【実施例】
【0027】
本発明の有利な特性は下記実施例の参照から見て取ることができ、下記実施例は、本発明の例示であって、限定するものではない。
【0028】
本発明の添加剤、及び得られる向上された熱可塑性樹脂を様々なポリオレフィンに対して試験した。具体的には、本添加剤を、ExxonMobil Chemical Company(テキサス州ヒューストン)から「HD 6719 Series」の名称で販売されている高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂に対して試験した。この製品は19g/10分のメルトインデックス及び0.952g/cm
3の密度を通例有する。本添加剤を、Nexeo Solutions, LLC(オハイオ州ダブリン)から「HIVAL(登録商標)2420」の名称で販売されているポリプロピレンホモポリマーに対しても試験した。この製品は、20g/10分のメルトインデックス及び0.903g/cm
3の密度を通例有する。試験対象のイオン性化合物は、Cray Valley USA, LLC(ペンシルベニア州エクストン)から入手した。少量の抗酸化剤、例えばBASF(ドイツ、ルートヴィヒスハーフェン)から「Irganox 1010」の名称で販売されている抗酸化剤、も使用した。
【0029】
配合は全て予備乾燥無しのドライブレンドであり、20mm共回転完全噛合い二軸スクリュー押出機で行った。前記押出機はシングルストランドダイを備えており、ダイは造粒前に水槽中で冷却した。供給口からダイまで恒温プロファイルを使用した。ポリエチレン又はポリプロピレンをベースとした配合を、それぞれ180℃及び210℃で行った。添加レベルは、熱可塑性樹脂組成物に対して約1〜約2重量%の添加剤の範囲であり、抗酸化剤を0.1%含んでいた。添加剤を含有しないベースラインとなる熱可塑性樹脂組成物も、各ポリオレフィン系において網羅した。
【0030】
降伏強さ(YS;測定単位はMPa)、引張強さ(TS;測定単位はMPa)、弾性係数(E;測定単位はGPa)、伸び率(パーセント(%)として測定)、及び加熱ひずみ/撓み温度(HDT;測定単位は℃)を含むいくつかの機械的性質について、既知のASTM規格を用いて、試料を試験した。試料は焼きなまされていない状態で、0.45MPa荷重で試験される。加熱撓み温度の測定をTA Instruments model 2980 Dynamic Mechanical Analyzer(DMA)で行い、二重片持固定具(dual cantilevered fixture)を用いて行った。HDT法は、室温から、ポリマーの融解転移温度(melt transition)の10℃下まで、2℃/分の勾配を規定した。DMA試料がASTM D−648による規定よりも小さい場合、ひずみ及び撓みを正規化して等価性を反映した。
【0031】
実施例1
第一実施例として、2種の亜鉛中心カルボン酸塩添加剤を用いて、高密度ポリエチレンに向上した機械的性質を与えるための単純な試験を行った。1−ナフトエ酸亜鉛及び1−ナフタレン酢酸亜鉛の添加量を約1%から約2%まで変化させて、高密度ポリエチレンの加熱撓み温度に対する影響を測定した。再現性のために反復試料を試験した。当業者に既知であるように、これらの成分を調整することで、特に望ましい特性を獲得することができる。例えば、添加剤の量を変化させることで、望ましい機械的性質及び本質的に有利な特徴を有する熱可塑性樹脂を獲得することができる。
【0032】
【表1】
【0033】
上記表1から分かる通り、1−ナフトエ酸亜鉛及び1−ナフタレン酢酸亜鉛の両添加剤は、向上した機械的性質、具体的には向上した加熱撓み温度、を高密度ポリエチレンに与えた。対照である未処理高密度ポリエチレンの加熱撓み温度は39.69℃〜40.09℃の範囲であり、平均温度は39.84℃であった。上記表1から分かる通り、たった1%の亜鉛中心カルボン酸塩添加剤でさえ、高密度ポリエチレンの加熱撓み温度を向上させた。2%の1−ナフトエ酸亜鉛を高密度ポリエチレンに使用した場合に、加熱撓み温度のさらなる向上が確認された。
【0034】
実施例2
さらなる実施例として、いくつかの亜鉛中心カルボン酸塩添加剤について、高密度ポリエチレンに向上した機械的性質を与えるかどうかを試験した。これらの添加剤の添加量を再度約1%から約2%まで変化させて、高密度ポリエチレンの機械的性質に対する影響を測定した。添加剤を含有しない未処理高密度ポリエチレン試料を対照試料として使用した。さらに、添加剤として酸化亜鉛を含有する試料を比較のために試験した。当業者に既知であるように、これらの成分を調整することで、特に望ましい特性を獲得することができる。例えば、添加剤の量を変化させることで、望ましい機械的性質及び本質的に有利な特徴を有する熱可塑性樹脂を獲得することができる。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
上記表2、表3、及び表4から分かる通り、亜鉛中心カルボン酸塩添加剤は高密度ポリエチレンの機械的性質に影響を与えた。全ての亜鉛中心カルボン酸塩添加剤が高密度ポリエチレンの機械的性質に影響を与えたが、いくつかの添加剤はこの目的に特に有用であった。例えば、1つ、2つ、又はそれ以上のカルボン酸官能性部分を有するイオン性化合物はこの目的の使用に好適であった。しかしながら、1つ、2つ、又は3つの芳香環を含有しているような芳香族環含有カルボン酸が、HDPEの機械的性質をより大きく向上させることが分かった。前記芳香族環含有カルボン酸としては、限定はされないが、桂皮酸亜鉛、ヒドロ桂皮酸亜鉛、1−ナフタレン酢酸亜鉛、及び1−ナフトエ酸亜鉛が挙げられる。
【0039】
本実施例による試験試料の機械的性質の結果を、
図1a〜
図1fに図示する。上記の図及び表から分かる通り、本発明の添加剤は元の熱可塑性樹脂に向上した機械的性質を与えた。いくつかの添加剤は、降伏強さ及び引張強さ等の特定の機械的性質において低減はしたが許容可能な測定値を有する熱可塑性樹脂を生成した。しかしながら、本発明の添加剤は、元の熱可塑性樹脂の加熱ひずみ/撓み温度特性を許容可能に保持又は向上させた。特に注目すべきことに、1つ、2つ、又は3つの芳香環を含有するような芳香環含有カルボン酸はHDPEの機械的性質をより大きく向上させることが分かった。具体的には、桂皮酸亜鉛、ヒドロ桂皮酸亜鉛、1−ナフタレン酢酸亜鉛、及び1−ナフトエ酸亜鉛が、他の添加剤よりも大きく、元のポリオレフィンの機械的性質を保持又は向上させることが分かった。さらに、本発明の添加剤は、元の熱可塑性樹脂がその固有の有益な特性(例えば、化学安定性及び加工性)を保持することを可能にする。さらに、当業者には容易に理解されることであるが、得られる熱可塑性樹脂においてあらゆる望ましい特性又は機械的性質が達成されるように、本添加剤を選択することが可能である。
【0040】
実施例3
前述の通り、いくつかの亜鉛中心カルボン酸塩添加剤について、高密度ポリエチレンに向上した機械的性質を与えるかどうかを試験した。これらの添加剤のうちいくつかが、他の添加剤よりも、熱可塑性ポリマーにより優れた機械的性質を与えることが分かった。例えば、1−ナフトエ酸亜鉛及び1−ナフタレン酢酸亜鉛が、他の亜鉛中心カルボン酸塩添加剤よりも、HDPEにより優れた機械的性質を与えることが分かった。比較のために、カルボン酸塩添加剤の中心にある金属を置換する試験を行った。種々の試料において、亜鉛をマグネシウム又はカルシウムと置換して、それぞれ、ナフトエ酸マグネシウム(すなわちナフトエ酸のMg塩)及びナフタレン酢酸マグネシウム、並びにナフトエ酸カルシウム(すなわちナフトエ酸のCa塩)及びナフタレン酢酸カルシウムを形成させた。これらの添加剤の添加量を再度約1%から約2%まで変化させて、高密度ポリエチレンの機械的性質に対する影響を測定した。添加剤を含有しない未処理高密度ポリエチレン試料を再度、対照試料として使用した。
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【0043】
【表7】
【0044】
上記表5、表6、及び表7から分かる通り、金属中心カルボン酸塩添加剤はHDPEの機械的性質に様々な程度で影響を与えた。亜鉛中心カルボン酸塩添加剤はカルシウム中心カルボン酸塩添加剤よりも良好に作用し、亜鉛中心カルボン酸塩添加剤及びカルシウム中心カルボン酸塩添加剤は共にマグネシウム中心カルボン酸塩添加剤よりも良好に作用した。しかしながら、当業者には容易に理解されることであるが、得られるポリエチレン熱可塑性樹脂においてあらゆる望ましい特性又は機械的性質が達成されるように、本添加剤を選択することが可能である。
【0045】
実施例4
上記実施例は高密度ポリエチレンに対する金属中心カルボン酸塩添加剤の影響を示している。本発明の添加剤は他の熱可塑性ポリマー、特にポリプロピレン等のポリオレフィンにも好適に使用することができる。従って、1−ナフトエ酸亜鉛(すなわち、ナフトエ酸のZn塩)、1−ナフタレン酢酸亜鉛、1−ナフトエ酸マグネシウム(すなわち、ナフトエ酸のMg塩)、1−ナフタレン酢酸マグネシウム、1−ナフトエ酸カルシウム(すなわちナフトエ酸のCa塩)、及び1−ナフタレン酢酸カルシウムを用いて、ポリプロピレン(PP)に向上した機械的性質を与える試験を行った。これらの添加剤の添加量を再度約1%から約2%まで変化させた。添加剤を含有しない未処理ポリプロピレン試料を再度対照試料として使用した。
【0046】
【表8】
【0047】
【表9】
【0048】
【表10】
【0049】
上記表8、表9、及び表10から分かる通り、金属中心カルボン酸塩添加剤はPPの機械的性質に様々な程度で影響を与えた。亜鉛中心カルボン酸塩添加剤はカルシウム中心カルボン酸塩添加剤よりも良好に作用し、亜鉛中心カルボン酸塩添加剤及びカルシウム中心カルボン酸塩添加剤は共にマグネシウム中心カルボン酸塩添加剤よりも良好に作用した。しかしながら、当業者には容易に理解されることであるが、得られるポリプロピレン熱可塑性樹脂においてあらゆる望ましい特性又は機械的性質が達成されるように、本添加剤を選択することが可能である。
【0050】
実施例5
本発明の添加剤及び向上された熱可塑性樹脂を、走査型電子顕微鏡法(SEM)及び光学顕微鏡法を用いてさらに解析した。その結果を、
図2a、
図2b、
図3a、
図3b、
図4a、及び
図4bに示す。
図2a及び
図2bは、分散した酸化亜鉛で処理された比較のためのHDPE試料についての、顕微鏡法による結果を示している。
図3a及び
図3bは、本発明の一つ又は複数の実施形態における、分散した1−ナフトエ酸亜鉛添加剤で処理されたHDPE試料についての、顕微鏡法による結果を示している。
図4a及び
図4bは、本発明の一つ又は複数の実施形態における、分散した1−ナフトエ酸カルシウム添加剤で処理されたHDPE試料についての、顕微鏡法による結果を示している。当業者には理解されることであるが、本発明の添加剤で処理されたHDPE試料の顕微鏡法による結果は、分散した酸化亜鉛で処理された試料の結果と比較した場合、向上した機械的性質を示す特徴を示している。理論に縛られるものではないが、本発明の添加剤で処理された熱可塑性樹脂に関する有利な顕微鏡法による結果は、添加剤の相互作用的な配位子及びイオン結合特性に関連していると考えられる。さらに、ポリオレフィン基材中の添加剤の均質分布は、添加剤とポリオレフィンの適合性が、亜鉛金属中心を取り囲む有機配位子によって、無機酸化亜鉛と比較して有意に向上されることを示している。亜鉛中心カルボン酸塩添加剤はカルシウム中心カルボン酸塩添加剤よりも良好に作用し、亜鉛中心カルボン酸塩添加剤及びカルシウム中心カルボン酸塩添加剤は共に、酸化亜鉛又は未処理HDPEよりも好ましかった。これらの結果により、そのような添加剤がポリオレフィンのポリマー鎖を物理的に固定化することで、得られる熱可塑性樹脂に向上した機械的性質が与えられるという理論が示される。
【0051】
上記のように、カルボン酸金属塩等の一つ又は複数の金属塩を含有する本発明の添加剤は、熱可塑性樹脂に向上した機械的性質を与える。例えば、本発明の特定の添加剤は、向上した加熱撓み温度、弾性率、及び引張強さ等の向上した機械的性質を、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂に与える。添加剤が存在しない場合と比較して機械的性質の向上が達成されるように、添加剤を含有する増強された熱可塑性樹脂材料を配合することができる。添加剤を含有する増強された熱可塑性樹脂材料(例えば増強されたポリオレフィン)を使用することで、種々の製造技術を用いて様々な物品を製造することができる。増強された熱可塑性樹脂材料中にそのような添加剤が存在することにより、元のポリオレフィンに固有な特定の望ましい特徴(例えば、再加工性)は保持されたまま、熱可塑性樹脂の機械的性質は向上される。
【0052】
本発明の好ましい実施形態が本明細書において示され、そして記述されたが、当然ながら、そのような実施形態は例示のみを目的として提供されている。多数の変形形態、変更形態、及び代替形態が、本発明の精神からの逸脱なく、当業者に想起される。従って、本発明は、目的を遂行し、言及される目標及び有意性、並びにそれに固有の他のものを達成するように、充分に構成されている。本発明の特に好ましい実施形態を参照することにより、本発明は表現及び説明され、そして定義されているが、そのような参照は本発明の限定を意味するものではなく、そのような限定は推論されるべきではない。当業者には明白であるように、本発明は形態及び機能において多くの変更形態、変形形態及び等価形態が可能である。表現及び説明された本発明の好ましい実施形態は、例示のみを目的としており、本発明の範囲を狭めるものではなく、当業者には明らかであろう適切な等価物があらゆる点で包含される。