特許第6405134号(P6405134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6405134直流軌道回路の信号電流測定器及び短絡箇所特定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405134
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】直流軌道回路の信号電流測定器及び短絡箇所特定方法
(51)【国際特許分類】
   B61L 1/18 20060101AFI20181004BHJP
   B61L 23/04 20060101ALI20181004BHJP
   G01R 31/02 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   B61L1/18 Z
   B61L23/04
   G01R31/02
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-133986(P2014-133986)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-11067(P2016-11067A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 厚
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康之
(72)【発明者】
【氏名】島津 隆
(72)【発明者】
【氏名】物江 恒二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貫太
(72)【発明者】
【氏名】川村 武範
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−125923(JP,A)
【文献】 特開2006−258494(JP,A)
【文献】 特開平02−197459(JP,A)
【文献】 特開2002−098724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/18
B61L 23/04
G01R 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流軌道回路の直流信号である信号電流を測定する電流測定器において、
レールの長手方向に沿って移動可能にレール踏面に載置される走行部と、
前記走行部の長手方向に所定の間隔をおいて設けられ前記レールに接触して当該接触部分の電位差を検出するための2つの接触子と、
前記2つの接触子で検出された電位差に基づき前記信号電流の値を計算して表示する信号処理部と、
前記接触子を前記レール踏面に押圧する付勢部と、
を備えることを特徴とする信号電流測定器。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記レールに重畳して流れる交流電流の周波数成分を減衰させるフィルタを備えたことを特徴とする請求項1に記載の信号電流測定器。
【請求項3】
前記2つの接触子の所定の間隔を可変にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の信号電流測定器。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記レールの種類に応じて異なる定数を用いて前記信号電流の値を計算することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の信号電流測定器。
【請求項5】
前記接触子は、前記レール踏面を研磨可能で導電性を有するブラシ状部材から構成したことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の信号電流測定器。
【請求項6】
前記接触子は、2つの前記ブラシ状部材から構成したことを特徴とする請求項に記載の信号電流測定器。
【請求項7】
直流軌道回路の直流信号である信号電流を測定して軌道短絡障害が発生している箇所を特定する短絡箇所特定方法であって、
レールの長手方向に沿って移動可能な走行部をレール踏面に載置して各測定点に移動するステップと、
前記各測定点において、前記走行部の長手方向に所定の間隔をおいて設けられ前記レールに接触した2つの接触子が、当該接触部分の電位差を検出するステップと、
信号処理部が、前記2つの接触子で検出された電位差に基づき前記信号電流の値を計算して表示すると共に、前記信号電流が測定できた測定点と、前記信号電流が測定できなかった測定点との間に短絡箇所があると特定して表示するステップと、
を含むことを特徴とする短絡箇所特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非電化区間で使用される直流軌道回路の信号電流測定器及び信号電流測定器を用いた短絡箇所特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非電化区間で使用される直流軌道回路は、送信側から整流器で整流された直流電流を信号電流として絶縁されたレール(閉塞区間)に流して、受信側の軌道リレーに入力しておき、絶縁されたレール(閉塞区間)に在線する列車の車輪によりレールが短絡されて、軌道リレーに信号電流が流れなくなることで列車の在線状況を検知し、信号機を停止現示(赤信号)にすることにより、絶縁されたレール(閉塞区間)への他の列車の進行を禁止して、列車の追突や正面衝突を防止する。
【0003】
このような直流軌道回路において、大雨によるレールの短絡、金属や導電性部材によるレールの短絡、絶縁破壊による短絡等に起因した軌道短絡障害が発生した場合、列車が在線していないにも関わらず、信号機が停止現示(赤信号)になってしまい、絶縁されたレール(閉塞区間)へ列車が進行できなくなってしまう。このため、短絡箇所を特定して、軌道短絡障害を解消するためにレールに流れる信号電流を測定することが必要になる。
【0004】
しかし、このような直流軌道回路は、設備構成が簡単であり壊れにくく、また、非電化区間等の限られた地域でしか導入されておらず、レールに流れる直流電流である信号電流を測定する測定器に対する要望がなく、当該測定器が存在しなかった。
【0005】
これに対して、広く導入されている交流軌道回路においては、交流電流である信号電流を測定するために、非接触で交流電流を測定可能な電流検出子を2つ備えて、軌道回路の並走レールの双方について信号電流を同時かつ円滑に移動測定できる電流測定装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、直流電鉄き電回路においては、レールに流れる直流電流である帰線電流を測定するために、レールに流れる帰線電流による磁界の変化を検出する磁界検出手段を備えて、設備が大型化することなく帰線電流を容易に検出できるレール直流電流検知装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−234875号公報
【特許文献2】特開2007−153255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の先行技術では、交流軌道回路における交流電流である信号電流を測定するものであり、直流軌道回路における直流電流である信号電流を測定することはできないといった問題点があった。
また、特許文献2の先行技術では、レールに流れる直流電流である帰線電流を測定するものであるものの、直流電鉄き電回路では、直流電流である帰線電流が信号電流の妨害となり直流軌道回路を使用することができないと共に、当該帰線電流は数100A〜数1000Aであるのに対して、直流軌道回路の信号電流は数A程度であり、直流軌道回路の信号電流は帰線電流と比較して極めて小さいため、特許文献2の先行技術をそのまま直流軌道回路の信号電流の測定には適用できないといった問題点があった。
また、直流軌道回路のレールにコイルを巻きつけ磁界の変化を検出することにより、レールに流れる信号電流(直流電流)を測定することは可能であるものの、レールにコイルを巻きつけた状態での移動はできず、軌道短絡障害における短絡箇所を特定するために、絶縁されたレール(閉塞区間)全体に亘って移動しながら各測定点で信号電流(直流電流)を測定することは困難であるといった問題点があった。
【0009】
本発明の課題は、直流軌道回路において、絶縁されたレール(閉塞区間)全体に亘って移動しながら各測定点で直流電流である信号電流を測定することができる直流軌道回路の信号電流測定器及び信号電流測定器を用いた短絡箇所特定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、この発明は、
直流軌道回路の直流信号である信号電流を測定する電流測定器において、
レールの長手方向に沿って移動可能にレール踏面に載置される走行部と、
前記走行部の長手方向に所定の間隔をおいて設けられ前記レールに接触して当該接触部分の電位差を検出するための2つの接触子と、
前記2つの接触子で検出された電位差に基づき前記信号電流の値を計算して表示する信号処理部と、
前記接触子を前記レール踏面に押圧する付勢部と、
を備えるようにしたものである。
【0011】
レール踏面に載置された走行部を、レールの長手方向に沿って移動させながら各測定点まで移動し、2つの接触子で検出された電位差に基づき信号電流(直流電流)の値を計算し表示することにより、直流軌道回路において、絶縁されたレール(閉塞区間)全体に亘って移動しながら各測定点で直流電流である信号電流を測定することができる。また、各測定点における測定された信号電流の値に基づき、短絡箇所を特定することができる。
また、接触子を付勢部によりレール踏面に押し付けることにより、測定点において確実に接触子とレール踏面との接触を担保することができ、より正確に信号電流の値の測定をすることができる。
【0012】
また、望ましくは、前記信号処理部は、前記レールに重畳して流れる交流電流の周波数成分を減衰させるフィルタを備えるようにしたものである。
フィルタにより信号電流の値の測定に障害をもたらす踏切制御子の電流等の交流電流を除去することができるので、より正確に信号電流の値の測定をすることができる。
【0013】
また、望ましくは、前記2つの接触子の所定の間隔を可変にしたものである。
2つの接触子の所定の間隔を広くすることにより、測定される電位差の値は大きくなるので測定感度を向上させることができ、また、短絡箇所を特定する際には、測定感度よりも信号電流の有無が必要な情報となるので2つの接触子の所定の間隔を狭くすることにより、短絡箇所をより細かく特定することができる。
【0014】
また、望ましくは、前記信号処理部は、前記レールの種類に応じて異なる定数を用いて前記信号電流の値を計算するようにしたものである。
レールの種類によって定数である抵抗値が異なるので、レールの種類に応じて対応する抵抗値を用いて信号電流の値を計算することにより、より正確に信号電流の値の測定をすることができる。
【0015】
また、望ましくは、前記接触子は、前記レール踏面を研磨可能で導電性を有するブラシ状部材から構成するようにしたものである。
接触子をレール踏面を研磨可能で導電性を有するブラシ状部材にすることにより、レール踏面に錆びが生じている場合であっても、走行部の移動に伴い、レール踏面が研磨されるので、測定点において確実に接触子とレール踏面との接触を担保することができ、より正確に信号電流の値の測定をすることができる。
【0016】
また、望ましくは、前記接触子は、2つの前記ブラシ状部材から構成するようにしたものである。
接触子を2つのブラシ状部材から構成することにより、レールにカント(レールの曲線部において、外側のレールまたは路面を内側よりも高くする)が設けられた場合であっても、2つのブラシ状部材がレール踏面に接触し易くなって、レール踏面を均等に研磨することができるので、測定点において確実に接触子とレール踏面との接触を担保することができ、より正確に信号電流の値の測定をすることができる。
【0018】
また、本出願の他の発明は、
直流軌道回路の直流信号である信号電流を測定して軌道短絡障害が発生している箇所を特定する短絡箇所特定方法であって、
レールの長手方向に沿って移動可能な走行部をレール踏面に載置して各測定点に移動するステップと、
前記各測定点において、前記走行部の長手方向に所定の間隔をおいて設けられ前記レールに接触した2つの接触子が、当該接触部分の電位差を検出するステップと、
信号処理部が、前記2つの接触子で検出された電位差に基づき前記信号電流の値を計算して表示すると共に、前記信号電流が測定できた測定点と、前記信号電流が測定できなかった測定点との間に短絡箇所があると特定して表示するステップと、
を含むようにしたものである。
【0019】
走行部をレール踏面に載置して各測定点に移動し、各測定点において、走行部の長手方向に所定の間隔をおいて設けられレールに接触した2つの接触子が、当該接触部分の電位差を検出し、信号処理部が、2つの接触子で検出された電位差に基づき信号電流の値を計算して表示すると共に、信号電流が測定できた測定点と、信号電流が測定できなかった測定点との間に短絡箇所があると特定して表示することにより、各測定点における測定された信号電流の値に基づき、短絡箇所を特定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、直流軌道回路の直流信号である信号電流を測定する電流測定器において、レールの長手方向に沿って移動可能にレール踏面に載置される走行部と、走行部の長手方向に所定の間隔をおいて設けられレールに接触して当該接触部分の電位差を検出するための2つの接触子と、2つの接触子で検出された電位差に基づき信号電流の値を計算して表示する信号処理部と、を備えることにより、レール踏面に載置された走行部を、レールの長手方向に沿って各測定点まで移動し、2つの接触子で検出された電位差に基づき信号電流(直流電流)の値を計算し表示できるので、直流軌道回路において、絶縁されたレール(閉塞区間)全体に亘って移動しながら各測定点で直流電流である信号電流を測定することができる。
また、走行部をレール踏面に載置して各測定点に移動し、各測定点において、走行部の長手方向に所定の間隔をおいて設けられ前記レールに接触して当該接触部分の電位差を検出するための2つの接触子が、当該接触部分の電位差を検出し、信号処理部が、2つの接触子で検出された電位差に基づき信号電流の値を計算して表示すると共に、信号電流が測定できた測定点と、信号電流が測定できなかった測定点との間に短絡箇所があると特定して表示することにより、各測定点における測定された信号電流の値に基づき、短絡箇所を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施の形態に係る直流軌道回路の信号電流測定器の構成の一例を示す概略構成図である。
図2図1の走行部及び接触子とレールとの関係を説明する説明図である。
図3】本実施の形態に係る直流軌道回路の信号電流測定器による短絡箇所の特定方法を説明する説明図である。
図4】本実施の形態に係る直流軌道回路の信号電流測定器による短絡箇所の特定方法を説明する説明図である。
図5】第2実施形態に係る直流軌道回路の信号電流測定器の構成の一例を示す概略構成図である。
図6】第3実施形態に係る直流軌道回路の信号電流測定器の構成の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施形態)
[1.構成の説明]
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態である直流軌道回路の信号電流測定器及び信号電流測定器を用いた短絡箇所特定方法を詳細に説明する。但し、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0023】
本発明の実施形態の直流軌道回路の信号電流測定器の構成について図1及び図2を参照して説明する。図1は、直流軌道回路の信号電流測定器100の構成を示す概略構成図(正面図及び側面図)である。
走行部1は、敷設されたレールRL21のレール踏面TP21に載置される。また、走行部1には、短手方向の両側にレールRL21の側面を挟み込むように支持すると共に、回転可能なローラ等で構成されるガイドGD11を備えており、このため、走行部1は、レールRL21から外れることなくレールRL21の長手方向に沿って移動可能になっている。
【0024】
接触子2は、走行部1の長手方向の両端にそれぞれ設けられ、走行部1をレールRL21に載置した際に、レール踏面TP21に所定の間隔で接触し、当該接触部分の電位差を検出する導電性を有する部材である。また、直流軌道回路が使用される非電化区間では、列車の本数も少なく、レール踏面TP21に錆びが生じている場合も考えられるので、接触子2としては、走行部1の移動に伴い、レール踏面TP21が研磨できるように、導電性を有するブラシ状部材により構成しても良い。
【0025】
信号処理部3は、LCD等の表示手段と、信号電流の値を計算や短絡箇所の特定を行うための制御手段、或いは、処理回路から構成され、制御手段等は、2つの接触子2で検出された電位差に基づき信号電流の値を計算して表示手段に表示する。
具体的には、2つの接触子2で検出された電位差と、予め設定されたレールの定数である抵抗値に基づき直流電流である信号電流の値を計算して表示手段に表示する。また、各測定点における測定された信号電流の値に基づき、短絡箇所を特定して表示手段に表示する。
【0026】
また、直流軌道回路において、絶縁されたレール(閉塞区間)全体に亘って移動する際に、手で掴んで押したり引いたりするためのハンドルHD11が、必要に応じて、走行部1の長手方向の中央部分に回動可能に取り付けられる。
【0027】
[2.短絡箇所の特定方法の説明]
ここで、本発明の実施形態である直流軌道回路の信号電流測定器による短絡箇所の特定方法の説明を図3及び図4を用いて詳細に行う。
図3(a)の短絡箇所FL31で短絡させた場合、信号電流DI31は、整流器RF31から限流抵抗R32を介して、レールRL31の一方に流れ込み、短絡箇所FL31を介してレールRL31の他方に流れて整流器RF31に戻ってくる。
そして、レール踏面に載置された走行部1を、レールRL31の長手方向に沿って測定点PT31及び測定点PT32まで移動させ、当該測定点における信号電流の値を、本発明の実施形態である直流軌道回路の信号電流測定器を用いて測定した結果が、図3(b)及び図3(c)である。但し、測定点PT33及び測定点PT34は、通常の電流計により測定したものである。
【0028】
図3(b)に示すように測定点PT31における信号電流の値は”9.7A”であり、整流器RF31から流れ出す信号電流DI31の値である”4.7A”とは値が異なっている。また、本来であれば信号電流が流れないはずの測定点PT32でも”9.7A”の信号電流が測定されている。
【0029】
このような測定誤差は、測定対象であったレールRL31には、直流軌道回路の信号電流(直流電流)の他に、例えば、踏切制御子の電流(8.5kHzの交流電流)が重畳して流れていたためであり、当該交流電流に起因する測定誤差であった。
このため、信号処理部3に、踏切制御子の電流(交流電流)の周波数成分を減衰させるフィルタを備える。具体的には、直流電流である信号電流を通過させ、踏切制御子の電流(交流電流)の周波数成分を減衰させるローパスフィルタ(LPF)を備えた。
【0030】
図3(c)は、信号処理部3に、踏切制御子の電流(交流電流)の周波数成分を減衰させるフィルタを備えた信号電流測定器により測定した結果であり、図3(c)に示すように測定点PT31における信号電流の値は”4.6A”となり、整流器RF31から流れ出す信号電流DI31の値である”4.8A”と略一致すると共に、本来であれば信号電流が流れないはずの測定点PT32も”0.3”となる。
したがって、測定作業者は、整流器RF31から流れ出す信号電流DI31が測定できた測定点PT31と、整流器RF31から流れ出す信号電流DI31が測定できなかった測定点PT32との間に、短絡箇所FL31があると特定することができる。
【0031】
同様に、図4(a)の短絡箇所FL41で短絡させた場合、信号電流DI41は、整流器RF31から限流抵抗R32を介して、レールRL31の一方に流れ込み、短絡箇所FL41を介してレールRL31の他方に流れて整流器RF31に戻ってくる。
そして、レール踏面に載置された走行部1を、レールRL31の長手方向に沿って測定点PT41及び測定点PT42まで移動させ、当該測定点における直流電流の値を、本発明の実施形態である直流軌道回路の信号電流測定器を用いて測定した結果が、図4(b)である。但し、測定点PT43及び測定点PT44は、通常の電流計により測定したものであり、信号処理部1には、踏切制御子の電流(交流電流)の周波数成分を減衰させるフィルタを備えている。
【0032】
図4(b)に示すように測定点PT41における信号電流の値は”4.2A”となり、整流器RF31から流れ出す信号電流DI41の値である”4.8A”と略一致すると共に、本来であれば信号電流が流れないはずの測定点PT42も”0.0”となる。
したがって、測定作業者は、整流器RF31から流れ出す信号電流DI41が測定できた測定点PT41と、整流器RF31から流れ出す信号電流DI41が測定できなかった測定点PT42との間に、短絡箇所FL41があると特定することができる。
【0033】
ちなみに、図3及び図4における測定対象であったレールRL31には、直流軌道回路の信号電流(直流電流)の他に、踏切制御子の交流電流が重畳して流れていたため、フィルタが必要であったが、勿論、踏切制御子の交流電流等が重畳して流れていない直流軌道回路であれば、当該フィルタは必須の構成要素ではない。
【0034】
また、図3及び図4における説明に際しては、測定作業者が、各測定点における信号電流の有無を判断して短絡箇所を特定しているが、信号処理部3において、各測定点における信号電流の有無を判断して短絡箇所を特定して表示手段に短絡箇所を表示させても良い。
【0035】
以上のように、本発明の実施形態によれば、直流軌道回路の直流信号である信号電流を測定する電流測定器100において、レールの長手方向に沿って移動可能にレール踏面に載置される走行部1と、走行部の長手方向に所定の間隔をおいて設けられレールに接触して当該接触部分の電位差を検出するための2つの接触子2と、2つの接触子2で検出された電位差に基づき信号電流の値を計算して表示する信号処理部3とを備えることにより、レール踏面に載置された走行部1を、レールの長手方向に沿って各測定点まで移動し、2つの接触子2で検出された電位差に基づき信号電流(直流電流)の値を計算し表示できるので、直流軌道回路において、絶縁されたレール(閉塞区間)全体に亘って移動しながら各測定点で直流電流である信号電流を測定することができる。
【0036】
また、走行部をレール踏面に載置して各測定点に移動し、各測定点において、走行部の長手方向に所定の間隔をおいて設けられレールに接触して当該接触部分の電位差を検出するための2つの接触子が、当該接触部分の電位差を検出し、信号処理部が、2つの接触子で検出された電位差に基づき信号電流の値を計算して表示すると共に、信号電流が測定できた測定点と、信号電流が測定できなかった測定点との間に短絡箇所があると特定して表示することにより、各測定点における測定された信号電流の値に基づき、短絡箇所を特定することができる。
【0037】
(第2実施形態)
本発明の実施形態等の説明に際しては、接触子2は1つの導電性を有する部材、或いは、1つのブラシ状部材で構成されていた。しかし、レールにカント(レールの曲線部において、外側のレールまたは路面を内側よりも高くする)が設けられた場合、レール踏面も水平ではなく傾斜が生じてしまい、1つのブラシ状部材等で構成された接触子2では、レール踏面の片側(高い側)だけが研磨されてしまうので、2つのブラシ状部材から構成してレール踏面を均等に研磨させても良い。
図5は、第2実施形態に係る直流軌道回路の信号電流測定器101の構成の一例を示す概略構成図である。なお、前述の直流軌道回路の信号電流測定器と同じ部分の説明は適宜省略する。
図5に示すように、第2実施形態に係る直流軌道回路の信号電流測定器101は、走行部1、信号処理部3を有し、さらに、走行部1の短手方向に並んだ2つのブラシ状部材から構成される接触子4が、走行部1の長手方向の両端にそれぞれ設けられる。
このように、第2実施形態に係る直流軌道回路の信号電流測定器101によれば、接触子を、走行部1の短手方向に並んだ2つのブラシ状部材から構成される接触子4とすることにより、レールにカント(レールの曲線部において、外側のレールまたは路面を内側よりも高くする)が設けられた場合であっても、2つのブラシ状部材がレール踏面に接触し易くなって、レール踏面を均等に研磨することができるので、測定点において確実に接触子4とレール踏面との接触を担保することができ、より正確に信号電流の値の測定をすることができる。
【0038】
(第3実施形態)
本発明の実施形態等の説明に際しては、2つの接触子4等を走行部1の長手方向の両端にそれぞれ設けているが、バネ等の付勢部により、接触子をレール踏面に押し付ける構成にしても良い。
図6は、第3実施形態に係る直流軌道回路の信号電流測定器102の構成の一例を示す概略構成図である。なお、前述の直流軌道回路の信号電流測定器と同じ部分の説明は適宜省略する。
図6に示すように、第3実施形態に係る直流軌道回路の信号電流測定器102は、走行部1、信号処理部3、接触子4を有し、さらに、各接触子4をレール踏面に押し付けるバネ等の付勢部5が設けられる。
このように、第3実施形態に係る直流軌道回路の信号電流測定器102によれば、接触子4を付勢部5によりレール踏面に押し付けることにより、測定点において確実に接触子4とレール踏面との接触を担保することができ、より正確に信号電流の値の測定をすることができる。
【0039】
なお、本発明の実施形態等の説明に際しては、2つの接触子は所定の間隔でレールに接触して当該接触部分の電位差を検出しているが、2つの接触子の所定の間隔を可変にしても良い。
例えば、2つの接触子の所定の間隔を広くすることにより、測定される電位差の値は大きくなるので測定感度を向上させることができる。また、短絡箇所を特定する際には、測定感度よりも信号電流の有無が必要な情報となるので2つの接触子の所定の間隔を狭くすることにより、短絡箇所を細かく特定することができる。
【0040】
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、信号処理部3は、2つの接触子2で検出された電位差と、予め設定されたレールの定数である抵抗値に基づき直流電流である信号電流の値を計算して表示しているが、レールの種類に応じて異なる定数(抵抗値)を用いて信号電流の値を計算しても良い。
レールの種類によって定数である抵抗値が異なるので、レールの種類に応じて対応する抵抗値を用いて信号電流の値を計算することにより、より正確に信号電流の値の測定をすることができる。
【0041】
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、信号処理部3は、2つの接触子2で検出された電位差と、予め設定されたレールの定数である抵抗値に基づき直流電流である信号電流の値を計算して表示しているが、2つの接触子で検出される電位差は、その数値が安定するまで待つ必要性がある。
このため、信号処理部3において、予め所定の範囲の閾値を定めておき、検出される電位差が当該所定の範囲の閾値に収まるまで、測定結果を表示させないように制御しても良い。例えば、検出される電位差が所定の範囲の閾値に収まるまで、信号処理部3の表示手段に「測定中」等の表示をしておき、検出される電位差が所定の範囲の閾値に収まった時点で計算された信号電流の値を表示させても良い。
この場合、測定作業者が誤って安定していない信号電流の値を記録してしまう等の不具合を防止することができる。
【0042】
さらに、信号処理部3において、予め所定の待機時間を定めておき、検出される電位差が、当該所定の待機時間内に、前述の所定の範囲の閾値に収まらない場合は、接触子のレール踏面への接触不良であると判断して、信号処理部3の表示手段にエラー表示しても良い。
この場合には、測定作業者は、接触子とレール踏面との接触状況を再確認することにより、測定点において確実に接触子とレール踏面との接触を担保することができ、より正確に信号電流の値の測定をすることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 走行部
2、4 接触子
3 信号処理部
5 付勢部
GD11 ガイド
RL21、RL31 レール
TP21 レール踏面
R31、R32 限流抵抗
TR31 軌道リレー
FR31 整流器
FL31、FL41 短絡箇所
図1
図2
図3
図4
図5
図6