特許第6405173号(P6405173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405173
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20181004BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20181004BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20181004BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20181004BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   G03G9/097 365
   G03G9/087 331
   G03G9/08 381
   C08L33/04
   C08L91/06
   G03G9/087 325
【請求項の数】9
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-193766(P2014-193766)
(22)【出願日】2014年9月24日
(65)【公開番号】特開2016-65935(P2016-65935A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100193976
【弁理士】
【氏名又は名称】澤山 要介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友秀
(72)【発明者】
【氏名】白井 英治
【審査官】 高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−020848(JP,A)
【文献】 特開2007−232929(JP,A)
【文献】 特開2007−133391(JP,A)
【文献】 特開2008−249886(JP,A)
【文献】 特開2006−018032(JP,A)
【文献】 特開2013−024920(JP,A)
【文献】 特開2011−232666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00−9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂組成物を含む、静電荷像現像トナー用水系分散体であって、
前記結着樹脂組成物が、ポリエステル系樹脂とワックス(W−1)(ただし、数平均分子量が400以上であって酸価と水酸基価との合計が40mgKOH/g以上である炭化水素ワックス(W−2)を除く)とを含有し、前記結着樹脂組成物における下記式(1)で表される吸熱量比ΔHCW/Wが、0.20以上0.70以下であり、
吸熱量比ΔHCW/W=ΔHCW/ΔH (1)
ΔHCW:前記結着樹脂組成物として測定した場合における、ワックス(W−1)1g当たりの吸熱量
ΔH:ワックス(W−1)を単独で測定した場合における、ワックス(W−1)1g当たりの吸熱量
(ΔHCW及びΔHは、いずれも示差走査熱量計によって、昇温速度10℃/minの条件で測定される吸熱量である。)
前記ポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂セグメント(A)と炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニルモノマー由来の構成単位を含むビニル系樹脂セグメント(B)とを含む複合樹脂(HB)、数平均分子量が400以上であって酸価と水酸基価との合計が40mgKOH/g以上である炭化水素ワックス(W−2)由来の構成単位を含むポリエステル樹脂、及びステロール由来の構成単位を含むポリエステル樹脂からなる群から選ばれる1種以上であり、
前記結着樹脂組成物中のワックス(W−1)の含有量が、ポリエステル系樹脂100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下である、静電荷像現像トナー用水系分散体。
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂の原料モノマーであるアルコール成分が、下記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を、80モル%以上100モル%以下含有する、請求項1に記載の静電荷像現像トナー用水系分散体
【化1】
(式中、ROはアルキレンオキサイドであり、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す正の数を示し、xとyの和は1〜16である)
【請求項3】
前記ポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂セグメント(A)と、炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニル系モノマー由来の構成単位を5質量%以上50質量%以下含有するビニル系樹脂セグメント(B)とを含む複合樹脂(HB)である、請求項1又は2に記載の静電荷像現像トナー用水系分散体
【請求項4】
炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニル系モノマーと、ワックス(W−1)との質量比(W−1/炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニル系モノマー)が、1.0以上、6以下である、請求項3に記載の静電荷像現像トナー用水系分散体。
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂が、数平均分子量が400以上であって酸価と水酸基価との合計が40mgKOH/g以上である炭化水素ワックス(W−2)とカルボン酸成分とアルコール成分とを重縮合して得られる樹脂であって、該炭化水素ワックス(W−2)の量が、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、20質量部以上100質量部以下である、請求項1又は2に記載の静電荷像現像トナー用水系分散体
【請求項6】
請求項3又は4に記載の静電荷像現像トナー用水系分散体を製造する方法であって、
下記工程Bを含む方法により得られた結着樹脂組成物に、水系媒体を添加して、転相乳化を行い、結着樹脂組成物を含む水系分散体を得る、静電荷像現像トナー用水系分散体の製造方法。
工程B:アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合反応させてポリエステル樹脂セグメント(A)を形成する工程(X)と、ビニル系モノマーを付加重合させてビニル系樹脂セグメント(B)を形成する工程(Y)とを含み、少なくとも工程(Y)をワックス(W−1)の存在下で行うことにより、複合樹脂(HB)とワックス(W−1)とを含有する混合物を得る工程
【請求項7】
請求項5に記載の静電荷像現像トナー用水系分散体を製造する方法であって、
下記工程Aを含む方法により得られた結着樹脂組成物に、水系媒体を添加して、転相乳化を行い、結着樹脂組成物を含む水系分散体を得る、静電荷像現像トナー用水系分散体の製造方法。
工程A:ワックス(W−1)の存在下で、数平均分子量が400以上であって酸価と水酸基価との合計が40mgKOH/g以上である炭化水素ワックス(W−2)とカルボン酸成分とアルコール成分とを重縮合してポリエステル系樹脂とワックス(W−1)とを含有する混合物を得る工程
【請求項8】
下記工程I〜IIを含む、静電荷像現像用トナーの製造方法。
工程I:請求項1〜のいずれかに記載の静電荷像現像トナー用水系分散体を凝集させて、凝集粒子を得る工程
工程II:工程Iで得られた凝集粒子を融着させる工程
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の静電荷像現像トナー用水系分散体に含まれる結着樹脂組成物を含む、静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物、該トナー用結着樹脂組成物の製造方法、該トナー用結着樹脂組成物を含有する静電荷現像トナー用水系分散体、該トナー用結着樹脂組成物を含有する静電荷現像用トナー、及び該トナー用結着樹脂組成物を用いる静電荷像現像用トナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の分野においては、電子写真システムの発展に伴い、高画質化及び高速化に対応した電子写真用のトナーの開発が要求されている。高画質化に対応して、粒径分布が狭く、小粒径のトナーを得る方法として、微細な樹脂粒子等を水系媒体中で凝集、融着させてトナーを得る、凝集合一法(乳化凝集法又は凝集融着法ともいう)によるトナーの製造が行われている。バインダー樹脂には、スチレンアクリル樹脂や、低温定着性に優れたポリエステル樹脂が用いられ、複数の性能を同時に満たすために、複数の樹脂の複合化等も検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高温高湿下で長期間放置された場合でもブロッキングが起こりにくく、高温高湿下の画出しでも濃度低下が起こりにくいトナーを提供することを課題として、少なくとも、結着樹脂、着色剤及びワックス成分Aを含有するトナーであり、該ワックス成分Aは、エステル基、カルボキシ基、水酸基から選ばれる一種以上の官能基を有するワックス成分Aであり、該結着樹脂はポリエステル系樹脂成分を主成分とし、該ワックス成分Aの存在下で重合したものであり、重合後に冷却固化して、固化物を溶融混練して溶融状態で薄膜蒸発機に導入し、揮発成分を留去する工程を経て得られたものであることを特徴とするトナーが記載されている。
特許文献2には、少なくとも重縮合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる電子写真トナー用結着樹脂であって、前記付加重合系樹脂の原料モノマーが、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数12〜18)エステルを含有してなる、電子写真トナー用結着樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−128127号公報
【特許文献2】特開2008−020848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
画像の耐ホットオフセット性を付与するため、ワックスをトナーに含有させることが一般的となっている。
しかしながら、ポリエステル樹脂とワックスとは極性が大きく異なるため混ざりにくく、特にせん断力をかけられない乳化凝集法によるトナーの製造において、ワックスの分散不良は顕著となり、その結果、耐フィルミング性に優れるトナーを得ることが困難であった。
また、ワックスはトナー中で結晶として存在しているため、定着時に結晶を溶融させる熱量が必要となり、最低定着温度が上昇する問題が生じていた。
本発明の課題は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性に優れるトナーを得ることができる静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物、該トナー用結着樹脂組成物の製造方法、該トナー用結着樹脂組成物を含有する静電荷現像トナー用水系分散体、該トナー用結着樹脂組成物を含有する静電荷現像用トナー、及び該トナー用結着樹脂組成物を用いる静電荷像現像用トナーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、ポリエステル系樹脂中のワックスの分散状態が、示差走査熱量測定によって求められる特定の吸熱量比で表され、該吸熱量比を特定の範囲に調整することで、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性に優れるトナーを得ることができる静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物、該トナー用結着樹脂組成物の製造方法、該トナー用結着樹脂組成物を含有する静電荷現像トナー用水系分散体、該トナー用結着樹脂組成物を含有する静電荷現像用トナー、及び該トナー用結着樹脂組成物を用いる静電荷像現像用トナーの製造方法を提供する。
[1]ポリエステル系樹脂とワックス(W−1)(ただし、数平均分子量が400以上であって酸価と水酸基価との合計が40mgKOH/g以上である炭化水素ワックス(W−2)を除く)とを含有し、下記式(1)で表される吸熱量比ΔHCW/Wが、0.20以上0.70以下である、静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物。
吸熱量比ΔHCW/W=ΔHCW/ΔHW (1)
ΔHCW:前記結着樹脂組成物として測定した場合における、ワックス(W−1)1g当たりの吸熱量
ΔHW:ワックス(W−1)を単独で測定した場合における、ワックス(W−1)1g当たりの吸熱量
(ΔHCW及びΔHWは、いずれも示差走査熱量計によって、昇温速度10℃/minの条件で測定される吸熱量である。)
[2]前記ポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂セグメント(A)と炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニルモノマー由来の構成単位を含むビニル系樹脂セグメント(B)とを含む複合樹脂(HB)、数平均分子量が400以上であって酸価と水酸基価との合計が40mgKOH/g以上である炭化水素ワックス(W−2)由来の構成単位を含むポリエステル樹脂、及びステロール由来の構成単位を含むポリエステル樹脂からなる群から選ばれる1種以上である、上記[1]に記載の静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物。
[3]前記ポリエステル系樹脂が、数平均分子量が400以上であって酸価と水酸基価との合計が40mgKOH/g以上である炭化水素ワックス(W−2)とカルボン酸成分とアルコール成分とを重縮合して得られる樹脂であって、該炭化水素ワックス(W−2)の量が、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、20質量部以上100質量部以下である、上記[1]に記載の静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物。
[4]下記工程Bを含む、上記[2]に記載の静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物の製造方法。
工程B:アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合反応させてポリエステル樹脂セグメント(A)を形成する工程(X)と、ビニル系モノマーを付加重合させてビニル系樹脂セグメント(B)を形成する工程(Y)とを含み、少なくとも工程(Y)をワックス(W−1)の存在下で行うことにより、複合樹脂(HB)とワックス(W−1)とを含有する混合物を得る工程
[5]下記工程Aを含む、上記[3]に記載の静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物の製造方法。
ワックス(W−1)の存在下で、数平均分子量が400以上であって酸価と水酸基価との合計が40mgKOH/g以上である炭化水素ワックス(W−2)とカルボン酸成分とアルコール成分とを重縮合してポリエステル系樹脂とワックス(W−1)とを含有する混合物を得る工程
[6]下記工程I〜IIを含む、静電荷像現像用トナーの製造方法。
工程I:上記[1]〜[3]のいずれかに記載の結着樹脂組成物の水系分散体を凝集させて、凝集粒子を得る工程
工程II:工程Iで得られた凝集粒子を融着させる工程
[7]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の結着樹脂組成物を含む、静電荷像現像トナー用水系分散体。
[8]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の結着樹脂組成物を含む、静電荷像現像用トナー。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性に優れる静電荷像現像トナーを得ることができる静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物、該トナー用結着樹脂組成物の製造方法、該トナー用結着樹脂組成物を含有する静電荷現像トナー用水系分散体、該トナー用結着樹脂組成物を含有する静電荷現像用トナー、及び該トナー用結着樹脂組成物を用いる静電荷像現像用トナーの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物]
本発明の静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂とワックス(W−1)(ただし、数平均分子量が400以上であって酸価と水酸基価との合計が40mgKOH/g以上である炭化水素ワックス(W−2)を除く)とを含有する結着樹脂組成物であって、下記式(1)で表される吸熱量比ΔHCW/Wが、0.20以上0.70以下であることを特徴とする。
吸熱量比ΔHCW/W=ΔHCW/ΔHW (1)
ΔHCW:前記結着樹脂組成物として測定した場合における、ワックス(W−1)1g当たりの吸熱量
ΔHW:ワックス(W−1)を単独で測定した場合における、ワックス(W−1)1g当たりの吸熱量
(ΔHCW及びΔHWは、いずれも示差走査熱量計によって、昇温速度10℃/minの条件で測定される吸熱量である。)
【0010】
本発明の静電荷像現像トナー用結着樹脂組成物(以下、「結着樹脂組成物」ともいう)により、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性に優れる静電荷像現像トナー(以下、「トナー」ともいう)を得ることができる理由は定かではないが、次のように考えられる。
本発明の結着樹脂組成物は、前記式(1)で求められる吸熱量比ΔHCW/Wが0.20以上0.70以下であることを特徴とする。
この吸熱量比ΔHCW/Wは、ポリエステル系樹脂中のワックスの結晶状態を表すものであり、HCW/Wが1に近いほど、ポリエステル系樹脂中のワックスが結晶化されていることを示し、HCW/Wが0に近いほど、ポリエステル系樹脂中のワックスが非晶質化されていることを示す。
該ΔHCW/Wが0.70以下である場合、非晶状態のワックスの割合が多くなるため、定着時にワックスの結晶を溶融させるための付与熱量を低く抑えることができ、最低定着温度を低下させることができたと考えられる。
また、非晶状態のワックスの割合が多くなることで、ワックスが溶融し易く、離型性が発揮し易くなることから、耐ホットオフセット性が向上したと考えられる。
更に、非晶状態のワックスの割合が多い場合、ポリエステル系樹脂の疎水部をトナーの内側に引き寄せることができるため、本発明の結着樹脂組成物から得られるトナーは、ワックスを内包する構造を有していると考えられる。このように、本発明の結着樹脂組成物から得られるトナーは、ワックスを内包する構造を有するため、耐フィルミング性に優れると考えられる。
一方、トナーの表面には親水性基が存在し易くなり、その結果エマルションの凝集時の安定性が向上し、トナーの粒度分布がシャープになると共に、トナー表面に親水性基が多く存在することで、紙との水素結合性が高くなり、紙への定着性が向上するため、最低定着温度を低下させることができたと推定される。
一方、該ΔHCW/Wが0.20以上の場合は、ポリエステル系樹脂のワックス内包の構造を制限することで、離型性が向上し、耐ホットオフセット性に優れると考えられる。
【0011】
<ワックス(W−1)>
本発明の結着樹脂組成物はワックス(W−1)を含有する。ワックス(W−1)は、後述する炭化水素ワックス(W−2)を除く、公知のワックスを用いることができる。
【0012】
ワックス(W−1)としては、エステル系ワックス、炭化水素ワックス、シリコーンワックス、脂肪酸アミド等を用いることができる。これらの中でも、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、炭化水素ワックス及びエステル系ワックスが好ましく、炭化水素ワックスがより好ましい。
エステル系ワックスとしては、合成エステルワックス及び天然エステルワックスが挙げられる。合成エステルワックスとしては、長鎖アルコールと脂肪酸からなるエステルが挙げられ、好ましくはベヘニン酸ベヘニル、ステアリン酸ステアリル、及びペンタエリスリトールの脂肪酸エステルの少なくとも1種である。天然エステルワックスとしては、好ましくはカルナウバワックス及びライスワックスの少なくとも1種である。これらの中でも、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、合成エステルワックスが好ましく、長鎖アルコールと脂肪酸からなるエステルがより好ましく、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルが更に好ましく、ペンタエリスリトールベヘン酸エステルがより更に好ましい。
炭化水素ワックスの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類;オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物、石油系ワックスが挙げられ、好ましくはパラフィンワックスである。
【0013】
トナー中のワックス(W−1)の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、より更に好ましくは15質量部以上であり、そして、ワックス(W−1)を溶融させるための熱量を抑制し、最低定着温度を向上させる観点、及びワックス(W−1)の樹脂内への内包性を高め、耐フィルミング性を向上させる観点から、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、より更に好ましくは40質量部以下、より更に好ましくは30質量部以下である。
【0014】
<ポリエステル系樹脂>
本発明に用いられるポリエステル系樹脂は、ポリエステル樹脂以外に、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルを含む。変性されたポリエステルとしては、例えば、ポリエステルがウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル、及びポリエステル樹脂セグメントとビニル系樹脂セグメントを含む2種以上の樹脂成分を有する複合樹脂等が挙げられる。これらの中でも、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、ポリエステル樹脂セグメント(A)とビニル系樹脂セグメント(B)とを含む複合樹脂(HB)が好ましい。
また、ポリエステル系樹脂は、疎水性を高めワックス(W−1)との親和性を向上させることにより、ワックス(W−1)の非晶質化を促進し、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性を向上させる観点から、ポリエステル樹脂セグメント(A)と炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニルモノマー由来の構成単位を含むビニル系樹脂セグメント(B)とを含む複合樹脂(HB)、数平均分子量が400以上であって酸価と水酸基価との合計が40mgKOH/g以上である炭化水素ワックス(W−2)(以下、「炭化水素ワックス(W−2)」ともいう)由来の構成単位を含むポリエステル樹脂、及びステロール由来の構成単位を含むポリエステル樹脂からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
以下、炭化水素ワックス(W−2)、ステロール、ポリエステル系樹脂として好適な複合樹脂(HB)、及びポリエステル樹脂について順に説明する。
【0015】
(炭化水素ワックス(W−2))
ポリエステル系樹脂は、炭化水素ワックス(W−2)由来の構成単位を含有することで、ワックス(W−1)を、非晶質化させることができ、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性を向上させることができる。
炭化水素ワックス(W−2)は、数平均分子量が400以上であって酸価と水酸基価との合計が40mgKOH/g以上であれば特に限定されないが、水酸基及びカルボキシ基のいずれか一方、又は水酸基及びカルボキシ基の両方を有することが好ましく、ポリエステルとの反応性、並びに低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、水酸基及びカルボキシ基を有する炭化水素ワックスが好ましい。
以降、「水酸基を有する炭化水素ワックス」には、水酸基以外にカルボキシ基も有するが、カルボキシ基に基づく酸価よりも、水酸基に基づく水酸基価が同等又は高いワックスを含む。また、「カルボキシ基を有する炭化水素ワックス」には、カルボキシ基以外に水酸基も有するが、カルボキシ基に基づく酸価が、水酸基に基づく水酸基価よりも高いワックスを含む。
また、水酸基を有するワックスとカルボキシ基を有するワックスを、同時に用いてもよいが、重縮合の反応性の観点から、水酸基を有するワックスの方が好ましい。
【0016】
水酸基を有する炭化水素ワックス(W−2)は、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス等の炭化水素ワックスを酸化処理により変性させて得られるものである。酸化処理の方法としては、例えば、特開昭62−79267号公報、特開2010−197979号公報記載の方法等が挙げられる。具体的には、炭化水素ワックスをホウ酸の存在下で、酸素を含有するガスにより液相酸化する方法が挙げられる。
水酸基を有する炭化水素ワックス(W−2)の市販品としては、「ユニリン700」、「ユニリン425」、「ユニリン550」(以上、ベーカー・ペトロライト社製)、「パラコール6420」、「パラコール6470」、「パラコール6490」(以上、日本精蝋株式会社製)等が挙げられる。
水酸基を有する炭化水素ワックス(W−2)の水酸基価は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは40mgKOH/g以上、より好ましくは55mgKOH/g以上、更に好ましくは65mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは180mgKOH/g以下、より好ましくは150mgKOH/g以下、更に好ましくは120mgKOH/g以下、より更に好ましくは110mgKOH/g以下である。
【0017】
カルボキシ基を有する炭化水素ワックス(W−2)は、酸変性ワックスが挙げられ、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のワックスに、カルボキシ基を導入することで得ることできる。
酸変性の方法としては、例えば、特開2006−328388号公報、特開2007−84787号公報等に記載の方法が挙げられる。具体的には、炭化水素ワックスの溶融物に、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化化合物(反応開始剤)とカルボン酸化合物を添加して反応させることで、カルボキシ基を導入することができる。
反応原料となる炭化水素ワックスの具体例としては、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、オレフィン、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられるが、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスが好ましい。反応原料となるパラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスの市販品としては、日本精蝋株式会社製の「HNP−11」、「HNP−9」、「HNP−10」、「FT−0070」、「HNP−51」、「FNP−0090」等が挙げられる。
カルボキシ基を有する炭化水素ワックス(W−2)としては、例えば、「ハイワックス1105A」(無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体、三井化学株式会社製)等が挙げられる。
カルボキシ基を有する炭化水素ワックス(W−2)の酸価は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは40mgKOH/g以上、より好ましくは50mgKOH/g以上、更に好ましくは55mgKOH/g以上であり、そして、トナーの耐熱保存性の観点から、好ましくは180mgKOH/g以下、より好ましくは150mgKOH/g以下、更に好ましくは120mgKOH/g以下、より更に好ましくは110mgKOH/g以下である。
【0018】
炭化水素ワックス(W−2)の酸価と水酸基価の合計は、ポリエステル樹脂の原料モノマーと炭化水素ワックス(W−2)との反応性を高め、ワックス(W−1)の分散性を高める観点から、40mgKOH/g以上であり、好ましくは60mgKOH/g以上、より好ましくは70mgKOH/g以上、更に好ましくは90mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは200mgKOH/g以下、より好ましくは180mgKOH/g以下、更に好ましくは160mgKOH/g以下、より更に好ましくは140mgKOH/g以下である。
【0019】
炭化水素ワックス(W−2)の融点は、低温定着性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、そして、耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは110℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
炭化水素ワックス(W−2)の数平均分子量は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは400以上、より好ましくは500以上、更に好ましくは600以上であり、そして、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1000以下である。数平均分子量は、後述する実施例に記載の方法により求められる。
【0020】
ポリエステル系樹脂が、炭化水素ワックス(W−2)とカルボン酸成分とアルコール成分とを重縮合して得られるポリエステル樹脂である場合、該炭化水素ワックス(W−2)の量は、ワックス(W−1)を結着樹脂組成物中に微分散して安定化することで、低温定着性、耐フィルミング性、及び耐ホットオフセット性を向上させる観点から、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは25質量部以上、更に好ましくは30質量部以上であり、そして、耐フィルミング性、及び耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。
ポリエステル系樹脂の原料として用いる炭化水素ワックス(W−2)と、ワックス(W−1)との質量比(W−1/W−2)は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.8以下である。
【0021】
(ステロール)
ステロールとしては、例えば、β−シトステロール、スティグマステロール、ブラシカステロール、カンペステロール等の植物性ステロール(フィトステロール);コレステロール、ラノステロール等の動物性ステロール;エルゴステロール等の菌類ステロール等が挙げられる。
植物性ステロールは、植物の中でも特に、大豆、菜種、綿実、トール、小豆、さとうきび等に含まれており、タマ生化学株式会社製の大豆由来のフィトステロール等が商業的に入手可能である。大豆由来のフィトステロールは、β−シトステロールを主成分とし、スティグマステロール、カンペステロール等からなる混合物である。
これらの中でも、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、動物性ステロールが好ましく、コレステロールがより好ましい。
ポリエステル系樹脂が、ステロールとカルボン酸成分とアルコール成分とを重縮合して得られるポリエステル樹脂である場合、該ステロールの量は、ワックス(W−1)を結着樹脂組成物中に微分散して安定化することで、低温定着性、耐フィルミング性、及び耐ホットオフセット性を向上させる観点から、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、より更に好ましくは25質量部以上、より更に好ましくは30質量部以上であり、そして、耐フィルミング性、及び耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。
ポリエステル系樹脂の原料として用いるステロールと、ワックス(W−1)との質量比(W−1/ステロール)は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.8以下である。
【0022】
(複合樹脂(HB))
複合樹脂(HB)は、ポリエステル樹脂セグメント(A)と、ビニル系樹脂セグメント(B)と、ポリエステル樹脂セグメント(A)及びビニル系樹脂セグメント(B)のいずれとも反応し得る両反応性モノマーに由来する構成部分との3つの構成部分からなっていることが好ましい。また、本発明の目的を阻害しない範囲内でこれら3つの構成部分以外の構成部分を含んでいてもよいが、3つの構成部分以外の構成部分を含んでいないことが好ましい。
【0023】
複合樹脂(HB)中のポリエステル樹脂セグメント(A)とビニル系樹脂セグメント(B)との質量比[(A)/(B)]は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは40/60以上、より好ましくは50/50以上、更に好ましくは55/45以上であり、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは70/30以下である。
なお、上記質量比の計算において、ポリエステル樹脂セグメント(A)の質量は、ポリエステル樹脂セグメント(A)の原料モノマーの合計量から、縮合反応時の脱水量を除去した値を用い、また、ビニル系樹脂セグメント(B)の質量は、ビニル系樹脂セグメント(B)の原料モノマー及び重合開始剤の合計量を用いる。また、必要により用いられる両反応性モノマーは、ポリエステル樹脂セグメント(A)の質量として算出される。
複合樹脂(HB)中の、ポリエステル樹脂セグメント(A)、ビニル系樹脂セグメント(B)、及び両反応性モノマー由来の構成単位の含有量の合計は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは99モル%以上、より更に好ましくは100モル%である。
【0024】
〔ポリエステル樹脂セグメント(A)〕
ポリエステル樹脂セグメント(A)を構成するポリエステル樹脂は、一般的にトナー用として用いられる物性等を有するトナー用ポリエステル樹脂であれば特に限定されるものではなく、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合して得られる。
【0025】
≪アルコール成分≫
アルコール成分としては、脂肪族ジオール、芳香族ジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられる。これらのアルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
アルコール成分は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、下記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含有することが好ましい。
【0026】
【化1】
【0027】
(式中、R1Oはアルキレンオキサイドであり、R1は炭素数2又は3のアルキレン基、x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す正の数を示し、xとyの和は、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2以上であり、そして、好ましくは16以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。)
【0028】
前記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等が挙げられる。
アルコール成分中の、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物の含有量は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは65モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは75モル%以下である。
アルコール成分中の、前記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは100モル%である。
【0029】
≪カルボン酸成分≫
カルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸、並びにそれらの酸無水物及びそれらのアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が挙げられる。これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
脂肪族ジカルボン酸の主鎖の炭素数は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは4以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。
具体例としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸の例には、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸等の炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸も含まれる。これらの中でも、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、フマル酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸が好ましく、フマル酸がより好ましい。
芳香族ジカルボン酸として、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。これらの中でも、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、テレフタル酸が好ましい。
【0030】
脂肪族ジカルボン酸の含有量は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは35モル%以下、更に好ましくは30モル%以下である。
また、芳香族ジカルボン酸の含有量は、同様の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは65モル%以上、更に好ましくは70モル%以上であり、そして、好ましくは95モル%以下、より好ましくは85モル%以下、更に好ましくは80モル%以下である。
カルボン酸成分中における、脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸の総量は、同様の観点から、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは100モル%である。
3価以上の多価カルボン酸の具体例としては、トリメリット酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等が挙げられ、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、トリメリット酸が好ましい。
これらの中でも、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを併用することが好ましく、フマル酸とテレフタル酸とを併用することがより好ましく、フマル酸とテレフタル酸とトリメリット酸とを併用することが更に好ましい。
【0031】
〔アルコール成分に対するカルボン酸成分のモル比〕
アルコール成分に対するカルボン酸成分のモル比〔カルボン酸成分/アルコール成分〕は、反応性及び物性調整の観点から、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.1以上であり、そして、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下、更に好ましくは1.3以下である。
【0032】
なお、物性調整の観点から、アルコール成分には1価のアルコールが適宜含有されていてもよく、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が適宜含有されていてもよい。
また、ポリエステル樹脂セグメント(A)は、炭化水素ワックス(W−2)由来の構成単位、及び後述するステロール由来の構成単位を有していてもよい。
【0033】
〔ビニル系樹脂セグメント(B)〕
ビニル系樹脂セグメント(B)は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニル系モノマー由来の構成単位を含有することが好ましい。
すなわち、ビニル系樹脂セグメント(B)の原料ビニル系モノマーは、炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニル系モノマーを含有することが好ましい。
ビニル系樹脂セグメント(B)は疎水的な長鎖アルキル基を有することにより、ワックス(W−1)との親和性を高めることができ、ワックス(W−1)は、このビニル系樹脂セグメント(B)を含む複合樹脂(HB)中に良好に分散すると考えられる。
炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニル系モノマーのアルキル基の炭素数は、ワックスとの親和性を向上させ、低温定着性、耐フィルミング性、及び耐ホットオフセット性を向上させる観点から、好ましくは11以上、より好ましくは13以上、更に好ましくは15以上であり、そして、結着樹脂の乳化性を向上させ、結着樹脂組成物の水系分散体とした時に樹脂粒子を小粒径化し、ワックスを微分散させることで、低温定着性、耐フィルミング性、及び耐ホットオフセット性を向上させる観点から、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは19以下である。
この炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニル系モノマーは、好ましくは(メタ)アクリル酸ステアリル及び(メタ)アクリル酸ラウリルから選ばれる1種以上であり、より好ましくは(メタ)アクリル酸ステアリルである。
【0034】
ビニル系樹脂セグメント(B)の原料ビニル系モノマーとしては、炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニル系モノマーと共に、他のビニル系モノマーを併せて用いることができる。当該他のビニル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン化合物;エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のエチレン性モノカルボン酸のエステル;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のビニリデンハロゲン化物;N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物類等が挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、スチレン化合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0035】
ビニル系樹脂セグメント(B)の由来成分である原料ビニル系モノマー中における、炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニル系モノマーの含有量は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、耐オフセット性の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
ビニル系樹脂セグメント(B)の由来成分である原料ビニル系モノマー中における、スチレン化合物の含有量は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0036】
ビニル系樹脂セグメント(B)の由来成分である原料ビニル系モノマー中における、炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニル系モノマー及びスチレン化合物の総含有量は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。
複合樹脂の原料として用いられる炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニル系モノマーと、ワックス(W−1)との質量比(W−1/炭素数10以上22以下のアルキル基を有するビニルモノマー)は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは4以下である。
【0037】
(両反応性モノマー)
複合樹脂(HB)は、更に、両反応性モノマー由来の構成単位を含むことが好ましい。
複合樹脂(HB)の原料モノマーとして両反応性モノマーを用いると、当該両反応性モノマーがポリエステル樹脂セグメント(A)とビニル系樹脂セグメント(B)との両方と反応することにより、複合樹脂(HB)を良好に製造することができる。
すなわち、本発明の複合樹脂(HB)は、ポリエステル樹脂セグメント(A)の原料モノマーと、ビニル系樹脂セグメント(B)の原料モノマーと、両反応性モノマーとを重合させることにより得られるものが好ましい。これにより、複合樹脂(HB)は、両反応性モノマー由来の構成単位を介してポリエステル樹脂セグメント(A)とビニル系樹脂セグメント(B)とが結合し、ポリエステル樹脂セグメント(A)とビニル系樹脂セグメント(B)とが均一に分散したものとなり、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性が良好なものとなる。
両反応性モノマーとしては、分子内に、カルボキシ基、水酸基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基から選ばれる1種以上の官能基を有する化合物と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシ基とエチレン性不飽和結合とを有する化合物、より好ましくはカルボキシ基とエチレン性不飽和結合とを有する化合物である。
【0038】
具体的には、両反応性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸等が挙げられる。重縮合反応及び付加重合反応の反応性の観点から、アクリル酸及びメタクリル酸が好ましく、アクリル酸がより好ましい。
両反応性モノマーの使用量は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、前記ビニル系樹脂セグメント(B)の原料であるビニル系モノマー100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0039】
(複合樹脂(HB)の製造方法)
複合樹脂(HB)は、以下の(1)〜(3)のいずれかの方法により製造することが好ましい。なお、両反応性モノマーは、反応性の観点から、ビニル系樹脂セグメント(B)の原料モノマーと共に反応系に供給されることが好ましい。また、同様の観点から、エステル化触媒、エステル化助触媒等の触媒を用いてもよく、更に重合開始剤及び重合禁止剤を用いてもよい。
【0040】
(1)アルコール成分及びカルボン酸成分による重縮合反応の工程(X)の後に、ビニル系樹脂セグメント(B)の原料ビニルモノマー及び必要に応じて両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(Y)を行う方法。
なお、工程(X)において、カルボン酸成分の一部を重縮合反応に供し、次いで工程(Y)を実施した後に、再度反応温度を上昇させ、カルボン酸成分の残部を重合系に添加し、工程(X)の重縮合反応及び必要に応じて両反応性モノマーとの反応をさらに進める方法がより好ましい。
【0041】
(2)ビニル系樹脂セグメント(B)の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(Y)の後に、ポリエステル樹脂セグメント(A)の原料モノマーによる重縮合反応の工程(X)を行う方法。
アルコール成分及びカルボン酸成分については、付加重合反応時に反応系内に存在させておき、重縮合反応に適した温度でエステル化触媒及び必要に応じて更にエステル化助触媒を添加させることにより重縮合反応を開始することもできるし、重縮合反応に適した温度条件下で反応系内に後からアルコール成分及びカルボン酸成分を添加することにより重縮合反応を開始することもできる。前者の場合は、重縮合反応に適した温度でエステル化触媒及び必要に応じて更にエステル化助触媒を添加することで分子量及び分子量分布が調節できる。
【0042】
(3)アルコール成分及びカルボン酸成分による重縮合反応の工程(X)と、ビニル系樹脂セグメント(B)の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(Y)とを並行して行う方法。
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で工程(X)と工程(Y)とを行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で、必要に応じて、ポリエステル樹脂セグメント(A)の3価以上の原料モノマー等を架橋剤として重合系に添加し、更に工程(X)の重縮合反応を行うことが好ましい。その際、重縮合反応に適した温度条件下では、ラジカル重合禁止剤を添加して重縮合反応だけを進めることもできる。両反応性モノマーは付加重合反応と共に重縮合反応にも関与する。
以上の中でも、方法(1)が、重縮合反応の反応温度の自由度が高いという点から好ましい。上記(1)〜(3)の方法は、同一容器内で行うことが好ましい。
【0043】
〔反応条件〕
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応により、ポリエステル樹脂セグメント(A)が形成される。
重縮合反応の温度は、反応性の観点から、好ましくは160℃以上、より好ましくは190℃以上、更に好ましくは220℃以上であり、そして、好ましくは260℃以下、より好ましくは250℃以下、更に好ましくは240℃以下である。
〔付加重合反応の温度〕
付加重合反応の温度は、反応性の観点から、好ましくは110℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、そして、好ましくは220℃以下、より好ましくは190℃以下、更に好ましくは170℃以下である。
また、重合の後半に反応系を減圧することにより、反応を促進させることが好ましい。
【0044】
≪エステル化触媒≫
重縮合反応に好適に用いられるエステル化触媒としては、チタン化合物及びSn−C結合を有していない錫(II)化合物が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。
チタン化合物としては、Ti−O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1以上28以下のアルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
Sn−C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn−O結合を有する錫(II)化合物、Sn−X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく挙げられ、Sn−O結合を有する錫(II)化合物がより好ましく、中でも、反応性、分子量調整及び複合樹脂の物性調整の観点から、ジ(2−エチルヘキサン酸)錫(II)が更に好ましい。
上記エステル化触媒の使用量は、反応性、分子量調整及び複合樹脂の物性調整の観点から、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下、更に好ましくは0.6質量部以下である。
【0045】
≪エステル化助触媒≫
エステル化助触媒としては、ピロガロール化合物が好ましい。このピロガロール化合物は、互いに隣接する3個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有するものであり、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられ、反応性の観点から、没食子酸が好ましい。
エステル化助触媒の使用量は、反応性、分子量調整及び複合樹脂の物性調整の観点から、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.15質量部以下、より好ましくは0.10質量部以下、更に好ましくは0.05質量部以下である。
エステル化助触媒とエステル化触媒との質量比〔エステル化助触媒/エステル化触媒〕は、反応性の観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.02以上であり、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.1以下である。
≪重合禁止剤≫
重合禁止剤としては、4−t−ブチルカテコール等が挙げられる。
【0046】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル系樹脂として用いられるポリエステル樹脂としては、アルコール成分及びカルボン酸成分を重縮合することにより製造することができる。
ポリエステル樹脂の原料であるアルコール成分及びカルボン酸成分の種類、及び反応条件は、前記複合樹脂(HB)のポリエステル樹脂セグメント(A)の原料であるアルコール成分及びカルボン酸成分の種類、及び反応条件と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0047】
ポリエステル樹脂は、ワックス(W−1)を非晶質化させて、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性を向上させる観点から、前述の炭化水素ワックス(W−2)由来の構成単位を含有するポリエステル樹脂及び/又はステロール由来の構成単位を含有するポリエステル樹脂が好ましく、炭化水素ワックス(W−2)由来の構成単位を含有するポリエステル樹脂がより好ましい。
炭化水素ワックス(W−2)由来の構成単位を含有するポリエステル樹脂は、前述の通り、炭化水素ワックス(W−2)とアルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させることで得ることができ、ステロール由来の構成単位を含有するポリエステル樹脂は、前述の通り、ステロールとアルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させることで得ることができる。
炭化水素ワックス(W−2)とステロールとは、併用してもよい。
【0048】
<吸熱量比ΔHCW/W
本発明の結着樹脂組成物は、下記式(1)で表される吸熱量比ΔHCW/Wが、0.20以上0.70以下である。
吸熱量比ΔHCW/W=ΔHCW/ΔHW (1)
ΔHCW:前記結着樹脂組成物として測定した場合における、前記ワックス(W−1)1g当たりの吸熱量
ΔHW:ワックス(W−1)を単独で測定した場合における、前記ワックス(W−1)1g当たりの吸熱量
(ΔHW及びΔHCWは、いずれも示差走査熱量計によって、昇温速度10℃/minの条件で測定される吸熱量である。)
上述のとおり、ΔHCW/Wは、ポリエステル系樹脂中のワックス(W−1)の結晶状態を示すものであり、ΔHCW/Wが1に近いほど、ポリエステル系樹脂中のワックス(W−1)が結晶化されていることを示し、ΔHCW/Wが0に近いほど、ポリエステル系樹脂中のワックス(W−1)が非晶質化されていることを示す。
本発明の結着樹脂組成物は、該吸熱量比ΔHCW/Wを0.70以下とすることにより、非晶状態のワックスの割合を多くすることができ、ワックスが溶融し易くなるため、最低定着温度を低下させることができたと考えられる。
前記吸熱量比ΔHCW/Wは、耐ホットオフセットの観点から、0.20以上であり、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.40以上、更に好ましくは0.45以上であり、そして、低温定着性、耐ホットオフセット、及び耐フィルミング性の観点から、0.70以下、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.55以下、更に好ましくは0.50以下である。
ΔHCW/Wは実施例に記載の方法により求められる。また、本発明の結着樹脂組成物がワックス(W−1)として2種以上のワックス(W−1)を含有する場合、上記ΔHCW及びΔHWは2種以上のワックス(W−1)を含有する混合物として測定される吸熱量を表す。
【0049】
<任意成分>
本発明の結着樹脂組成物は、トナーに用いられる公知の樹脂、例えば、ポリエステル、スチレン−アクリル共重合体、エポキシ、ポリカーボネート、ポリウレタン等を含有していてもよい。
本発明の結着樹脂組成物は、更に、着色剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
なお、本明細書において、ポリエステル系樹脂及び任意で使用される上記の公知の樹脂を含む樹脂成分を「結着樹脂」と称する場合がある。
結着樹脂中のポリエステル系樹脂の含有量は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。
【0050】
(着色剤)
着色剤としては、特に制限はなく公知の着色剤が挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、カーボンブラック、無機系複合酸化物、クロムイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、スレンイエロー、キノリンイエロー、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ウオッチヤングレッド、パーマネントレッド、ブリリアンカーミン3B、ブリリアンカーミン6B、デュポンオイルレッド、ピラゾロンレッド、リソールレッド、ローダミンBレーキ、レーキレッドC、ベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、カルコオイルブルー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、及びマラカイトグリーンオクサレート等の種々の顔料;アクリジン系、キサンテン系、アゾ系、ベンゾキノン系、アジン系、アントラキノン系、インジコ系、チオインジコ系、フタロシアニン系、アニリンブラック系、ポリメチン系、トリフェニルメタン系、ジフェニルメタン系、チアジン系、及びチアゾール系等の各種染料が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
トナー中の着色剤の含有量は、トナーの画像濃度を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
【0051】
(荷電制御剤)
荷電制御剤としては、クロム系アゾ染料、鉄系アゾ染料、アルミニウムアゾ染料、及びサリチル酸金属錯体等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、そして、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは2.0質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以下である。
【0052】
なお、本発明の結着樹脂組成物の形態としては、例えば、結着樹脂組成物の溶融混練物とする形態、結着樹脂組成物の有機溶媒溶液とする形態等が挙げられる。
【0053】
<トナー用結着樹脂組成物の製造方法>
本発明の結着樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂とワックス(W−1)とを含有する混合物、又はポリエステル系樹脂及びワックス(W−1)と、必要に応じて添加される界面活性剤、及びその他前記の任意成分(以下、「結着樹脂組成物成分」ともいう)とを混合することにより製造することができる。
ポリエステル系樹脂とワックス(W−1)とを含有する混合物は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性に優れるトナーを得る観点から、下記工程Aにより製造することが好ましい。ただし、ポリエステル系樹脂が前記複合樹脂(HB)である場合は、下記工程Bにより製造することが好ましい。すなわち、本発明の結着樹脂組成物の製造方法は、下記工程A又はBを含むことが好ましい。
【0054】
(工程A)
工程Aは、ワックス(W−1)の存在下で、炭化水素ワックス(W−2)とカルボン酸成分とアルコール成分とを重縮合して、ポリエステル系樹脂とワックス(W−1)とを含有する混合物を得る工程である。
炭化水素ワックス(W−2)の好ましい態様は、前述のとおりである。ワックス(W−1)と結着樹脂との質量比も、前述のとおりである。
ワックス(W−1)は、炭化水素ワックス(W−2)を重縮合する前又は重縮合中に、反応系に添加することが好ましい。
具体的には、炭化水素ワックス(W−2)を含むポリエステル系樹脂の原料モノマーであるカルボン酸成分とアルコール成分とワックス(W−1)とを混合した後、重縮合して、ポリエステル樹脂又はポリエステル系樹脂を製造することがより好ましい。
【0055】
(工程B)
工程Bは、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合反応させてポリエステル樹脂セグメント(A)を形成する工程(X)と、ビニル系モノマー、好ましくは炭素数10〜22のアルキル基を有するビニル系モノマーを付加重合させてビニル系樹脂セグメント(B)を形成する工程(Y)とを含み、少なくとも工程(Y)をワックス(W−1)の存在下で行うことにより、複合樹脂(HB)とワックス(W−1)とを含有する混合物を得る方法である。
ワックス(W−1)の存在下で付加重合反応を行うことにより、ワックス(W−1)と複合樹脂(HB)との親和性を向上させることができ、ワックス(W−1)の樹脂への内包性を高めると共に非晶質化を促進することができ、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性を向上させることができると考えられる。
複合樹脂(HB)の好ましい態様は、前述のとおりである。ワックス(W−1)と複合樹脂(HB)、即ち結着樹脂との質量比も、前述のとおりである。
ワックス(W−1)は、ビニル系樹脂セグメント(B)を重合する前又は重合中に、反応系に添加することが好ましい。
具体的には、ポリエステル樹脂セグメント(A)を重縮合により形成した後、ワックス(W−1)を添加し、次いで、ビニル系樹脂セグメント(B)の原料モノマーを添加し、重合して、複合樹脂(HB)を製造することがより好ましい。
【0056】
工程Bにより得られる複合樹脂(HB)とワックス(W−1)とを含有する混合物の軟化点は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは85℃以上、より好ましくは95℃以上、更に好ましくは105℃以上であり、そして、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは115℃以下である。
複合樹脂(HB)とワックス(W−1)とを含有する混合物のガラス転移温度は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは45℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは55℃以下である。
複合樹脂(HB)とワックス(W−1)とを含有する混合物の酸価は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは4mgKOH/g以上、より好ましくは8mgKOH/g以上、更に好ましくは12mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは25mgKOH/g以下、更に好ましくは20mgKOH/g以下である。
複合樹脂(HB)の軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、原料モノマーの種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、実施例に記載の方法によって求められる。
【0057】
(結着樹脂組成物の溶融混練物)
結着樹脂組成物の溶融混練物は、前記結着樹脂組成物成分を溶融混練する工程(以下、「工程1−1」ともいう)により製造することができる。
工程1−1としては、結着樹脂組成物成分をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸又は2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練する工程が好ましい。
【0058】
(結着樹脂組成物の有機溶媒溶液)
結着樹脂組成物の有機溶媒溶液は、前記結着樹脂組成物成分を、必要に応じて混合又は混練した後、有機溶媒に溶解又は分散させる方法(以下、「工程1−2」ともいう)により製造することができる。
【0059】
〔有機溶媒〕
有機溶媒としては、ポリエステル系樹脂の溶解性の観点から、溶解性パラメータ(SP値:POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION 1989 by John Wiley & Sons,Inc)で表したとき、好ましくは15.0MPa1/2以上、より好ましくは16.0MPa1/2以上、更に好ましくは17.0MPa1/2以上であり、そして、好ましくは26.0MPa1/2以下、より好ましくは24.0MPa1/2以下、更に好ましくは22.0MPa1/2以下である。
具体例としては、次の有機溶媒が挙げられる。なお、次の有機溶媒の名称の右側のカッコ内はSP値であり、単位はMPa1/2である。すなわち、具体例としては、エタノール(26.0)、イソプロパノール(23.5)、及びイソブタノール(21.5)等のアルコール系溶媒;アセトン(20.3)、メチルエチルケトン(19.0)、メチルイソブチルケトン(17.2)、及びジエチルケトン(18.0)等のケトン系溶媒;ジブチルエーテル(16.5)、テトラヒドロフラン(18.6)、及びジオキサン(20.5)等のエーテル系溶媒;酢酸エチル(18.6)、酢酸イソプロピル(17.4)等の酢酸エステル系溶媒が挙げられる。これらの中でも、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、ケトン系溶媒及び酢酸エステル系溶媒が好ましく、メチルエチルケトン、酢酸エチル及び酢酸イソプロピルから選ばれる1種以上がより好ましく、ケトン系溶媒が更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。
有機溶媒と、結着樹脂組成物成分との質量比(有機溶媒/結着樹脂組成物成分)は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.25以上であり、そして、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.35以下である。
【0060】
[トナー用結着樹脂組成物の水系分散体]
本発明の静電荷像現像トナー用水系分散体(以下、「水系分散体」ともいう)は、本発明の結着樹脂組成物を含む。
本発明の水系分散体は、下記工程2により製造することができる。
工程2:本発明の結着樹脂組成物に、水系媒体を添加して、転相乳化を行い、結着樹脂組成物の水系分散体を得る工程
本明細書において、水系分散体とは、水系媒体を含む溶媒中に、前記結着樹脂組成物が分散状態で存在していればよい。水系分散体は、25℃で24時間、分層せずに存在していることが好ましい。
なお、本明細書において、結着樹脂組成物の水系分散体に含まれる結着樹脂組成物からなる粒子を「結着樹脂粒子」と称する場合がある。
水系分散体には、水系媒体以外の有機溶媒が存在していてもよいが、水系媒体及び有機溶媒の総量中の水系媒体の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上である。
以下、転相乳化法について説明する。
【0061】
転相乳化は、本発明の結着樹脂組成物の有機溶媒溶液に水性媒体を添加して行うことができる。結着樹脂組成物に水性媒体を添加することで、まず最初に、W/O相が形成され、次に、O/W相に転相される。転相しているかどうかは、例えば、目視、導電率等で確認することができる。
転相工程は、後述するような、水性媒体の添加速度や量によって、結着樹脂粒子の粒子径等を調整することができる。
結着樹脂組成物の有機溶媒溶液は、前記工程1−2により好適に調製することができる。
また、工程2においては、結着樹脂組成物の分散安定性を向上させる観点から、結着樹脂組成物に中和剤を添加することが好ましい。
【0062】
〔中和剤〕
中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、及びトリブチルアミン等の有機塩基が挙げられる。これらの中でも、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、水酸化ナトリウムが好ましい。
中和剤を添加して中和するときの温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
中和剤によるポリエステル系樹脂の中和度(モル%)は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは100モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。
なお、ポリエステル系樹脂の中和度(モル%)は、下記式によって求めることができる。
中和度={[中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量]/〔[ポリエステル系樹脂の酸価(mgKOH/g)×樹脂の質量(g)]/(56×1000)〕}×100
【0063】
〔水性媒体〕
水性媒体としては水を主成分とするものが好ましい。
水以外の成分としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数1以上5以下の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のジアルキル(炭素数1以上3以下)ケトン;テトラヒドロフラン等の環状エーテル等の水に溶解する有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、トナーへの混入を防止する観点から、ポリエステル系樹脂を溶解しない有機溶媒であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系有機溶媒が好適に使用できる。
水系媒体中の水の含有量は、結着樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。水は、脱イオン水又は蒸留水が好ましい。
【0064】
水性媒体を添加する際の温度は、結着樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下、更に好ましくは40℃以下である。
水性媒体の添加速度は、結着樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、転相が終了するまでは、結着樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.1質量部/分以上、より好ましくは1質量部/分以上、更に好ましくは3質量部/分以上であり、そして、好ましくは50質量部/分以下、より好ましくは20質量部/分以下、更に好ましくは10質量部/分以下である。転相後の水性媒体の添加速度には制限はない。
添加する水性媒体の量は、結着樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点、及び後の凝集工程で均一な凝集粒子を得る観点から、結着樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは100質量部以上、より好ましくは200質量部以上、更に好ましくは400質量部以上であり、そして、好ましくは900質量部以下、より好ましくは700質量部以下、更に好ましくは500質量部以下である。
【0065】
〔界面活性剤〕
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、結着樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、非イオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類あるいはポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられ、これらの中でも、結着樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられ、これらの中でも、結着樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸塩が好ましく、アルキルエーテル硫酸塩がより好ましく、アルキルエーテル硫酸ナトリウムが更に好ましく、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムがより更に好ましい。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0066】
〔有機溶媒の除去〕
転相乳化の後に、必要に応じて、転相乳化で得られた分散体から有機溶媒を除去する工程を有していてもよい。
有機溶媒の除去方法は、特に限定されず、任意の方法を用いることができるが、水と溶解しているため蒸留するのが好ましい。また、有機溶媒は、完全に除去されず水系分散体中に残留していてもよい。この場合、有機溶媒の残存量は、水系分散体中、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは実質的に0%である。
蒸留によって有機溶媒の除去を行う場合、撹拌を行いながら、使用する有機溶媒の沸点以上の温度に昇温して留去するのが好ましい。また、結着樹脂粒子の分散安定性を維持する観点から、減圧下で、その圧力における使用する有機溶媒の沸点以上の温度に昇温して留去するのがより好ましい。なお、減圧した後昇温しても、昇温した後減圧してもよい。結着樹脂粒子の分散安定性を維持する観点から、温度及び圧力を一定にして留去するのが好ましい。
【0067】
〔界面活性剤の添加〕
前記転相乳化後、水系分散体に前記界面活性剤を混合する工程を有していてもよい。
本工程により添加する界面活性剤の量は、結着樹脂粒子の分散安定性の観点から、界面活性剤の総添加量の、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。
また、本工程において添加する界面活性剤の量は、結着樹脂粒子の分散安定性の観点から、結着樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
界面活性剤添加時は、アンカー翼等の一般的に用いられる混合撹拌装置、外部循環撹拌装置等で撹拌することが好ましい。
アンカー翼等の混合撹拌装置を用いた場合、撹拌の周速は、分散性の観点から、好ましくは20m/分以上、より好ましくは40m/分以上、更に好ましくは60m/分以上、より更に好ましくは80m/分以上であり、そして、好ましくは200m/分以下、より好ましくは150m/分以下、更に好ましくは100m/分以下である。
界面活性剤添加時の温度は、界面活性剤の水への分散性等の観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは35℃以下である。
【0068】
〔体積中位粒径(D50)〕
水系分散体中の結着樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは100nm以上、より好ましくは150nm以上、更に好ましくは200nm以上であり、そして、好ましくは800nm以下、より好ましくは600nm以下、更に好ましくは300nm以下である。
ここで、体積中位粒径とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径であり、実施例に記載の方法で求められる。
【0069】
[トナーの製造方法]
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法は下記工程I〜IIを含む。
工程I:本発明の結着樹脂組成物を含有する水系分散体を凝集させて、凝集粒子を得る工程
工程II:工程Iで得られた凝集粒子を融着させる工程
【0070】
<工程I>
工程Iは本発明の結着樹脂組成物の水系分散体を凝集させて、凝集粒子を得る工程である。
本発明の結着樹脂組成物の水系分散体は、前記工程2に記載の方法により製造することができ、好ましい態様も同様である。
本工程では、凝集を効率的に行うために凝集剤を添加することが好ましい。また、工程Iでは、着色剤、荷電制御剤、離型剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、及び老化防止剤等の添加剤を添加してから凝集させてもよい。
【0071】
〔凝集剤〕
凝集剤は、第四級塩のカチオン性界面活性剤、ポリエチレンイミン等の有機系凝集剤;無機金属塩、無機アンモニウム塩等の無機系凝集剤が用いられる。これらの中でも、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、無機系凝集剤が好ましく、無機金属塩がより好ましい。
無機金属塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、塩化カルシウムが好ましい。無機金属塩の中心金属の価数は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、2価以上であることが好ましい。
凝集剤の使用量は、結着樹脂粒子の凝集を制御して所望の粒径を得る観点から、結着樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.15質量部以上、更に好ましくは0.20質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。
凝集剤は、水系媒体に溶解させて添加することが好ましく、凝集剤の添加時及び添加終了後は十分撹拌することが好ましい。
工程Iにおいて、系内の固形分濃度は、均一な凝集を起こさせる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
また、凝集剤を滴下する温度は、トナーの生産性を向上させる観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは35℃以下、より更に好ましくは30℃以下である。
【0072】
〔着色剤〕
工程Iで用いられる着色剤としては、本発明の結着樹脂組成物が含有することができる着色剤と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
着色剤は、着色剤粒子を含有する着色剤分散液として添加してもよい。
着色剤粒子の体積中位粒径(D50)は、高画質の画像が得られるトナーを得る観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは80nm以上、更に好ましくは100nm以上であり、そして、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
【0073】
〔荷電制御剤〕
工程Iで用いられる荷電制御剤としては、本発明の結着樹脂組成物が含有することができる荷電制御剤と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
この荷電制御剤は、荷電制御剤微粒子を含有する荷電制御剤分散液として添加してもよい。この荷電制御剤微粒子の体積中位粒径(D50)は、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、更に好ましくは300nm以上であり、そして、好ましくは800nm以下、より好ましくは600nm以下、更に好ましくは500nm以下である。
【0074】
得られる凝集粒子の体積中位粒径(D50)は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは6μm以下である。
【0075】
<工程II>
工程IIは工程Iで得られた凝集粒子を融着させる工程である。
本工程により、凝集粒子中の、主として物理的にお互いに付着している状態であった各粒子が融着されて一体となり、融着粒子が形成される。
【0076】
本工程においては、凝集粒子の融着性を向上させる観点、並びに低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、ポリエステル系樹脂のガラス転移温度以上の温度で保持することが好ましい。
本工程における保持温度は、凝集粒子の融着性を向上させる観点及びトナーの生産性を向上させる観点から、ポリエステル系樹脂のガラス転移温度より、好ましくは10℃高い温度以上、より好ましくは15℃高い温度以上、更に好ましくは20℃高い温度以上であり、そして、ポリエステル系樹脂のガラス転移温度より、好ましくは50℃高い温度以下、より好ましくは40℃高い温度以下、更に好ましくは30℃高い温度以下である。
具体的には、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。また、撹拌速度は、凝集粒子が沈降しない速度が好ましい。
【0077】
なお、凝集停止剤を用いる場合、凝集停止剤として界面活性剤を用いることが好ましく、アニオン性界面活性剤を用いることがより好ましい。アニオン性界面活性剤としては、アルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、及び直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩から選ばれる1種以上が好ましく、アルキルエーテル硫酸塩がより好ましい。
【0078】
≪後処理工程≫
前記工程により得られた融着粒子を、適宜、ろ過等の固液分離工程、洗浄工程、乾燥工程に供することにより、本発明に用いるトナーを好適に得ることができる。
洗浄工程では、添加した非イオン性界面活性剤も洗浄により完全に除去することが好ましく、非イオン性界面活性剤の曇点以下での水系溶液での洗浄が好ましい。洗浄は複数回行うことが好ましい。
また、乾燥工程では、振動型流動乾燥法、スプレードライ法、冷凍乾燥法、フラッシュジェット法等、任意の方法を採用することができる。トナーの乾燥後の水分含量は、帯電性の観点から、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下に調整することが好ましい。
更に流動性を向上する等の目的のために外添剤を添加してもよい。外添剤としては、表面を疎水化処理したシリカ微粒子、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子、酸化セリウム微粒子、及びカーボンブラック等の無機微粒子;ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、及びシリコーン樹脂等のポリマー微粒子等、公知の微粒子が使用できる。
【0079】
外添剤の個数平均粒子径は、トナーの流動性の観点から、好ましくは4nm以上、より好ましくは8nm以上、更に好ましくは12nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは30nm以下である。
外添剤を添加する場合、その添加量は、トナーの流動性、及び帯電度の環境安定性を向上させる観点から、外添剤による処理前のトナー粒子100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0080】
[静電荷像現像用トナー]
本発明の静電荷像現像トナーは、本発明の結着樹脂組成物を含む。
本発明の静電荷像現像トナーは、本発明の結着樹脂組成物を含むため、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性に優れる。
本発明の静電荷像現像トナーの体積中位粒径(D50)は、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性の観点から、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは6μm以下である。
【実施例】
【0081】
ワックス(W−1)、炭化水素ワックス(W−2)の各性状等については次の方法により測定及び評価した。
【0082】
[ワックスの数平均分子量(Mn)]
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてクロロホルムを、毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させ、そこに試料溶液100μlを注入して測定を行った。
試料の数平均分子量は、予め作成した検量線に基づき算出した。なお、検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製のA−500(5.0×102)、A−1000(1.01×103)、A−2500(2.63×103)、A−5000(5.97×103)、F−1(1.02×104)、F−2(1.81×104)、F−4(3.97×104)、F−10(9.64×104)、F−20(1.90×105)、F−40(4.27×105)、F−80(7.06×105)、F−128(1.09×106))を標準試料として用いた。
・測定装置:HLC−8220GPC(東ソー株式会社製)
・分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー株式会社製)
【0083】
[ワックスの融点(Mp)]
示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/minで昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とした。
【0084】
[ワックスの酸価及び水酸基価]
JIS K0070の方法に基づき測定した。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、キシレンとエタノールの混合溶媒(キシレン:エタノール=3:5(容量比))に変更した。
【0085】
結着樹脂、結着樹脂粒子、トナー等の各性状等については次の方法により測定及び評価した。
【0086】
[結着樹脂、及び結着樹脂とワックスとを含有する混合物の酸価]
樹脂の酸価は、JIS K 0070の方法に基づき測定した。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0087】
[結着樹脂、及び結着樹脂とワックスとを含有する混合物の軟化点及びガラス転移温度]
(1)軟化点
フローテスター「CFT−500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
(2)吸熱の最大ピーク温度
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、室温(20℃)から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した試料をそのまま1分間静止させ、その後、昇温速度10℃/分で180℃まで昇温しながら測定した。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最大ピーク温度とした。
(3)ガラス転移温度
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に昇温速度10℃/分で150℃まで昇温しながら測定した。吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0088】
[吸熱量比ΔHCW/Wの測定]
(水系分散体の凍結乾燥粉の調製)
結着樹脂組成物の水系分散体2gをアルミ皿に秤量後、常温、常圧下で凍結乾燥機(EYELA社製、FDU−2100)を接続した棚式乾燥機(EYELA社製、DRC−1000)に入れ、−25℃で1時間保持した後、−10℃、8.0kPaで9時間減圧した。その後25℃で5時間保持した後、常圧まで戻し、結着樹脂組成物の水系分散体の凍結乾燥粉(以下、「凍結乾燥粉」ともいう)を得た。
【0089】
(吸熱量の測定)
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、まずワックス0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に昇温速度10℃/分で150℃まで昇温することで、ワックスを単独で測定した場合におけるワックス1g当たりの吸熱量ΔHWを測定した。
次いで、同様の条件で、前記凍結乾燥粉の吸熱量を測定し、結着樹脂組成物として測定した場合におけるワックス1g当たりの吸熱量ΔHCWを求めた。得られたΔHW及びΔHCWから、下記式(1)により吸熱量比ΔHCW/Wを求めた。
吸熱量比ΔHCW/W=ΔHCW/ΔHW (1)
なお、ワックスの吸熱ピークと結着樹脂の吸熱ピークとが重なる場合、予め結着樹脂を単独で測定した場合における結着樹脂1g当たりの吸熱量を測定しておき、結着樹脂組成物の吸熱量から、結着樹脂に起因する吸熱量を除することで、ワックスに起因する吸熱量ΔHCWを求めることができる。
【0090】
[トナー及び凝集粒子の体積中位粒径(D50)]
凝集粒子の体積中位粒径は以下の通り測定した。
・測定機:「コールターマルチサイザーIII」(ベックマンコールター社製)
・アパチャー径:50μm
・解析ソフト:「マルチサイザーIIIバージョン3.51」(ベックマンコールター社製)
・電解液:「アイソトンII」(ベックマンコールター社製)
・分散液:ポリオキシエチレンラウリルエーテル「エマルゲン109P」(花王株式会社製、HLB:13.6)を前記電解液に溶解させ、濃度5質量%の分散液を得た。
・分散条件:前記分散液5mLに試料10mg(固形分換算)を添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、更に、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を作製した。
・測定条件:前記試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求めた。
【0091】
[結着樹脂粒子、着色剤微粒子、荷電制御剤微粒子の体積中位粒径(D50)]
(1)測定装置:レーザー回折型粒径測定機「LA−920」(株式会社堀場製作所製)
(2)測定条件:測定用セルに蒸留水を加え、吸光度が適正範囲になる濃度で体積中位粒径(D50)を測定した。
【0092】
[着色剤分散液、荷電制御剤分散液、結着樹脂組成物の水系分散体の固形分濃度]
赤外線水分計「FD−230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、試料の水分(質量%)を測定した。固形分は下記式に従って算出した。
固形分濃度(質量%)=100−試料の水分(質量%)
【0093】
[最低定着温度(低温定着性の評価)]
複写機「AR−505」(シャープ株式会社製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、未定着の状態で印刷物を得た(印字面積:2cm×12cm、付着量:0.5mg/cm2)。その後、総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度300mm/sec)を用い、定着ロールの温度を80℃から240℃へと5℃ずつ順次上昇させながら、各温度で未定着状態の印刷物の定着試験を行った。得られた印刷物の画像部分にセロハン粘着テープ「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆株式会社製、幅:18mm、JIS Z1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD−915」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前×100)が最初に90%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とした。最低定着温度が低いほど、低温定着性に優れる。なお、定着紙には、「CopyBond SF−70NA」(シャープ株式会社製、75g/m2)を使用した。
【0094】
[ホットオフセット温度(耐ホットオフセット性の評価)]
上記低温定着性の試験において、定着ローラーに最初にホットオフセットが観察された温度をホットオフセット温度とした。この温度が高いほど、耐ホットオフセット性に優れる。
【0095】
[耐刷枚数(耐フィルミング性の評価)]
非磁性一成分現像方式プリンター「OKI Microline 18」(株式会社沖データ製)にトナーを実装し、温度30℃、湿度80%の条件下にて、黒化率5.5%の斜めストライプのパターンの耐刷を行った。途中、500枚ごとにベタ画像を印字し、画像上のスジを確認した。画像上にスジが目視にて観察された時点までの印字枚数を耐刷枚数とした。耐刷枚数が大きいものほど、耐フィルミング性に優れる。
【0096】
製造例1
(複合樹脂Aの製造)
表1に示すフマル酸以外のポリエステルセグメントの原料モノマー、エステル化触媒及びエステル化助触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した20リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで2時間かけて昇温を行った。その後235℃にて反応率が95%以上に到達したのを確認し、160℃まで冷却し、ワックス(パラフィンワックス「HNP−9」、日本精蝋株式会社製、融点:75℃、酸価:0mgKOH/g、水酸基価:0mgKOH/g、数平均分子量:520)を投入した後、表1に示すビニル系樹脂セグメントの原料モノマー、両反応性モノマー及びラジカル重合開始剤の混合溶液を1時間かけて滴下した。その後、30分間160℃に保持(熟成)した後、200℃まで昇温し、更に8kPaの減圧下で1時間反応させた後、180℃まで冷却した。その後、ラジカル重合禁止剤である4−t−ブチルカテコール及びフマル酸を加え、2時間かけて210℃まで昇温した。その後、210℃にて1時間反応後、40kPaにて表1に記載の軟化点に達するまで反応を行って、複合樹脂Aとワックスとを含有する混合物を得た。
なお、本発明における反応率とは、生成反応水量(mol)/理論生成水量(mol)×100の値をいう。
【0097】
製造例2
(複合樹脂Bの製造)
製造例1において、ワックスの投入時期を、ビニル系樹脂セグメントの原料モノマー、両反応性モノマー及びラジカル重合開始剤の混合溶液の滴下開始から30分後(該混合溶液の半量が反応系中に投入された段階)に変更した以外は、製造例1と同様にして複合樹脂Bとワックスとを含有する混合物を得た。
【0098】
製造例3
(複合樹脂Cの製造)
製造例1において、ワックスの投入時期を、ビニル系樹脂セグメントの原料モノマー、両反応性モノマー及びラジカル重合開始剤の混合溶液を滴下後、30分間160℃に保持(熟成)した後に変更した以外は、製造例1と同様にして複合樹脂Cとワックスとを含有する混合物を得た。
【0099】
製造例4
(複合樹脂Dの製造)
製造例1において、ワックスを投入しなかった点以外は、製造例1と同様にして複合樹脂Dを得た。なお、複合樹脂Dは、後の乳化時にワックスを投入する態様にて用いた。
【0100】
製造例5〜10
(複合樹脂E〜Jの製造)
製造例1において、原料組成を表1に示す組成に変更した点以外は、製造例1と同様にして複合樹脂E〜Jとワックスとを含有する混合物を各々得た。
【0101】
【表1】
【0102】
製造例11〜13
(ポリエステル樹脂K〜Mの製造)
表2に示す、フマル酸以外のポリエステルの原料モノマー、パラコール6490(日本精蝋株式会社製)、ワックス(パラフィンワックス「HNP−9」、日本精蝋株式会社製、融点:75℃、酸価:0mgKOH/g、水酸基価:0mgKOH/g、数平均分子量:520)、エステル化触媒及びエステル化助触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した20リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで2時間かけて昇温を行った。その後、235℃にて10時間反応後、8kPaの減圧下で1時間反応させた後、180℃まで冷却した。その後、表2に示すようにフマル酸及びラジカル重合禁止剤である4−t−ブチルカテコールを加え、2時間かけて210℃まで昇温した。その後、210℃にて1時間反応後、40kPaにて表2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、ポリエステル樹脂K〜Mを得た。
【0103】
【表2】
【0104】
[着色剤分散液の製造]
製造例14
銅フタロシアニン「ECB−301」(大日精化工業株式会社製)50g、非イオン性界面活性剤「エマルゲン150」(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王株式会社製)5g及びイオン交換水200gを混合し、ホモジナイザーを用いて10分間分散させて、着色剤微粒子を含有する着色剤分散液を得た。着色剤微粒子の体積中位粒径(D50)は120nmであり、固形分濃度は22質量%であった。
【0105】
[荷電制御剤分散液の製造]
製造例15
荷電制御剤としてサリチル酸系化合物「ボントロンE−84」(オリエント化学工業株式会社製)50g、非イオン性界面活性剤として「エマルゲン150」(花王株式会社製)5g及びイオン交換水200gを混合し、ガラスビーズを使用し、サンドグラインダーを用いて10分間分散させて、荷電制御剤微粒子を含有する荷電制御剤分散液を得た。荷電制御剤微粒子の体積中位粒径(D50)は400nmであり、固形分濃度は22質量%であった。
【0106】
[結着樹脂組成物の水系分散体及びトナーの製造]
実施例1
(水系分散体1の製造)
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた3L容の容器に、複合樹脂A150g、メチルエチルケトン(以下、「MEK」ともいう)45gを仕込み、73℃にて2時間かけて溶解させた。得られた溶液に、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を樹脂の酸価に対して中和度40モル%になるように添加して中和し、30分撹拌した。その後30℃に保持したままで280r/分(周速88m/分)の撹拌を行いながら、イオン交換水675gを77分かけて添加した。ついで30分かけて50℃に昇温させた後、MEKを減圧下で留去した。その後、250r/分(周速88m/分)の撹拌を行いながら水系分散体を30℃に冷却した後、アニオン性界面活性剤「エマールE27C」(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、花王株式会社製)を16.7g混合し、完全に溶解させた。その後分散液の固形分濃度を測定し、20質量%になるようにイオン交換水を加えて結着樹脂組成物の水系分散体1を得た。物性を表3に示す。
【0107】
(トナーの製造)
上記で得られた結着樹脂組成物の水系分散体1を300g、着色剤分散液8g、荷電制御剤分散液2g及び脱イオン水52gを2L容の容器に入れ、アンカー型の撹拌機で100r/分(周速31m/分)の撹拌下、20℃で0.1質量%塩化カルシウム水溶液150gを30分かけて滴下した。その後、撹拌しながら50℃まで昇温した。体積中位粒径が5μmになるまで50℃で保持した。3時間経過した時点で体積中位粒径が5μmに達した。その後、凝集停止剤としてアニオン性界面活性剤「エマールE27C」(花王株式会社製、固形分28質量%)4.2gを脱イオン水37gで希釈した希釈液を添加した。次いで80℃まで昇温し、80℃になった時点から1時間80℃を保持した後、加熱を終了した。これにより融着粒子を形成させた後、20℃まで徐冷し、150メッシュ(目開き150マイクロメートル)の金網でろ過した後、吸引ろ過を行い、洗浄、乾燥工程を経てトナー粒子を得た。
【0108】
(外添工程)
上記トナー粒子100質量部に対して、疎水性シリカ「NAX−50」(日本アエロジル株式会社製、個数平均粒子径40nm)1.0質量部、疎水性シリカ「R972」(日本アエロジル株式会社製、個数平均粒子径16nm)0.6質量部、酸化チタン「JMT−150IB」(テイカ株式会社製、個数平均粒子径15nm)0.5質量部を、ST、A0撹拌羽根を装着した10Lヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)に投入し、3000rpmにて2分間撹拌して、トナーを得た。トナーの評価結果を表3に示す。
【0109】
実施例2〜8、比較例1、3〜5
(水系分散体2〜8、12、14〜16の製造)
実施例1において、結着樹脂及びワックスを表3に示す結着樹脂及びワックスに変更した以外は、実施例1と同様にして、水系分散体2〜8、12、14〜16を得た。物性を表3に示す。
(トナーの製造)
実施例1において、水系分散体1を、上記で得られた水系分散体2〜8、12、14〜16に変更した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。トナーの評価結果を表3に示す。
【0110】
実施例9
(水系分散体9の製造)
実施例1において、使用したMEKの量を75gに変更した点以外は、実施例1と同様にして水系分散体9を得た。物性を表3に示す。
(トナーの製造)
実施例1において、水系分散体1を、上記で得られた水系分散体9に変更した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。トナーの評価結果を表3に示す。
【0111】
実施例10
(水系分散体10の製造)
実施例1において、使用した溶媒をMEK/IPA=35g/10gの混合溶媒に変更した以外は、実施例1と同様にして水系分散体10を得た。物性を表3に示す。
(トナーの製造)
実施例1において、水系分散体1を、上記で得られた水系分散体10に変更した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。トナーの評価結果を表3に示す。
【0112】
実施例11
(水系分散体11の製造)
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた3L容の容器に、表3に示す結着樹脂120g、ワックス(エステルワックス「WEP−8」、日油株式会社製、融点:80℃、酸価:0.1mgKOH/g、水酸基価:2.5mgKOH/g、数平均分子量:1427)30g、MEK45gを仕込み、73℃にて2時間かけて溶解させた。得られた溶液に、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を樹脂の酸価に対して中和度100モル%になるように添加して中和し、30分撹拌した。その後は実施例1と同様にして水系分散体11を得た。物性を表3に示す。
(トナーの製造)
実施例1において、水系分散体1を、上記で得られた水系分散体11に変更した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。トナーの評価結果を表3に示す。
【0113】
比較例2
(水系分散体13の製造)
実施例11において、ワックス(エステルワックス「WEP−8」、日油株式会社製、融点:80℃、酸価:0.1mgKOH/g、水酸基価:2.5mgKOH/g、数平均分子量:1427)を、ワックス(パラフィンワックス「HNP−9」、日本精蝋株式会社製、融点:75℃、酸価:0mgKOH/g、水酸基価:0mgKOH/g、数平均分子量:520)に変更した以外は、実施例11と同様にして、水系分散体13を得た。
【0114】
【表3】
【0115】
実施例1〜11で得られたトナーはいずれも、低温定着性、耐ホットオフセット性、及び耐フィルミング性に優れるものであった。
一方、吸熱量比ΔHCW/Wが0.70を超える比較例1〜3、及び5は、耐刷枚数が低く耐フィルミング性に劣り、特に比較例2、3、5は最低定着温度が高く低温定着性にも劣っていた。これらはワックスの非晶質化が不十分であること、及びこれによってワックスの結着樹脂中への内包化が不十分となったことによると考えられる。
また、吸熱量比ΔHCW/Wが0.20未満である比較例4は、耐ホットオフセット性に劣るものであった。これはワックスの結晶性が低いことにより、ポリエステル系樹脂とワックスとの親和性が高くなりすぎ、定着時にワックスがトナー表面にブリードアウトし難くなったためと考えられる。