特許第6405220号(P6405220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405220
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】精製油脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 3/16 20060101AFI20181004BHJP
   C11B 3/10 20060101ALI20181004BHJP
   C11C 3/10 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   C11B3/16
   C11B3/10
   C11C3/10
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-250747(P2014-250747)
(22)【出願日】2014年12月11日
(65)【公開番号】特開2015-134908(P2015-134908A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2017年9月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-262798(P2013-262798)
(32)【優先日】2013年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】唐須 幸子
(72)【発明者】
【氏名】仙田 良孝
(72)【発明者】
【氏名】片山 孝信
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−193990(JP,A)
【文献】 特開昭52−062313(JP,A)
【文献】 特表平01−501155(JP,A)
【文献】 特開平09−048993(JP,A)
【文献】 JOURNAL OF THE AMERICAN OIL CHEMISTS' SOCIETY,1983年,Vol.60, No.2,p.467
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B
C11C
A23D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)及び工程(2)を有する、精製油脂の製造方法。
工程(1):原料油脂、ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテル及び水を混合して油水分離を行う工程であって、該工程の混合を温度55℃以上、120℃以下で行う、工程
工程(2):工程(1)で得られた油脂に吸着処理を行う工程。
【請求項2】
ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルのHLBが13以上20以下である、請求項1に記載の精製油脂の製造方法。
【請求項3】
ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルが下記一般式(I)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の精製油脂の製造方法。
RO−(AO)−H (I)
[式中、Rは炭素数が8以上22以下の脂肪族炭化水素基、AOは炭素数が2以上4以下のアルキレンオキシ基、及びnはAOの平均付加モル数で10以上50以下の数である。]
【請求項4】
工程(1)において、原料油脂に予めポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルを混合し、その後に水と混合する、請求項1〜3のいずれかに記載の精製油脂の製造方法。
【請求項5】
予め混合するポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルが、ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルのみからなる、又は該ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルと水との混合物であり、該混合物中のポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルの濃度が10質量%以上100質量%未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の精製油脂の製造方法。
【請求項6】
工程(1)で混合するポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルの量が原料油脂100質量部に対して0.01質量部以上0.15質量部以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の精製油脂の製造方法。
【請求項7】
工程(1)で混合する水の量が原料油脂100質量部に対して1質量部以上100質量部以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の精製油脂の製造方法。
【請求項8】
工程(1)の混合を攪拌数1000rpm以下で行う、請求項1〜7のいずれかに記載の精製油脂の製造方法。
【請求項9】
工程(2)で、油脂と吸着剤を混合し吸着処理を行う、請求項1〜8のいずれかに記載の精製油脂の製造方法。
【請求項10】
下記工程(1)〜工程(3)を有する、エステル化合物及びグリセリンの製造方法。
工程(1):原料油脂、ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテル及び水を混合して油水分離を行う工程であって、該工程の混合を温度55℃以上、120℃以下で行う、工程
工程(2):工程(1)で得られた油脂に吸着処理を行う工程。
工程(3):工程(2)で得られた精製油脂を用いてアルコールによりエステル交換反応を行う工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製油脂の製造方法、並びに当該精製油脂を用いるエステル化合物及びグリセリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂の精製技術として、一般的に脱ガム、脱色、脱臭が知られている。脱ガム工程は油脂に含有されるガム質を取り除く工程であり、酸添加による脱ガム、膜を用いた脱ガム、酵素添加による脱ガムなどが開発されている。
油脂中のガム質はリン脂質やアルカリ・アルカリ土類金属などを含有することが知られている。リン脂質は油脂中に沈殿を生じさせたり、油脂の色を悪化させたりすることが知られており、取り除くことが必要である。また、アルカリ金属及びアルカリ土類金属(以下、これらを総称して、「アルカリ金属類」ともいう)は油脂の品質に影響を及ぼすことや油脂又はアルキルエステルなどの誘導体を燃料として使用する際に供給ラインや噴射口に目詰まりを生じることが懸念されるため取り除くことが望ましい。
【0003】
特許文献1では、植物油に不純物として含まれるリン化合物及びステロール配糖体を効率的に植物油から低減・除去できる方法として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上の非リン系界面活性剤を植物油に添加する方法が開示されている。
特許文献2では、脂肪性物質の脱ガム方法として、クエン酸、リン酸、シュウ酸、酒石酸等の塩の錯化剤と、乳化剤とを組み合わせた方法が報告されている。
脱色処理としては特許文献3に報告されている吸着剤添加による吸着法が知られており、リン脂質及び金属類が低減することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−215896号公報
【特許文献2】特表平9−501453号公報
【特許文献3】特公平6−31394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で記載されている界面活性剤は、カチオン、アニオン、両性イオン性のものであり、塩化ナトリウムなどを含むものも多く存在する。そのため、精製後の油脂への金属の残存や反応容器及び廃水ライン等の設備の腐食などが懸念される。また、更に優れたリン脂質除去性能が求められる。
また、特許文献2は錯化剤であるエチレンジアミン四酢酸塩やクエン酸塩等と界面活性剤を同時に加え、強力な撹拌が必要であることが記載されている。金属塩を添加することは精製後の油脂に金属が残存する懸念がある。
本発明では、効果的にリン脂質及びアルカリ金属類を取り除く、精製油脂の製造方法、並びに当該精製油脂を用いるエステル化合物及びグリセリンの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔2〕に関する。
〔1〕 下記工程(1)及び工程(2)を有する、精製油脂の製造方法。
工程(1):原料油脂、ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテル及び水を混合して油水分離を行う工程。
工程(2):工程(1)で得られた油脂に吸着処理を行う工程。
〔2〕 下記工程(3)を有する、エステル化合物及びグリセリンの製造方法。
工程(3):工程(2)で得られた精製油脂を用いてアルコールによりエステル交換反応を行う工程。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、効果的にリン脂質及びアルカリ金属類を取り除く、精製油脂の製造方法、並びに当該精製油脂を用いるエステル化合物及びグリセリンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の精製油脂の製造方法は、下記工程(1)及び工程(2)を有する。
工程(1):原料油脂、ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテル及び水を混合して油水分離を行う工程。
工程(2):工程(1)で得られた油脂に吸着処理を行う工程。
本発明の製造方法では、ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルを使用することで、効果的にリン脂質及びアルカリ金属類を取り除くことができる。加えて、中性で塩を含まない界面活性剤であるため、反応容器及び排水設備等に対する腐食性が少ないという効果も有する。また、酸とアルカリ土類金属による重質スラッジの形成を抑制でき、設備の汚染も少ないことが推察される。
【0009】
本発明の効果が得られる理由は定かではないが、以下のように推定される。
油脂には、品質を悪化させるリン脂質が含まれている。このリン脂質は水和性と非水和性のものが含まれていることが知られている。水和性のリン脂質は水による脱ガム処理で多くは除去できるが、非水和性のリン脂質は取り除くことが難しい。非水和性のリン脂質は金属がキレート結合していると言われており、油脂の品質を向上させるためにも、これを取り除くことが望ましい。ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルは油脂中の非水和性のリン脂質に作用して、水中で混合ミセルを形成することから、より多くのリン脂質を水相に抽出することが可能であると考えられる。先行文献に記載されている両性界面活性剤や非イオン性界面活性剤では、電気的及び構造的にリン脂質に作用しにくく、混合ミセルを効果的に形成しないと思われる。そのため、より混合ミセルを形成しやすい性状及び構造であるポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルが好ましく、効果的にリン脂質を除くことができる。
以下各工程について詳細に説明する。
【0010】
[工程(1)]
工程(1)では、原料油脂に非イオン性界面活性剤であるポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテル及び水を混合して油水分離を行う。油水分離とは、油脂と水相に分相させる操作を意味する。
工程(1)により、リン脂質、糖類及びタンパク質を含む一般的にガム質と呼ばれる凝集物を水相側に分離できる。
【0011】
<原料油脂>
原料油脂としては植物油及び動物油が挙げられる。植物油としては、やし油、パーム油、大豆油、菜種油等が挙げられ、動物油としては、牛脂、豚脂、魚油等が挙げられる。
原料油脂は、リン脂質及びアルカリ金属類を含有する。油脂中のアルカリ金属類は主にリン脂質に含まれる。リン脂質の総量を、測定を簡単にするために、リン原子の含有量(以下、「リン含有量」ともいう)として示す。
原料油脂中のリン含有量は、通常10質量ppm以上1000質量ppm以下であり、リン含有量の測定方法は実施例に記載の方法による。
また原料油脂中のアルカリ金属類の含有量は、通常15質量ppm以上1500質量ppm以下であり、アルカリ金属類とは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を意味する。アルカリ金属類の含有量の測定方法は、実施例に記載の方法による。
原料油脂のけん化価は、通常100mgKOH/g以上500mgKOH/g以下である。
【0012】
<ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテル>
工程(1)で使用するポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルのHLBは、リン化合物及びアルカリ金属類の除去性能を高める観点から、好ましくは13以上、より好ましくは13.5以上、更に好ましくは15以上、より更に好ましくは16以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは18.5以下、更に好ましくは18.0以下、より更に好ましくは17.5以下である。
なお、HLBはGriffinより提唱された以下の式より算出することができる。
HLB = 20×Mw/M
Mは界面活性剤の分子量、Mwは親水基の分子量である。
ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルのポリオキシアルキレン鎖の分子量がMwとして算出される。
【0013】
工程(1)で使用するポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルは、リン脂質との相互作用の観点から、好ましくは下記一般式(I)で表される化合物である。
RO−(AO)−H (I)
[式中、Rは炭素数が8以上22以下の脂肪族炭化水素基、AOは炭素数が2以上4以下のアルキレンオキシ基、及びnはAOの平均付加モル数で10以上50以下の数である。]
【0014】
Rである脂肪族炭化水素基の炭素数は、リン化合物及びアルカリ金属類の除去性能を高める観点から、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上であり、同様の観点から、好ましくは22以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下、更により好ましくは14以下である。
Rである脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基等が挙げられる。Rは直鎖であってもよく、また、分岐鎖であってもよい。
Rは、リン脂質及びアルカリ金属類の除去性能を高める観点から、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、より好ましくは直鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、更に好ましくは直鎖のアルキル基である。
【0015】
AOは炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基であるが、水と油脂への相溶性の観点からは、好ましくは炭素数2のエチレンオキシ基であり、全AOのうち80mol%以上がエチレンオキシ基であることがより好ましく、100mol%がエチレンオキシ基であることが更に好ましい。
nは、油脂及び水の双方への溶解性の観点からは、好ましくは10以上、より好ましくは15以上、更に好ましくは20以上であり、同様の観点から好ましくは50以下、より好ましくは35以下、更に好ましくは30以下、より更に好ましくは25以下である。
【0016】
工程(1)において、ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルと水の原料油脂に対する添加形式は、いずれであってもよく、例えば、(i)原料油脂に予めポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルを混合し、その後に水と混合する方法、(ii)予めポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルと水を混合し、同時に原料油脂に混合する方法が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルが水に留まらず油脂に溶解することでリン脂質に効率的に作用する観点から、(i)の方法が好ましい。
【0017】
上記(i)の場合、予め添加するポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルは、ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルのみからなるものであってもよいし、該ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルと水との混合物であってもよい。混合物の場合、当該混合物中のポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルの濃度は、油脂へのポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルの溶解性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは25質量%以上であり、好ましくは100質量%未満、より好ましくは99質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、更により好ましくは50質量%以下、より更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは35質量%以下である。
【0018】
工程(1)で混合するポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルの量は、油脂100質量部に対して、リン化合物及びアルカリ金属類の除去性能を高める観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上、更に好ましくは0.03質量部以上、より更に好ましくは0.045質量部以上であり、油脂中へのポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルの残存を低減する観点から、好ましくは0.15質量部以下、より好ましくは0.12質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下、更により好ましくは0.07質量部以下、より更に好ましくは0.065質量部以下である。
【0019】
工程(1)で混合する水の量は、原料油脂100質量部に対して、油水分離の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であり、同様の観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは10質量部以下、更により好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0020】
工程(1)で混合する水は、水中でのミセル形成の観点から、アルコール等の有機物を含んでいてもよい。
工程(1)における混合を撹拌で行う場合は、撹拌数は油水の分離性の観点から、好ましくは200rpm以上、より好ましくは300rpm以上、更に好ましくは400rpm以上であり、同様の観点から、好ましくは1000rpm以下、より好ましくは800rpm以下、更に好ましくは700rpm以下である。
【0021】
工程(1)における混合はバッチ式、連続式ともに用いることができる。操作の簡便性の点からはバッチ式が好ましく、大量操作を行いやすい点からは連続式が好ましい。
工程(1)の混合時間は、原料油脂と界面活性剤の混合性の観点から、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、更に好ましくは20分以上であり、生産性の観点から、好ましくは1時間以下、更に好ましくは30分以下である。
【0022】
また、上記(i)の順序で混合する場合、前記水を混合した後の撹拌時間は、リン脂質及びポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルを水和させる観点から、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上であり、生産性の観点から、好ましくは30分以下、より好ましくは10分以下である。
【0023】
工程(1)で混合を行う際の温度は、ポリオキシアルキレン脂肪族炭化水素エーテルの水への溶解性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上であり、同様の観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは80℃以下、更に好ましくは65℃以下である。
【0024】
工程(1)で行う油水分離の方法として、デカンテーション、遠心分離などが挙げられる。連続処理の観点から、好ましい方法としては、遠心分離による油水分離である。また、遠心分離の処理条件として、遠心力は、油脂中に分散した水の分離性の観点から、好ましくは350G以上、より好ましくは1000G以上、更に好ましくは8000G以上であり、遠心分離時の温度上昇を防ぐ観点から、好ましくは20000G以下、より好ましくは15000G以下である。
【0025】
[工程(2)]
工程(2)では、工程(1)で得られた油脂に吸着処理を行う。吸着処理とは、油脂に吸着剤等を接触させ、油脂中のリン脂質及びアルカリ金属類等を吸着させて分離する工程である。
工程(2)により、更にリン脂質、タンパク質及び着色成分を除去できる。工程(2)では水和性のリン脂質をより取り除きやすく、工程(1)で非水和性のリン脂質を多く除去することで更に効率的にリン脂質の除去が可能となる。
工程(2)では、吸着処理前に、減圧脱水することが好ましい。また工程(2)の吸着処理は、吸着剤と油脂とを混合して行うことが好ましい。更に工程(2)では、混合物から吸着剤等の固形分を除去して油脂を得るために固液分離を行うことが好ましい。
工程(2)の吸着剤としては、例えば、活性炭、活性白土、珪藻土、シリカゲル、有機化白土などが挙げられる。これらの吸着剤の中でも、好ましくは、酸で処理を行った活性白土である。
【0026】
工程(2)において油脂を減圧脱水する際の絶対圧力は、脱水効率の観点から、好ましくは4kPa以上、より好ましくは8kPa以上であり、好ましくは101.3kPa以下、より好ましくは20kPa以下である。
工程(2)で添加する吸着剤の量は、油脂100質量部に対して、除去効率を上げる観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上であり、固液分離効率の観点から、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.9質量部以下である。
工程(2)において吸着剤を添加し混合する際の撹拌周速は、吸着剤の沈降を防ぐ観点から、好ましくは0.5m/min以上、より好ましくは1.0m/min以上、更に好ましくは1.3m/min以上であり、同様の観点から、好ましくは5m/min以下、より好ましくは4.6m/min以下、更に好ましくは3m/min以下である。
工程(2)における吸着処理時間は、リン脂質及び金属類の吸着性の観点から、好ましくは15分以上、更に好ましくは20分以上であり、油脂の劣化防止の観点から、好ましくは60分以下、更に好ましくは40分以下である。
工程(2)における吸着処理の温度は、吸着効率の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは110℃以上であり、同様の観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下である。
工程(2)における固液分離の方法としては、濾過、遠心分離、浮上分離が挙げられる。好ましい固液分離方法としては濾過である。濾過方式として、ヌッチェ、フィルタープレス、リーフフィルターを用いる方法が挙げられ、加圧でも減圧でも使用することができる。
工程(2)における固液分離時の温度は、油脂のハンドリングの観点から、好ましくは40℃以上、更に好ましくは60℃以上であり、安全性の観点から、好ましくは150℃以下、更に好ましくは100℃以下である。
【0027】
<精製油脂>
精製油脂中のリン含有量は、好ましくは0.4質量ppm以下、より好ましくは0.3質量ppm以下、更に好ましくは0.1質量ppm以下であり、生産性の観点から、好ましくは0.001質量ppm以上、より好ましくは0.01質量ppm以上である。
また精製油脂中のアルカリ金属類の含有量は、好ましくは0.2質量ppm以下、より好ましくは0.17質量ppm以下、更に好ましくは0.12質量ppm以下であり、生産性の観点から、好ましくは0.01質量ppm以上、より好ましくは0.10質量ppm以上である。
【0028】
[工程(3)]
更に本発明では、上記工程(1)及び工程(2)を経て得られた精製油脂に対して下記の工程(3)を行うことで、エステル化合物及びグリセリンの製造方法が提供される。
工程(3):工程(2)で得られた精製油脂を用いて、アルコールによりエステル交換反
応を行う工程。
工程(3)において、前記工程(1)及び工程(2)を経て得られた精製油脂を用いることにより、効率的な製造を行うことができる。
【0029】
工程(3)のアルコールの炭素数は、好ましくは1以上であり、好ましくは6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールが挙げられる。これらの中でも得られるエステル化合物の取り扱いやすさの観点から、メタノールが好ましい。
【0030】
工程(3)のエステル交換反応は、触媒の存在下で行うことが好ましい。触媒としては、エステル交換反応及びエステル化反応に供せられる触媒であれば良く、均一触媒及び不均一触媒が用いられる。均一触媒として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムアルコラート等が用いられ、不均一触媒としては含水酸化ジルコニウム、硫酸担持ジルコニア等を使用することが出来る。高い反応温度で使用でき、石鹸副生の無いことから不均一触媒を用いることが好ましい。不均一触媒として用いられる固体酸触媒は、下記で定義される強酸点を0.2mmol/g−cat以下、かつ下記で定義される弱酸点を0.3mmol/g−cat以上有する弱酸性のものがより好ましい。
弱酸点:NH−TPD(Temperature Programmed Desorption:昇温脱離法)において、100〜250℃の範囲でNHの脱離を起こす点
強酸点:NH−TPDにおいて、250℃より高い温度でNHの脱離を起こす点
本願の精製油脂の製造方法を用いることにより、アルカリ・アルカリ土類金属を低減可能であり、弱酸性固体触媒の失活を抑制することが出来ると推察されるため、より効率的な製造を行うことができる。
【0031】
これらの弱酸性固体酸触媒として粉末触媒あるいはその成型体、またはイオン交換樹脂等を用いることができるが、好ましい一群として、下記構造(A)、構造(B)及び金属原子(C)を有する固体酸触媒の成形体が挙げられる。
構造(A):無機リン酸が有するOH基の少なくとも一つから水素原子が除かれた構造
構造(B):一般式(1)又は(2)で表される有機リン酸が有するOH基の少なくとも一つから水素原子が除かれた構造
【化1】
(式中、−R及び−Rは、それぞれ−R、−OR、−OH、−Hから選ばれる基を示し、−R及び−Rの少なくとも一方は、−R又は−ORである。但し、Rは炭素数1〜22の有機基である。)
金属原子(C):アルミニウム、ガリウム、鉄から選ばれる一種以上の金属原子
【0032】
上記構造(A)において、無機リン酸として、オルトリン酸、メタリン酸やピロリン酸等の縮合リン酸等が挙げられ、性能の点から、オルトリン酸が好ましい。また構造(B)において、一般式(1)又は(2)で表される有機リン酸として、ホスホン酸、ホスホン酸モノエステル、ホスフィン酸、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステルなどが挙げられ、これらの混合物でもよく、好ましくはホスホン酸である。
有機リン酸中の有機基Rとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、フェニル基、3−メチルフェニル基等のアリール基が用いられ、メチル基、エチル基、n−プロピル基が好ましく、エチル基がさらに好ましい。
金属原子(C)としては、性能及び/又はコストの点から、アルミニウムが好ましい。尚、選択性その他性能を改良する目的で、アルミニウム、ガリウム、鉄以外の金属原子を少量有してもよい。また触媒中に含まれる金属原子(C)の全てが、必ずしも、構造(A)或いは構造(B)と結合している必要はなく、金属原子(C)の一部分が金属酸化物或いは金属水酸化物等の形で存在しても構わない。
弱酸性固体酸触媒の好ましい他の一群として、オルトリン酸アルミニウムを含有する不均一系触媒の成形体が挙げられ、特に細孔直径が6〜100nmである細孔容量が0.46ml/g以上であって、かつ0.40mmol/g以上の酸量を有するものが好ましい。
弱酸性固体酸触媒の調製法として、沈殿法や金属酸化物或いは水酸化物へ無機リン酸及び有機リン酸を含浸する方法、無機リン酸アルミニウムゲル中の無機リン酸基を有機リン酸基へ置換する方法等が用いられ、沈殿法が好ましい。
また、固体触媒を調製する際に、高表面積の担体を共存させ、担持触媒を得る事も可能である。担体として、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、ケイソウ土、活性炭等を用いる事ができる。触媒活性を担保する観点から、触媒中の担体の占める割合は、90質量%以下が好ましい。
【0033】
工程(3)の反応温度は、好ましくは80℃以上300℃以下である。
固体触媒を用いる場合、反応温度は触媒活性にも依るが、反応性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上であり、副生成物を抑制する観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは220℃以下である。
反応圧力は反応形式、使用触媒と温度にも依るが、反応性の観点から、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.5MPa以上であり、設備負荷の観点から、好ましくは10MPa以下、より好ましくは8MPa以下である。
【実施例】
【0034】
本明細書の実施例において、各種数値は以下の方法に従って測定した。
【0035】
(1)リン含有量の測定方法
実施例で用いた油脂に含有するリン化合物の定量は基準油脂分析試験法2.4.11−2003[(社)日本油化学会編、2003年版]に基づいて測定した。
【0036】
(2)アルカリ金属類の含有量の測定方法
アルカリ金属及びアルカリ土類金属分の測定はフレームレス原子吸光法で行った。測定には、株式会社アナリティクイエナ製のAAS ZEEnit60を用いた。
【0037】
実施例1
(工程(1))
反応容器として円筒丸底500ccセパラブルフラスコを用いた。やし原油(Cargill社製、リン=27質量ppm、アルカリ・アルカリ土類金属=31.9質量ppm、けん化価=257.7mgKOH/g)400gを攪拌(6枚羽根ディスクタービンを使用し、回転数を560rpm、撹拌周速を1.47m/minとした。)しながら60℃に昇温し、エマルゲン123P(花王株式会社製:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(平均エチレンオキシド付加モル数=23))を水に分散させて、30質量%の分散液にしたものを0.71g添加して20分間攪拌した後、油脂100質量部に対して水の全量が2.5質量部になるように、水9.5gを添加し更に5分間攪拌を行い、凝集物を含む混合物を得た。得られた混合物を遠心分離機(HITACHI himac CR7)で遠心力11150G、40℃条件の下、油水分離操作を行い、デカンテーションにて凝集物を含む水相(以下、ガム水)を分離し、脱ガム処理したやし油を得た。
(工程(2))
脱ガム処理で用いた容器と同じ容器を用いて、脱ガム処理したやし油250gを攪拌(脱ガム工程(上記工程(1))と同等)しながら8kPaに減圧し、120℃に昇温した。その後、活性白土(Tonsil Supreme 134FF)を油脂100質量部に対して0.8質量部添加し、28分間攪拌を行った。得られたスラリーを減圧濾過し、精製やし油を得た。得られた油脂のリン含有量およびアルカリ金属類の含有量を測定した。結果を表1に示した。得られた精製やし油は工程(3)に詳述した方法によりエステル交換反応に用いる事ができる。これにより、エステル化合物及びグリセリンを製造することができる。
【0038】
実施例2
(工程(1))
実施例1と同じ反応容器及び原料やし油を用いて、原料のやし油を60℃に昇温し、エマルゲン123P(花王株式会社製:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(平均エチレンオキシド付加モル数=23))を水に分散させて、1.9質量%の分散液にしたものを10.2g添加して25分間攪拌した後、凝集物を含む混合物を得た。得られた混合物を遠心分離機(HITACHI himac CR7)で遠心力11150G、40℃条件の下、油水分離離操作を行い、デカンテーションにて凝集物を含む水相(以下、ガム水)を分離し、脱ガム処理したやし油を得た。
(工程(2))
脱ガム処理で用いた容器と同じ容器を用いて、脱ガム処理したやし油250gを攪拌(脱ガム工程(上記工程(1))と同等)しながら8kPaに減圧し、120℃に昇温した。その後、活性白土(Tonsil Supreme 134FF)を油脂100質量部に対して0.8質量部添加し、28分間攪拌を行った。得られたスラリーを減圧濾過し、精製やし油を得た。得られた油脂のリン含有量およびアルカリ金属類の含有量を測定した。結果を表1に示した。得られた精製やし油は工程(3)に詳述した方法によりエステル交換反応に用いる事ができる。これにより、エステル化合物及びグリセリンを製造することができる。
【0039】
実施例3
実施例1の工程(1)において、原料のやし油を60℃に昇温し、エマルゲン320P(花王株式会社製:ポリオキシエチレンステアリルエーテル(平均エチレンオキシド付加モル数=13))を水に分散させて、21質量%の分散液にしたものを0.65g添加して20分間攪拌した後、油脂100質量部に対して水の全量が2.5質量部になるように、水9.6gを添加した以外は同様の操作を行い精製やし油を得た。得られた油脂のリン化合物の含有量及びアルカリ金属類の含有量を測定した。結果を表1に示した。得られた精製やし油は工程(3)に詳述した方法によりエステル交換反応に用いる事ができる。これにより、エステル化合物及びグリセリンを製造することができる。
【0040】
実施例4
実施例1の工程(1)において、原料のやし油を60℃に昇温し、エマルゲン130K(花王株式会社製:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(平均エチレンオキシド付加モル数=41))を水に分散させて、50質量%の分散液にしたものを0.64g添加して20分間攪拌した後、油脂100質量部に対して水の全量が2.5質量部になるように、水9.7gを添加した以外は同様の操作を行い精製やし油を得た。得られた油脂のリン含有量及びアルカリ金属類の含有量を測定した。結果を表1に示した。得られた精製やし油は工程(3)に詳述した方法によりエステル交換反応に用いる事ができる。これにより、エステル化合物及びグリセリンを製造することができる。
【0041】
比較例1
実施例1と同条件下で攪拌しながら60℃に昇温し、tritonX114(和光純薬工業株式会社製:ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル(平均エチレンオキシド付加モル数=8))を水に分散させて、14質量%の分散液にしたものを0.64g添加して60℃条件下20分間攪拌を行った。その後、油脂100質量部に対して水の全量が2.5質量部になるように水9.5gを添加し5分間攪拌を行った以外は実施例1と同様の操作を行い、精製やし油を得た。得られた油脂のリン含有量及びアルカリ金属類の含有量を測定した。結果を表2に示した。
【0042】
比較例2
実施例1と同条件下で攪拌しながら40℃に昇温し、39質量%N−やし油脂肪酸アシル−N’−カルボキシエチル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム水溶液(川研ファインケミカル株式会社製)0.36gを添加して40℃条件下20分間攪拌を行い、その後、油脂100質量部に対して水の全量が2.5質量部になるように、水9.7gを添加し更に40℃の条件下で5分間攪拌を行った以外は実施例1と同様の操作を行い、精製やし油脂を得た。得られた油脂のリン含有量及びアルカリ金属類の含有量を測定した。結果を表2に示した。
【0043】
比較例3
実施例1と同条件下で攪拌しながら90℃に昇温し、クエン酸を水に分散させて、50質量%の分散液にしたものを0.48g添加して90℃条件下20分間攪拌を行い、その後、油脂100質量部に対して2.4質量部の水9.6gを添加し5分間攪拌を行った以外は実施例1と同様の操作を行い、精製やし油を得た。得られた油脂のリン含有量及びアルカリ金属類の含有量を測定した。結果を表2に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
エステル化合物及びグリセリンの製造
(触媒製造例)
エチルホスホン酸9.9gと、85質量%オルトリン酸27.7g、硝酸アルミニウム(9水和物)112.5gを水1000gに溶解させた。室温にて、この混合溶液にアンモニア水溶液を滴下し、pHを5に調整した。途中、ゲル状の白色沈殿が生成した。沈殿物をろ過し、水洗後、110℃で15時間乾燥し、60メッシュ以下に粉砕し、触媒を得た。粉砕した触媒に対して、アルミナゾルを10%添加し、1.5mmφの押出成形を行った。これを250℃で3時間焼成して、固体酸触媒の成形触媒(以下、触媒1という)を得た。得られた触媒の弱酸点は1mmol/g、強酸点は検出限界以下であった。
【0047】
500mLオートクレーブに、実施例1で得られた精製やし油180gとメタノール87.7g(油脂(トリグリセリド換算)に対して10モル倍)を仕込み、触媒1をバスケットに9g入れ、900rpmで攪拌しながら、200℃で5時間反応を行った。反応圧力は3.4MPaであった。得られた反終液から、エバポレータを使用して圧力13.3kPa、温度100℃でメタノールを留去した。油相とグリセリン相に分離して、各相をガスクロマトグラフィーで分析し、油相中には85.2質量%のメチルエステルが、グリセリン相中には96.8質量%のグリセリンが含まれていることを確認した。