大きくなるような温度環境において使用される。例えば、代表的なビスマス−テルル(Bi−Te)系の熱電材料を用いた熱電発電モジュールは、高温部の温度(Th)が最高で250℃〜280℃となるような温度環境において使用される。従って、電極の半田濡れ性等を向上させるために電極にニッケルメッキを施す場合には、ニッケルの半田層内への拡散及び酸化が問題となる。
【0005】
関連する技術として、特許文献1には、従来の熱電モジュールにおいて、半田の拡散を防止するために、Ni−P系又はNi−B系合金の無電解メッキ膜が熱電素子と電極との間に形成されており、この無電解メッキ膜の抵抗率が高いので、各熱電素子に通電した場合に、このメッキ膜において抵抗発熱が生じ、吸熱側でも発熱する結果、熱電モジュールとしての性能が熱電素子の材料の物性から決まる理論値よりも低下してしまうという問題点が記載されている。
【0006】
この問題点を解決するために、特許文献1には、複数の熱電素子を複数の上部電極及び複数の下部電極により直列又は並列に接続した熱電モジュールにおいて、熱電素子と上部電極又は下部電極とが半田により接合され、熱電素子の接合面には、抵抗率が10乃至60μΩ・cmのニッケル無電解メッキ膜が形成されることが開示されている。
【0007】
特許文献2には、1〜5μmのニッケルメッキ層は、該メッキ層表面にピンホールを形成しやすく、その結果、ピンホールを通って半田成分が熱電半導体素子内に拡散してしまうので、熱電素子の性能を維持したまま、半田成分の拡散を防止するために、表面に厚さ7μm以上のニッケルメッキ層が形成された熱電素子が開示されている。
【0008】
特許文献3には、Bi−Te−Sb−Seからなる素子本体と、接合電極に接合される接合面に設けられたNi層及びMo層とからなる熱電素子を有する熱電モジュールが開示されている。また、Ni層は、その厚みが1μm以上であり、Mo層は、その厚みが1μm以下であることが好ましいと記載されている。
【0009】
特許文献4には、ビスマスと、テルルと、セレンと、アンチモンとの内の少なくとも1つを含む熱電材料に対して、元素の拡散防止効果が高く、且つ、剥離強度が高い拡散防止層を形成できる熱電素子の製造方法、及び、そのような熱電素子の製造方法によって製造された熱電素子が開示されている。
【0010】
この熱電素子は、ビスマス(Bi)と、テルル(Te)と、セレン(Se)と、アンチモン(Sb)との内の2つ以上を含む熱電材料と、該熱電材料上に形成され、上記熱電材料に対する異種元素の拡散を防止する拡散防止層と、該拡散防止層上に形成され、該拡散防止層と半田とを接合させる半田接合層とを具備し、熱電材料層と拡散防止層との界面、又は、拡散防止層と半田接合層との界面における剥離強度が0.6MPa以上であることを特徴とする。
【0011】
特許文献5には、高温部の温度が250℃を超えるような高温の環境での長時間使用に耐えられる熱電発電モジュールが開示されている。この熱電発電モジュールは、熱電発電素子と、熱電発電素子の表面に配置され、モリブデン(Mo)からなる第1の拡散防止層と、第1の拡散防止層の熱電発電素子側と反対側の面に配置され、ニッケル−錫(Ni−Sn)の金属間化合物からなる第2の拡散防止層と、電極と、電極の表面に配置され、ニッケル−錫(Ni−Sn)の金属間化合物からなる第3の拡散防止層と、第2の拡散防止層と第3の拡散防止層とを接合し、鉛(Pb)を85%以上含む半田層とを具備する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る熱電発電モジュールの概要を示す斜視図である。熱電発電モジュール1において、P型の半導体熱電材料で形成された熱電変換素子(P型素子)10と、N型の半導体熱電材料で形成された熱電変換素子(N型素子)20とを、電極31又は32を介して電気的に接続することにより、PN素子対が構成される。さらに、複数のPN素子対が、複数の高温側電極31及び複数の低温側電極32を介して直列に接続されている。
【0023】
複数のPN素子対によって構成される直列回路の一方の端のP型素子及び他方の端のN型素子には、2つのリード線40が2つの低温側電極32を介してそれぞれ電気的に接続されている。
図1においては、それらのPN素子対を挟み込むように、セラミック等の電気絶縁材料で形成された基板(熱交換基板)51及び52が配置されている。基板51側に熱を加え、基板52側を冷却水等で冷やすと、熱電発電モジュール1に起電力が発生して、2つのリード線40の間に負荷(図示せず)を接続したときに、
図1に示すように電流が流れる。即ち、熱電発電モジュール1の両側(図中の上下)に温度差を与えることにより、電力を取り出すことができる。
【0024】
ここで、基板51及び52の一方又は両方を省略して、電気絶縁性を有する熱交換器の表面に高温側電極31及び低温側電極32の一方又は両方が直接接することが望ましい。その場合には、熱電変換効率を向上させることができる。基板51及び52の一方が省略された熱電発電モジュールは、ハーフスケルトン構造と呼ばれ、基板51及び52の両方が省略された熱電発電モジュールは、フルスケルトン構造と呼ばれる。
【0025】
P型素子10及びN型素子20は、いずれも、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、アンチモン(Sb)、及び、セレン(Se)の内の少なくとも2種類の元素を主成分とするビスマス−テルル(Bi−Te)系の熱電材料で構成される。例えば、P型素子10は、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、及び、アンチモン(Sb)を含む熱電材料で構成される。また、N型素子20は、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、及び、セレン(Se)を含む熱電材料で構成される。特に、高温側熱交換器の温度が最高で250℃〜280℃となるような温度環境においては、ビスマス−テルル(Bi−Te)系の熱電材料が適している。また、高温側電極31及び低温側電極32は、例えば、電気伝導性及び熱伝導性の高い銅(Cu)で構成される。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態に係る熱電発電モジュールの一部を示す断面図である。
図2においては、例として、P型素子10及びN型素子20と高温側電極31との接合部の構成が示されているが、P型素子10及びN型素子20と低温側電極32(
図1)との接合部の構成も、
図2に示す構成と同様でも良い。ただし、各部のサイズは、適宜変更することが可能である。
【0027】
図2に示すように、熱電発電モジュールは、P型素子10と、N型素子20と、P型素子10及びN型素子20の各々の1つの面(図中の上面)に順に配置された少なくとも1つの拡散防止層60と、半田接合層70と、半田接合層70に接合された半田層80とを含んでいる。ここで、少なくとも1つの拡散防止層60として、第1の拡散防止層61及び第2の拡散防止層62を設けても良い。
【0028】
また、熱電発電モジュールは、高温側電極31と、少なくとも高温側電極31の一方の主面(図中の下面)に配置された電極保護層90とを含んでいる。電極保護層90は、メッキ等によって高温側電極31に形成され、
図2に示すように、高温側電極31の一方の主面のみならず、高温側電極31の全ての側面、及び、他方の主面(図中の上面)にも配置されても良い。半田層80は、電極保護層90の一部の領域に半田接合層70を接合する。
【0029】
第1の拡散防止層61は、例えば、モリブデン(Mo)又はタングステン(W)からなり、第2の拡散防止層62は、例えば、コバルト(Co)、チタン(Ti)、又は、それらを主成分とする合金又は化合物からなる。ここで、化合物とは、金属間化合物や、窒化物(ナイトライド)等を含む概念である。ただし、いずれの拡散防止層も、ニッケル(Ni)を含有していない。
【0030】
第1の拡散防止層61の厚さは、例えば、2.7μm〜13μmであり、第2の拡散防止層62の厚さは、例えば、0.5μm〜7μmである。第1の拡散防止層61及び第2の拡散防止層62を設けることにより、半田接合層70の材料の熱電変換素子内への拡散や、熱電変換素子の酸化を抑制することができる。
【0031】
半田接合層70は、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、又は、それらを主成分とするニッケル−錫(Ni−Sn)等の合金又は化合物からなる。半田接合層70を設けることにより、半田濡れ性を改善することができる。ここで、ニッケル−錫(Ni−Sn)等の合金又は化合物におけるニッケル(Ni)と錫(Sn)との比率は、60at%Ni−40at%Snが適している。
【0032】
半田層80は、鉛(Pb)及び錫(Sn)を主成分とし、それらの比率がPb
xSn
(1−x)(x≧0.85)で表される組成を有する半田を含むことが望ましい。そのような組成を有する半田を用いることにより、高温での使用に耐える熱電発電モジュールを提供できると共に、錫(Sn)の含有量が少ないことにより、半田接合層70や拡散防止層60と錫(Sn)との反応又は合金化が抑制されて、各層の剥離を防止できる。なお、錫(Sn)の含有比率は、限りなくゼロに近くても良い(x<1)。その場合に、半田層80は、鉛(Pb)を主成分とする。
【0033】
半田層80の半田が、鉛(Pb)を85%以上含有している場合には、半田の融点が260℃以上となるので、260℃の高温でも半田が溶融せずに、熱電変換素子と電極とを良好に接合することができる。さらに、鉛の含有率を90%以上とすれば、半田の融点は275℃以上となり、鉛の含有率を95%以上とすれば、半田の融点は305℃以上となり、鉛の含有率を98%以上とすれば、半田の融点は317℃以上となる。
【0034】
半田層80は、半田に混入された粒子をさらに含んでも良い。粒子としては、例えば、銅(Cu)ボールを用いることができる。粒子の材料として銅を用いることにより、260℃〜317℃の高温でも粒子が溶融して消失せず、かつ、電気抵抗が低いので、熱電変換素子と電極との間で電流を効率よく流すことができる。また、銅ボールの表面に、金(Au)がコーティングされていても良い。
【0035】
熱電変換素子と電極とを接合する接合層中の半田層80に銅ボールを含有させることにより、銅ボールが隙間保持材として機能するので、多数の熱電変換素子と電極とを一度に接合する場合でも熱電発電モジュールの高さが一定となり、十分な接合強度を確保することができる。また、圧力が作用する状態での半田接合や高温環境下での使用においても、銅ボールによって半田層80の厚さが維持されるので、半田のはみ出しを防止でき、はみ出した半田と熱電材料との反応に起因する破壊等を防止することができる。
図2に示すように、半田層80は、電極保護層90よりも厚い。半田層80の厚さとしては、約50μm〜約150μmが適している。
【0036】
電極保護層90は、主として、高温側電極31の酸化防止や半田濡れ性改善を目的としており、ニッケル(Ni)を主成分とする膜を含んでいる。例えば、電極保護層90は、少なくとも高温側電極31の一方の主面に配置されたニッケル(Ni)メッキ膜で構成されても良いし、又は、そのようなニッケル(Ni)メッキ膜と金(Au)メッキ膜との積層構造で構成されても良い。ただし、金メッキ膜の厚さは、0.2μm程度であり、金は容易に半田層80中に拡散するので、半田接合後においては金メッキ膜が観察されない可能性が高い。また、ニッケル(Ni)メッキ膜は、4%〜10%程度の燐(P)を含有しても良い。
【0037】
このように、電極保護層90がニッケル(Ni)を主成分とする膜を含むので、鉛(Pb)含有率の高い高温半田を用いる場合には、ニッケルが半田中に拡散し、拡散したニッケルが酸化してニッケル酸化物を形成する。ニッケル酸化物は電気抵抗が高いので、ニッケル酸化物が半田接合面と平行な面に沿って多量に形成されると、熱電発電モジュール全体の電気抵抗が大きく増加して、熱電発電モジュールの特性が大きく損なわれてしまう。
【0038】
図3は、電極保護層として厚さ20μmのニッケルメッキ膜が形成された熱電発電モジュールの耐久試験前後の断面を示す顕微鏡写真である。
図3(A)は、耐久試験前の断面を示しており、
図3(B)は、耐久試験後の断面を示している。この耐久試験は、高温側温度を280℃とし、低温側温度を30℃として、大気中で熱電発電モジュールの温度を3760時間保持することにより行われた。
【0039】
耐久試験前においては、
図3(A)に示すように、電極保護層としてニッケル(Ni)メッキ膜が形成された電極に、銅(Cu)ボールを含む半田層が接合されている。一方、耐久試験後においては、
図3(B)に示すように、電極保護層のニッケル(Ni)が半田層内に拡散し、拡散したニッケル(Ni)が酸化することにより、ニッケル酸化物が形成されている。その結果、
図3(B)に示す熱電発電モジュールの部分において、電気抵抗が約13%増加した。
【0040】
そこで、本願発明者は、電気抵抗の増加を抑制するために、電極保護層に含まれているニッケル(Ni)を主成分とする膜の厚さを適切な範囲内に制限することに着目した。そのために、本願発明者は、
図1及び
図2に示すような熱電発電モジュールにおいて、電極に形成されるニッケル膜の厚さが異なる8種類の試料を作製し、それらの試料に対して耐久試験を行った。
【0041】
この耐久試験においては、電気抵抗の測定と、耐久試験後の断面観察とが行われた。耐久試験に供される熱電発電モジュール本体においては、
図1に示すように、高温側電極31と低温側電極32とが互い違いに配置され、上下の電極間には、P型素子10とN型素子20とが交互に配置されている。これにより、複数のP型素子10及び複数のN型素子20が、複数の高温側電極31及び複数の低温側電極32を介して電気的に直列接続される。直列回路の両端に配置された2つの低温側電極32に2つのリード線40をそれぞれ接続することにより、複数のP型素子10及び複数のN型素子20によって発電される電力を加算して取り出すことができる。
【0042】
熱電発電モジュール本体の周囲は、樹脂製の枠体(図示せず)で囲まれている。熱電発電モジュール本体の上下面には、電気的に絶縁性を有する基板51及び52が、熱伝導性グリースを介してそれぞれ取り付けられている。基板51及び52は、電極及び枠体を覆う大きさを有しており、熱電発電モジュールが熱源に取り付けられた際に、枠体が熱源に直接接触しないようになっている。
【0043】
P型素子10は、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、及び、アンチモン(Sb)を主成分とする菱面体構造材料の微結晶体である。N型素子20は、ビスマス(Bi)、テルル(Te)、及び、セレン(Se)を主成分とする菱面体構造材料の微結晶体である。P型素子10及びN型素子20に対する多層膜の形成方法としては、イオンプレーティング法により、次の条件で成膜が行われた。交流プラズマ出力は450Wに設定され、雰囲気はアルゴン(Ar)雰囲気であり、材料蒸発手段として電子ビームが用いられ、電子ビーム電流は0.3A〜0.4Aに設定された。
【0044】
第1の拡散防止層61としては、厚さ7μmのモリブデン(Mo)膜が設けられ、第2の拡散防止層62としては、厚さ1.4μmのコバルト(Co)膜が設けられている。また、半田接合層70としては、厚さ0.9μmのニッケル−錫(Ni−Sn)合金膜が設けられている。
【0045】
半田層80は、Pb
98Sn
2の組成を有するクリーム半田に7.5wt%の銅(Cu)ボールを混合させたものである。高温側電極31及び低温側電極32は純銅製であり、電極保護層90として、試料によって厚さ0μm〜20μmのニッケル(Ni)メッキ膜が形成され、さらに、厚さ0.2μmの金(Au)メッキ膜が形成されている。枠体は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂製であり、基板51及び52は、96%アルミナ製である。
【0046】
<電気抵抗の測定>
熱電発電モジュールの最大出力電力Pは、次式(1)で表される。
P=V
2/4R ・・・(1)
ここで、Vは、熱電発電モジュールの開放電圧であり、Rは、熱電発電モジュールの電気抵抗(内部抵抗)である。熱電発電モジュールに接続される負荷が、熱電発電モジュールの内部抵抗と同じ電気抵抗を有する場合に、熱電発電モジュールから最大の電力を取り出すことができる。式(1)から分かるように、熱電発電モジュールの電気抵抗Rに反比例して最大出力電力Pが低下する。従って、熱電発電モジュールの電気抵抗の変化を調査すれば、熱電発電モジュールの劣化の状態を知ることができる。
【0047】
試験条件1として、熱電発電モジュール全体の温度を280℃とし、雰囲気を酸素中として、電極に形成されたニッケルメッキの厚さが異なる複数の試料について加熱時間が800時間の耐久試験が行われた。
図4は、耐久試験後における熱電発電モジュールの電気抵抗変化率の測定結果を示す図である。
図4において、横軸は、電極に形成されたニッケル(Ni)メッキの厚さ(μm)を表しており、縦軸は、初期値に対する電気抵抗変化率(%)を表している。
【0048】
ニッケル(Ni)メッキなしで金(Au)メッキのみの試料(Niメッキの厚さ0μm)では、良好に半田が電極に接合されておらず、電極自体も耐久試験後に酸化していた。結果として、耐久試験後の電気抵抗変化率は高い値となり、ニッケルの拡散及び酸化を抑制する目的で完全にニッケルを無くしてしまうことは困難であることが分かった。
【0049】
図4を参照すると、ニッケルメッキの厚さが0.2μm〜3μmの範囲、特に1μm付近で電気抵抗変化率が極小となった。ニッケルメッキの目的の1つは、電極の半田濡れ性の確保である。ニッケル膜が薄すぎたり、あるいは、存在しないと、電極の半田濡れ性が損なわれることから、電極の半田濡れ性を確実にするために、ニッケル膜は、少なくとも0.2μmの厚さを有することが必要である。
【0050】
また、電極の一部は半田処理を施されることがなく、ニッケルメッキ層(及び、場合によっては金メッキ層)のみを介して外気に晒される。従って、熱電発電モジュールの使用条件において電極の腐食を防止するために、ニッケル膜は、好ましくは0.9μm以上の厚さを有することが望ましい。加えて、ニッケル膜厚の標準偏差σが0.11μmであったことから、ニッケルメッキ工程の能力を考慮すると、確実に0.9μmの膜厚を確保するために、ニッケル膜は、さらに好ましくは1.2μm(0.9μm+0.3μm=1.2μm)以上の厚さを有することが望ましい。
【0051】
一方、
図4から、熱電発電モジュールの出力電力の低下を10%以内とするために、ニッケル膜は、3.0μm以下の厚さを有することが必要である。また、熱電発電モジュールの出力電力の低下を7.5%以内とするために、ニッケル膜は、好ましくは2.1μm以下の厚さを有することが望ましい。あるいは、熱電発電モジュールの出力電力の低下を5%以内とするために、ニッケル膜は、さらに好ましくは1.6μm以下の厚さを有することが望ましい。
【0052】
以上のことから、電極に形成されるニッケル(Ni)膜の厚さを、少なくとも0.2μm〜3.0μmの範囲内、好ましくは0.9μm〜2.1μmの範囲内、さらに好ましくは1.2μm〜1.6μmの範囲内に制限することにより、熱電変換素子と電極とを半田によって接合する際の半田付け性や接合強度を損なうことなく熱電発電モジュールを製造することができ、長期間に亘って電気抵抗を大きく増加させることなく熱電発電モジュールを使用することができる。
【0053】
試験条件2として、熱電発電モジュールの高温側温度を280℃とし、熱電発電モジュールの低温側温度を30℃とし、雰囲気を大気中として、熱電発電モジュールの高温側温度及び低温側温度を保持したまま、電極に形成されたニッケルメッキの厚さが異なる複数の試料について耐久試験が行われた。
図5は、耐久試験における熱電発電モジュールの出力電力の測定結果を示す図である。
図5において、横軸は、保持時間(hour)を表しており、縦軸は、初期値を「1」に規格化した出力電力を表している。
【0054】
図5に示すように、電極に形成されたニッケルメッキの厚さが20μmである熱電発電モジュールにおいては、保持時間が3000時間で出力電力が約10%低下した。一方、電極に形成されたニッケルメッキの厚さが0.9μmである熱電発電モジュールにおいては、保持時間が5000時間を超えても出力電力の低下が殆ど見られなかった。
【0055】
<耐久試験後の断面観察>
試験条件2の下で耐久試験が行われた複数の試料について、熱電発電モジュールの断面の観察が行われた。
図6は、電極保護層におけるニッケル膜厚の違いによる耐久試験後の熱電発電モジュールの断面の違いを示す図である。
【0056】
図6(A)は、電極に厚さ0.9μmのニッケルメッキが形成された熱電発電モジュールの試験開始から5000時間後における断面を示す顕微鏡写真である。
図6(A)に示すように、電極に厚さ0.9μmのニッケルメッキが形成された熱電発電モジュールにおいては、半田層内にニッケル酸化物が生成されるものの、ニッケル酸化物の生成量が限定的であり、電気抵抗を増加させるには至らない。また、半田接合時に電極の半田濡れ性を高めるために形成されたニッケルメッキは、耐久試験後にはほぼ全て拡散しており、その結果、電極の銅と半田とが直接接するようになるが、接合が切れることもない。
【0057】
図6(B)は、電極に厚さ20μmのニッケルメッキが形成された熱電発電モジュールの試験開始から3760時間後における断面を示す顕微鏡写真である。
図6(B)に示すように、電極に厚さ20μmのニッケルメッキが形成された熱電発電モジュールにおいては、半田層内にニッケル酸化物が層状に生成されており、電気抵抗の大幅な増加を引き起こしている。
【0058】
上記の耐久試験に供された熱電発電モジュールにおいては、半田接合層がニッケル−錫(Ni−Sn)合金で構成されている。従って、耐久試験の結果は、半田接合層を構成するニッケル−錫(Ni−Sn)合金中のニッケル(Ni)の影響を受けたものであるが、その影響は無視できる程度である。以下に、その理由を説明する。
【0059】
ニッケル−錫(Ni−Sn)合金は、加熱することにより、Ni
3Sn、Ni
3Sn
2、Ni
3Sn
4等の金属間化合物を生成し、それらの生成エンタルピーは、それぞれ、−24.9kJ/mol、−34.6kJ/mol、−24.0kJ/molである。熱電発電モジュールを高温で使用すると、ニッケル−錫(Ni−Sn)合金中のニッケル(Ni)及び錫(Sn)の拡散量が僅かな初期段階で、ニッケル−錫(Ni−Sn)合金の大部分が上記のような金属間化合物の混相となる。
【0060】
金属間化合物が形成された後は、半田接合層を構成するニッケル−錫(Ni−Sn)の金属間化合物がニッケル(Ni)と錫(Sn)とに分解する際にエネルギーが必要となるので、この金属間化合物を構成するニッケルが半田中に拡散するためには、単体のニッケルが半田中に拡散するよりも大きなエネルギーを必要とする。従って、半田接合層をニッケルではなくニッケル−錫合金で構成する場合には、熱電発電モジュールを高温の環境で長時間放置しても、半田接合層から半田層中へのニッケルの拡散が抑制される。
【0061】
非特許文献1によれば、鉛(Pb)中のニッケル(Ni)の拡散係数Dは、次式(2)で表される。
D=D
0・exp(−Q
0/kT) ・・・(2)
ここで、D
0=(1.1±0.05)×10
−2cm
2/secであり、Q
0=0.47±0.02eVである。
【0062】
半田接合層を構成するニッケル−錫(Ni−Sn)の金属間化合物がニッケル(Ni)と錫(Sn)とに分解してからでないとニッケル(Ni)が拡散できないとすると、まず、1モルのNi
3Sn、Ni
3Sn
2、Ni
3Sn
4を分解するために、24.9kJ、34.6kJ、24.0kJのエネルギーがそれぞれ必要になる。このとき、各々の金属間化合物から3モルのニッケル(Ni)が生成されることになる。即ち、1モルのニッケル(Ni)を生成するためには、8.3kJ、11.5kJ、8.0kJのエネルギーがそれぞれ必要である。
【0063】
図7は、単体のニッケルが鉛中に拡散する場合及びニッケル−錫の金属間化合物中のニッケルが鉛中に拡散する場合の拡散係数Dの温度による変化を示す図である。
図7において、横軸は、絶対温度Tの逆数(10
−4K
−1)を表しており、縦軸は、拡散係数D(cm
2/sec)を表している。単体のニッケル(Ni)が鉛(Pb)中に拡散する場合の拡散係数は、非特許文献1に基づいて計算されたものである。ニッケル−錫の金属間化合物(Ni
3Sn、Ni
3Sn
2、Ni
3Sn
4)中のニッケル(Ni)が鉛(Pb)中に拡散する場合の拡散係数は、金属間化合物が分解するために要するエネルギーを加味して計算されたものである。
【0064】
図8は、単体のニッケルが鉛中に拡散する場合の拡散係数D1に対するニッケル−錫の金属間化合物中のニッケルが鉛中に拡散する場合の拡散係数D2の比率D2/D1の組成による変化を示す図である。
図8において、横軸は、ニッケル−錫(Ni−Sn)の金属間化合物中におけるニッケル(Ni)の原子数の割合を表しており、縦軸は、単体のニッケルが鉛中に拡散する場合の拡散係数D1に対するニッケル−錫の金属間化合物中のニッケルが鉛中に拡散する場合の拡散係数D2の比率D2/D1を表している。また、実線は、280℃における比率D2/D1を表しており、破線は、250℃における比率D2/D1を表している。
【0065】
図7及び
図8に示す結果から、例えば、想定している最高の使用温度280℃においては、ニッケル−錫の金属間化合物(Ni
3Sn、Ni
3Sn
2、Ni
3Sn
4)が分解してからニッケルが鉛中に拡散する場合に、単体のニッケルが鉛中に拡散する場合と比較して、拡散係数が約18%以下となる。本実施形態において、半田接合層において60at%Ni−40at%Sn合金を使用するとすれば、この合金が分解してからニッケルが鉛中に拡散する場合に、単体のニッケルが鉛中に拡散する場合と比較して、拡散係数が約8%となる。半田接合層の厚さを0.9μmとすれば、60at%Ni−40at%Sn合金の膜厚を単体のニッケルの膜厚に換算すると、0.9μm×0.08=0.07μm相当のニッケル膜厚となり、従って、その影響は無視できる程度である。
【0066】
図9は、電極保護層におけるニッケル膜厚の違いによる熱電発電モジュールの経時変化の違いを説明するための断面図である。
図9(A)は、電極保護層90におけるニッケル膜が厚い(例えば、20μm)場合に、長期間の使用による熱電発電モジュールの断面の変化を示している。
【0067】
図9(A)に示すように、電極保護層90におけるニッケル膜が厚い場合には、熱電発電モジュールを長期間使用することによって、多量のニッケルが半田層80中に拡散し、拡散したニッケルが酸化して、半田層80内にニッケル酸化物が層状に生成されてしまう。ニッケル酸化物の電気抵抗は高いので、半田接合面と平行な面に沿ってニッケル酸化物が多量に生成されると、熱電発電モジュール全体の電気抵抗が大きく増加して、熱電発電モジュールの熱電変換特性が著しく低下してしまう。
【0068】
図9(B)は、電極保護層90におけるニッケル膜が薄い(例えば、0.9μm)場合に、長期間の使用による熱電発電モジュールの断面の変化を示している。
図9(B)に示すように、電極保護層90におけるニッケル膜が薄い場合には、熱電発電モジュールを長期間使用することによって、少量のニッケルが半田層80中に拡散しても、ニッケル酸化物が多量に生成されることはない。従って、熱電発電モジュールの電気抵抗は殆ど増加せず、熱電発電モジュールの初期特性が維持される。
【0069】
図9において、半田層80は、半田基材81と粒子82とを含んでいる。粒子82としては、銅(Cu)ボールが用いられる。銅ボールの直径は、5μm〜100μmが適している。銅ボールの直径が5μm未満である場合には、200℃以上の高温環境下で熱電発電モジュールを加圧すると半田層80の厚さが5μm未満となり、薄くなりすぎて接合不良となる。一方、銅ボールの直径が100μmを超える場合には、半田層80が厚くなって界面の電気抵抗が高くなり、電力損失が顕著となる。
【0070】
ところで、フルスケルトン構造の熱電発電モジュールと熱交換器とを熱伝導性グリースを用いて密着させる場合には、熱電発電モジュールと熱交換器との間に垂直方向に加える圧力が196kN/m
2(2kgf/cm
2)未満では熱抵抗が高くなるので、196kN/m
2(2kgf/cm
2)以上の圧力を垂直方向に加えて使用することが好ましい。
【0071】
そして、196kN/m
2(2kgf/cm
2)の圧力に耐え得る銅ボールの重量比としては0.75wt%以上を必要とすることから、銅ボールの重量比の下限は0.75wt%となる。銅ボールの重量比が0.75wt%を下回ると、銅ボールに作用する荷重が大きくなり、銅ボールが潰れたり、銅ボールを起点として熱電変換素子にクラックが生じてしまう。
【0072】
また、熱電発電モジュールと熱交換器との間に垂直方向に加える圧力を1960kN/m
2(20kgf/cm
2)にすると、銅ボールの重量比が7.5wt%である場合には熱電変換素子が変形しないことから、さらに好ましくは、銅ボールの重量比は7.5wt%以上である。
【0073】
一方、銅ボールの重量比に対する半田の接合成功率を測定すると、銅ボールの重量比が50wt%では成功率が約100%であり、銅ボールの重量比が75wt%では成功率が約93%である。従って、半田層80の半田における銅ボールの重量比が0.75wt%〜75wt%、さらに好ましくは、7.5wt%〜50wt%となるように、銅ボールが半田基材81に混合されることが望ましい。
【0074】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、当該技術分野において通常の知識を有する者によって、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。