特許第6405180号(P6405180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405180
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】多孔性電鋳の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/08 20060101AFI20181004BHJP
   C25D 1/10 20060101ALI20181004BHJP
   C25D 1/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   C25D1/08
   C25D1/10
   C25D1/00 361
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-207736(P2014-207736)
(22)【出願日】2014年10月9日
(65)【公開番号】特開2016-74964(P2016-74964A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】512014751
【氏名又は名称】極東技研有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】北野 實
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−173668(JP,A)
【文献】 特開平05−263286(JP,A)
【文献】 特開2013−147695(JP,A)
【文献】 特開平06−192881(JP,A)
【文献】 特開平09−249987(JP,A)
【文献】 特開平05−156486(JP,A)
【文献】 特開平06−065777(JP,A)
【文献】 特開平06−033291(JP,A)
【文献】 特開平06−065779(JP,A)
【文献】 米国特許第05632878(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00−1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に絶縁性を有する撥水性粉体が少なくとも表面付近に含有されている粉体含有母型を形成する母型形成工程と、
該粉体含有母型の表面に導電性被膜を形成する導電性被膜形成工程と、
該導電性被膜の表面から該粉体含有母型に達する複数の孔を形成することにより、該孔内に撥水性粉体が剥き出しとなるようにする孔形成工程と、
該孔が形成された導電性被膜付母型を界面活性剤が添加された電気めっき液中で電気めっきを行い多孔性めっき被膜を形成するめっき工程と、
を備えた多孔性電鋳の製造方法。
【請求項2】
前記母型形成工程は、硬化剤により硬化可能なプレポリマーと、該硬化剤と、少なくとも表面が電気的に絶縁性を有する撥水性粉体と、を混合して粘性混合物とする混合工程と、該粘性混合物を成形固化させて母型を得る固化工程と、からなることを特徴とする請求項1に記載の多孔性電鋳の製造方法。
【請求項3】
前記母型形成工程は、硬化剤により硬化可能なプレポリマーと、該硬化剤と、少なくとも表面が電気的に絶縁性を有する撥水性粉体と、を混合して粘性混合物とする混合工程と、
該粘性混合物を原型に塗布する塗布工程と、
該原型に塗布された該粘性混合物を固化させて母型を得る固化工程と、からなることを特徴とする請求項1に記載の多孔性電鋳の製造方法。
【請求項4】
前記電気めっき液の表面張力が28mN/m以上65mN/m以下となるように前記界面活性剤が添加されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多孔性電鋳の製造方法。
【請求項5】
前記めっき工程の途中で母型をめっき液から取出し、前記孔上に形成された貫通孔の内壁面に非導電性且つ疎水性の物質を塗布するか又は該貫通孔内に非導電性且つ疎水性の物質を塗布又は充填する塗布・充填工程を少なくとも1回行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多孔性電鋳の製造方法。
【請求項6】
前記非導電性且つ疎水性の物質には撥水性粉体が分散されていることを特徴とする請求項5記載の多孔性電鋳の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成形やブロー成形等の金型として好適に用いることのできる多孔性電鋳の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電鋳金型は、母型の凹凸を精密に写し取ることができるため、例えば、皮革製品を模したシボ面等を再現するような、精密なプラスチック成型品に用いられている。電鋳金型の中でも電鋳の厚さ方向に貫通する多くの孔が開けられた多孔性電鋳金型は、成形加工時に成形用材料であるパリソンあるいは加熱したシートから発生するガスを抜いたり、型内の空気を抜いたりすることによって、金型表面を正確に転写することができるため、プラスチックのブロー成形、真空成形等の金型に好適に用いることができる。特に、成形品が急峻な凸部を有する場合、換言すれば、その成形品を製造する金型が深い凹部を有している場合には、吸引のための多数の貫通孔が必須となる。
【0003】
従来、多孔性電鋳の製造方法として、導電性被膜を形成した母型の表面にドリル等によって数多くの有底の孔を設けてから電鋳を行うという方法が開発されている(特許文献1)。この方法では、孔を設けることによって導電性被膜が削り取られるため、孔内においてめっき層が形成されない。また、孔周縁のめっき層に電流が集中し、めっき時に電着反応の副反応として水素ガスの気泡が発生し、この気泡が滞留することにより、めっき層が孔内に侵入することを防止することができる。その結果、母型側から反対側までに通ずる貫通孔を有する電鋳層が形成されることとなる。母型に設ける孔の位置や密度や孔径を制御することにより、電鋳層に形成される貫通孔の位置や密度や孔径を制御することができる。これによって、プラスチックのブロー成形や真空成形等の金型の用途に適した多孔性電鋳を製造することができる。
【0004】
また、他の多孔性電鋳の製造方法として、疎水性粉体を分散させた母型を作製し、この母型に対して、実質的に界面活性剤を含まないめっき液中でめっきを施すことにより、多孔性めっきとする方法がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−156486号公報
【特許文献2】特開2013−147695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の多孔性電鋳の製造方法では、水素ガス気泡の孔からの脱離を防止するために界面活性剤を添加しないめっき液を用いることから、孔以外の所望しない位置にも水素ガスが滞留し、貫通孔が生じるという問題があった。例えば、図11に示すように、多孔性電鋳100の端部101はフランジとして金属製の枠体102と溶接されて、真空金型に仕上げられている。端部101はとくにめっき中に電流が集中し易く、水素ガスの発生が多くなる。また、母型を配置し易くする等の理由から、端部101はめっき液中で水平に置かれることが多く、このため、水素ガス気泡が滞留しやすい(垂直に配置された場合には、下方の水素ガス気泡が脱離する際に上方の水素ガス気泡と合体して供に脱離していくために水素ガス気泡が滞留し難い)。結果的に、端部101に貫通孔が多く発生し、枠体102との溶接の強度が不十分になるという問題があった。なお、多孔性電鋳型でない通常の電鋳型のめっきにおいては、めっき面に水素ガス気泡の滞留を防止するため、めっき液に界面活性剤を添加して、水素ガス気泡による貫通孔の発生を防止している。
【0007】
さらに、電鋳型の製造においては使用時の熱分布等を均一にするために電鋳層の厚さを均一にする必要がある。しかしながら、電鋳では電気めっき技術を用いるために、母型の角部や凸部にはめっきが厚くつき、凹部のめっきは薄くなるという根本的な問題点がある。この問題への対応策として、めっき途中で液から母型全体を引き上げてめっきの付きすぎた部分を研削するとともに、その部分にさらにめっきが付くのを防止するために粘着テープによるマスキングを行う作業が必須とされている。この作業後に再びめっきを行う場合に、孔を起点にして水素ガス気泡が滞留することによって生じた貫通孔に再び水素ガス気泡が滞留するとは限らないため、めっきの侵入によって貫通孔が塞がれる場合があり問題となっていた。
【0008】
本発明はこのような現場における問題点に鑑みてなされたものであり、所望の位置に所望の密度及び孔径の貫通孔を設けることができるとともに、所望しない位置への貫通孔の生成を防止し、電鋳型に必要な強度を有する多孔性電鋳の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記課題を解決するため、次に示す3つの方策を採ることとした。すなわち、
(1)母型樹脂上の導電性被膜を貫き、母型樹脂に達する孔を設けることによって孔に水素ガスの気泡が付着・滞留し易くし、孔へのめっき被膜の侵入を防止する。
(2)従来の多孔性電鋳の製造においてはめっき液に添加されていなかった界面活性剤(ピット防止剤)を、あえて添加することによって、孔以外での水素ガスの気泡の付着を抑制し、所望しない位置に貫通孔が形成されるのを抑制する。
(3)母型樹脂に撥水性粉体を添加することによって、(1)で設けた孔内に撥水性粉体が剥き出しとなるようにし、孔に水素ガスの気泡が確実に滞留するようにする。
【0010】
すなわち、本発明の多孔性電鋳の製造方法は、電気的に絶縁性を有する撥水性粉体が少なくとも表面付近に含有されている粉体含有母型を形成する母型形成工程と、該粉体含有母型の表面に導電性被膜を形成する導電性被膜形成工程と、該導電性被膜の表面から該粉体含有母型に達する複数の孔を形成する孔形成工程と、該孔が形成された導電性被膜付母型を界面活性剤が添加された電気めっき液中で電気めっきを行い多孔性めっき被膜を形成するめっき工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の多孔性電鋳の製造方法では、まず母型形成工程として、電気的に絶縁性を有する撥水性粉体が少なくとも表面付近に含有されている粉体含有母型を形成する。ここで、「電気的に絶縁性を有する」とは、撥水性粉体自体が電気的絶縁性を有する材料からなる場合の他、撥水性粉体の表面のみが電気的に絶縁性を有するように処理されている場合も含む意味である。また、「撥水性粉体が少なくとも表面付近に含有されている」とは、母型の表面付近のみに撥水性粉体が存在している場合の他、母型の内部までは撥水性粉体が存在している場合も含む意味である。
撥水性粉体としては、少なくとも表面が電気的に絶縁性を有する撥水性粉体であって、めっき液に溶解したり、分解したりするものでなければ用いることができる。このような撥水性粉体としては、例えばポリエチレン粉体、PTFE等のフッ素樹脂粉体、シランカップリング剤等によって表面に疎水基が修飾された無機粉体(例えば疎水化シリカ、疎水化アルミナ等、疎水化チタニア等)等が挙げられる。
【0012】
そして、さらに導電性被膜形成工程において粉体含有母型の表面に導電性被膜が形成される。導電性被膜の形成には、例えば、銀イオンを還元性の薬剤で還元して銀薄膜を形成させる方法等を利用することができる。
【0013】
こうして導電性被膜形成工程が行われた後、導電性被膜の表面から粉体含有母型に達する複数の孔を形成する(孔形成工程)。これにより、孔内は母型の素材及び母型に含まれている撥水性粉体が剥き出しの状態となる。孔の形成にはドリル加工やレーザ加工を用いることができる。
【0014】
最後にめっき工程として、孔が形成された導電性被膜付母型を界面活性剤が添加されためっき液中で電気めっきを行う。電気めっきの種類は特に限定されず、例えば、ニッケル、鉄、コバルト、ニッケル−コバルト合金等が挙げられる。めっき工程において、孔以外の部分は導電性被膜が存在するために、めっき被膜が形成されるが、孔には導電性被膜が存在しないため、めっき被膜が形成されない。さらに、孔周縁のめっき被膜上では、めっき反応の副反応である水の電気分解反応によって水素ガスが発生し、それが成長して気泡となり、孔内に剥き出しとなっている撥水性粉体に付着する(なぜならば、気泡は疎水性であるため、撥水性樹脂に付着し易いからである)。そしてこの付着した気泡及び気泡が集まったより大きな気泡のために、孔周縁のめっき被膜が孔内に侵入することが阻止される。この様な状態でめっきが行われることによって、孔上にめっき被膜を貫通する孔が確実に形成される。
したがって、本発明の多孔性電鋳の製造方法によれば、孔を形成させた箇所に確実に貫通孔を有する多孔性電鋳を製造することができる。
【0015】
なお、電気めっき工程におけるめっき液に界面活性剤が添加されていることを要件としたのは次の理由による。
特許文献1における多孔性電鋳の製造方法では、めっき被膜の貫通孔が塞がるという上記問題点を解決するために、めっき液に界面活性剤をあえて加えないでめっきを行うこととしている。めっき液に界面活性剤を加えない場合、めっきの副反応として発生した水素ガスがめっき表面から脱離し難くなることから、図12に示すように、孔200周縁のめっき被膜201や導電性被膜202から発生した水素ガスが大きな気泡203に成長し、この気泡203によって孔200へのめっき被膜の侵入が防止されるからである
しかしながら、めっき液に界面活性剤を添加しない場合、水素ガスの気泡はめっき表面から脱離し難くなり、孔のみならず、めっき被膜全体に付着し易くなる。このため、孔を設けた位置だけでなく、それ以外のめっき被膜表面にも水素ガス気泡が付着し、結果として所望しない位置にも貫通孔が形成されてしまうおそれがある。
こうした二律背反の問題を解決するため、本発明の多孔性電鋳の製造方法では、電気めっき液には界面活性剤が添加されていることとしたのである。
すなわち、本発明では、電気めっき液に界面活性剤が添加されているが、孔内の表面には母型に混合した撥水性粒子が剥き出しにされているので、水素ガスは撥水性粒子に付着したまま脱離することはなく、孔へのめっき被膜の侵入は防止され、貫通孔が確実に形成される。(図7参照)また、導電性被膜上またはめっき被膜上の孔以外の位置で発生した水素ガスの気泡はめっき表面から脱離し易くなり、所望しない位置のめっき被膜に貫通孔の生じることを防止することができる。その結果、孔を設けた位置のみに選択的に貫通孔を生成させることができる。このため、多孔性電鋳を真空成形やブロー成形等の金型として利用する場合、貫通孔を設計通りに所望の個所に所望の密度で開けるということができ、より精密なプラスチック成型を行うことが可能となる。
【0016】
なお、本明細書において「界面活性剤が添加された」とは、界面活性剤の添加効果として、めっき被膜上に付着した水素ガスの気泡が脱離し易くなる効果を発揮できる程度の濃度で界面活性剤が添加された状態をいう。具体的には、界面活性剤が0.01g/L以上添加されていることが好ましく、さらに好ましくは0.05g/L以上、最も好ましいのは0.25g/L以上である。一方、界面活性剤の添加量の上限については、孔への水素ガス気泡の滞留を妨害しない範囲で添加することが許される。具体的には、10g/L以下が好ましくさらに好ましくは2g/L以下であり、最も好ましいのは1g/L以下である。
【0017】
本発明の多孔性電鋳の製造方法における母型形成工程として、硬化剤により硬化可能なプレポリマーと、該硬化剤と、少なくとも表面が電気的に絶縁性を有する撥水性粉体と、を混合して粘性混合物とする混合工程と、該粘性混合物を成形固化させて母型を得る固化工程と、からなる方法を用いることができる。
この方法ではまず混合工程として、プレポリマーと、硬化剤と、撥水性粉体とを混合して粘性混合物とする。プレポリマーとしては、硬化剤により硬化可能であって撥水性粉体と混合可能な液体状のプレポリマーであれば特に限定はない。このようなプレポリマーとしては、エポキシ樹脂系プレポリマー、ウレタン樹脂系プレポリマー、シリコン樹脂系プレポリマー等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂系プレポリマーは、硬化させたときの機械的強度に優れるため、めっき被膜から受ける応力による変形の度合いが少なく、好適である。
【0018】
混合工程において得られた粘性混合物は、シリコン樹脂等で形成された原型を基にし、そこに注がれ加熱や光照射等によって成形固化され、取り出されて母型とされる。こうして、母型の内部まで撥水性粉体が存在している粉体含有母型を形成することができる。
【0019】
また、本発明の多孔性電鋳の製造方法における母型形成工程として、
母型形成工程は、硬化剤により硬化可能なプレポリマーと、該硬化剤と、少なくとも表面が電気的に絶縁性を有する撥水性粉体と、を混合して粘性混合物とする混合工程と、該粘性混合物を原型に塗布する塗布工程と、該原型に塗布された該粘性混合物を固化させて母型を得る固化工程と、からなる母型形成工程を採用することもできる。
こうであれば、母型の内部まで撥水性粉体が存在している粉体含有母型を形成することができる。
【0020】
本発明の多孔性電鋳の製造方法では、電気めっき液の表面張力を28mN/m以上65mN/m以下に制御することが好ましい。電気めっき液の表面張力が65mN/m以下であれば、めっき被膜上で発生した水素ガスの気泡はめっき表面から脱離し易くなり、所望しない位置のめっき被膜上に水素ガスの気泡が付着することを防止することができる。また、電気めっき液の表面張力が28mN/m以上であれば、孔内に剥き出し状態で存在する撥水性粉体に付着した水素ガスが付着状態で維持されやすくなる。このため、孔の位置でめっき被膜に確実に貫通孔を形成することができる一方、その他の所望しない位置での貫通孔の形成を防止することができ、ひいては、貫通孔を設計通りに所望の位置に所望の密度・孔径の貫通孔を形成するということがさらに確実に可能となる。さらに好ましいのは、電気めっき液の表面張力を30mN/m以上45mN/m以下に制御することである。
【0021】
本発明の多孔性電鋳の製造方法では、前記めっき工程の途中で母型をめっき液から取出し、前記孔上に形成された貫通孔の内壁面に非導電性且つ疎水性の物質を塗布するか又は該貫通孔内に非導電性且つ疎水性の物質を充填する塗布・充填工程を少なくとも1回行うこととしてもよい。
多孔性電鋳の製造におけるめっき工程では、母型上に均等の厚さでめっき被膜が形成されるのではなく、角部や凸部のめっき被膜は必要以上に厚くなる。このため、めっき工程の途中で母型をめっき液から取出し、めっき被膜が必要以上に厚くなった角部や凸部のめっき被膜を削って薄くする工程が必要となる。厚くなった部分のめっき被膜を削って薄くした後、再びめっき工程を行った場合、孔に付着していた水素ガスの気泡が取れてしまっているので、孔周縁に再び水素ガス気泡が滞留するとは限らず、めっき被膜が孔上に形成された電鋳層の貫通孔を塞いでしまうおそれがあった。
めっき工程の途中で母型をめっき液から取出し、前記孔上に形成された貫通孔の内壁面に非導電性且つ疎水性の物質(例えば、塗料)を塗布するか又は該貫通孔内に非導電性且つ疎水性の物質を塗布又は充填する塗布・充填工程を少なくとも1回行えば、母型をめっき液から取出した際に、孔上に形成された貫通孔内に付着していた水素ガスの気泡が消失しても、再度めっきを行う段階で電鋳層の貫通孔周縁のめっき被膜から発生した水素ガス気泡が非導電性且つ疎水性の物質に付着し、めっき被膜が電鋳層の貫通孔内に侵入して塞いでしまうのを防止することができる。
非導電性且つ疎水性の物質は、例えば粘着性のシリコン樹脂のような可塑性を有するものを用いることもできる。このような可塑性を有するもので電鋳層の貫通孔を充填すれば、厚くめっきが付いた部分を研削する場合にも研削クズが電着層の貫通孔内を埋めてしまうことがなくなるため、研削によってこぶ状になっためっき表面を平滑にすることが可能となり、さらなるめっきの電着を防止するための粘着テープによるマスキングが行い易くなるという利点がある。
【0022】
また、非導電性且つ疎水性の物質には撥水性粉体が分散されているとしてもよい。こうであれば、水素ガスの気泡はさらに非導電性且つ疎水性の物質を塗布あるいは充填した箇所に付着し易くなり、めっき被膜が貫通孔に侵入して塞いでしまうのをさらに確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1の多孔性電鋳の製造方法の工程図である。
図2】シリコンゴム原型の作製工程を示す斜視図である。
図3】シリコンゴム原型の斜視図ある。
図4】エポキシ母型の作製工程を示す斜視図である。
図5】エポキシ母型の斜視図である。
図6】実施例1の多孔性電鋳の製造工程を示した模式断面図である。
図7】めっき工程における孔9付近の模式断面図である。
図8】実施例2の多孔性電鋳の製造方法の工程図である。
図9】実施例2の多孔性電鋳の製造工程を示した模式断面図である。
図10】比較例1の多孔性電鋳の製造工程を示した模式断面図である。
図11】電鋳殻に枠材や補強材を取り付けた状態を示した模式断面図である。
図12】水素ガスの気泡によって孔へのめっき被膜の侵入が防止されることを示す、めっき中における孔部分の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を工程図(図1)にしたがって説明する。
(実施例1)
・シリコンゴム原型の作製(原型形成工程S0)
図2に示すように、四角容器2の底にシボ面が上側にくるように皮革1を貼り付けた。そして、シリコンゴムプレポリマー3を注いでから、電気加熱器内で加熱を行った後、取り出して自然放冷し、硬化した板状のシリコンゴム原型4を取り出した(図3参照)。
【0025】
・エポキシ母型の作製(混合工程S1及び母型形成工程S2)
ポリテトラフルオロエチレン粉体(1〜30g)と硬化剤とエポキシプレポリマーとをよく混合したエポキシプレポリマー組成物6(300〜1000g)を調整する。そして、シリコンゴム原型4を、図4に示すように、転写されたシボ面が上側にくるようにして四角容器5の底に貼り付け、エポキシプレポリマー組成物6(300〜1000g)を流し込んだ。ここで、ポリテトラフルオロエチレン粉体が撥水性粉体である。
【0026】
そして、電気加熱器内で加熱を行なった後、取り出して放冷してからシリコンゴム原型4を剥がすことにより、図6(a)に示すように、エポキシ基材7aに多くのポリテトラフルオロエチレン粉体7bが分散されたエポキシ母型7(図5参照)を得た。
【0027】
・銀鏡反応による導電性被膜形成(導電性被膜形成工程S3)
さらに、上記のようにして得たエポキシ母型7の表面に銀鏡液及び還元液を同時にスプレーすることにより、図6(b)に示すように、銀鏡膜8を形成させた。ここで銀鏡膜8が導電性被膜である。
【0028】
・孔形成工程S4
さらに、図6(c)に示すように、ドリルによって銀鏡膜8が施された面に直径0.05〜0.3mmφ、深さ0.5〜2mmの孔9を縦横0.3〜1cm間隔に均等に設けた。
【0029】
・スルファミン酸浴による電鋳被膜の形成(めっき工程S5)
こうして孔9が形成された銀鏡膜8付エポキシ母型7に対し、めっき工程として下記スルファミン酸浴による多孔性ニッケルめっき被膜の形成を行った。電流密度は0.5〜2.0A/dm2で電解を行った。浴のPHは3.0〜4.0、浴温度は40〜50°Cとした。
スルファミン酸浴組成:
スルファミン酸ニッケル 300〜350g/L
塩化ニッケル 5〜10g/L
ホウ酸 30〜40g/L
界面活性剤 5.0mL/L
(界面活性剤として(株)ムラタ製のピット防止剤(10重量%の界面活
性剤含有)を使用した。)
めっき液の表面張力:34mN/m
なお、めっき液の表面張力は液滴法によって測定した。すなわち、ビュレットから一定体積の試料及び純水が滴下するときの滴数を数え,それらの滴数及び試料及び純水の比重から、次式によって試料の表面張力を求めた。
【数1】
【0030】
このめっき工程では、図7(a)に示すように、導電性を有する銀鏡膜8上でニッケルが析出し、時間とともにニッケルめっき被膜10が厚くなる。一方、孔9の表面は導電性を有しないためニッケルは析出しない。さらに、ニッケルめっき被膜10のうち孔9の周縁では電流密度が大きくなるため、副反応である水の電気分解によって水素ガスが発生し、それが成長して気泡11となる。気泡11は疎水性であるため、孔9内に剥き出しとなっている撥水性のポリテトラフルオロエチレン粒子7bに強固に付着して、時間の経過とともに大きくなり、孔9を封鎖する(図7(b)参照)。そして、この付着した気泡11のため、孔9周縁のめっき被膜10が、孔9内に侵入することが阻止され、孔9上に、めっき被膜10の母型側から反対面側に達する貫通孔12が確実に形成される。(図6(d)参照)
【0031】
・電鋳層の取り出し(剥離工程S6)
めっき工程終了後、図6(d)に示す、貫通孔12を有するニッケルめっき被膜10が形成されたエポキシ母型7を引き上げ、水洗し、エポキシ母型7からニッケルめっき被膜10を剥がし、さらに水洗し、乾燥する。こうして、シボ面を有する目的の多孔性電鋳(図6(e)参照)を得た。この多孔性電鋳の一面側をLED光源で照らし、他面側から肉眼観察することにより、孔9に相当する部分から光が観測された。このことから、孔9に相当する部分には貫通孔12が形成されていることが分かった。以上のように、実施例1の多孔性電鋳の製造方法によれば、孔9を形成させた箇所に確実に貫通孔12が存在する多孔性電鋳を製造することができる。孔9はドリルやレーザ加工によって所望の位置に所望の径及び所望の密度で形成することができるため、ひいては、所望の位置に所望の径及び所望の密度で貫通孔12を形成することができる。
【0032】
(実施例2)
実施例2では、図8に示すように、めっき工程S51終了後に、エポキシ母型をめっき液から引上げ、水洗し、乾燥後、孔の位置に生じた電鋳層の貫通孔12内に微細ノズルの付いた治具を用いてシリコーン粘着剤12aを充填した(充填工程S52、図9(b)参照)。この後、めっきの厚く付いた部分を規定厚さまで研削した(研削工程S53)。さらに、研削部及び規定めっき厚さまでめっきの着いた部分に粘着テープによるマスキングを行って(マスキング工程S54)、再度、めっき液中に入れてめっきを行った。以上の工程S51〜S54を5回繰り返した。その他の工程については実施例1と同様であり、同一の工程には同一の符号を付して説明を省略する。
【0033】
(比較例1)
比較例1では、充填工程S52を行わず、その他については実施例2と同様にめっき途中でめっきを中断し、再びめっきを行った。
【0034】
実施例2では、めっき工程S5の途中でエポキシ母型上に形成されためっき被膜の厚い部分を削るため、多孔性電鋳の形状を金型として使用しやすいように整えることができる。また、ニッケルめっき被膜10の貫通孔12内にはシリコーン粘着剤12aが入っているためにめっき被膜が孔内を塞ぐということもない。さらには、ニッケル粉等の研削クズが孔内に入ることもない。また、めっきが中断されるにもかかわらず、再びめっきした時、図9(c)に示すように、電流が集中する貫通孔12周縁で水素ガスが発生し、気泡12bとなってシリコーン粘着剤12aに付着する。このため、ニッケルめっき被膜10の貫通孔12側への成長が阻止され、貫通孔12の径が狭くなるおそれもない(図9(d)参照)。
【0035】
これに対して、比較例1では、めっきを中断し、めっきを再開した時、図10(a)に示すように、めっきの副反応で発生した水素ガスは界面活性剤のためにめっき被膜に付着し難くない場合もあり、孔上のニッケルめっき被膜10から脱離した箇所では、図10bに示すように部分的に、ニッケルめっき被膜10が貫通孔12側へ成長し、貫通孔12の径が狭くなるった(図10(b)参照)。
【0036】
実施例3-1〜3-4及び比較例2
電鋳めっき液へ界面活性剤を添加した場合の効果を調べるため、次の試験を行った。
エポキシ樹脂プレポリマーにフッ素樹脂粒子(旭硝子製、品番L169E)を10重量%添加して混合し、さらに硬化剤を添加して混合して、フッ素樹脂粒子含有のエポキシ塗料とした。このエポキシ塗料をエポキシ板からなる原型の表面に数ミリ厚さで塗布し、加熱硬化した(縦幅30cm×横幅18cm×厚さ2cm)。この試験片に銀鏡液及び還元液を同時にスプレーすることにより銀鏡被膜を形成した後、6×15cmの大きさに切断し、各試験片の銀鏡被膜面以外の面(すなわち、側面及び裏面)に被覆テープを貼着してマスキングした。さらに銀鏡被膜面に径0.18mmのドリルを用いて深さ約1mmの有底孔を約7mm間隔で均等に設けた。さらに、試験片の端部に7mm径の有底穴を1個あけ、プラスチックボルトとプラスチックナットで陰極端子を銀鏡面に圧着させて通電用の端子とした。
【0037】
電鋳用のめっき液は、界面活性剤の濃度以外は実施例1で用いためっき液と同じ組成のものを用いた。界面活性剤としては(株)ムラタ製のピット防止剤を用い、めっき液に所定量(実施例3-1では2.5mL/L、実施例3-2では5.0mL/L、実施例3-3では7.5mL/L、実施例3-4では10.0mL/L)を添加し、試験用めっき槽(内寸16.5×29×液深さ12cm)に入れてめっきを行った。なお、比較例2では界面活性剤を添加せず、同様の操作を行った。また、めっき時の試験片の配置は、試験片の15cmの辺を下にしてめっき液中に垂直から30度傾斜させて(すなわち、水平から60度起こした角度として)設置し、試験片の両側にNi陽極を垂直に配置してめっきを行った。めっきは電流密度を0.5A/dmとし、試験片面積0.9dmに必要な電流0.45Aを流した。
【0038】
<評 価>
上記のようにして24時間めっきを行った後、めっき被膜をエポキシ樹脂から剥がし、当初母型に開けた「ドリル孔の孔数」と、「ドリル孔上にできためっき層の貫通孔数」と、「ドリル孔上以外の場所に発生しためっき層の貫通孔数」を計測した。その結果、表1に示すように、界面活性剤を添加した実施例3−1〜3-4では、母型の孔上以外で生じた貫通孔数が6個以下と極めて少なく、意図しない箇所での貫通孔の発生をほぼ防止できることが分かった。これに対して、界面活性剤をめっき液に添加していない比較例2では、母型の孔上以外で生じた貫通孔数が42個と多く、意図しない箇所での貫通孔がかなり発生していることが分かった。また、実施例3-1〜3-4での比較から、界面活性剤の添加量が多くなるほど、母型の孔上以外で生じた貫通孔数が少なくなるが、母型に開けたドリル孔上での貫通孔の再現率が低下することが分かった。
【0039】
【表1】
【0040】
また、実施例3-1〜3-4及び比較例2で用いためっき液の界面張力を、液滴法により測定した。
【0041】
結果を表2に示す。この表2と上記表1の結果から、母型に開けたドリル孔上での貫通孔の再現率が高く、しかも母型の孔上以外に生じる貫通孔(所望以外の貫通孔)の数を少なくするためには、めっき液の表面張力を28mN/m以上65mN/m以下となるように界面活性剤の濃度を調整することが好ましく、更に好ましいのは30mN/m以上45mN/m以下となるように調整することであることが分かった。
【0042】
【表2】
【0043】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1…皮革、2…四角容器、3…シリコンゴムプレポリマー、4…シリコンゴム原型、5…四角容器、6…エポキシプレポリマー組成物(粘性混合物)、7b…ポリテトラフルオロエチレン粉体(撥水性粉体)、7…エポキシ母型(粉体含有母型)、8…銀鏡膜(導電性被膜)、9…孔、10…多孔性めっき被膜、11…水素ガス気泡、12…貫通孔、12a…非導電性且つ疎水性の物質、100…多孔性電鋳、101…端部、102…枠体、200…孔、201…めっき被膜、202…導電性被膜、203…気泡
S0…原型形成工程、S1…混合工程、S2…母型形成工程、S3…導電性被膜形成工程、S4…孔形成工程、S5、S51…めっき工程、S52…充填工程(塗布・充填工程)、S53…研削工程、S54…マスキング工程、
S6…剥離工程
図1
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