特許第6405310号(P6405310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6405310ヒドロキシチロソール及びその誘導体の体内吸収促進剤及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405310
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】ヒドロキシチロソール及びその誘導体の体内吸収促進剤及びその利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20181004BHJP
   A61K 36/87 20060101ALI20181004BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20181004BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20181004BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20181004BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20181004BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20181004BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20181004BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   A61K31/05
   A61K36/87
   A61P43/00 121
   A61P39/06
   A61P29/00
   A61P43/00 107
   A61P31/04
   A61P3/06
   A61P9/12
   A61P3/10
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-530949(P2015-530949)
(86)(22)【出願日】2014年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2014070839
(87)【国際公開番号】WO2015020138
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2017年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-166606(P2013-166606)
(32)【優先日】2013年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-87023(P2014-87023)
(32)【優先日】2014年4月21日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】上野 俊也
(72)【発明者】
【氏名】小南 優
(72)【発明者】
【氏名】笠島 直樹
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−500964(JP,A)
【文献】 特表2009−511522(JP,A)
【文献】 特表2010−502662(JP,A)
【文献】 特開2008−094754(JP,A)
【文献】 特表2012−517824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−31/80
A61K36/00−36/9068
A61P1/00−43/00
A23L33/00−33/29
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシチロソールと、ガロイル基を有する化合物とを含有する、ヒドロキシチロソールの体内吸収促進及び/又は体内滞留時間延長用組成物であって、
ガロイル基を有する化合物が、ブドウ種子抽出物由来オリゴメリックプロアントシアニジンであり、
ヒドロキシチロソールとブドウ種子抽出物由来オリゴメリックプロアントシアニジンを重量比1:6.38〜1:100の量で含む、
飲食物又は医薬組成物である、
上記組成物。
【請求項2】
ヒドロキシチロソールを0.01重量%〜10重量%の量で含み、ガロイル基を有する化合物を0.1重量%〜30重量%の量で含む、請求項記載の組成物。
【請求項3】
ガロイル基を有する化合物を有効成分として含む、ヒドロキシチロソールの体内吸収促進剤及び/又は体内滞留時間延長剤であって、
ガロイル基を有する化合物が、ブドウ種子抽出物由来オリゴメリックプロアントシアニジンであ
ヒドロキシチロソールとブドウ種子抽出物由来オリゴメリックプロアントシアニジンを重量比1:6.38〜1:100の量で含む、
上記体内吸収促進剤及び/又は体内滞留時間延長剤。
【請求項4】
ガロイル基を有する化合物を0.1重量%〜30重量%の量で含有する、請求項に記載の体内吸収促進剤及び/又は体内滞留時間延長剤。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の体内吸収促進剤及び/又は体内滞留時間延長剤を含む、飲食物。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の体内吸収促進剤及び/又は体内滞留時間延長剤を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシチロソール及びその誘導体の体内吸収性を促進するための組成物、ヒドロキシチロソール及びその誘導体の体内吸収促進剤並びに体内滞留時間延長剤、及びそれらを利用する飲食物又は医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシチロソールはオリーブに含有されるポリフェノールの一種である。ヒドロキシチロソールは強い抗酸化活性や抗炎症作用などの生体にとって有用な生理作用を有することが知られている。また最近では老化防止剤としてヒドロキシチロソールが有用であるという報告もされている(特許文献1)。
【0003】
しかし、ヒドロキシチロソールの体内吸収性は低く、生物学的利用能が低いという問題がある。また、ヒドロキシチロソールは体内から速やかに消失するため、体内滞留時間が短く、効果が持続しないという問題もある。
【0004】
これまでに、ポリフェノール類の体内吸収性を上げたり、体内滞留時間を延長させたりするための試みはいくつかなされてきた。たとえば、茶の一品種である「べにふうき」の抽出物をカテキン類と同時に摂取することでカテキン類の吸収性および体内滞留時間が高められることが報告されている(特許文献2)。またセリン、アスパラギン酸、リンゴ酸、カプリン酸、ラウリン酸、グレープフルーツ果汁、コハク酸、システイン、アスパラギン、イソロイシン、ピニトールが、エピガロカテキンガレートの吸収を促進し、体内滞留時間を高めることが報告されている(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、ポリフェノール類のうちヒドロキシチロソール及びその誘導体の体内吸収性を向上させ、体内滞留時間を延長させることができる化合物や組成物の例は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010-524876号公報
【特許文献2】特開2010-11751号公報
【特許文献3】特開2011-79770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術の問題点を考慮して、本発明の課題は、ヒドロキシチロソール及びその誘導体の体内吸収を促進し、体内滞留時間を延長させて効果を持続させるための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ヒドロキシチロソールとガロイル基を有する化合物とを組み合わせて用いることにより、ヒドロキシチロソールの体内吸収を促進し、体内滞留時間を延長させることが可能となることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、以下のものに関する:
[1]ヒドロキシチロソール又はその誘導体と、ガロイル基を有する化合物とを含有する組成物。
[2]前記ガロイル基を有する化合物が、フラバン骨格中に1以上のガロイル基を有するフラバン類化合物の単量体である、[1]記載の組成物。
[3]前記単量体が、フラバン骨格の3位にガロイル基が結合したフラバン類化合物である、[2]記載の組成物。
[4]前記ガロイル基を有する化合物が、ガロイル基を有するカテキン類化合物である[2]記載の組成物。
[5]前記ガロイル基を有するカテキン類化合物が、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート及びそれらのメチル化体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むカテキン類化合物である[4]記載の組成物。
[6]前記ガロイル基を有する化合物が、フラバン骨格を有するフラバン類化合物の重合体であって、ここで少なくとも1つの構成単位がフラバン骨格の3位にガロイル基が結合したフラバン類化合物である、[1]記載の組成物。
[7]前記重合体が、オリゴメリックプロアントシアニジン(以下、単に「プロアントシアニジン」、又は「OPC」ともいう)である[6]記載の組成物。
[8]前記ガロイル基を有する化合物が、ブドウ、松、アロニア、ピーナッツ、ココア、リンゴ、小豆、タマリンド、柿、緑茶、紅茶由来である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の組成物。
[9]ガロイル基を有する化合物が、ブドウ種子抽出物由来である、[8]記載の組成物。
[10]ヒドロキシチロソール又はその誘導体と、ブドウ種子抽出物とを含有する組成物。
[11]ヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物とを重量比1:0.1〜1:100の量で含む、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の組成物。
[12]ヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物とを重量比1:0.1〜1:30の量で含む、[11]に記載の組成物。
[13]前記ガロイル基を有する化合物が、フラバン骨格中に1以上のガロイル基を有するフラバン類化合物の単量体である、[11]または[12]に記載の組成物。
[14]ヒドロキシチロソール又はその誘導体とオリゴメリックプロアントシアニジンを重量比1:1〜1:100の量で含む、[11]に記載の組成物。
[15]ヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物とを含む[1]〜[9]のいずれかに記載の組成物であって、ここでガロイル基を有する化合物が酸加水分解により没食子酸を生じるガロイルエステル類であり、ヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイルエステル類の酸加水分解により生じる没食子酸とのモル比が1:0.1〜1:10である、組成物。
[16]ヒドロキシチロソール又はその誘導体を0.01重量%〜10重量%の量で含み、ガロイル基を有する化合物を0.1重量%〜30重量%の量で含む、[1]〜[10]のいずれか一項記載の組成物。
[17]飲食物である、[1]〜[16]のいずれか一項に記載の組成物。
[18]医薬組成物である、[1]〜[16]のいずれか一項に記載の組成物。
[19]ガロイル基を有する化合物を有効成分として含む、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進剤。
[20]前記ガロイル基を有する化合物が、フラバン骨格中に1以上のガロイル基を有するフラバン類化合物の単量体である、[19]記載の体内吸収促進剤。
[21]前記単量体が、フラバン骨格の3位に水酸基が結合したフラバン類化合物又はフラバン骨格の3位にガロイル基が結合したフラバン類化合物である、[20]記載の体内吸収促進剤。
[22]前記ガロイル基を有する化合物が、ガロイル基を有するカテキン類化合物である[20]記載の体内吸収促進剤。
[23]前記ガロイル基を有するカテキン類化合物が、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート及びそれらのメチル化体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むカテキン類化合物である[22]記載の体内吸収促進剤。
[24]前記ガロイル基を有する化合物が、フラバン骨格を有するフラバン類化合物の重合体であって、ここで少なくとも1つの構成単位がフラバン骨格の3位にガロイル基が結合したフラバン類化合物である、[19]記載の体内吸収促進剤。
[25]前記重合体が、オリゴメリックプロアントシアニジンである[24]記載の体内吸収促進剤。
[26]前記ガロイル基を有する化合物が、ブドウ、松、アロニア、ピーナッツ、ココア、リンゴ、小豆、タマリンド、柿、緑茶、紅茶由来である、[19]〜[25]のいずれか一項に記載の体内吸収促進剤。
[27]ガロイル基を有する化合物が、ブドウ種子抽出物由来である、[26]記載の体内吸収促進剤。
[28]ブドウ種子抽出物を含有する、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進剤。
[29]ガロイル基を有する化合物を0.1重量%〜30重量%の量で含有する、[19]〜[28]のいずれか一項に記載の体内吸収促進剤。
[30][19]〜[29]のいずれか一項に記載の体内吸収促進剤であって、ここでガロイル基を有する化合物が酸加水分解により没食子酸を生じるガロイルエステル類であり、ガロイルエステル類をその酸加水分解により生じる没食子酸の重量に換算して0.01重量%〜25重量%の量で含有する、体内吸収促進剤。
[31][19]〜[28]のいずれか一項に記載の体内吸収促進剤であって、ここでガロイル基を有する化合物が酸加水分解により没食子酸を生じるガロイルエステル類であり、体内吸収促進剤1グラムあたりガロイルエステル類をその酸加水分解により生じる没食子酸に換算して0.001ミリモル〜1ミリモルの量で含有する、体内吸収促進剤。
[32]オリゴメリックプロアントシアニジンを0.1重量%〜30重量%の量で含有する、[25]〜[29]のいずれか一項に記載の体内吸収促進剤。
[33]ガロイル基を有する化合物を有効成分として含む、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内滞留時間延長剤。
[34]前記ガロイル基を有する化合物が、フラバン骨格中に1以上のガロイル基を有するフラバン類化合物の単量体である、[33]記載の体内滞留時間延長剤。
[35]前記単量体が、フラバン骨格の3位に水酸基が結合したフラバン類化合物又はフラバン骨格の3位にガロイル基が結合したフラバン類化合物である、[34]記載の体内滞留時間延長剤。
[36]前記ガロイル基を有する化合物が、ガロイル基を有するカテキン類化合物である[34]記載の体内滞留時間延長剤。
[37]前記ガロイル基を有するカテキン類化合物が、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート及びそれらのメチル化体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むカテキン類化合物である[36]記載の体内滞留時間延長剤。
[38]前記ガロイル基を有する化合物が、フラバン骨格を有するフラバン類化合物の重合体であって、ここで少なくとも1つの構成単位がフラバン骨格の3位にガロイル基が結合したフラバン類化合物である、[33]記載の体内滞留時間延長剤。
[39]前記重合体が、オリゴメリックプロアントシアニジンである[38]記載の体内滞留時間延長剤。
[40]前記ガロイル基を有する化合物が、ブドウ、松、アロニア、ピーナッツ、ココア、リンゴ、緑茶、紅茶由来である、[33]〜[39]のいずれか一項に記載の体内滞留時間延長剤。
[41]ガロイル基を有する化合物が、ブドウ種子抽出物由来である、[40]記載の体内滞留時間延長剤。
[42]ブドウ種子抽出物を含有する、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内滞留時間延長剤。
[43]ガロイル基を有する化合物を0.1重量%〜30重量%の量で含有する、[33]〜[42]のいずれか一項に記載の体内滞留時間延長剤。
[44][33]〜[43]のいずれか一項に記載の体内滞留時間延長剤であって、ここでガロイル基を有する化合物が酸加水分解により没食子酸を生じるガロイルエステル類であり、ガロイルエステルをその酸加水分解により生じる没食子酸の重量に換算して0.01重量%〜25重量%の量で含有する、体内滞留時間延長剤。
[45][33]〜[43]のいずれか一項に記載の体内滞留時間延長剤であって、ここでガロイル基を有する化合物が酸加水分解により没食子酸を生じるガロイルエステル類であり、体内吸収促進剤1グラムあたりガロイルエステル類をその酸加水分解により生じる没食子酸に換算して0.001ミリモル〜1ミリモルの量で含有する、体内滞留時間延長剤。
[46]オリゴメリックプロアントシアニジンを0.1重量%〜30重量%の量で含有する、[38]〜[43]のいずれか一項に記載の体内滞留時間延長剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、ヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物とを組み合わせて用いることにより、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収性を向上させ、体内滞留時間を延長させることができる。
【0011】
また、ガロイル基を有する化合物は、フラバン類など植物由来であることが多く極めて安全性が高い。特にお茶等に含まれるカテキン類は抗酸化作用、血圧上昇抑制作用、血糖上昇抑制作用、体脂肪蓄積抑制作用、抗菌作用等の生理作用を有している。また、ブドウや松に含まれているオリゴメリックプロアントシアニジン(以下、単に「プロアントシアニジン」、又は「OPC」ともいう)も、ガロイル基を有するフラバン類化合物を構成単位の一つと有する。OPCは、抗酸化作用、血流改善作用などを有することが知られている。従って、本発明はヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収性を向上させ、体内滞留時間を延長させるだけでなく、ガロイル基を有するフラバン化合物の有用な生理作用も期待でき、かつ安全で継続摂取可能な医薬用組成物、飲食物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、ヒドロキシチロソール(HT)の体内吸収量(AUC)を示す図である。
図2図2は、EGCGがヒドロキシチロソール(HT)の血中濃度の経時変化に及ぼす影響を示す図である。
図3図3は、ヒドロキシチロソール(HT)の体内吸収量(AUC)を示す図である。
図4図4は、ヒドロキシチロソール(HT)の血中濃度推移を示す図である。
図5図5は、ヒドロキシチロソール(HT)の体内吸収量(AUC)を示す図である。
図6図6は、ヒドロキシチロソール(HT)の体内吸収量(AUC)、HTとガロイルエステルのモル比及びHTとOPCの重量比を示す図である。ここでHTとガロイルエステルのモル比は、HTのモル数とガロイルエステルを酸加水分解して生じる没食子酸のモル数の比として計算した。
図7図7は、ヒドロキシチロソール(HT)の血中濃度推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物とを含有する組成物、並びにヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進剤及び体内滞留時間延長剤に関する。
<ヒドロキシチロソール>
本発明の組成物は、ヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物とを含有する。また、本発明は、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進剤及び体内滞留時間延長剤にも関する。
【0014】
ヒドロキシチロソール(3,4-−ジヒドロキシフェニルエタノール)はポリフェノール化合物の一種であり、以下の構造で表される。
【0015】
【化1】
【0016】
本発明には、化学的に合成されたヒドロキシチロソールを用いてもよく、ヒドロキシチロソールを豊富に含む植物原料をそのまま用いてもよく、オリーブ等の植物原料から抽出したヒドロキシチロソール含有抽出物を用いてもよく、また、そのヒドロキシチロソール含有抽出物を精製してヒドロキシチロソールの含有量を高めたものを用いてもよい。
【0017】
本発明には、ヒドロキシチロソールの誘導体を用いることもできる。ヒドロキシチロソールの誘導体の限定されない例としては、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、アミノ酸エステルのようなエステル、ならびに塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びアンモニウム塩のような塩が挙げられる。
【0018】
化学的に合成されたヒドロキシチロソールは、たとえば東京化成工業株式会社から入手することができる。
【0019】
また、ヒドロキシチロソールを豊富に含む植物原料をそのまま本発明の組成物に含有させてもよい。ヒドロキシチロソールを豊富に含む植物原料としては、たとえばオリーブの葉、果実、種子、茎等を生のまま、あるいは凍結乾燥等によって乾燥したものなどを用いることができる。いかなる品種のオリーブをも用いることができるが、たとえばマンザニロ、ルッカ、ネバディロ・ブランコ、ミッション、ピクアル、アルベキナ、オヒブランカ、コルニカブラ、ゴルダル、モロイオロ、フラントイオ、コラティーナ、レッチーノ等の品種を好適に使用することができる。また、オリーブ果実から搾油したオリーブオイルも、ヒドロキシチロソールを豊富に含む植物原料として用いることができる。オリーブオイルは、市販のものを用いてもよいし、オリーブより公知の方法で調製してもよい。
【0020】
また、オリーブ等の植物原料から抽出したヒドロキシチロソール含有抽出物を本発明の組成物に含有させることもできる。たとえば前記植物原料を生のまま又は乾燥したものを用いて、そのまま又は粗砕機によって粉砕したものを、水性溶媒によって抽出してヒドロキシチロソール含有抽出物を得ることができる。また、市販のオリーブ葉抽出物をヒドロキシチロソール含有抽出物として用いることもできる。
<ガロイル基を有する化合物>
本発明の組成物は、ヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物とを含有する。また、本発明のヒドロキシチロソールの体内吸収促進剤及び体内滞留時間延長剤は、ガロイル基を有する化合物を含有する。
【0021】
本発明に用いるガロイル基を有する化合物としては、フラバン骨格中に1以上のガロイル基を有するフラバン類化合物の単量体、及びフラバン骨格を有するフラバン類化合物の重合体であって、ここで少なくとも1つの構成単位がフラバン骨格の3位にガロイル基が結合したフラバン類化合物である重合体が好ましい。本発明の一態様において、ガロイル基を有する化合物は、フラバン骨格に1以上の水酸基を有する化合物と没食子酸との縮合反応によって得られるガロイルエステル類である。言い換えると、本発明の一態様において、ガロイル基を有する化合物は、該化合物を酸加水分解することにより没食子酸を生じるガロイルエステル類である。
【0022】
フラバン骨格中に1以上のガロイル基を有するフラバン類化合物の単量体の例としては、フラバン骨格の3位にガロイル基が結合したフラバン類化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
フラバン骨格の3位にガロイル基が結合したフラバン類化合物の例としては、3位にガロイル基を有するフラバノール類、フラボノール類、アントシアニン類、カルコン類が挙げられる。3位にガロイル基を有するフラバノール類としてはカテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート及びそれらのメチル化体を挙げることができる。中でもエピガロカテキンガレート及びそれらのメチル化体などの誘導体を特に好ましく例示できる。
【0024】
また、フラバン骨格を有するフラバン類化合物の重合体であって、ここで少なくとも1つの構成単位がフラバン骨格の3位にガロイル基が結合したフラバン類化合物である重合体の例としては、オリゴメリックプロアントシアニジンが挙げられる。OPCは、ブドウ、リンゴ、カカオ等の植物に多く含まれるポリフェノールの一種であり、「縮合型タンニン」又は「フラバン−3−オール重合物」とも称されている化合物である。OPCの構造は、一般に、フラバン−3−オールを構成単位とし、フラバン−3−オールが4−6位又は4−8位で縮合又は重合する結合様式をとっている。このように、OPCとは、上記結合様式に従い縮合又は重合した、2量体以上の重合体の総称である。
【0025】
本発明に用いるガロイル基を有する化合物は、その形態や製造方法等によって何等制限されるものではないが、たとえばブドウ、松、アロニア、ピーナッツ、ココア、リンゴ、小豆、タマリンド、柿、緑茶、紅茶等の植物由来のものを好適に用いることができる。
【0026】
具体的には、エピガロカテキンガレートは、例えば、緑茶葉から抽出し精製を行うことにより製造することができる(特開2001−97968号公報等)。また、テアビゴ(商標)(DSMニュートリション ジャパン株式会社)のような精製度が高いものを用いてもよい。
【0027】
また、OPCは、例えば、ブドウ種子から抽出・精製して製造することができる(特表2009−502825号公報等)。また、特開平10−236943には、ジャトバ(オオイナゴマメ)の抽出物に重合度が12の縮合型タンニンが含まれることが記載されている。
【0028】
本願発明の組成物、ヒドロキシチロソールの体内吸収促進剤並びに体内滞留時間延長剤には、OPCを含むブドウ種子抽出物そのものを用いることもできる。この場合、後述の実施例で使用しているように、OPCを高い濃度で含有する市販のブドウ種子抽出物を用いてもよい。市販のブドウ種子抽出物製品は、ロットによって、製品に含まれるOPCのガロイル基の含量に若干の変動が見られることがあるが、いずれの製品を用いても本発明の効果を奏する。
<ヒドロキシチロソールとガロイル基を有する化合物とを含有する組成物>
本発明は、ヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物を組み合わせることにより、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収性を高め、体内滞留時間を延長させることで、その生理活性を持続的かつ効率的に発揮させることができ、それぞれの成分の生理作用により、治療や健康増進を図ることができる。
【0029】
本発明のヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物とを含有する組成物中におけるヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物の配合量及び配合比率は、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収が促進され、生理活性が持続的に発揮される範囲であれば特に制限されず、組成物の形態や対象となる病態等の条件及び選択する他の配合成分との関係等により適宜選択すればよい。
【0030】
たとえば、本発明の組成物が医薬組成物である場合は、医薬組成物中に好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%でヒドロキシチロソール又はその誘導体を含有し、0.1〜30重量%、より好ましくは0.5〜20重量%、さらに好ましくは1〜10重量%でガロイル基を有する化合物を含有する。ガロイル基を有する化合物がガロイルエステル類である場合、医薬組成物中にヒドロキシチロソール又はその誘導体を好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%で含有し、ガロイルエステル類をその酸加水分解により生じる没食子酸の重量に換算して0.01〜10重量%、より好ましくは0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.01〜1重量%で含有する。このとき、医薬組成物中に含有されるヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物との配合比率に制限はないが、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進効果および体内滞留時間延長効果を期待するのであれば、重量比で1:0.1以上であることが好ましく、1:0.1〜1:100であることがより好ましく、1:0.1〜1:30であることがより好ましく、1:1〜1:25であることがさらに好ましい。たとえば、本発明の医薬組成物は、ヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物とを重量比1:0.1〜1:100の量で含む組成物であることができる。また、本発明の医薬組成物は、ヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物とを重量比1:0.1〜1:30の量で含む組成物であることができる。また、本発明の医薬組成物は、ヒドロキシチロソール又はその誘導体とオリゴメリックプロアントシアニジンを重量比1:1〜1:100の量で含む組成物であることができる。
【0031】
更に、医薬組成物中に含有されるヒドロキシチロソール又はその誘導体とガロイル基を有する化合物は、ヒドロキシチロソールのモル数に対するガロイル基を有する化合物を酸加水分解して生じる没食子酸のモル数の比として計算したモル比で1:0.1以上であることが好ましく、1:0.1〜1:10であることがより好ましく、1:0.1〜1:5であることがさらに好ましい。ガロイル基を有する化合物として、たとえばエピガロカテキンガレートのようなカテキン類を用いる場合は、医薬組成物中に含有されるヒドロキシチロソール又はその誘導体とカテキン類の量が、ヒドロキシチロソールのモル数に対するカテキン類を酸加水分解して生じる没食子酸のモル数の比として計算したモル比で、1:0.1以上の割合であることが好ましく、1:0.1〜1:10であることがより好ましく、1:0.1〜1:5であることがさらに好ましい。
【0032】
更に、本発明の医薬組成物は、OPCを、好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは0.5〜20重量%、さらに好ましくは1〜10重量%の量で含有するものであってよい。
【0033】
ヒドロキシチロソール又はその誘導体の生理作用を得るためのヒドロキシチロソール又はその誘導体摂取量は通常、成人一日あたり5mgを摂取することが有用であることが、欧州食品安全機関(EFSA)で報告されている。従って本発明の組成物には、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の配合量として、成人一日あたり5〜10mg程度を摂取できるように配合することが好ましい。
【0034】
このようにして、本発明の組成物はヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収を促進し、体内滞留時間を延長させることができる。この効果は実施例1、2、3、4に示されているように、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の血中濃度を測定することによって確認することができる。
【0035】
以下の実施例に詳細に説明するが、発明者らは、ヒドロキシチロソール50mg/kg(動物モデルの体重1kg当りのヒドロキシチロソールの量(mg))に加えてエピガロカテキンガレートを150mg/kg投与することにより、ヒドロキシチロソール単独投与の場合に比べて、ヒドロキシチロソールの体内吸収性が顕著に増強されることを確認している。またエピガロカテキンガレート同時摂取時には、吸収量だけでなく、吸収速度に関しても独特の吸収プロファイルを示すことを確認している。即ち、ヒドロキシチロソール単独摂取時に比べて、EGCGを同時摂取すると、血中濃度のピークが遅延し、その後も高い血中濃度が維持されていた。またガロイル基を有さないエピガロカテキンを同時摂取した時には同様の結果が得られなかったことからエピガロカテキンガレートの構造中のガロイル基が本結果に関与していると考えられた。このことから、ガロイル基を有する化合物がヒドロキシチロソールの体内吸収性を向上させると考えられ、特にEGCGと同様のカテキン類で類似構造をもつ、エピカテキンガレート(ECG)、ガロカテキンガレート(GCG)、カテキンガレート(CG)にも同様に本発明に使用できる。本発明の体内吸収促進剤を用いることで、ヒドロキシチロソールの血中濃度を一定時間維持させ、長時間ヒドロキシチロソールの効果を持続的に発揮させることが可能となる。また、発明者らはラットにヒドロキシチロソール30mg/kgに加えて市販のブドウ種子抽出物)を500mg/kg投与することにより、ヒドロキシチロソール単独投与の場合に比べて、0-6時間におけるヒドロキシチロソールの体内吸収性が顕著に増強されることを確認している。またブドウ種子抽出物同時摂取時には、ヒドロキシチロソール単独摂取時ではほとんど血中から検出されなかった投与2、3時間においても血中に検出され濃度が維持されていた。
【0036】
更に、発明者らはラットにヒドロキシチロソール30mg/kgに加えて上記と同じブドウ種子抽出物を150mg/kg、250mg/kg投与することにより、ヒドロキシチロソール単独投与の場合に比べて、0-6時間におけるヒドロキシチロソールの体内吸収性が増強されることを確認している。
【0037】
更に、発明者らはラットにヒドロキシチロソール30mg/kgに加えて上記と同じブドウ種子抽出物を150mg/kg、250mg/kg、500mg/kg及び750mg/kg投与することにより、ヒドロキシチロソール単独投与の場合に比べて、0-6時間におけるヒドロキシチロソールの体内吸収性が増強されることを確認している。
<ヒドロキシチロソールの体内吸収促進剤または体内滞留時間延長剤>
上記の通り、ヒドロキシチロソールとエピガロカテキンガレートまたはOPCを豊富に含有するブドウ種子抽出物等のガロイル基を有する化合物を組み合わせることにより、ヒドロキシチロソールの体内吸収性が増強される。また、ヒドロキシチロソールとエピガロカテキンガレートまたはOPCを豊富に含有するブドウ種子抽出物等のガロイル基を有する化合物を組み合わせることにより、ヒドロキシチロソールの体内滞留時間が延長される。従って、本発明はヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進剤および/または体内滞留時間延長剤として利用できる。本発明におけるヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進作用とは、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収量を、ヒドロキシチロソール又はその誘導体を単独投与した場合と比較して増加させる作用を意味し、その作用の具体的な例には、ヒドロキシチロソール又はその誘導体のAUC(血中濃度−時間曲線下面積、area under the blood concentration-time curve)の増加作用が挙げられる。また、本発明におけるヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内滞留時間延長作用とは、ヒドロキシチロソール又はその誘導体が体内で分解・代謝されることなく存在しうる時間を、ヒドロキシチロソール又はその誘導体を単独投与した場合と比較して延長させる作用を意味し、その作用の具体的な例には、血中ヒドロキシチロソール濃度又は血中ヒドロキシチロソール誘導体濃度の持続作用を挙げることができる。ヒドロキシチロソール又はその誘導体のAUCの増加作用および血中濃度持続作用は、当業者に公知の手段を用いて、ヒドロキシチロソール又はその誘導体の血中濃度を測定することによって評価することができる。
【0038】
本発明のヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進剤または体内滞留時間延長促進剤は、ガロイル基を有する化合物を、好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは0.5〜20重量%、さらに好ましくは1〜10重量%の量で含有する。
【0039】
また、本発明のヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進剤または体内滞留時間延長促進剤は、ガロイル基を有する化合物が酸加水分解により没食子酸を生じるガロイルエステル類である場合、ガロイルエステル類を、その酸加水分解により生じる没食子酸の重量に換算して好ましくは0.01〜25重量%、好ましくは0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.01〜1重量%の量で含有する。また、本発明のヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進剤または体内滞留時間延長促進剤は、ガロイル基を有する化合物が酸加水分解により没食子酸を生じるガロイルエステル類である場合、体内吸収促進剤1グラムあたりガロイルエステル類をその酸加水分解により生じる没食子酸に換算して、好ましくは0.01ミリモル〜1ミリモルの量、より好ましくは0.05ミリモル〜0.5ミリモルの量、さらに好ましくは0.05ミリモル〜0.3ミリモルの量で含有する。
【0040】
更に、本発明のヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進剤または体内滞留時間延長促進剤は、ガロイル基を有する化合物がOPCである場合、OPCを、好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは0.5〜20重量%、さらに好ましくは1〜10重量%の量で含有する。
【0041】
本発明のヒドロキシチロソール又はその誘導体の体内吸収促進剤または体内滞留時間延長促進剤を、たとえば医薬品とする場合には、薬学的に許容される基材や担体と共に製剤化し、医薬組成物として提供することができる。この医薬組成物には、基材や担体の他、薬学的に許容されることを限度として、結合剤、崩壊剤、緩衝剤、保存剤、保湿剤、抗菌剤、防腐剤、香料、界面活性剤、安定剤、溶解補助剤等の任意の添加剤を任意に配合してもよい。また投与形態は経口投与でもよいし、注射剤等の形態で投与してもよく、各々の投与に適した製剤として公知のものを適宜用いればよい。例えば、経口投与に適した製剤には、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶解剤、懸濁液剤、シロップ剤などが含まれるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0042】
本発明を以下の実施例により更に詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。当業者は、本発明を種々変更、修飾して使用することが可能であり、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0043】
実施例1:ガロイル基を有する化合物のうちEGCGがヒドロキシチロソールの体内吸収性に及ぼす影響を検討した。同時にガロイル基を有しないEGCのヒドロキシチロソールの体内吸収性に及ぼす影響も検討し、コントロール、EGCGの結果と比較することで、ガロイル基がヒドロキシチロソールの体内吸収性に関与するか検討した。
【0044】
SD(IGS)系雄性ラット(5週齢)を株式会社オリエンタルバイオサービスより購入し、1週間試験環境下で馴化させた後、順調な発育を示した動物を選択した試験に供した。一晩絶食したラットを各群4または5匹からなる3群に分け、第1群(コントロール)には蒸留水5mL/kgおよび市販のヒドロキシチロソールの蒸留水溶液50mg/5mL/kg、第2群にはEGC蒸留水溶液100mg/5mL/kg/およびヒドロキシチロソールの蒸留水溶液50mg/5mL/kg、第3群にはEGCG蒸留水溶液150mg/5mL/kgおよびヒドロキシチロソールの蒸留水溶液50mg/5mL/kg、ゾンデを用いて経口投与した。投与前に、そして投与開始の0.25、0.5、1、3、6時間後に尾静脈よりヘパリン採血管にて血液を採取し、遠心分離操作(8000rpm、10min)により血漿サンプルを得た。得られた血漿に脱抱合化処理及び除タンパク処理を行い、得られた上清を減圧濃縮し、20%アセトニトリルに再溶解し、これをフィルターろ過し、得られた溶液をHPLCにて分析しピーク面積を算出することで、ヒドロキシチロソールの定量を行った。なお、本実施例においては、市販のEGCG(EGCG純度94 %)を用いた。HPLC条件を以下に示す。
カラム:X-bridge C18 (3.5μm、2.1×150mm、Waters製)
移動相: A; 0.1%酢酸水溶液、B; 0.1%酢酸/90%アセトニトリル水溶液
流速:0.25mL/min
グラジェントプログラム:
B液5→30% (0-10min)
30→85% (10-11min)
85% (11-15min)
85→5% (15-15.1min)
5% (15.1-20min)
ヒドロキシチロソールの体内吸収量(AUC)を図1に示す。ヒドロキシチロソール単独で投与したコントロールのAUCは12.05 ug/mL*hrであるのに対して、EGCG蒸留水溶液150mg/5mL/kgを同時に摂取すると、ヒドロキシチロソールのAUCが16.63ug/mL*hrまで上昇した。なお、ここで投与したヒドロキシチロソールとEGCG中の没食子酸とのモル比は1:1であった。
【0045】
一方、EGC蒸留水溶液100mg/5mL/kgを同時に摂取した時のAUCは12.13ug/mL*hrであり、コントロールのAUCとほとんど同じ値であり、ガロイル基を有さないEGCはヒドロキシチロソールの吸収性に影響しないことが示された。
【0046】
図2はヒドロキシチロソールの血中濃度推移を示す。EGCG同時摂取時には、独特の吸収プロファイルが示された。即ち、ヒドロキシチロソールを単独で摂取した場合、ヒドロキシチロソールの血中濃度は投与後18分でピークに達し、その後速やかに減少したのに対し、EGCGを同時に摂取させた場合、投与後30分で血中濃度がピークに達し、その後も高い血中濃度が維持されていた。
【0047】
一方、EGCを同時に摂取した時の、吸収プロファイルはコントロールとほとんど変わらなかった。
【0048】
以上の結果より、ヒドロキシチロソールとEGCGを同時に摂取すると、ヒドロキシチロソールの体内吸収性が向上し、体内滞留時間が延長することが明らかになった。またEGCでは同様の作用は見られなかったことからEGCGの構造中のガロイル基がヒドロキシチロソールの体内吸収性向上に関与していると考えられる。このことから、ガロイル基を有する化合物がヒドロキシチロソールの体内吸収性を向上させると考えられ、EGCGと同様のカテキン類で類似構造をもつ、ECG、GCG、CGにおいても同様に使用できる。
実施例2:OPCがヒドロキシチロソールの体内吸収性に及ぼす影響を検討した。
【0049】
SD(IGS)系雄性ラット(9週齢)を株式会社オリエンタルバイオサービスより購入し、1週間試験環境下で馴化させた後、順調な発育を示した動物を選択した試験に供した。一晩絶食したラットを各群5または6匹からなる2群に分け、第1群(コントロール)にはヒドロキシチロソールの蒸留水溶液30mg/5mL/kg、第2群にはヒドロキシチロソール30mg/kgとブドウ種子抽出物500mg/kgの蒸留水溶液5mL/kgをゾンデを用いて経口投与した。投与前に、そして投与開始の0.25、0.5、1、2、3、6時間後に尾静脈よりヘパリン採血管にて血液を採取し、遠心分離操作(8000rpm、10min)により血漿サンプルを得た。得られた血漿に脱抱合化処理及び除タンパク処理を行い、得られた上清を減圧濃縮し、20%アセトニトリルに再溶解し、これをフィルターろ過し、得られた溶液をLC/MS/MSにて分析し、内部標準法を用いてヒドロキシチロソールの定量を行った。
高速液体クロマトグラフィー分析条件
内標準物質(I.S.): 3-(4-hydroxyphenyl)-1-propanol
カラム:CAPCELL PAK, AQ, C18 (3.0μm、2.0×100mm、SHISEIDO製)
移動相: A; 0.1%酢酸水溶液、B; 0.1%酢酸/90%アセトニトリル水溶液
流速:0.25mL/min
グラジェントプログラム:
B液5→30% (0-10min)
30→85% (10-11min)
85% (11-15min)
85→5% (15-15.1min)
5% (15.1-20min)
MS条件
イオン化法:ESI
IS:-4500 V
TEM:600 ℃
GS1:60 psi
GS2:80 psi
CUR:50 psi
CAD:7
検出: 負イオンMRM
【表1】
分析時間: 20分間
【0050】
ヒドロキシチロソールの体内吸収量(AUC)を図3に、ヒドロキシチロソールの血中濃度推移を図4に示す。ヒドロキシチロソール単独で投与したコントロールの0-6時間におけるAUCは6.21 ug/mL*hrであるのに対して、ヒドロキシチロソールとブドウ種子抽出物の蒸留水溶液を同時に摂取すると、0-6時間におけるヒドロキシチロソールのAUCが12.06ug/mL*hrまで上昇した。
以上の結果より、ヒドロキシチロソールとOPCを同時に摂取すると、ヒドロキシチロソールの体内吸収性が向上することが明らかになった。
実施例3:ブドウ種子抽出物の用量を下げても、ヒドロキシチロソールの体内吸収促進効果が、実施例2同様に見られるのか検証した。
【0051】
SD(IGS)系雄性ラット(9.5週齢)を株式会社オリエンタルバイオサービスより購入し、2週間試験環境下で馴化させた後、順調な発育を示した動物を選択した試験に供した。一晩絶食したラットを各群4匹からなる3群に分け、第1群(コントロール)にはヒドロキシチロソールの蒸留水溶液30mg/5mL/kg、第2群にはヒドロキシチロソール30mg/kgとブドウ種子抽出物150mg/kgの蒸留水溶液5mL/kg、第3群にはヒドロキシチロソール30mg/kgとブドウ種子抽出物250mg/kgの蒸留水溶液5mL/kgをゾンデを用いて経口投与した。投与前に、そして投与開始の0.25、0.5、1、2、3、6時間後に尾静脈よりヘパリン採血管にて血液を採取し、遠心分離操作(8000rpm、10min)により血漿サンプルを得た。用いたブドウ種子抽出物は実施例2と同じメーカーの市販品である。得られた血漿に脱抱合化処理及び除タンパク処理を行い、得られた上清を減圧濃縮し、20%アセトニトリルに再溶解し、これをフィルターろ過し、得られた溶液をLC/MS/MSにて分析し、内部標準法を用いてヒドロキシチロソールの定量を行った。LC条件及びMS条件は実施例2と同様の条件で行った。
【0052】
ヒドロキシチロソールの体内吸収量(AUC)を図5に示す。ヒドロキシチロソール単独で投与したコントロールの0-6時間におけるAUCは8.64 ug/mL*hrであるのに対して、ヒドロキシチロソールとブドウ種子抽出物150mg/kg、250mg/kgの蒸留水溶液を同時に摂取すると、0-6時間におけるヒドロキシチロソールのAUCはそれぞれ13.41、17.52 ug/mL*hrまで上昇した。以上の結果より、ブドウ種子抽出物は150mg/kg及び250mg/kgの用量で投与してもヒドロキシチロソールの体内吸収性が向上することが明らかになった。
実施例4:実施例2及び3の検討を同一の実験系で、更にブドウ種子抽出物の用量を上げても、ヒドロキシチロソールの体内吸収促進効果が、同様に見られるのか検証した。本検討に用いたブドウ種子抽出物中は、二量体以上のOPCを含み、OPC純度はプロシアニジンB1に換算して約76.6%である。算出方法を実施例5に記載する。また、ブドウ種子抽出物中に含まれるガロイル基の量をガロイルエステル体量として測定すると、約2.2重量%であった。算出方法を実施例6に記載する。
SD(IGS)系雄性ラット(8週齢)を株式会社オリエンタルバイオサービスより購入し、1週間試験環境下で馴化させた後、順調な発育を示した動物を選択した試験に供した。一晩絶食したラットを各群4匹からなる5群(第5群については2匹)に分け、第1群(コントロール)にはヒドロキシチロソールの蒸留水溶液30mg/5mL/kg、第2群にはヒドロキシチロソール30mg/kgとブドウ種子抽出物150mg/kgの蒸留水溶液5mL/kg、第3群にはヒドロキシチロソール30mg/kgとブドウ種子抽出物250mg/kgの蒸留水溶液5mL/kg、第4群にはヒドロキシチロソール30mg/kgとブドウ種子抽出物500mg/kgの蒸留水溶液kg/5mL、第5群にはヒドロキシチロソール30mg/kgとブドウ種子抽出物750mg/kgの蒸留水溶液5mL/kgをゾンデを用いて経口投与した。投与前に、そして投与開始の0.25、0.5、1、2、3、6、8時間後に尾静脈よりヘパリン採血管にて血液を採取し、遠心分離操作(8000rpm、10min)により血漿サンプルを得た。
得られた血漿に脱抱合化処理及び除タンパク処理を行い、得られた上清を減圧濃縮し、20%アセトニトリルに再溶解し、これをフィルターろ過し、得られた溶液をLC/MS/MSにて分析し、内部標準法を用いてヒドロキシチロソールの定量を行った。LC条件及びMS条件は実施例2と同様の条件で行った。
【0053】
ヒドロキシチロソールの体内吸収量(AUC)を図6に示す。ヒドロキシチロソール単独で投与したコントロールの0-6時間におけるAUCは7.36 ug/mL*hrであるのに対して、ヒドロキシチロソールとブドウ種子抽出物150mg/kg、250mg/kg、500mg/kg、750ng/kgの蒸留水溶液を同時に摂取すると、0-6時間におけるヒドロキシチロソールのAUCはそれぞれ9.89、9.68、11.22、12.86 ug/mL*hrまで上昇した。以上の結果より、ブドウ種子抽出物は150mg/kg、250mg/kg、500mg/kg及び750mg/kgの用量で投与するとヒドロキシチロソールの体内吸収性が向上することが明らかになった。この時のブドウ種子抽出物中(150mg/kg、250mg/kg、500mg/kg、750mg/kg)のガロイルエステル量はそれぞれ、3.3mg/kg、5.5mg/kg、11mg/kg、16.5mg/kgであり、HTとガロイルエステルのモル比は、1:0.1、1:0.17、1:0.34、1:0.51であった。またこの時のブドウ種子抽出物150mg/kg、250mg/kg、500mg/kg、750mg/kg中のOPC量はそれぞれ、114.9mg/kg、191.5mg/kg、383mg/kg、574.5mg/kgであり、HTとOPCの重量比は1:3.83、1:6.38、1:12.77、1:19.15であった。
【0054】
また、ヒドロキシチロソール(HT)の血中濃度推移を図7に示す。ヒドロキシチロソールとブドウ種子抽出物とを同時に接種すると、ヒドロキシチロソールの体内吸収性が向上し、体内滞留時間が延長することが示された。
実施例5:ブドウ種子抽出物におけるオリゴメリックプロアントシアニジン純度の測定方法。
【0055】
ブドウ種子抽出物由来のオリゴメリックプロアントシアニジン純度は、特許第4659407号に示された方法に準じた方法で求めた。具体的には、以下の方法で純度を求めた。
【0056】
まず、上記調製例で調製したブドウ種子抽出物1.0mgに0.6N 塩酸/ブタノールを1.0mL加え、これを90℃にて2時間反応させ、オリゴメリックプロアントシアニジン類をシアニジンに分解した。得られた反応溶液について、後記の高速液体クロマトグラフィーの分析条件にて分析を行い、反応溶液中に含まれるシアニジン量を定量した後、下に示す計算式によりオリゴメリックプロアントシアニジン純度を算出した。また、標準物質には、プロアントシアニジンB−1(PB−1、フナコシ株式会社:NIU−N210)を使用した。
高速液体クロマトグラフィー分析条件
検出波長:520nm
カラム:YMC-Pack ODS A-312 (φ6.0 × 150.0 mm、商品名、ワイエムシー株式会社製)
溶媒:水:メタノール:酢酸=67.5:17.5:15.0(体積比)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
オリゴメリックプロアントシアニジン純度計算式
【0057】
【数1】
【0058】
この式を用いて実施例4で使用したブドウ種子抽出物中のオリゴメリックプロアントシアニジン純度を算出すると、約76.6%であった。
実施例6:ブドウ種子抽出物におけるガロイルエステル量の測定方法
ねじ口試験管にブドウ種子抽出物を4mg/mlになるよう蒸留水で調整した溶液0.5ml、10%の硫酸水溶液(v/v)を0.5ml加え、攪拌し、スクリューキャップをした後、90℃で14時間処理した。冷後、反応溶液0.5mlに同量のジメチルスルホキシド0.5mlを加え、攪拌後、後記の高速液体クロマトグラフィーの分析条件にて分析を行い、ガロイルエステル量を測定した。
高速液体クロマトグラフィー分析条件
検出波長:280nm
カラム:Develosil C30 (φ4.6×150 mm、野村化学株式会社製)
溶媒A:0.05%トリフルオロ酢酸含有水溶液
溶媒B:0.05%トリフルオロ酢酸含有90%アセトニトリル水溶液
グラジェント:
溶媒B:6%(0分)−6%(5分)−17%(11分)−19%(21分)−88%(22分)−88%(35分)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
下に示す計算式によりガロイルエステル体の濃度を算出した。
ガロイルエステル量の算出計算式
反応後の没食子酸量―反応前の没食子酸量=ガロイルエステル量
実施例4で使用したブドウ種子抽出物中の反応後の没食子酸量は28ug/mgであり、反応前の没食子酸量は5.9ug/mgであった。これよりブドウ種子抽出物中のガロイルエステル量は22.1ug/mgであり、ブドウ種子抽出物の約2.2%がガロイルエステルであった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、生体にとって有用な作用を有するヒドロキシチロソールの体内利用率を高めるのに有用である。また炎症性疾患などの疾患やアンチエイジングに有用な飲食物や医薬品の製造や開発において有用である。
図1
図2
図3
図4
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図7