(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バインダー樹脂は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、セルロース樹脂、マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、フッ素樹脂、および活性エネルギー線硬化型樹脂、ならびにこれらの変性物から選ばれる一種または二種以上である、請求項1または2に記載の加飾シート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明による加飾シートの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
<加飾シート>
図1に示すように、加飾シート100は、光透過性基材10と、光透過性基材10上に形成された光反射性凸部20と、光反射性凸部20上に形成された黒色インキを含む黒色層30と、保護層40と、をこの順で積層したものである。加飾シート100を、光透過性基材10側の面から見たときに、黒色層30を背景として、光反射性凸部20による特有の意匠効果が得られる。
【0014】
光透過性基材10は、外部の光を透過させたり、加飾シート100内部で反射した光を外部に放出させるものである。可視光透過率が90%以上のものが好ましく、95%以上のものがより好ましい。光透過性基材10は、無色であっても有色であってもよい。
【0015】
光透過性基材10としては、特に限定されないが、透明樹脂プレート、ガラス板、および透明セラミック板、ならびにこれらの複合材を用いて形成されることが好ましい。透明樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びポリスチレン樹脂の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。なかでも、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、またはポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂の複合材を用いて形成されることが好ましい。また、ガラス板は、強化処理が施されたものであってもよく、未処理のものであってもよい。これらは、加飾シート100の用途や目的に応じて、適宜選択することができる。
【0016】
また、光透過性基材10は、光を透過させればよく、単層または多層であってもよい。光透過性基材10の厚みは、特に限定されないが、100μm〜5mmであることが好ましい。
【0017】
光透過性基材10は、シート状、板状、膜状であり、少なくとも一方の面が平坦である。後述する光反射性凸部20による作用を得る観点から、光透過性基材10は平坦であり、光透過性基材10の平坦な面に沿って、光反射性凸部20が形成されていることが好ましい。
【0018】
光反射性凸部20は、光透過性基材10を透過した光を反射したり、黒色層30を形成する黒色インキに含まれる黒色顔料の表面等で反射した光をさらに反射する機能を有する。
光反射性凸部20は、光透過性基材10の面から上の領域に形成されるものであり、光透過性基材10の面上に形成されてもよい。なお、上記の光透過性基材10の面から上の領域に形成されるとは、光透過性基材10の面に溝が凹部を形成した結果得られた凸部は、光反射性凸部20に含まないことを意味する。
【0019】
光反射性凸部20は、光透過性基材10とは、異なる材料で形成されていても、同じ材料で形成されていてもよく、光と影のコントラストが大きい輝きを得る観点から、屈折率差が比較的小さい材料で形成されていることが好ましい。
【0020】
光反射性凸部20は、単独であってもよく、連続するものであってもよく、いずれをも含むものであってもよい。
光反射性凸部20が単独の場合とは、たとえば、点状(ドット状)に凸部が形成された場合を意味する。また、光反射性凸部20が連続する場合とは、凸部が連なることで、平面視において凸部が線を描いているように見える場合を意味する。
また、光反射性凸部20は、複数であることが好ましく、単独の光反射性凸部20が複数であったり、連続する光反射性凸部20が複数であってもよく、これらを組み合わせたものであってもよい。すなわち、光反射性凸部20により、平面視において、複数の線およびドット等によって図柄が形成されてもよい。図柄としては特に限定されないが、たとえば、多数の同心円から構成されるスピン柄、一方向への多数の細線から構成されるヘアライン柄、一方向への複数の細線の集団とこれへの略直角方向への細線の集団との規則正しい組み合わせから構成されるいわゆるカーボン柄、およびその他の幾何学柄等が挙げられる。
【0021】
光反射性凸部20の断面形状は、山形、台形、多角形、略半円形状または略半楕円形状であってもよく、略半円形状または略半楕円形状であることが好ましい。略半円形状または略半楕円形状とすることにより、凹面鏡と同様の効果が生じることになり、光反射性凸部20の表面での反射光を拡散させずに収束させることができる。これにより、見る角度によって見える図柄が大きく異なることになり(指向性が強くなり)、結果として、見る者に対して光と影のコントラストを強く認識させることができる。
なお、光反射性凸部20の断面とは、加飾シート100の面方向に垂直な方向であり、光反射性凸部20が連続する場合、その連続する方向に直行する方向で切ったときの断面を意図する。なお、光反射性凸部20が半球体形状のドットの場合には、球の中心を通るように切ったときの断面となる。
【0022】
さらに、光反射性凸部20は、紫外線硬化型樹脂組成物を用いて形成されていることがより好ましい。これにより、光透過性基材10の表面を傷つけずに、光反射効果を得ることができる。また、光反射性凸部20の配置および形状を工夫しやすくなり、光反射性凸部20による図柄を多様化できる。
すなわち、従来行われてきた凹凸部の形成方法の一つの手法として、光透過性基材10の面を粗面加工して、光透過性基材10面に凹凸を形成していたため、凹凸表面の平滑性が充分ではなく、光と影のコントラストが大きい輝きある高級加飾シートが得られない傾向にあった。
【0023】
また、光反射性凸部20は、紫外線硬化型樹を含むインキをスクリーン印刷した後、紫外線を照射して硬化させることにより、形成することが好ましい。これにより、光反射性凸部20の断面形状を略半円形状または略半楕円形状にすることが容易となり、多様な図柄を簡便に形成することができる。
【0024】
ここで、従来、紫外線を透過する型に紫外線硬化型樹脂を含むインキを充填して、型ごと透明基材に密着させた後に紫外線を照射し、型内部の紫外線硬化型樹脂を硬化させ、その後型を外すことによって透明基材上に凹凸を形成する手法が行われていた。
当該手法では、紫外線照射後に型を外す必要があるため、紫外線硬化型樹脂の架橋度を高めて型離れをよくする必要があった。しかしながら、紫外線硬化型樹脂の架橋度を高めると、その後加飾シートを成形加工したときに、光反射性凸部の伸びが不足して図柄に割れが生じる傾向があった。また、当該手法では、型のコストが高くなるために図柄を多様化するのが困難であった。
これに対し、スクリーン印刷で光反射性凸部20を形成する場合には、型離れを考慮する必要はないため、それほど高い架橋度は必要ではないため、紫外線硬化型樹脂を含むインキの配合を調整することにより、加飾シート100を成形加工したときに図柄に割れが生じないようにすることができる。また、簡便な方法で多様な図柄を形成することができる。
【0025】
光反射性凸部20の平均の高さは、1μm〜200μmであることが好ましく、5μm〜100μmであることがより好ましい。
光反射性凸部20の平均の高さを上記下限値以上とすることにより、凹面鏡効果を生じさせるための良好な略半円形状または略半楕円形状の断面形状を形成することができる。また、スクリーン印刷で形成した場合に、スクリーン紗による影響を抑えて光反射性凸部20の表面をより平滑にすることができる。
他方、光反射性凸部20の平均の高さを上記上限値以下とすることにより、スクリーン印刷で形成した場合の空気の混入(泡噛み)を抑制することができる。
なお、光反射性凸部20の平均の高さとは、加飾シート100の厚み方向における長さであり、光反射性凸部20は面一に形成されていることが好ましい。具体的には、高さのバラつきが、0.05μm〜1.05μmの範囲内であることが好ましい。
高さの測定方法は、JIS K5600−1−7に準拠して測定される。
【0026】
また、光反射性凸部20の幅は20μm〜10mmの範囲内にあることが好ましく、50μm〜5mmの範囲内にあることがより好ましい。複数の光反射性凸部20は、互いに同じ幅であってもよく、また異なる幅であってもよい。
光反射性凸部20の幅を上記下限値以上とすることにより、スクリーン印刷での形成が容易となる。他方、光反射性凸部20の幅を上記上限値以下とすることにより、スクリーン印刷で形成した場合に、光反射性凸部20の頂点付近が陥没してしまう現象(サドル現象)を防ぎ、光反射性凸部20の形状を良好に維持することができるようになる。その結果、光と影のコントラストが明瞭になる。
なお、光反射性凸部20の幅とは、光反射性凸部20が連続した場合、平面視における長さ方向に対する幅のうちの最大値である。例えば、光反射性凸部20の断面形状が、略半円径状である場合は、半円の直径が、光反射性凸部20の幅に相当する。
幅の測定方法は、例えばデジタルマイクロスコープを使用して測定することができる。
【0027】
光反射性凸部20の高さおよび幅は、デザイン等の好みに応じ、上述した範囲内でそれぞれ調整するのが好ましい。例えば、幅に対する高さの比率を上げると指向性はより強まる傾向になる。光反射性凸部20をスクリーン印刷で形成する場合、紫外線硬化型樹脂組成物を含むインキの粘度等、またはスクリーン版の乳剤厚等を変えることにより、光反射性凸部20の高さおよび幅を調整することができる。
【0028】
光反射性凸部20は、一定の透過率を維持することを条件とし、顔料等によって着色されていてもよい。これにより、光と影のコントラストが大きく、かつ、彩色模様が強調された透明感のある加飾シートを実現することができる。
【0029】
黒色層30は、黒色インキにより形成されている。黒色層30は、光を吸収し、黒色を呈する層として機能する。
黒色インキは、黒色顔料およびバインダー樹脂を含むことが好ましい。
【0030】
黒色顔料としては、無機顔料または有機顔料のいずれを用いてもよいが、例えば、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。黒色顔料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、光と影のコントラストが大きい輝きある高級加飾シートを得る観点から、カーボンブラックを含むことが好ましい。これら黒色顔料は、印刷特性を向上させる観点から、表面を物理的、または化学的に処理されたものであってもよい。
なお、黒色インキには、黒色顔料以外の色を呈する顔料が含まれていてもよい。
【0031】
黒色顔料の形状は、粒子状であることが好ましい。
黒色顔料の平均一次粒子径は、好ましくは、5nm以上であり、より好ましくは、10nm以上であり、一方、好ましくは、100nm以下であり、より好ましくは、50nm以下である。かかる数値範囲とすることにより、光と影のコントラストが大きい輝きある高級加飾シートが得られる。
平均一次粒子径の測定方法としては、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、黒色顔料の一次粒子像から、数百個程度の黒色顔料それぞれについて粒子径を測定し、平均値を算出する方法が挙げられる。
なお、上記粒子状には、カーボンナノチューブの場合も含まれる。この場合、カーボンナノチューブのチューブ長さが、5nm以上であり、より好ましくは、10nm以上であり、一方、好ましくは、100nm以下であり、より好ましくは、50nm以下である。
【0032】
黒色顔料の比表面積は、好ましくは、20m
2/g以上であり、より好ましくは100m
2/g以上であり、一方、黒色顔料の比表面積は、好ましくは、2,000m
2/g以下であり、より好ましくは1,000m
2/g以下である。かかる数値範囲とすることにより、光と影のコントラストが大きい輝きある高級加飾シートが得られる。
比表面積の測定は、JIS Z8830に準拠して測定できる。
【0033】
黒色顔料の含有量は、黒色層30の全固形分に対して、4〜60質量%であることが好ましい。
【0034】
バインダー樹脂は、黒色顔料を分散し印刷塗膜を形成するために用いられる。
バインダー樹脂としては、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、セルロース樹脂、マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、フッ素樹脂、および活性エネルギー線硬化型樹脂、ならびにこれらの変性物から選ばれる一種または二種以上であることが好ましい。なかでも、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0035】
黒色層30中における、黒色顔料とバインダー樹脂との配合比(重量比率)は、光と影のコントラストが大きい輝きある高級加飾シートを得る観点から、0.2:5〜8:5であることが好ましく、0.5:5〜3.5:5であることがより好ましい。
【0036】
黒色層30の厚さは、特に限定されないが、1μm以上30μm以下が好ましい。
【0037】
また、黒色層30には、公知のインキ用添加剤成分を含んでもよい。公知のインキ用添加剤としては、例えば、溶剤、酸化防止剤等の安定剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、湿潤分散剤、帯電防止剤、防曇剤等の界面活性剤類、カップリング剤、シランカップリング剤、近赤外線吸収剤等の各種添加剤などが挙げられる。
【0038】
本発明の加飾シート100は、さらに、以下の条件を満たすものである。これにより、光と影のコントラストが大きい輝きある高級加飾シートが得られる。
上記の黒色インキを用いて以下の成膜方法で成膜された乾燥塗膜について、JISZ8741(1997)に準拠して測定角度60°で測定した当該乾燥塗膜の表面のグロス値が80以上であって、かつ、SCE方式にて測定した当該乾燥塗膜の表面のCIE1976(L*,a*,b*)表色系における明度L*値が10以下である。
乾燥塗膜の成膜方法:上記の黒色インキを、ワイヤー径が6ミルのバーコーターを用いて移動速度50mm/秒で引いてポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布した後、80℃で15分間にわたって乾燥を行い、乾燥塗膜を得る。
【0039】
かかる効果が得られるメカニズムの詳細は明らかではないが、次のように推測される。
図2には、加飾シート100を光透過性基材10側から見たとき、すなわち、加飾シート100の光透過性基材10側から光が入射したときの、光の反射の一例が示されている。
図2に示すように、光透過性基材10の上面に入射した入射光L1は、光透過性基材10を通過し、光透過性基材10と光反射性凸部20との界面で反射する反射光L2と、光反射性凸部20と黒色層30との界面で反射する反射光L3と、黒色層30に入射する光がある。
ここで、本発明の加飾シート100は所定の条件を満たす黒色インキによる黒色層30を有するため、黒色層30に入射した光は、黒色層30に吸収される光と、黒色層30内の黒色インキに含まれる黒色顔料とバインダー樹脂との界面で反射する反射光L4とに分かれることになる。黒色層30に吸収される光には、この黒色顔料とバインダー樹脂との界面で反射した後、黒色層30に吸収される光も含まれる。その結果、本発明の加飾シート100においては、反射光L2および反射光L3に加え、反射光L4が組み合わされた光が視認されることになる。
所定の条件を満たす黒色インキによって黒色層30を形成することにより、黒色インキに含まれる黒色顔料に対するバインダー樹脂の濡れが良くなり、その界面は良好な平滑性を有することになる。したがって、反射光L4は、黒色顔料とバインダー樹脂との界面で大きく拡散反射せずに、ある程度の光量を備えた状態で光透過性基材10側に向かうことになると考えられる。この反射光L4のうちの少なくとも一部の光は、具体的なメカニズムは不明であるが、反射光L3の視認性を向上させる。
また、所定の条件を満たす黒色インキによって黒色層30が形成されることにより、黒色顔料とバインダー樹脂との界面で反射した光のうち主に光透過性基材10側に向かわない光は黒色層30で十分に吸収されるほか、この界面および光反射性凸部20の表面等で生じる僅かな拡散光も黒色層30で十分に吸収されることになる。
これにより、本発明の加飾シート100は光と影のコントラストが大きいといった従来にはない効果が得られると推測される。
【0040】
なお、光と影のコントラストが大きい輝きある高級加飾シートとは、加飾シート100を光透過性基材10側から見たとき、漆のような深みや艶のある黒を背景とし、光反射性凸部20による図柄が光輝き、また、見る角度によって見える図柄が大きく変化することにより、いっそう奥行き感が増した加飾シートを意味する。
【0041】
くわえて、本発明の加飾シート100は、光反射性凸部20と黒色層30とが接することにより、光反射性凸部20と黒色層30との界面で反射する反射光L3による光が強調され、光と影のコントラストがより増強される。
【0042】
また、上記の成膜方法で成膜された乾燥塗膜の当該グロス値を80以上にしつつ、かつ当該L*値を10以下とするためには、次のような製法上の工夫が重要となる。
(i)黒色顔料(凝集体)の粒子径
(ii)黒色顔料、バインダー樹脂および添加剤の組み合わせ
(iii)黒色インキの混合条件、例えば、撹拌速度、撹拌温度、撹拌時間など。
【0043】
一般に、黒色インキ中の黒色顔料(凝集体)の粒子径が小さいほど、L*値を小さくできることが知られている。ここで、粒子径が小さいということは、ある程度濡れ性が良い状態であることを意味するが、グロス値を高めるためには、さらに濡れ性を向上させなければならない。また、黒色顔料とバインダー樹脂の組み合わせパターンによって、濡れが十分でない場合、および、バインダー樹脂中の黒色顔料の分布状態が不均一な場合等には、L*値を十分に小さくし、かつグロス値を高めることは困難になる。このような場合は、適切な分散剤を選択し、どのような分散機器を用いてどのような分散条件で分散させるかが重要となる。
そこで、本発明の加飾シート100は、これら(i)〜(iii)の条件を高度に制御することによって初めて、当該グロス値を80以上にしつつ、かつ当該L*値を10以下とする構成を備えるものである。
【0044】
また、本発明の加飾シート100は、上記の条件において、好ましくは、グロス値が100以上、かつ、L*値が2以下である。これにより、光と影のコントラストが大きい輝きある高級加飾シートがより安定的かつ効果的に得られるようになる。当該条件におけるグロス値が100以上、かつ、L*値が2以下の加飾シート100は、上記と同様に製法上の工夫により、得ることができる。
【0045】
さらに、加飾シート100は、所望により、保護層40を有していてもよい。保護層40は、加飾シート100の黒色層30側の面に配置され、耐擦傷性、黒色層30の隠蔽力が不足する場合には隠蔽性、およびインサート成形する場合には耐熱性を加飾シート100に付与する機能を有する。保護層40は、カーボンブラック等の黒色顔料を含有することが好ましい。
また、保護層40は、例えば、熱可塑性樹脂または紫外線硬化型樹脂を含むインキを用い、スクリーン印刷などの公知の方法で塗布することにより形成される。
【0046】
また、保護層40は、各種添加剤を含有することができる。各種添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、無機粒子、重合禁止剤、架橋剤、帯電防止剤、接着性向上剤、酸化防止剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、および溶剤などが挙げられる。
【0047】
次に、加飾シート100の製造方法の一例について説明する。
まず、光透過性基材10を準備する。次に、光透過性基材10上に、紫外線硬化型樹脂組成物を含むインキを、例えばメッシュ数420および乳剤厚5μmのスクリーン版を用いて、スクリーン印刷により塗布する。続けて、塗布された紫外線硬化型樹脂組成物を含むインキに対し、紫外線を照射して硬化させることによって、光反射性凸部20を得る。これにより、表面が平滑でかつ断面形状が略半円形状または略半楕円形状の光反射性凸部20が得られ、光と影のコントラストが大きい輝きある高級加飾シートがより得られやすくなる。
【0048】
次に、光反射性凸部20上に、黒色インキを印刷により塗布する。この際、黒色インキ中の溶剤として高溶解性の溶剤を用いると、光反射性凸部20の表面、または光反射性基材10の表面のうち光反射性凸部20の表面と接する部分が侵される場合がある。そのため、黒色インキ中の溶剤は、低溶解性であることが好ましい。低溶解性の溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤が挙げられる。
そして、塗布された黒色インキを乾燥させることにより、黒色層30を得ることができる。
【0049】
その後、さらに、公知の方法により、黒色層30上に保護層40を形成させることにより、加飾シート100が得られる。本発明の加飾シート100は、後述する装飾性が求められる各種分野において広く用いることができる。
【0050】
<加飾成形品>
本発明の加飾成形品は、上記の加飾シート100を表面に備えてなる。加飾成形品としては、装飾性が求められる各種表面塗装として用いられ、例えば、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピュータ、液晶テレビ等といった電子機器、家具、及び雑貨類、自動車の内装等の用途が挙げられる
なお、加飾成形品を作成するにあたり、インサート成形加工を行う場合には、保護層40の上に接着層を設けることになる。接着層は、例えば熱可塑性樹脂を含むインキを用いて、スクリーン印刷により形成される。
【0051】
以上、
図1および
図2を参照して本発明の実施形態について述べたが、これは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。以下、
図3〜5を用いて、本発明の変形例について説明する。
【0052】
また、
図3には、光透過性基材10と、透明層41と、透明層41上に形成された光反射性凸部20と、黒色層30と、保護層40と、がこの順で積層した加飾シート101が示されている。
透明層41とは、光反射性凸部20と同様の光透過性を有するものであり、無色または有色のいずれであってもよい。
透明層41は、任意の樹脂を含むインキ用いて形成することができる。透明層41を有色とする場合、着色するための顔料等は、透明性を損なわないものであれば特に限定されないが、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン顔料、アゾイエローレーキ、アゾレーキレッド、およびモノアゾイエロー等のアゾ顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、キノフタロン顔料、およびアントラキノン顔料等の多環式顔料、ならびに、群青、コバルト、弁柄、酸化チタン、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー等の無機顔料または有機顔料が好ましい。透明層41の色相は特に限定されないが、例えばスカイブルー、青色、黄色などが挙げられる。
これにより、光と影のコントラストが大きく、かつ、透明層41を有色とすることにより、彩色模様が強調された透明感のある加飾シートが得られる。また、透明層41に光透過性基材10との密着の良い樹脂を用いることにより、光反射性凸部20を形成するための紫外線硬化型樹脂を含むインキが密着しにくい光透過性基材10に対しての密着性が向上できる。さらに、黒色層30が高溶解性の溶剤を含む場合に、透明層41についてはこのような高溶解性の溶剤を含まないようにすることにより、光透過性基材10の表面が侵されないようにすることができるため、結果的に光と影のコントラストが小さくなってしまうことを防ぐことができる。
【0053】
図4には、光透過性基材10と、光透過性基材10上に形成された光反射性凸部20と、有色透明層42と、黒色層30と、保護層40と、がこの順で積層した加飾シート102が示されている。
有色透明層42とは、光反射性凸部20と同様の光透過性を有するものである。有色透明層42は、任意の樹脂を含むインキ用いて形成することができる。有色透明層42を着色するための顔料等は、透明性を損なわないものであれば特に限定されないが、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン顔料、アゾイエローレーキ、アゾレーキレッド、モノアゾイエロー等のアゾ顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、キノフタロン顔料、アントラキノン顔料等の多環式顔料、また群青、コバルト、弁柄、酸化チタン、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー等の無機顔料または有機顔料が好ましい。着色の色相は特に限定されないが、例えばスカイブルー、青色、黄色などが挙げられる。有色透明層42の厚さは、特に限定されないが、0.5μm以上30μm以下が好ましい。
加飾シート102によれば、黒色層30による背景の上に、有色透明層42を備えることにより、光と影のコントラストが大きく、かつ、彩色模様が強調された透明感のある加飾シートが得られる。
【0054】
また、
図5には、光透過性基材10と、透明層41と、透明層41上に形成された光反射性凸部20と、有色透明層42と、黒色層30と、保護層40と、がこの順で積層した加飾シート103が示されている。
透明層41、有色透明層42は、上記と同様の構成である。これにより、基材への密着性を向上し、光と影のコントラストが大きく、かつ、彩色模様が強調された透明感のある加飾シートが得られる。
【0055】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、本発明の参考形態の一例を示す。
<1>
光透過性基材と、
前記光透過性基材上に形成された光反射性凸部と、
前記光反射性凸部上に、黒色インキにより形成された黒色層と、
を備え、
当該黒色インキを用いて以下の成膜方法で成膜された乾燥塗膜について、JISZ8741(1997)に準拠して測定角度60°で測定した当該乾燥塗膜の表面のグロス値が80以上であって、かつ、SCE方式にて測定した当該乾燥塗膜の表面のCIE1976(L*,a*,b*)表色系における明度L*値が10以下である、加飾シート。
乾燥塗膜の成膜方法:前記黒色インキを、ワイヤー径が6ミルのバーコーターを用いて移動速度50mm/秒で引いてポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布した後、80℃で15分間にわたって乾燥を行い、乾燥塗膜を得る。
<2>
前記光反射性凸部が、紫外線硬化型樹脂組成物で形成されている、<1>に記載の加飾シート。
<3>
前記光反射性凸部の平均の高さが、1〜200μmである、<1>または<2>に記載の加飾シート。
<4>
前記黒色インキが、黒色顔料と、バインダー樹脂とを含むものであって、
前記黒色顔料と前記バインダー樹脂との配合比(重量比率)が、0.2:5〜8:5である、<1>乃至<3>いずれか一に記載の加飾シート。
<5>
前記黒色顔料は、カーボンブラックを含む、<4>に記載の加飾シート。
<6>
<1>乃至<5>いずれか一に記載の加飾シートを表面に備えてなる、加飾成形品。
【実施例】
【0056】
次に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0057】
[黒色インキの作製]
表1、2に示す組成の黒色インキを用意した。
【0058】
実施例1〜6、ならびに比較例2および3の黒色インキを、以下の手順で作成した。
まず、カーボンブラックK(黒色顔料(P))の分散体を用意した。具体的には、カーボンブラックKを350g、ブチルセロソルブ(溶剤(S))を896g、分散剤L(分散剤(D))を140g、および分散剤M(分散剤(D))を14gの割合で混合し、これをビーズミル(アシザワ・ファインテック株式会社製、LMZ015)で5時間分散処理してカーボンブラックKの分散体を予め作成した。次に、表1に記載されている割合で、バインダー樹脂(バインダー樹脂(R))およびシクロヘキサノン(溶剤(S))に、この分散体を混ぜ合わせることにより、黒色インキを作成した。なお、ビーズミルで分散処理する際には、粒子径0.3mmのジルコニアビーズを分散メディアとして使用した。
【0059】
実施例7の黒色インキについては、上記実施例1と同様にして、カーボンブラックKの分散体を予め作成した。次に、表1に示す組成となるように、バインダー樹脂および溶剤Lに、この分散体を混ぜ合わせることにより、黒色インキを作成した。
【0060】
また、黒色インキについて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
・乾燥塗膜のグロス値およびL*値の測定
表1に示す組成の各黒色インキを、ワイヤー径が6ミルのバーコーター(Rk Printcoat Instruments Ltd.製、バーNo.2(ワイヤー径:6ミル))を用いて移動速度50mm/秒で引いてポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布した後、80℃で15分間にわたって乾燥を行い、乾燥塗膜を得た。
得られた乾燥塗膜について、JISZ8741(1997)に準拠して測定角度60°で、当該乾燥塗膜の表面のグロス値を測定した。さらに、SCE方式にて当該乾燥塗膜の表面のCIE1976(L*,a*,b*)表色系における明度L*値を測定した。
【0061】
・ポリエチレンテレフタレートフィルム:易接着処理済みPETフィルム(東洋紡株式会社製、コスモシャイン(登録商標)A4300(厚み:188μm))
・黒色度(L*値)の測定条件
使用機器:画像分光測色機「COLOR?7X」(倉敷紡績株式会社製)
色彩管理システム(ソフト):「AUCOLOR−T2」
表色系:CIE1976(L*,a*,b*)
測定方式:SCE(正反射光除去)方式
光源:D65標準光源
視野角:10°
・グロス値の測定条件
使用機器:ハンディ型光沢計「PG−1M」(日本電色工業株式会社製)
JIS Z 8741(1997)に準拠。
入射角:60°
【0062】
<実施例1>
[加飾シートの作製]
上記で得られた黒色インキを用いて、加飾シートを作製した。
まず、光透過性基材(易接着処理済みPETフィルム(東洋紡株式会社製、コスモシャイン(r)A4300(厚み:188μm))を準備した。次に、当該光透過性基材上に、紫外線硬化型樹脂組成物を含むインキ(株式会社セイコーアドバンス製、UV 5410−7およびUV Y0165 厚盛メジュームNCを1:1で混合したもの)を、線幅80μmおよび線間距離80μmのスピン柄が形成されているメッシュ数420および乳剤厚5μmのスクリーン版を用いてスクリーン印刷した。続けて、塗布された紫外線硬化型樹脂組成物を含むインキに対し、紫外線を照射して硬化(硬化条件:ランプ(メタルハライドランプ)120W/cm、2灯、ラインスピード9.2m/min、対象物との距離135mm、ピーク光量480mw/cm
2、積算光量500mJ/cm
2)させることによって、光反射性凸部を得た。
次に、光反射性凸部上に、上記で得られた黒色インキを、ワイヤー径が6ミルのバーコーター(Rk Printcoat Instruments Ltd.製、バーNo.2(ワイヤー径:6ミル))を用いて移動速度50mm/秒で引いて塗布した。
そして、塗布された黒色インキを、80℃で15分間にわたって乾燥させることにより、黒色層を形成し、加飾シートを得た。
【0063】
<実施例2〜7>
表1,2に示す組成で黒色インキを作成した以外は、実施例1と同様にして、加飾シートを得た。
【0064】
<比較例1>
黒色インキを作成する際には、カーボンブラックKの分散体を使用しなかった。具体的には、表1に示す組成となるように各原材料を配合したうえでプレミキシングを行った後、3本ロールミル分散装置(ビューラー株式会社製、SDY―200型)を使用し、ロール長当たり線圧を40N/mmに設定してパス回数1回という条件で分散させて、黒色インキを作成した。その後、実施例1と同様にして、加飾シートを得た。
【0065】
<比較例2,3>
表1,2に示す組成で黒色インキを作成した以外は、実施例1と同様にして、加飾シートを得た。
【0066】
<比較例4,5>
表1に示す黒色インキをそのまま用いた以外は、実施例1と同様にして、加飾シートを得た。なお、比較例4で用いた「KKS RX001 710ブラック、株式会社セイコーアドバンス社製」は、特許文献1の実施例に記載された「KKY 710ブラック、株式会社セイコーアドバンス社製」に相当するものであった。
【0067】
<評価>
実施例および比較例で得られた加飾シートを用いて、以下の測定・評価を行った。結果を、表1に示す。
【0068】
・光反射性凸部の高さの測定
形状測定レーザマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VK−X100)を用いて
5箇所の測定を行い、その平均値(μm)をとった。具体的には、20倍対物レンズ(接眼レンズ倍率20倍を掛け合わせるとレンズ倍率は400倍)で測定視野を決定した後、光反射性凸部の表面形状のレーザー画像を5箇所測定し、その平均値を算出した。
【0069】
・光反射性凸部の幅の測定
デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX−100F)を用いて倍率450倍で5箇所の測定を行い、その平均値(μm)をとった。具体的には、操作画面上で、光反射性凸部によって形成されたスピン柄の線の端部1点について接線を描き、この接線と直角方向において他方の端部を特定し、両端部間の距離を測定して幅の数値とした。この手順で5箇所測定し、その平均値を算出した。
【0070】
・OD値の測定
透過濃度計(X−Rite社製、341C)を用いて3箇所の測定を行い、その平均値をとった。
【0071】
・意匠性の評価
5人の専門パネラーにより、加飾シートに3波長形昼白色蛍光灯(NECライティング株式会社製、FPL27EX−N)の光を光透過性基材側の斜め上方から照射し、水平の位置からプラスマイナス約30度の範囲内で回転させるように動かしながら加飾シートを光透過性基材側から観察したとき、「光と影のコントラストが大きい輝きある高級加飾シート性」について、5段階(5が最もよい)で評価した。具体的には、「漆黒性」、「図柄の輝度感」、および「加飾シートを回転させるように動かしたときの見える図柄の変化の大きさ」の3項目を観察し、総合的に5段階で評価した。そして、5人の専門パネラーによる評価の平均値を算出し、この小数点第1位を四捨五入したものを評価点とし、以下の基準に従い評価を行った。
◎ 評価点が5〜4
○ 評価点が3〜2
× 評価点が1以下
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【解決手段】加飾シート100は、光透過性基材10と、光透過性基材10上に形成された光反射性凸部20と、光反射性凸部20上に、黒色インキにより形成された黒色層30と、を備え、当該黒色インキを用いて以下の成膜方法で成膜された乾燥塗膜について、JISZ8741(1997)に準拠して測定角度60°で測定した当該乾燥塗膜の表面のグロス値が80以上であって、かつ、SCE方式にて測定した当該乾燥塗膜の表面のCIE1976(L*,a*,b*)表色系における明度L*値が10以下である。
乾燥塗膜の成膜方法:前記黒色インキを、ワイヤー径が6ミルのバーコーターを用いて移動速度50mm/秒で引いてポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布した後、80℃で15分間にわたって乾燥を行い、乾燥塗膜を得る。