特許第6405123号(P6405123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405123
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】車両の整流装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 35/00 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
   B62D35/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-117632(P2014-117632)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-229464(P2015-229464A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 典裕
【審査官】 梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第1984/000933(WO,A1)
【文献】 米国特許第08376450(US,B1)
【文献】 特開平09−109826(JP,A)
【文献】 実開平06−083576(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0042999(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の下部側方の車両底面と路面の間に取り付けられ、
車両の左右方向内側から外側へ向かって張り出し、リヤ側へ向かって湾曲する曲面をなす整流板を備え、
該整流板のリヤ側端部は車両の側面に沿う面をなしており、
前記整流板として、フロント側に位置する第一整流板と、該第一整流板のリヤ側に隣接する第二整流板とを備え、
前記第一整流板の後面と、前記第二整流板の前面の間に空気の流れる流路が形成され、
前記第一整流板の後面と、前記第二整流板の前面がなす隙間は、フロント側からリヤ側へ向かうにつれて幅が狭くなり、そこを通過する空気は、流路が狭められて流速が速くなるよう構成されていること
を特徴とする車両の整流装置。
【請求項2】
前記第一整流板と前記第二整流板は、単一の板材の中央部を切り起こすことにより、前記板材のうち切り起こした部分を前記第二整流板とし、残りの部分を前記第一整流板として形成したことを特徴とする請求項に記載の車両の整流装置。
【請求項3】
フロントタイヤの後方に備えられていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の整流装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な構造で車両の走行時の空気抵抗を低減し得る車両の整流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大型トラックなどの車両の場合、荷台の下部側方を覆うようにサイドスカートなどの整流装置を設け、走行時における空力特性を高め、燃費の向上を図って経済性を高めるようにしたものがある。
【0003】
このような車両の整流装置と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−223359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような荷台の下部側方を覆うサイドスカート式の整流装置では、車両側面の外側に沿って流れてくる空気が後輪に巻き込まれることを抑制することはできるものの、一方で、車両前面の下から車両底面と路面の間に潜り込んで車両側方へと抜けていく空気を効率良く逃がすことができないという問題があった。
【0006】
車両の走行時においては、車両前面の下から車両底面と路面の隙間へと潜り込む空気の流れ(床下流れ)が発生するが、車両の底面は滑らかではなく、シャシにエンジンの吸気系、排気系などの配管や燃料タンクなど多数の機器が取付けられた複雑な表面構造をなしている。このため、図7に示す如く、ここへ潜り込んだ空気(床下流れ)A1は、車両後部へと直線的に流れていくことはなく、さまざまな障害物に衝突して複雑な気流を形成した後、大部分は車両側方にあるタイヤとタイヤの間などの開口部から横方向へ抜け出ていく。
【0007】
ここで、上記のようなサイドスカートが車両に装着されていると、床下流れの逃げ道である車両側方の開口部が塞がれてしまうため、この床下流れの流路に関しては、却って空気抵抗が増してしまう可能性があった。
【0008】
また、上記のように車両底面にはエンジンなどの各種機器が取付けられているが、床下流れには、エンジンなどから発生する熱を逃がす効果もある。そして、サイドスカートでこの床下流れの逃げ道を塞いでしまうと、エンジンなどの機器が十分に冷却されず、床下に熱が籠もってしまう虞もあった。
【0009】
さらに、車両にサイドスカートを装着した場合、サイドスカートによって車両の横風に対する受風面積が増してしまうため、横風安定性が損なわれる問題もある。上記特許文献1には、サイドスカートに貫通孔(連通部)を開け、横風を受けた時にサイドスカートの内面と外面の間に発生する圧力差を利用して空気を通すようにすることで、横風から受ける力を減らす発明が記載されているが、そのようにしても受風面積自体は変わらないため、横風安定性の低下を抑制する効果には限界があるものと考えられる。
【0010】
また、サイドスカートを取り付けない場合には、上述したように、床下流れA1は図7に示す如く車両側方へと抜け出ていくが、このとき、車両側面の外側を後方へ流れる前後方向の空気の流れA2と、車両底面と路面の隙間から車両側方へ向かう横方向の空気の流れ(床下流れ)A1が衝突して乱流が発生し、空気抵抗が増大する問題がある。床下流れA1の中でも、車両の最前に位置するフロントタイヤの後方から車両側方へ抜ける流れは流速、流量ともに大きいため、この箇所における空気抵抗が特に高くなる(図中、破線で囲った箇所)。
【0011】
本発明は、斯かる実情に鑑み、エンジンの冷却性や横風安定性を損なうことなく、簡単な構造で車両の走行時の空気抵抗を低減し得る整流装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、車両の下部側方の車両底面と路面の間に取り付けられ、車両の左右方向内側から外側へ向かって張り出し、リヤ側へ向かって湾曲する曲面をなす整流板を備え、該整流板のリヤ側端部は車両の側面に沿う面をなしており、前記整流板として、フロント側に位置する第一整流板と、該第一整流板のリヤ側に隣接する第二整流板とを備え、前記第一整流板の後面と、前記第二整流板の前面の間に空気の流れる流路が形成され、前記第一整流板の後面と、前記第二整流板の前面がなす隙間は、フロント側からリヤ側へ向かうにつれて幅が狭くなり、そこを通過する空気は、流路が狭められて流速が速くなるよう構成されていることを特徴とする車両の整流装置にかかるものである。
【0013】
而して、このようにすれば、車両の側方へと抜け出る床下流れの向きを車両側面を後方へ流れる空気の流れとほぼ平行とすることができるため、前記流路を通過した床下流れと、車両側面を後方へ流れる空気の流れとの間で発生する空気の乱れを抑えることができる。且つ、車両下部側面はほぼ全面に亘り開放されているため、エンジンの熱を効率的に逃がすことができ、横風安定性が低下することもない。また、流路を通過した床下流れは車両側面に対して剥離しにくくなり、安定して車両側面に沿って後方へと流すことができるので、空気抵抗をより効率的に低減することができる。
【0016】
本発明の車両の整流装置において、前記第一整流板と前記第二整流板は、単一の板材の中央部を切り起こすことにより、前記板材のうち切り起こした部分を前記第二整流板とし、残りの部分を前記第一整流板として形成することができる。
【0017】
このようにすれば、前記第一整流板と前記第二整流板を一体として形成することができるため、部品点数を減らし、部品管理のコストや組み付け作業にかかる手間を削減することができる。
【0018】
本発明の車両の整流装置は、フロントタイヤの後方に備えられていることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、空気の乱れを最も効果的に低減させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の車両の整流装置によれば、エンジンの冷却性や横風安定性を損なうことなく、簡単な構造で車両の走行時の空気抵抗を低減し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施による車両の整流装置を車両に取り付けた様子を示す側面図である。
図2】本発明の実施による車両の整流装置を車両に取り付けた様子を示す底面図である。
図3】本発明の実施による車両の整流装置の一例を示し、(a)は側面図、(b)は平面図である。
図4】本発明の実施による車両の整流装置の整流作用を拡大して示す概念図(底面図)である。
図5】本発明の実施による車両の整流装置を装備した車両の走行中における空気の流れを示す概念図(底面図)である。
図6】本発明の実施による車両の整流装置の別の例を示し、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は(a)のC−C矢視図である。
図7】従来の車両の走行中における空気の流れを示す概念図(底面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0023】
図1図3は本発明の実施による車両の整流装置の形態の一例(第一実施例)を示すものである。車両1の下部側方の車両1底面と路面の間に、左右一対の整流装置2が取り付けられる。整流装置2は、車両1の最前に位置するタイヤの後方に備えられる。ここに図示する例では、車両1は前二軸、後二軸のトラックであるので、整流装置2は、フロントタイヤ3a、3bのうち前方のフロントタイヤ3aの後方、つまりフロントタイヤ3aと3bの間に取り付けられる。
【0024】
整流装置2は、それぞれフロント側に位置する第一整流板4と、該第一整流板4のリヤ側に隣接する第二整流板5の二枚の整流板を備えている。第一整流板4と第二整流板5は、各々が車両1の左右方向内側から外側へ向かって張り出し、リヤ側へ向かって湾曲する曲面を形成しており、各々のリヤ側端部はほぼ車両の側面に沿う面をなしている。
【0025】
第一整流板4と第二整流板5の間には、第一整流板4の後面4aと第二整流板5の前面5aにより、空気の流れる流路6が形成され、第一整流板4の後面4aと第二整流板5の前面5aがなす隙間は、車両1のフロント側からリヤ側へ向かうにつれて幅が狭くなり、これによって流路6の断面積が小さくなる先細りの形に形成されている。
【0026】
次に、上記した実施例の作用を、図4図5を参照して説明する。図4は、図5の一部(破線で囲った部分)を詳細に示す拡大図である。
【0027】
車両1前面の下から車両1底面と路面の間に流れ込む空気(床下流れA3)は、車両1底面の構造により複雑な流路を形成した後、その一部が車両側方から横方向へと抜け出ようとする。中でも、車両1の最前に位置するフロントタイヤ3aの後方から横方向に流れる空気が流量、流速ともに大きい。しかしながら、フロントタイヤ3aの後方には整流装置2が取り付けられているため、床下流れA3はそのまま車両側方へ抜け出ることはなく、図4に示す如く、車両側方へ向かう横方向の流れが第一整流板4の後面4aに衝突し、第一整流板4のなす曲面に沿って車両後方へと向きを変えられる。
【0028】
そして、向きを変えられた空気は、第一整流板4の後面4aと、そのリヤ側の第二整流板5の前面5aとの間に形成された流路6に沿って流れていく。第一整流板4のリヤ側端部はほぼ車両1の側面に沿っているので、上記空気の流れは車両側面を後方へ流れる空気の流れA4とほぼ平行となって車両後方へと流れる。これによって、流路6を通過した床下流れA3と、車両側面を後方へ流れる空気の流れA4との間で発生する空気の乱れを抑えることができる。
【0029】
また、本実施例の車両の整流装置は、車両1のフロントタイヤ3aの後方に取り付けられているのみであり、車両下部側面を覆うものではなく、車両下部側面はほぼ全面に亘り開放されているため、従来のサイドスカート式の整流装置と異なり、エンジンの熱を効率的に逃がすことができ、横風安定性が低下することもない。
【0030】
尚、上述の通り、床下流れA3のうちでも、車両1の最前に位置するフロントタイヤ3aの後方から横方向に流れ出る空気は流量、流速が特に大きいため、整流装置2の取り付け位置をフロントタイヤ3aの後方にすることで、空気の乱れを最も効果的に低減させることができる。
【0031】
またこのとき、前述したように、流路6は先細りの形状をとっているため、ここを通過する床下流れA3は、流路が狭められて流速が速くなった状態で車両1側面に沿って後方へ向かって流されることになる。このため、流路6を通過した床下流れA3は車両側面に対して剥離しにくくなり、図5に示す如く、安定して車両1側面に沿って後方へと流すことができるので、空気抵抗を効率的に低減することができる。
【0032】
したがって、上記第一実施例によれば、エンジンの冷却性や横風安定性を損なうことなく、簡単な構造で車両の走行時の空気抵抗を低減し得る。
【0033】
図6は本発明の実施による車両の整流装置の形態の別の例(第二実施例)を示すものである。本実施例による整流装置7においては、第一整流板8と第二整流板9は、別々の部材としてではなく、単一の板材10の中央部を矩形に切り起こすことにより、板材10のうち切り起こした部分を第二整流板9とし、残りの部分を第一整流板8として形成してある。そして、切り起こし片である第二整流板9と、残りの部分である第一整流板8を異なる曲率で湾曲させることにより、第一整流板8の後面8aと第二整流板9の前面9aとの間に先細りの流路11を形成するようにしてある。
【0034】
このようにすれば、第一整流板8と第二整流板9を一体として形成することができるため、部品点数を減らし、部品管理のコストや組み付け作業にかかる手間を削減することができる。尚、本実施例の作用効果については、上記第一実施例と同様であるため説明を省略する。
【0035】
したがって、本第二実施例によっても、エンジンの冷却性や横風安定性を損なうことなく、簡単な構造で車両の走行時の空気抵抗を低減し得る。
【0036】
尚、本発明の車両の整流装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、例えば、本実施例では左右のフロントタイヤの間に一対(一段)のみ設けられているが、車両側面下方の複数箇所に複数段設置しても良いことなど、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
1 車両
2 整流装置
3a、3b フロントタイヤ
4 第一整流板
4a 後面
5 第二整流板
5a 前面
6 流路
7 整流装置
8 第一整流板
9 第二整流板
10 板材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7