(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記校正用データを得る工程では、前記スタイラスによる測定値を補正するモデル式のパラメータを、前記第1基準測定値の前記モデル式による補正値と前記設計データとの関係からフィッティングして第1パラメータを求め、
前記補正済み測定値を得る工程では、前記第1パラメータを適用した前記モデル式を用いて前記対象測定値を補正することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の測定値補正方法。
前記校正用データを得る手段では、前記スタイラスによる測定値を補正するモデル式のパラメータを、前記第1基準測定値の前記モデル式による補正値と前記設計データとの関係からフィッティングして第1パラメータを求め、
前記補正済み測定値を得る手段では、前記第1パラメータを適用した前記モデル式を用いて前記対象測定値を補正することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つに記載の測定値補正プログラム。
前記第1演算部は、前記スタイラスによる測定値を補正するモデル式のパラメータを、前記第1基準測定値の前記モデル式による補正値と前記設計データとの関係からフィッティングして第1パラメータを求め、
前記補正部は、前記第1パラメータを適用した前記モデル式を用いて前記対象測定値を補正することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1つに記載の測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、レンズなどを中心とした工業製品では、ワークの輪郭測定における高精度化の要求が高くなっている。例えば、非球面レンズの輪郭を測定する場合、設計値に対する形状誤差が数10nm以下、サグ量が測定装置のダイナミックレンジに匹敵するといった製品もある。このようなワークの輪郭測定を行うためには、測定装置において真球度の非常に高い基準球を用いた校正が必要になる。
【0006】
しかし、数10nmオーダーの製品評価に耐えうるためには、少なくとも数nmオーダーという高い精度を有する測定装置が必要である。そのような測定装置は長い測定時間を要するとともに、非常に高価で入手しにくい。また、高精度を維持するためのメンテナンスに手間を要し、製造ラインなどで常時使用することは現実的でない。
【0007】
本発明の目的は、測定値について最適な補正によって精度の高い測定結果を得ることができる測定値補正方法、測定値補正プログラム及び測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の測定値補正方法は、ワークの表面を測定装置のスタイラスでトレースして得られた測定値を補正する測定値補正方法であって、同じ設計データから作製された複数のワークを用意する工程と、複数のワークのうちの1つをマスターワークとして第1測定装置によって測定して第1基準測定値を得る工程と、第1基準測定値と設計データとの差に基づく校正用データを得る工程と、マスターワークを第1測定装置よりも測定精度の高い第2測定装置によって測定して第2基準測定値を得る行程と、校正用データを用いて第1基準測定値を補正した値と第2基準測定値との差である差分データを得る工程と、複数のワークのうちマスターワーク以外を測定対象ワークとして第1測定装置によって測定して対象測定値を得る工程と、校正用データを用いて対象測定値を補正した値から差分データを差し引いて補正済み測定値を得る工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、同じ設計データから作製された複数のワークのうちの1つをマスターワークとして基準測定値を得るため、マスターワークと同じ設計データから作製された測定対象ワークの形状に最適な校正用データを得ることができる。さらに、第1測定装置よりも測定精度の高い第2測定装置によってマスターワークを測定して、第1測定装置によるマスターワークの測定補正値との差分データを得るため、第1測定装置による誤差を除去して第2測定装置と同等な測定精度で測定を行うことができる。
【0010】
本発明の測定値補正方法において、スタイラスは、支点を中心として円弧運動するピボット式であってもよい。このような構成によれば、ピボット式のスタイラスの動作に適した校正用データを得ることができる。
【0011】
本発明の測定値補正方法において、ワークの表面は非球面であってもよい。このような構成によれば、非球面の測定に最適な校正用データを得ることができる。
【0012】
本発明の測定値補正方法において、校正用データを得る工程では、スタイラスによる測定値を補正するモデル式のパラメータを、第1基準測定値のモデル式による補正値と設計データとの関係からフィッティングして第1パラメータを求め、補正済み測定値を得る工程では、第1パラメータを適用したモデル式を用いて対象特定値を補正するようにしてもよい。
【0013】
このような構成によれば、スタイラスによる測定値を補正するモデル式に校正用データを含めることができ、モデル式を用いて対象測定値を補正することにより精度の高い補正済み測定値を得ることができる。
【0014】
本発明の測定値補正プログラムは、ワークの表面を測定装置のスタイラスでトレースして得られた測定値を補正する測定値補正プログラムであって、コンピュータを、同じ設計データから作製された複数のワークのうちの1つをマスターワークとして第1測定装置によって測定して得た第1基準測定値を取得する手段、第1基準測定値と設計データとの差に基づく校正用データを演算する手段、マスターワークを第1測定装置よりも測定精度の高い第2測定装置によって測定して得た第2基準測定値を取得する手段、校正用データを用いて第1基準測定値を補正した値と第2基準測定値との差である差分データを得る手段、複数のワークのうちマスターワーク以外を測定対象ワークとして第1測定装置によって測定して得た対象測定値を取得する手段、校正用データを用いて対象測定値を補正した値から差分データを差し引いて補正済み測定値を演算する手段、として機能させることを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、同じ設計データから作製された複数のワークのうちの1つをマスターワークとして基準測定値を得るため、マスターワークと同じ設計データから作製された測定対象ワークの形状に最適な校正用データをコンピュータによって演算することができる。さらに、第1測定装置よりも測定精度の高い第2測定装置によってマスターワークを測定して、第1測定装置によるマスターワークの測定補正値との差分データを得て、第1測定装置による誤差を除去して第2測定装置と同等な測定精度で測定を行うことができる。
【0016】
本発明の測定値補正プログラムにおいて、スタイラスは、支点を中心として円弧運動するピボット式であってもよい。このような構成によれば、ピボット式のスタイラスの動作に適した校正用データをコンピュータによって演算することができる。
【0017】
本発明の測定値補正プログラムにおいて、ワークの表面は非球面であってもよい。このような構成によれば、非球面の測定に最適な校正用データをコンピュータによって演算することができる。
【0018】
本発明の測定値補正プログラムにおいて、校正用データを得る手段では、スタイラスによる測定値を補正するモデル式のパラメータを、第1基準測定値の前記モデル式による補正値と設計データとの関係からフィッティングして第1パラメータを求め、補正済み測定値を得る手段では、第1パラメータを適用したモデル式を用いて対象補正値を補正するようにしてもよい。
【0019】
このような構成によれば、スタイラスによる測定値を補正するモデル式に校正用データを含めることができ、モデル式を用いて対象測定値を補正することにより精度の高い補正済み測定値をコンピュータによって得ることができる。
【0020】
本発明の測定装置は、ワークの表面をスタイラスでトレースして測定値を得る測定部と、校正用データを取得する校正用データ取得部と、測定部で得た測定値を校正用データで補正する補正部と、を備え、校正用データ取得部は、同じ設計データから作製された複数のワークのうちの1つをマスターワークとして第1測定装置によって測定した第1基準測定値を取得する第1基準値取得部と、マスターワークを第1測定装置よりも測定精度の高い第2測定装置によって測定した第2基準測定値を取得する第2基準値取得部と、第1基準測定値と設計データとの差に基づき校正用データを演算する第1演算部と、前記校正用データを用いて前記第1基準測定値を補正した値と前記第2基準測定値との差である差分データを演算する第2演算部と、を有し、補正部は、複数のワークのうちマスターワーク以外を測定対象ワークとして第1測定装置によって測定した対象測定値を校正用データを用いて補正し、補正後の値から差分データを差し引いて補正済み測定値を得ることを特徴とする。
【0021】
このような構成によれば、同じ設計データから作製された複数のワークのうちの1つをマスターワークとして基準測定値を得るため、マスターワークと同じ設計データから作製された測定対象ワークの形状に最適な校正用データを得ることができる。さらに、第1測定装置よりも測定精度の高い第2測定装置によってマスターワークを測定して、第1測定装置によるマスターワークの測定補正値との差分データを得るため、第1測定装置による誤差を除去して第2測定装置と同等な測定精度で測定を行うことができる。
【0022】
本発明の測定装置において、スタイラスは、支点を中心として円弧運動するピボット式であってもよい。このような構成によれば、ピボット式のスタイラスの動作に適した校正データを得ることができる。
【0023】
本発明の測定装置において、ワークの表面は非球面であってもよい。このような構成によれば、非球面の測定に最適な校正用データを得ることができる。
【0024】
本発明の測定装置において、第1演算部は、スタイラスによる測定値を補正するモデル式のパラメータを、第1基準測定値のモデル式による補正値と設計データとの関係からフィッティングして第1パラメータを求め、補正部は、第1パラメータを適用したモデル式を用いて対象測定値を補正するようにしてもよい。
【0025】
このような構成によれば、スタイラスによる測定値を補正するモデル式に校正用データを含めることができ、モデル式を用いて対象測定値を補正することにより精度の高い補正済み測定値を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0028】
〔測定装置〕
図1(a)及び(b)は、本実施形態に係る測定装置の構成を例示する模式図である。
図1(a)には測定装置1の構成図が表され、
図1(b)にはコンピュータ30のブロック図が表される。
【0029】
図1(a)に表したように、本実施形態に係る測定装置1は、測定の対象物であるワークWの表面をスタイラス10でトレースしてワークWの表面の位置(高さ)を測定する装置である。測定装置1は、スタイラス10と、検出部20と、コンピュータ30とを備える。ワークWはステージST上に配置される。ワークWとスタイラス10とは相対的に一方向に移動可能に設けられる。この相対的な移動によって、スタイラス10がワークWの表面をトレースすることになる。本実施形態では、ワークWとスタイラス10との相対的な移動方向をX軸方向とする。また、X軸と直交する方向(ステージSTの基準面と直交する方向)をZ軸方向とする。測定装置1では、ワークWはステージSTに固定され、スタイラス10がX軸方向に移動する。
【0030】
スタイラス10は、所定の支点10aを中心として円弧運動するピボット式である。スタイラス10の円弧運動は、XZ平面に沿って行われる。検出部20は、スタイラス10をX軸方向に移動させる駆動源となるモータ21と、スタイラス10のX軸方向の位置を検出するX軸検出部22と、スタイラス10のZ軸方向の位置を検出するZ軸検出部23とを有する。
【0031】
モータ21はコンピュータ30からの指示に応じて駆動機構(図示せず)に駆動力を与え、スタイラス10をX軸方向に移動させる。X軸検出部22は、測定の際にX軸方向に移動するスタイラス10のX軸に沿った位置を検出してコンピュータ30へ送る。スタイラス10の先端には測定子11が設けられる。スタイラス10をX軸方向に移動させることで測定子11がワークWの表面と接触しながら進んでいくことになる。
【0032】
Z軸検出部23は、測定の際にワークWの表面形状に追従して円弧運動するスタイラス10のZ軸に沿った位置を検出してコンピュータ30へ送る。このような構成により、測定装置1では、スタイラス10のX軸に沿った位置に対応し、ワークWの表面に接触する測定子11のトレースラインに沿った高さ(Z軸方向の位置)を得ることができる。これにより、トレースラインに沿ったワークWの表面形状が得られる。また、例えばステージSTをY軸方向(X軸方向及びZ軸方向と直交する方向)に移動させて同様な測定を行うことで、ワークWの表面の3次元形状を得ることもできる。
【0033】
図1(b)に表したように、コンピュータ30は、CPU(Central Processing Unit)31、インタフェース32a〜32c、出力部33、入力部34、主記憶部35及び副記憶部36を備える。
【0034】
CPU31は、各種プログラムの実行によって各部を制御する。インタフェース32a〜32cは、検出部20との情報入出力を行う部分である。本実施形態では、インタフェース32aを介して検出部20のZ軸検出部23からの検出情報を取り込む。また、インタフェース32bを介して検出部20のモータ21へ指示を与える。また、インタフェース32cを介して検出部20のX軸検出部22からの検出情報を取り込む。なお、図示しないインタフェースを介してコンピュータ30をLAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)に接続してもよい。
【0035】
出力部33は、コンピュータ30で処理した結果を出力する部分である。出力部33としては、例えば、図示しないディスプレイやプリンタが用いられる。入力部34は、オペレータから情報を受け付ける部分である。入力部34には、例えば、図示しないキーボード、ジョイスティック及びマウスが用いられる。また、入力部34は、記録媒体MMに記録された情報を読み取る機能を含む。
【0036】
主記憶部35には、例えばRAM(Random Access Memory)が用いられる。主記憶部35の一部として、副記憶部36の一部が用いられてもよい。副記憶部36には、例えばHDD(Hard disk drive)やSSD(Solid State Drive)が用いられる。副記憶部36は、ネットワークを介して接続された外部記憶装置であってもよい。
【0037】
図2は、本実施形態に係る測定装置の機能ブロック図である。
測定装置1の機能ブロックとしては、測定部110、校正用データ取得部120、補正部130、出力部140及び制御部150を備える。このうち、測定部110は、モータ制御部111と検出制御部112とを有する。また、校正用データ取得部120は、第1基準値取得部1211、第2基準値取得部1212、第1演算部1221及び第2演算部1222を有する。
【0038】
測定部110のモータ制御部111は、モータ21の回転を制御するための指示を与える。検出制御部112は、X軸検出部22及びZ軸検出部23を制御して、これらから送られるX軸の座標値及びZ軸の座標値(測定値)を取得する。
【0039】
校正用データ取得部120は、測定部110で取得した測定値を補正するための校正用データを取得する部分である。校正用データ取得部120の第1基準値取得部1211は、同じ設計データから作製された複数のワークWのうちの1つをマスターワークとして、このマスターワークの表面をスタイラス10によって測定した第1基準測定値を取得する。校正用データ取得部120の第2基準値取得部1212は、先と同じマスターワークの表面を別な測定装置によって測定した第2基準測定値を取得する。ここで、別な測定装置としては、本実施形態に係る測定装置1よりも高い測定精度を有し、既に校正されたものが用いられる。
【0040】
校正用データ取得部120の第1演算部1221は、第1基準値取得部1211で取得した第1基準測定値と設計データとの差に基づき校正用データを演算する。第2演算部1222は、第1演算部1221で演算した校正用データを用いて第1基準測定値を補正した値と第2基準値取得部1212で取得した第2基準測定値との差である差分データを演算する。
【0041】
補正部130は、測定部110で取得した測定値を、第1演算部1221で演算して得た校正用データによって補正し、補正後の値から第2演算部1222で演算した差分データを差し引いて補正済み測定値を演算する部分である。
【0042】
出力部140は、測定結果を出力する部分である。制御部150は、測定部110、校正用データ取得部120、補正部130及び出力部140を制御する部分である。
【0043】
このような機能ブロックを備えた測定装置1では、ワークWの表面の測定値を校正用データで補正して、誤差を抑制した測定結果を得ることができる。特に、同じ設計データから作製された複数のワークWのうちの1つをマスターワークとして基準測定値を得るため、マスターワークと同じ設計データから作製された他のワークWの形状に最適な校正用データを得ることができる。さらに、本実施形態に係る測定装置1よりも測定精度の高い別な測定装置によってマスターワークを測定して、測定装置1によるマスターワークの測定補正との差分データを得るため、測定装置1による誤差を除去して精度の高い別な測定装置と同等な測定精度で測定を行うことができるようになる。
【0044】
〔測定値補正方法〕
次に、校正用データの取得を含めた測定値の補正方法について説明する。
なお、ここでは測定装置1を用いて測定値を補正する方法を例として説明する。
先ず、
図3(a)に表したように、同じ設計データDTから作製された複数のワークW1,W2,W3,…,Wnを用意する。次に、作製された複数のワークW1,W2,W3,…,Wnのうちの1つをマスターワークとする。ここでは、一例としてワークW1をマスターワークとする。そして、測定装置1の測定部110によってマスターワークの表面の測定し、第1基準測定値を取得する。第1基準測定値は、第1基準値取得部1211によって取得される。
【0045】
次に、第1基準測定値と設計データDTとの差に基づき校正用データを取得する。校正用データは、校正用データ取得部120の第1演算部1221によって演算される。
図3(b)には、設計データDTと、マスターワークの測定値MDとの差を例示する図である。
図3(b)の横軸はX軸方向の座標、縦軸はZ軸方向の座標である。マスターワークの測定値MDは、複数のX軸座標のそれぞれに対応したZ軸座標として取得される。第1演算部1221は、各測定値MDのZ軸座標の値と、その測定値MDと対応する設計データDTのZ軸座標との差を求め、例えば最小二乗法によってモデル関数のパラメータを演算する。このモデル関数のパラメータが校正用データとなる。
【0046】
次に、測定装置1よりも測定精度の高い別な測定装置によって先と同じマスターワークの表面の測定し、第2基準測定値を取得する。第2基準測定値は、第2基準値取得部1212によって取得される。なお、別な測定装置によるマスターワークの測定は1度行えばよい。
【0047】
次に、校正用データを用いて第1基準測定値を補正した値と第2基準測定値との差である差分データを得る。差分データは、校正用データ取得部120の第2演算部1222によって演算される。差分データは、測定装置1と、これよりも測定精度の高い他の測定装置との測定誤差を含む。
【0048】
次に、測定部110によって複数のワークW1,W2,W3,…,Wnのうちのマスターワーク以外のワークW2,W3,…,Wnを測定対象ワークとして、スタイラス10により測定対象ワークの測定値(対象測定値)を取得する。
【0049】
次に、補正部130によって、対象測定値を校正用データを用いて補正する。すなわち、対象測定値のZ軸方向の座標値から先に求めたパラメータを適用したモデル関数によって補正後の測定値を求める。さらに、補正後の測定値から差分データを差し引いて補正済み測定値を得る。この補正済み測定値が測定装置1の測定結果となる。このような測定値補正方法では、同じ設計データDTから作製されたマスターワークによって求めた校正用データによって補正して求められたものであるため、測定対象ワークの形状に最適な校正用データによって精度の高い測定結果となる。さらに、校正用データを用いて対象測定値を補正した後、差分データによって補正すれば、測定装置1による測定値であっても測定精度の高い別な測定装置で測定したものと同等な精度を有する測定結果を得ることができる。
【0050】
ここで、ワークWの設計データDTが例えば球面である場合には、その設計データDTから作製された複数のワークW1,W2,W3,…,Wnのちの1つをマスターワークとして校正用データ及びを取得し、同じ設計データDTから作製されたマスターワーク以外の測定対象ワークの測定値を校正用データで補正する。測定対象ワークとマスターワークとは同じ設計データDTから作製されているため、そのマスターワークから求めた校正用データは、同じ設計データDTから作製された測定対象ワークについても最適な校正用データとなる。
【0051】
さらに、測定装置1よりも測定精度の高い別な測定装置によって第2基準測定値を得て、測定装置1の補正測定値との差分データを得るため、測定装置1による誤差を除去することができ、測定装置1であっても別な測定装置と同等な測定精度で測定を行うことができるようになる。
【0052】
本実施形態では、設計データDTが非球面の場合に特に有効である。すなわち、設計データDTが非球面の場合、校正用データ及び差分データを取得するため、一般的には精度の高い球面マスターワークを用いる。しかし、精度の高い球面マスターワークを用意することは難しい。この点、本実施形態では、同じ非球面の設計データDTから作製された複数のワークW1,W2,W3,…,Wnのちの1つをマスターワークとして用いるため、別途、精度の高い球面マスターワークを用意する必要はない。また、同じ非球面の設計データDTから作製された複数のワークW1,W2,W3,…,Wnのちの1つをマスターワークとして校正用データ及び差分データを取得するため、測定対象ワークに最適な校正用データ及び差分データによる補正によって精度の高い測定結果を得ることが可能になる。
【0053】
なお、同じ非球面の設計データDTから作製された複数のワークW1,W2,W3,…,Wnからマスターワークを選択する場合、複数のワークW1,W2,W3,…,Wnのうち最も設計データDTとの誤差の少ないものをマスターワークにすることが望ましい。これによって、より精度の高い補正を行うことが可能になる。
【0054】
〔ピボット式スタイラス〕
ここで、ピボット式のスタイラス10を用いた測定装置1における具体的な校正用データの取得について説明する。
図4は、ピボット式のスタイラスのピックアップ機構を幾何的に表した図である。
ピボット式のスタイラス10を用いたピックアップ機構では、スタイラス10の円弧運動を考慮して測定値を校正する必要がある。
【0055】
ピボット式のスタイラス10のピックアップ機構を用いて得られる測定データのX軸方向の座標及びZ軸方向の座標を(x
m,z
m)とすると、正しい測定位置(x
r,z
r)は以下の数1、数2によって求められる。
【0058】
数1及び数2において、gはゲイン係数、lはスタイラス10の支点10aからアーム先端までの長さ(アーム長)、hはスタイラス10のアーム先端から測定子11までの長さ(エッジ長)である(
図4参照)。
【0059】
本具体例では、上記数1及び数2をモデル式として、このゲイン係数g、アーム長l及びエッジ長hをパラメータとし、基準測定値のモデル式による補正値と設計データDTとの関係からパラメータのフィッティングを行う。
【0060】
すなわち、先ず、ピボット式のスタイラス10によってマスターワークの表面を測定し、基準測定値(x
km,z
km)を得る。ここで、k=1,2,…,nである。次に、基準測定値(x
km,z
km)を、上記数1及び数2により補正する。そして、補正によって得られた補正値と、設計データDTとをX軸方向に位置合わせ(ベストフィット)し、ベストフィット後の最短距離(または、Z軸方向の座標値の差)を評価量として照合誤差の例えば二乗和が最小になるように各パラメータ(ゲイン係数g、アーム長l及びエッジ長h)を推定する。
【0061】
各パラメータが推定された数1及び数2を用いて測定対象ワークの測定値を補正すれば、マスターワークの測定によって得られた校正用データを反映した補正済み測定値を得ることができる。このように、ピボット式のスタイラス10の円弧運動に基づくモデル式の各パラメータのフィッティングによってモデル式に校正用データを含めることができる。したがって、校正用データの取得に用いたマスターワークと同じ設計データDTで作製された測定対象ワークの測定値をモデル式で補正すれば、最適な校正用データによる補正を行うことが可能になる。
【0062】
なお、上記では説明を省略するが、スタイラス10の先端に設けられた測定子11の先端形状を含めた補正を行ってもよい。測定子11の先端形状に関する補正については、例えば特許第4372759号公報に記載された技術を適用すればよい。
【0063】
〔測定値補正プログラム〕
次に、測定値補正プログラムについて説明する。
上記説明した測定値補正方法は、コンピュータ30のCPU31によって実行される測定値補正プログラムによって実現してもよい。
図5及び
図6は、測定値補正プログラムを例示するフローチャートである。
先ず、
図5のステップS101に示すように、第1基準測定値の取得を行う。すなわち、コンピュータ30は、同じ設計データDTから作製された複数のワークW1,W2,W3,…,Wnのうちの1つをマスターワークとして、スタイラス10によって測定したマスターワークの測定値(第1基準測定値)を取得する処理を実行する。
【0064】
次に、ステップS102に示すように、校正用データの演算を行う。コンピュータ30は、先に取得した第1基準測定値とマスターワークの設計データDTとの差に基づく校正用データを演算する処理を実行する。この処理は、
図6に示すサブルーチンによって行われる。
【0065】
先ず、
図6のステップS201に示すように、第1パラメータの初期値を設定する処理を行う。例えば、上記数1及び数2をモデル式として、このゲイン係数g、アーム長l及びエッジ長hをパラメータとした場合、これらのパラメータ(第1パラメータ)についてスタイラス10の設計値に沿った幾何的な値を初期値として設定する。
【0066】
次に、ステップS202に示すように、第1基準測定値の補正を行う。すなわち、ステップS101で取得したマスターワークの測定値(第1基準測定値)を、上記数1及び数2によって補正して補正値を演算する。
【0067】
次に、ステップS203に示すように、補正値と設計データDTとの位置合わせを行う。この位置合わせでは、マスターワークによる第1基準測定値の補正値と設計データDTとのX軸方向の位置合わせ(ベストフィット)を行う。例えば、スタイラス10の測定子11の形状(球体など)によって、第1基準測定値のX軸方向の座標値を測定子11の形状に応じて補正する必要がある。この補正が位置合わせ(ベストフィット)である。
【0068】
次に、ステップS204に示すように、誤差照合を行う。誤差照合は、ベストフィット後の補正値と設計データDTとの最短距離(または、Z軸方向の座標値の差)を照合誤差としてもめる処理である。
【0069】
次に、ステップS205に示すように、第1パラメータの更新を行う。ここでは、先のステップS204で求めた照合誤差が小さくなるようにモデル式のパラメータ(第1パラメータ)を変更する処理を行う。例えば、上記数1及び数2をモデル式では、ゲイン係数g、アーム長l及びエッジ長hを調整する処理を行う。
【0070】
次に、ステップS206に示すように、照合誤差が最小であるか否かの判断を行う。すなわち、ステップS205で第1パラメータを調整した後、再度照合誤差を求める。そして、照合誤差が最小でない場合にはステップS202〜ステップS205の処理を繰り返す。照合誤差が最小であるか否かの判断は、例えば予め設定された範囲内に照合誤差が収まっているか否かで判断してもよい。照合誤差が最小になった場合には、ステップS207に示すように第1パラメータの決定を行う。
【0071】
次に、
図5のステップS103へ戻る。ステップS103では、第2基準測定値の取得を行う。ここでは、先と同じマスターワークを測定装置1よりも測定精度の高い別な測定装置によって測定して、第2基準測定値を得る。なお、既にマスターワークの測定が行われており、その測定結果がメモリに記憶されている場合や、別な測定装置によってマスターワークの測定を行いその測定結果がメモリに記憶されている場合には、メモリに記憶された測定結果を第2基準測定値として読み出してもよい。
【0072】
次に、ステップS104に示すように、差分データの演算を行う。コンピュータ30は、ステップS102で求めた校正用データを用いて第1基準測定値を補正した値と、ステップS103で求めた第2基準測定値との差である差分データを演算する処理を実行する。
【0073】
次に、ステップS105に示すように、対象測定値の取得を行う。すなわち、同じ設計データDTから作製された複数のワークW1,W2,W3,…,Wnのうちマスターワーク以外を測定対象ワークとして、この測定対象ワークの表面を測定装置1のスタイラス10によって測定した対象測定値を取得する処理を実行する。
【0074】
次に、ステップS106に示すように、対象測定値の補正を行う。ここでは、ステップS102で演算した校正用データ(第1パラメータ)を適用したモデル式によって対象測定値の補正するとともに、この補正した値からステップS104で求めた差分データを差し引いて補正済み測定値を演算する。
【0075】
このような測定値補正プログラムによれば、同じ設計データDTから作製された複数のワークW1,W2,W3,…,Wnのうちの1つをマスターワークとして校正用データを取得し、この校正用データをモデル式に反映させることができる。これにより、マスターワークと同じ設計データDTから作製された測定対象ワークの形状に最適な補正による測定結果をコンピュータ30によって演算することが可能になる。
【0076】
さらに、校正用データで補正した値から差分データを差し引いて補正済み測定値を得るため、測定精度の高い他の測定装置に対する測定装置1の誤差成分を除去することができ、測定装置1であっても精度の高い測定を行うことができるようになる。
【0077】
なお、測定値補正プログラムにおけるパラメータ(第1パラメータ)のフィッティングにおいて、複数のパラメータのうち位置精度に対する感度の低いパラメータをフィッティングの対象から除外してもよい。
【0078】
図7(a)〜(f)は、検出位置に対するパラメータの感度曲線を示す図で、(a)、(c)及び(e)はX軸方向の検出位置に対するパラメータの感度曲線、(b)、(d)及び(f)はZ軸方向の検出位置に対するパラメータの感度曲線である。
図7(a)にはゲイン係数gのX軸方向の座標変化(微分値)が示され、
図7(b)にはゲイン係数gのZ軸方向の座標変化(微分値)が示される。
図7(c)にはアーム長lのX軸方向の座標変化(微分値)が示され、
図7(d)にはアーム長lのZ軸方向の座標変化(微分値)が示される。
図7(e)にはエッジ長hのX軸方向の座標変化(微分値)が示され、
図7(f)にはエッジ長hのZ軸方向の座標変化(微分値)が示される。
【0079】
図7(a)〜(f)に表したパラメータの感度曲線を参照すると、ゲイン係数g、アーム長l及びエッジ長hのうちアーム長lの感度が最も低いことが分かる。したがって、パラメータをフィッティングする際にアーム長lを除外しても影響は少ないことになる。このように、感度の低いパラメータをフィッティングの対象から除外する(固定にする)ことで、パラメータの最適化処理にかかる収束時間を短くすることができる。
【0080】
なお、上記説明した測定値補正プログラムは、コンピュータ読取可能な記録媒体MMに記録されていてもよいし、ネットワークを介して配信されてもよい。
【0081】
以上説明したように、実施形態に係る測定値補正方法、測定値補正プログラム及び測定装置1によれば、測定値について最適な補正によって精度の高い測定結果を得ることが可能になる。
【0082】
なお、上記に本実施形態およびその具体例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、本実施形態ではピボット式のスタイラス10を用いた測定装置1や測定方法を例としたが、ピボット式以外のスタイラス10を用いた測定装置1や測定方法であっても適用可能である。補正のモデル式としては、スタイラス10の機構に合わせたものを用いればよい。また、前述の実施形態またはその具体例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。