【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記課題を解決するため、次に示す3つの方策を採ることとした。すなわち、
(1)母型樹脂上の導電性被膜を貫き、母型樹脂に達する孔を設けることによって孔に水素ガスの気泡が付着・滞留し易くし、孔へのめっき被膜の侵入を防止する。
(2)従来の多孔性電鋳の製造においてはめっき液に添加されていなかった界面活性剤(ピット防止剤)を、あえて添加することによって、孔以外での水素ガスの気泡の付着を抑制し、所望しない位置に貫通孔が形成されるのを抑制する。
(3)母型樹脂に撥水性粉体を添加することによって、(1)で設けた孔内に撥水性粉体が剥き出しとなるようにし、孔に水素ガスの気泡が確実に滞留するようにする。
【0010】
すなわち、本発明の多孔性電鋳の製造方法は、電気的に絶縁性を有する撥水性粉体が少なくとも表面付近に含有されている粉体含有母型を形成する母型形成工程と、該粉体含有母型の表面に導電性被膜を形成する導電性被膜形成工程と、該導電性被膜の表面から該粉体含有母型に達する複数の孔を形成する孔形成工程と、該孔が形成された導電性被膜付母型を界面活性剤が添加された電気めっき液中で電気めっきを行い多孔性めっき被膜を形成するめっき工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の多孔性電鋳の製造方法では、まず母型形成工程として、電気的に絶縁性を有する撥水性粉体が少なくとも表面付近に含有されている粉体含有母型を形成する。ここで、「電気的に絶縁性を有する」とは、撥水性粉体自体が電気的絶縁性を有する材料からなる場合の他、撥水性粉体の表面のみが電気的に絶縁性を有するように処理されている場合も含む意味である。また、「撥水性粉体が少なくとも表面付近に含有されている」とは、母型の表面付近のみに撥水性粉体が存在している場合の他、母型の内部までは撥水性粉体が存在している場合も含む意味である。
撥水性粉体としては、少なくとも表面が電気的に絶縁性を有する撥水性粉体であって、めっき液に溶解したり、分解したりするものでなければ用いることができる。このような撥水性粉体としては、例えばポリエチレン粉体、PTFE等のフッ素樹脂粉体、シランカップリング剤等によって表面に疎水基が修飾された無機粉体(例えば疎水化シリカ、疎水化アルミナ等、疎水化チタニア等)等が挙げられる。
【0012】
そして、さらに導電性被膜形成工程において粉体含有母型の表面に導電性被膜が形成される。導電性被膜の形成には、例えば、銀イオンを還元性の薬剤で還元して銀薄膜を形成させる方法等を利用することができる。
【0013】
こうして導電性被膜形成工程が行われた後、導電性被膜の表面から粉体含有母型に達する複数の孔を形成する(孔形成工程)。これにより、孔内は母型の素材及び母型に含まれている撥水性粉体が剥き出しの状態となる。孔の形成にはドリル加工やレーザ加工を用いることができる。
【0014】
最後にめっき工程として、孔が形成された導電性被膜付母型を界面活性剤が添加されためっき液中で電気めっきを行う。電気めっきの種類は特に限定されず、例えば、ニッケル、鉄、コバルト、ニッケル−コバルト合金等が挙げられる。めっき工程において、孔以外の部分は導電性被膜が存在するために、めっき被膜が形成されるが、孔には導電性被膜が存在しないため、めっき被膜が形成されない。さらに、孔周縁のめっき被膜上では、めっき反応の副反応である水の電気分解反応によって水素ガスが発生し、それが成長して気泡となり、孔内に剥き出しとなっている撥水性粉体に付着する(なぜならば、気泡は疎水性であるため、撥水性樹脂に付着し易いからである)。そしてこの付着した気泡及び気泡が集まったより大きな気泡のために、孔周縁のめっき被膜が孔内に侵入することが阻止される。この様な状態でめっきが行われることによって、孔上にめっき被膜を貫通する孔が確実に形成される。
したがって、本発明の多孔性電鋳の製造方法によれば、孔を形成させた箇所に確実に貫通孔を有する多孔性電鋳を製造することができる。
【0015】
なお、電気めっき工程におけるめっき液に界面活性剤が添加されていることを要件としたのは次の理由による。
特許文献1における多孔性電鋳の製造方法では、めっき被膜の貫通孔が塞がるという上記問題点を解決するために、めっき液に界面活性剤をあえて加えないでめっきを行うこととしている。めっき液に界面活性剤を加えない場合、めっきの副反応として発生した水素ガスがめっき表面から脱離し難くなることから、
図12に示すように、孔200周縁のめっき被膜201や導電性被膜202から発生した水素ガスが大きな気泡203に成長し、この気泡203によって孔200へのめっき被膜の侵入が防止されるからである
しかしながら、めっき液に界面活性剤を添加しない場合、水素ガスの気泡はめっき表面から脱離し難くなり、孔のみならず、めっき被膜全体に付着し易くなる。このため、孔を設けた位置だけでなく、それ以外のめっき被膜表面にも水素ガス気泡が付着し、結果として所望しない位置にも貫通孔が形成されてしまうおそれがある。
こうした二律背反の問題を解決するため、本発明の多孔性電鋳の製造方法では、電気めっき液には界面活性剤が添加されていることとしたのである。
すなわち、本発明では、電気めっき液に界面活性剤が添加されているが、孔内の表面には母型に混合した撥水性粒子が剥き出しにされているので、水素ガスは撥水性粒子に付着したまま脱離することはなく、孔へのめっき被膜の侵入は防止され、貫通孔が確実に形成される。(
図7参照)また、導電性被膜上またはめっき被膜上の孔以外の位置で発生した水素ガスの気泡はめっき表面から脱離し易くなり、所望しない位置のめっき被膜に貫通孔の生じることを防止することができる。その結果、孔を設けた位置のみに選択的に貫通孔を生成させることができる。このため、多孔性電鋳を真空成形やブロー成形等の金型として利用する場合、貫通孔を設計通りに所望の個所に所望の密度で開けるということができ、より精密なプラスチック成型を行うことが可能となる。
【0016】
なお、本明細書において「界面活性剤が添加された」とは、界面活性剤の添加効果として、めっき被膜上に付着した水素ガスの気泡が脱離し易くなる効果を発揮できる程度の濃度で界面活性剤が添加された状態をいう。具体的には、界面活性剤が0.01g/L以上添加されていることが好ましく、さらに好ましくは0.05g/L以上、最も好ましいのは0.25g/L以上である。一方、界面活性剤の添加量の上限については、孔への水素ガス気泡の滞留を妨害しない範囲で添加することが許される。具体的には、10g/L以下が好ましくさらに好ましくは2g/L以下であり、最も好ましいのは1g/L以下である。
【0017】
本発明の多孔性電鋳の製造方法における母型形成工程として、硬化剤により硬化可能なプレポリマーと、該硬化剤と、少なくとも表面が電気的に絶縁性を有する撥水性粉体と、を混合して粘性混合物とする混合工程と、該粘性混合物を成形固化させて母型を得る固化工程と、からなる方法を用いることができる。
この方法ではまず混合工程として、プレポリマーと、硬化剤と、撥水性粉体とを混合して粘性混合物とする。プレポリマーとしては、硬化剤により硬化可能であって撥水性粉体と混合可能な液体状のプレポリマーであれば特に限定はない。このようなプレポリマーとしては、エポキシ樹脂系プレポリマー、ウレタン樹脂系プレポリマー、シリコン樹脂系プレポリマー等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂系プレポリマーは、硬化させたときの機械的強度に優れるため、めっき被膜から受ける応力による変形の度合いが少なく、好適である。
【0018】
混合工程において得られた粘性混合物は、シリコン樹脂等で形成された原型を基にし、そこに注がれ加熱や光照射等によって成形固化され、取り出されて母型とされる。こうして、母型の内部まで撥水性粉体が存在している粉体含有母型を形成することができる。
【0019】
また、本発明の多孔性電鋳の製造方法における母型形成工程として、
母型形成工程は、硬化剤により硬化可能なプレポリマーと、該硬化剤と、少なくとも表面が電気的に絶縁性を有する撥水性粉体と、を混合して粘性混合物とする混合工程と、該粘性混合物を原型に塗布する塗布工程と、該原型に塗布された該粘性混合物を固化させて母型を得る固化工程と、からなる母型形成工程を採用することもできる。
こうであれば、母型の内部まで撥水性粉体が存在している粉体含有母型を形成することができる。
【0020】
本発明の多孔性電鋳の製造方法では、電気めっき液の表面張力を28mN/m以上65mN/m以下に制御することが好ましい。電気めっき液の表面張力が65mN/m以下であれば、めっき被膜上で発生した水素ガスの気泡はめっき表面から脱離し易くなり、所望しない位置のめっき被膜上に水素ガスの気泡が付着することを防止することができる。また、電気めっき液の表面張力が28mN/m以上であれば、孔内に剥き出し状態で存在する撥水性粉体に付着した水素ガスが付着状態で維持されやすくなる。このため、孔の位置でめっき被膜に確実に貫通孔を形成することができる一方、その他の所望しない位置での貫通孔の形成を防止することができ、ひいては、貫通孔を設計通りに所望の位置に所望の密度・孔径の貫通孔を形成するということがさらに確実に可能となる。さらに好ましいのは、電気めっき液の表面張力を30mN/m以上45mN/m以下に制御することである。
【0021】
本発明の多孔性電鋳の製造方法では、前記めっき工程の途中で母型をめっき液から取出し、前記孔上に形成された貫通孔の内壁面に非導電性且つ疎水性の物質を塗布するか又は該貫通孔内に非導電性且つ疎水性の物質を充填する塗布・充填工程を少なくとも1回行うこととしてもよい。
多孔性電鋳の製造におけるめっき工程では、母型上に均等の厚さでめっき被膜が形成されるのではなく、角部や凸部のめっき被膜は必要以上に厚くなる。このため、めっき工程の途中で母型をめっき液から取出し、めっき被膜が必要以上に厚くなった角部や凸部のめっき被膜を削って薄くする工程が必要となる。厚くなった部分のめっき被膜を削って薄くした後、再びめっき工程を行った場合、孔に付着していた水素ガスの気泡が取れてしまっているので、孔周縁に再び水素ガス気泡が滞留するとは限らず、めっき被膜が孔上に形成された電鋳層の貫通孔を塞いでしまうおそれがあった。
めっき工程の途中で母型をめっき液から取出し、前記孔上に形成された貫通孔の内壁面に非導電性且つ疎水性の物質(例えば、塗料)を塗布するか又は該貫通孔内に非導電性且つ疎水性の物質を塗布又は充填する塗布・充填工程を少なくとも1回行えば、母型をめっき液から取出した際に、孔上に形成された貫通孔内に付着していた水素ガスの気泡が消失しても、再度めっきを行う段階で電鋳層の貫通孔周縁のめっき被膜から発生した水素ガス気泡が非導電性且つ疎水性の物質に付着し、めっき被膜が電鋳層の貫通孔内に侵入して塞いでしまうのを防止することができる。
非導電性且つ疎水性の物質は、例えば粘着性のシリコン樹脂のような可塑性を有するものを用いることもできる。このような可塑性を有するもので電鋳層の貫通孔を充填すれば、厚くめっきが付いた部分を研削する場合にも研削クズが電着層の貫通孔内を埋めてしまうことがなくなるため、研削によってこぶ状になっためっき表面を平滑にすることが可能となり、さらなるめっきの電着を防止するための粘着テープによるマスキングが行い易くなるという利点がある。
【0022】
また、非導電性且つ疎水性の物質には撥水性粉体が分散されているとしてもよい。こうであれば、水素ガスの気泡はさらに非導電性且つ疎水性の物質を塗布あるいは充填した箇所に付着し易くなり、めっき被膜が貫通孔に侵入して塞いでしまうのをさらに確実に防止することができる。