特許第6405151号(P6405151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6405151粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405151
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/24 20060101AFI20181004BHJP
   A23F 5/46 20060101ALI20181004BHJP
   A23L 27/28 20160101ALI20181004BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20181004BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   A23F5/24
   A23F5/46
   A23L27/28
   A23L27/00 A
   A23D9/00 514
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-168501(P2014-168501)
(22)【出願日】2014年8月21日
(65)【公開番号】特開2016-42817(P2016-42817A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100106769
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 信輔
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一孔
(72)【発明者】
【氏名】濱口 隆
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−024852(JP,A)
【文献】 特開平05−041957(JP,A)
【文献】 特開2009−011269(JP,A)
【文献】 特開2012−000104(JP,A)
【文献】 脂質の粉末化技術,杉山産業化学研究所年報(平成5年),1994年,p.98-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 5/00− 5/50
A23L 27/00−27/60
A23D 7/00− 9/06
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒーオイルと中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有する油脂であって当該油脂中のコーヒーオイルと中鎖脂肪酸トリグリセライドの比率が、3:1〜1:100である油脂1〜45重量%、デキストリン50〜96重量%およびグリセリン0.1〜10重量%を粉状または顆粒状化したコーヒーオイル含有組成物であって、インスタントコーヒーにドリップコーヒー様の液面油膜形成と風味をもたらす、粉状または顆粒状インスタントコーヒーのドリップコーヒー再現用コーヒーオイル含有組成物
【請求項2】
コーヒーオイル:中鎖脂肪酸トリグリセライド:デキストリングリセリンの割合が、0.01〜33.8:0.25〜44.5:50〜96:0.1〜10である請求項1に記載のコーヒーオイル含有組成物。
【請求項3】
デキストリン以外の固形物をさらに含む請求項1または2に記載のコーヒーオイル含有組成物。
【請求項4】
さらに分散剤として、食物繊維またはケイ酸化合物を含む請求項3に記載のコーヒーオイル含有組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの項に記載のコーヒーオイル含有組成物を製造する方法であって、
(a)コーヒーオイルと中鎖脂肪酸トリグリセライドを混合する工程
(b)上記オイル混合物をデキストリンに混合する工程
(c)さらにグリセリンを混合する工程
を含み、(a)、(b)、(c)の順に製造されることを特徴とする方法。
【請求項6】
コーヒーオイル:中鎖脂肪酸トリグリセライド:デキストリングリセリンの割合が、0.01〜34:0.25〜44:50〜96:0.1〜10である請求項に記載のコーヒーオイル含有組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の(b)デキストリンに、固形分をさらに混合する請求項または
記載のコーヒーオイル含有組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかの項に記載のコーヒーオイル含有組成物を含む粉状または顆粒状インスタントコーヒー
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスタントコーヒーのような、水または温湯に溶解して飲用する、粉状または顆粒状のコーヒーオイル含有組成物および飲食品用風味改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーは世界中で消費されている飲料の一つであり、その香りが持つリラックス効果やカフェインの覚醒作用などから家庭や職場で広く愛飲され、日常生活に欠かせないものとなっている。特に、インスタントコーヒーの普及により、現在は手軽で安価にコーヒーを堪能することが出来るようになった。しかし、インスタントコーヒーの製造には、その工程上コーヒーの芳香成分を主とした揮発成分の大部分が失われるため、本格的なドリップコーヒーと比べると風味が不足し、外観に関してはドリップコーヒーの美味しさを想起させる、液面に揺らぐ油膜が認められないという欠点があった。このドリップコーヒーの液面に揺らぐ油膜はコーヒー豆を焙煎した時に染み出したコーヒー豆由来のオイル成分であり、上質なコーヒーオイルの旨味を味わうために、コーヒーオイルをドリップ時にうまく引き出すフレンチプレス方法やネルドリップ方法などが愛好家の間で試行錯誤されている。
【0003】
近年では、比較的小型で安価なエスプレッソ・カプチーノメーカーが販売され、本格的な泡立ちと風味を併せ持つエスプレッソやカプチーノを手軽に作ることが出来るため、家庭や飲食店においてもコーヒーオイルの旨味を感じられるドリップコーヒーを飲むことができるようになった。しかし、本格的なドリップコーヒーの外観と風味を併せ持つインスタントコーヒーを手軽に再現できる方法はいまだに提案されていなかった。そこで、本格的なドリップコーヒーの外観と風味を、場所や時間を問わずに堪能することの出来る粉状または顆粒状のコーヒー飲料またはその風味改善剤の提供を試みた。
【0004】
インスタントコーヒーのような粉末コーヒーでドリップコーヒーのような風味を再現するため、特許文献1および2に記載されているように、加工中に失われたコーヒー由来の香気成分をインスタントコーヒーに配合するなどの方法が考えられる。
コーヒー由来の香気成分は非常に多く、それらを組み合わせ、様々な特徴を持つコーヒーフレーバーが開発されている(特許文献3)。そのなかでも、コーヒーオイルは、コーヒー本来の自然で風味豊かな香りの本質であり、そのため、コーヒーオイルそのものをコーヒーに添加するという方法が開発されてきた。例えば、コーヒーオイルをホモジナイザー処理することで物理的に微細化して安定化させる方法(特許文献4)、増粘多糖類によりコーヒーオイルを安定化する方法(特許文献5)、コーヒー豆由来のオリゴ糖でコーヒーオイルを可溶化する方法(特許文献6)、コーヒーオイルを乳化する方法(特許文献7)などがある。
しかし、これらの方法は、特殊な製造設備や複雑な製造工程を要し、安定化剤による物性の変化などが伴うため、ドリップコーヒーのような香味をもつ粉末コーヒーを安価に提供することができなかった。
また、コーヒーオイルを上記の技術で安定化することは、反面、コーヒーオイルの好ましい香気成分の揮発性を遅延化することでもあり、必ずしも、ドリップコーヒー特有の淹れたての馥郁とした香りを再現することができなかった。
ここで、コーヒーオイルの揮発性を促進しコーヒーの香り立ちを高めるためには、コーヒーオイルが液中に分散した状態よりも、液面にコーヒーオイルが浮遊している状態が望ましい。
しかし、単にコーヒーオイルを添加するだけでは、香味に秀でていても、液面に不ぞろいの大きさの油滴が浮かんで、消費者に不快感を与えることになってしまう。
【0005】
そこで、本発明は近年のコーヒーユーザーの本物志向を考慮し、ドリップコーヒーに近い香味を付与しつつ、ドリップコーヒーの液面に見られるような薄い油膜を形成する、本物感のあるコーヒー飲料を手軽に再現できる、粉状または顆粒状のコーヒー飲料および風味改善剤としての粉状または顆粒状のコーヒーオイル含有組成物を提供することを目的とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60‐232056号公報
【特許文献2】特開平02‐203749号公報
【特許文献3】特開2006−20526号公報
【特許文献4】特開平4−210555号公報
【特許文献5】特開2001−120184号公報
【特許文献6】WO2006/080334号公報
【特許文献7】特開2014−97029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、従来の技術では成し得なかった、水または温湯で溶解させることで、インスタント飲料でありながらもコーヒー焙煎豆から淹れた本格的なドリップコーヒーのような香味と、液面にゆらぐ薄い油膜を再現出来る、粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは焙煎豆から淹れたコーヒーのような、液面に油膜が生じ香り高い、インスタントに作製できるコーヒー飲料を提供すべく鋭意研究を重ねた。その結果、粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物中のコーヒーオイルと中鎖脂肪酸トリグリセライドの割合を3:1から1:100の比率で粉状または顆粒状にすることで、液面にドリップコーヒーのような油膜を生じ、複雑な香りと深い味わいのコーヒー飲料が作れることを見出し、発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物を、水または温湯に溶解させると、焙煎豆から淹れたドリップコーヒーのような油膜を液面に生じる。また、粉状または顆粒状のコーヒー粉末であるにも関わらず、複雑なコーヒーの香りと深い味わいを再現することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、本格的なドリップコーヒーの強い香り立ちと呈味の濃さを指向して乳化工程を必要としない製造方法を採用した。
【0011】
本発明者らは鋭意検討の末、コーヒーオイルと中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有する油脂、顆粒化基剤および多価アルコールを組み合わせることで、ドリップコーヒーに近い香味を有しながら、ドリップコーヒーの液面に見られる薄い油膜をも表現することを見出した。
【0012】
このとき、薄い油膜の形成およびドリップコーヒーの複雑な香りと深い味わいを再現するためには、特に油脂中のコーヒーオイルと中鎖脂肪酸トリグリセライドの比率が重要であり、コーヒーオイル:中鎖脂肪酸トリグリセライドが3:1〜1:100の範囲内とすることが必要であることがわかった。
【0013】
中鎖脂肪酸トリグリセライドとは、炭素数が6〜12の脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセライドであり、MCTと略される。本発明で用いられるMCTは炭素数が6〜12のいずれでも良く、特に炭素数8〜10のMCTがより好ましい。
【0014】
本発明で用いられるコーヒーオイルは、その製法によらず使用することが出来る。例としては圧搾抽出物、超臨界抽出物、水蒸気蒸留物、有機溶剤抽出物、油脂吸着法による抽出物などがあげられるが、これに限るものではない。
【0015】
上記記載の中鎖脂肪酸トリグリセライドとコーヒーオイルとを組み合わせた油脂は、粉末もしくは顆粒中に1〜45重量%、更に好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは25〜40重量%、配合されることで、本格的なドリップコーヒーのような、香り立ちに優れ、液面に油膜を形成する飲料を提供することができる。油脂が45重量%を超えると顆粒化基剤が油脂をうまく包含できず油脂が顆粒表面に浸出するため顆粒同士がべとついて流動性が悪くなり、1重量%よりも少ないと流動性には問題ないが、コーヒーの風味が非常に弱い、本格的なドリップコーヒーとは程遠い飲料となってしまう。
【0016】
本発明の粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物は、上記油脂に顆粒化基剤および多価アルコールを加えることで製造される。
【0017】
顆粒化基剤にはデキストリン、澱粉、化工澱粉、α化澱粉等を用いることが出来る。デキストリンのDEは特に限定されるものではないが、特にDE2〜20のデキストリンが好ましい。
【0018】
多価アルコールには、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、液糖、糖アルコール等を用いることが出来るが、特にグリセリンが好ましい。
【0019】
また、上記記載の顆粒化基剤には、副材として顆粒化基剤以外の固形分を加えても良い。該固形分は、全脂粉乳、脱脂粉乳、粉末ホエー、大豆粉、果汁パウダー、甘味料、コーヒー抽出物乾燥粉末、コーヒー豆粉砕物などを単独あるいは適宜組み合わせて用いることができるが、これに限るものではない。
さらに飲料中の不溶固形分の凝集および沈殿を抑制し溶解性を改善するために、食物繊維やケイ酸化合物といった分散剤を組み合わせて用いることもできる。分散剤の割合は、使用する上記固形分の種類や、目的とする粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物の用途等に応じて適宜選定可能であるが、0.1〜20重量%とすることが好ましい。
【0020】
本発明の粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物においては、飲食品用又は医薬用として通常用いられている他の任意成分を含有させて、飲料用組成物とすることができる。用いられる任意成分としては、例えば着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、苦味料、酸味料、強化剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、可塑剤及び香料などであり、これらを添加して用いることもできる。
【0021】
本発明の粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物は、粉状または顆粒状のインスタントコーヒーのみでなく、風味付けのためにその他の飲料や食品全般に使用することができる。例えば、コーヒー飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁・野菜飲料、無果汁飲料、炭酸飲料、スポーツドリンク、カフェインレスコーヒーや茶類などの清涼飲料、チューハイなどの酒類、アイスクリーム、シャーベット等の冷菓類、ゼリー、プリン等のデザート類、スナック菓子、クッキー、ケーキ、饅頭、チョコレート、チューイングガム、キャンディー、ラムネ菓子、タブレット、錠菓類等の菓子類、菓子パン、食パン等のパン類、栄養食品などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
上記の使用方法においては、飲食品に対して、0.005〜10重量%添加して用いることが出来る。添加濃度が0.005重量%未満であると、コーヒー様の香味を感じなくなる場合があり、一方、添加濃度が10重量%を超えると、コーヒーオイルそのものの風味が突出し風味バランスを損なう場合がある。本発明の効果を十分に発揮するには、添加量を0.01〜5重量%にすることが最も望ましい。
【0023】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。また、実施例中の%は、特に記載のない限り、すべて重量%であり、組成物の配合に関する表中の数値は重量を示す。
【0024】
粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物の製造方法
本発明の粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物は、前述のように、コーヒーオイルと中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有する油脂が1〜45重量%、顆粒化基剤が50〜96重量%、多価アルコールが0.1〜10重量%となるように調製された原料を均一に撹拌することにより、得ることが可能である。
製造工程としては、
(a)コーヒーオイルと中鎖脂肪酸トリグリセライドを混合する工程
(b)上記油脂を顆粒化基剤に混合する工程
(c)さらに多価アルコールを混合する工程
を含み、(a)、(b)、(c)の順に製造されることが好ましい。
【0025】
原料の均一撹拌は、通常の食品製造工程で用いられる混合機、混練機、造粒機等によって行うことができ、使用する機械の種類は特に限定されない。具体例としては、リボンブレンダー、スクリューミキサー、ドウミキサー、擂潰機、各種ニーダー、混合造粒機、流動層造粒機、押出し造粒機、圧縮造粒機等が挙げられる。原料の撹拌時間は、その組成やスケール等に応じて適宜設定する。目的とする粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物は、前述した機械を用いて原料を均一撹拌することによって、あるいは、均一撹拌後にふるい分けによって希望する粒度範囲のものを選別することによって、得ることができる。また、原料を均一撹拌した後に押し出し造粒もしくは圧縮造粒(シート形成後解砕)することによっても、あるいは、押し出し造粒もしくは圧縮造粒後にふるい分けによって希望する粒度範囲のものを選別することによっても得ることができる。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
本格的なドリップコーヒーの外観と香味を再現するために最適な組成を探索すべく、MCT(P.T.Muslim Mas社製「MASESTER-E7000」)、パーム油(不二製油株式会社製「パームエース10」)およびトリアセチン(江蘇瑞佳化学有限公司製「トリアセチン」)を使用し、コーヒーオイル(ハニー珈琲株式会社製「HF−B」)と併用した時の液面の油脂の状態および香味について評価した。具体的な配合量は表1に示す。なお、表1中のコーヒーフレーバーは小川香料株式会社製「コーヒー香料」を、グリセリンはAcid hem International SD Bhd.社製「濃グリセリン」を、デキストリンは松谷化学工業株式会社製「マックス1000」を使用した。
【0027】
市販のインスタントコーヒーを1.5%濃度になるよう沸騰した水に溶解し、評価用コーヒーを得た。表1に記載の配合で作製したコーヒーオイル含有組成物をそれぞれ評価用コーヒーに0.03%になるように溶解して評価した。香味に関する評価は本発明品を添加しない評価用コーヒーの香味を1として、1:変わらない、2:わずかに良いまたはわずかに強い、3:良いまたは強い、4:とても良いまたはとても強い、5:非常に良いまたは非常に強い、として評価した。評価は訓練されたパネリスト5名で行い、上記5段階評価のうち最もあてはまるものを選択し、その平均値を算出した。外観に関する評価は、市販の深煎りコーヒー豆を用いてドリップコーヒーを調整し、本発明品を添加した評価用コーヒーとの外観を目視で比較し、液面の油脂の状態がドリップコーヒーと同様の油膜であるか、油滴であるかを判定した。
【表1】
評価の結果を表2に記載する。表2の通り、コーヒーオイルをパーム油またはトリアセチンと組み合わせて作製した顆粒状コーヒーオイル含有組成物を添加した評価用コーヒーでは、液面に多数の微小な油滴が生じ、ドリップコーヒーとは大きく異なる外観であった。一方でコーヒーオイルとMCTを組み合わせると、ドリップコーヒーに良く似た液面にゆらぐ油膜が形成された。MCTを使用したものは香り立ちや味の評価も高く、本格的なドリップコーヒーの外観と香味を同時に再現することが出来た。
【表2】
【0028】
(実施例2〜6)
本発明におけるコーヒーオイルとMCTの最適な配合比率を探索すべく、表3のようにコーヒーオイルとMCTの比率を変え、製造例と同様の製法で顆粒状コーヒーオイル含有組成物を作製した。作製した顆粒状コーヒーオイル含有組成物を実施例1と同様の方法で味と香り立ち、液面の油脂の状態について評価した。評価の結果を表4に記載する。表4に記載のとおり、味と香り立ちに秀で、液面にドリップコーヒーのような油膜を形成する条件は、コーヒーオイルとMCTの比率が3:1から1:100であることがわかった。
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
(実施例7、8)
本発明において、製法の異なるコーヒーオイルにおいても同様の効果が得られるかを確認すべく、表5のように製法の異なるコーヒーオイルをそれぞれ用いて製造例と同様の製法で顆粒状コーヒーオイル含有組成物を作成した。作製した顆粒状コーヒーオイル含有組成物の味と香り立ち、液面の油脂の状態について実施例1と同様の方法で評価した。なお、超臨界抽出したコーヒーオイルおよび溶剤抽出したコーヒーオイルは小川香料社製の製品を使用した。
【表5】
【0031】
評価の結果を表6に記載する。表6に記載のとおり、使用するコーヒーオイルはその製造方法によらず、どれも液面にドリップコーヒーに良く似たゆらぐ油膜が形成され、香り立ちや味の評価も高く、本格的なドリップコーヒーの外観と香味を同時に再現することが出来た。
【表6】
【0032】
一般的に、油脂を含有した顆粒または粉末組成物中の油脂の割合が高すぎると、組成物の表面がべとついて流動性が悪くなり、製造時の収率が低下し、包材への充填時や飲料作製時等において操作性が悪化する。また、本発明に使用する多価アルコールはその性質上、配合量が多すぎると、組成物同士が凝集し固まるため、製造時の作業効率が低下する。また、組成物が不均一になり商品価値が下がってしまう。そのため本発明においても、油脂および多価アルコールの配合の割合を最適化する検討を実施した。
【0033】
(実施例9〜12)
本発明における油脂の最適な割合を探索すべく、表7のように配合する油脂の割合を変え、製造例と同様の製法で顆粒状コーヒーオイル含有組成物を作製した。作製した顆粒状コーヒーオイル含有組成物の流動性の状態を目視で評価し、〇:べとつきが少なく良好、×:べとつきが著しく問題がある、の2段階で評価した。さらに実施例1と同様の方法で味と香り立ち、液面の油脂の状態について評価した。
【表7】
【0034】
評価の結果を表8に記載する。表8に記載のとおり、味と香り立ちが良く、液面にドリップコーヒーのような油膜を形成し、且つ流動性に優れている条件は、油脂が1〜45重量%、顆粒化基剤が50〜96重量%であることがわかった。油脂が45重量%を超える場合には基剤が油脂を包含しきれず顆粒組成物の表面がべとついて流動性が著しく低下した。また、1重量%を下回る場合には、流動性は問題ないものの味と香り立ちの点で満足できるものではなかった。
【表8】
【0035】
(実施例13〜15)
本発明における多価アルコールの最適な割合を探索すべく、表9のように配合する多価アルコールの割合を変え、製造例と同様の製法で顆粒状コーヒーオイル含有組成物を作製した。作製した顆粒状コーヒーオイル含有組成物の流動性および固結性を評価した。流動性は実施例8〜11と同様の方法で評価した。固結性は作製時における状態を目視で評価し、○:凝集が少なく操作上問題なし、×:組成物同士が凝集し操作上問題がある、の2段階で評価した。さらに実施例1と同様の方法で味と香り立ち、液面の油脂の状態について評価した。
【表9】
【0036】
評価の結果を表10に記載する。表10に記載のとおり、流動性に優れかつ固結性が良好な条件は、多価アルコールが0.1〜10重量%であることがわかった。多価アルコールが10重量%を超える場合には、顆粒状コーヒーオイル含有組成物が不均一な大きさで強力に固結し作製が困難であった。多価アルコールが0.1重量%を下回る場合には固結性は問題ないものの、基剤が油脂を包含しきれずに顆粒状コーヒーオイル含有組成物の表面がべとついて流動性が著しく低下した。
【表10】
【0037】
(実施例16〜21)
本発明の粉状または顆粒状コーヒーオイル含有組成物に副材としてコーヒー豆粉砕物(ユニカフェ社製「ミクロンコーヒー エスプレッソタイプ」)、食物繊維(明台化工股&#20221;有限公司社製「COMPRECEL S101」)、ケイ酸化合物(DSL.ジャパン株式会社製「カープレックス CS-500」)およびコーヒー抽出物の凍結乾燥粉末(小川香料株式会社製フリーズドライコーヒーコロンビア)を配合した場合の効果を確認すべく、製造例と同様の製法で、表11に記載の配合比率で顆粒状コーヒーオイル含有組成物を作製した。作製した顆粒状コーヒーオイル含有組成物を実施例1と同様の方法で味と香り立ちおよび液面の油脂の状態について評価した。また、温水への溶解性に関しても評価を行った。溶解性は、温湯を加えて20回撹拌した後の組成物の溶け残りの程度を観察し、5名の訓練されたパネリストが、5:溶け残りがまったくない、4:溶け残りがわずかにある、3:溶け残りがある、2:多くが溶け残っている、1:溶け残りが非常に多い、の5段階のうち最もあてはまるものを選択し、その平均値を算出した。
【表11】
【0038】
評価の結果を表12に記載する。表12に記載のとおり、コーヒー豆粉砕物およびコーヒー抽出液の凍結乾燥粉末を混合しても、味と香り立ちが良く、液面にドリップコーヒーのような油膜が形成された。さらに食物繊維またはケイ酸化合物を併用することで、飲料中での顆粒状コーヒーオイル含有組成物の溶解性が飛躍的に向上し、さらに飲用時の香味がより強く感じられることがわかった。
【表12】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、水または温湯で溶解することで本格的なドリップコーヒーのような液面に油膜を生じ、香味に優れたコーヒー飲料を提供することが出来る。さらに、製造や流通の段階で失われる香味の充足のための風味増強剤として、コーヒー風味の飲料や食品にも用いることが出来る。本発明品は加熱による殺菌工程を経ずに作製されるため、通常、粉末状組成物の作製時に生じる香りの損失がない。また、香気成分が顆粒化基剤に包含されているため、経時的な香気の安定性にも高い効果が期待できる。本発明品を使用することで、優れた香味と外観を持ちあわせた、本格的なドリップコーヒーを総合的に再現することが手軽に出来るため、産業上、非常に有益である。