(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料から放出された電子をエネルギー分光させるエネルギー分光部と、前記エネルギー分光部で分光された電子を増幅するマイクロチャネルプレートと、前記マイクロチャネルプレートで増幅された電子を光に変換する蛍光スクリーンと、前記蛍光スクリーンを撮影するカメラと、を含む電子分光装置において前記カメラで撮影されたカメラ画像上における前記蛍光スクリーンの有効範囲を求める測定方法であって、
前記エネルギー分光部において互いに異なる中心エネルギーで分光されて撮影された複数の前記カメラ画像を取得する工程と、
取得した複数の前記カメラ画像を、それぞれスペクトルに変換する工程と、
複数の前記スペクトルに基づいて、前記カメラ画像上における前記蛍光スクリーンの有効範囲を求める工程と、
を含む、測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した検出器において、CCDカメラで撮像された蛍光スクリーンの画像は、カメラレンズの倍率やカメラと蛍光スクリーンの位置関係等によって変化する。通常、VGA(Video Graphics Array)やXGA(eXtended Graphics Array)などの長方形であるカメラ画像を蛍光スクリーンより大きくなるように設定すればこの変化は吸収できる。しかしながら、カメラ画像上での蛍光スクリーンの位置を幾何学的に正確に算出することは難しい。また、蛍光スクリーンの縁は、マイクロチャネルプレートの径に正確に一致しているとは限らないため、目視では蛍光スクリーンの有効範囲を正確に判断することは難しい。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、蛍光スクリーンのカメラ画像上での有効範囲を正確に求めることができる電子分光装置を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、蛍光スクリーンのカメラ画像上での有効範囲を正確に求めることができる測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る電子分光装置は、
試料から放出された電子をエネルギー分光させるエネルギー分光部と、
前記エネルギー分光部で分光された電子を増幅するマイクロチャネルプレートと、
前記マイクロチャネルプレートで増幅された電子を光に変換する蛍光スクリーンと、
前記蛍光スクリーンを撮影するカメラと、
前記カメラで撮影されたカメラ画像上における前記蛍光スクリーンの有効範囲を求める有効範囲算出部と、
を含み、
前記有効範囲算出部は、
前記エネルギー分光部において互いに異なる中心エネルギーで分光されて撮影された複数の前記カメラ画像を取得する処理と、
取得した複数の前記カメラ画像を、それぞれスペクトルに変換する処理と、
複数の前記スペクトルに基づいて、前記カメラ画像上における前記蛍光スクリーンの有効範囲を求める処理と、
を行う。
【0008】
このような電子分光装置では、有効範囲算出部が、エネルギー分光部において互いに異なる中心エネルギーで分光されて撮影された複数のカメラ画像を取得する処理と、取得した複数の前記カメラ画像をそれぞれスペクトルに変換する処理と、複数のスペクトルに基づいて、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を求める処理と、を行うため、例えばカメラと蛍光スクリーンとの位置関係等から幾何学的に蛍光スクリーンの有効範囲を求める場合と比べて、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を正確に求めることができる。
【0009】
(2)本発明に係る電子分光装置において、
前記有効範囲算出部は、前記蛍光スクリーンの有効範囲を求める処理において、各前記スペクトルから前記カメラ画像上での最大輝度位置を特定し、前記中心エネルギーおよび前記最大輝度位置に基づき前記蛍光スクリーンの有効範囲を求めてもよい。
【0010】
(3)本発明に係る電子分光装置において、
前記有効範囲算出部は、前記蛍光スクリーンの有効範囲を求める処理において、各前記スペクトルの前記中心エネルギーおよび前記最大輝度位置について、第1軸を前記中心エネルギーとし第2軸を前記最大輝度位置としてプロットしてグラフを作成し、当該グラフから前記蛍光スクリーンの有効範囲を求めてもよい。
【0011】
(4)本発明に係る電子分光装置において、
前記有効範囲算出部は、前記中心エネルギーおよび前記最大輝度位置に基づいて、前記カメラ画像上でのエネルギー軸を求める処理を行ってもよい。
【0012】
このような電子分光装置では、例えばカメラと蛍光スクリーンとの位置関係等から幾何学的にカメラ画像上でのエネルギー軸を求める場合と比べて、カメラ画像上でのエネルギー軸を正確に求めることができる。
【0013】
(5)本発明に係る測定方法は、
試料から放出された電子をエネルギー分光させるエネルギー分光部と、前記エネルギー分光部で分光された電子を増幅するマイクロチャネルプレートと、前記マイクロチャネルプレートで増幅された電子を光に変換する蛍光スクリーンと、前記蛍光スクリーンを撮影するカメラと、を含む電子分光装置において前記カメラで撮影されたカメラ画像上における前記蛍光スクリーンの有効範囲を求める測定方法であって、
前記エネルギー分光部において互いに異なる中心エネルギーで分光されて撮影された複数の前記カメラ画像を取得する工程と、
取得した複数の前記カメラ画像を、それぞれスペクトルに変換する工程と、
複数の前記スペクトルに基づいて、前記カメラ画像上における前記蛍光スクリーンの有効範囲を求める工程と、
を含む。
【0014】
このような測定方法では、例えばカメラと蛍光スクリーンとの位置関係等から幾何学的
に蛍光スクリーンの有効範囲を求める場合と比べて、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を正確に求めることができる。
【0015】
(6)本発明に係る測定方法において、
前記蛍光スクリーンの有効範囲を求める工程では、各前記スペクトルから前記カメラ画像上での最大輝度位置を特定し、前記中心エネルギーおよび前記最大輝度位置に基づき前記蛍光スクリーンの有効範囲を求めてもよい。
【0016】
(7)本発明に係る測定方法において、
前記蛍光スクリーンの有効範囲を求める工程では、各前記スペクトルの前記中心エネルギーおよび前記最大輝度位置について、第1軸を前記中心エネルギーとし第2軸を前記最大輝度位置としてプロットしてグラフを作成し、当該グラフから前記蛍光スクリーンの有効範囲を求めてもよい。
【0017】
(8)本発明に係る測定方法において、
前記中心エネルギーおよび前記最大輝度位置に基づいて、前記カメラ画像上でのエネルギー軸を求める工程をさらに含んでもよい。
【0018】
このような測定方法では、例えばカメラと蛍光スクリーンとの位置関係等から幾何学的にカメラ画像上でのエネルギー軸を求める場合と比べて、カメラ画像上でのエネルギー軸を正確に求めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0021】
1. 電子分光装置
まず、本実施形態に係る電子分光装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る電子分光装置100の構成を模式的に示す図である。ここでは、電子分光装置100が、X線を試料に照射することにより放出される電子をエネルギー分光するX線光電子分光装置である例について説明する。
【0022】
電子分光装置100は、
図1に示すように、X線源10と、エネルギー分光部20と、マイクロチャネルプレート30と、蛍光スクリーン40と、カメラ50と、電源60と、処理部70と、操作部80と、表示部82と、記憶部84と、を含んで構成されている。
【0023】
X線源10は、試料2にX線を照射する。これにより、試料2から光電効果によって電子(光電子)が放出される。
【0024】
エネルギー分光部20の前段には、入射スリット22が配置されていてもよい。入射ス
リット22は、エネルギー分光部20に入射する光電子を制限する。
【0025】
エネルギー分光部20は、試料2から放出された光電子をエネルギー分光する。エネルギー分光部20は、光電子をエネルギー選別して、特定のエネルギーの電子を取り出すことができる。
【0026】
エネルギー分光部20は、例えば、静電半球型アナライザーである。静電半球型アナライザーは、例えば、外球電極と内球電極に電圧が印加されて、球対称な電場を形成する。そして、球対称な電場の一点から、等しいエネルギーの電子を様々な角度で入射させると、それらは180度旋回した後、ほぼ同一の点に集束する。一方、それと異なるエネルギーをもつ電子を球対称な電場に入射させると、別の点に集束する。したがって、あるエネルギー幅を持った電子をこのような場に入射させることで、エネルギー分光が可能になる。すなわち、静電半球型アナライザーでは、出射面上で検出される電子の位置が電子のエネルギー(運動エネルギー)に対応している。
【0027】
静電半球型アナライザーで分光された電子は、当該アナライザーの中心エネルギー(エネルギー分光部20の中心エネルギー、以下「中心エネルギーEc」ともいう)を中心として、当該アナライザーの透過エネルギー(パスエネルギー、外球電極と内球電極との間に印加される電圧)に応じた分散幅をもってマイクロチャネルプレート30に照射される。すなわち、例えば、マイクロチャネルプレート30に入射する電子のエネルギー幅の中心がエネルギー分光部20の中心エネルギーEcといえる。
【0028】
エネルギー分光部20では、中心エネルギーEcを変化させることができる。例えば、静電半球型アナライザーの外球電極と内球電極との間に印加される電圧を変化させることで、中心エネルギーEcを変化させることができる。例えば、エネルギー分光部20において中心エネルギーEcを走査しながら光電子像を連続して撮影することにより、中心エネルギーEcが異なる複数のスペクトルを得ることができる。エネルギー分光部20で分光されるエネルギー幅(出射面上における電子のエネルギー幅)が例えば0.8eVであった場合、中心エネルギーEcを走査することで、例えば0eV〜1.5KeVのエネルギー範囲のスペクトルを得ることも可能である。
【0029】
エネルギー分光部20で取り出された電子は、例えば、加速レンズ24で加速されてマイクロチャネルプレート30に入射する。
【0030】
マイクロチャネルプレート30は、入射した電子を二次元的に検出してチャンネルごとに増倍する。マイクロチャネルプレート30のチャンネルの解像度は、蛍光スクリーン40に投影される投影像(光電子像)に対するカメラ50の解像度より高分解能であることが望ましいが、スペクトルに要求されるチャンネル数よりも高分解能であればよい。
【0031】
蛍光スクリーン40は、マイクロチャネルプレート30で増幅された電子を光に変換する。蛍光スクリーン40は、マイクロチャネルプレート30で増倍された電子が照射されると、単位時間あたりに到達した電子の個数に応じた輝度の可視光を発生させる。
【0032】
蛍光スクリーン40は、例えば、透明基板と、透明基板上に配置された蛍光体と、で構成されている。透明基板は可視光を透過させるため、蛍光スクリーン40の背面(透明基板側)からカメラ50で撮影することができる。蛍光体の応答速度は、スペクトル積算時間よりも短い1ms以下であることが望ましい。また、蛍光スクリーン40をシングルチャネルのプレートとし、マイクロチャネルプレート30で増倍された電子を電気信号として入力して、パルスカウントによる測定を行うことも可能である。
【0033】
加速レンズ24とマイクロチャネルプレート30との間、およびマイクロチャネルプレート30と蛍光スクリーン40との間には、エネルギー分光部20で分光された電子を導くために、所定の電圧が印加されている。
【0034】
カメラ50は、蛍光スクリーン40を撮影する。カメラ50は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ等のデジタルカメラである。カメラ50の画素数は、スペクトルに必要なチャンネル数以上であればよい。カメラ50の前段にはカメラレンズ52が設けられており、蛍光スクリーン40に投影された投影像はカメラレンズ52を通してカメラ50で撮影される。
【0035】
電源60は、エネルギー分光部20(静電半球型アナライザー)の外球電極と内球電極との間に電圧を印加するための電源である。電源60は、後述する制御部76で生成される制御信号に基づいて、外球電極と内球電極との間に電圧を印加する。
【0036】
電子分光装置100では、X線源10が試料2にX線を照射することによって光電効果により放出された電子は、エネルギー分光部20でエネルギー分光され、エネルギー分光部20の中心エネルギーEcを中心に、エネルギー分光部20の透過エネルギーに応じた分散幅を持ってマイクロチャネルプレート30に照射される。そして、マイクロチャネルプレート30で増倍された電子は蛍光スクリーン40で光に変換され、蛍光スクリーン40には光電子像が投影される。蛍光スクリーン40に投影された光電子像は、カメラ50で撮影され、処理部70に送られる。
【0037】
処理部70は、記憶部84に格納されるプログラム(データ)に基づいて本実施形態の種々の処理を行う。記憶部84には、処理部70の各部としてコンピューターを機能させるためのプログラムを記憶することができる。
【0038】
処理部70は、カメラ画像をスペクトルに変換する処理や、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を求める処理、カメラ画像上でのエネルギー軸を求める処理などの処理を行う。処理部70の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部70は、スペクトル生成部72と、有効範囲算出部74と、制御部76と、を含む。
【0039】
スペクトル生成部72は、光電子像が撮影されたカメラ画像をスペクトルに変換する。スペクトル生成部72は、エネルギー分散方向に垂直な方向にカメラ画像の輝度情報を積算することで、スペクトルを生成する。スペクトル生成部72が生成したスペクトルは、例えば、表示部82に表示される。
【0040】
有効範囲算出部74は、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を求める処理を行う。
【0041】
ここで、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲について説明する。
図2は、カメラ画像Gの一例を示す図である。
【0042】
カメラ画像Gは、例えば、640×480ピクセルの画像解像度を有している。
図2に示す例では、エネルギー分散方向Eは、カメラ画像Gの短辺に平行な方向である。カメラ画像Gには、蛍光スクリーン40に投影された光電子像Geが撮像されている。この光電子像Geのエネルギー分散方向Eに垂直な方向にカメラ画像Gの輝度情報を積算することでスペクトルSが得られる。
【0043】
ここで、カメラ画像G上において光電子像Geの輝度情報が有効な範囲、すなわち、カメラ画像G上においてエネルギー分光部20でエネルギー分光されて得られた電子のエネルギー分布が反映されている範囲は、図示の例では、エネルギー分散方向Eにおいて、光電子像Geの一方の端の位置P1と、他方の端の位置P2と、の間の範囲Rである。このカメラ画像G上において光電子像Geの輝度情報が有効な範囲(すなわち図示の例では範囲R)を、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲(以下、単に「蛍光スクリーンの有効範囲」ともいう)という。
【0044】
有効範囲算出部74は、試料2から放出された電子をエネルギー分光部20において互いに異なる中心エネルギーEcで分光して得られた複数のカメラ画像を取得する処理と、取得した複数のカメラ画像をそれぞれスペクトルに変換する処理と、複数の前記スペクトルに基づいて、蛍光スクリーンの有効範囲Rを求める処理と、を行う。
【0045】
有効範囲算出部74は、蛍光スクリーンの有効範囲Rを求める処理において、各スペクトルからカメラ画像上での最大輝度位置を特定し、中心エネルギーEcおよび最大輝度位置に基づき蛍光スクリーンの有効範囲Rを求める。例えば、有効範囲算出部74は、各スペクトルの中心エネルギーEcおよび最大輝度位置について、第1軸を中心エネルギーEcとし第2軸を最大輝度位置としてプロットしてグラフを作成し、当該グラフから蛍光スクリーンの有効範囲Rを求める。
【0046】
また、有効範囲算出部74は、前記複数のスペクトルに基づいて、カメラ画像上でのエネルギー軸(pixel/eV)を求める処理を行う。
【0047】
制御部76は、エネルギー分光部20を制御するための制御信号を生成する処理を行う。制御部76は、中心エネルギーEcが設定されると、設定された中心エネルギーEcに基づく制御信号を生成し、電源60に送る。中心エネルギーEcの設定は、例えば、ユーザーが操作部80を介して行うことできる。また、後述する複数のカメラ画像を撮影する処理を自動で行う場合には、制御部76があらかじめ記憶部84に記録されていた基準(走査開始時)の中心エネルギーEcの情報と、1ステップ分の中心エネルギーEcの変化量の情報とを読み出すことで、中心エネルギーEcが設定されてもよい。電源60は、当該制御信号に基づいて、静電半球型アナライザーの外球電極と内球電極に電圧を印加する。
【0048】
操作部80は、ユーザーが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部70に出力する。操作部80の機能は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル、タッチパッドなどのハードウェアにより実現することができる。
【0049】
表示部82は、処理部70によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRT、操作部80としても機能するタッチパネルなどにより実現できる。
【0050】
記憶部84は、処理部70の各部としてコンピューターを機能させるためのプログラムや各種データを記憶するとともに、処理部70のワーク領域として機能し、その機能はハードディスク、RAMなどにより実現できる。
【0051】
1.2. カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲の測定方法
次に、本実施形態に係るカメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲の測定方法について説明する。
図3は、本実施形態に係るカメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲の測定方法の一例を示すフローチャートである。電子分光装置100では、有効範囲算出部74がカメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を求める処理を行う。
【0052】
まず、有効範囲算出部74は、エネルギー分光部20において互いに異なる中心エネルギーEcで分光されて撮影された複数のカメラ画像を取得する(ステップS10)。
【0053】
ここで、複数のカメラ画像の撮影方法について説明する。
【0054】
測定には、Ag3d
5/2光電子ピークなどの急峻なピークが測定される標準試料が用いられる。そして、まず、当該ピークが蛍光スクリーン40の有効範囲から十分に離れた一方の端部に位置するようにエネルギー分光部20の中心エネルギーEcが設定される。
【0055】
次に、カメラ50で蛍光スクリーン40に投影された光電子像を撮影する。撮影されたカメラ画像は、記憶部84に記憶される。
【0056】
次に、エネルギー分光部20の中心エネルギーEcを1ステップ分、変化させる。この中心エネルギーEcの1ステップは、当該1ステップ分だけ中心エネルギーEcを変化させたときのマイクロチャネルプレート30上での移動距離が、マイクロチャネルプレート30の直径に対して十分に小さくなるように設定する。
【0057】
次に、カメラ50で蛍光スクリーン40に投影された中心エネルギーEcを1ステップ分変化させたときの光電子像を撮影する。撮影されたカメラ画像は、記憶部84に記憶される。
【0058】
上記の処理を繰り返し行うことで、互いに異なる中心エネルギーEcで分光された複数のカメラ画像が記憶部84に記憶される。このように、エネルギー分光部20において中心エネルギーEcを走査しながら光電子像を連続して撮影することにより、互いに異なる中心エネルギーEcで分光されて撮影された複数のカメラ画像が記憶部84に記憶される。カメラ画像の撮影は、ピーク位置が蛍光スクリーンの有効範囲を横切って有効範囲から十分に離れた反対側の端部に外れるまで繰り返される。
【0059】
以上の処理により、複数のカメラ画像を撮影することができる。なお、この複数のカメラ画像を撮影する処理は、例えば、制御部76によって行われてもよい。すなわち、複数のカメラ画像を撮影する処理が、制御部76によって自動で行われてもよい。
【0060】
なお、上記処理を行う前に、蛍光スクリーン40に投影された光電子像がカメラ画像の略中心に位置するように(例えば
図2参照)、カメラレンズ52とカメラ50の位置および倍率を調整する(カメラ50のフォーカスを合わせる)ことが望ましい。
【0061】
有効範囲算出部74は、記憶部84に記録された複数のカメラ画像を読み出して、エネルギー分光部20において互いに異なる中心エネルギーEcで分光されて撮影された複数のカメラ画像を取得する。
【0062】
次に、有効範囲算出部74は、取得した複数のカメラ画像を、それぞれスペクトルに変換する(ステップS12)。
【0063】
有効範囲算出部74は、エネルギー分散方向Eに垂直な方向にカメラ画像の輝度情報を積算することで、スペクトルを生成する(
図2参照)。
【0064】
次に、有効範囲算出部74は、複数のカメラ画像を変換して得られた複数のスペクトルに基づいて、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を求める(ステップS14)。
【0065】
図4は、有効範囲算出部74の有効範囲算出処理(ステップS14)の一例を示すフローチャートである。
【0066】
まず、有効範囲算出部74は、各スペクトルからカメラ画像上での最大輝度値とその最大輝度のカメラ画像上での位置(以下「最大輝度位置」ともいう)を特定する(ステップS140)。
【0067】
図5は、ステップS12で得られた複数のスペクトルを模式的に示す図である。
【0068】
図5に示すように、横軸をカメラ画像上の位置(画素(pixel))、縦軸を画像輝度(bit)とすると、ステップS12で得られたスペクトルSの最大輝度位置(ピークの位置)は、
図5に示す矢印の位置である。なお、最大輝度位置は、エネルギー分散方向Eにおけるカメラ画像上の位置である。
【0069】
ステップS12で得られた複数のスペクトルSは、互いにカメラ画像上でのピークの位置(すなわち最大輝度位置、
図5に示す矢印の位置)がずれる。そして、スペクトルSの最大輝度位置が蛍光スクリーンの有効範囲に含まれていない場合には、最大輝度位置は、当該有効範囲の下限または上限の位置となる。
【0070】
次に、有効範囲算出部74は、各スペクトルSの中心エネルギーEcおよび最大輝度位置について、横軸(第1軸)を中心エネルギーEc(eV)とし、縦軸(第2軸)を最大輝度位置としてプロットしてグラフを作成する(ステップS142)。そして、有効範囲算出部74は、当該グラフから蛍光スクリーンの有効範囲を求める(ステップS144)。
【0071】
図6は、各スペクトルSの中心エネルギーEcと最大輝度位置とを、横軸を中心エネルギーEcとし縦軸を最大輝度位置としてプロットしたグラフである。
【0072】
図6では、各スペクトルSの、中心エネルギーEcと、Ag3d
5/2光電子ピークの最大輝度位置と、をプロットした結果と、各スペクトルSの、中心エネルギーEcと、Ag3d
3/2光電子ピークの最大輝度位置と、をプロットした結果を示している。なお、
図6に示すグラフの横軸ΔOffsetは、エネルギー分光部20の基準(走査開始時)の中心エネルギーEcとの差を表している。
【0073】
有効範囲算出部74は、
図6に示すグラフの線形部分を線形でフィッティングし、線形フィッティング上に乗る部分を蛍光スクリーンの有効範囲Rとする。図示の例では、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲Rは、46pixel〜294pixelの範囲である。また、有効範囲算出部74は、線形フィッティングの傾き(pixel/eV)がカメラ画像上でのエネルギー軸となる。
【0074】
図6に示すグラフでは、Ag3d
5/2光電子ピークとAg3d
3/2光電子ピークとを同時に取得して、それぞれ蛍光スクリーンの有効範囲およびカメラ画像上でのエネルギー軸を求めることで、より精度よくこれらの値を求めることができる。例えば、
図6に示す例では、Ag3d
5/2光電子ピークの線形フィッティング結果は、Y=208.6014X−41.69814であり、カメラ画像上でのエネルギー軸は、208.6014pixel/eVとなる。また、Ag3d
3/2光電子ピークの線形フィッティングの結果はY=187.14286X−1148.15385であり、カメラ画像上でのエネルギー軸は、187.14286pixel/eVとなる。
【0075】
このような計算方法を用いて、有効範囲算出部74は、カメラ画像上における蛍光スク
リーンの有効範囲およびカメラ画像上でのエネルギー軸を求めることができる。
【0076】
以上の工程により、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を測定することができる。
【0077】
なお、本実施形態では、有効範囲算出部74は中心エネルギーEcを変化させて複数のカメラ画像を順次取得し記憶した後に、それぞれのカメラ画像をスペクトルに変換したが、ある中心エネルギーEcを取得したカメラ画像を直ちにスペクトルに変換した後に、中心エネルギーEcを変化させて、変化後の中心エネルギーEcでカメラ画像の取得とスペクトル変換を行う処理を繰り返してもよい。
【0078】
電子分光装置100は、例えば、以下の特長を有する。
【0079】
電子分光装置100では、有効範囲算出部74がエネルギー分光部20において互いに異なる中心エネルギーEcで分光されて撮影された複数のカメラ画像を取得する処理と、取得した複数のカメラ画像を、それぞれスペクトルに変換する処理と、複数の前記スペクトルに基づいて、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を求める処理と、を行う。そのため、電子分光装置100では、例えばカメラと蛍光スクリーンとの位置関係等から幾何学的に蛍光スクリーンの有効範囲を求める場合と比べて、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を正確に求めることができる。したがって、電子分光装置100では、装置の幾何学的な固体差によらず、蛍光スクリーンの有効範囲を決定することができる。
【0080】
また、電子分光装置100では、有効範囲算出部74が、各スペクトルの中心エネルギーEcおよび最大輝度位置に基づいて、カメラ画像上でのエネルギー軸を求めるため、例えばカメラと蛍光スクリーンとの位置関係等から幾何学的にカメラ画像上でのエネルギー軸を求める場合と比べて、カメラ画像上でのエネルギー軸を正確に求めることができる。したがって、電子分光装置100では、装置の幾何学的な固体差によらず、カメラ画像上でのエネルギー軸の較正を行うことができる。
【0081】
また、本実施形態に係る測定方法は、エネルギー分光部20において互いに異なる中心エネルギーEcで分光されて撮影された複数のカメラ画像を取得する工程(ステップS10)と、取得した複数のカメラ画像を、それぞれスペクトルに変換する工程(ステップS12)と、複数の前記スペクトルに基づいて、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を求める工程(ステップS14)と、を含むため、上述したように、例えばカメラと蛍光スクリーンとの位置関係等から幾何学的に蛍光スクリーンの有効範囲を求める場合と比べて、カメラ画像上における蛍光スクリーンの有効範囲を正確に求めることができる。
【0082】
また、本実施形態に係る測定方法は、各スペクトルの中心エネルギーEcおよび最大輝度位置に基づいて、カメラ画像上でのエネルギー軸を求める工程をさらに含むため、上述したように、例えばカメラと蛍光スクリーンとの位置関係等から幾何学的にカメラ画像上でのエネルギー軸を求める場合と比べて、カメラ画像上でのエネルギー軸を正確に求めることができる。
【0083】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0084】
例えば、上述した実施形態では、電子分光装置100が、X線を物質に照射することにより放出される電子をエネルギー分光するX線光電子分光装置である例について説明した
が、本発明に係る電子分光装置は、X線に限定されず、紫外線等の光を物質に照射することにより放出される電子をエネルギー分光する光電子分光装置であってもよい。また、本発明に係る電子分光装置は、電子線を物質に照射することにより放出されるオージェ電子をエネルギー分光するオージェ電子分光装置であってもよい。
【0085】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。