(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホットプレス法に用いる焼成炉は、焼成室の側面を取り囲むように4枚の空隙調整部材(カーボンスリーブ)が配置され、空隙調整部材の外側にカーボン製のモールド(カーボンモールド)が配置される。焼成室内は、複数の凹部を有する波状の板状部材と柱状の未焼成ヒータとが積層されている。焼成室内における未焼成ヒータの主成分の熱膨張係数が、空隙調整部材、カーボンモールド、および板状部材よりも低い場合、焼成後の降温時には、円筒状のカーボンモールドは内側に収縮するが、焼成によって生成されたセラミックヒータは収縮量が小さいため、板状部材から突出し、さらに、空隙調整部材を介してカーボンモールドを押圧し、カーボンモールドに応力を加える。さらに、ホットプレス法による焼成を繰り返すと、カーボンモールドは酸化消耗により強度が徐々に低下する。酸化消耗により強度が低下したカーボンモールドに、焼成後のセラミックヒータによって応力が加えられると、カーボンモールドが割れる虞がある。特に柱状のセラミックヒータを製造する場合、平面状のセラミックヒータを焼成する場合と比較して、セラミックヒータの板状部材からの突出が生じやすく、カーボンモールドの割れが生じやすい。このため、カーボンモールドの割れを抑制する手段として、降温途中の焼成炉からカーボンモールドを取り出す方法や、セラミックヒータの焼成数を少なくする方法が挙げられるが、前者は設備コストが大きく、後者は生産性が悪化するといった欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、以下のセラミックヒータ製造装置が提供される。筒状のモールド部材と;前記モールド部材の外部に配置される加熱部材と;前記モールド部材の内壁に接するように前記モールド部材の内部に配置される空隙調整部材と;前記空隙調整部材を配置後の前記モールド部材の前記内部に形成される空隙に対して前記モールド部材の軸線の方向に沿って挿入される一対のプレス部材であって、前記空隙に挿入された前記プレス部材と前記空隙調整部材とによって形成される焼成室に配置された被焼成物を加圧するためのプレス部材とを備え;前記焼成室に配置された前記被焼成物を前記プレス部材によって加圧するとともに前記加熱部材によって加熱してセラミックヒータを製造するセラミックヒータ製造装置。前記空隙調整部材の熱膨張係数が、前記モールド部材の熱膨張係数および焼成後の前記セラミックヒータの熱膨張係数より大きい。
【0007】
モールド部材と、加熱部材と、空隙調整部材と、プレス部材とを用いたセラミックヒータ製造装置によってセラミックヒータを製造する場合、焼成室に配置した被焼成物をプレス部材で加圧しながら加熱部材で加熱して焼成する。その後、焼成によって製造されたセラミックヒータを降温させるために、セラミックヒータを焼成室に配置したままセラミック製造装置を降温させる。このとき、モールド部材、空隙調整部材、セラミックヒータは、各々、収縮する。膨張および収縮の少ないセラミックヒータを製造する場合、セラミック製造装置の降温によるセミックヒータの収縮量は小さい。この形態のセラミックヒータ製造装置によると、空隙調整部材の熱膨張係数が、モールド部材の熱膨張係数および焼成後のセラミックヒータの熱膨張係数より大きいので、セラミック製造装置が降温する際の空隙調整部材の収縮量は、モールド部材およびセラミックヒータと比較して大きくなる。この結果、モールド部材が収縮した際に、セラミックヒータによるモールド部材内壁の押圧を緩和、抑制することができる。
【0008】
(2)上記形態のセラミックヒータ製造装置において、さらに、前記空隙調整部材の内壁に接するように配置され、厚さを調整可能な板状の仕切板を備える。
【0009】
この形態のセラミックヒータ製造装置によると、仕切板の厚さを調整することによって、焼成室の体積、および、焼成室の軸線に垂直な方向の断面積を調整することができる。
【0010】
(3)上記形態のセラミックヒータ製造装置において、前記モールド部材の内壁によって形成される領域の前記軸線に垂直な方向の断面積をFとしたとき;前記焼成室の前記軸線に垂直な方向の断面積が0.32F以上0.57F以下である。
【0011】
この形態のセラミックヒータ製造装置によると、セラミックヒータによるモールド部材内壁の押圧を好適に抑制することができる。
【0012】
(4)上記形態のセラミックヒータ製造装置において、さらに、前記焼成室の内部に前記軸線の方向に重畳して配置され、前記軸線に垂直な方向のうち所定の方向に沿って形成された複数の凹部を有する複数の板状部材を備え;前記プレス部材は、前記複数の前記板状部材を前記軸線の方向に加圧し;前記セラミックヒータは、前記重畳された2つの前記板状部材のそれぞれの前記凹部の間に形成される空間に配置された前記被焼成物が、前記プレス部材によって加圧されながら、前記加熱部材によって加熱されることによって製造される。
【0013】
この形態のセラミックヒータ製造装置によると、棒状のセラミックヒータを量産することができる。
【0014】
(5)本発明の他の形態によれば、セラミックヒータの製造方法が提供される。このセラミックヒータの製造方法は、筒状のモールド部材の外部に加熱部材を配置し;製造後の前記セラミックヒータおよび前記モールド部材よりも熱膨張係数が大きい空隙調整部材を前記モールド部材の内壁に接するように前記モールド部材の内部に配置し;前記空隙調整部材を配置後の前記モールド部材の内部に形成される空隙に被焼成物を配置するとともに、前記モールド部材の軸線の方向から一対のプレス部材を挿入して前記被焼成部材を挟持前記プレス部材によって前記被焼成物を加圧するとともに、前記加熱部材で前記被焼成物を加熱する。
【0015】
この形態のセラミックヒータの製造方法によると、空隙調整部材の熱膨張係数が、モールド部材の熱膨張係数および焼成後のセラミックヒータの熱膨張係数より大きくなるように調整するので、被焼成物を焼成後にモールド部材や空間調整部材等を降温させた際の空隙調整部材の収縮量は、モールド部材およびセラミックヒータと比較して大きくなる。従って、モールド部材が収縮した際に、セラミックヒータによるモールド部材内壁の押圧を緩和、抑制することができる。
【0016】
また、このような形態によれば、低コスト化、省資源化、製造の容易化等の種々の課題の少なくとも1つを解決することができる。
【0017】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、グロープラグの製造方法、グロープラグ製造装置等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.第1実施形態:
本発明の第1実施形態では、セラミックヒータ20と、セラミックヒータを製造するためのセラミックヒータ製造装置50とについて説明する。セラミックヒータ製造装置50は、被焼成物を焼成してセラミックヒータ20を製造するための焼成炉である。被焼成物は、セラミック粉末からなるものであれば特に限定されないが、本実施形態では、グロープラグに用いられるセラミックヒータ20を例示して説明する。
【0020】
(A1)セラミックヒータ:
図1は、セラミックヒータを用いたグロープラグの一例を示す断面図である。グロープラグ10は、自動車用のディーゼルエンジン等の内燃機関において、燃焼を補助する発熱体として機能する。
【0021】
グロープラグ10は、主な構成要素として、セラミックヒータ20と、外筒30と、主体金具32と、金属軸34と、Oリング36と、絶縁ブッシュ38と、端子金具40と、リング44とを備える。外筒30は、セラミックヒータ20の先端が突出するようにセラミックヒータ20を保持する。外筒30は、テーパー状のテーパー部31を備える。グロープラグ10が内燃機関に固定された際、テーパー部31は、内燃機関のプラグ取付孔のテーパー座面に当接する。
【0022】
主体金具32は、セラミックヒータ20の後端部を内部に保持する筒状の金属製部材である。主体金具32の外周面には、グロープラグ10を内燃機関のシリンダヘッドに固定するためのネジ部33が形成されている。ネジ部33がシリンダヘッドのプラグ取付孔に螺合することによって、グロープラグ10が内燃機関に固定される。
【0023】
主体金具32の内部には、後端側からセラミックヒータ20に電力を供給するための柱状の金属軸34が配置されている。主体金具32の後端部において、金属軸34の周囲には絶縁性のフッ素ゴムからなるOリング36と、ナイロン等の樹脂製の絶縁ブッシュ38が配置されている。Oリング36は、主体金具32の筒穴および金属軸34に当接するように配置され、グロープラグ10の後端部における内部と外部との気密を保っている。主体金具32の後方に延出した金属軸34の後端部には、端子金具40が嵌めこまれている。
【0024】
セラミックヒータ20は、絶縁性セラミックからなる基体22の内部に導電性セラミックからなるセラミック抵抗体24が埋設された棒状の形態を有する。セラミック抵抗体24は、セラミックヒータ20の先端側に配置されるU字状部分と、この両端部に接続されセラミックヒータ20の軸線方向に沿って延伸された一対の直線状部材とを有する。直線状部分の一方には径方向へ分岐してセラミックヒータ20の外側へ露出する電極取出部26が形成されている。電極取出部26は、セラミックヒータ20を圧入保持する外筒30を介してエンジンの筐体に電気的に接続されている。直線状部分の他方には、電極取出部26よりも後方において径方向へ分岐してセラミックヒータ20の外側へ露出する電極取出部28が形成されている。
【0025】
リング44は、金属軸34の先端部に接合されると共に、セラミックヒータ20の後端部に接合される円筒状の金属製部材である。リング44を介して、金属軸34と電極取出部28とが電気的に接続されている。端子金具40から電力が供給されると、金属軸34、リング44、電極取出部28を通じてセラミック抵抗体24に電力が供給され、セラミックヒータ20が発熱する。そして、セラミック抵抗体24は、電極取出部26、外筒30、内燃機関(エンジン)の筐体を通じて接地されている。
【0026】
基体22を構成する絶縁性セラミックには、例えば窒化珪素質セラミックが採用される。窒化珪素質セラミックは、窒化珪素(Si
3N
4)を主成分とする主相粒子が、焼結助剤成分に由来した粒界相により結合されている。窒化珪素質セラミックには、周期律表の3A、4A、5A、3B(例えばAl)、および4B(例えばSi)の各族の元素群、およびMgから選ばれる少なくとも1種を、基体22全体における含有量において1〜10質量%含有させることができる。これらの成分は、主に酸化物の形で添加され、基体22中において、主に酸化物あるいはシリケートなど複合酸化物の形態で含有される。焼結助剤成分の含有量は、例えば2〜8質量%とすることが好ましい。焼結助剤成分として希土類成分を使用する場合、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを用いることができる。セラミック抵抗体24を構成する導電性セラミックには、導電性成分としての炭化タングステン(WC)、二珪化モリブデン(MoSi
2)、二珪化タングステン(WSi
2)等と、絶縁性成分としての窒化珪素等と、の混合物が採用される。
【0027】
本実施形態のセラミックヒータ製造装置50は、上述のグロープラグ10が備えるセラミックヒータ20を製造する際に用いられる。なお、上記説明したグロープラグ10は、一般的な構成を有するグロープラグの一例である。本実施形態のセラミックヒータ製造装置50によって製造されるセラミックヒータを備えるグロープラグとしては、他の構成のグロープラグを採用することも可能である。
【0028】
(A2)セラミックヒータ製造装置:
図2は、セラミックヒータ製造装置50の構成を示す断面図である。また、
図3は、
図2に示した線分A−Aにおけるセラミックヒータ製造装置50の断面図である。
図2および
図3を用いてセラミックヒータ製造装置50の構成を説明する。セラミックヒータ製造装置50は、誘導加熱式のホットプレス用焼成炉である。セラミックヒータ製造装置50は、上述のセラミックヒータ20を製造するために用いられる。
【0029】
セラミックヒータ製造装置50は、モールド部材52と、空隙調整部材54と、仕切板56と、プレス部材58と、加熱部材60とを備える。モールド部材52は、グラファイト製の円筒状の部材である。以下、モールド部材52の軸線を軸線ALとも呼ぶ。
【0030】
空隙調整部材54は、モールド部材52の内壁に接するようにモールド部材52の内部に配置される。空隙調整部材54は、グラファイト製であり、外側表面がモールド部材52の内壁の形状に合わせた円弧状に成形され、内側表面が平面上に成形されている。
【0031】
仕切板56は、グラファイト製の板状の部材であり、例えば
図3(A)に示すように、空隙調整部材54の内壁に沿って4枚配置される。プレス部材58は、仕切板56の内側に形成された焼成室57に挿入され被焼成物の加圧に用いられる一対の柱状部材である。加熱部材60は、モールド部材52の外部に配置されモールド部材52に高周波を印加して加熱するためのコイルである。
【0032】
焼成室57は、仕切板56およびプレス部材58で囲まれる領域である。仕切板56は、厚さが調整可能であり、
図3(B)に示すように、仕切板56の厚さを変更することによって、焼成室57の軸線ALに垂直な方向の断面積を調整することができる。
【0033】
本実施形態においては、モールド部材52の割れを抑制するために、セラミックヒータ製造装置50の空隙調整部材54の熱膨張係数は、モールド部材52の熱膨張係数および焼成によって生成されたセラミックヒータ20の熱膨張係数より大きくなるように調整されている。また、仕切板56を使用する場合は、仕切板56の熱膨張係数についても、モールド部材52の熱膨張係数および焼成によって生成されたセラミックヒータ20の熱膨張係数より大きくなるように調整することが好ましい。そうすれば、モールド部材52の割れをより効果的に抑制することができる。各部材の熱膨張係数をこのように調整する詳細な理由については、後述の実験例において説明する。
【0034】
(A3)セラミックヒータの製造方法:
セラミックヒータ20の製造方法について説明する。
図4は、未焼成ヒータ20aを製造する様子を示す説明図である。
図4に示すように、成形用材料を射出成形して、セラミック抵抗体24となる未焼成抵抗体24aを作製する。成形用材料は、例えば上記した導電性セラミックの組成が得られるように、炭化タングステン粉末、窒化珪素粉末、および焼結助剤粉末が配合された原料セラミック粉末と、有機バインダとを混練したコンパウンドを加熱により溶融流動化させたものを用いる。
【0035】
また、基体用原料粉末をプレス成形することにより、上下別体に形成された未焼成分割基体22a,22bを作製する。未焼成分割基体22a,24bの合わせ面には、それぞれ未焼成抵抗体24aに対応した形状の凹部が形成されている。
【0036】
未焼成分割基体22a,22b、および、未焼成抵抗体24aを用意した後、未焼成分割基体22aおよび未焼成分割基体22bの凹部に未焼成抵抗体24aを収容して、未焼成分割基体22aと未焼成分割基体22bとを嵌め合わせたものを、
図5に示す金型80に収容して一体化し未焼成ヒータ20aを生成する。そして、バインダ成分を除去するために、未焼成ヒータ20aを600〜800℃で仮焼する。仮焼後の未焼成ヒータ20aを、セラミックヒータ製造装置50を用いてホットプレス法による焼成を実施し、セラミックヒータ20を生成する。
【0037】
図6は、セラミックヒータ製造装置50を用いて、ホットプレス法によって未焼成ヒータ20aを焼成する方法について説明する説明図である。また、
図7は、
図6に示した線分B−Bにおけるセラミックヒータ製造装置50の断面図である。
【0038】
図6に示すように、未焼成ヒータ20aを仮焼した後、焼成室57に、板状部材としてのホットプレス用成形型65と未焼成ヒータ20aとを交互に積層して配置する。ホットプレス用成形型65は、軸線ALに垂直な所定の方向に沿って複数の凹部67を有する。焼成室57に配置されるホットプレス用成形型65のうち、焼成室57の最下段および最上段に配置されるホットプレス用成形型65は、一方の面に複数の凹部67が形成されており、他方の面は平坦状である。焼成室57に配置されるホットプレス用成形型65のうち、焼成室57の最下段および最上段以外に配置されるホットプレス用成形型65は、両面に複数の凹部67が形成されている。
【0039】
ホットプレス用成形型65と未焼成ヒータ20aとを積層する際には、上下一対のホットプレス用成形型65の凹部67に未焼成ヒータ20aを配置する。
図7に示すように、上下一対のホットプレス用成形型65の間には、未焼成ヒータ20aを縦横に複数配列する。
【0040】
焼成室57にホットプレス用成形型65と未焼成ヒータ20aとからなる積層体を配置した後、一対のプレス部材58により積層体を軸線AL方向に加圧しながら、加熱部材60によってモールド部材52を加熱して、未焼成ヒータ20aを焼成する。
【0041】
図7に示すように、本実施形態においては、モールド部材52の大きさは、内径300mm、外径435mm、高さ500mmである。空隙調整部材54は、最大厚みが45mmである。また、
図6に示すように、焼成室57は、モールド部材52の高さ方向の中心から100mmの範囲に形成されるようにプレス部材58とモールド部材52との相対位置が調整されている。
【0042】
焼成は、例えば、非酸化性雰囲気中、焼成温度1700〜1850℃、焼成時間1〜2時間、プレス部材58によって圧力350kgf/cm
2で加圧して実施することができる。焼成終了後、プレス部材58で加圧した状態で、所定時間放置し、未焼成ヒータ20aの焼成によって生成されたセラミックヒータ20を降温する。その後、セラミックヒータ製造装置50からセラミックヒータ20を取り出す。このようにしてセラミックヒータ20を製造することができる。
【0043】
(A4)実験例:
本実験例では、空隙調整部材54、モールド部材52、セラミックヒータ20の、各熱膨張係数と、モールド部材52の耐久性との関係について調べた。具体的には、空隙調整部材54の熱膨張係数が異なるセラミックヒータ製造装置50を用意し、各セラミックヒータ製造装置50でセラミックヒータ20の焼成を複数回(上限300回)行い、モールド部材52が割れるまでの焼成回数を測定した。
【0044】
図8は、実験例1〜7による実験結果を示す説明図である。実験例1〜7の構成は次の通りである。モールド部材52の大きさは、内径300mm、外径435mm、高さ500mmとした。空隙調整部材54の最大厚みは、45mmとした。仕切板56は、焼成室57の大きさが
図8に「燃焼室」として示す各大きさになるように、厚みを調整した。セラミックヒータ製造装置50による未焼成ヒータ20aの焼成は、常圧の窒素雰囲気下で、プレス圧力350kgf/cm
2、焼成温度1800℃、焼成時間90分とした。なお、焼成室57は、モールド部材52の高さ方向の中心から100mmの範囲に形成されるようにプレス部材58とモールド部材52との相対位置が調整されている(
図6)。
【0045】
図8において「熱膨張係数」として示した値は、各空隙調整部材54の熱膨張係数、モールド部材52の熱膨張係数、セラミックヒータ20の熱膨張係数をそれぞれ示している。なお、本実験例における熱膨張係数は線膨張係数である。
【0046】
図8において「セラミックヒータの突出量」として示した値は、セラミックヒータ製造装置50によって未焼成ヒータ20aを焼成して生成されたセラミックヒータ20の軸方向の長さと、焼成室57の同方向の長さとの差を示している。軸線AL方向に加圧されながら焼成された後、降温されたセラミックヒータ20の軸方向(セラミックヒータ20本体の軸方向)の全長は、降温後の同方向の焼成室57の長さより長くなり、セラミックヒータ20は焼成室57の寸法から突出する。以下に具体的に説明する。
【0047】
焼成時には、高温かつ高圧力によって、未焼成ヒータ20aは溶融する。溶融時の未焼成ヒータ20aの軸方向の長さは、焼成室57の大きさに依存する。焼成時には、モールド部材52は膨張するため、モールド部材52の内径は広がり、焼成室57は拡張される。従って、焼成時には、未焼成ヒータ20aは、軸方法に延びる。降温時には、未焼成ヒータ20aは固化してセラミックヒータ20となる。降温後のセラミックヒータ20の長さは、焼成時に延びた未焼成ヒータ20aの長さを基準として、降温による温度差とセラミックヒータ20の熱膨張係数に基づいて決定される。一方、降温後の焼成室57の大きさは、焼成前と同じとすることができる。
【0048】
従って「セラミックヒータの突出量」は、焼成温度1800℃に加熱し膨張した時点のモールド部材52および空隙調整部材54によって形成される焼成室57の大きさに基づいて算出した未焼成ヒータ20aの大きさと、降温後に収縮したモールド部材52および空隙調整部材54の大きさに基づいて算出した焼成室57の大きさとから、計算によって求めることができる。
【0049】
図8において「モールド割れまでの焼成回数」として示した値は、実測値である。各実験例における実験条件でセラミックヒータ20の焼成を上限300回として繰り返し行い、モールド部材52が割れるまでの焼成回数を測定した。
【0050】
図8において「1焼成あたりの生産数」として示した内容は、1回の焼成で製造可能なセラミックヒータ20の数を、所定の基準に基づいて「多」「中」「少」で評価した。
【0051】
図8において「量産性」として示した内容は、「モールド割れまでの焼成回数」と「1焼成あたりの生産数」とから、所定の基準に基づいて「A」「B」「C」「D」で評価した。生産量は、A、B、C、Dの順に、低下していく。すなわち、Aは量産性が最も高く、Dは量産性が最も低いことを示す。
【0052】
図8に示すように、焼成室57の寸法が同じ場合、空隙調整部材54の熱膨張係数を、モールド部材52の熱膨張係数およびセラミックヒータ20の熱膨張係数より大きくすることにより、セラミックヒータ20の焼成後の降温時に、モールド部材52の収縮量に比べて空隙調整部材54の収縮量が大きくなり、セラミックヒータの突出量が小さくなる。その結果、降温時に、セラミックヒータ20によるモールド部材52内壁の押圧が緩和され、モールド割れが抑制される。
【0053】
特に、モールド内面積に対する焼成室面積比が0.32以上0.57以下のとき、空隙調整部材54の熱膨張係数を、モールド部材52の熱膨張係数およびセラミックヒータ20の熱膨張係数より大きくすることによって、モールド部材52の割れが抑制される効果が顕著に表れることが実験によって確認された。空隙調整部材54の熱膨張係数を、モールド部材52の熱膨張係数およびセラミックヒータ20の熱膨張係数と比較して、より大きくすることで、より大きな焼成室57でも空隙調整部材54の割れが抑制されることが確認された。
【0054】
次に、空隙調整部材54の熱膨張係数を大きくすることによるモールド割れの抑制の効果と、未焼成ヒータ20aとホットプレス用成形型65との積層数との関係を、実験例8〜13によって調べた。
【0055】
図9は、実験例8〜13による実験結果を示す説明図である。
図9において「セラミックヒータ層の高さ」として示した値は、焼成後における焼成室57内部に配置されているセラミックヒータ20の高さの合計を示す。焼成後の焼成室57の高さは、積層されているセラミックヒータ20の高さと、積層されているホットプレス用成形型65の高さの合計である。「セラミックヒータ層の高さ」は、焼成後の焼成室57の高さのうち、積層されたセラミックヒータ20のみの高さの合計を示す。一つのセラミックヒータ20の大きさは各実験において同じであるので、「セラミックヒータ層の高さ」が大きいほど、未焼成ヒータ20aとホットプレス用成形型65との積層数が大きいことを示している。
【0056】
図9に示すように、未焼成ヒータ20aとホットプレス用成形型65との積層数を増加させても、空隙調整部材54の熱膨張係数を大きくすることによるモールド割れの抑制の効果があることが確認された。なお、未焼成ヒータ20aとホットプレス用成形型65との積層数は、モールド部材52を加熱した際の均熱帯の範囲内で増加させる。
【0057】
以上説明したように、セラミックヒータ製造装置50は、空隙調整部材54の熱膨張係数が、モールド部材52の熱膨張係数およびセラミックヒータ20の熱膨張係数より大きいので、セラミックヒータ製造装置50が降温する際の空隙調整部材54の収縮量は、モールド部材52およびセラミックヒータ20と比較して大きくなる。この結果、セラミックヒータ20の焼成後の降温時における、セラミックヒータ20によるモールド部材52内壁の押圧が緩和され、モールド割れを抑制することができる。
【0058】
セラミックヒータ製造装置50は、仕切板56を備える。このため、焼成室57の軸線ALに垂直な方向の断面積を調整することができる。さらに、モールド内面積に対する焼成室面積比が0.32以上0.57以下のとき、セラミックヒータ20によるモールド部材52内壁の押圧を好適に抑制することができ、モールド部材52の割れが抑制される効果が顕著に表れることが確認された。
【0059】
セラミックヒータ製造装置50は、ホットプレス用成形型65を用いて未焼成ヒータ20aを積層し焼成するので、セラミックヒータ20を量産することができる。さらに、セラミックヒータ製造装置50は、空隙調整部材54の熱膨張係数を、モールド部材52の熱膨張係数およびセラミックヒータ20の熱膨張係数より大きくすることによって、未焼成ヒータ20aとホットプレス用成形型65との積層数に関わらず、モールド割れを抑制することができる。
【0060】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
(B1)変形例1:
上記実施形態においては、セラミックヒータ製造装置50は仕切板56を備えたが、セラミックヒータ製造装置50が仕切板56を備えない構成を採用してもよい。焼成室57の大きさを変更しない場合には、セラミックヒータ製造装置50は仕切板56を備えなくても、セラミックヒータ20を製造することができる。また、この場合においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
(B2)変形例2:
上記実施形態においては、セラミックヒータ製造装置50を用いて、グロープラグに用いられるセラミックヒータを製造したが、バーナーの着火用のヒータ、あるいは、ガスセンサの加熱用ヒータ等を製造するとしてもよい。この場合も、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0062】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。