(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、本実施形態に係る中空糸膜モジュール10の側面断面図を例示する。中空糸膜モジュール10は、カラム12、通液キャップ14、中空糸膜束16、及び封止部材18を備える。中空糸膜モジュール10は、例えば、原水や調製済みの透析液からエンドトキシン等の微粒子を除去するろ過器具として用いられる。
【0014】
カラム12は、中空糸膜束16を収容する筒体である。カラム12は、例えばポリカーボネート等の樹脂材からなる円筒から形成される。カラム12には、その長手方向の両端部寄りに、円筒から突き出るようにして、原水供給ポート20及び原水排出ポート22が形成されている。原水供給ポート20を介して外部からカラム12内に原水が供給される。また原水排出ポート22を介してカラム12内から外部に原水が排出される。
【0015】
通液キャップ14は、中空糸膜束16に浸透したろ過水を中空糸膜モジュール10外に取り出すための通液手段である。通液キャップ14は、カラム12の両端部開口を覆うようにして取り付けられる。通液キャップ14にはポート(開口)24が設けられており、中空糸膜束16の端部開口から流出したろ過水は、このポート24を介して外部に流出する。なお、ろ過水の流出口(取り出し口)が一つでよい場合には、通液キャップ14,14の一方に、そのポート24を塞ぐポートキャップ26を取り付けてもよい。
【0016】
なお、原水供給ポート20及び原水排出ポート22と、ポート24,24の役割を交換してもよい。すなわち、原水の供給及び排出用にポート24,24を用いて、ろ過水の排出にポート20,22の少なくとも一方を用いてもよい。
【0017】
封止部材18は、カラム12の両端開口を封止する。封止部材18は、中空糸膜束16の個々の中空糸膜28の隙間を埋めるとともに、カラム12の両端開口近傍の内壁面に固着して、カラム12内の原水がカラム12両端開口から外部に漏れ出すことを防止している。また、封止部材18は、中空糸膜束16の両端をカラム12に固定する固定手段としての機能も備えている。封止部材18はポッティング材とも呼ばれ、例えば、ポリウレタン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂から構成される。
【0018】
中空糸膜束16は、カラム12内に収容されるとともに、封止部材18によってその両端を固定されている。また、中空糸膜束16を構成する個々の中空糸膜28の両端開口は開放されており(封止部材18によって埋められておらず)、中空糸膜28内に浸透したろ過水は当該開口から通液キャップ14に流れ込む。
【0019】
中空糸膜28は、例えば、膜基材の厚さが5〜150μm、内径が100〜500μm程度の断面円形の細管から構成されている。上記範囲のうち、膜基材の厚さが30〜50μm、内径が200〜250μm程度であることがより好適である。また、中空糸膜28の膜基材は、例えば、ポリエステル系樹脂とポリスルホン系樹脂を主たる膜基材とした、疎水性高分子製の半透膜から構成される。ここで、ポリエステル系樹脂は、例えば、次式(1)であらわされる繰り返し単位を有するポリアリレート樹脂であってよい。
【0021】
なお、化学式(1)中、R
1及びR
2は炭素数が1乃至5の低級アルキル基であり、それぞれ同一であっても相違していてもよい。
【0022】
また、上述したポリスルホン系樹脂は、例えば、次式(2)で表される繰り返し単位、及び、次式(3)で表される繰り返し単位の少なくともいずれかを有するポリスルホン樹脂であってよい。
【0025】
なお、化学式(2)中、R
3及びR
4は炭素数が1乃至5の低級アルキル基であり、それぞれ同一であっても相違していてもよい。
【0026】
これらの疎水性膜基材を紡糸するための製膜原液は、ポリエステル系樹脂(A)とポリスルホン系樹脂(B)との混合重量比(A/B)を0.1〜10の範囲で定めるとともに、両樹脂の合計量(A+B)が10重量%〜25重量%の割合となるように有機溶媒に溶解させることで調製される。
【0027】
また、中空糸膜28について、ポリエステル系樹脂とポリスルホン系樹脂を主たる膜基材とした疎水性高分子製の半透膜から構成される場合について説明したが、これに限るものではなく、ポリエステル系樹脂またはポリスルホン系樹脂の単体で膜基材を形成しても良い。
【0028】
中空糸膜束16を構成する個々の中空糸膜28には、クリンプ(縮れ)30が形成されている。このクリンプ30は、中空糸膜28の全長に亘って形成されていてもよいし、例えば封止部材18が充填される部位には設けないなど、部分的に形成されていてもよい。クリンプ30は、例えば一定のクリアランスを有する2つのプーリー間に中空糸膜28を通過させることで形成されてもよいし、表面が凹凸状の2本のベルトの間に中空糸膜28を通過させることで形成されてもよい。
【0029】
中空糸膜28にクリンプ30を形成することで、中空糸膜28が熱収縮したときに当該クリンプ30が展開する(拡がる)。これにより、中空糸膜28の収縮に伴う中空糸膜28のちぎれや封止部材18の剥離が防止される。
【0030】
このような観点から、クリンプ30による中空糸膜28の伸長率が、熱収縮による中空糸膜28の収縮率以上となるように、クリンプ30が形成されていることが好適である。つまり、中空糸膜28の無負荷時の長さと、クリンプ30を全て展開したときの中空糸膜28の長さとの割合を示す伸長率が、加熱により収縮された中空糸膜28と、加熱前(常温状態下)における中空糸膜28との、クリンプ30を全て展開したときの長さの割合を示す収縮率以上となるように、クリンプ30が形成されていることが好適である。
【0031】
なお、加熱状態とは、例えば、中空糸膜モジュール10がろ過器として用いられているときに定期的に行われる、熱水消毒時の中空糸膜28の状態を指すものとしてよい。熱水消毒プロセスでは、65℃以上98℃以下の熱水が、中空糸膜モジュール10に、5分〜4時間程度流される。
【0032】
また、加熱前の常温状態とは、例えば中空糸膜モジュール10の環境温度が5℃以上35℃以下である状態を指すものとしてよい。
【0033】
収縮率及び伸長率は、以下のように定義する。
図1に示すように、封止部材18,18間の中空糸膜28の、加熱前かつ無負荷時の長さB、及び、当該加熱前の中空糸膜28の、クリンプ30を全て展開したときの長さCを用いて、伸長率β[%]は、β=100×(C−B)/Cにより求められる。また、加熱により長さDの状態になった中空糸膜28のクリンプを全て展開したときの長さFを用いて、収縮率α[%]は、α=100×(C−F)/Cにより求められる。この収縮率α及び伸長率βについて、α≦βとなるように、中空糸膜28にクリンプ30を形成する。例えば、クリンプ30の山の高さや周期長を調整することによって、伸長率βを調整する。
【0034】
なお、中空糸膜28の長さB〜Eの基準となる、封止部材18,18間の距離は、封止部材18の注入量やカラム12内の偏り等により変動する。この変動分を考慮して、α≦βとの関係を満たすβに任意の補正係数δ(>0)を加えた伸長率β+δとなるように、クリンプ30を形成するようにしてもよい。また、
図2にて後述するように、封止部材18,18間の距離に代えて、中空糸膜モジュール10の製造プロセスにおける切断前の中空糸膜束16の長さB’を用いてもよい。
【0035】
また、後述するように、中空糸膜モジュール10の製造プロセスにおいては、
図4に示すようにカラム12が回転させられる。このときに中空糸膜束16に作用する遠心力によって、中空糸膜28のクリンプ30が展開される(拡がる)おそれがある。そこで、隣り合う中空糸膜28が互いに引っ掛かり合うように、またカラム12の内壁と中空糸膜28とが摩擦により引っ掛かり合うように、カラム12内の中空糸膜28の充填率を高くすることが好適である。
【0036】
具体的には、カラム12の両端にある封止部材18,18と、カラム12の内壁とによって区画された空間を充填空間とする。
図1によれば、封止部材18,18間の長さA、カラム12の内径Gを用いて、充填空間の容積V
Cは、V
C=π×(G/2)
2×Aにより求められる。また、中空糸膜28の外径H、中空糸膜28の本数γ、ならびに上述した封止部材18,18間の長さA及び中空糸膜28の伸長率βを用いると、充填空間における中空糸膜28の充填体積V
Mは、V
M=π×(H/2)
2×A/(1−β/100)×γにより求められる。充填空間の容積V
Cに対する充填体積V
Mの割合V
M/V
Cが、カラム12内(充填空間)における中空糸膜28の充填率R
Mとなる。
【0037】
中空糸膜28は断面円形であって、二次元格子における円の最密充填率は約0.9であるところ、中空糸膜28にはクリンプ30が形成されていることから、ここまで密に充填することは困難となる。発明者の検討の結果、充填率R
Mを0.52以上とすることで、カラム12の回転時における中空糸膜28の展開が効果的に抑制されることが明らかとなった。このことから、R
M≧0.52となるように、中空糸膜28をカラム12に充填することが好適である。また、R
M≧0.55となるように、中空糸膜28をカラム12に充填することが更に好適である。
【0038】
また、充填率R
Mが0.60を超過すると、中空糸膜28を潰してカラム12内に充填するなど、中空糸膜28にストレスが掛かることが発明者らの検討により明らかとなった。このことから、充填率R
Mは、0.60以下とすることが好適である。
【0039】
なお、上記のようにカラム12内に密に中空糸膜28を充填することで、原水供給時の中空糸膜28の揺動が抑制されるという効果も得ることができる。上述したように、中空糸膜28の揺動により、中空糸膜28が破損するおそれがあるが、中空糸膜28を密に充填することで、揺動による破損を防ぐことができる。
【0040】
次に、本実施形態に係る中空糸膜モジュール10の製造プロセスについて説明する。まず、
図2に示すように、カラム12内に中空糸膜束16を充填(挿入)する。このとき、後工程の切断プロセス(
図6)に備えて、中空糸膜束16の長さB’は、カラム12の全長を超過させたものとする。
【0041】
図3に示すように、中空糸膜束16が充填されたカラム12の両端に、封止キャップ32,32を取り付ける。封止キャップ32は、中空糸膜束16の各端面に当接するようにして、カラム12両端に取り付けられることが好適である。これにより、後述する回転プロセス(
図5)において、回転時におけるクリンプ30の展開が押し留められる。
【0042】
次に、
図4に示すように、原水供給ポート20及び原水排出ポート22から、流動状態の封止部材18をカラム12内に注入する。さらに
図5に示すように、カラム12の長手方向中心を回転中心として、カラム12を回転させる。これにより封止部材18はカラム12の両端に寄せられる。封止部材18を寄せた後、加熱処理等によって封止部材を硬化させる。
【0043】
上述したように、中空糸膜28の両端は封止キャップ32,32によって押さえつけられている。また、中空糸膜28は密な状態でカラム12内に充填され、中空糸膜28同士がクリンプ30によって絡み合っている。これらの作用により、カラム12の回転時であってもクリンプ30の展開が防止される。
【0044】
さらに
図6に示すように、封止キャップ32,32をカラム12から取り外すとともに、中空糸膜束16と封止部材18の、カラム12から飛び出した部分を切断する。これによって中空糸膜28のうち、管内が封止部材18によって埋められていた部分が切断される。最後にカラム12の両端に通液キャップ14を取り付ける。
【実施例】
【0045】
下記表1〜表3に示すような、実施例1〜8及び比較例1〜3の中空糸膜モジュールを製作した。なお、実施例1の中空糸膜28は、上述したポリエステル系樹脂とポリスルホン系樹脂を混合させたものを主たる膜基材とした、疎水性高分子製の半透膜から製造した。膜厚は50μmとし、全長に亘ってクリンプ30を形成した。また、実施例2〜4の中空糸膜28は、実施例1と同一のものを用いたが、下記表1のように、中空糸膜28の本数を実施例1よりも減らした。
【0046】
また、実施例5は、中空糸膜28をポリエーテルスルホン単体から製造したものである。中空糸膜28の外径Hは、実施例1のものと比較して大径の8.00×10
−1mmとした。なお、中空糸膜28の本数は実施例1よりも減らした。実施例6〜8の中空糸膜28は、実施例5と同一のものを用いたが、下記表2のように、中空糸膜28の本数を実施例5よりも減らした。
【0047】
比較例1の中空糸膜28は、実施例1の中空糸膜28と同材料及び同膜厚であって、収縮率α>伸長率βとした。比較例2の中空糸膜28は、実施例1の中空糸膜28と同材料及び膜厚30μmのものであって、収縮率α>伸長率βとした。さらに、比較例1よりも中空糸膜28の本数を増やした。比較例3の中空糸膜28は、比較例1と同一のものを用いているが、収縮率α>伸長率βとし、また中空糸膜28の本数を、比較例1よりも若干増やした。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
なお、上記表1〜表3の膜基材の欄に示されたPARはポリアリレートを示す。また、PESはポリエーテルスルホンを示す。さらに、表1〜表3では、中空糸膜モジュール10に90℃の熱水が2時間程度流されることを想定し、中空糸膜の収縮率αは、90℃の熱風乾燥を2時間行った場合の中空糸膜に対する、加熱前(常温環境下)の中空糸膜の、クリンプ30を全て展開したときの長さの割合を示している。
【0052】
これら、実施例1〜8及び比較例1〜3に係る中空糸膜モジュール10に対して、2種類の耐久性試験を実施した。第1の耐久性試験として、中空糸膜モジュールに対して模擬透析を行うとともに、一定期間でクエン酸熱水消毒を行った。1回の模擬透析とその後の1回のクエン酸熱水消毒を1サイクルとして、実施例1〜8及び比較例1〜3の中空糸膜モジュールが破損に至るまで(中空糸膜28が破断するまで)のサイクル数をそれぞれカウントした。
【0053】
また、第2の耐久性試験として、実施例1〜8及び比較例1〜3の中空糸膜モジュール10を110℃のオートクレーブに30分入れ、その後各中空糸膜モジュール10を常温の水中に2時間浸漬させた。1回のオートクレーブでの加熱とその後の1回の浸漬を1サイクルとして、実施例1〜8及び比較例1〜3の中空糸膜モジュールが破損に至るまでのサイクル数をそれぞれカウントした。
【0054】
これら耐久性試験1、2の結果を、下記表4〜表6に示す。なお、耐久性試験1、2のいずれも、実施例1〜8及び比較例1〜3の中空糸膜モジュールサンプルをそれぞれ3個製造して試験に用いており、表4〜表6では、その平均サイクル数を示している。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
図7に、表4〜6のグラフが示されている。横軸は耐久性試験1のサイクル数を表し、縦軸は耐久性試験2のサイクル数を表している。このグラフに示されているように、α≦βとの条件を満たす実施例1〜8は、当該条件を満たさない比較例1〜3よりも、耐久性試験1及び耐久性試験2のいずれにおいても高い耐久性を示していることが理解される。加えて、α≦βとの条件を満たす実施例1〜8の中でも、0.52≦R
M≦0.60との条件も満たす実施例1、5は、当該条件を満たさない実施例2〜4、6〜8と比較して、高い耐久性を示していることが理解される。
【0059】
以上の試験結果より、まず、α≦βとの条件を満たすことで、高い耐久性が得られることが理解される。加えて、0.52≦R
M≦0.60との条件も満たすことで、さらに高い耐久性が得られることが理解される。