特許第6405240号(P6405240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6405240チキンフレーバー組成物及びチキン風味増強剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405240
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】チキンフレーバー組成物及びチキン風味増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20181004BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20181004BHJP
【FI】
   A23L27/00 D
   A23L27/20 E
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-539794(P2014-539794)
(86)(22)【出願日】2013年10月2日
(86)【国際出願番号】JP2013076855
(87)【国際公開番号】WO2014054704
(87)【国際公開日】20140410
【審査請求日】2016年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-220788(P2012-220788)
(32)【優先日】2012年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000169466
【氏名又は名称】高砂香料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中藤 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】▲杉▼本 大介
(72)【発明者】
【氏名】長橋 久哉
(72)【発明者】
【氏名】春日 久栄
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−215967(JP,A)
【文献】 特表2005−530481(JP,A)
【文献】 特開昭60−232073(JP,A)
【文献】 特表2009−503146(JP,A)
【文献】 Lebensmittel Wissenschaft & Technologie,1987年,vol.20 no.1,pp.37-41
【文献】 J. Sci. Fd Agric.,1977年,vol.28,pp.1019-1024
【文献】 International Journal of Food Microbiology,2003年,vol.85,pp.111-125
【文献】 J. Agric. Food Chem.,2007年,vol.55,pp.5754-5760
【文献】 高砂香料時報,1998年,no.129,pp.6-13
【文献】 CERNY, C.,Chapter 13, Savory Flavors,Handbook of Meat, Poultry and Seafood Quality,Blackwell Publishing,2007年,pp.163-181
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/40
A23L 27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
CiNii
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チキン風味の増強剤として、1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンの少なくともいずれか一方を含有し、
前記1,5−オクタジエン−3−オール及び前記1,5−オクタジエン−3−オンの含有量の合計が質量基準で0.001ppm〜1000ppmであるチキンフレーバー組成物。
【請求項2】
ボイル風味、フライ風味又はロースト風味から選ばれるチキン風味を有する、請求項1記載のチキンフレーバー組成物。
【請求項3】
キンフレーバー組成物を添加することにより、飲食品又は調味料にチキン風味を付与する方法であって、
前記チキンフレーバー組成物が、1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンの少なくともいずれか一方を含有し、
前記1,5−オクタジエン−3−オール及び前記1,5−オクタジエン−3−オンの含有量の合計が質量基準で0.001ppm〜1000ppmである、チキン風味を付与する方法
【請求項4】
キンフレーバー組成物を添加することにより、飲食品又は調味料のチキン風味を増強する方法であって、
前記チキンフレーバー組成物が、1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンの少なくともいずれか一方を含有し、
前記1,5−オクタジエン−3−オール及び前記1,5−オクタジエン−3−オンの含有量の合計が質量基準で0.001ppm〜1000ppmである、チキン風味を増強する方法
【請求項5】
1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンの少なくともいずれか一方からなるチキン風味増強剤。
【請求項6】
ボイル風味、フライ風味又はロースト風味から選ばれるチキン風味を増強する、請求項5記載のチキン風味増強剤。
【請求項7】
請求項5又は6記載の増強剤を添加することにより、飲食品又は調味料のチキン風味を増強する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,5−オクタジエン−3−オール及び/又は1,5−オクタジエン−3−オンを含有するチキンフレーバー組成物及び該チキンフレーバー組成物を含有する飲食品又は調味料に関し、さらには、1,5−オクタジエン−3−オール及び/又は1,5−オクタジエン−3−オンからなるチキン風味増強剤及び該チキン風味増強剤を含有する飲食品又は調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チキンフレーバー組成物の素材としては、例えば、(1)動植物エキス、(2)酵母エキス、(3)動植物タンパク加水分解物、(4)加熱調理フレーバー、(5)合成香料などが挙げられ、用途に応じてこれらのうち1種以上を、適宜組合せて調製することによって、チキンフレーバー組成物を得ることができる(非特許文献1)。
チキンフレーバー組成物に要求されるフレーバー特性としては、チキン特有の自然な風味やこく味、料理に調和した食欲をそそるボイル風味、フライ風味やロースト風味等を想起させるような香味特性が求められている。
【0003】
前記(2)の酵母エキスは、旨味成分であるグルタミン酸を比較的多く含むので、主として旨味を補うために用いられている(特許文献1〜3)。一方、肉系の味・風味に対する効果を期待して用いることも検討されつつある。
例えば、特許文献4は、遊離型プロリンを遊離型アミノ酸組成に対して8.0%以上含む酵母エキスを、動物蛋白加水分解物独特の甘味付与のために適用できることが開示されている。
【0004】
一方、肉系のこく味・風味に影響を与える成分が検討されてきており、例えば、特許文献5は、こく味を飲食品に付与できる調味料として、ピラジン化合物類が提案されている。ピラジン化合物として、具体的には、2−メチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、2,3,5−トリメチルピラジン、テトラメチルピラジン、2,5−ジエチルピラジン、2,6−ジエチルピラジン、2,3−ジエチル−5−メチルピラジン、及び2−エチル−3,5−ジメチルピラジンからなる群より選択される1以上の化合物を含有してなる調味料が提案されている。
【0005】
さらに特許文献6は、より強く、より好ましいミート系フレーバー組成物として、(A)ピロール類、(B)ピリジン類、(C)ピラジン類、(D)オキサゾール類、(E)オキサゾリン類、(F)アミン類、(G)チアゾール類、(H)チアゾリン類、(I)チアゾリジン類、(J)チオール類、(K)スルフィド類、(L)チオエーテル類、(M)含硫カルボン酸類、(N)キノキサリン類、及び(O)フラノン類、からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物からなる香料を含有することを特徴とするミート系フレーバー組成物が提案されている。
【0006】
合成香料を用いたチキンフレーバー組成物の調製においては、熱処理した鳥肉・鳥骨類の香気分析データを参考にすることが一般的である。
香気分析は通常ガスクロマトグラフィーにて行い、その分析値は一般に香気を保持可能な時間(以下、単に「保持時間」と称することもある。)の順に並べられるか、或いは官能基ごとにまとめられて示される。そのため、香気分析データを参考にする調合者は、各種合成香料を、保持時間を参考に選択するか、或いは官能基ごとに選択して調合を始めることが多い。
【0007】
また、1,5−オクタジエン−3−オールは、ローストチキン、カリフラワーなどに含まれる公知化合物であり、木の香りやゼラニウムの香りを思わせる香気を有する化合物(非特許文献2、3)として知られている。一方、1,5−オクタジエン−3−オンは、ビーフなどに含まれる公知化合物であり、メタリック臭やゼラニウム臭を有する化合物(非特許文献4〜8)として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開2005−102549号公報
【特許文献2】日本国特開平10−327803号公報
【特許文献3】国際公開第99/16860号
【特許文献4】国際公開第2008/091519号
【特許文献5】日本国特開平11−313635号公報
【特許文献6】日本国特開2005−15683号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】特許庁公報 周知・慣用技術集[香料]第2部 食品用香料 3・9・4 チキンフレーバー 2000年1月14日発行
【非特許文献2】Lebensm.Wiss.Technol.,20(1987),pp.37−41
【非特許文献3】J.Agric.Food Chem.,2002,50,pp.6459−6467
【非特許文献4】Journal of food science,Vol.61(1996),pp.1271−1274
【非特許文献5】Z Lebensm Unters Forsch A(1997)205:pp.232−238
【非特許文献6】Z Lebensm Unters Forsch A(1997)204:pp.3−6
【非特許文献7】Z Lebensm Unters Forsch(1988)186:pp.489−494
【非特許文献8】Journal of the Science of Food and Agriculture,Vol.28,11,pp.1019−1024,November 1977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、香気成分の定量分析データをそのまま再現して調製したチキンフレーバー組成物が、目的としたチキンフレーバーを有する組成物として使用できることは希であり、通常は満足できるフレーバー(香味)は得られなかった。
一般に用いられている合成香料系のチキンフレーバーは、香気分析によりチキンの特異的香気成分を見つけだし、その特徴的香気成分を強調・デフォルメしたイメージフレーバーである。すなわち、チキンに関する最終製品における色彩、呈味とともにチキンフレーバー組成物を用いることにより、目的とするチキンを認知させられるものであり、そのフレーバーだけで好ましいチキン風味を再現することはできなかった。
【0011】
また、上記したように、好ましいチキンフレーバー組成物を調製するには、(1)動植物エキス、(2)酵母エキス、(3)動植物タンパク加水分解物、(4)加熱調理フレーバー、(5)合成香料などを主体とする素材で構成されることが多かったが、これらの素材によるものは、力価が高くないため、より強く、より好ましいチキンフレーバーを得るための組成物の調製において、新しい素材が望まれており、改善の余地があった。
【0012】
なお、1,5−オクタジエン−3−オールや1,5−オクタジエン−3−オン等の化合物は、上記した香気成分であることは知られているものの、ボイル感、フライ感やロースト感をともなうチキン風味、特にボイル感をともなうチキン風味の付与や増強としての利用は知られていなかった
【0013】
そこで本発明は、より好ましいチキンフレーバーが得られるチキンフレーバー組成物及びチキンフレーバー増強剤を提供することを第一の目的とする。また、該チキンフレーバー組成物又はチキンフレーバー増強剤を用いた各種飲食品、調味料を提供すること、該組成物や該増強剤を用いて飲食品や調味料にチキン風味を付与すること、又は増強すること等をさらなる目的とする。
なお、本明細書における「好ましいチキンフレーバー」とは、トリ肉又はトリの骨を煮込んだ時に生じるスープの風味或いはソテーした時に生じる風味(ボイル感)、トリ肉又はトリの骨を油で揚げた時に生じるフライドチキンの風味(フライ感)、トリ肉又はトリの骨を焼いた時に生じる焼いた肉の風味(ロースト感)等を想起させるような香味特性(チキンフレーバー)がより好ましいことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、1,5−オクタジエン−3−オール及び/又は1,5−オクタジエン−3−オンを混合させることにより得られるチキンフレーバー組成物は、驚くべきことに風味感やこく味が強く、ロースト感にも優れたチキン風味を有することを見出して、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[12]に関するものである。
[1] 1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンの少なくともいずれか一方を含有するチキンフレーバー組成物。
[2] ボイル風味、フライ風味又はロースト風味から選ばれるチキン風味を有する、前記[1]記載のチキンフレーバー組成物。
[3] 前記1,5−オクタジエン−3−オール及び前記1,5−オクタジエン−3−オンの含有量の合計が質量基準で0.001ppm〜1000ppmである、前記[1]又は[2]記載のチキンフレーバー組成物。
[4] 前記[1]〜[3]のいずれか一に記載のチキンフレーバー組成物を含有する飲食品又は調味料。
[5] 前記[1]〜[3]のいずれか一に記載のチキンフレーバー組成物を添加することにより、飲食品又は調味料にチキン風味を付与する方法。
[6] 前記[1]〜[3]のいずれか一に記載のチキンフレーバー組成物を添加することにより、飲食品又は調味料のチキン風味を増強する方法。
[7] 1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンの少なくともいずれか一方からなるチキン風味増強剤。
[8] ボイル風味、フライ風味又はロースト風味から選ばれるチキン風味を増強する、前記[7]記載のチキン風味増強剤。
[9] 前記[7]又は[8]記載のチキン風味増強剤を含有する飲食品又は調味料。
[10] 前記1,5−オクタジエン−3−オール及び前記1,5−オクタジエン−3−オンの含有量の合計が質量基準で0.0001ppb〜10ppmである、前記[9]記載の飲食品又は調味料。
[11] 前記[7]又は[8]記載のチキン風味増強剤を添加することにより、飲食品又は調味料へチキン風味を付与する方法。
[12] 前記[7]又は[8]記載のチキン風味増強剤を添加することにより、飲食品又は調味料のチキン風味を増強する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、各種飲食品、調味料等の風味増強剤等として有用な、1,5−オクタジエン−3−オール及び/又は1,5−オクタジエン−3−オンをチキンフレーバー組成物に混合することにより、ボイル感、フライ感やロースト感をともなう優れたチキン風味を有するチキンフレーバー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
また、本明細書において、“質量%”、“質量部”と“重量%”、“重量部”とはそれぞれ同義であり、単に“%”、“ppm”及び“ppb”と記載した場合、それぞれ“重量%”、“重量ppm”及び“重量ppb”のことを示す。
【0018】
本発明に係るチキンフレーバー組成物は、1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンの少なくともいずれか一方を含有するが、まず、これら1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンについて説明する。
1,5−オクタジエン−3−オールは、分子内に1個の不斉炭素を有しているため(3S)−体と(3R)−体があり、さらには二重結合への置換によるシス−トランスがあるために、(5E)−体と(5Z)−体の2個の幾何異性体が存在する。具体的には、(3S)−(5E)−1,5−オクタジエン−3−オール、(3R)−(5E)−1,5−オクタジエン−3−オール、(3S)−(5Z)−1,5−オクタジエン−3−オール、(3R)−(5Z)−1,5−オクタジエン−3−オールの4種類がある。
また、1,5−オクタジエン−3−オンは、分子内に二重結合への置換によるシス−トランスがあるために、(5E)−体と(5Z)−体の2個の幾何異性体が存在する。具体的には、(5E)−1,5−オクタジエン−3−オン、(5Z)−1,5−オクタジエン−3−オンの2種類がある。
これらの1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンは、いずれも、常温でオイル状(液状)を呈している。
【0019】
本発明では、1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンのうちいずれかの異性体を使用することができ、又はこれらの混合物を使用してもよい。
これら異性体はガスクロマトグラフィーの保持時間によって区別することができる。また、本明細書では、これら異性体を区別せずに、それぞれまとめて「1,5−オクタジエン−3−オール」又は「1,5−オクタジエン−3−オン」と称するものとする。
【0020】
1,5−オクタジエン−3−オール及び/又は1,5−オクタジエン−3−オンは、天然物から抽出して得られたものを用いてもよいし、化学合成して得られたもの(例えば、非特許文献8に記載の方法で合成されたもの。)を用いてもよい。また、天然物から得られたものと化学合成により得られたものを併用してもよい。
化学合成による場合では、1,5−オクタジエン−3−オール及び/又は1,5−オクタジエン−3−オンの高純度のものを多量に取得することができる。
【0021】
本発明のチキンフレーバー組成物における1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンの含有量は、その合計で好ましくは0.001ppm〜1000ppm、より好ましくは0.01ppm〜100ppm、さらに好ましくは、0.1ppm〜10ppmである。含有量が0.001ppm以上であることによって、本発明の効果を充分に発揮することができ、また1000ppm以下であることにより、香調がチキン風味としてより良好となることから好ましい。
【0022】
また、本発明のチキンフレーバー組成物には、他の香気成分を配合することもできる。
他の香気成分としては例えば、リモネン、オシメン、α−ピネン、β−ピネン、γ−テルピネン、サビネン、ミルセンなどの炭化水素類;リナロール、シトロネロール、ジヒドロリナロール、テトラヒドロムゴール、ミルセノール、ジヒドロミルセノール、テトラヒドロミルセノール、オシメノール、テルピネオール、3−ツヤノール、ベンジルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、α−フェニルエチルアルコール、シス−3−ヘキセノールなどのアルコール類;アセトアルデヒド、n−ヘキサナール、n−ヘプタナール、n−オクタナール、n−ノナナール、シス−3−ヘキセナール、シス−6−ノネナール、3,5,5−トリメチルヘキサナール、デカナール、ウンデカナール、2−メチルデカナール、ドデカナール、トリデカナール、テトラデカナール、トランス−2−ヘキセナール、トランス−4−デセナール、シス−4−デセナール、トランス−2−デセナール、10−ウンデセナール、トランス−2−ウンデセナール、トランス−2−ドデセナール、3−ドデセナール、トランス−2−トリデセナール、2,4−ヘキサジエナール、2,4−デカジエナール、2,4−ドデカジエナール、5,9−ジメチル−4,8−デカジエナール、シトラール、シトロネラール、ベンズアルデヒド、クミンアルデヒド、バニリン、エチルバニリンなどのアルデヒド類;2−ブタノン、3−ヘプタノン、3−オクタノン、2−ノナノン、2−ウンデカノン、2−トリデカノン、メチルヘプテノン、ジメチルオクテノン、ゲラニルアセトン、2,3,5−トリメチル−4−シクロヘキセニル−1−メチルケトン、3−メチル−2,4−ノナンジオン、ネロン(ジボダン社、登録商標)、ヌートカトン、ジヒドロヌートカトン、アセトフェノン、4,7−ジヒドロ−2−イソペンチル−2−メチル−1,3−ジオキセピンなどのケトン類;ギ酸プロピル、ギ酸オクチル、ギ酸リナリル、ギ酸シトロネリル、ギ酸ゲラニル、ギ酸ネリル、ギ酸テルピニル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸シス−3−ヘキセニル、酢酸トランス−2−ヘキセニル、酢酸オクチル、酢酸ノニル、酢酸デシル、酢酸ドデシル、酢酸ジメチルウンデカジエニル、酢酸オシメニル、酢酸ミルセニル、酢酸ジヒドロミルセニル、酢酸リナリル、酢酸シトロネリル、酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、酢酸テトラヒドロムゴール、酢酸ラバンジュリル、酢酸ネロリドール、酢酸ジヒドロクミニル、酢酸テルピニル、酢酸シトリル、酢酸ノピル、酢酸ジヒドロテルピニル、酢酸2,4−ジメチル−3−シクロヘキセニルメチル、酢酸ミラルディル、酢酸ベチコール、プロピオン酸デセニル、プロピオン酸リナリル、プロピオン酸ゲラニル、プロピオン酸ネリル、プロピオン酸テルピニル、プロピオン酸トリシクロデセニル、プロピオン酸スチラリル、酪酸オクチル、酪酸ネリル、酪酸シンナミル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸オクチル、イソ酪酸リナリル、イソ酪酸ネリル、イソ吉草酸リナリル、イソ吉草酸テルピニル、イソ吉草酸フェニルエチル、2−メチル吉草酸2−メチルペンチル、3−ヒドロキシヘキサン酸メチル、3−ヒドロキシヘキサン酸エチル、オクタン酸メチル、オクタン酸オクチル、オクタン酸リナリル、ノナン酸メチル、ウンデシレン酸メチル、安息香酸リナリル、ケイヒ酸メチル、アンゲリカ酸イソプレニル、ゲラン酸メチル、クエン酸トリエチルなどのエステル類;チモール、カルバクロール、β−ナフトールイソブチルエーテルなどのフェノール類;γ−ウンデカラクトン、δ−ドデカラクトンなどのラクトン類;酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、2−デセン酸、ゲラン酸などの脂肪酸類;ジアリルサルファイド、ジアリルジサルファイド、ジプロピルジサルファイド、メチルプロピルジサルファイド、アリルプロピルジサルファイド、ジアリルトリサルファイドなどのサルファイド類;アントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、N−メチルアントラニル酸メチル、N−2’−メチルペンチリデンアントラニル酸メチル、リガントラール、ドデカンニトリル、2−トリデセンニトリル、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、3,7−ジメチル−2,6−ノナジエノニトリル、インドール、5−メチル−3−ヘプタノンオキシム、チオゲラニオール、リモネンチオール、P−メンチル−8−チオールなどの含窒素・含硫化合物類;など公知の合成香料化合物および
トリ肉及び/又はトリ骨のエキス;溶剤抽出物、水蒸気蒸留物、酵素処理、加熱反応などにより得られるチキン風味を有するフレーバー;ペパーミント油、スペアミント油、ジンジャー、ペッパー、オニオンなどのスパイス精油などの植物精油;スパイス類エキストラクトなどの油性エキストラクト及びこれらのオレオレジン類;等を挙げることができるがこれらに限定されるわけではない。
これらを任意に組み合わせて混合することにより、チキンフレーバー組成物を調製することができる。
【0023】
また、本発明に係るチキンフレーバー組成物において、1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンの合計の含有量と他の香気成分は、質量比で1:9〜1:99.9であることがチキン風味を増す点から好ましい。
【0024】
本発明のチキンフレーバー組成物に配合できる香気成分以外の成分としては、香気成分を溶解するのに適当な溶剤が挙げられる。例えば、水、エチルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、中鎖脂肪酸グリセリンエステル、食用植物油などの食用油脂、飲食品に使用可能な天然色素類、ビタミン類、植物性樹脂類などを挙げることができる。
これらはチキンフレーバー組成物に対して0〜99質量%含まれることが組成物の取り扱いやすさの点から好ましい。
【0025】
さらに、前記溶剤を用いて液状としたチキンフレーバー組成物に乳糖、デキストリン、アラビアガム、シクロデキストリンなどの賦形剤を加えて粉末状としたり、飲食品に使用可能な種々の乳化剤を用いて乳化物とすることができ、その他にもペースト状、顆粒状、マイクロカプセルなど、その使用目的に合わせて任意の剤形の組成物を調製し、用いることができる。
【0026】
本発明に係るチキンフレーバー組成物は、ボイル風味、フライ風味又はロースト風味から選ばれるチキン風味を有することが好ましい。
【0027】
本発明に係るチキンフレーバー組成物を添加することにより、飲食品又は調味品にチキン風味を付与することができる。すなわち、前記飲食品又は前記調味品がチキン風味を全く有しない場合であっても、チキン風味が付与された飲食品を容易に製造することができる。
また、もともとチキン風味を有する飲食品又は調味品に本発明に係るチキンフレーバー組成物を添加すれば、前記チキン風味が増強した飲食品又は調味品を得ることもできる。
【0028】
本発明に係るチキンフレーバー組成物を含む飲食品又は調味品(以下、それぞれ単に「チキン風味飲食品」又は「チキン風味調味品」と称することがある。)としては特に制限されないが、スープやインスタント麺、スナック等に代表されるチキン風味飲食品やチキン風味調味料等のチキン関連の飲食品又は調味品であることが好ましい。
【0029】
本発明のチキンフレーバー組成物のチキン風味飲食品やチキン風味調味料への配合量は、その目的あるいはチキン風味増強剤の種類や香調の強さ等によっても異なるが、例えば、0.001%〜10%、好ましくは0.01〜3%の濃度範囲を挙げることができる。
【0030】
また、本発明は1,5−オクタジエン−3−オール及び/又は1,5−オクタジエン−3−オンからなるチキン風味増強剤を提供することもできる。当該増強剤が増強する風味は、ボイル風味、フライ風味又はロースト風味から選ばれるチキン風味であることが好ましい。
ここでの1,5−オクタジエン−3−オール及び/又は1,5−オクタジエン−3−オンは先述した幾何異性体のうち一種を用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
また、本発明のチキン風味増強剤のチキン風味飲食品やチキン風味調味料への1,5−オクタジエン−3−オール及び前記1,5−オクタジエン−3−オンの配合量の合計は、その目的あるいはチキン風味増強剤の種類によっても異なるが、例えば、0.0001ppb〜10ppm、好ましくは0.001ppb〜1ppm、より好ましくは0.01ppb〜0.1ppmの濃度範囲を挙げることができる。
【0032】
前記チキン風味増強剤中の1,5−オクタジエン−3−オール及び1,5−オクタジエン−3−オンの含有量は合計で0.001ppm〜1000ppmが、本発明の効果を充分に発揮することができ、またチキン風味としての香調が良好となることから好ましい。
【0033】
また、本発明のチキンフレーバー増強剤は、チキン風味飲食品又はチキン風味調味料に添加して、それらのチキン風味を増強できるとともに、チキン風味を全く有しない、種々の飲食品又は調味料に添加することにより、チキン風味が付与された飲食品又は調味料を容易に製造することができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらにより何ら限定されるものではなく、また、本発明の範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えてもよい。なお、下記に記載する処方の単位は特に言及しない限り、組成比は質量比を表すものとする。
【0035】
(実施例1)チキン風味増強剤
実施例1として1,5−オクタジエン−3−オールの0.1%水溶液を調製し、チキン風味増強剤を調製した。ここで1,5−オクタジエン−3−オールは(5Z)−1,5−オクタジエン−3−オールであり、非特許文献8に記載の合成方法により得た。
(実施例2)チキン風味増強剤
実施例2として1,5−オクタジエン−3−オンの0.1%水溶液を調製し、チキン風味増強剤を調整した。ここで1,5−オクタジエン−3−オンは(5Z)−1,5−オクタジエン−3−オンであり、非特許文献8に記載の合成方法により得た。
【0036】
(実施例3及び4)チキンフレーバー組成物
下記表1に記載の処方に従い、各成分を混合し、チキンフレーバー組成物を得た。得られた組成物はいずれもボイル風味を有していた。
【0037】
【表1】
【0038】
(比較例1)チキンフレーバー組成物
チキン風味増強剤を含まないこと以外は、実施例3と同様にしてチキンフレーバー組成物を調製した。
【0039】
(応用例1)チキン風味油
鶏がら200gに水1kgを加えて120℃で4時間加熱後冷却し、次いで不溶性固形物を除去してチキンエキス850gを得た。このエキスを1/3の質量になるまで減圧濃縮し、得られた濃縮物に菜種油150g及び実施例3のチキンフレーバー組成物を菜種油に対して2質量%添加して、100℃で3時間撹拌加熱した。次いで冷却後遠心分離してチキンの風味の油層部を採取し本発明品1(チキン風味油)を得た。
【0040】
(応用例2)チキン風味油
実施例3のチキンフレーバー組成物の代わりに実施例4のチキンフレーバー組成物を用いた以外は、応用例1と同様にして本発明品2(チキン風味油)を得た。
【0041】
(比較応用例1)チキン風味油
実施例3のチキンフレーバー組成物の代わりに比較例1のチキンフレーバー組成物を用いた以外は、応用例1と同様にして比較品1(チキン風味油)を得た。
【0042】
本発明品1、本発明品2及び比較品1を各々菜種油にて20倍に希釈し、10名の専門パネラーによって香味を官能評価した結果、パネラー全員により、比較品1に比べて本発明品1及び本発明品2の方がトップインパクトが強化され輪郭がはっきりする印象を与え、且つ持続性に富んだチキン風味を有していることが認められた。
【0043】
(試験例1−1〜1−8)チキン風味油による1,5−オクタジエン−3−オールの効果試験
実施例1と同様にして、1,5−オクタジエン−3−オールが表2に示す濃度になるように変化させて1,5−オクタジエン−3−オールの水溶液を調製し、試験例1−1〜1−8におけるチキン風味増強剤をそれぞれ調製した。次いで、実施例3の「実施例1のチキン風味増強剤」の代わりに調製したチキン風味増強剤をそれぞれ用いて、試験例1−1〜1−8におけるチキンフレーバー組成物を調製した。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例3のチキンフレーバー組成物の代わりに試験例1−1〜1−8におけるチキンフレーバー組成物を用いた以外は、応用例1と同様にして試験例1−1〜1−8に係るチキン風味油を得た。
【0046】
試験例1−1〜1−8のチキン風味油を各々菜種油にて20倍に希釈し、10名の専門パネラーによって香味を官能評価した結果、パネラー全員により、試験例1−2〜1−7のチキン風味油では、著しく丸みとコク味を有して調和感がとれ、且つ持続性に富んだチキン風味を有していることが認められた。特に試験例1−4〜1−6のチキン風味油が好ましいチキン風味を有していることが認められた。一方、全員が試験例1−1のチキン風味油では、チキン風味感が充分に発揮されておらず、また、試験例1−8のチキン風味油では、チキン風味とは異なる香調となって好ましくないと認められた。
【0047】
(試験例2−1〜2−8)チキン風味油による1,5−オクタジエン−3−オンの効果試験
実施例2と同様にして、1,5−オクタジエン−3−オンが表3に示す濃度になるように変化させて1,5−オクタジエン−3−オンの水溶液を調製し、試験例2−1〜2−8におけるチキン風味増強剤をそれぞれ調製した。次いで、実施例4の「実施例2のチキン風味増強剤」の代わりに調製したチキン風味増強剤をそれぞれ用いて、試験例2−1〜2−8におけるチキンフレーバー組成物を調製した。
【0048】
【表3】
【0049】
実施例4のチキンフレーバーの代わりに試験例2−1〜2−8におけるチキンフレーバー組成物を用いた以外は、応用例1と同様にして試験例2−1〜2−8に係るチキン風味油を得た。
【0050】
試験例2−1〜2−8のチキン風味油を各々菜種油にて20倍に希釈し、10名の専門パネラーによって香味を官能評価した結果、パネラー全員により、試験例2−2〜2−7のチキン風味油では、著しく丸みとコク味を有して調和感がとれ、且つ持続性に富んだチキン風味を有していることが認められた。特に試験例2−4〜2−6のチキン風味油が好ましいチキン風味を有していることが認められた。一方、全員が試験例2−1のチキン風味油では、チキン風味感が充分に発揮されておらず、また、試験例2−8のチキン風味油では、チキン風味とは異なる香調となって好ましくないと認められた。
【0051】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は2012年10月2日出願の日本特許出願(特願2012−220788)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。