(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405131
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】車両用ディスクブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/097 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
F16D65/097 E
F16D65/097 C
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-132916(P2014-132916)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-11700(P2016-11700A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】長原 純一
(72)【発明者】
【氏名】傳田 昌弘
【審査官】
谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−270894(JP,A)
【文献】
特開2007−032766(JP,A)
【文献】
特開2013−228049(JP,A)
【文献】
実開昭64−018640(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータの一側部に配置され、ピストンを収容するシリンダ孔を備えた作用部と、前記ディスクロータの他側部に配置され、反力爪を備えた反作用部とをブリッジ部で連結してキャリパボディを形成し、該キャリパボディを、前記ディスクロータの一側部で車体に固設するキャリパブラケットに一対のスライドピンを介してディスク軸方向にスライド可能に支持すると共に、前記ディスクロータを挟んで配置した一対の摩擦パッドと前記ブリッジ部との間にパッドスプリングを配置した車両用ディスクブレーキにおいて、前記パッドスプリングは、前記一対の摩擦パッドと前記ブリッジ部との間に配置され、前記一対の摩擦パッドをディスク半径方向内側に押圧する本体部と、作用部側の前記摩擦パッドに当接して、制動解除時に前記作用部側の前記摩擦パッドを反ディスクロータ側に押圧するパッド戻し部とを一体に備え、前記パッド戻し部は、前記本体部のディスク周方向両端部から反ディスクロータ側に延出させた延出片を折曲して形成されるとともに、前記本体部のディスク周方向の中央部を通るディスク軸方向線に対して対称形状に形成されることを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記本体部は、前記作用部側の前記摩擦パッドと前記ブリッジ部との間に配置される作用部側スプリング部と、前記反作用部側の前記摩擦パッドと前記ブリッジ部との間に配置される反作用部側スプリング部とを備え、該反作用部側スプリング部のディスク周方向両端部に、ディスク半径方向内側に折り曲げられた折曲片がそれぞれ形成され、
前記各パッド戻し部は、前記折曲片から反ディスクロータ側に延出した前記延出片を前記折曲片の外側からディスク軸方向に円弧状に曲げ戻して形成される弾性ループ部と、該弾性ループ部から前記作用部側の前記摩擦パッドの前記ディスクロータの外周から外側に突出して配置される突出部に向けて延出する弾性片と、該弾性片の先端に形成され、前記突出部に当接する当接部とを備えていることを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記摩擦パッドは、前記キャリパボディに懸架されるハンガーピンにそれぞれ吊持されると共に、前記パッド戻し部は、前記摩擦パッドに形成されたハンガーピン挿通孔よりもディスク半径方向内側に当接することを特徴とする請求項1または2記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記パッド戻し部は、前記ハンガーピン挿通孔よりも前記摩擦パッドの中心側に当接することを特徴とする請求項3記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記本体部は、ディスク半径方向内側に突出して、前記反作用部側の前記摩擦パッドのディスクロータ側面に当接して、前記反作用部側の前記摩擦パッドを支持する支持片が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項6】
前記車両用ディスクブレーキが機械式ディスクブレーキであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ディスクブレーキに関し、詳しくは、キャリパボディのブリッジ部と摩擦パッドとの間にパッドスプリングを配置した車両用ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ディスクブレーキでは、キャリパボディのブリッジ部と摩擦パッドとの間にパッドスプリングを配置して、摩擦パッドのガタ付きの抑制と、制動解除時の摩擦パッドの引き摺り防止とを図ったものがあった。このパッドスプリングとして、ディスク半径方向外側から、摩擦パッドの裏板に当接して、摩擦パッドのガタ付きを抑制する本体部と、摩擦パッドをディスクロータから離間させる方向に付勢するパッド戻し部とを板ばね材でそれぞれ形成し、これら板ばね材をリベットで連結して形成されたものがあった(例えば、特許文献1参照。)。また、ディスク半径方向外側から、摩擦パッドの裏板に当接して、摩擦パッドのガタ付きを抑制する作用部側スプリング部と反作用部側スプリング部と、反作用部側スプリング部の中間位置から、該反作用部側スプリング部と直交する方向に突出して、作用部側の摩擦パッドに弾性的に係合し、摩擦パッドの引き摺りを防止するパッド戻し部とを一体に設けたものがあった(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−112599号公報
【特許文献2】実開平6−32770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1のパッドスプリングは、2枚の板ばね材をリベットで連結して形成されることから、部品点数が多くなり、また、組み付け作業に手間が掛かることからコストが嵩んでいた。さらに、特許文献2のパッドスプリングは、一枚の板材から作用部側スプリング部と反作用部側スプリング部とパッド戻し部とを形成することができるものの、パッド戻し部は、弾発力を持たせるためにディスク半径方向外側に膨出する複数の弾性ループ部が設けられていることから、摩擦パッドとブリッジ部との間に所定のスペースを確保しなければならず、パッドスプリングやキャリパボディが大型化する虞があると共に組付に手間が掛かり、コストが嵩んでいた。
【0005】
そこで本発明は、コストの低減化を図りながら、パッドスプリングで、摩擦パッドのガタ付きと制動解除時の摩擦パッドの引き摺りとを防止することができる車両用ディスクブレーキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキは、ディスクロータの一側部に配置され、ピストンを収容するシリンダ孔を備えた作用部と、前記ディスクロータの他側部に配置され、反力爪を備えた反作用部とをブリッジ部で連結してキャリパボディを形成し、該キャリパボディを、前記ディスクロータの一側部で車体に固設するキャリパブラケットに一対のスライドピンを介してディスク軸方向にスライド可能に支持すると共に、前記ディスクロータを挟んで配置した一対の摩擦パッドと前記ブリッジ部との間にパッドスプリングを配置した車両用ディスクブレーキにおいて、前記パッドスプリングは、前記一対の摩擦パッドと前記ブリッジ部との間に配置され、前記一対の摩擦パッドをディスク半径方向内側に押圧する本体部と、作用部側の前記摩擦パッドに当接して、制動解除時に前記作用部側の前記摩擦パッドを反ディスクロータ側に押圧するパッド戻し部とを一体に備え、前記パッド戻し部は、前記本体部のディスク周方向両端部から反ディスクロータ側に延出させた延出片を折曲して形成される
とともに、前記本体部のディスク周方向の中央部を通るディスク軸方向線に対して対称形状に形成されることを特徴としている。
【0007】
また、前記本体部は、前記作用部側の前記摩擦パッドと前記ブリッジ部との間に配置される作用部側スプリング部と、前記反作用部側の前記摩擦パッドと前記ブリッジ部との間に配置される反作用部側スプリング部とを備え、該反作用部側スプリング部のディスク周方向両端部に、ディスク半径方向内側に折り曲げられた折曲片がそれぞれ形成され、前記各パッド戻し部は、前記折曲片から反ディスクロータ側に延出した前記延出片を前記折曲片の外側からディスク軸方向に円弧状に曲げ戻して形成される弾性ループ部と、該弾性ループ部から前記作用部側の前記摩擦パッドの前記ディスクロータの外周から外側に突出して配置される突出部に向けて延出する弾性片と、該弾性片の先端に形成され、前記突出部に当接する当接部とを備えていると好適である。
【0008】
さらに、前記摩擦パッドは、前記キャリパボディに懸架されるハンガーピンにそれぞれ吊持されると共に、前記パッド戻し部は、前記摩擦パッドに形成されたハンガーピン挿通孔よりもディスク半径方向内側に当接するとこのましく、また、前記ハンガーピン挿通孔よりも前記摩擦パッドの中心側に当接すると好適である
。また、前記本体部は、ディスク半径方向内側に突出して、前記反作用部側の前記摩擦パッドのディスクロータ側面に当接して、前記反作用部側の前記摩擦パッドを支持する支持片が形成されていると好ましい。さらに、前記車両用ディスクブレーキが機械式ディスクブレーキであると良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用ディスクブレーキによれば、パッドスプリングは、摩擦パッドをディスク半径方向内側に押圧する本体部により、摩擦パッドのガタ付きを抑制することができると共に、制動解除時に、パッド戻し部が作用部側の前記摩擦パッドを反ディスクロータ側に押圧することにより、作用部側の摩擦パッドをディスクロータから離間させ、摩擦パッドの引き摺りを抑制することができる。また、パッドスプリングは、本体部とパッド戻し部とが一体に形成されることから、製造コストの低減化を図ることができ、さらに、パッド戻し部は、本体部のディスク周方向両端部から反ディスクロータ側に延出させた延出片を折曲して形成されることにより、パッドスプリングのディスク軸方向の大きさを抑えることができ、キャリパボディが大型化する虞がない。
【0010】
さらに、本体部の反作用部側スプリング部のディスク周方向両端部に、ディスク半径方向内側に折り曲げられる折曲片をそれぞれ形成し、各パッド戻し部は、折曲片から反ディスクロータ側に延出した延出片を折曲片の外側からディスク軸方向に円弧状に曲げ戻して形成される弾性ループ部と、弾性ループ部から作用部側の摩擦パッドのディスクロータの外周から外側に突出して配置される突出部に向けて延出する弾性片と、突出部に当接する当接部とで形成されることから、延出片を折曲することにより、パッド戻し部を簡単な形状で容易に形成することができ、組み付け性を向上させることもできる。
【0011】
さらに、摩擦パッドをキャリパボディに懸架されるハンガーピンにそれぞれ吊持し、パッド戻し部を、摩擦パッドに形成したハンガーピン挿通孔よりもディスク半径方向内側に当接させることにより、摩擦パッドのスライド中心となるハンガーピン挿通孔の近傍をパッド戻し部で付勢することができ、制動解除時に、摩擦パッドをディスクロータから良好に離間させることができる。さらに、パッド戻し部をハンガーピン挿通孔よりも摩擦パッドの中心側に当接させることにより、摩擦パッドの重心に近い位置をパッド戻し部で付勢することができ、より良好に摩擦パッドをディスクロータから離間させることができる。また、パッド戻し部を、本体部のディスク周方向の中央部を通るディスク軸方向線に対して対称形状に形成したことにより、パッド戻し部で摩擦パッドのディスク回入側と回出側とをバランス良く付勢することができる。
【0012】
さらに、本体部に、ディスク半径方向内側に突出し、反作用部側の摩擦パッドのディスクロータ側面に当接して、反作用部側の前記摩擦パッドを支持する支持片を形成したことにより、制動解除時に、パッド戻し部が作用部側の摩擦パッドを反ディスクロータ側に押圧することにより発生する反力を、支持片を介して反作用部側の摩擦パッドに伝達することができ、反作用部側の摩擦パッドもディスクロータから良好に離間させることができる。また、車両用ディスクブレーキが機械式ディスクブレーキであることにより、少ない部品で摩擦パッドのガタ付きを抑制できると共に、制動解除時に摩擦パッドをディスクロータから離間させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明の一形態例を示す車両用ディスクブレーキの一部断面背面図である。
【
図4】本発明の一形態例を示す車両用ディスクブレーキの正面図である。
【
図5】同じく車両用ディスクブレーキの平面図である。
【
図6】本発明の一形態例を示すパッドスプリングの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至
図6は本発明の車両用ディスクブレーキの一形態例を示す図で、矢印Aは、車両前進時に車輪と一体に回転するディスクロータの回転方向であり、以下で述べるディスク回出側及びディスク回入側とは車両前進時におけるものとする。
【0015】
本形態例のディスクブレーキ1は、ディスクロータ2と、該ディスクロータ2の一側部で車体に取り付けられるキャリパブラケット3と、該キャリパブラケット3にスライドピン4,4を介してディスク軸方向へ移動可能に支持されるピンスライド型のキャリパボディ5と、該キャリパボディ5の作用部5aと反作用部5bの間に、ディスクロータ2を挟んで対向配置される一対の摩擦パッド6,7とを備え、摩擦パッド6,7とキャリパボディ5のブリッジ部5cとの間にはパッドスプリング8が配置されている。
【0016】
キャリパボディ5は、ディスクロータ2の一側部に配置される前記作用部5aと、ディスクロータ2の他側部に配置される前記反作用部5bと、これらをディスクロータ2の外側を跨いで連結する前記ブリッジ部5cとからなっている。作用部5aには、ディスク回入側と回出側から、一対の取付腕5d,5dがディスクロータ2の一側面と平行に突設され、該取付腕5d,5dに、キャリパブラケット3に突設された前記スライドピン4,4を挿通させるピン挿通孔5eがそれぞれ形成されている。また、作用部5aの反ディスクロータ側のディスク回出側には、ワイヤガイドアーム5fが突設されるとともに、内部には、シリンダ孔5gと軸受孔5hとが形成されている。シリンダ孔5gは、ディスク軸方向に形成され、ディスクロータ2側に開口し、ピストン9が移動可能に内挿されている。軸受孔5hは、シリンダ孔5gの底部側で、一端を作用部5aの外面に開口させて、シリンダ孔5gと直交して設けられた有底孔で、カム軸10が回動可能に内挿されており、カム軸10とピストン9との間にプッシュロッド11が介装されている。カム軸10の外端部10aは、軸受孔5hから上方へ突出し、この外端部10aに作動レバー12がボルト13と座金14とを用いて取り付けられ、また、外端部10aの外周には、リターンスプリング15が設けられている。
【0017】
リターンスプリング15は、コイル部15aを前記外端部10aに外挿し、コイル部15aから突出する一端部を作用部5aの外面に、他端部を作動レバー12にそれぞれ当接させることにより、作動レバー12はリターンスプリング15によって非作動方向に付勢される。作動レバー12の先端側にはワイヤケーブル16が連結され、該ワイヤケーブル16は、ワイヤガイドアーム5fを通して車体前部方向に取り回され、ブレーキペダル又は操作レバー等のブレーキ操作子(図示せず)に連結されている。また、反作用部5bには、反力爪5iがディスクロータ2の他側面と平行に設けられ、ブリッジ部5cの内壁のディスク周方向中央部には、パッドスプリング8を装着する装着溝5kがディスク軸方向に形成されている。
【0018】
摩擦パッド6,7は、ディスクロータ2の側面と摺接するライニング6a,7aを、金属製の裏板6b,7bに固着して形成され、キャリパボディ5の作用部5aと反作用部5bとの間に懸架される一対のハンガーピン17,17にそれぞれ吊持される。裏板6b,7bは、ディスク半径方向内側に前記ライニング6a,7aが取り付けられ、ディスクロータ2の外周から外側に突出して配置される突出部6c,7cに、前記ハンガーピン17,17がそれぞれ挿通される。
【0019】
パッドスプリング8は、1枚の板材を所定の形状に切断した後にプレス加工をすることにより形成され、摩擦パッド6,7をディスク半径方向内側に押圧する本体部8aと、制動解除時に、作用部5a側の摩擦パッド6を反ディスクロータ側に押圧することにより、摩擦パッド6,7をディスクロータ2から離間させる一対のパッド戻し部8b,8bとを備えている。
【0020】
本体部8aは、ブリッジ部5cに形成された前記装着溝5kに嵌入されるディスク軸方向の突条部8cを中央に備えた取付部8dと、取付部8dのディスク周方向両側部から、ディスク回入側とディスク回出側とに向けて延出し、作用部5a側の摩擦パッド6とブリッジ部5cとの間にそれぞれ配置される一対の作用部側スプリング部8e,8eと、取付部8dのディスク周方向両側部から、ディスク回入側とディスク回出側とに向けてそれぞれ延出し、反作用部5b側の摩擦パッド7とブリッジ部5cとの間に配置される一対の反作用部側スプリング部8f,8fとを備えている。
【0021】
各作用部側スプリング部8eは、取付部8dから漸次ディスク半径方向内側へ傾斜して延出し、作用部5a側の摩擦パッド6の突出部6cに当接する第1当接部8gと、該第1当接部8gからディスク半径方向外側に延出した後、突出部6cの側部に沿ってディスク半径方向内側に延出する第1外端部8hとを備えている。各反作用部側スプリング部8fは、取付部8dから漸次ディスク半径方向内側へ傾斜し、反作用部5b側の摩擦パッド7の突出部7cに当接する第2当接部8iと、該第2当接部8iからディスク半径方向外側に延出した後、突出部7cの側部に沿ってディスク半径方向内側に延出する第2外端部8jと、該第2外端部8jからディスク半径方向内側に折り曲げられて突出する折曲片8kとを備えている。さらに、各反作用部側スプリング部8fの取付部8dと第2当接部8iとの間には、反作用部5b側の摩擦パッド7の突出部7cのディスクロータ側面に当接して反作用部5b側の摩擦パッド7を支持する支持片8mがそれぞれ形成されている。
【0022】
各パッド戻し部8bは、折曲片8kの反ディスクロータ側面から、反ディスクロータ側に延出させた延出片8nを折曲して形成されるもので、反ディスクロータ側に延出した延出片8nを折曲片8kの外側からディスク軸方向に円弧状に曲げ戻して形成される弾性ループ部8pと、該弾性ループ部8pから作用部5a側の摩擦パッド6の突出部6cに向けて、ディスク軸方向に延出する弾性片8qと、該弾性片8qの先端に形成され、突出部6cに当接する第3当接部8r(本発明の当接部)とを備えている。また、前記作用部側スプリング部8e,8eと反作用部側スプリング部8f,8fとパッド戻し部8b,8bとは、本体部8aのディスク周方向の中央部を通るディスク軸方向線CL1に対して対称形状にそれぞれ形成され、すなわち、突条部8cに対して対称形状にそれぞれ形成されている。
【0023】
このように形成されたパッドスプリング8は、突条部8cをブリッジ部5cの装着溝5kに嵌入することによりキャリパボディ5に組み付けられ、各作用部側スプリング部8eの第1当接部8gが作用部5a側の摩擦パッド6の突出部6cのディスク半径方向外側面にそれぞれ当接し、各反作用部側スプリング部8fの第2当接部8iが反作用部5b側の摩擦パッド7の突出部7cのディスク半径方向外側面にそれぞれ当接することにより、両摩擦パッド6,7をディスク半径方向内側に付勢する。さらに、各支持片8mが突出部7cのディスクロータ側面に当接して、反作用部5b側の摩擦パッド7を支持する。また、各パッド戻し部8bは、第3当接部8rが、作用部5a側の摩擦パッド6の突出部6cに形成されたハンガーピン挿通孔6dよりもディスク半径方向内側で、且つ、ハンガーピン挿通孔6dよりも摩擦パッド6の中心側にそれぞれ当接している。
【0024】
上述のように形成された本形態例のディスクブレーキ1では、ブレーキ操作子が操作されると、ワイヤケーブル16が牽引され、作動レバー12とカム軸10とがリターンスプリング15の弾発力に抗して一体に回転し、プッシュロッド11がディスクロータ2方向へ押動される。これにより、ピストン9がディスクロータ2側に押動され、パッド戻し部8b,8bの弾発力に抗して、作用部5a側の摩擦パッド6のライニング6aをディスクロータ2の一側面へ摺接させる。この反作用によって、キャリパボディ5がスライドピン4,4に案内されながら作用部方向へスライドし、反力爪5iが、パッド戻し部8b,8bの弾発力に抗して反作用部5b側の摩擦パッド7のライニング7aをディスクロータ2の他側面に摺接させて、制動作用が行われる。
【0025】
このとき、摩擦パッド6,7は、作用部側スプリング部8e,8eと反作用部側スプリング部8f,8fとでディスク半径方向内側に付勢されていることから、摩擦パッド6,7のガタ付きを抑制することができる。さらに、制動解除時には、パッド戻し部8b,8bが初期状態に復帰することにより、作用部5a側の摩擦パッド6をディスクロータ2から離間させると共に、この反力を支持片8m,8mを介して反作用部5b側の摩擦パッド7に伝達させ、反作用部側の摩擦パッド7もディスクロータ2から離間させ、摩擦パッド6,7の引き摺りを防止することができる。また、パッド戻し部8b,8bは、第3当接部8rが、摩擦パッド6のハンガーピン挿通孔6d,6dよりもディスク半径方向内側で、且つ、ハンガーピン挿通孔6d,6dよりも摩擦パッド6の中心側にそれぞれ当接していることから、摩擦パッド6のスライド中心に近く、且つ、重心に近い位置をパッド戻し部8b,8bで付勢することができ、摩擦パッド6,7を良好にディスクロータ2から離間させることができる。
【0026】
さらに、パッドスプリング8は、本体部8aとパッド戻し部8b,8bとを、簡単な形状で一体に形成することができることからコストの削減化を図ることができる。また、パッドスプリング8は、各パッド戻し部8bを本体部8aのディスク周方向両端部から反ディスクロータ側に延出させた延出片8nを折曲して形成したことにより、パッドスプリング8のディスク軸方向の大きさを抑えることができる。さらに、弾性ループ部8pが反作用部側スプリング部8fのディスク周方向両端部の外側に配置されることから、摩擦パッド6,7とブリッジ部5cとの間のスペースを小さく抑えることができ、ディスクブレーキ1が大型化する虞がない。
【0027】
尚、本発明は上述の形態例に限るものではなく、液圧式のディスクブレーキにも適用することができる。また、摩擦パッドは、ハンガーピンで吊持するものに限らず、裏板に形成した耳片をキャリパブラケットに形成したパッドガイド溝に挿入するものでもよい。さらに、パッドスプリングの本体部の形状は任意であり、また、本体部やパッド戻し部が、本体部のディスク周方向の中央部を通るディスク軸方向線CL1に対して対称形状に形成されていなくても良い。また、ブリッジ部に形成した装着溝に、突条部を嵌入してパッドスプリングをブリッジ部に取り付けるものに限らず、装着溝に、パッドスプリングに設けた係合片を係合させてブリッジ部に取り付けるものでも良い。さらに、パッドスプリングに、反作用部側の摩擦パッドのディスクロータ側面に当接する支持片を設けていなくても良い。
【符号の説明】
【0028】
1…ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパブラケット、4…スライドピン、5…キャリパボディ、5a…作用部、5b…反作用部、5c…ブリッジ部、5d…取付腕、5e…ピン挿通孔、5f…ワイヤガイドアーム、5g…シリンダ孔、5h…軸受孔、5i…反力爪、5k…装着溝、6,7…摩擦パッド、6a,7a…ライニング、6b,7b…裏板、6c,7c…突出部、6d…ハンガーピン挿通孔、8…パッドスプリング、8a…本体部、8b…パッド戻し部、8c…突条部、8d…取付部、8e…作用部側スプリング部、8f…反作用部側スプリング部、8g…第1当接部、8h…第1外端部、8i…第2当接部、8j…第2外端部、8k…折曲片、8m…支持片、8n…延出片、8p…弾性ループ部、8q…弾性片、8r…第3当接部、9…ピストン、10…カム軸、10a…外端部、11…プッシュロッド、12…作動レバー、13…ボルト、14…座金、15…リターンスプリング、15a…コイル部、16…ワイヤケーブル、17…ハンガーピン