特許第6404999号(P6404999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404999
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】有機排水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20060101AFI20181004BHJP
   C02F 3/12 20060101ALI20181004BHJP
   C02F 3/30 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   C02F3/34 101B
   C02F3/12 J
   C02F3/30 C
   C02F3/12 M
   C02F3/12 P
   C02F3/30 A
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-112930(P2017-112930)
(22)【出願日】2017年6月7日
(62)【分割の表示】特願2013-237896(P2013-237896)の分割
【原出願日】2013年11月18日
(65)【公開番号】特開2017-177105(P2017-177105A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2017年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】山中 理
(72)【発明者】
【氏名】時本 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】榎木 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】平岡 由紀夫
【審査官】 佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−212490(JP,A)
【文献】 特開平07−016595(JP,A)
【文献】 特開2008−012425(JP,A)
【文献】 特開2003−200190(JP,A)
【文献】 特開2002−307094(JP,A)
【文献】 特開2006−315004(JP,A)
【文献】 特開2011−218346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/34
C02F 3/22
C02F 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気処理領域、雰囲気の範囲を調整可能な調整領域および好気処理領域をこの順に有する生物反応槽と、
前記好気処理領域における処理水のアンモニア濃度を測定するアンモニア濃度測定器と、
前記生物反応槽から流出した処理水の全窒素濃度を測定する全窒素濃度測定器と、
前記生物反応槽から流出した処理水の全リン濃度を測定する全リン濃度測定器と、
前記アンモニア濃度測定器、前記全窒素濃度測定器および前記全リン濃度測定器により測定された値に基づいて、前記調整領域の雰囲気の範囲を調整する制御部と、
前記調整領域の雰囲気の切替を行うエアレーション装置と、
前記好気処理領域の処理水の一部を前記調整領域の入側に返送可能な循環ラインと、
を具備し、
前記エアレーション装置は、ブロアと、このブロアから延びる空気配管と、この空気配管に設けられた開閉弁とを有し、
前記制御部の指令に基づいて、前記開閉弁の開度を調整することにより前記調整領域の雰囲気を制御し、
前記制御部は、前記調整領域の全部が好気雰囲気となり、かつ、前記全窒素濃度が所定の目標値T−Nを超え、前記アンモニア濃度が所定の目標値NH3未満の場合に、前記循環ラインによって前記処理水を循環させる有機排水処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記アンモニア濃度、前記全窒素濃度および前記全リン濃度についてあらかじめ設定された目標値を格納する目標値設定器と、
前記目標値と、前記アンモニア濃度測定器、前記全窒素濃度測定器および前記全リン濃度測定器で測定されたそれぞれの測定値とを照らし、前記調整領域の雰囲気の範囲を調整する切替判定部と、
を具備する請求項1に記載の有機排水処理装置。
【請求項3】
前記調整領域が、嫌気雰囲気、微好気雰囲気または好気雰囲気の1種または2種以上の雰囲気に切り替え可能であり、かつ、各雰囲気が占める範囲を調整可能な領域である請求項1または請求項2に記載の有機排水処理装置。
【請求項4】
前記調整領域に酸化還元電位計が備えられ、
前記制御部は、前記酸化還元電位計の測定結果に基づき、前記調整領域における各雰囲気の状態を維持するように前記エアレーション装置を制御する請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の有機排水処理装置。
【請求項5】
前記調整領域に酸化還元電位計が備えられ、
前記制御部は、前記酸化還元電位計の測定結果に基づき、前記調整領域における嫌気雰囲気、微好気雰囲気または好気雰囲気の範囲を調整する請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の有機排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、下水、農業集落排水、工場排水等の有機排水を、活性汚泥等の微生物により処理する有機排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生活排水を浄化処理する下水処理場では、もっとも代表的なプロセスとして、標準活性汚泥法が採用されてきた。標準活性汚泥法は、送風機により水中に空気を供給する曝気槽において、好気微生物により水中の有機汚濁物質を酸化分解するものである。この標準活性汚泥法では、有機物は分解除去できるものの、近年、顕在化している放流先の富栄養化問題の原因物質となる窒素やリンの除去を行うことができない。そこで、有機物を分解するとともに、窒素及びリンを除去する方法として、標準活性汚泥法の変法である窒素除去型の循環式硝化脱窒法、リン除去型の嫌気−好気活性汚泥法(AO法)、窒素・リン同時除去型の嫌気−無酸素−好気活性汚泥法(AO)法などの高度処理プロセスの導入が進められている。
【0003】
高度処理プロセスでは、流入下水から最初沈殿池で沈殿汚泥が除去された一次処理水が生物反応槽に送られる。次いで、生物反応槽内の嫌気槽、無酸素槽および好気槽において微生物の反応により、一次処理水から有機物、窒素、リンが除去されると同時に微生物の凝集体であるフロックが形成される。そして、フロックを含む二次処理水が最終沈殿池に送られる。最終沈殿池では二次処理水からフロックが沈殿、除去される。沈殿物の大部分は活性汚泥を含む返送汚泥として最終沈殿池から生物反応槽に戻され、沈殿物の一部は余剰汚泥として排出され、濃縮・脱水後に焼却処理される。
【0004】
有機排水中の窒素分としてのアンモニアの除去プロセスは次の通りである。まず、好気槽においてアンモニアが硝酸イオンに酸化され、酸化された硝酸イオンは無酸素槽に返送され、無酸素槽において微生物の作用により硝酸イオンが窒素ガスに還元される。また、リンの除去プロセスでは、嫌気槽において微生物からリンを吐き出させ、次いで好気槽において、微生物にリンを吸収させ、リンを吸収した微生物をフロックとして沈澱除去させる。好気槽において微生物に吸収されるリン量は、嫌気槽において微生物が吐き出すリン量よりも大量であり、この吐出量と吸収量の差に基づきリンの除去が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−212490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、既存の排水処理装置に、上記の高度処理方法を導入するためには、生物反応槽内に新たに嫌気槽、無酸素槽および好気槽を設けるために、攪拌機、ポンプなどの新たな機器の導入ならびに新たなコンクリート躯体の新設が必要となり、既存の設備の改造に手間がかかるという問題があった。
【0007】
また、窒素・リン同時除去型のAO法においては、窒素とリンの除去率がトレードオフの関係にあり、処理水中の窒素及びリンの濃度を同時に規制値以下にするのが困難であるという課題があった。それに対応するために、特許文献1では嫌気槽と好気槽の間にドラフトチューブエアレータ(DTA)により、嫌気−好気を切替え可能な嫌気好気兼用槽を設け、DTAの回転速度により撹拌モード(嫌気)と散気モード(好気)を切替えながら処理することで、窒素成分であるアンモニアとリンの除去の両立を図っている。
【0008】
しかしながらアンモニアは窒素成分の一成分でしかなく、好気槽においてアンモニアを硝酸イオンに酸化する反応を進行させるだけでなく、硝酸イオンを還元して窒素ガスに変換する脱窒反応の促進も、全窒素(T−N)の除去には重要である。また、隔壁によって区画された嫌気好気兼用槽を新たに設けなくてはならないため、設備改良の手間が生じていた。
【0009】
本発明の課題は、有機排水中の窒素及びリンを同時に除去可能であり、かつ、既存の設備への導入が容易な有機排水処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の有機排水処理装置は、
嫌気処理領域、雰囲気の範囲を調整可能な調整領域および好気処理領域をこの順に有する生物反応槽と、
前記好気処理領域における処理水のアンモニア濃度を測定するアンモニア濃度測定器と、
前記生物反応槽から流出した処理水の全窒素濃度を測定する全窒素濃度測定器と、
前記生物反応槽から流出した処理水の全リン濃度を測定する全リン濃度測定器と、
前記アンモニア濃度測定器、前記全窒素濃度測定器および前記全リン濃度測定器により測定された値に基づいて、前記調整領域の雰囲気の範囲を調整する制御部と、
前記調整領域の雰囲気の切替を行うエアレーション装置と、
前記好気処理領域の処理水の一部を前記調整領域の入側に返送可能な循環ラインと、
を具備し、
前記エアレーション装置は、ブロアと、このブロアから延びる空気配管と、この空気配管に設けられた開閉弁とを有し、
前記制御部の指令に基づいて、前記開閉弁の開度を調整することにより前記調整領域の雰囲気を制御し、
前記制御部は、前記調整領域の全部が好気雰囲気となり、かつ、前記全窒素濃度が所定の目標値T−Nを超え、前記アンモニア濃度が所定の目標値NH3未満の場合に、前記循環ラインによって前記処理水を循環させる
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る有機排水処理装置を示す模式図。
図2】第2実施形態に係る有機排水処理装置を示す模式図。
図3】第3実施形態に係る有機排水処理装置を示す模式図。
図4】第4実施形態に係る有機排水処理装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、各実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0013】
(第1の実施形態)
図1に示す本実施形態の有機排水処理装置1は、上流側から順に最初沈殿池2、生物反応槽3および最終沈殿池4を備えている。
【0014】
生物反応槽3は、微生物による分解作用を利用して汚水を浄化処理するための反応容器である。生物反応漕3には、上流側から、嫌気処理領域11、調整領域12、好気処理領域13がこの順に配置されている。嫌気処理領域11は、生物反応漕3の内容積のうちの15〜30%を占める領域とされ、好気処理領域13は、生物反応漕3の内容積のうちの40〜60%を占める領域とされ、残りが調整領域12とされる。
【0015】
最初沈殿池2は、有機排水を受け入れ、所定時間静置しておき、浮遊物質(SS)を沈殿させる一次処理設備である。最初沈殿池2には堰が設けられ、上澄み水が堰を乗り越えてオーバーフローラインに流れ込み、さらにオーバーフローラインから生物反応槽3に流入するようになっている。なお、最初沈殿池2の底部には図示しない汚泥排出ラインが連通し、汚泥が定期的に又は随時に排出されるようになっている。
【0016】
生物反応漕3には、曝気手段としてエアレーション装置20が備えられている。エアレーション装置20は、ブロア21と、ブロア21から延びる空気配管22と、空気配管22に設けられた流量調整弁23と、空気配管22から分岐した分岐管24と、各分岐管24に設けられた開閉弁25a〜25eと、各分岐管24の先端に取り付けられた散気板26a〜26eとから構成されている。散気板26a〜26eは、生物反応漕3の内部に設置されている。
【0017】
散気板26aは、生物反応漕3の嫌気処理領域11に設置されている。また、散気板26b及び26cは処理水が流れる方向に沿って調整領域12内に設置されている。更に、散気板26d〜26eは処理水が流れる方向に沿って好気処理領域13に設置されている。
【0018】
また、各分岐管24に設けられた開閉弁25a〜25eのうち、嫌気処理領域11に向かう分岐管24に設置された開閉弁25aは常に「閉」とされている。なお、分岐管24、開閉弁25a及び散気板26aの設置は省略してもよい。また、好気処理領域13に向かう分岐管24に設置された開閉弁25d及び25eは常に「開」とされている。更に、調整領域12に向かう分岐管24に設置された開閉弁25b及び25cは開度が自在に設定可能になっている。開閉弁25b及び25cは後述する制御部9に接続されており、制御部9の指令に基づき、弁の開度が制御される。これら開閉弁25b及び25cの開度を制御することで、調整領域12における雰囲気の範囲を調整可能になっている。たとえば、調整領域12の雰囲気を、嫌気雰囲気、微好気雰囲気または好気雰囲気の1種または2種以上に設定できるようになっている。
【0019】
更に、空気配管22に設けられた流量調整弁23は、風量コントローラ30に接続されており、風量コントローラ30の制御によって、空気の流量が調整可能となっている。
【0020】
また、生物反応漕3の好気処理領域13には、凝集剤供給装置50が備えられており、好気処理領域13を流れる処理水に凝集剤が投入できるようになっている。凝集剤供給装置50は、後述する制御部9に接続されている。
【0021】
嫌気処理領域11は、バルブが全閉であるため、定常運転時において嫌気性微生物が活性になるように嫌気雰囲気(ORP値がマイナス側)となる。より詳細には、ORP値が−200mV以下となる。ここでORP値とは酸化還元電位のことをいう。処理水のORP値がマイナスの場合はその処理水は還元状態にあるといえる。すなわち、曝気しないで嫌気的な状態におかれた汚水は電位が低くなる(マイナスのORP値)。嫌気処理領域11では、微生物からのリンの吐き出しが進むとともに、硝酸イオンから窒素への還元反応が進む。
【0022】
一方、好気処理領域13は、定常運転時において好気性微生物が活性になるように好気雰囲気(ORP値がプラス側)に調整されている。より詳細には、ORP値が50mV以上の範囲になるように調整されている。ORP値がプラスの場合はその処理水は酸化状態にあるといえる。すなわち、曝気が十分で好気的な状態におかれた処理水は電位が高くなる。好気処理領域13では、微生物によるリンの吸収が進むとともにアンモニアから硝酸イオンへの酸化反応が進む。
【0023】
調整領域12は、雰囲気を嫌気雰囲気、微好気雰囲気または好気雰囲気のいずれか1種または2種以上に切り替え可能であり、かつ、各雰囲気が占める範囲を調整可能とされている。図1に示す例では、調整領域12は、第1領域12aと第2領域12bの2つの領域に分けられる。第1領域12aは、散気板26bの設置箇所に対応する領域であり、第2領域12bは、散気板26cの設置箇所に対応する領域である。第1、第2領域12a、12bのそれぞれにおいて、雰囲気を独立して切り替え可能とされている。
【0024】
ここで、微好気雰囲気とは、ORP値が−50〜50mVの範囲になるように調整された雰囲気をいう。嫌気雰囲気が−200mV以下の範囲の雰囲気であり、好気雰囲気が50mV以上の範囲の雰囲気であるから、微好気雰囲気は、嫌気雰囲気と好気雰囲気の中間の状態にあるといえる。この微好気雰囲気では、硝酸イオンから窒素への還元反応と、アンモニアから硝酸イオンへの酸化反応とが同時に進む。
【0025】
調整領域12における雰囲気の切替は、エアレーション装置20を操作することにより行う。エアレーション装置20は、後述する制御部9の指令によって制御される。エアレーション装置20の各散気板から空気を供給しない場合は嫌気雰囲気となり、各散気板から空気を多量に供給する場合は好気雰囲気となり、各散気板から空気を少量に供給する場合は微好気雰囲気となる。好気雰囲気と微好気雰囲気の切替は、分岐管24に設けられた開閉弁25b、25cの開度を調整することで行う。たとえば、好気雰囲気にする場合は開閉弁25b、25cの開度を全開(100%開)とし、微好気雰囲気にする場合は開閉弁25b、25cの開度を、全開に対して5〜15%の開度とする。
【0026】
また、各雰囲気の占める範囲を調整するには、調整領域12に備えられた2つの散気板26b、26cからの空気供給量を独立に制御することで行う。たとえば、散気板26b、26cの両方の空気供給を止めた場合は、調整領域12の全部が嫌気雰囲気となる。また、散気板26bの空気供給を止めるとともに散気板26cから少量の空気を供給した場合は、第1領域12aが嫌気雰囲気となり、第2領域12bが微好気雰囲気となる。また、散気板26bから少量の空気を供給するとともに散気板26cから大量の空気を供給した場合は、第1領域12aが微好気雰囲気となり、第2領域12bが好気雰囲気となる。更に、散気板26b、26cの両方から大量の空気を供給した場合は、調整領域12の全部が好気雰囲気となる。図1に示す例では、調整領域12に2つの散気板26b、26cを設置することで調整領域12を更に2つの領域(第1、第2領域)に分けているが、散気板を更に数多く設置して、調整領域12をより多くの領域に分けることで、調整領域12における雰囲気をより柔軟に調整することが可能となる。
【0027】
最終沈殿池4の下流側には図示しない消毒設備が設けられ、消毒された最終処理水が放流用流路を通って河川や海洋に放流されるようになっている。
【0028】
また、最終沈澱池4には、返送配管40が備えられ、返送配管40の途中にはポンプ41が備えられている。返送配管40によって、返送汚泥及び処理水の一部が最終沈澱池4から生物反応漕3の上流部に常時戻される。
【0029】
また、有機排水処理装置1には、好気処理領域13を流れる処理水のアンモニア濃度を測定するアンモニア濃度測定器5と、好気処理領域13を流れる処理水の溶存酸素量を測定する溶存酸素測定器6と、生物反応槽3及び最終沈殿池4から流出された処理水の全窒素濃度及び全リン濃度をそれぞれ測定する全窒素濃度測定器7及び全リン濃度測定器8とが備えられている。
【0030】
アンモニア濃度測定器5及び溶存酸素測定器6は、風量コントローラ30に接続されている。更にアンモニア濃度測定器5は、後述する切替判定部9bにも接続されている。更にまた、全窒素濃度測定器7及び全リン濃度測定器8は後述する切替判定部9bに接続されている。
【0031】
更に、有機排水処理装置1には、生物反応漕3の調整領域12を制御する制御部9が備えられている。制御部9には、目標値設定器9aと切替判定部9bとが備えられている。制御部9は、たとえば中央演算装置を備えたコンピュータによって構成される。
【0032】
また、制御部9の切替判定部9bには、有機排水処理装置1を制御する制御プログラムが格納されている。この制御プログラムは、所定時間毎に、処理水のアンモニア濃度、全窒素濃度及び全リン濃度をそれぞれ測定する第1ステップと、処理水のアンモニア濃度、全窒素濃度及び全リン濃度の測定結果に基づき、調整領域12における嫌気雰囲気、微好気雰囲気及び好気雰囲気の範囲を調整する第2ステップとからなる。制御プログラムの動作は、後述する。
【0033】
制御プログラムの第1、第2ステップは、たとえば、制御部9を構成する中央演算装置に備えられた機能によって実現される。
【0034】
次に、図1に示す有機排水処理装置1を用いた有機排水の処理方法について説明する。 有機排水(原水)は,最初沈殿池2にて、固形分と液分に分離する。液分は生物反応槽3内に導入する。生物反応槽3内では微生物の凝集物である活性汚泥の働きにより、有機物質の分解除去と同時に、以下に示す原理で窒素、リンの除去が行われる。
【0035】
まず、窒素除去の原理を説明する。
有機排水中の窒素成分の大半はアンモニアイオン(NH)の形態で存在する。この窒素分は、酸素が存在する条件下で活性汚泥中に存在する硝化菌の働きにより、(1)式の反応により、硝酸性窒素(NO)まで酸化される。この反応は、主に、好気処理領域13において進行する。
【0036】
酸素が存在する条件(好気条件)
NH+2O→NO+HO+2H…(1)
【0037】
この硝酸性窒素が、酸素なしの条件で脱窒菌の働きにより、(2)式の反応により窒素ガスに還元される。この反応は、主に、嫌気処理領域11において進行する。(2)式の(H)は、下水中の有機物質(水素供与体)から与えられるため、この反応の促進のためには有機物が必要となる。有機物は、有機排水中の有機物でもよく、アルコール、カルボン酸等を嫌気処理領域11に供給することでもよい。
【0038】
酸素なしの条件(嫌気条件)
2NO+10H→N+2OH+4HO … (2)
【0039】
上述のように、好気雰囲気では、(1)式の反応が主に進行する。また、嫌気雰囲気では、(2)式の反応が主に進行する。更に、微好気雰囲気では、(1)式と(2)式の反応が同時に進む。
【0040】
ここで、(1)式のアンモニアから硝酸イオンへの反応の進行が不十分の場合は、(2)式の反応が進まず、処理水中の全窒素濃度が低減できない。従って、処理水中のアンモニア濃度及び全窒素濃度が高い場合は、(1)式を促進する必要があり、好気雰囲気を増やす必要がある。
【0041】
一方、(1)式の反応の進行が十分であっても、(2)式の反応が進まない場合は、処理水中の全窒素濃度が低減できない。従って、処理水中のアンモニア濃度が低いにも係わらず全窒素濃度が高い場合は、(2)式を促進する必要があるので、微好気雰囲気を増やす必要がある。
【0042】
次に、リン除去の原理について示す。
リンは、活性汚泥中に存在するリン蓄積菌の働きにより除去される。リン蓄積菌は嫌気雰囲気において、菌体内に蓄積したリンを吐出する。一方、好気雰囲気においては、嫌気雰囲気において菌体から吐出した以上のリンを吸収する。吐出量と吸収量との差分に相当するリンが水中から除去される。リンを体内に蓄えたリン蓄積菌は最終沈殿池4で余剰汚泥として引き抜かれることにより、除去される。また、リン蓄積菌によるリンの除去は、嫌気雰囲気の容積が大きいほど、効果的に進む場合が多い。なお、硝化・脱窒反応が促進される微好気条件ではリン蓄積菌によるリンの吐出は起こらない。
【0043】
以上の窒素、リンの除去の原理に基づき、本実施形態の有機排水の処理方法を、制御部9が実行する制御プログラムの動作と合わせて説明する。
【0044】
まず、初期状態として、調整領域12の第1領域12a、第2領域12bの両方が微好気雰囲気に設定されているとする。
【0045】
有機排水は、最初沈澱池2おいて固形分が沈降分離された後に、上澄み分が生物反応漕3に流入する。流入した有機排水は、嫌気処理領域11、調整領域12及び好気処理領域13を経て、生物反応漕3から流出する。また、好気処理領域13において処理水のアンモニア濃度及び溶存酸素量がアンモニア濃度測定器5及び溶存酸素測定器6によって測定され、測定結果が切替判定部9b及び風量コントローラ30に出力される。風量コントローラ30の指令に基づき、ブロワ21の送風量を制御する。ブロワの送風量に関しては、特開2005−199116号公報、特開2007−249767号公報に開示されているような方法でアンモニア濃度と溶存酸素量より、風量調節弁24を調節して曝気風量を制御する。
【0046】
生物反応漕3から流出した処理水は、活性汚泥とともに最終沈澱池4に流入する。最終沈澱池4において活性汚泥を沈降分離させることで処理水のみを環境中に放流する。最終沈澱池4から放流される処理水の全窒素濃度及び全リン濃度は、それぞれ測定器7、8によって測定され、その結果が制御部9の切替判定部9bに出力される。また、最終沈澱池4において沈降分離された活性汚泥は、一部が返送汚泥として返送配管40を経由して嫌気処理領域11に戻される。また、活性汚泥の残部は、脱水、焼却されて埋め立て処分される。
【0047】
生物反応漕3の嫌気処理領域11では、嫌気処理領域内の微生物により有機排水中の汚濁物質を分解して嫌気処理水とする。次に、調整領域12では、微好気雰囲気下で嫌気処理水中の汚濁物質を分解して中間処理水とする。次に、好気処理領域13では、好気処理領域13内の微生物により中間処理水中の汚濁物質を分解して処理水とする。また、好気処理領域13に備えられた凝集剤供給装置50から、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸鉄などの凝集剤を連続して添加し、処理水中に浮遊するフロックを凝集させる。なお、凝集剤の添加は、リンの化学的除去を促進する効果もあるので、後述するように、処理水中の全リン濃度によって、凝集剤の供給量を変動させる場合がある。
【0048】
また、嫌気処理領域11では、リン蓄積菌からのリンの吐出がなされるとともに、硝酸イオンから窒素への還元反応が進む。硝酸イオンは、好気処理領域13においてアンモニアの酸化反応により生成したものであり、返送汚泥とともに最終沈澱池4から返送配管40を経て嫌気処理領域11に戻されたものである。また、微好気雰囲気に調整された調整領域12では、処理水中のアンモニアの酸化反応と、硝酸イオンの還元反応とが同時に進む。更に、好気処理領域13では、処理水中のアンモニアの酸化反応が進む。
【0049】
ここで、制御プログラムのステップ1として、目標値設定器9aから、切替判定部9bに所定の目標値を出力する。目標値には、好気処理領域13における処理水中のアンモニア濃度の上限値(以下、目標値NH3という)、最終沈澱池4に流出した処理水の全窒素濃度の上限値(以下、目標値T−Nという)及び全リン濃度の上限値(以下、目標値という)が含まれる。
【0050】
目標値NH3は、たとえば、処理水中のアンモニア濃度及び全窒素濃度が高い場合に、(1)式を促進するために好気雰囲気を増やす必要があると判断する場合における処理水中のアンモニア濃度の上限である。
また、目標値T−Nは、たとえば、自主的に設定した全窒素濃度の排出目標値である。更に、目標値は、たとえば、自主的に設定した全リン濃度の排出目標値である。
なお、目標値T−N及び目標値は、これら排出規制値よりも低い値に設定することが、公害防止、環境保全の観点から好ましい。全窒素、全リンの排出規制値は、たとえば公定の排水の排出基準に定められた値を用いる。
【0051】
次に、制御プログラムのステップ2として、所定時間毎に、アンモニア濃度測定器5、全窒素濃度測定器7及び全リン濃度測定器8から、制御部9の切替判定部9bに、処理水中のアンモニア濃度、全窒素濃度、全リン濃度が入力される。そして、切替判定部9bにおいて、処理水中のアンモニア濃度、全窒素濃度、全リン濃度に基づき、調整領域12における雰囲気の種類及び範囲を決定する。決定内容に基づき、判定部9bが調整領域12の雰囲気を制御するエアレーション装置20に指令を発する。また、判定部9bは、凝集剤供給装置50に指令を発してもよい。
【0052】
ステップ2の実施頻度は、調整領域12における雰囲気の切替が頻繁になりすぎないように大よそ10分〜60分に1回程度とする。計算頻度は監視端末等から設定できるようにする。
【0053】
以下、表1を参照して、切替判定部9の動作を場合分けして説明する。
【0054】
【表1】
【0055】
(ケース1)
表1に示すように、全窒素濃度が目標値T−Nを超え、かつアンモニア濃度が目標値NH3を超える場合は、調整領域12における好気雰囲気の範囲を増やす。本ケースでは、アンモニア濃度が目標値NH3を超えているため、好気雰囲気の範囲を増やすことで、アンモニアから硝酸イオンへの酸化反応を促進させる。たとえば、初期状態において調整領域12の全部が微好気雰囲気となっている場合は、第2領域12bの雰囲気を微好気雰囲気から好気雰囲気とするべく、開閉弁25cの開度を全開にする。更に好気雰囲気を増やす場合は、第1領域12aの雰囲気を微好気雰囲気から好気雰囲気とするべく、開閉弁25bの開度を全開にする。このように、好気雰囲気の範囲を増やす場合は、好気処理領域13に近い側から順に切り替える。調整領域12の全部がすでに好気雰囲気になっている場合は、そのままの状態を維持する。なお、全窒素濃度が目標値T−Nを超過していることに対しては、たとえば、生物反応漕3への有機排水の流入量を一時的に減少または停止させることで対処する。あるいは、硝酸イオンから窒素への還元反応を促進するために、上記式(2)における水素源としてアルコールやカルボン酸等を処理水に供給してもよい。
【0056】
(ケース2)
表1に示すように、全窒素濃度が目標値T−Nを超え、アンモニア濃度が目標値NH3と等しい場合は、調整領域12における各雰囲気の範囲をそのままとする。その理由は、アンモニア濃度が目標値NH3と等しいので、アンモニアの酸化反応は十分であり、汚濁物質の分解処理を安定して行う観点から、雰囲気の範囲をあえて変更する必要がないためである。なお、全窒素濃度が目標値T−Nを超過していることに対しては、ケース1と同様に、たとえば、生物反応漕3への有機排水の流入量を一時的に減少または停止させることで対処する。あるいは、硝酸イオンから窒素への還元反応を促進するために、上記式(2)における水素源としてアルコールやカルボン酸等を処理水に供給してもよい。
【0057】
(ケース3)
表1に示すように、全窒素濃度が目標値T−Nを超え、アンモニア濃度が目標値NH3未満の場合には、調整領域12における微好気雰囲気の範囲を増やす。ケース3では、アンモニア濃度が目標値NH3未満であるので、アンモニアの酸化反応が進む雰囲気が十分確保されている一方で、全窒素濃度が目標値T−Nを超えていることから、微好気雰囲気の範囲を増やすことで、硝酸イオンの還元反応を促進させる。
【0058】
上記の初期状態では調整領域12全体が微好気雰囲気なので、それ以上に微好気雰囲気を増やす余地はない。しかしながら、たとえば、調整領域12の第1領域12a及び第2領域12bの両方が嫌気雰囲気の場合は、まず、好気処理領域13に近い側の第2領域12bを微好気雰囲気とするべく、開閉弁25cの開度を調整する。更に、微好気雰囲気を増やす必要があれば、第1領域12aを微好気雰囲気とするべく、開閉弁25bの開度を調整する。
【0059】
また、第1領域12a及び第2領域12bの両方が好気雰囲気の場合は、まず、嫌気処理領域11に近い側の第1領域12aを微好気雰囲気とするべく、開閉弁25bの開度を調整する。更に、微好気雰囲気を増やす必要があれば、第2領域12bを微好気雰囲気とするべく、開閉弁25cの開度を調整する。
【0060】
更に、第1領域12aが嫌気状態であり、第2領域12bが好気雰囲気の場合は、嫌気処理領域11に近い側の第1領域12aを微好気雰囲気とするべく、開閉弁25bの開度を調整する。更に、微好気雰囲気を増やす必要があれば、第2領域12bを微好気雰囲気とするべく、開閉弁25cの開度を調整する。
【0061】
調整領域12の全部がすでに微好気雰囲気になっている場合は、そのままの状態を維持する。なお、全窒素濃度が目標値T−Nを超過していることに対しては、たとえば、生物反応漕3への有機排水の流入量を一時的に減少または停止させることで対処する。あるいは、硝酸イオンから窒素への還元反応を促進するために、上記式(2)における水素源としてアルコールやカルボン酸等を処理水に供給してもよい。
【0062】
このように、微好気雰囲気の範囲を増やす場合は、好気処理領域13に近い側から切り替える場合と、嫌気処理領域11に近い側から切り替える場合とがある。
【0063】
(ケース4)
表1に示すように、全窒素濃度が目標値T−Nを超え、全リン濃度が目標値を超える場合には、凝集剤供給装置50からの凝集剤の供給量を増やす。すなわち、全リン濃度を低減するべく、凝集剤を通常よりもより多く添加してリンを汚泥とともに凝集させる化学的処理法を適用する。全窒素濃度の低減については、たとえば、生物反応漕3への有機排水の流入量を一時的に減少または停止させることで対処する。これは全リン濃度の低減にも有効である。また、全窒素濃度の低減のために、硝酸イオンから窒素への還元反応を促進するべく上記式(2)における水素源としてアルコールやカルボン酸等を処理水に供給してもよい。
【0064】
(ケース5)
表1に示すように、全窒素濃度が目標値T−Nを超え、全リン濃度が目標値に等しい場合には、そのままの状態を維持する。なお、全窒素濃度が目標値T−Nを超過していることに対しては、たとえば、生物反応漕3への有機排水の流入量を一時的に減少または停止させることで対処する。若しくは、硝酸イオンから窒素への還元反応を促進するために、上記式(2)における水素源としてアルコールやカルボン酸等を処理水に供給する。
【0065】
(ケース6)
表1に示すように、全窒素濃度が目標値T−Nを超え、全リン濃度が目標値未満の場合には、リンの除去が十分になされているから、凝集剤供給装置50からの凝集剤の供給量を減らす。全窒素濃度の低減については、たとえば、生物反応漕3への有機排水の流入量を一時的に減少または停止させることで対処する。これは全リン濃度の低減にも有効である。また、全窒素濃度の低減のために、硝酸イオンから窒素への還元反応を促進するべく上記式(2)における水素源としてアルコールやカルボン酸等を処理水に供給してもよい。
【0066】
(ケース7)
全窒素濃度が目標値T−N以下であり、リン濃度が目標値を超える場合は、調整領域12における嫌気雰囲気の範囲を増やす。全窒素濃度が目標値T−N未満なので、窒素の除去プロセスは順調であるのに対し、リン濃度が目標値を超えていることから、嫌気雰囲気の範囲を増やすことで、菌体からのリンの吐出を盛んにして、好気雰囲気における菌体によりリンの吸収量を増大させることで、リンの除去率を高めるようにする。
【0067】
具体的にはたとえば、初期状態において調整領域12の全部が微好気雰囲気となっている場合は、第1領域12aの雰囲気を微好気雰囲気から嫌気雰囲気とするべく、開閉弁25bの開度を全閉にする。次いで、更に嫌気雰囲気を増やす場合は、第2領域12bの雰囲気を微好気雰囲気から嫌気雰囲気とするべく、開閉弁25cの開度を全閉にする。このように、嫌気雰囲気の範囲を増やす場合は、嫌気処理領域11に近い側から順に切り替える。調整領域12の全部がすでに嫌気雰囲気になっている場合は、そのままの状態を維持する。
【0068】
このように、嫌気雰囲気の範囲を増やす場合は、嫌気処理領域11に近い側から順に切り替えるとよい。
【0069】
(ケース8)
全窒素濃度が目標値T−N以下であり、リン濃度が目標値以下の場合は、調整領域12における各雰囲気の範囲をそのままとする。窒素及びリンの除去が順調に行われているので、あえて雰囲気の範囲を変更する必要はない。
【0070】
上記の何れかのケースに従って有機排水処理装置1を運転し、その後、所定時間毎に、ステップ2を再度実施して、調整領域12における雰囲気の範囲を変更する。
【0071】
以上説明したように、本実施形態の有機排水の処理装置及び処理方法によれば、有機排水を処理する生物反応槽3に、嫌気処理領域11、調整領域12及び好気処理領域13をこの順に配置した上で、処理水の全窒素濃度及びアンモニア濃度に応じて、調整領域12における雰囲気の種類及び範囲を調整することで、窒素とリンの除去を同時に進めることができる。
【0072】
処理水の全窒素濃度が高く、かつ、アンモニア濃度が高い場合は、アンモニアの硝化反応を促進するべく、好気雰囲気を増やすことで、窒素の除去率を改善できる。
また、処理水の全窒素濃度が高く、かつ、アンモニア濃度が低い場合は、硝酸イオンの還元反応を促進するべく、微好気雰囲気を増やすことで、窒素の除去率を改善できる。 更に、処理水の全窒素濃度が低く、かつ、リン濃度が高い場合は、菌体からのリンの吐出を促してより多くのリンを菌体に吸収させるべく、嫌気雰囲気を増やすことで、リンの除去率を改善できる。
【0073】
更にまた、アンモニア濃度測定器5を生物反応槽3に設置することにより、切替判定だけでなく、曝気風量のコントロールにもアンモニア濃度測定器5を利用することができ、曝気風量の削減効果により、省エネを図ることができる。
【0074】
また、リンに関しては、凝集剤を添加することにより化学的にも除去できるため、リンの値に関わらず、全窒素濃度とアンモニア濃度に基づき調整領域12の雰囲気を制御することで、窒素の除去率を高めることができる。
【0075】
更に、既存の全面曝気方式の標準活性汚泥法の施設において、一部の開閉弁25b、25bを開度可変式の開閉弁とし、各種センサを追加設置するのみで本実施形態の処理方法及び処理装置を構築できるため、既存設備の改造を最小限にして窒素・リンの同時除去が可能になる。
【0076】
なお、本実施形態では以下の変更を加えても良い。
調整領域12の少なくとも一部を嫌気雰囲気とした場合や、嫌気処理領域11においては、たとえば1時間おきに数分程度、開閉弁25a〜25cを「開」として撹拌を促進させてもよい。
アンモニア濃度測定器5、全窒素濃度測定器7及び全リン濃度測定器8の設置位置は生物処理漕3の後段部から後ろであれば、最終沈殿池4に設置するなど、どこであってもよい。
また、図1では調整領域12を2つの領域に分けたが、1つの領域であってもよいし、3以上の領域であってもよい。
更に全リン濃度測定器8は、リン酸性のリン(PO4−P)を測定するリン酸計であってもよい。
【0077】
(第2の実施形態)
図2に、本実施形態の有機排水処理装置51を示す。図1に示した有機排水処理装置1と同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を一部省略する。
【0078】
図2に示す有機排水処理装置51の生物反応槽3には、上流側から、嫌気処理領域11、調整領域12、好気処理領域13がこの順に配置されている。
【0079】
また、生物反応漕3には、曝気手段としてエアレーション装置60が備えられている。エアレーション装置60は、ブロア21と、ブロア21から延びる空気配管22と、空気配管22に設けられた流量調整弁23と、空気配管22から分岐した分岐管24と、各分岐管24に設けられた開閉弁65a〜65bと、各分岐管24の先端に取り付けられた散気板66a〜66bとから構成されている。散気板66a〜66bは、生物反応漕3の好気処理領域13に設置されている。また、各分岐管24に設けられた開閉弁65a〜65bは、常に「開」とされている。
【0080】
また、生物反応漕3の調整領域12には、曝気手段としてドラフトチューブエアレーター71、72が設置されている。ドラフトチューブエアレーター71、72は、図示略の空気供給部と、回転可能な撹拌翼71a、71bとから構成されており、撹拌翼71a、71bの回転速度を調整することで、調整領域12における雰囲気を、嫌気雰囲気、微好気雰囲気または好気雰囲気の1種または2種以上に設定できるようになっている。
【0081】
調整領域12は、雰囲気を嫌気雰囲気、微好気雰囲気または好気雰囲気のいずれか1種または2種以上に切り替え可能であり、かつ、各雰囲気が占める範囲を調整可能とされている。図2に示す例では、調整領域12は、第1領域12aと第2領域12bの2つの領域に分けられる。第1領域12aは、ドラフトチューブエアレーター71の設置箇所に対応する領域であり、第2領域12bは、ドラフトチューブエアレーター72の設置箇所に対応する領域である。第1、第2領域12a、12bのそれぞれにおいて、雰囲気を独立して切り替え可能とされている。
【0082】
調整領域12における雰囲気の切替は、ドラフトチューブエアレーター71、72の回転速度を調整することにより行う。ドラフトチューブエアレーター71は、制御部9の指令によって制御される。ドラフトチューブエアレーター71、72を低速回転させると嫌気雰囲気となり、高速回転させると好気雰囲気となり、中速回転させると微好気雰囲気となる。ドラフトチューブエアレーター71、72の回転速度の設定は、処理水のORP値を基準にして各雰囲気毎に設定すればよい。
【0083】
また、各雰囲気の占める範囲を調整するには、調整領域12に備えられた2つのドラフトチューブエアレーター71、72の回転数を独立に制御することで行えばよい。たとえば、ドラフトチューブエアレーター71、72の両方を低速回転させた場合は、調整領域12の全部が嫌気雰囲気となる。また、ドラフトチューブエアレーター71を低速回転とし、ドラフトチューブエアレーター72を中速回転させた場合は、第1領域12aが嫌気雰囲気となり、第2領域12bが微好気雰囲気となる。また、ドラフトチューブエアレーター71を中速回転とし、ドラフトチューブエアレーター72を高速回転させた場合は、第1領域12aが微好気雰囲気となり、第2領域12bが好気雰囲気となる。更に、ドラフトチューブエアレーター71、72の両方を高速回転させた場合は、調整領域12の全部が好気雰囲気となる。図1に示す例では、調整領域12に2つのドラフトチューブエアレーター71、72を設置することで調整領域12を更に2つの領域(第1、第2領域)に分けているが、ドラフトチューブエアレーターを更に数多く設置して、調整領域12をより多くの領域に分けることで、調整領域12における雰囲気をより柔軟に調整することが可能となる。
【0084】
また、生物反応漕3の嫌気処理領域11には撹拌装置73が設置されており、たとえば1時間おきに数分程度、撹拌装置を撹拌させることで、嫌気処理を促進できるようになっている。
【0085】
以下、図2に示す有機排水処理装置51による有機排水の処理方法を説明する。なお、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、有機排水処理装置51は制御プログラムによって制御される。以下の処理方法の説明は、第1の実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0086】
まず、初期状態として、調整領域12の第1領域12a、第2領域12bの両方が微好気雰囲気に設定されているとする。ドラフトチューブエアレータ−71、72は、制御部9の指令により、両方とも中速回転されている。以下、上記表1の各ケースにおける動作を説明する。
【0087】
(ケース1)
表1のケース1を本実施形態において実施する場合、すなわち、調整領域12における好気雰囲気の範囲を増やす場合には、ドラフトチューブエアレーター71,72を以下の様に動作させる。たとえば、初期状態において調整領域12の全部が微好気雰囲気となっている場合は、第2領域12bの雰囲気を微好気雰囲気から好気雰囲気とするべく、ドラフトチューブエアレーター72を高速回転させる。更に好気雰囲気を増やす場合は、第1領域12aの雰囲気を微好気雰囲気から好気雰囲気とするべく、ドラフトチューブエアレーター71を高速回転させる。このように、好気雰囲気の範囲を増やす場合は、好気処理領域13に近い側から順に切り替える。調整領域12の全部がすでに好気雰囲気になっている場合は、そのままの状態を維持する。
【0088】
(ケース2)
表1のケース2を本実施形態において実施する場合、すなわち、調整領域12における各雰囲気の範囲をそのままとする場合は、ドラフトチューブエアレーター71、72の運転条件をそのまま維持すればよい。
【0089】
(ケース3)
表1のケース3を本実施形態において実施する場合、すなわち、調整領域12における微好気雰囲気の範囲を増やす場合は、以下の通りとする。
【0090】
上記の初期状態では調整領域12全体が微好気雰囲気なので、それ以上に微好気雰囲気を増やす余地はない。しかしながら、たとえば、調整領域12の第1領域12a及び第2領域12bの両方が嫌気雰囲気の場合は、まず、好気処理領域13に近い側の第2領域12bを微好気雰囲気とするべく、ドラフトチューブエアレーター72の回転速度を低速回転から中速回転とする。更に、微好気雰囲気を増やす必要があれば、第1領域12aを微好気雰囲気とするべく、ドラフトチューブエアレーター71の回転速度を低速回転から中速回転とする。
【0091】
また、第1領域12a及び第2領域12bの両方が好気雰囲気の場合は、まず、嫌気処理領域11に近い側の第1領域12aを微好気雰囲気とするべく、ドラフトチューブエアレーター71の回転速度を高速回転から中速回転とする。更に、微好気雰囲気を増やす必要があれば、第2領域12bを微好気雰囲気とするべく、ドラフトチューブエアレーター72の回転速度を高速回転から中速回転とする。
【0092】
更に、第1領域12aが嫌気状態であり、第2領域12bが好気雰囲気の場合は、嫌気処理領域11に近い側の第1領域12aを微好気雰囲気とするべく、ドラフトチューブエアレーター71の回転速度を低速回転から中速回転とする。更に、微好気雰囲気を増やす必要があれば、第2領域12bを微好気雰囲気とするべく、ドラフトチューブエアレーター72の回転速度を高速回転から中速回転とする。
【0093】
調整領域12の全部がすでに微好気雰囲気になっている場合は、そのままの状態を維持すればよい。
【0094】
(ケース4、5、6)
表1のケース4、5、6を本実施形態において実施する場合は、第1の実施形態と同様にすればよい。
【0095】
(ケース7)
表1のケース7を本実施形態において実施する場合、すなわち、調整領域12における嫌気雰囲気の範囲を増やす場合は、以下の通りとする。
【0096】
初期状態において調整領域12の全部が微好気雰囲気となっている場合は、第1領域12aの雰囲気を微好気雰囲気から嫌気雰囲気とするべく、ドラフトチューブエアレーター71の回転速度を中速回転から低速回転とする。更に嫌気雰囲気を増やす場合は、第2領域12bの雰囲気を微好気雰囲気から嫌気雰囲気とするべく、ドラフトチューブエアレーター72の回転速度を中速回転から低速回転とする。調整領域12の全部がすでに嫌気雰囲気になっている場合は、そのままの状態を維持する。
【0097】
(ケース8)
表1のケース8を本実施形態において実施する場合は、第1の実施形態と同様にすればよい。
【0098】
そして、上記の何れかのケースに従って有機排水処理装置51を運転し、その後、所定時間毎に、ステップ2を再度実施して、調整領域12における雰囲気の範囲を変更する。
【0099】
本実施形態の有機排水の処理装置51及び処理方法によれば、第1の実施形態と同様の効果が得られるとともに、以下の効果も得られる。
【0100】
本実施形態では、嫌気処理領域11に撹拌装置73が備えられ、撹拌を行うことができるため、嫌気雰囲気条件での反応が進みやすくなり、窒素、リンの除去を促進できる。
また、調整領域12においてドラフトチューブエアレーター71、72によって処理水を撹拌するので、処理水の水質改善効果が得やすくなり、窒素、リンの除去をより促進できる。
【0101】
なお、本実施形態では、図2に示すように、調整領域12を2つの領域に分けたが、1つの領域であってもよいし、3以上の領域であってもよい。
【0102】
(第3の実施形態)
図3に、本実施形態の有機排水処理装置81を示す。図1に示した有機排水処理装置1と同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を一部省略する。
図1に示す第1実施形態の有機排水処理装置1に対する、図3に示す有機排水処理装置81の相違点は、調整領域12の第1領域12a及び第2領域12bのそれぞれに、ORP計(酸化還元電位計)82、83を設置した点である。本実施形態では、調整領域12における雰囲気を制御する際に、ORP計82、83によって測定された処理水の酸化還元電位に基づき、開閉弁25b及び25cの開度を調整する。すなわち、制御部9が、ORP計82,83の測定結果に基づき、調整領域12における各雰囲気の状態を維持するように曝気手段20の開閉弁25b及び25cの開度を微調整したり、ORP計82,83の測定結果に基づき、調整領域12における嫌気雰囲気、微好気雰囲気または好気雰囲気の範囲を調整するようにする。
【0103】
たとえば、調整領域12の少なくとも一部を微好気雰囲気とする場合の開閉弁25bまたは25cの開度は、ORP計82,83によるORP値が−50〜50mVの間となるように開度を自動調整する。開閉弁25bの開度は、ORP計82のORP値に基づいて調整し、開閉弁25cの開度は、ORP計83のORP値に基づいて調整する。また、ORP計82または83のORP値が変動して−50mV未満になる場合は、開閉弁25bまたは25cの開度を開方向に調整し、ORP計82または83のORP値が50mV超に変動する場合は、開閉弁25bまたは25c開度を閉方向に調整して、雰囲気の状態を維持する。
【0104】
開閉弁25bまたは25cの開度の調節方法は、ORP計82、83のORP値が−50〜50mVの範囲外にある場合に、開度をたとえば1%ずつ増減する方法であってもよいし、PI制御(比例積分制御)やPID制御(比例積分微分制御)のような一般的なフィードバック制御方式を活用してもよい。ORP計82,83の応答時間も考慮し、開度を増減する周期は1分〜数十分程度とすることが望ましい。
【0105】
以上、微好気雰囲気の場合について説明したが、嫌気雰囲気及び好気雰囲気の場合も同様に調整すればよい。
【0106】
本実施形態によれば、調整領域12の雰囲気を確実に制御できるので、有機排水からの窒素及びリンの除去を改善できる。特に、本実施形態によれば、嫌気雰囲気や好気雰囲気に比べて調整維持が難しい微好気雰囲気であっても、確実に微好気雰囲気を形成できるので、特に窒素の除去率を改善できる。
【0107】
なお、ORP計による制御は、第2の実施形態におけるドラフトチューブエアレーターの制御にも適用して良いことはもちろんである。
【0108】
(第4の実施形態)
図4に、本実施形態の有機排水処理装置91を示す。図2に示した有機排水処理装置51と同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を一部省略する。
図2に示す第2実施形態の有機排水処理装置51に対する、図4に示す有機排水処理装置91の相違点は、生物反応漕3の好気処理領域13から調整領域12の入側に向けて、処理水の一部を循環するための循環ライン92が設けられた点である。この循環ライン92は、処理水返送配管93と、循環ポンプ94から構成されている。
【0109】
本実施形態における制御部9は、調整領域12の全部が好気雰囲気となり、かつ、窒素濃度が目標値T−Nを超え、アンモニア濃度が目標値NH3未満の場合に、循環ライン92によって処理水を好気処理領域13から調整領域12の入側に循環させる。処理水の循環と同時に、調整領域12の一部または全部を嫌気雰囲気とする。
【0110】
調整領域12がすべて微好気雰囲気になっても、アンモニア濃度が目標値NH3未満であるにも係わらず全窒素濃度が目標値T−Nを超えてしまう状態が続く場合には、循環ポンプ94を起動して、処理水の循環を実施する。循環量は好気処理領域13への流入量に対して、0%超200%以下の範囲で調節するものとし、窒素濃度が目標値T−N未満になるまで、たとえば下記(3)式にしたがって、循環量を増減するものとする。
【0111】
Qcirc=Kp(TN−TNref) … (3)
【0112】
式(3)において、Qcircは循環流量(m/h)であり、Kpは比例定数であり、TNは処理水の全窒素濃度であり、TNrefは目標値T−Nである。
【0113】
窒素濃度が目標値T−N未満になれば、循環ポンプ94を停止して、表1に示す判定基準に基づき運転を行うものとする。また、循環ポンプ94の運転中は、調整領域12の第1領域12a及び第2領域12bのORP値が−150〜0mVの範囲になるようにドラフトチューブエアレーター71、72の回転速度を調節する。
【0114】
アンモニアから硝酸イオンへの酸化反応は順調だが、硝酸イオンから窒素への還元反応が不十分の場合、処理水を微好気雰囲気から嫌気雰囲気の中間程度にした調整領域12に循環させることにより、硝酸イオンから窒素への還元反応の効率を向上させて、窒素の除去率を改善できる。
【0115】
なお、循環量に関しては、(3)式に限らず、全窒素濃度測定器7の計測値が目標値T−Nより高い場合に循環量を増やし、全窒素濃度測定器7の計測値が目標値T−Nより低い場合には循環量を減じるものであれば、どのような方法であってもよい。
【0116】
また、循環ライン92は、第1の実施形態の有機排水処理装置1に適用しても良い。
【0117】
以上、本発明の実施の形態を示したが、本発明はこれらに限らず、特許請求の範囲に記載の発明の要旨の範疇において様々に変更可能である。また、本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で様々に変更可能である。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。
【符号の説明】
【0118】
1、51、81、91…有機排水処理装置、3…生物反応槽、5…アンモニア濃度測定器、7…全窒素濃度測定器、8…全リン濃度測定器、9…制御部、11…嫌気処理領域、12…調整領域、13…好気処理領域、20…エアレーション装置(曝気手段)、21…ブロア、22…空気配管、24…分岐管、25a〜25e…開閉弁、50…凝集剤供給装置(凝集剤供給部)、71,72…ドラフトチューブエアレーター(曝気手段)、82,83…ORP計(酸化還元電位計)、92…循環ライン。
図1
図2
図3
図4