特許第6404993号(P6404993)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404993
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂用カルボン酸金属塩添加剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20181004BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20181004BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K5/098
   C08J5/00
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-103499(P2017-103499)
(22)【出願日】2017年5月25日
(62)【分割の表示】特願2014-527193(P2014-527193)の分割
【原出願日】2012年8月17日
(65)【公開番号】特開2017-214560(P2017-214560A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2017年6月8日
(31)【優先権主張番号】13/216,398
(32)【優先日】2011年8月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514138075
【氏名又は名称】フィナ テクノロジー,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー ローランド オースティン
(72)【発明者】
【氏名】ハーバート シン−アイ チャオ
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−503152(JP,A)
【文献】 米国特許第6914094(US,B2)
【文献】 米国特許第3522223(US,A)
【文献】 米国特許第3591538(US,A)
【文献】 英国特許出願公開第1338142(GB,A)
【文献】 特開平11−255957(JP,A)
【文献】 特開平07−316354(JP,A)
【文献】 特開昭63−268743(JP,A)
【文献】 特開2006−213917(JP,A)
【文献】 米国特許第3322739(US,A)
【文献】 特開平03−188139(JP,A)
【文献】 特開平11−021391(JP,A)
【文献】 特開平03−188140(JP,A)
【文献】 特開2006−328121(JP,A)
【文献】 特開昭64−036633(JP,A)
【文献】 特開平10−279739(JP,A)
【文献】 特開2003−041073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00
C08K 5/098
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマー並びに中心金属元素及び一つ又は複数のカルボン酸官能性部分を含む一つ又は複数のイオン性化合物を含む熱可塑性樹脂組成物であって、前記一つ又は複数のイオン性化合物が、置換又は非置換の芳香環を有する、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、9−アントラセンカルボン酸、3−フェナンスレンカルボン酸、4−フェナンスレンカルボン酸、9−フェナンスレンカルボン酸、1−ナフタレン酢酸、2−フェナンスレンカルボン酸、桂皮酸、ヒドロ桂皮酸、及びフェニル酢酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択される芳香環含有カルボン酸の亜鉛塩である、熱可塑性樹脂組成物
【請求項2】
前記組成物が前記組成物の0.1重量%〜10重量%の前記一つ又は複数のイオン性化合物を含有する、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記組成物が前記組成物の0.5重量%〜5重量%の前記一つ又は複数のイオン性化合物を含有する、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記一つ又は複数のイオン性化合物が、フェニル酢酸亜鉛、桂皮酸亜鉛、ヒドロ桂皮酸亜鉛、ナフトエ酸亜鉛、ナフタレン酢酸亜鉛、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む、向上した機械的性質を有する高分子物品。
【請求項6】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物を押出成形、射出成形、注型成形、又はプレス成形する工程を含む高分子物品の製造方法
【請求項7】
前記熱可塑性ポリマーがポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)である、請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物
【請求項8】
前記熱可塑性ポリマーがポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレンゴム、ポリイソブチレン、シクロポリオレフィン、ポリイソプレン、ポリ−α−オレフィン、又はそれらの混合物である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的性質、例えば加熱撓み温度、弾性率、及び引張強さを向上させる、熱可塑性樹脂用のカルボン酸金属塩添加剤に関する。より詳細には、本発明は、機械的性質を向上させるための添加剤組成物を含む、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂に関する。さらに本発明は、熱可塑性樹脂に向上した機械的性質を与えるための方法、結果として生じる増強された熱可塑性樹脂及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの産業上の利用において、配合される熱可塑性樹脂組成物にはコストと性能のバランスが求められる。その目的において、ポリエチレン及びポリプロピレン等の日用品材料はコストの観点からは魅力的な適合物であるが、加熱撓み温度、弾性率又は引張強さ(本明細書では機械的性質と称する)が不充分である。ガラスの強化等、機械的性質を向上させるための古典的な努力は、多くの場合、他の有利な特性の劣化を招く。さらに、熱可塑性樹脂の機械的性質を向上させる既知の方法では、多くの場合、プロセス操作及び資材要件においてかなりの逸脱が必要となる。
【0003】
ポリオレフィンは、化学安定性、価格、及び加工性を含むその固有の有利な特性のために、種々様々な応用において有用である。しかしポリオレフィンは、設計された熱可塑性樹脂に対抗する熱的特性を有していない。この不足をある程度克服する改善はいくらかなされてはいるが、概して、上記に列挙した有利な特性が損なわれてしまう。例えば、ポリオレフィンの加熱撓み温度は、高アスペクト比無機強化剤(例えばガラス繊維)の取り込み、基材の架橋、又は核形成によって効率的に向上させることができる。しかし、そのような添加剤が含有されることによって、他の望ましい特性は損なわれてしまう。
【0004】
熱可塑性樹脂の機械的性質を向上させるための既知の方法では、熱可塑性樹脂の構造への化学修飾、熱可塑性樹脂の結晶化特性の変化、又は熱可塑性樹脂組成物の架橋に焦点が当てられてきたが、それらは全て、機械的に頑強な熱可塑性樹脂を製造するための運用コストを増加させ得る、追加の工程及び設備を必要とする。例えば、米国特許第4,990,554号明細書は、75〜97重量%のポリオレフィン、及び25〜3重量%の繊維性無機充填材を含むポリオレフィン組成物について記載している。この方法では、材料の加熱撓み温度を支配する基本原理は高温で曲げ弾性率を保持する能力であると理論づけられている。結果的に、高い弾性率の無機充填材(例えばガラス又はミネラル)が熱可塑性樹脂に添加されることで、加えられた荷重に耐えるための内部骨格が与えられる。得られた組成物は、他の特性よりも熱撓み温度において、向上を示した。この機構は、加荷重に応じて共形変形に抗する、又は有機−無機境界面においてポリマー鎖の可動性を減じる、無機充填材によるものである。そのような強化熱可塑性樹脂は、所望の機械的性質を与え得るが、製造コストを増加させ得る追加の材料を要求する。また、上記の通り、これらの方法は多くの場合、流動性、加工性、変換の容易さ、及び比重等の熱可塑性樹脂の元の特性を低減する。
【0005】
米国特許第6,914,094号明細書は、グラフト変性ポリオレフィン−金属塩を含有するポリオレフィン組成物について記載している。前記組成物は、弾性率及び加熱撓み温度の両方において向上を示すことが分かった。金属塩は、グラフト変性組成物に導入されることで、酸を中和し、Surlyn(登録商標)の商標名でデュポン社により販売されている製品に似たアイオノマー構造を形成する可能性がある。金属塩が導入されることでアイオノマー構造が形成され、そのアイオノマー構造が分子間力及び分子内力を与えることで、熱可塑性樹脂の機械的性質が向上され得る。従って、機械的性質の向上はイオノマーの存在によって得られる。この方法による金属塩の含有は改変された熱可塑性樹脂に構造変化をもたらし、その構造変化はホストポリマーに関連する固有の特性に影響を与えることが知られている。その結果、ある機械的性質はこの方法により向上されるが、他の望ましい特性が犠牲に、すなわち失われることとなる。
【0006】
熱可塑性樹脂の機械的性質を向上させる別の既知の方法には、架橋結合が含まれる。架橋ポリオレフィンは新しい研究主題ではなく、実際、難燃性組成物を焦点として多数の研究がなされてきた。耐熱性向上のために、ポリオレフィン樹脂を化学的に架橋することができる。例えば、米国特許第5,378,539号明細書は、オレフィン、金属水酸化物、カップリング剤、過酸化物及び多官能性金属塩を含むオレフィン樹脂を含有し得る架橋組成物について記載している。前記金属塩は、過酸化物の存在により惹起される架橋結合反応に関与すると考えられている。最終産物は、向上した難燃性を有し、加えて、流動性及び転換の容易さ等の機械的性質のバランスが取れている。しかし、前記方法は煩雑であり、従来の配合装置における調節が難しい。さらに、最終組成物は熱硬化性物質であると考えられ、ポリオレフィンの望ましい特徴である再加工性を有していない。
【0007】
ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂において機械的性質を向上させる、当該技術分野において既知の別の方法は、核生成剤として金属塩を使用することである。例えば、米国特許第6,645,290号明細書は、結晶化速度を向上させるカルシウム塩、ナトリウム塩又はアルミニウム塩を含み得る核生成剤からなる組成物について記載している。前記組成物は向上した曲げ弾性率を有することが分かった。曲げ弾性率の向上は、加熱撓み温度の向上に相関することが知られている。ポリプロピレンは本来結晶化速度が遅いため、核生成はポリプロピレン特性を向上させるのに有効な手段である。この技術で1つ不充分であるのは、ポリエチレンファミリー等のより急速に結晶化するポリオレフィンに対して有効でないことである。さらに、成核剤としての金属塩を使用し、結果として熱可塑性樹脂を核生成するには、生産コストを増加させ得る追加の材料が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4990554号明細書
【特許文献2】米国特許第6914094号明細書
【特許文献3】米国特許第5378539号明細書
【特許文献4】米国特許第6645290号明細書
【発明の概要】
【0009】
現在、カルボン酸金属塩等の一つ又は複数の金属塩を含有する添加剤が、熱可塑性樹脂に向上した機械的性質を与えることが発見されている。例えば、本発明の特定の添加剤は、向上した加熱撓み温度、弾性率、及び引張強さ等の向上した機械的性質を、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂に与える。熱可塑性樹脂のいくつかの特性は低減される場合があるが、本発明の添加剤がいくつかの機械的性質を安定に保持し、同時に元の熱可塑性樹脂の重要な機械的性質(例えば加熱ひずみ/撓み温度)を大いに向上させることは理解される。従って、得られる熱可塑性樹脂においてある範囲の望ましい特徴又は機械的性質が達成されるように、添加剤を選択することができることは、当業者に容易に理解されることであろう。添加剤が存在しない場合と比較して機械的性質の向上が達成されるように、添加剤を含有する増強された熱可塑性樹脂材料を配合することができる。添加剤を含有する増強された熱可塑性樹脂材料(例えば増強されたポリオレフィン)を使用することで、種々の製造技術を用いて様々な物品を製造することができる。増強された熱可塑性樹脂材料中にそのような添加剤が存在することにより、元のポリオレフィンに固有な特定の望ましい特徴(例えば、再加工性)は保持されたまま、熱可塑性樹脂の機械的性質は向上される。
【0010】
従って、金属塩を含有する熱可塑性樹脂組成物は、本発明の頑強な機械的性質を欠く従来の熱可塑性樹脂に代わる、有利な代替物である。いかなる理論にも縛られるものではないが、金属塩によって与えられる機械的性質の向上は、金属中心に結合した配位子の特定の調整によって可能になると考えられる。驚くべきことに、分散性及び相互作用的な配位子及びイオン結合特性を有するそのような金属塩を使用することで、熱可塑性樹脂のポリマー鎖が物理的に固定化されることが分かった。驚くべきことに、これにより、架橋熱可塑性樹脂、強化熱可塑性樹脂、又は有核熱可塑性樹脂の機械的性質と同様の、又はそれより良好な機械的性質が与えられることが分かった。すなわち、本発明の添加剤、組成物、及び方法により、熱可塑性樹脂の機械的性質が、当該技術分野において既知の既存の工程に伴う制限、減損又は追加コストなしに、改善されることが分かった。本発明の添加剤及び方法は、一連の熱可塑性樹脂、特にポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィンに適用することができる。本発明の組成物が、再加工性等の他の望ましい特性を保持しながら、向上された機械的性質を有することが分かった。本発明の組成物により製造された物品が、さらなる処理又は追加の加工段階を要することなく、向上された機械的性質を有することが分かった。
【0011】
第一の実施形態において、本発明は、熱可塑性樹脂の機械的性質を向上させるための、中心金属元素及び一つ又は複数のカルボン酸官能性部分を含む一つ又は複数のイオン性化合物を含む添加剤に関する。概して、1つ、2つ、又はそれ以上のカルボン酸官能性部分を有するイオン性化合物は、この目的の使用に好適であった。芳香環含有カルボン酸を含有するイオン性化合物、例えば、1つ、2つ、又は3つの芳香環(縮合芳香環を含む)を含有するイオン性化合物も、熱可塑性樹脂に望ましい向上された機械的性質を与えることが分かった。カルボン酸金属塩等のいくつかの金属塩は、ポリオレフィンの機械的性質を向上させる機能を有する。金属塩としては、カルシウム、マグネシウム、及び亜鉛のカルボン酸塩が挙げられる。例えば、ジメタクリル酸亜鉛、ジアクリル酸亜鉛、イソ酪酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、酢酸亜鉛、イソ吉草酸亜鉛、ピバリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、マレイン酸亜鉛、アジピン酸亜鉛、フェニル酢酸亜鉛、桂皮酸亜鉛、ヒドロ桂皮酸亜鉛、ナフトエ酸亜鉛、ナフタレン酢酸亜鉛、イソフタル酸亜鉛、及びフタル酸亜鉛、並びに金属中心としてカルシウム又はマグネシウムを亜鉛の代わりとしているそれらの等価物、並びにそれらの混合物を、カルボン酸金属塩として使用することで、ポリオレフィンの機械的性質を向上させることができる。さらに、金属塩は、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)、スズ(Sn)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、アルミニウム(Al)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)、スカンジウム(Sc)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、及びビスマス(Bi)のカルボン酸金属塩であってもよい。これらのカルボン酸塩は、熱可塑性樹脂組成物中に容易に混合することができる。具体的には、一つ又は複数のカルボン酸官能性部分及び/又は官能基を有するいかなるカルボン酸金属塩も、本発明に使用することができる。いくつかのカルボン酸金属塩、又はそれらの塩がこの目的に適うことが分かっているが、桂皮酸亜鉛、ヒドロ桂皮酸亜鉛、ナフタレン酢酸亜鉛、及びナフトエ酸亜鉛は、例えば、特定のポリオレフィンに好適である。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、機械的性質が向上した熱可塑性樹脂組成物に関する。熱可塑性樹脂組成物は、ポリマー骨格を有するポリオレフィン並びに、それに結合した、中心金属元素及び一つ又は複数のカルボン酸官能性部分を含む一つ又は複数のイオン性化合物を含む。本発明の少なくとも1つの実施形態において、ポリマー骨格は脂肪族である。他の実施形態において、ポリマー骨格は、脂肪族繰り返し単位及び芳香族繰り返し単位を含有し得る。ポリマー骨格を含むポリオレフィンは、例えば、ポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)であり得る。
【0013】
好ましい実施形態において、本発明は機械的性質が向上したポリエチレン組成物に関する。ポリエチレン組成物は、一つ又は複数の繰り返しエチレン単位からなるポリマー骨格並びに、それに結合した、中心亜鉛元素及び一つ又は複数のカルボン酸官能性部分を含む一つ又は複数のイオン性化合物を有する。イオン性化合物は、1つ、2つ、又はそれ以上のカルボン酸官能性部分(芳香環含有カルボン酸部分を含む。)を有していてもよい。具体的には、桂皮酸亜鉛、ヒドロ桂皮酸亜鉛、ナフタレン酢酸亜鉛、及びナフトエ酸亜鉛を、本発明の本実施形態に従って熱可塑性樹脂を向上させるために使用することができる。
【0014】
更なる実施形態では、本発明は熱可塑性樹脂の機械的性質を向上させる方法であって、該方法は、ポリマー骨格を有する熱可塑性樹脂組成物に、中心金属元素及び一つ又は複数のカルボン酸官能性部分を含む一つ又は複数のイオン性化合物を含む添加剤を添加することを含み、該方法において、添加剤は一つ又は複数のイオン性化合物をポリマー骨格に結合するのに適した条件下で熱可塑性樹脂組成物に添加及び混合される。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)等のポリオレフィンであり得る。
【0015】
さらに別の実施形態において、本発明は、ポリマー骨格を有するポリオレフィン並びに、それに結合した、中心金属元素及び一つ又は複数のカルボン酸官能性部分を含む一つ又は複数のイオン性化合物を含む、向上した機械的性質を有する熱可塑性樹脂物品に関する。熱可塑性樹脂は、例えばポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)等のポリオレフィンであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の有利な特性は、以下の非限定的な図を参照することにより見て取ることができる。
図1a図1aは、実施例2に従って試験された試料の、MPa単位で測定された、降伏強さ(YS)の結果を比較した図である。
図1b図1bは、実施例2に従って試験された試料の、MPa単位で測定された、引張強さ(TS)の結果を比較した図である。
図1c図1cは、実施例2に従って試験された試料の、GPa単位で測定された、弾性係数(E)の結果を比較した図である。
図1d図1dは、実施例2に従って試験された試料の、パーセンテージ(%)として測定された、伸び率の結果を比較した図である。
図1e図1eは、実施例2に従って試験された試料の、摂氏温度単位で測定された、加熱ひずみ/撓み温度(HDT)の結果を比較した図である。
図1f図1fは、実施例2に従って試験された試料の、未処理熱可塑性樹脂からの変化率として測定された、加熱ひずみ/撓み温度(HDT)特性における向上を示す図である。
図2a図2aは、分散した酸化亜鉛添加剤で処理された比較用の熱可塑性樹脂試料の、走査型電子顕微鏡法(SEM)によって作成された画像である。
図2b図2bは、分散した酸化亜鉛添加剤で処理された比較用の熱可塑性樹脂試料の、光学顕微鏡法によって作成された画像である。
図3a図3aは、本発明の一実施形態における分散したナフトエ酸亜鉛添加剤で処理されたHDPE熱可塑性樹脂試料の、走査型電子顕微鏡法(SEM)によって作成された画像である。
図3b図3bは、本発明の一実施形態における分散したナフトエ酸亜鉛添加剤で処理されたHDPE熱可塑性樹脂試料の、光学顕微鏡法によって作成された画像である。
図4a図4aは、本発明の別の実施形態における分散したナフトエ酸カルシウム添加剤で処理されたHDPE熱可塑性樹脂試料の、走査型電子顕微鏡法(SEM)によって作成された画像である。
図4b図4bは、本発明の別の実施形態における分散したナフトエ酸カルシウム添加剤で処理されたHDPE熱可塑性樹脂試料の、光学顕微鏡法によって作成された画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一つ又は複数の実施形態において、本発明は向上した機械的性質を有する熱可塑性樹脂組成物に関する。熱可塑性樹脂組成物は、ポリマー骨格並びに、それに結合した、中心金属元素及び一つ又は複数のカルボン酸官能性部分を含む一つ又は複数のイオン性化合物を含むポリオレフィンを含む。「ポリマー」及び「樹脂」という用語は、本発明においては、同じ意味、すなわち、繰り返される単純分子が例えば重合プロセスによりいくつも連結されて構成される巨大な分子からなる天然又は合成化合物という意味を有していると解釈される。本発明の少なくとも1つの実施形態において、ポリマー骨格は脂肪族である。他の実施形態において、ポリマー骨格は脂肪族繰り返し単位及び芳香族繰り返し単位を含有していてもよい。
【0018】
ポリマー骨格を含むポリオレフィンは、例えば、特に、ポリエチレンファミリー(LLDPE、LDPE、HDPE等)、ポリプロピレン、及びコポリマーを表し得る。「ポリオレフィン」という用語には、本明細書で使用される場合、単純オレフィンから派生した熱可塑性ポリマーのクラス又はグループが含まれることが意図され、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン、エチレン‐プロピレンゴム、ポリブテン−1、ポリイソブチレン、シクロポリオレフィン、ポリイソプレン及びポリ−α−オレフィン等である。前記用語には、ホモポリマー、コポリマー、グラフトコポリマー等も含まれる。
【0019】
金属塩の構造はポリオレフィンの機械的性質に影響を与えることが分かっている。理論に縛られるものではないが、カルボン酸塩の金属中心に結合した配位子がホストポリマー内での分散を促進すると考えられる。金属イオンの結合性質を減じないような好ましい配位子立体配置を持つ金属中心構造を有する金属カルボン酸塩は、他よりも熱可塑性樹脂の機械的性質を向上することが分かっている。当然のことながら、本明細書に記載の添加剤は熱可塑性樹脂、特にポリオレフィンの機械的性質に影響を与える。いくつかの特性は元の熱可塑性樹脂から減弱される場合があるが、本発明の添加剤は、いくつかの機械的性質を安定に保持し、同時に元の熱可塑性樹脂の重要な機械的性質(例えば加熱ひずみ/撓み温度)を大いに向上させる。従って、得られる熱可塑性樹脂においてある範囲の望ましい特徴又は機械的性質が達成されるように、添加剤を選択することができることは、当業者に容易に理解されるであろう。
【0020】
カルシウム、マグネシウム、及び亜鉛のカルボン酸塩又はその酸を含むがこれらに限定はされないいくつかの金属塩は、ポリオレフィンの機械的性質を向上する機能を有する。概して、機能的な金属塩は、中心金属元素及び一つ又は複数のカルボン酸官能性部分を含むイオン性化合物であり得る。概して、1つ、2つ、又はそれ以上のカルボン酸官能性部分を有するイオン性化合物が、この目的の使用に好適であった。1つ、2つ、又は3つの芳香環(縮合芳香環を含む)を含有するような芳香環含有カルボン酸を含有するイオン性化合物も、熱可塑性樹脂に望ましい向上した機械的性質を与えることが分かった。例えば、ジメタクリル酸亜鉛、ジアクリル酸亜鉛、イソ酪酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、酢酸亜鉛、イソ吉草酸亜鉛、ピバリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、マレイン酸亜鉛、アジピン酸亜鉛、フェニル酢酸亜鉛、桂皮酸亜鉛、ヒドロ桂皮酸亜鉛、ナフトエ酸亜鉛(すなわちナフトエ酸の亜鉛塩)、ナフタレン酢酸亜鉛(すなわち1−ナフタレン酢酸の亜鉛塩)、イソフタル酸亜鉛、及びフタル酸亜鉛、並びに金属中心としてカルシウム又はマグネシウムを亜鉛の代わりとしているそれらの等価物、並びにそれらの混合物を、ポリオレフィンの機械的性質を向上させるための金属塩として使用することができる。いくつかのカルボン酸金属塩、又はそれらの塩がこの目的に適うことが分かっているが、桂皮酸亜鉛、ヒドロ桂皮酸亜鉛、ナフタレン酢酸亜鉛、及びナフトエ酸亜鉛は、例えば、特定のポリオレフィンに好適である。これらのカルボン酸金属塩のうちの一つ又は複数を含むポリオレフィンが、元のポリオレフィン及び酸化亜鉛を含有するポリオレフィンを上回る、向上した加熱撓み温度測定値を示している。
【0021】
一実施形態では、ポリオレフィン組成物を、下記の式Iを有する金属中心カルボン酸塩を組み込むことにより改良される。
【化1】
式中、R1及びR2は同じであっても異なっていてもよい。Mはカルシウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群から選択される金属である。R1及びR2は、少なくとも1つのアリール基を含有する炭素原子が約6〜約36個である飽和又は不飽和のヒドロカルビル基を表し、前記少なくとも1つのアリール基は置換されたアリール基であってもよいし非置換のアリール基であってもよい。カルボン酸塩は、例えば、安息香酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、9−アントラセンカルボン酸、3−フェナンスレンカルボン酸、4−フェナンスレンカルボン酸、9−フェナンスレンカルボン酸、及び2−フェナンスレンカルボン酸からなる群から選択される、カルボン酸含有化合物の塩であってもよく、芳香環は置換された芳香環であってもよいし非置換の芳香環であってもよい。さらに、カルボン酸塩は、桂皮酸、ヒドロ桂皮酸、及びフェニル酢酸からなる群から選択される、カルボン酸含有化合物の塩であってもよく、芳香環は置換された芳香環であってもよいし非置換の芳香環であってもよい。上記の通り、少なくとも1つの芳香族部分を有するカルボン酸金属塩、又はその塩を使用することが好まれる場合がある。
【0022】
理論に縛られるものではないが、現在、添加剤の金属中心と結合している配位子の構造を調整することにより、熱可塑性樹脂の機械的性質を向上させる変化が可能となることが確認されている。分散性及び相互作用的な配位子及びイオン結合特性を有することで、熱可塑性樹脂のポリマー鎖が物理的に固定され、それにより向上した機械的性質が与えられると考えられる。これらの機械的性質の向上は、当該技術分野において記述される方法によりポリオレフィンを架橋、強化、又は核形成することで得られる機械的性質の向上と同様、又はそれよりも良好であり、さらに、既知の方法のそれぞれについて上記で列挙された減損を伴わずに達成することができる。
【0023】
加えて、既知の従来技術より優れたもう一つの利点は、ホストポリマーの固有の、望ましい特性が保持されることである。例えば、ガラス繊維の取り込みは、流動性(例えば、加工性)を低減し、比重(成形品の重量)を増加し、耐衝撃性を低減し得る。ポリオレフィンの架橋は、熱可塑性樹脂材料の再加工性又は再利用性を低減又は排除し得る。架橋はまた、面倒な工程であることも知られている。従来技術の核形成法は、ポリマーの結晶性質に影響を与え、これが、望ましい化学的安定性及び寸法安定性、並びに遮断性の源となる。さらに、従来の成核剤はポリプロピレンを向上させるように設計されており、ポリエチレンへの使用に適していない。しかし、本発明の添加剤及び方法は、ポリエチレンとポリプロピレンとを区別せず、特に両タイプのポリオレフィンへの使用に好適であり得る。
【0024】
好ましい実施形態において、本発明は向上した機械的性質を有するポリエチレン熱可塑性樹脂組成物であり、該組成物は、一つ又は複数の繰り返しエチレン単位で作られるポリマー骨格、並びにそれと結合した、式IIの亜鉛中心カルボン酸塩を含む。
【化2】
式中、R1及びR2は同じであっても異なっていてもよい。R1及びR2は、少なくとも1つのアリール基を含有する炭素原子が約6〜約36個である飽和又は不飽和のヒドロカルビル基を表し、前記少なくとも1つのアリール基は置換されたアリール基であってもよいし非置換のアリール基であってもよい。カルボン酸塩は、芳香環上に追加の置換基を有する又は有しない、安息香酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、9−アントラセンカルボン酸、3−フェナンスレンカルボン酸、4−フェナンスレンカルボン酸、9−フェナンスレンカルボン酸、及び2−フェナンスレンカルボン酸からなる群から選択される、カルボン酸含有化合物の塩であってもよい。さらに、カルボン酸塩は、芳香環上に追加の置換基を有する又は有しない、桂皮酸、ヒドロ桂皮酸、及びフェニル酢酸からなる群から選択される、カルボン酸含有化合物の塩であってもよい。上記の通り、少なくとも1つの芳香族部分を有するカルボン酸金属塩、又はその塩を使用することが好まれる場合がある。例えば、好ましい実施形態では、亜鉛中心カルボン酸金属塩は、桂皮酸亜鉛、ヒドロ桂皮酸亜鉛、ナフタレン酢酸亜鉛、及びナフトエ酸亜鉛、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、カルボン酸含有化合物の塩であり得る。
【0025】
本発明の一部の実施形態において、本発明は、分散した金属塩を含有するポリオレフィンから形成される物品に関する。一実施形態において、金属塩は約0.1〜約10重量%の範囲で存在し、残りはポリオレフィンで構成される。金属塩の量は、ポリマー混合物の約0.1〜約10重量%、より具体的には約0.5〜約5重量%、さらにより具体的には約1〜約2.5重量%の範囲であり得る。当業者には既知であるが、組成物及び物品は、いくつかの他の添加剤、充填剤、安定剤、着色剤等をさらに含んでいてもよい。物品はいかなる工程によっても形成させることができ、その工程としては、特に、押出成形、射出成形、注型成形、又はプレス成形等の当該技術分野において既知の一つ又は複数の工程が挙げられる。
【0026】
本発明の向上された熱可塑性樹脂は、中心金属元素及び一つ又は複数のカルボン酸官能性部分を含む一つ又は複数のイオン性化合物を含む添加剤を、ポリマー骨格を含む熱可塑性樹脂組成物に添加することにより形成させることができる。本添加剤は、前記一つ又は複数のイオン性化合物が前記ポリマー骨格に結合するのに適した条件下で、熱可塑性樹脂組成物に添加し混合することができる。例えば、向上された熱可塑性樹脂は、粉末として又はペレット状で添加されたポリマーと共に、二軸スクリュー押出機中で加工することができる。上記の通り、当該技術分野において既知のいくつかの添加剤(例えば、ミネラルオイル、粘着付与剤、抗酸化剤、充填剤、着色剤、及び安定剤等)を添加して混合することができる。恒温プロファイルを工程に使用してもよい。ポリエチレン又はポリプロピレンをベースとした配合は、例えば、それぞれ180℃及び210℃で、適切に行うことができる。金属塩添加剤は、溶液状態で又は乾燥物質として、滴加(drop loading)又は当該技術分野において既知の他の方法等のいくつかの異なる方法で、配合物に添加することができる。
【実施例】
【0027】
本発明の有利な特性は下記実施例の参照から見て取ることができ、下記実施例は、本発明の例示であって、限定するものではない。
【0028】
本発明の添加剤、及び得られる向上された熱可塑性樹脂を様々なポリオレフィンに対して試験した。具体的には、本添加剤を、ExxonMobil Chemical Company(テキサス州ヒューストン)から「HD 6719 Series」の名称で販売されている高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂に対して試験した。この製品は19g/10分のメルトインデックス及び0.952g/cm3の密度を通例有する。本添加剤を、Nexeo Solutions, LLC(オハイオ州ダブリン)から「HIVAL(登録商標)2420」の名称で販売されているポリプロピレンホモポリマーに対しても試験した。この製品は、20g/10分のメルトインデックス及び0.903g/cm3の密度を通例有する。試験対象のイオン性化合物は、Cray Valley USA, LLC(ペンシルベニア州エクストン)から入手した。少量の抗酸化剤、例えばBASF(ドイツ、ルートヴィヒスハーフェン)から「Irganox 1010」の名称で販売されている抗酸化剤、も使用した。
【0029】
配合は全て予備乾燥無しのドライブレンドであり、20mm共回転完全噛合い二軸スクリュー押出機で行った。前記押出機はシングルストランドダイを備えており、ダイは造粒前に水槽中で冷却した。供給口からダイまで恒温プロファイルを使用した。ポリエチレン又はポリプロピレンをベースとした配合を、それぞれ180℃及び210℃で行った。添加レベルは、熱可塑性樹脂組成物に対して約1〜約2重量%の添加剤の範囲であり、抗酸化剤を0.1%含んでいた。添加剤を含有しないベースラインとなる熱可塑性樹脂組成物も、各ポリオレフィン系において網羅した。
【0030】
降伏強さ(YS;測定単位はMPa)、引張強さ(TS;測定単位はMPa)、弾性係数(E;測定単位はGPa)、伸び率(パーセント(%)として測定)、及び加熱ひずみ/撓み温度(HDT;測定単位は℃)を含むいくつかの機械的性質について、既知のASTM規格を用いて、試料を試験した。試料は焼きなまされていない状態で、0.45MPa荷重で試験される。加熱撓み温度の測定をTA Instruments model 2980 Dynamic Mechanical Analyzer(DMA)で行い、二重片持固定具(dual cantilevered fixture)を用いて行った。HDT法は、室温から、ポリマーの融解転移温度(melt transition)の10℃下まで、2℃/分の勾配を規定した。DMA試料がASTM D−648による規定よりも小さい場合、ひずみ及び撓みを正規化して等価性を反映した。
【0031】
実施例1
第一実施例として、2種の亜鉛中心カルボン酸塩添加剤を用いて、高密度ポリエチレンに向上した機械的性質を与えるための単純な試験を行った。1−ナフトエ酸亜鉛及び1−ナフタレン酢酸亜鉛の添加量を約1%から約2%まで変化させて、高密度ポリエチレンの加熱撓み温度に対する影響を測定した。再現性のために反復試料を試験した。当業者に既知であるように、これらの成分を調整することで、特に望ましい特性を獲得することができる。例えば、添加剤の量を変化させることで、望ましい機械的性質及び本質的に有利な特徴を有する熱可塑性樹脂を獲得することができる。
【0032】
【表1】
【0033】
上記表1から分かる通り、1−ナフトエ酸亜鉛及び1−ナフタレン酢酸亜鉛の両添加剤は、向上した機械的性質、具体的には向上した加熱撓み温度、を高密度ポリエチレンに与えた。対照である未処理高密度ポリエチレンの加熱撓み温度は39.69℃〜40.09℃の範囲であり、平均温度は39.84℃であった。上記表1から分かる通り、たった1%の亜鉛中心カルボン酸塩添加剤でさえ、高密度ポリエチレンの加熱撓み温度を向上させた。2%の1−ナフトエ酸亜鉛を高密度ポリエチレンに使用した場合に、加熱撓み温度のさらなる向上が確認された。
【0034】
実施例2
さらなる実施例として、いくつかの亜鉛中心カルボン酸塩添加剤について、高密度ポリエチレンに向上した機械的性質を与えるかどうかを試験した。これらの添加剤の添加量を再度約1%から約2%まで変化させて、高密度ポリエチレンの機械的性質に対する影響を測定した。添加剤を含有しない未処理高密度ポリエチレン試料を対照試料として使用した。さらに、添加剤として酸化亜鉛を含有する試料を比較のために試験した。当業者に既知であるように、これらの成分を調整することで、特に望ましい特性を獲得することができる。例えば、添加剤の量を変化させることで、望ましい機械的性質及び本質的に有利な特徴を有する熱可塑性樹脂を獲得することができる。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
上記表2、表3、及び表4から分かる通り、亜鉛中心カルボン酸塩添加剤は高密度ポリエチレンの機械的性質に影響を与えた。全ての亜鉛中心カルボン酸塩添加剤が高密度ポリエチレンの機械的性質に影響を与えたが、いくつかの添加剤はこの目的に特に有用であった。例えば、1つ、2つ、又はそれ以上のカルボン酸官能性部分を有するイオン性化合物はこの目的の使用に好適であった。しかしながら、1つ、2つ、又は3つの芳香環を含有しているような芳香族環含有カルボン酸が、HDPEの機械的性質をより大きく向上させることが分かった。前記芳香族環含有カルボン酸としては、限定はされないが、桂皮酸亜鉛、ヒドロ桂皮酸亜鉛、1−ナフタレン酢酸亜鉛、及び1−ナフトエ酸亜鉛が挙げられる。
【0039】
本実施例による試験試料の機械的性質の結果を、図1a〜図1fに図示する。上記の図及び表から分かる通り、本発明の添加剤は元の熱可塑性樹脂に向上した機械的性質を与えた。いくつかの添加剤は、降伏強さ及び引張強さ等の特定の機械的性質において低減はしたが許容可能な測定値を有する熱可塑性樹脂を生成した。しかしながら、本発明の添加剤は、元の熱可塑性樹脂の加熱ひずみ/撓み温度特性を許容可能に保持又は向上させた。特に注目すべきことに、1つ、2つ、又は3つの芳香環を含有するような芳香環含有カルボン酸はHDPEの機械的性質をより大きく向上させることが分かった。具体的には、桂皮酸亜鉛、ヒドロ桂皮酸亜鉛、1−ナフタレン酢酸亜鉛、及び1−ナフトエ酸亜鉛が、他の添加剤よりも大きく、元のポリオレフィンの機械的性質を保持又は向上させることが分かった。さらに、本発明の添加剤は、元の熱可塑性樹脂がその固有の有益な特性(例えば、化学安定性及び加工性)を保持することを可能にする。さらに、当業者には容易に理解されることであるが、得られる熱可塑性樹脂においてあらゆる望ましい特性又は機械的性質が達成されるように、本添加剤を選択することが可能である。
【0040】
実施例3
前述の通り、いくつかの亜鉛中心カルボン酸塩添加剤について、高密度ポリエチレンに向上した機械的性質を与えるかどうかを試験した。これらの添加剤のうちいくつかが、他の添加剤よりも、熱可塑性ポリマーにより優れた機械的性質を与えることが分かった。例えば、1−ナフトエ酸亜鉛及び1−ナフタレン酢酸亜鉛が、他の亜鉛中心カルボン酸塩添加剤よりも、HDPEにより優れた機械的性質を与えることが分かった。比較のために、カルボン酸塩添加剤の中心にある金属を置換する試験を行った。種々の試料において、亜鉛をマグネシウム又はカルシウムと置換して、それぞれ、ナフトエ酸マグネシウム(すなわちナフトエ酸のMg塩)及びナフタレン酢酸マグネシウム、並びにナフトエ酸カルシウム(すなわちナフトエ酸のCa塩)及びナフタレン酢酸カルシウムを形成させた。これらの添加剤の添加量を再度約1%から約2%まで変化させて、高密度ポリエチレンの機械的性質に対する影響を測定した。添加剤を含有しない未処理高密度ポリエチレン試料を再度、対照試料として使用した。
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【0043】
【表7】
【0044】
上記表5、表6、及び表7から分かる通り、金属中心カルボン酸塩添加剤はHDPEの機械的性質に様々な程度で影響を与えた。亜鉛中心カルボン酸塩添加剤はカルシウム中心カルボン酸塩添加剤よりも良好に作用し、亜鉛中心カルボン酸塩添加剤及びカルシウム中心カルボン酸塩添加剤は共にマグネシウム中心カルボン酸塩添加剤よりも良好に作用した。しかしながら、当業者には容易に理解されることであるが、得られるポリエチレン熱可塑性樹脂においてあらゆる望ましい特性又は機械的性質が達成されるように、本添加剤を選択することが可能である。
【0045】
実施例4
上記実施例は高密度ポリエチレンに対する金属中心カルボン酸塩添加剤の影響を示している。本発明の添加剤は他の熱可塑性ポリマー、特にポリプロピレン等のポリオレフィンにも好適に使用することができる。従って、1−ナフトエ酸亜鉛(すなわち、ナフトエ酸のZn塩)、1−ナフタレン酢酸亜鉛、1−ナフトエ酸マグネシウム(すなわち、ナフトエ酸のMg塩)、1−ナフタレン酢酸マグネシウム、1−ナフトエ酸カルシウム(すなわちナフトエ酸のCa塩)、及び1−ナフタレン酢酸カルシウムを用いて、ポリプロピレン(PP)に向上した機械的性質を与える試験を行った。これらの添加剤の添加量を再度約1%から約2%まで変化させた。添加剤を含有しない未処理ポリプロピレン試料を再度対照試料として使用した。
【0046】
【表8】
【0047】
【表9】
【0048】
【表10】
【0049】
上記表8、表9、及び表10から分かる通り、金属中心カルボン酸塩添加剤はPPの機械的性質に様々な程度で影響を与えた。亜鉛中心カルボン酸塩添加剤はカルシウム中心カルボン酸塩添加剤よりも良好に作用し、亜鉛中心カルボン酸塩添加剤及びカルシウム中心カルボン酸塩添加剤は共にマグネシウム中心カルボン酸塩添加剤よりも良好に作用した。しかしながら、当業者には容易に理解されることであるが、得られるポリプロピレン熱可塑性樹脂においてあらゆる望ましい特性又は機械的性質が達成されるように、本添加剤を選択することが可能である。
【0050】
実施例5
本発明の添加剤及び向上された熱可塑性樹脂を、走査型電子顕微鏡法(SEM)及び光学顕微鏡法を用いてさらに解析した。その結果を、図2a、図2b、図3a、図3b、図4a、及び図4bに示す。図2a及び図2bは、分散した酸化亜鉛で処理された比較のためのHDPE試料についての、顕微鏡法による結果を示している。図3a及び図3bは、本発明の一つ又は複数の実施形態における、分散した1−ナフトエ酸亜鉛添加剤で処理されたHDPE試料についての、顕微鏡法による結果を示している。図4a及び図4bは、本発明の一つ又は複数の実施形態における、分散した1−ナフトエ酸カルシウム添加剤で処理されたHDPE試料についての、顕微鏡法による結果を示している。当業者には理解されることであるが、本発明の添加剤で処理されたHDPE試料の顕微鏡法による結果は、分散した酸化亜鉛で処理された試料の結果と比較した場合、向上した機械的性質を示す特徴を示している。理論に縛られるものではないが、本発明の添加剤で処理された熱可塑性樹脂に関する有利な顕微鏡法による結果は、添加剤の相互作用的な配位子及びイオン結合特性に関連していると考えられる。さらに、ポリオレフィン基材中の添加剤の均質分布は、添加剤とポリオレフィンの適合性が、亜鉛金属中心を取り囲む有機配位子によって、無機酸化亜鉛と比較して有意に向上されることを示している。亜鉛中心カルボン酸塩添加剤はカルシウム中心カルボン酸塩添加剤よりも良好に作用し、亜鉛中心カルボン酸塩添加剤及びカルシウム中心カルボン酸塩添加剤は共に、酸化亜鉛又は未処理HDPEよりも好ましかった。これらの結果により、そのような添加剤がポリオレフィンのポリマー鎖を物理的に固定化することで、得られる熱可塑性樹脂に向上した機械的性質が与えられるという理論が示される。
【0051】
上記のように、カルボン酸金属塩等の一つ又は複数の金属塩を含有する本発明の添加剤は、熱可塑性樹脂に向上した機械的性質を与える。例えば、本発明の特定の添加剤は、向上した加熱撓み温度、弾性率、及び引張強さ等の向上した機械的性質を、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂に与える。添加剤が存在しない場合と比較して機械的性質の向上が達成されるように、添加剤を含有する増強された熱可塑性樹脂材料を配合することができる。添加剤を含有する増強された熱可塑性樹脂材料(例えば増強されたポリオレフィン)を使用することで、種々の製造技術を用いて様々な物品を製造することができる。増強された熱可塑性樹脂材料中にそのような添加剤が存在することにより、元のポリオレフィンに固有な特定の望ましい特徴(例えば、再加工性)は保持されたまま、熱可塑性樹脂の機械的性質は向上される。
【0052】
本発明の好ましい実施形態が本明細書において示され、そして記述されたが、当然ながら、そのような実施形態は例示のみを目的として提供されている。多数の変形形態、変更形態、及び代替形態が、本発明の精神からの逸脱なく、当業者に想起される。従って、本発明は、目的を遂行し、言及される目標及び有意性、並びにそれに固有の他のものを達成するように、充分に構成されている。本発明の特に好ましい実施形態を参照することにより、本発明は表現及び説明され、そして定義されているが、そのような参照は本発明の限定を意味するものではなく、そのような限定は推論されるべきではない。当業者には明白であるように、本発明は形態及び機能において多くの変更形態、変形形態及び等価形態が可能である。表現及び説明された本発明の好ましい実施形態は、例示のみを目的としており、本発明の範囲を狭めるものではなく、当業者には明らかであろう適切な等価物があらゆる点で包含される。
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b