特許第6405229号(P6405229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405229
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】キャスター
(51)【国際特許分類】
   B60B 33/00 20060101AFI20181004BHJP
   G10G 5/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   B60B33/00 503D
   B60B33/00 F
   G10G5/00
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-261406(P2014-261406)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-120808(P2016-120808A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】上田 智士
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−097778(JP,A)
【文献】 特開平11−123903(JP,A)
【文献】 実開昭57−121305(JP,U)
【文献】 特開2016−022862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 33/00
G10G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸保持孔を有する車輪と、
前記車軸保持孔の軸心方向の長さより大きな長さを有し、前記車軸保持孔に挿入されて前記車輪を回転可能に保持する車軸と、
前記車軸の軸心方向の移動を規制するストッパと、を備え、
前記車軸の外周面は、
前記車軸の軸心方向において、前記車軸保持孔の内周面との間で異なる摩擦力を発生させる少なくとも2つの摺動領域を有し、
前記ストッパによる前記規制が解除された状態にて、前記車軸の軸心方向への移動により、前記車軸保持孔の内周面と摺接する前記摺動領域を切換可能である
ことを特徴とするキャスター。
【請求項2】
請求項1に記載のキャスターであって、
前記車軸は、両端部に形成されたネジ部を有し、
前記ストッパは、
前記車軸保持孔の孔径より大きな外径を有し、前記車軸の前記車軸保持孔からの軸心方向の突出部分に装着可能なカラーと、
前記車軸のネジ部と螺合して、前記車軸の前記車軸保持孔からの軸心方向の突出部分に装着された前記カラーの当該車軸からの脱落を防止するナットと、を有する
ことを特徴とするキャスター。
【請求項3】
請求項1に記載のキャスターであって、
前記車軸は、両端部に形成されたフランジ部を有し、
前記ストッパは、
前記車軸保持孔の孔径より大きな外径および前記フランジ部の外径より小さな内径と、一方の端面から他方の端面に向けて形成され、外周面および内周面を貫くスリットと、を有するカラーと、
前記カラーの前記スリットの間隔を調整する隙間調整手段と、を有し、
前記カラーは、
前記隙間調整手段により前記スリットの間隔が広げられた状態で、当該スリットを介して前記車軸の前記車軸保持孔からの突出部分への着脱が行われる
ことを特徴とするキャスター。
【請求項4】
請求項3に記載のキャスターであって、
前記隙間調整手段は、
前記カラーの円周方向において前記スリットを挟む位置に形成され、当該カラーの外周面からそれぞれ異なる周回方向に突出した一対の把持部を有し、当該一対の把持部が把持されて、両者を近付ける方向に付勢されることにより、前記スリットの間隔を広げる
ことを特徴とするキャスター。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のキャスターであって、
前記少なくとも2つの摺動領域は、それぞれ、前記車軸の外周面の表面粗さが異なる
ことを特徴とするキャスター。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載のキャスターであって、
前記少なくとも2つの摺動領域は、それぞれ、前記車軸の外周面と前記車軸保持孔の内周面とのクリアランスが異なる
ことを特徴とするキャスター。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載のキャスターであって、
前記少なくとも2つの摺動領域は、それぞれ、前記車軸の外周面の材料が異なる
ことを特徴とするキャスター。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載のキャスターであって、
前記車輪は、
円環状の車輪本体と、
前記車輪本体に装着された軸受ブッシュと、を有し、
前記車軸保持孔は、前記軸受ブッシュに設けられている
ことを特徴するキャスター。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載のキャスターであって、
前記車軸を前記車軸の軸心方向に移動可能に保持する保持手段をさらに備え、
前記車輪は、
前記保持手段の前記車軸の軸心方向の両側にそれぞれ一つ配されており、
前記車軸は、
前記車輪の前記車軸保持孔の軸心方向の長さの3倍の長さと、前記保持手段の前記車軸の軸心方向の長さと、の合計値以上の長さを有する
ことを特徴とするキャスター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家具、什器、ピアノ、コピー機等の設置物の移動を容易にするために用いられるキャスターに関し、特に免震機能を有するキャスターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家具、什器、ピアノ、コピー機等の設置物の底面、脚部等に取り付けられ、車輪の回転により設置物の移動を容易にするとともに、設置物の設置後においては、車輪の回転をロックして、設置物の移動を規制することができるストッパ付きキャスターが知られている。例えば、特許文献1には、停止ペダルまたは解除ペダルの一回の踏み込み操作でタイヤの回転およびキャスターヘッドの旋回を同時に停止したり解除したりすることができるストッパ付き双輪キャスターが記載されている。このストッパ付き双輪キャスターによれば、設置物の移動時には、解除ペダルを踏み込んで、タイヤの回転およびキャスターヘッドの旋回を可能にすることにより、このキャスターが取り付けられた設置物の移動を容易にすることができ、設置物の設置後には、停止ペダルを踏み込んで、タイヤの回転およびキャスターヘッドの旋回を停止することにより、このキャスターが取り付けられた設置物の移動を規制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−249001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のストッパ付きキャスターにおいて、車輪の回転をロックして設置物の移動を規制した場合、つぎのような問題が生じていた。すなわち、設置物がストッパ付きキャスターを介して設置場所に固定されるため、地震等による設置場所の揺れがストッパ付きキャスターを介して設置物に伝わる。このため、家具、什器等においては、食器、展示品等の収容物が倒れたり、家具、什器等から落下したりすることがあった。また、大きな揺れでは、設置物自体が倒れることもあった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、免震機能を備えたキャスターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のキャスターでは、車軸の長さをこの車軸が挿入される車輪の車軸保持孔の軸心方向の長さよりも大きくするとともに、車軸の外周面に、軸心方向において車軸保持孔の内周面と異なる摩擦力を発生させる少なくとも2つの摺動領域を設けた。そして、車軸保持孔に挿入された車軸を車軸の軸心方向に移動させ、車軸保持孔の内周面と摺接する車軸の摺動領域を切換可能とすることにより、車輪の回転トルクを可変とするとともに、車軸にストッパを取り付けて車軸の軸心方向の移動を規制することにより、振動等により車軸が軸心方向に移動して、車軸保持孔の内周面と摺接する車軸の摺動領域が意図せず切り替わるのを防止できるようにした。
【0007】
例えば、本発明のキャスターは、
車軸保持孔を有する車輪と、
前記車軸保持孔の軸心方向の長さより大きな長さを有し、前記車軸保持孔に挿入されて前記車輪を回転可能に保持する車軸と、
前記車軸の軸心方向の移動を規制するストッパと、を備え、
前記車軸の外周面は、
前記車軸の軸心方向において、前記車軸保持孔の内周面との間で異なる摩擦力を発生させる少なくとも2つの摺動領域を有し、
前記ストッパによる前記規制が解除された状態にて、前記車軸の軸心方向への移動により、前記車軸保持孔の内周面と摺接する前記摺動領域を切換可能である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、本発明に係るキャスターが取り付けられた設置物の移動の際に、車軸を軸心方向に移動させて、車軸保持孔の内周面と摺接する車軸の外周面の摺動領域を一方の摺動領域に切り替えて、車軸保持孔の内周面との間に小さな摩擦力を発生させ、この状態で車軸にストッパを取り付けて、車軸の軸心方向の移動を規制することにより、車輪の回転トルクを小さくして、この設置物の移動を容易にすることができ、さらに、設置物の移動中、振動等により車軸が軸心方向に移動して、車軸保持孔の内周面と一方の摺動領域との間の摩擦力よりも大きな摩擦力を発生させる他方の摺動領域へ意図せず切り替わるのを防止できる。また、本発明に係るキャスターが取り付けられた設置物の設置後に、車軸を軸心方向に移動させて、車軸保持孔の内周面と摺接する車軸の外周面の摺動領域を他方の摺動領域に切り替えて、車軸保持孔の内周面と一方の摺動領域との間の摩擦力よりも大きな摩擦力を発生させ、この状態で車軸にストッパを取り付けて、車軸の軸心方向の移動を規制することにより、車輪の回転トルクをより大きくして、設置物が設置場所から容易に移動しないようにするとともに、車輪にこの回転トルク以上のトルクが加わった場合には車輪が回転することにより、地震等による設置場所の揺れが設置物に伝わる際の揺れを減衰させることができ、さらに、設置物の設置後、振動等により車軸が軸心方向に移動して、車軸保持孔の内周面との間に小さな摩擦力を発生させる一方の摺動領域へ意図せず切り替わるのを防止できる。したがって、本発明によれば、免震機能を備えたキャスターを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(A)および図1(B)は、本発明の一実施の形態に係るキャスター1の正面図および側面図であり、図1(C)は、図1(A)に示すキャスター1のA−A断面図である。
図2図2(A)および図2(B)は、車輪2の正面図および背面図であり、図2(C)は、図2(A)に示す車輪2のB−B断面図である。
図3図3は、車軸3の正面図である。
図4図4(A)は、カラー7の側面図であり、図4(B)は、図4(A)に示すカラー7のC−C断面図である。
図5図5(A)、図5(B)および図5(C)は、カラー7の変形例7’の正面図、側面図および背面図である。
図6図6は、車軸3の変形例3’の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。
【0011】
図1(A)および図1(B)は、本実施の形態に係るキャスター1の正面図および側面図であり、図1(C)は、図1(A)に示すキャスター1のA−A断面図である。
【0012】
図示するように、本実施の形態に係るキャスター1は、一対の車輪2a、2b(以下、単に車輪2とも称する)と、これらの車輪2a、2bを回転可能に保持する円柱状の車軸3と、車軸3を軸心O方向に移動可能に保持する保持部4と、車軸3の軸心O方向の移動を規制するためのストッパ5と、を備えている。
【0013】
一対の車輪2a、2bは、保持部4を軸心O方向の両側から挟み込むように配置されており、車軸3により回転可能に保持されている。
【0014】
図2(A)および図2(B)は、車輪2の正面図および背面図であり、図2(C)は、図2(A)に示す車輪2のB−B断面図である。図示するように、車輪2は、円環状の車輪本体20と、車輪本体20の内周面200に装着され、車軸3が挿入される軸受ブッシュ21と、を備えている。
【0015】
図3は、車軸3の正面図である。図示するように、車軸3の両端部30a、30bには、ナット6a、6b(図1参照)と螺合するネジ部31a、31bが形成されている。ここで、車軸3の両端部30a、30bに形成されたネジ部31a、31b間の長さL1は、車輪2の軸心O方向の厚みL2の3倍の長さと、保持部4の軸心O方向の長さL3と、の合計値以上とする(L1≧3×L2+L3)。
【0016】
また、車軸3の外周面32には、車軸3の一方の端部30aに形成されたネジ部31aに螺合されたナット6aが車輪2aと当接するまで車軸3を軸心O方向(図1(C)の+方向)に移動させたときに、各車輪2a、2bの軸受ブッシュ21の内周面210とそれぞれ摺接する二つの第一摺動面33が形成され、かつ、車軸3の他方の端部31bに形成されたネジ部31bに螺合したナット6bが車輪2bと当接するまで車軸3を軸心O方向(図1(C)の−方向)に移動させたときに、各車輪2a、2bの軸受ブッシュ21の内周面210とそれぞれ摺接する二つの第二摺動面34が形成されている。
【0017】
第一摺動面33および第二摺動面34は、異なる摩擦係数を有している。例えば、第一摺動面33および第二摺動面34の一方をローレット加工、エンボス加工等により粗く加工し、他方を滑らかに加工して、第一摺動面33および第二摺動面34の表面粗さを変えることにより、両者の摩擦係数を異ならせる。あるいは、第一摺動面33および第二摺動面34の一方にフッ素等の摺動特性に優れた材料をコーティングし、第一摺動面33および第二摺動面34の他方にゴム等の摺動特性の劣る材料をコーティングして、第一摺動面33および第二摺動面347の材料を変えることにより、両者の摩擦係数を異ならせる。または、これらを組み合わせることにより、第一摺動面33および第二摺動面34の摩擦係数を異ならせる。なお、本実施の形態では、第一摺動面33の摩擦係数を小さくし、第二摺動面34の摩擦係数を大きくしている。
【0018】
保持部4は、保持部本体40と、取付部41と、を備える。保持部本体40は、一対の車輪2a、2bの間に挟まれて配置され、車軸3を軸心O方向に移動可能に保持するための貫通穴42を有する。取付部41は、キャスター1を家具、什器、ピアノ、コピー機等の設置物の底面、脚部等に取り付けるためのものである。ここでは、取付部41として、設置物の底面、脚部等に設けられたネジ穴と螺合するネジを設けている。しかし、設置物の取付構造に応じて取付部41は適宜変更可能である。また、軸受を介して取付部41を保持部本体40に取り付けることにより、保持部本体40を取付部41に対して回転自在にしてもよい。
【0019】
ストッパ5は、車軸3の両端部30a、30bに形成されたネジ部31a、31bと螺合するナット6a、6bと、車軸3に装着可能なカラー7と、を有する。ナット6a、6bは、少なくとも車輪2の軸受ブッシュ21の内径r1より大きな外径r2を有し、車軸3の両端部30a、30bに形成されたネジ部31a、31bに螺合することにより、車軸3が車輪2の軸受ブッシュ21から抜け落ちるのを防止する。カラー7は、車軸3の車輪2からの突出部分に装着される。
【0020】
図4(A)は、カラー7の側面図であり、図4(B)は、図4(A)に示すカラー7のC−C断面図である。カラー7は、図示するように、車軸3に装着可能な円筒部材であり、車輪2の軸受ブッシュ21の内径r1より大きな外径r3およびナット6a、6bの外径r2より小さな内径r4を有する。また、カラー7の長さL4は、車軸3の両端部30a、30bに形成されたネジ部31a、31b間の長さL1から、車輪2の軸心O方向の厚みL2の2倍の長さと保持部4の軸心O方向の長さL3との合計値を引いた値(L1−(2×L2+L3)より所定のマージンだけ短めに設定されている。
【0021】
上記構成のキャスター1が取り付けられた設置物の移動に際し、車軸3の一方の端部30aに形成されたネジ部31aにのみナット6aを取付け、車軸3の他方の端部30bに形成されたネジ部31bにはナット6bを取り付けず、かつカラー7を車軸3から取り外した状態で、ナット6aが車輪2aと当接するまで車軸3を軸心O方向(図1(C)の+方向)に移動させる。それから、車軸3の車輪2bからの突出部分にカラー7を装着して、車軸3の他方の端部30bに形成されたネジ部31bにナット6bを取り付ける。
【0022】
これにより、車軸3の外周面32に形成された摩擦係数の小さい二つの第一摺動面33が車輪2a、2bの軸受ブッシュ21の内周面210にそれぞれ摺接して、車輪2の回転トルクが小さくなり、この設置物の移動を容易にすることができる。また、車輪2bとナット6bとの間に介在するように車軸3に装着されたカラー7により、車軸2の軸心O方向の移動が規制される。このため、設置物の移動中、振動等により車軸3の他方の端部31bに形成されたネジ部31bに取り付けられたナット6bが車輪2bに近づく方向(図1(C)の−方向)に車軸3が移動して、車輪2a、2bの軸受ブッシュ21の内周面210と摺接する車軸3の摺動面が摩擦係数の大きい摺動面34へ意図せず切り替わるのを防止できる。
【0023】
また、上記構成のキャスター1が取り付けられた設置物の設置後において、車軸3の他方の端部30bに形成されたネジ部31bにのみナット6bを取付け、車軸3の一方の端部30aに形成されたネジ部31aにはナット6aを取り付けず、かつカラー7を車軸3から取り外した状態で、ナット6bが車輪2bと当接するまで車軸3を軸心O方向(図1(C)の−方向)に移動させる。それから、車軸3の車輪2aからの突出部分にカラー7を装着して、車軸3の一方の端部30aに形成されたネジ部31aにナット6aを取り付ける。
【0024】
これにより、車軸3の外周面32に形成された摩擦係数の大きい二つの第二摺動面34が車輪2a、2bの軸受ブッシュ21の内周面210にそれぞれ摺接して、車輪2の回転トルクが大きくなり、この設置物が設置場所から容易に移動しないようにすることができるとともに、車輪2にこの回転トルク以上のトルクが加わった場合には車輪2が回転することにより、地震等による設置場所の揺れが設置物に伝わる際にこの揺れを減衰させることができる。また、車輪2aとナット6aとの間に介在するように車軸3に装着されたカラー7により、車軸2の軸心O方向の移動が規制される。このため、地震の振動等により車軸3の一方の端部31aに形成されたネジ部31aに取り付けられたナット6aが車輪2aに近づく方向(図1(C)の+方向)に車軸3が移動して、車輪2a、2bの軸受ブッシュ21の内周面210と摺接する車軸3の摺動面が摩擦係数の小さい摺動面33へ意図せず切り替わるのを防止できる。
【0025】
このように、本実施の形態によれば、免震機能を備えたキャスター1を提供できる。
【0026】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0027】
例えば、上記の実施の形態では、車軸3の両端部31a、31bに形成されたネジ部31a、31bに螺合するナット6a、6bと、車軸3に装着可能なカラー7と、を有するストッパ5を用いたが、本発明はこれに限定されない。ストッパ5は、必要に応じて車軸3の軸心O方向の移動を規制することができるものであればよい。
【0028】
図5(A)、図5(B)および図5(C)は、カラー7の変形例7’の正面図、側面図および背面図である。図示するように、カラー7’は、円筒状のカラー本体70と、一対の把持部71a、71bと、を有する。
【0029】
カラー本体70は、車輪2の軸受ブッシュ21の内径r1より大きな外径r3と、車軸3の両端部30a、30bに形成されたネジ部31a、31b間の長さL1から、車輪2の軸心O方向の厚みL2の2倍の長さと保持部4の軸心O方向の長さL3との合計値を引いた値(L1−(2×L2+L3))より所定のマージンだけ短めに設定された長さL4と、を有する。また、カラー本体70は、軸心Oに沿って一方の端面72aから他方の端面72bに向けて形成され、外周面73および内周面74を貫くスリット75を有する。
【0030】
一対の把持部71a、71bは、カラー本体70の円周方向においてスリット75を挟む位置に形成され、カラー本体70の外周面71からそれぞれ異なる周回方向(把持部71aはR回り方向、把持部71bはL回り方向)に突出している。
【0031】
上記構成のカラー7’は、一対の把持部71a、71bを把持して、両者を近付ける方向に付勢することにより、スリット75の間隔gを広げることが可能である。このため、一対の把持部71a、71bを把持することにより間隔gが広げられたスリット75を介して、車軸3の車輪2からの突出部分に、カラー7’を着脱することができる。したがって、ナット6a、6bを車軸3から取り外すことなく、カラー7’の車軸3への着脱が可能となり、作業性が向上する。
【0032】
なお、この場合、車軸3に代えて、図6に示すように、両端部30a、30bにカラー7’のカラー本体70の外径r3より大きな外径r2を有するフランジ部35a、35bが形成された車軸3’を用いてもよい。また、カラー7’が洗濯バサミのように車軸3を強く把持することができ、これにより車軸3’の軸心方向の移動を規制することができるものであるならば、車軸3’の両端部にフランジ部35a、35bを形成しなくてもよい。
【0033】
また、上記の実施の形態では、車輪本体20の内周面200に軸受ブッシュ21を装着し、軸受ブッシュ21の内周面210を、車軸3の外周面32に形成された第一摺動面33あるいは第二摺動面34に摺接させているが、本発明はこれに限定されない。軸受ブッシュ21を省略し、車輪本体20の内周面200を、車軸3の外周面32に形成された第一摺動面33あるいは第二摺動面34に摺接させてもよい。
【0034】
また、上記の実施の形態では、異なる摩擦係数を有する第一摺動面33および第二摺動面34が軸心方向に沿って外周面32に配された車軸3を用いているが、本発明はこれに限定されない。車軸3は、軸心方向において車輪2の軸受ブッシュ21の内周面210との間で異なる摩擦力を発生させる少なくとも2つの摺動領域を有する外周面32を備えたものであればよい。例えば、第一摺動面33および第二摺動面34の一方と車輪2の軸受ブッシュ21の内周面210とのクリアランスを小さくし、第一摺動面33および第二摺動面34の他方と車輪2の軸受ブッシュ21の内周面210とのクリアランスを大きくして、第一摺動面33および第二摺動面34のそれぞれと車輪2の軸受ブッシュ21の内周面210とのクリアランスを変えることにより、軸受ブッシュ21の内周面210との間で異なる摩擦力を発生させるようにしてもよい。あるいは、車軸3の外周面32に軸心方向のテーパーを付けて、車軸3の軸心方向の位置によって車軸3の外周面32と軸受ブッシュ21の内周面210とのクリアランスを異ならせることにより、軸受ブッシュ21の内周面210との間で異なる摩擦力を発生させるようにしてもよい。もしくは、車軸3の外周面32に、滑らかな表面の真円領域とうねりを有する表面の領域とを軸心方向に配置することにより、軸受ブッシュ21の内周面210との間で異なる摩擦力を発生させるようにしてもよい。
【0035】
また、上記の実施の形態では、車輪2を一対備えた双輪タイプのキャスター1を例にとり説明したが、本発明は車輪2が一つのみの単輪タイプのキャスターにも適用できる。この場合、車軸3の両端部30a、30bに形成されたネジ部31a、31b間の長さL1は、車輪2の軸心O方向の厚みL2と保持部4の軸心O方向の長さL3との合計値よりも長く形成されていればよく(L1>L2+L3)、好ましくは、車輪2の軸心O方向の厚みL2の2倍の長さと保持部4の軸心O方向の長さL3との合計値以上に形成されていればよい(L1≧2×L2+L3)。また、カラー7の長さL4は、車軸3の両端部30a、30bに形成されたネジ部31a、31b間の長さL1から、車輪2の軸心O方向の厚みL2と保持部4の軸心O方向の長さL3との合計値を引いた値(L1−(L2+L3))より所定のマージンだけ短めに設定されていればよい。
【符号の説明】
【0036】
1:キャスター、 2、2a、2b:車輪、 3、3’:車軸、 4:保持部、 5:ストッパ、6a、6b:ナット、 7、7’:カラー、 20:車輪本体、 21:軸受ブッシュ、 30a、30b:車軸3の端部、 31a、31b:ネジ部、 32:車軸3の外周面、 33:第一摺動面、 34:第二摺動面、 35a、35b:フランジ部、 40:保持部本体、 41:取付部、 42:保持部本体40の貫通穴、 70:カラー本体、71a、71b:把持部、72a、72b:カラー7’の端面、 73:カラー本体70の外周面、74:カラー本体70の内周面、 75:スリット、 200:車輪本体20の内周面、210:軸受ブッシュ21の内周面
図1
図2
図3
図4
図5
図6