特許第6405308号(P6405308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6405308キメラKSACタンパク質の発現及び高圧により可溶性タンパク質を製造する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405308
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】キメラKSACタンパク質の発現及び高圧により可溶性タンパク質を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/00 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
   C12P21/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-530070(P2015-530070)
(86)(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公表番号】特表2015-528466(P2015-528466A)
(43)【公表日】2015年9月28日
(86)【国際出願番号】US2013057430
(87)【国際公開番号】WO2014036349
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年6月23日
(31)【優先権主張番号】61/830,425
(32)【優先日】2013年6月3日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/694,968
(32)【優先日】2012年8月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515136856
【氏名又は名称】メリアル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【弁理士】
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー ローラン ベルナール
(72)【発明者】
【氏名】カルブレック ニコラ ピエール イヴ
(72)【発明者】
【氏名】リュクス ファビアン
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−530651(JP,A)
【文献】 Process Biochemistry, 2013.Feb., Vol. 48, No. 2, pp. 250-259
【文献】 Process Biochemistry, 2011, Vol. 46, pp. 512-518
【文献】 Biotechnol.Prog., 2011, Vol. 27, No. 5, pp. 1273-1281
【文献】 Protein Expression and Purification, 2007, Vol. 55, pp. 209-224
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原核細胞又は真核細胞で発現された可溶性タンパク質を製造する方法であって、(i)0Mから7Mの濃度の尿素を含む緩衝液中で封入体を調製して封入体懸濁物を形成させる工程、(ii)該封入体懸濁物をある時間にわたって階段的圧上昇に付す工程、及び(iii)該封入体に適用された2000バールから5000バールの範囲の圧力をある時間の間維持する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
緩衝液がさらにDTTを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
封入体が20時間から100時間の間2000バールから5000バールの範囲の圧力に付される、請求項に記載の方法。
【請求項4】
DTT濃度が1mMから100mMである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
さらに減圧工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
減圧が83バール/hr−125バール/hrの速度である、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互引用
本出願は、米国仮特許出願61/694,968(2012年8月30日出願)及び米国仮特許出願61/830,425(2013年6月3日出願)の優先権を主張する。
本発明の分野
本発明は、動物又はヒトのリーシュマニア感染と戦う処方物に関する。とりわけ、本発明は、キメラリーシュマニア抗原を含む医薬組成物及びリーシュマニアに対するワクチン免疫の方法を提供する。本発明はまた、高圧を用いる可溶性又は脱凝集タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リーシュマニア症は、ヒト、イヌ科の動物及びより軽度にネコ科の動物が罹患する主要かつ重篤な寄生性疾患である。
リーシュマニア(Leishmania)及びビアンニア(Viannia)亜属は、分子的、生化学的及び免疫学的類似性を基準にして種及び複合種(complexes of species)に分類される。その臨床所見によって命名されたいくつかの病型が存在し、皮膚リーシュマニア症、粘膜皮膚リーシュマニア症又は内蔵リーシュマニア症が含まれる。これら病型の各々は、世界の種々の地域で見出される異なる種のサシチョウバエによって引き起こされる。ヒトの皮膚リーシュマニア症は、旧世界ではL.エチオピカ(L. aethiopica)、L.メージャー(L. major)及びL.トロピカ(L. tropica)複合種、新世界ではL.メキシカーナ(L. mexicana)及びL.ブラジリエンシス(L. braziliensis)複合種のメンバーと密接に関係する。内蔵リーシュマニアは、旧世界ではL.ドノバニ(L. donovani)及びL.インファンツム(L. infantum)によって引き起こされるが、新世界ではL.チャガシ(L. chagasi)が主として内臓疾患に呼応する。L.インファンツムがイヌのリーシュマニア症に密接に関係する主要な因子であるので、イヌの感染は、それらが内臓疾患及び皮膚疾患の両方を引き起こす傾向があるにもかかわらずしばしば内蔵型とみなされる。
内蔵リーシュマニア症因子は原生動物性寄生生物であり、リーシュマニア・ドノバニ複合種に属する。この寄生生物は、ヨーロッパ南部、アフリカ、アジア、南アメリカ及び中央アメリカの温帯及び亜熱帯の国々に広く分布する(Desjeux P. et al., 1984, Nucl. Acids Res., 12:387-395)。リーシュマニア・ドノバニ・インファンツム(L.インファンツム)は、南部ヨーロッパ、アフリカ及びアジアではネコ及びイヌの疾患に呼応する。南アメリカ及び中央アメリカでは、該因子はリーシュマニア・ドノバニ・チャガシ(L.チャガシ)であり、前記はL.インファンツムと近縁である。ヒトでは、該因子は、リーシュマニア・ドノバニ・ドノバニ(L.ドノバニ)であり、前記はまたL.インファンツム及びL.チャガシと関係がある。
【0003】
リーシュマニア症はゆっくりと進行する疾患であり、臨床的に明らかになるまで7年まで要し得る(McConkey SE et al., 2002, Canine Vet J 43:607-609)。そのときですら、症候はしばしば非特異的であり、リーシュマニアの診断はほとんど考慮されない。イヌはL.インファンツム(L.ドノバニ複合種)にもっとも一般的に感染し、前記は人間では内蔵向性症に呼応する。しかしながら、感染犬の90%までが内蔵病巣及び皮膚病巣の両方を提示する(Slappendel RJ et al., 1998, In: Greene CE: Infectious Diseases of the Dog and Cat, pp450-458)。他方、多くのイヌがこの寄生生物に自然界で耐性であるらしく、感染が判明しているにもかかわらず無症候性を維持することがある(Grosjean NL et al., 2002, Vet Rec 150:241-244)。常在地域に生息するイヌの10%のみが実際に臨床症状を生じると概算される(Lindsay DS et al., 2002, Compend Cont Educ Pract Vet 24:304-312)。このより低い臨床症状発生率は、ある種のイヌは液性応答より強い防御性細胞媒介免疫応答を生じるという遺伝的素因に帰せられる(Lindsay DS et al., McConkey SE et al., Slappendel RJ, et al.)。さらにまた、感染したイヌの20%までが適切な免疫応答を生じ、臨床的病状から偶発的に回復し得ると報告された(McConkey SE et al.)。液性応答を生じた動物では、IgG1は臨床症状と相関するようであり、一方、無症候性のイヌはより高いIgG2抗体レベルを有する(Lindsay et al.)。
【0004】
さらにしばしば報告されるリーシュマニア症の臨床徴候のいくつかには、倦怠、疲労及び運動不耐性が含まれ、前記は最終的には消耗病に至る食欲不振及び体重減少を伴う(McConkey SE et al.)。これらの徴候は、発熱、局所性及び全身性リンパ節腫脹症(90%)、及び/又は肝脾腫大症を伴うことも伴わないこともある(Grosjean NL et al., 2003, J Am Vet Med Assoc 222:603-606;Lindsay DS et al.,;McConkey SE et al.;Martinez-Subiela S et al., 2002, Vet Rec 150:241-244)。関節の合併症もまたそこそこ一般的であり、関節の腫脹を伴う跛行又は単に硬直的歩行を提示し得る。より少ない所見には、眼の病巣(<5%)、慢性下痢(30%)、及び長く変形し脆くなった爪(爪鉤弯症と称される)(20%)が含まれる(Lindsay DS et al., Slappendel RJ et al.)。皮膚病巣は、80%までの感染犬で提示され、内蔵合併症の明白な徴候を伴う場合と伴わない場合がある。皮膚リーシュマニア症の病巣は身体のいずれの場所でも生じ得るが、もっとも一般的な部位は、環境に曝露され、したがってサシチョウバエにより刺されやすい部位である。初期丘疹は迅速に潰瘍を生じる。内蔵リーシュマニア症は、適切に処置されなければ常に致死性である。内蔵リーシュマニア症は体内の器官、特に脾臓及び肝臓を冒す。
イヌはリーシュマニア症の主要な保菌動物と考えられる。該疾患は、感染動物の50%未満で発生する内蔵皮膚症候の慢性的進展を特徴とする(Lanotte G. et al., 1979, Ann. Parasitol. Hum. Comp. 54:277-95)。検出可能な抗体を有する無症候性犬及び症候性犬の両方が感染力を有し得る(Molina R. et al., 1994, Trans. R. Soc. Med. Hyg. 88:491-3;Courtenay O. et al., 2002, J. Infect. Dis., 186:1314-20)。ネコもまた該原生動物性寄生生物のキャリアであり、したがって第二の潜在的な保菌動物と考えられる。
【0005】
多くの因子のために、イヌのリーシュマニア症の治療選択肢及び治療法に対する応答はせいぜい限定的である。未だ判然としないいくつかの理由のために、内蔵リーシュマニア症はヒトよりもイヌで治療が困難である。いずれの治療選択肢も寄生生物感染の一掃に100%有効というわけではなく、臨床症状は治療の中止とともにしばしば再出現する(Lindsay DS et al.)。常在地域では、もっとも一般的な治療レジメンは、アロプリノールと5価アンチモン製剤(例えばメグルミンアンチモナイト又はスチボグルコネートナトリウム)との併用であった(Lindsay DS et al.;Slappendel RJ et al.)。しかしながら近年では、このプロトコルは、該寄生生物の薬剤耐性の増加或いはこれら化合物に付随する有害な副作用のために好まれなくなった(Lindsay DS et al.)。治療選択肢の更なる制限のために、PENTOSTAM(商標)(スチボグルコネートナトリウム)が米国で唯一の利用可能なアンチモン製剤であり、その配布はアメリカ疾病管理予防センター(CDC)(Atlanta, GA)によって規制されている(Lindsay DS et al.)。別の研究では、例えば抗原融合ポリペプチドの投与によるリーシュマニア症の予防及び治療方法が探索された(US2009/0291099を参照されたい(前記文献は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる))。
【0006】
種々のプロトコルが試行されたが、寄生生物感染の一掃又は臨床症状の再発の予防でより有効でないことが判明した。さらにまた、各プロトコルはそれぞれ潜在的な副作用を伴う。アンホテリシンBはステロールと結合し、細胞膜透過性を破壊するが、腎障害性を有する(Lindsay DS et al.)。非経口的に投与されたとき、パラモマイシンはアンチモン製剤と相助的に作用してより長期にわたってより高レベルのアンチモン製剤をもたらすが、腎障害もまた引き起こし、これまでのところ臨床的使用は推奨されていない(Lindsay DS et al.)。ペンタミジンイソチオネートはリーシュマニア症に対して有効であるが、少なくとも15回の筋肉内注射を必要とし強い痛みを伴う(Lindsay DS et al.)。ケタコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール及びイトラコナゾールは経口薬であり、本疾病の抑制に有用であり得るが値段が法外で、患者を対症療法的に治療するとき薬剤耐性リスクを有する。要約すれば、イヌのリーシュマニア症に対して多様な治療レジメンが研究されてきたが、100%有効なものはなく、再発は例外というより常態である。結局、獣医師は、米国内でこの寄生生物の薬剤耐性株の発生を覚悟して、イヌのリーシュマニア症の症状の大発生を治療するというジレンマに向き合う。
【0007】
血清陽性のイヌの集団検出とその後に続く間引き及び/又は薬剤治療、又はデルタメトリン浸漬カラーの集団適用は、南部ヨーロッパ、アフリカ及びアジアの常在地域におけるヒト及びイヌのリーシュマニア症の蔓延の減少に劇的な影響を有することが示されたが(Maroli M. et al., 2001, Med. Vet. Entomol. 15:358-63;Mazloumi Gavgani A.S. et al., 2002, Lancet 360:374-9)、ただし血清陽性のイヌの排除の有効性には論争があった(Dietze R. et al., 1997, Clin. Infect. Dis. 25:1240-2;Moreira Jr. E.D. et al., 2004, Vet. Parasitol. 122:245-52)。これらの制御手段は、許容不能であるか、高価であるか又は有効ではないと考えられた(Gradoni L. et al., 2005, Vaccine 23:5245-51)。
リーシュマニア症制御のための多様なツールの有効性を比較するために用いられる数学モデルはイヌワクチンがもっとも実際的で有効な方法であり得ることを示唆している(Dye C., 1996, Am. J. Trop. Med. Hyg. 55:125-30)。したがって、リーシュマニア症からイヌを防御し及び/又は感染動物で疾患の進行を予防することができるワクチンの開発は、リーシュマニア症制御プログラムのために、さらにまた獣医コミュニティーのためにも希求される(Gradoni L. et al.)。
Haynesら(Biotechnol. Prog., 2010, Vol. 26, No. 3, 743-749)は、大腸菌(E. coli)封入体で産生された成長ホルモン(GH)の高い溶解性及び高い再折畳み能力の獲得を達成するために高い静水圧の使用を考察している。US6,489,450、US7,064,192、US7,767,795及びUS7,615,617は、高圧適用による変性タンパク質の凝集の逆行及び再折畳みの向上を開示している。
リーシュマニア治療用サブユニット(タンパク質)ワクチンを製造する有効で効率的な方法に対する要望はなお存在する。本発明のワクチン処方物及びそのようなワクチンを製造する方法は、当業界のこの長きにわたる要望を満たす。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、大腸菌封入体で発現されるキメラKSACタンパク質は高圧処理後に実質的に可溶化されさらに再折畳みされることを初めて明らかにした。
本発明は、高圧下での封入体の長時間処理と一体にした階段的圧上昇の適用によって、高収量の、可溶性で、脱凝集されており、再折畳みされ、さらに活性を有するタンパク質が製造されるという驚くべき結果を示した。
キメラKSACタンパク質を含む組成物及びワクチンが提供される。そのようなワクチン又は組成物を用いて動物をワクチン免疫し、リーシュマニア症に対する防御を提供できる。KSACタンパク質は大腸菌の封入体で発現させることができ、続いて高圧処理によって可溶化される。KSACタンパク質は免疫原性及び防御性特性を有する。
本発明の方法は、可溶性で脱凝集され再折畳みされた又は活性を有するタンパク質を長時間の高圧下で封入体から作製及び製造する方法を含む。本方法にはまた、防御性免疫原性応答を誘引するためにその抗原性KSACタンパク質の有効量を動物に投与する工程を含む使用方法が含まれる。
【0009】
以下の詳細な説明(例示として提供され、記載した特定の実施態様に本発明を限定しようとするものではない)は、添付の図面(参照により本明細書に組み入れられる)と一緒にして理解できるであろう。図は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各DNA及びタンパク質に割り当てられた配列番号を示す表である。
図2A】2A−2CはDNA及びタンパク質配列を示す。
図2B】2A−2CはDNA及びタンパク質配列を示す。
図2C】2A−2CはDNA及びタンパク質配列を示す。
図2D】2A−2CはDNA及びタンパク質配列を示す。
図3】KSAC封入体処理の圧力及び時間を示すグラフである。
図4】高圧処理と古典的クロマトグラフィー再折畳みの比較を示す模式図である。
図5】KSAC再折畳みプロセスを示すグラフである。
図6】排除クロマトグラフィーにより再折畳みされたKSACのSDS-PAGEを示す。
図7】排除クロマトグラフィーにより再折畳みされたKSACのHPLCプロットを示す。
図8A】8A及び8Bは、排除クロマトグラフィーを用いて再折畳みされたKSACタンパク質の動的光散乱法(DLS)を示す。
図8B】8A及び8Bは、排除クロマトグラフィーを用いて再折畳みされたKSACタンパク質の動的光散乱法(DLS)を示す。
図9】3000バールで処理したKSACサンプルのQdot-blotを示す。
図10】3000バールで処理したKSACサンプルのSDS-PAGEを示す。
図11】3000バール処理後のコントロールサンプル及び可溶化KSACのHPLCを示す。
図12】3000バール圧処理KSACサンプルの上清と古典的再折畳みプロセスで得られたKSACタンパク質のHPLCクロマトグラフィー図の重ね合わせを示す。
図13】無尿素緩衝液中での3000バール加圧タンパク質と古典的再折畳みプロセスで得られたタンパク質のDLSデータの重ね合わせを示す。
図14】タンパク質サイズにおける圧力と緩衝液の影響を示す。
図15】4000バール処理サンプルのHPLCクロマトグラフィー図を示す。
図16】尿素を含まない5000バール処理サンプルの数によるDLSサイズ分布を示す。
図17】HPLC及びQdot-blotによって測定したKSAC可溶性タンパク質含有量の比較を示す。
図18A】18A及び18Bは高圧処理後のKSACサンプルのSDS-PAGE分析を示す。
図18B】18A及び18Bは高圧処理後のKSACサンプルのSDS-PAGE分析を示す。
図19A】19A−19Dは高圧処理後のKSACサンプルのQdot-blot分析を示す。
図19B】19A−19Dは高圧処理後のKSACサンプルのQdot-blot分析を示す。
図19C】19A−19Dは高圧処理後のKSACサンプルのQdot-blot分析を示す。
図19D】19A−19Dは高圧処理後のKSACサンプルのQdot-blot分析を示す。
図20】プロセスA処理後のKSACサンプルのHPLC分析を示す。
図21】プロセスB処理後のKSACサンプルのHPLC分析を示す。
図22】プロセスA、プロセスB及び古典的プロセス処理後のKSACサンプルのHPLC分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示及び特に特許請求の範囲では以下の事柄が特筆される:例えば“comprises”、“comprised”、“comprising”などの用語は、米国特許法で前記に帰属せしめられた意味を有することができ、例えばそれらは、“includes”、“included”、“including”などを意味することができる;さらに例えば“実質的に〜からなり”及び“実質的に〜からなる”という用語は、米国特許法でそれらに帰すべきとされた意味を有し、例えばそれらは明確に列挙されていない成分を許容するが、従来技術で見出されているか又は本発明の基本的若しくは新規な特徴に影響を及ぼす成分を除外する。
特段の記載がなければ、技術用語は通常的慣習にしたがって用いられる。分子生物学における一般的な用語の定義は以下で見出すことができる:Benjamin Lewin, Genes V. published by Oxford University Press, 1994 (ISBN 0-19-854287-9);Kendrew et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology, published by Blackwell Science Ltd., 1994 (ISBN 0-632-02182-9);及びRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, published by VCH Publishers, Inc., 1995 (ISBN 1-56081-569-8)。単数用語“a”、“an”及び“the”は、文脈が明らかにそうでないことを示していないかぎり複数の対応語を含む。同様に、“または”という語は、文脈が明らかにそうでないことを示していないかぎり“および”を含む。“または”という語は、個々のリストの任意の1つのメンバーを意味し、さらに当該リストのメンバーの任意の組み合わせもまた含む。
【0012】
“動物”という用語は本明細書では全ての哺乳動物、鳥類及び魚類を含むために用いられる。本明細書で用いられる動物は以下から成る群から選択できる:ウマ科の動物(例えばウマ)、イヌ科の動物(例えばイヌ、オオカミ、キツネ、コヨーテ、ジャッカル)、ネコ科の動物(例えばライオン、トラ、家ネコ、野生ネコ、他の大型のネコ及び他のネコ科の動物(チーター及びオオヤマネコを含む))、ウシ科の動物(例えばウシ)、イノシシ属の動物(例えばブタ)、ヒツジ属の動物(例えばヒツジ、ヤギ、ラマ、バイソン)、鳥類(例えばニワトリ、アヒル、ガン、シチメンチョウ、ウズラ、キジ、オウム、フィンチ、タカ、カラス、ダチョウ、エミュ及びヒクイドリ)、霊長類(例えば原猿、メガネザル、小型サル、テナガザル、類人猿)、ヒト及び魚類。“動物”という用語はまた、発生の全段階(胚性期及び胎児期を含む)における個々の動物を含む。
【0013】
“ポリペプチド”及び“タンパク質”という用語は本明細書では互換的に用いられ、連続するアミノ酸残基のポリマーを指す。
“核酸”、“ヌクレオチド”及び“ポリヌクレオチド”という用語は互換的に用いられ、RNA、DNA、cDNA、又はcRNA、及びその誘導体(例えば改変骨格を含むもの)を指す。本発明は、本明細書に記載するものと相補的な配列を含むポリヌクレオチドを提供することは理解されよう。本発明で意図される“ポリヌクレオチド”は、フォワード鎖(5’から3’)及び相補的なリバース鎖(3’から5’)を含む。本発明のポリヌクレオチドは種々の態様(例えば化学合成、遺伝子クローニングなどによって)で調製でき、多様な形態をもつことができる(例えば直鎖状若しくは分枝状、一本鎖若しくは二本鎖又はそのハイブリッド、プライマー、プローブなど)。
“ゲノムDNA”又は“ゲノム”という用語は互換的に用いられ、宿主生物の遺伝し得る遺伝情報を指す。ゲノムDNAは核のDNA(染色体DNAとも称される)を含むが、プラスチド(例えば葉緑体)及び他の細胞内小器官(例えばミトコンドリア)のDNAもまた含む。本発明で意図されるゲノムDNA又はゲノムはまたウイルスのRNAを指す。該RNAはプラス鎖RNAでもマイナス鎖RNAでもよい。本発明で意図される“ゲノムDNA”という用語には本明細書に記載したものと相補的な配列を含むゲノムDNAが含まれる。“ゲノムDNA”という用語はまたメッセンジャーRNA(mRNA)、相補性DNA(cDNA)及び相補性RNA(cRNA)を指す。
【0014】
“遺伝子”という用語は、生物学的機能に密接に関係するポリヌクレオチドの任意のセグメントを指すために広く用いられる。したがって、遺伝子又はポリヌクレオチドは、ゲノム配列のようにイントロン及びエクソンを含むか、又はcDNAのように単にコード配列を含む(例えば開始コドン(メチオニンコドン)から開始し終結シグナル(停止コドン)で終わるオープンリーディングフレーム)。遺伝子及びポリヌクレオチドはまたそれらの発現を調節する領域、例えば転写開始、翻訳及び転写終結を含むことができる。したがって、含まれるものはまた、プロモーター及びリボソーム結合領域(一般的にはこれらの調節エレメントはコード配列又は遺伝子の開始コドンのほぼ60から250ヌクレオチド上流に存在する(Doree S M et al.;Pandher K et al.;Chung J Y et al.))、転写ターミネーター(一般的にターミネーターはコード配列又は遺伝子の停止コドンのほぼ50ヌクレオチド下流内に位置する(Ward C K et al.))である。遺伝子又はポリヌクレオチドはまた、mRNA又は機能的RNAを発現するか又は固有のタンパク質をコードし、調節配列を含む核酸フラグメントを指す。
本明細書で用いられる“異種DNA”という用語は、レシピエントとは異なる生物(例えば異なる細胞タイプ又は異なる種)に由来するDNAを指す。前記用語はまた、宿主DNAの同じゲノム上のDNA又はそのフラグメントを指し、ここで該異種DNAはその本来の位置とは異なるゲノム領域に挿入される。
【0015】
本明細書で用いられるように、“抗原”又は“免疫原”は、宿主動物で特異的な免疫応答を誘発する物質を意味する。抗原は、全生物(殺滅、弱毒化又は生);ある生物のサブユニット又は部分;免疫原性特性を有する挿入物を含む組換えベクター;宿主動物への提示に際して免疫応答を誘発できるDNAの断片又はフラグメント;ポリペプチド、エピトープ、ハプテン、又はその任意の組み合わせを含むことができる。或いは、免疫原又は抗原は毒素又は抗毒素を含むことができる。
本明細書で用いられる“免疫原性タンパク質又はペプチド”という用語は、宿主にいったん投与されたら、当該タンパク質に対抗する液性及び/又は細胞性型の免疫応答を惹起できるという意味で免疫学的に活性なポリペプチドを含む。好ましくは、該タンパク質フラグメントは、それが完全なタンパク質と実質的に同じ免疫学的活性を有するものである。したがって、本発明のタンパク質フラグメントは、少なくとも1つのエピトープ又は抗原決定基を含むか、又は実質的にそれらから成るか、又はそれらから成る。本明細書で用いられる“免疫原性”タンパク質又はポリペプチドには、該タンパク質の完全長配列、そのアナローグ、その免疫原性フラグメントが含まれる。“免疫原性フラグメント”とは、1つ以上のエピトープを含み、したがって上記に記載の免疫学的応答を誘引するタンパク質フラグメントを意味する。そのようなフラグメントは、当業界で周知の多数のエピトープマッピング技術を用いて同定できる。
【0016】
“免疫原性タンパク質又はペプチド”という用語はさらに当該配列への欠失、付加及び置換を意図するが、ただし該ポリペプチドが機能して本明細書に規定の免疫学的応答を生じる場合に限る。“保存的変異”という用語は、別の生物学的に類似する残基によるあるアミノ酸残基の取替え、又はコードされたアミノ酸残基が変化しないか若しくは別の生物学的に類似の残基であるような核酸配列中のヌクレオチドの取替えを意味する。これに関しては、特に好ましい置換は一般的に性質が保存的である、すなわち1つのアミノ酸ファミリー内で生じるような置換であろう。例えば、アミノ酸は一般的に以下の4つのファミリーに分類される:(1)酸性:アスパラギン酸及びグルタミン酸;(2)塩基性:リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性:アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;及び(4)非荷電極性:グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン。フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンは時には芳香族アミノ酸として分類される。保存的変異の例には以下が含まれる:ある疎水性残基(例えばイソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニン)による別の疎水性残基の置換、又はある極性残基による別の極性残基の置換(例えばアルギニンによるリジンの置換、グルタミン酸によるアスパラギン酸の置換、又はグルタミンによるアスパラギンの置換など);又は、生物学的活性に大きな影響をもたない構造的に関連するアミノ酸によるアミノ酸の保存的取替え。参照分子と実質的に同じアミノ酸配列を有するが該タンパク質の免疫原性に実質的に影響を及ぼさないわずかなアミノ酸置換を有するタンパク質は、したがって参照ポリペプチドの定義内である。これらの改変によって生じるポリペプチドは全てがここに含まれる。“保存的変異”という用語はまた、置換されていない親アミノ酸の代わりの置換されたアミノ酸の使用を含むが、ただし該置換ポリペプチドに対して生じた抗体がまた該非置換ポリペプチドと免疫反応することを条件とする。
【0017】
“エピトープ”という用語は、特異的なB細胞及び/又はT細胞が応答する抗原又はハプテン上の部位を指す。前記用語はまた“抗原性決定基”又は“抗原性決定部位”と互換的に用いられる。同じエピトープを認識する抗体は、標的抗原に対する別の抗体の結合を阻止するある抗体の能力を表示する単純な免疫アッセイで認定できる。
組成物又はワクチンに対する“免疫学的応答”は、対象の組成物又はワクチンに対する細胞性及び/又は抗体媒介免疫応答の宿主における発生である。通常、“免疫学的応答”には以下の作用の1つ以上が含まれる(ただしこれらに限定されない):対象の組成物又はワクチンに含まれる1つの抗原又は複数の抗原に特異的に向かう抗体、B細胞、ヘルパーT細胞及び/又は細胞傷害性T細胞の産生。好ましくは、宿主は治療的又は予防的免疫学的応答のどちらかを示し、それにより新規感染に対する耐性が強化され及び/又は当該疾患の症状の重篤度が緩和されるであろう。そのような防御は、感染宿主によって通常示される症候の緩和若しくは欠如、より迅速な回復時間及び/又は感染宿主におけるより低いウイルス力価によって明示されるであろう。
“組換え体”及び“遺伝的に改変された”という用語は互換的に用いられ、ポリヌクレオチド又はタンパク質のその本来の形態若しくは構造における任意の改変、変更若しくは操作、又はポリヌクレオチド又はタンパク質のその本来の環境若しくは周囲の状況における任意の改変、変更若しくは操作を指す。ポリヌクレオチド又はタンパク質の該改変、変更若しくは操作には、1つ以上のヌクレオチド若しくはアミノ酸の欠失、全遺伝子の欠失、遺伝子のコドン最適化、アミノ酸の保存的置換、1つ以上の異種ポリヌクレオチドの挿入が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
【0018】
本明細書で用いられる“封入体”という用語は、原核細胞又は真核細胞で発現された異種タンパク質の活性のない凝集物を指す。“実質的に可溶性”、“実質的に可溶化された”、“実質的に脱凝集された”、又は“実質的に再折畳みされた”という用語は本明細書では互換的に用いられて封入体中の凝集タンパク質を指し、処理後には水溶液中で少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも98%可溶性であるか、又は脱凝集されるか、又は活性形に再折畳みされる。再折畳みは、完全に又は部分的に変性したタンパク質が、本来の分子の構造と類似する二次元、三次元又は四次元構造を採ることを意味する。
本発明のある実施態様は、大腸菌で産生されたタンパク質を含む組成物又はワクチンを提供する。該タンパク質は、キネトプラスチド膜タンパク質11(KMP11)、ステロールメチルトランスフェラーゼ(SMT)、A2及びシステインプロテイナーゼ(CP)から選択されるリーシュマニアタンパク質の2つ又は3つ以上の免疫原性部分を含む融合タンパク質であり得る。該タンパク質は、リーシュマニアKMP11、SMT、A2及びCPを含む融合タンパク質(キメラKSACタンパク質と称される)であり得る。この実施態様のある特徴では、該KSACタンパク質は大腸菌封入体から高圧によって可溶化される。別の特徴では、KSACタンパク質は水溶液中で実質的に可溶性であるか、又は実質的に再折畳みされる。
【0019】
さらにまた、上述のタンパク質又はポリヌクレオチドのホモローグは本発明の範囲内であることが意図される。本明細書で用いられるように、“ホモローグ”という用語はオルトローグ、アナローグ及びパラローグを含む。“アナローグ”という用語は、同じ又は類似の機能を有するが、無関係の生物で別々に進化した2つのポリヌクレオチド又はポリペプチドを指す。“オルトローグ”という用語は、異なる種に由来するが種形成によって共通の祖先遺伝子から進化した2つのポリヌクレオチド又はポリペプチドを指す。オルトローグは通常同じ又は類似の機能を有するポリペプチドをコードする。“パラローグ”という用語は、ゲノム内での複製によって関連を有する2つのポリヌクレオチド又はポリペプチドを指す。パラローグは通常異なる機能を有するが、これらの機能は関係を有することがある。野生型ポリペプチドのアナローグ、オルトローグ及びパラローグは、翻訳後改変、アミノ酸配列の相違、又はその両方によって野生型ポリペプチドと異なり得る。特に、本発明のホモローグは一般的に、上記に記載のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列の全部又は部分に関して少なくとも80−85%、85−90%、90−95%、又は95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を示し、さらに類似の機能を示すであろう。
【0020】
ある実施態様では、キメラKSACタンパク質は、配列番号:2に示す配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。別の実施態様では、キメラKSACタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号:2に示す配列を有するポリペプチドと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。さらに別の実施態様では、KSACコードポリヌクレオチドは、配列番号:1に示す配列を有するポリヌクレオチドと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
配列に関して“同一性”という用語は、例えば2つの配列の短いほうのヌクレオチド又はアミノ酸の数で割った、同一のヌクレオチド又はアミノ酸を有する位置の数を指すことができる(ここで2つの配列のアラインメントはウィルバーとリップマンのアルゴリズム(Wilbur and Lipman)にしたがって決定できる)。2つのアミノ酸配列の配列同一性若しくは配列類似性、又は2つのヌクレオチド配列間の配列同一性は、ベクターNTIソフトウェアパッケージ(Invitrogen, 1600 Faraday Ave., Carlsbad, CA)を用いて決定できる。RNA配列が、DNA配列と類似性を有するか又はある程度の配列同一性若しくは相同性を有するというとき、DNA配列中のチミジン(T)はRNA配列中のウラシル(U)と等価と考えられる。したがって、RNA配列は本発明の範囲内にあり、DNA配列中のチミジン(T)をRNA配列中のウラシル(U)と等価と考えることによってDNA配列から導くことができる。
【0021】
開示のポリヌクレオチドは、遺伝暗号、例えば特定の宿主の最適化コドン使用頻度の結果として縮退である配列を含む。本明細書で用いられるように、“最適化”は、与えられた種でその発現が増加するように遺伝的に操作されたポリヌクレオチドを指す。KSACポリペプチドをコードする最適化ポリヌクレオチドを提供するために、KSACタンパク質遺伝子のDNA配列は、1)特定の種で高度に発現される遺伝子が好むコドンを含むように;2)ヌクレオチド塩基組成において前記種で実質的に見出されるA+T又はG+C含量を含むように;3)前記種の開始配列を含むように;4)RNAの脱安定化、不適切なポリアデニル化、分解及び終結を引き起こす配列、又は二次構造ヘアピン若しくはRNAスプライス部位を形成する配列を排除するように改変することができる。前記の種におけるKSACタンパク質の発現増加は、原核細胞及び真核細胞又は特定の種におけるコドン使用頻度分布を利用することによって達成できる。“優先コドン使用頻度”という用語は、あるアミノ酸を指定するヌクレオチドコドンの特定宿主細胞における使用頻度によって示される優先性を指す。20の天然のアミノ酸があり、それらの大半は2つ以上のコドンによって指定される。したがって、全ての縮退ヌクレオチド配列が本開示に含まれるが、ただし当該ヌクレオチド配列によってコードされるKSACポリペプチドのアミノ酸配列が機能的に変化しない場合に限られる。
【0022】
別の実施態様では、本発明は、原核細胞又は真核細胞で発現された可溶性の、脱凝集され、再折畳みされた又は活性を有するタンパク質を製造する方法を提供し、前記方法は、(i)尿素を含まないか又は低濃度の尿素を含む緩衝液中で封入体を調製して封入体懸濁物を形成させる工程;及び(ii)該封入体懸濁物をある時間の間高圧に付す工程を含む。
さらに別の実施態様では、本発明は、原核細胞又は真核細胞で発現された可溶性の、脱凝集され、再折畳みされた又は活性を有するタンパク質を製造する方法を提供し、前記方法は、(i)尿素を含まないか又は低濃度の尿素を含む緩衝液中で該封入体を調製して封入体懸濁物を形成させる工程、(ii)該封入体懸濁物をある時間にわたって漸進的な圧上昇に付す工程、及び(iii)該封入体に適用された高圧をある時間の間維持する工程を含む。
該実施態様のある特徴では、緩衝液はジチオスレイトール(DTT)を含む。別の特徴では、DTT濃度は、約1mMから約100mM、約1mMから約90mM、約1mMから約70mM、約1mMから約60mM、約1mMから約50mM、又は約1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM、60mM、65mM、70mM、80mM、85mM、90mM、95mM、100mMの範囲であり得る。
【0023】
ある特徴では、尿素は該緩衝液中に存在しなくてもよい。別の特徴では、尿素は該緩衝液中に約1M、約2M、約3M、約4M、約5M、約6M、約7M、約8M、約9M及び約10Mの濃度で存在し得る。
該実施態様の別の特徴では、高圧は、約1000バールから約5000バール、約2000バールから約4000バールの範囲にあり得る。高圧は、約2000バールから約4000バールの範囲の任意の圧、例えば2000バール、2100バール、2200バール、2300バール、2400バール、2500バール、2600バール、2700バール、2800バール、2900バール、3000バール、3100バール、3200バール、3300バール、3400バール、3500バール、3600バール、3700バール、3800バール、3900バール、及び4000バールであり得るが、ただし前記に限定されない。
【0024】
該実施態様の別の特徴では、漸進的な圧上昇は連続的に又は階段的に実施され得る。ある特徴では、漸進的な圧上昇は、所望される最後の高圧に達するまである時間にわたって一定の速度で連続的に圧を上昇させることによって封入体懸濁物に適用される。例えば、圧は、約200バール/分−約1000バール/分の速度で連続的に約2分−約10分にわたって2000バールに達するまで、約200バール/分−約1000バール/分の速度で連続的に約3分−約15分にわたって3000バールに達するまで、約200バール/分−約1000バール/分の速度で連続的に約4分−約20分にわたって4000バールに達するまで、約200バール/分−約1000バール/分の速度で連続的に約5分−約25分にわたって5000バールに達するまで上昇させる。別の特徴では、漸進的な圧上昇は階段的に適用される。例えば、圧を約1000バール/分で約1分間上昇させて1000バールに到達させ、続いて1000バールの圧を約1時間維持して該タンパク質を弛緩させ、該弛緩時間の後で圧を再び約1000バール/分で約1分間上昇させて所望される最後の2000バールの高圧に到達させる。圧はまた約1000バール/分で約30秒間上昇させて500バールに到達させ、この500バールの圧を約1時間維持して該タンパク質を弛緩させ、続いて圧を約1000バール/分で約30秒間再び上昇させて1000バールに到達させ、1000バールの圧を約1時間維持して該タンパク質を弛緩させ、圧を約1000バール/分で約30秒間再び上昇させて1500バールに到達させ、1500バールの圧を約1時間維持して該タンパク質を弛緩させ、続いて圧を約1000バール/分で再び上昇させて所望される最後の2000バールの圧に到達させる。3000バール、4000バール、及び5000バールの最後の所望高圧に到達させるために、約1000バール/分で約1分間又は約30秒間の同じ階段的圧上昇を中間の約1時間のタンパク質弛緩と合わせて用いることができる。例えば、3000バールの標的圧に到達させるためには、圧を約1000バール/分で約1分間上昇させ1000バールに到達させ、続いて1000バールの圧を約1時間維持してタンパク質を弛緩させ、この圧を約1000バール/分で約1分間再び上昇させ2000バールの圧に到達させ、続いて2000バールの圧を約1時間維持してこの第二の時間の間タンパク質を弛緩させ、この圧を約1000バール/分で約1分間再び上昇させ3000バールの最後の所望圧に到達させる。3000バールの標的圧に到達させるために、圧はまた約1000バール/分で約30秒間上昇させ、各500バールで1時間持続するプラトーを含むことができ、3000バールの標的圧に5時間後に到達させることができる。4000バールの最後の所望圧に到達させるためには、圧を約1000バール/分で約1分間上昇させ1000バールに到達させ、続いて1000バールの圧を約1時間維持してタンパク質を弛緩させ、この圧を約1000バール/分で約1分間再び上昇させ2000バールの圧に到達させ、続いて2000バールの圧を約1時間維持してこの第二の時間の間タンパク質を弛緩させ、この圧を約1000バール/分で約1分間再び上昇させ3000バールの最後の所望圧に到達させ、続いて3000バールの圧を約1時間維持してこの第三の時間の間タンパク質を弛緩させ、この圧を約1000バール/分で約1分間再び上昇させ4000バールの最後の所望圧に到達させる。4000バールの標的圧に到達させるために、圧はまた約1000バール/分で約30秒間上昇させ、各500バールで1時間持続するプラトーを含むことができ、4000バールの標的圧は7時間後に到達させることができる。
【0025】
封入体懸濁物は高圧下で約10時間から約100時間、約20時間から約100時間処理することができる。高圧処理は、好ましくは24時間より長く、例えば約25時間から約100時間、約25時間から約80時間、約25時間から約60時間、約25時間から約50時間、約25時間、約26時間、約27時間、約28時間、約29時間、約30時間、約31時間、約32時間、約33時間、約34時間、約35時間、約36時間、約37時間、約38時間、約39時間、約40時間、約41時間、約42時間、約43時間、約44時間、約45時間、約46時間、約47時間、約48時間、約49時間、約50時間である。
【0026】
別の実施態様では、本発明は以下の工程を含む、原核細胞又は真核細胞で発現された可溶性で脱凝集され再折畳みされた又は活性を有するタンパク質を製造する方法、を提供する:(i)封入体懸濁物を形成するために、尿素を含まないか又は低濃度の尿素を含む緩衝液中で該封入体を調製する工程、(ii)該封入体懸濁物をある時間にわたって漸進的圧上昇に付す工程、(iii)該封入体に適用された高圧をある時間の間維持する工程、及び(iv)減圧によって該タンパク質を回収する工程。
減圧は約83バール/hr−200バール/hrの速度で実施できる。
【0027】
本発明で意図される原核細胞には、アビバクテリウム(Avibacterium)、ブルセラ(Brucella)、大腸菌(Escherichia coli)、ヘモフィルス(Haemophilus)(例えばヘモフィルス・スイス(Haemophilus suis))、サルモネラ(Salmonella)(例えばサルモネラ・エンテリディス(Salmonella enteridis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・インファンチス(Salmonella infantis))、シゲラ(Shigella)、パスツレラ(Pasteurella)及びリメイレラ(Rimeirella)が含まれ得る。
真核細胞系では、多数の発現ベクターが選択され得る。そのようなベクターには以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):多機能性大腸菌クローニング発現ベクター、例えばPBLUESCRIPT(Stratagene);piNベクター(Van Heeke & Schuster, J. Biol. Chern. 264:5503-5509, 1989)など;PGEXベクター(Promega, Madison, Wis.)。真核細胞系では、細胞株は、酵母(例えばサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris))、バキュロウイルス細胞、哺乳動物細胞、植物細胞であり得る。真核細胞系の発現ベクターには以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):pVR1020又はpVT1012ベクター(Vical Inc., San Diego, CA)、ピキアピンクベクター(PichiaPink Vector)(Invitrogen, CA, USA)、pFasBac TOPOベクター(Invitrogen)。
【0028】
本発明で提供される、原核細胞又は真核細胞で発現された可溶性で脱凝集され再折畳みされた又は活性を有するタンパク質を製造する方法を用いて任意のタンパク質を可溶化できる。当該タンパク質には抗体及びインスリンが含まれ得る。
別の実施態様では、本発明は、上述のキメラKSACタンパク質及び医薬的に又は獣医的に許容できる担体、賦形剤、ビヒクル又はアジュバントを含む組成物又はワクチンを提供する。
該医薬的若しくは獣医的に許容できる担体又はアジュバント又はビヒクル又は賦形剤は当業者には周知である。本発明の方法で用いることができる、該医薬的若しくは獣医的に許容できる担体又はアジュバント又はビヒクル又は賦形剤には、0.9% NaCl(例えば生理食塩水)溶液又はリン酸緩衝液、ポリ-(L-グルタメート)又はポリビニルピロリドンが含まれる(ただしこれらに限定されない)。該医薬的若しくは獣医的に許容できる担体又はビヒクル又は賦形剤は、ベクター(又は本発明のベクターからin vitroで発現されたタンパク質)の投与を容易にする、又はトランスフェクション若しくは感染を促進する、又は該ベクター(又はタンパク質)の保存を改善する任意の化合物又は化合物の組み合わせであり得る。用量及び1用量の体積は一般的な説明として本明細書で考察され、さらに、当業者はまた当業界の知識とともに本開示を読み解くことにより煩雑な実験を行うことなくそれらを決定できる。
【0029】
場合によって他の化合物を医薬的若しくは獣医的に許容できる担体又はアジュバント又はビヒクル又は賦形剤として添加してもよい。それらには以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):ミョウバン;CpGオリゴヌクレオチド(ODN)、特にODN2006、2007、2059又は2135(Pontarollo R.A. et al., Vet. Immunol. Immunopath, 2002, 84: 43-59;Wernette C.M. et al., Vet. Immunol. Immunopath, 2002, 84: 223-236;Mutwiri G. et al., Vet. Immunol. Immunopath, 2003, 91: 89-103);ポリA-ポリU、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA)(“Vaccine Design The Subunit and Adjuvant Approach”, Michael F. Powell and Mark J. Newman(eds), Pharmaceutical Biotechnology, 6: p.03, p.157);N,N-ジオクタデシル-N’,N’-ビス(2-ヒドロキシエチル)プロパンジアミン(例えばAVRIDINE(商標))(上掲書p.148);カルボマー、キトサン(例えば米国特許5,980,912号を参照されたい)。
【0030】
本発明の医薬組成物又はワクチンは1つ以上のアジュバントを含むか又は本質的に前記から成る。本発明の実施で使用される適切なアジュバントは、(1)無水アクリル又はメタクリル酸とアルケニル誘導体ポリマーとのポリマー、(2)免疫刺激配列(ISS)、例えば1つ以上の非メチル化CpGユニットを有するオリゴデオキシリボヌクレオチド配列(Klinman et al., 1996;WO98/16247)、(3)水中油エマルジョン、例えば文献(“Vaccine Design, The Subunit and Adjuvant Approach”M. Powell, M. Newman(刊), Plenum Press 1995)の147ページに記載のSPTエマルジョン及び同書の183ページに記載のMF59エマルジョン、(4)第四アンモニウム塩を含む陽イオン脂質、例えばDDA、(5)サイトカイン、(6)水酸化アルミニウム又はリン酸アルミニウム、(7)サポニン、(8)本出願に引用され参照により組み入れられる任意の文書類で考察される他のアジュバント、又は(9)前記の任意の組み合わせ若しくは混合物。
ある実施態様では、アジュバント溶液、特にカルボマー溶液(Pharmeuropa, vol. 8, No.2, June 1996)は、蒸留水中で有利には塩化ナトリウムの存在下で調製され、得られた溶液は酸性pHである。このストック溶液は、NaClを添加した(有利には生理食塩水、NaCl 9g/L)所望量(所望の最終濃度を得るため)の水(又はその実質的部分)に前記ストック溶液をいくつかの部分に分け、いずれの場合も一度に添加することにより希釈され、同時に又は引き続いて有利にはNaOHで中和(pH 7.3〜7.4)される。生理学的pHのこの溶液はワクチンとの混合に用いられ、特に凍結乾燥、液体又は凍結形で保存できる。最終的なワクチン組成物におけるポリマー濃度は0.01%から2%w/v、0.06%から1%w/v、又は0.1%から0.6%w/vである。
【0031】
サブユニット(タンパク質)ワクチンは、アジュバント、例えば鉱物油及び/又は植物油を基剤にした水中油、水中油中水エマルジョン、及び非イオン性界面活性剤、例えばブロックコポリマー、TWEEN(商標)、SPAN(商標)と混合することができる。そのようなエマルジョンは、特に文献(“Vaccine Design - The Subunit and Adjuvant Approach”, Pharmaceutical Biotechnology, 1995)の147ページに記載されたもの、又はTSエマルジョン(特にTS6エマルジョン)、及びLFエマルジョン(特にLF2エマルジョン) である(TS及びLFエマルジョンの両方についてはWO04/024027を参照されたい)。他の適切なアジュバントは、例えばビタミンE、サポニン、及びCARBOPOL(商標)(Noveon;WO99/51269、WO99/44633を参照されたい)、水酸化アルミニウム又はリン酸化アルミニウム(“Vaccine Design, The subunit and adjuvant approach”, Pharmaceutical Biotechnology, vol. 6, 1995)、生物学的アジュバント、すなわちC4b(特にネズミC4b(Ogata RT et al.)又はウマC4b)、GM-CSF(特にウマGS-CSF(US6,645,740))、毒素(すなわちコレラ毒素CTA又はCTB、大腸菌易熱性毒素LTA又はLTB(Olsen C W et al.;Fingerut E et al.;Zurbriggen R et al.;Peppoloni S et al.)、及びCpG(すなわちCpG #2395(Jurk M et al.)、CpG #2142(EP1,221,955の配列番号:890を参照されたい)である。
【0032】
本発明の別の特徴は、1つ以上の抗原に対して動物で免疫学的応答を、又は1つ以上の病源体に対して動物で防御応答を誘発する方法に関し、前記方法は動物に本発明のワクチン又は医薬組成物を少なくとも1回接種する工程を含む。本発明のさらに別の特徴は、1つ以上の抗原に対して動物で免疫学的応答を、又は1つ以上のリーシュマニア病源体に対して動物で防御応答をプライム-ブースト投与レジメンで誘発する方法に関し、前記レジメンは、少なくとも1回の基本投与及び少なくとも1回のブースター投与を含み、前記投与は少なくとも1つの共通のポリペプチド、抗原、エピトープ又は免疫原を用いる。基本投与で用いられる免疫学的組成物又はワクチンは、ブースターで用いられるものと同じであっても、性状が異なっていてもよい。プライム投与は1回以上の投与を含むことができる。同様に、ブースト投与も1回以上の投与を含むことができる。プライム-ブースト投与は、2から6週間離して、例えば約3週間離して実施できる。ある実施態様にしたがえば、半年後のブースター又は1年後のブースター(有利にはサブユニット(タンパク質)ワクチンを用いる)もまた想定される。
【0033】
プライム-ブースト投与は、上述のキメラKSACタンパク質を含むサブユニットワクチン又は組成物を含むことができる。プライム-ブースト投与はまた、リーシュマニア抗原を発現する組換えウイルスベクター及びプラスミドベクターを含むことができる(例えばUS2009/0324649を参照されたい、前記は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。本プライム-ブーストレジメンのある特徴では、KSACタンパク質を含む組成物又はワクチンが投与され、その後、任意のリーシュマニア抗原を含みこれを発現する組換えウイルスベクターを含むワクチン又は組成物、又は任意のリーシュマニア抗原を含みこれを発現するDNAプラスミドワクチン又は組成物、又はリーシュマニア抗原を含む不活化ウイルスワクチン又は組成物の投与が続く。
通常、ワクチン投与は10から15週齢で皮下又は筋肉内ルートで1回実施される。第二の又は第三の投与は最初の投与から2−6週間以内に実施できる。動物は、好ましくは最初の投与時に少なくとも4週齢である。
皮下又は筋肉内の他に多様な投与ルート(例えば皮内又は経皮)を用いることができる。
本発明の組成物又はワクチンは、治療的応答を誘引するために有効な量の本明細書で考察する1つ以上のポリペプチドを含むか、本質的に前記有効な量のポリペプチドから成るか、又は前記有効な量のポリペプチドから成り、有効量は、煩雑な実験を行うことなく本開示(本明細書に組み入れられた文書類を含む)及び当業界の知識から決定できる。
本発明の発現されたKSACタンパク質を含む組成物又はワクチンについては、1用量は、約1μgから約2000μg、約5μgから約1000μg、約10μgから約100μg、約20μgから約1000μg、約30μgから約500μg、又は約50μgから約500μgを含むことができる。1用量の体積は、約0.1mLから約10mL又は約0.2mLから約5mLの間であり得る。
以下の非限定的な例により、本発明はこれからさらに説明されるであろう。
実施例
DNA挿入物、プラスミド及び組換えウイルス又は植物ベクターの構築は、J. Sambrookらが記載した標準的な分子生物学技術を用いて実施した(J. Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York, 1989)。
【実施例1】
【0034】
大腸菌封入体で発現されたKSACタンパク質の可溶化
大腸菌で産生されたKSAC封入体を以下の3つの緩衝液で調製した:1)トリス20mM、50mM ジチオスレイトール(DTT)(pH8);2)トリス20mM、50mMジチオスレイトール(DTT)(pH8)、1M尿素;3)トリス20mM、50mMジチオスレイトール(DTT)(pH8)、2M尿素。全処置継続中に圧をかけずに室温で同じ緩衝液中で調製したKSAC封入体をコントロールとして用いた。
図3は、圧上昇時(階段的圧上昇)におけるタンパク質弛緩のための圧力レベル工程を示す。標的圧での加圧は48時間適用され、続いてサンプルは24時間かけて減圧された。
図4は、高圧による組換えタンパク質の封入体からの可溶化及び折畳みと古典的な組換えタンパク質の封入体からの可溶化及び折畳みとの模式的比較を示す。
図5はKSAC再折畳みの模式的グラフを示す。図6は、KSACタンパク質を7M尿素、20mMDTTで可溶化し、排除クロマトグラフィーによって再折畳みした後のKSACタンパク質の典型的なSDS-PAGEパターンを示す。図7はKSACタンパク質の典型的なHPLC図を示す。このHPLCクロマトグラフィー図はKSACタンパク質のトリマーをその質量によって識別する。タンパク質濃度及び全タンパク質含有物に対する相対的純度が概算された。図8は、排除クロマトグラフィーを用いた、再折畳みKSACタンパク質の動的光散乱法(DLS)を示す。図8Aは数による分布を示し、これは集団の大半が12から18nmのサイズを有することを示している。図8Bは、関連集団と連携させられていない、検出された全サイズ範囲を示す。10から800nmの間の物体が検出された。
【0035】
3000バールで加圧された封入体及びコントロールサンプルのQdot-blot(図9)及びSDS-PAGE(図10)分析は、全タンパク質が3緩衝液全てで処理サンプルの上清相に存在することを示し、これはタンパク質が可溶化されたことを示している。
コントロール(図11、上段パネル)及び3000バールで処理した全サンプル(図11、下段パネル)の上清のHPLCクロマトグラフィー図の重ね合わせによって、コントロールではタンパク質は検出されないが、KSACタンパク質及び封入体に存在する全ての他のタンパク質は圧処理後に検出されることが示され、このことは圧処理後に全てのタンパク質が可溶化されることを意味する。
図12は、3000バール圧処理KSACサンプルの上清及び古典的再折畳みプロセスで得られたKSACのHPLCクロマトグラフィー図の重ね合わせである。この結果は、ピークは類似し、高圧処理によって得られる可溶性タンパク質はトリマーとして構成されることを示している。
下記表1は3000バール処理後のKSACタンパク質のQdot-blot及びHPLCによる定量を示す。
【0036】
可溶化タンパク質の量は約800μg/mLであった。これは、封入体としての最初のKSACタンパク質の概算量(1000μg/mL)に非常に近かった。可溶化収量は非常に高い(75−100%)。
【0037】
図13は、無尿素緩衝液において3000バールで加圧されたタンパク質(淡い線)及び古典的再折畳みプロセスで得られたタンパク質(濃い線)について入手したDLSデータの重ね合わせを示す。全サイズ範囲(上段パネル)は、より大きなサイズをもつ物体は加圧サンプルでより少ししか検出されないことを示している。数による分布(下段パネル)は、加圧-再折畳み集団の大半は古典的プロセスによって再折畳みされた集団と類似のサイズを有し、折畳みは非常に類似するように思われる。
図14は、3000バールで得られたタンパク質サイズは、古典的クロマトグラフィー再折畳みで得られたタンパク質サイズと使用した3つの異なる緩衝液全てについて同一であることを示している(丸囲い)。2000バールで処理したとき、タンパク質サイズは、尿素が緩衝液で用いられているときは古典的クロマトグラフィー再折畳みのタンパク質サイズと同一である。3000バールより高い圧では、尿素が用いられないときは高圧凝集物が出現する。緩衝液に存在する尿素により、タンパク質は崩壊するように思われ(サイズが10nm)、これは変性が生じたことを示す。
図15は、4000バール処理サンプルのHPLCクロマトグラフィー図を示す。結果は、KSACタンパク質より大きいサイズのタンパク質が、緩衝液に尿素が存在しないとき又は1Mだけ尿素が緩衝液に添加されたときに出現することを示している。タンパク質サイズは、2Mが緩衝液に添加されたときに期待されたとおりであった。
図16は、尿素無しで5000バール処理されたサンプルの数によるDLSサイズ分布を示す。結果は、90nmまでの大きいサイズを有する3つのタンパク質集団が検出されたことを示している。そのサイズがクロマトグラフィー再折畳みKSACと類似する集団はマイナー集団である。
図17は、HPLC及びQdot-blotによって決定したKSAC可溶性タンパク質含有量の比較を示す。結果は、可溶化タンパク質の最大濃度は3000バール処理サンプルで得られることを示し、HPLCとQdot-blot技術との間で良好な一致が認められる。2000バール処理サンプルについては、尿素の存在は可溶化収量の増加に役立つ。4000バール処理サンプルについては、HPLCはQdot-blotより高い収量を提供し、このことは、抗原認識の低下を示す。
【実施例2】
【0038】
KSACワクチンを用いるイヌのワクチン免疫
この実験では、49匹の15週齢ビーグル犬を以下のプロトコルにしたがってワクチン免疫した。
【0039】
*KSAC:トリス緩衝液(20mM、pH=8)中の精製KSACタンパク質、10μg/mL
**GLA-SE:水中油エマルジョン(4%油)
***ワクチン接種後調査は何らかの徴候が検出されるかぎり実施した。
ワクチン免疫後(D77)、イヌを南部イタリア(イヌリーシュマニア高度流行地域)に15ヵ月(M15)まで試験のために移動させた。ワクチン免疫後調査には、直腸温度、全般的状態(表3参照)、触診時の痛み(有無)、皮膚熱発(有無)、そう痒(有無)及び腫脹の評価が含まれていた。腫脹は以下のように採点した:0=腫脹無し、1=小さな腫脹(単に検出可能であるだけ)、2=2cm未満の腫脹、3=2cmを超える腫脹。
ワクチン免疫後調査は、大きな徴候(持続的な痛み、重大なそう痒)は観察期間の間には検出されないことを示した。
【0040】
各カテゴリーについて、最大スコアのみが全臨床スコア(OCS)の算出で考慮された。7つのカテゴリーのスコアを合計してOCSを決定した。
このOCSデータはM15前には大きなOCSの異常は検出されないことを示した。
感染パターンは4つのカテゴリーに分類され(Oliva et al. 2006, J of Clin Microbiol 44:1318-22)、培養依存分析が陽性であるか又は陰性であるかに応じて非樹立型(通称非活動性)及び活動性感染に再分類した。
【0041】
PCR=脾臓吸引物のPCR
培養=リンパ節吸引物の培養又は脾臓吸引物のLDA
血清=IFATによる血清学
臨床的及び/又は生物学的徴候=ゼロではないOCS
【0042】
寄生生物学的及び血清学的アッセイを実施して、Olivaら(Oliva et al. 2006)の定義にしたがってイヌの状況を評価した。骨髄のネステッドPCR、リンパ節吸引物の培養は、Gradoniら(Gradoni et al 2005, Vaccine 23:5245-5251)にしたがって実施した。IFAT(免疫蛍光抗体試験)血清力価検査はOIEから得られた技術にしたがって実施した(2004, Manual of diagnostic tests and vaccines for terrestrial animals, fifth Edition OIE, Paris)。脾臓吸引物の定量的PCR及びLDA(限界希釈アッセイ)は、それぞれBretagneら(Bretagne et al 2001, Clin Diagn Lab Immunol 8:828-831)及びHillら(Hill et al. 1983, Infect Immun 39:1087-1094)の文献の方法を用いて実施した。
【0043】
*NT:試験せず
【0044】
表6で実施した試験に加えて、IFAT力価はまた、ワクチン免疫及びコントロールのイヌの両方についてM0(ワクチン誘発抗体応答のピークに一致する時期)採集標本で測定され、全サンプルが陰性と判明した。
【0045】
Con*:コントロール
Vac**:ワクチン免疫
【0046】
結果は、コントロールのイヌでは活動性感染のイヌの割合は高く(M15で40%、10/25)、ワクチン免疫されたイヌでは活動性感染のイヌの割合は低い(M15で12.5%、3/24)ことを示した。
流行地域で15ヶ月後に、活動性リーシュマニア感染のイヌの割合の低下がワクチン免疫イヌ対コントロールイヌで認められること(すなわちワクチン有効性)を調査は示している。ワクチン有効性は69%と判定された。これらの結果は、ワクチン免疫イヌにおける寄生生物感染の顕著な抑制と一致する。
前記結果はまた、サブユニットKSACワクチンによるワクチン免疫はIFAT血清学試験に干渉しないことを示している。このことは、進行中の疫学調査とイヌの臨床評価に干渉することなく流行地域でワクチン免疫し得ることを示唆している。
【実施例3】
【0047】
異なるKSACタンパク質可溶化プロセスの比較
本実験の目的は、異なるプロセスによって封入体からタンパク質を可溶化する工程の有効性を比較することである。
大腸菌から産生されたKSAC封入体を以下の緩衝液で調製し、封入体懸濁物を作製した:a)20mMトリス緩衝液、50mMジチオスレイトール(DTT)、pH=8.0;b)20mMトリス緩衝液、pH=8.0.
下記に記載する高圧処理のために、前記封入体懸濁物をクイックシールチューブで保存した。
プロセスAでは、階段的加圧を該封入体懸濁物に適用し、圧を0バールから3000バールへ1000バール/分で上昇させ、各500バールで1時間のプラトーを与えた(3000バールの標的圧には5時間後に到達した)。3000バール圧を48時間維持した。続いて3000バールから0バールへ125バール/hrの一定速度で24時間かけてサンプルを減圧した。
プロセスBでは、封入体懸濁物はUS6,489,450に記載された方法にしたがって処理された。サンプルは定常速度で2500バールへ1時間で加圧された。2500バールの圧を6時間維持した。減圧は、2500バールから0バールへ一定速度で1時間かけて低下させて実施した。
サンプルは下記の表8に示すように調製された。
【0048】
コントロール*:高圧処理無し、室温保存
【0049】
SDS-PAGE分析
高圧処理後、サンプルを遠心分離して上清とペレットに分離させ、SDS-PAGEでのタンパク質分析のために処理した。SDS-PAGE分析は図18A及び18Bに示されている。各ウェルには5μLサンプル(粗試料)、5μL上清、5μLペレット(トリス緩衝液に再懸濁)。
SDS-PAGEでのバンド強度から算出したKSACタンパク質量は下記表9に提示した。
【0050】
表9:SDSゲルで測定したバンドの強度の積分比較
【0051】
【表9】
【0052】
S1:上清
P2:ペレット
C3:粗試料(遠心分離前)
%KSAC-S/%KSAC-P*:[上清中の全タンパク質に対するKSACの%]/[ペレット中の全タンパク質に対するKSACの%]
【0053】
結果は、DTTを含まない緩衝液を用いたとき、プロセスA及びBで処理したコントロール又はサンプルの上清で検出されるKSACの量は有意ではないことを示している。可溶性KSACタンパク質は、DTTを含む緩衝液を用いて高圧処理したサンプル(プロセスA及びBの両方)の上清で見出された。驚くべきことに、SDS-PAGEのタンパク質定量の結果は、プロセスAはプロセスBと比較してより良好な可溶化を提供することを示している。この驚くべき結果は、Q-Dot-Blot及びHPLCを用いて各高圧プロセスについてより厳密な可溶化収量を計算することによりさらに確認された。
【0054】
Q-Dot-Blot分析
サンプルの上清をQ-Dot-Blotによって分析して、処理により可溶化されたKSACタンパク質の量を概算した。結果を図19A−19D及び表10に示す。
【0055】
DTTを含む或いは含まないコントロールサンプル(高圧処理無し)間では有意な相違は観察されなかった。可溶性KSACは上清には見出されなかった。Q-Dot-Blotの結果はSDS-PAGEの結果を確認した。
DTTとともにプロセスAを用いて実施した処理はKSACタンパク質の可溶化及び再折畳み(Q-Dot-Blotによって検出)を可能にした。可溶性KSACタンパク質の濃度は、プロセスAを用いたとき632μg/mLであり、一方、プロセスBを用いて得られたKSACタンパク質の濃度は約369μg/mLだけであった。得られた可溶化収量は、プロセスAについて63%、プロセスBについては37%である。Q-Dot-Blotの結果はさらに、プロセスAは可溶性で再折畳みされたタンパク質の製造により効率的であることを示している。
【0056】
HPLC分析
図20は、コントロール及びプロセスA処理サンプルの上清のHPLCクロマトグラフィー図の重ね合わせを示す。プロセスA処理サンプルについて得られた保持時間、保持体積及び概算純度は下記の表11に示される。
【0057】
図21は、プロセスA処理サンプル及びプロセスB処理サンプルの上清のHPLCクロマトグラフィー図の重ね合わせを示す。プロセスA処理サンプルについて得られた保持時間、保持体積及び概算純度は下記の表12に示される。
【0058】
図22は、プロセスA処理サンプル、プロセスB処理サンプル及び古典的プロセス処理サンプルの上清のHPLCクロマトグラフィー図の重ね合わせを示す(尿素及びDTT処理により得られた変性及び再折畳み)。プロセスA処理サンプルについて得られた保持時間、保持体積及び概算純度は下記の表13に示される。
HPLCの結果はさらに、ピーク面積から判定したとき、プロセスAはプロセスBよりも良好なKSACタンパク質可溶化を提供することを確認させた(プロセスBの10506mAUに対してプロセスAの25251mAU)。プロセスA及びプロセスBの両方とも、古典的プロセス(尿素+DTTを用いる可溶化及びSECクロマトグラフィーによる再折畳み)を用いて得られるKSACタンパク質と非常に近いKSACタンパク質の再折畳みの入手を可能にする。
【0059】
プロセスA及びBを用いて実施した試みで、DTTの非存在下では顕著な可溶性KSACタンパク質は得られなかった。この結果は、ジスルフィド結合の破壊のために、高圧処理中に還元剤が必要であることを確認させた。しかしながら、予想もしなかった驚くべき発見は、タンパク質の正確な再折畳みを得るためにDTTを除去する必要はないということである。タンパク質が適切に再折畳みされるためには緩衝液からDTTは除去されねばならないという一般知識とは反対に、DTTの存在は本発明の高圧処理で再折畳みプロセスに干渉しないということが、驚くべきことに本出願人らによって発見された。本発明の高圧プロセスから得られたKSAC可溶性タンパク質はDTTの存在下で正確に再折畳みされてトリマーを形成した。
【0060】
本発明の好ましい実施態様をこれまで詳細に記載してきたが、上記実施例によって規定した本発明は、上記に示した個々の詳細に限定されるべきでないことは理解されるべきである。なぜならば、多くの明白な変型が本発明の意図又は範囲から逸脱することなく可能だからである。
本明細書に引用又は参照された全ての文書類(“本明細書引用文書類”)及び本明細書引用文書類に引用又は参照された全ての文書類は、本明細書又は本明細書に参照により組み込まれた全ての文書類に記載された全ての製品についての全ての製造業者の指示、説明、製品仕様書、製品パンフレットとともに参照によりその全体が本明細書に組み入れられ、さらに本発明の実施で利用することができる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19A
図19B
図19C
図19D
図20
図21
図22
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]