(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405208
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】グレーズミックス
(51)【国際特許分類】
A23G 3/00 20060101AFI20181004BHJP
A21D 13/24 20170101ALI20181004BHJP
A21D 13/28 20170101ALI20181004BHJP
【FI】
A23G3/00
A21D13/24
A21D13/28
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-243956(P2014-243956)
(22)【出願日】2014年12月2日
(65)【公開番号】特開2015-142557(P2015-142557A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2017年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-268470(P2013-268470)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】矢代 浩之
(72)【発明者】
【氏名】柳下 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】片桐 さやか
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆行
(72)【発明者】
【氏名】横溝 英二
(72)【発明者】
【氏名】安楽城 功
【審査官】
松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−120510(JP,A)
【文献】
特開平04−316455(JP,A)
【文献】
特開平01−160446(JP,A)
【文献】
特開2010−178668(JP,A)
【文献】
特開2011−229446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 〜 17/00
A23G 1/00 〜 9/52
WPIDS/FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソマルツロースとゼラチンと砂糖とを含み、イソマルツロースの含有量が50〜95質量%、ゼラチンの含有量が0.002〜2質量%であるグレーズミックス。
【請求項2】
さらに、寒天を0.2〜3質量%含む請求項1記載のグレーズミックス。
【請求項3】
前記砂糖の含有量が49.008質量%以下である請求項1又は2記載のグレーズミックス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のグレーズミックスから調製されたグレーズ。
【請求項5】
請求項4記載のグレーズが付着したベーカリー食品。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載のグレーズミックスから調製されたグレーズをベーカリー食品に付着させることを含む、グレーズ付ベーカリー食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品用のグレーズミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
グレーズは、ドーナツやパンなどのベーカリー食品を被覆または飾り付けする糖衣であり、ベーカリー食品の外観に光沢や色を与えるとともに、ベーカリー食品の味付け効果を有する。さらに、グレーズにチョコレート、フルーツ、各種フレーバーなどを加えることによって、ベーカリー食品の味や外観に様々なバリエーションを与えることができる。しかし、グレーズを施されたベーカリー食品には、特に包装されて流通する場合、グレーズが経時的に吸湿することによって、べたつきや溶解(いわゆる「泣き」)が起こるという問題があった。
【0003】
従来、グレーズのべたつきや泣きを改善する方法として、イソマルツロースを主原料とし、さらに水飴と増粘多糖類を含む糖衣組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−120510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ベーカリー食品に施された後時間が経っても「泣き」やべたつきの生じにくいグレーズを製造するための、グレーズミックスを提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、イソマルツロースを主成分とし、これに所定量のゼラチンおよび砂糖を配合したグレーズミックスから得られたグレーズで、「泣き」やべたつきが低減することを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、イソマルツロースとゼラチンと砂糖とを含み、イソマルツロースの含有量が50〜95質量%、ゼラチンの含有量が0.002〜2質量%であるグレーズミックスを提供する。
また本発明は、上記グレーズミックスから調製されたグレーズを提供する。
さらに本発明は、上記グレーズが付着したベーカリー食品を提供する。
さらに本発明は、上記グレーズミックスから調製されたグレーズをベーカリー食品に付着させることを含む、グレーズ付ベーカリー食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のグレーズミックスから製造されるグレーズは、ベーカリー食品に施された後に時間が経過しても「泣き」やべたつきが生じにくい。したがって、本発明によれば、時間が経過しても外観が劣化することなく高品質を維持したグレーズ付ベーカリー食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のグレーズミックスは、イソマルツロースを主成分として含有する。イソマルツロースは、グルコースがフラクトースにα−1,6グルコシル結合することによって構成された二糖である。イソマルツロースは蜂蜜中に見出される他、細菌や酵母に由来するα−グルコシルトランスフェラーゼがスクロースに作用した場合に生ずる転移生産物中にも存在する。イソマルツロースは、パラチノース(登録商標)とも呼ばれ、三井製糖株式会社から販売されている。また、パラチノースの工業的生産方法は特公昭58−36959号公報に開示されている。
【0010】
本発明のグレーズミックスにおけるイソマルツロースの含有量は、全量中50〜95質量%、好ましくは70〜95質量%、より好ましくは75〜95質量%である。本発明のグレーズミックスにおいて、イソマルツロースの量が少ない場合、得られたグレーズに「泣き」やべたつきが生じ、一方、イソマルツロースの量が多いと、グレーズがホイップ状になるため実用に適さない。本明細書において、グレーズの「泣き」とは、固形化したグレーズが、それが適用されたベーカリー食品や空気中から水分を吸収することにより、その一部または全部が溶解することをいう。グレーズを施したベーカリー食品で「泣き」が生じると、食品がべたつき、またはグレーズが流れ落ちたり包装袋に付着したりして失われ、商品価値が低下する。
【0011】
本発明のグレーズミックスはまた、ゼラチンを含有する。本発明のグレーズミックスにおけるゼラチンの含有量は、全量中0.002〜2質量%、より好ましくは0.1〜1.5質量%、さらにより好ましくは0.5〜1.0質量%である。本発明のグレーズミックスにおいて、ゼラチンの量が少ないと得られたグレーズが光沢を失い、一方ゼラチンの量が多いとグレーズが剥がれやすくなり、いずれの場合も、グレーズを施したベーカリー食品の商品価値が低下する。
【0012】
さらに、本発明のグレーズミックスは、寒天を含んでいてもよい。本発明のグレーズミックスにゼラチンとともに寒天をさらに含有させると、グレーズの「泣き」やべたつきの防止効果がより向上するため好ましい。本発明のグレーズミックスにおける寒天の含有量は、全量中に好ましくは0.2〜3質量%、より好ましくは0.3〜1.5質量%、さらにより好ましくは0.5〜1質量%であり得る。寒天の添加量が多過ぎると、グレーズが剥がれやすくなる。
【0013】
本発明のグレーズミックスは、イソマルツロース還元物を含有していてもよい。イソマルツロース還元物としては、6−O−α−D−グルコピラノシル−D−ソルビトール(GPS)、1−O−α−D−グルコピラノシル−D−マンニトール(GPM)、およびそれらの混合物などが挙げられる。あるいは、イソマルツロース還元物としては、市販品、例えば、イソマルト、パラチニット(登録商標)GSP(三井製糖株式会社)などを使用することができる。本発明のグレーズミックスにおけるイソマルツロース還元物の含有量は、全量中に好ましくは0〜25質量%、より好ましくは1〜22質量%、さらにより好ましくは5〜20質量%であり得る。
【0014】
本発明のグレーズミックスはまた、ガム類、アルギン酸、ペクチン等の寒天以外の増粘多糖類やゼラチン以外の増粘性タンパク質;乳化剤;油脂;甘味料、香料、着色料等の添加剤、などのその他の成分をさらに含んでいてもよい。当該増粘多糖類と増粘性タンパク質は、合計でグレーズミックスの全量中に1質量%以下の量で含有されていればよい。乳化剤は、ベーカリー食品によるグレーズのはじきや結晶粒生成を抑制するために添加してもよい。油脂は、グレーズの風味付けや、滑らかさ向上のために添加してもよい。
【0015】
さらに、本発明のグレーズミックスは砂糖を含有する。砂糖としては、グラニュー糖、上白糖、三温糖、黒砂糖、きび糖、てんさい糖、メープルシュガー、オリゴ糖、粉末水あめ、などが挙げられる。本発明のグレーズミックスにおける砂糖の含有量は、グレーズミックスの全量中49.008質量%以下であればよいが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10%質量以下であり、一方で、好ましくは3質量%以上であればよいが、より好ましくは3.5質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上である。また好ましくは、本発明のグレーズミックスにおける砂糖の含有量は、3〜49.008質量%の範囲内で、上記イソマルツロース、ゼラチン、寒天、イソマルツロース還元物およびその他の成分の残部である。
【0016】
本発明のグレーズミックスは粉末、顆粒などの形態であり得る。このグレーズミックスと水を混合することで、本発明のグレーズを調製することができる。例えば、本発明のグレーズミックスを、40〜90℃、好ましくは60〜90℃の水と混合するか、または水と混合して40〜90℃、好ましくは60〜90℃に加温することで、本発明のグレーズを調製することができる。水の量は、流動状のグレーズが得られる量であれば特に限定されないが、例えば、本発明のグレーズミックス100質量部に対し、好ましくは15〜50質量部程度でよい。
【0017】
上記手順で本発明のグレーズミックスから調製されたグレーズは、本発明のグレーズミックスが水に分散または溶解した溶液、懸濁液またはスラリーの形態であり得る。この調製されたグレーズは、ベーカリー食品の被覆、上掛け、飾り付けなどに使用される。すなわち、本発明のグレーズミックスから調製されたグレーズをベーカリー食品に付着させることにより、グレーズ付ベーカリー食品を製造することができる。
【0018】
本明細書において、ベーカリー食品とは、穀粉を主原料とし、これに必要に応じてイーストや膨張剤(ベーキングパウダー等)、水、食塩、砂糖などの副材料を加えて得られた発酵または非発酵生地を、焼く、揚げる、蒸す等の加熱処理を行って得られる食品をいう。ベーカリー食品の例としては、ドーナツ、パン類、ケーキ類、ワッフル、シュー、ビスケット等の焼き菓子などが挙げられる。ドーナツとしては、イースト発酵生地から得られるイーストドーナツおよび非発酵生地から得られるケーキドーナツが挙げられ、その形状も特に限定されない。またドーナツには、揚げ、焼き、蒸しなどにより得られるドーナツが含まれる。パン類としては、食パン(例えばロールパン、白パン、黒パン、フランスパン、乾パン、コッペパン、クロワッサン等)、調理パン、菓子パン、蒸しパン等が挙げられる。ケーキ類としては、蒸しケーキ、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ等が挙げられる。
【0019】
グレーズ付ベーカリー食品を製造する場合、上記ベーカリー食品の表面の全部または一部に、流動状の本発明のグレーズを付着させればよい。例えば、上記ベーカリー食品の表面の全部または一部に、流動状の本発明のグレーズを被覆させるか、上掛けするか、または飾り付ければよい。グレーズを付着させる方法としては、塗布、浸漬、掛け流し、滴下、絞り出し等が挙げられるが、特に限定されない。ベーカリー食品に付着したグレーズは乾燥される。乾燥は、当業者により適宜行わればよいが、例えば、自然乾燥や、クーリングコンベアー等により行うことができる。
【0020】
グレーズには、チョコレート、ドライフルーツ、各種フレーバー、着色料などがさらに含まれていてもよい。これらを添加することにより、味や外観的な変化に富んだグレーズを得ることでき、さらにはグレーズ付ベーカリー食品のバリエーションや商品価値を高めることができる。
【0021】
上記手順で製造したグレーズ付ベーカリー食品は、冷凍することができる。冷凍は、通常の方法に従って、当業者により適宜行われてよい。例えば、冷凍は、ベーカリー食品にグレーズを付着させた後の乾燥と同時または乾燥後に行われ得る。冷凍したグレーズ付ベーカリー食品の解凍は、常温または低温、好ましくは低温の環境下で行われる。低温とは、0℃より上〜20℃、好ましくは5〜15℃、より好ましくは約10℃をいう。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
(試験1)
下記表1の配合に従ってグレーズミックスを調製した。調製したグレーズミックス100質量部に対して85℃の温水を23質量部加えて良く攪拌し、グレーズ液を製造した。
イースト生地を油でフライしてイーストドーナツを製造し、直ちにこれを上記で調製したグレーズ液中に浸漬させ、トレーに20分間放置して乾燥させ、グレーズドドーナツを得た。乾燥後、ドーナツを包装紙で包装して30℃にて保存し、24時間後に10名の評価者により、下記の基準にてグレーズの状態を評価した。評価結果の平均値を表1に示す。
【0024】
<評価基準>
5点:グレーズは白く乾いており、泣きは見られない。
4点:グレーズに白さは残っているが、やや湿り気があり泣きが見られる。グレーズが包装紙に一部付着している。
3点:グレーズに白さは残っているが、泣きがある。グレーズが全体的に包装紙に付着している。
2点:グレーズが泣いており、全体的に包装紙に付着している。
1点:グレーズが泣いており、滴り落ちている。
【0025】
【表1】
【0026】
(試験2)
下記表2の配合に従ってゼラチン添加量の異なるグレーズミックスを調製し、試験1と同様の手順でグレーズ液を製造した。さらに、表3の配合に従って、寒天の添加量の異なるグレーズミックスを調製し、グレーズ液を製造した。これらのグレーズ液を用いて、試験1と同様の手順でグレーズドドーナツを製造、保存し、評価した。評価結果を表2および表3に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】