(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、エンジン1(内燃機関)の概略的な説明図であり、エンジン1におけるピストン2の中心軸を通る断面の概略図を示す。
図1、および、後述する
図3、
図5では、理解を容易とするため、後述する吸気ポート7および排気ポート8を図示するが、実際には、吸気ポート7および排気ポート8は、
図1、
図3、
図5に示す断面に対して、例えば、手前側に1つずつ、奥側に1つずつ形成されている。エンジン1は、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程が繰り返し行われる4スロトークエンジンであり、
図1に示すように、シリンダブロック3、シリンダヘッド4およびピストン2を含んで構成されている。
【0015】
シリンダブロック3には、ピストン2が摺動自在に収容されるシリンダ5が形成されている。なお、シリンダブロック3には、シリンダ5が1つのみ形成されていてもよく、また、複数形成されていてもよい。
【0016】
シリンダヘッド4は、シリンダブロック3におけるシリンダ5の一端が形成された面に連結されている。エンジン1では、シリンダブロック3に形成されたシリンダ5と、ピストン2の冠面2aと、シリンダヘッド4とにより囲まれた空間が燃焼室6として形成されている。すなわち、ピストン2の冠面2aは、燃焼室6の内壁面の一部となっている。
【0017】
シリンダヘッド4には、吸気ポート7および排気ポート8が、1または複数(例えば2つずつ)形成されており、吸気ポート7および排気ポート8が燃焼室6と連通する。またシリンダヘッド4には、吸気弁9と、排気弁10とが設けられている。
【0018】
吸気弁9は、先端が吸気ポート7と燃焼室6との間に位置するようにシリンダヘッド4に配置され、カム機構11aにより移動して吸気ポート7を燃焼室6に対して連通および閉鎖させる。排気弁10は、排気ポート8と燃焼室6との間に位置するようにシリンダヘッド4に配置され、カム機構11bにより移動して排気ポート8を燃焼室6に対して連通および閉鎖させる。
【0019】
また、シリンダブロック3には、点火プラグ13およびインジェクタ14が収容される。シリンダブロック3には、燃焼室6と連通する孔である連通部12a、12bが、位置を異にしてそれぞれ設けられる。連通部12aには、点火プラグ13の先端が挿通され、連通部12bには、インジェクタ14の先端が挿通される。インジェクタ14の先端は、燃焼室6の中心近傍に位置する(所謂センターインジェクション)。
【0020】
コイル装置15は、点火プラグ13の後端部(燃焼室6と反対側の端部)に取り付けられる。コイル装置15には、一次コイルおよび二次コイルが収容されており、バッテリーなどから供給された電力変化に応じて、一次コイルの磁界が変化すると二次コイルで高い誘導起電力が生じる。二次コイルで生じた誘導起電力が点火プラグ13に供給され、点火プラグ13が火花放電する。
【0021】
エンジン1では、所定のタイミングでインジェクタ14から燃料が噴射された後、点火プラグ13によって燃料が点火されて燃焼する。かかる燃焼により、ピストン2がシリンダ5内で往復運動を行い、その往復運動が、コンロッド16を通じてクランクシャフト17の回転運動に変換される。
【0022】
図2は、ピストン2の冠面2a側の斜視図である。
図2に示すように、冠面2aには、4つのリセス2bが形成される。リセス2bは、ピストン2の外周面2cから内径側に延在している。リセス2bにより、ピストン2が上死点にあるとき、ピストン2と、上記の吸気弁9の先端および排気弁10の先端との干渉が避けられる。
【0023】
また、ピストン2には、第1キャビティ2dおよび第2キャビティ2eが設けられる。第1キャビティ2dおよび第2キャビティ2eは、冠面2aに形成された窪みである。第1キャビティ2dおよび第2キャビティ2eは、ピストン2を正面に捉えたとき(シリンダヘッド4側から見たとき)、大凡円形状となっている。
【0024】
第1キャビティ2dは、冠面2aのうち、最もシリンダヘッド4側に位置する頂面2fよりも、窪んでいる(シリンダヘッド4から離隔している)。また、第1キャビティ2dは、冠面2aのうち、頂面2fよりも内径側に位置する。すなわち、第1キャビティ2dは、ピストン2の外周面2cから離隔して形成される。また、第1キャビティ2dにおける、外周2d
1と底面2d
2との間は、曲面2d
3により接続される。
【0025】
第2キャビティ2eは、第1キャビティ2d内に設けられ、第1キャビティ2dよりも深い窪みである。第2キャビティ2eは、第1キャビティ2dの外周2d
1から径方向内側に離隔して形成されている。また、第2キャビティ2eは、第1キャビティ2dと同様、外周2e
1と底面2e
2との間が曲面2e
3により接続される。
【0026】
4つのリセス2bのうち、2つのリセス2b(
図2中、右側の2つ)は、ピストン2の外周面2cから第1キャビティ2dの内部まで延在し、第2キャビティ2eから離隔している。4つのリセス2bのうち、他の2つのリセス2b(
図2中、左側の2つ)は、ピストン2の外周面2cから第1キャビティ2dの内部および第2キャビティ2eの内部まで延在している。
【0027】
図3は、第1キャビティ2dおよび第2キャビティ2eの作用を説明するための図であり、エンジン1におけるピストン2の中心軸を通る断面について、燃焼室6近傍の概略図を示す。また、
図3中、ピストン2は、
図2におけるIII−III線断面が示されている。
【0028】
図3(a)に矢印で示すように、吸気行程で吸気ポート7から燃焼室6に流入する吸気は、燃焼室6のうち、
図3(a)中、右下(排気ポート8側であってピストン2の冠面2a側)に向かって流れる。その後、吸気は、排気ポート8側のシリンダ5の内壁に沿うように導かれて、次に冠面2a上を
図3(a)中、左側(吸気ポート7側)に沿って流れ、吸気ポート7側のシリンダ5の内壁に導かれて、
図3(a)中、上側(シリンダヘッド4側)に戻る。このようにしてエンジン1では、吸気によるタンブル流が形成される。
【0029】
図3(a)に示すように、第1キャビティ2dの曲面2d
3の曲率中心は、ピストン2の頂面2fより上方に位置する。
図3(a)中、右側(排気ポート8側)の曲面2d
3は、右下に流れる吸気を、第1キャビティ2dに沿い左側に導くガイドとして機能する。
図3(a)中、左側(吸気ポート7側)の曲面2d
3は、第1キャビティ2dに沿って左側に流れた吸気を、上側に導くガイドとして機能する。
【0030】
このように、第1キャビティ2dは、タンブル流の形成を促進する吸気のガイドとして機能する。エンジン1では、タンブル流を形成することで、タンブル流が崩壊するときに生じる強い乱流によって燃料の急速燃焼を実現し、燃費改善や燃焼安定性の向上を可能とする。
【0031】
図3(b)に示すように、第2キャビティ2eは、インジェクタ14に対向する位置に形成される。第2キャビティ2eの曲面2e
3の曲率中心は、底面2d
2よりピストン2上方に位置する。
【0032】
インジェクタ14から、例えば、円錐状(放射状)に噴霧された燃料は、第2キャビティ2eの底面2e
2に向かった後、曲面2e
3に導かれてインジェクタ14の隣に設けられた点火プラグ13側に向かう。すなわち、第2キャビティ2eは、噴霧された燃料を点火プラグ13に導く。そのため、エンジン1では、例えば、低負荷時にインジェクタ14近傍に燃料の濃度が高い混合気が形成され、成層リーンバーンが実現可能となる。
【0033】
このように、ピストン2には、タンブル流の形成を促進する第1キャビティ2dと、燃料を点火プラグ13に導く第2キャビティ2eが設けられる。しかし、タンブル流が第2キャビティ2eに流入すると、流入したタンブル流の流速が低下して、第2キャビティ2eに流入しなかったタンブル流との間で、流速が不均一となってしまう。その結果、タンブル流の質の低下を招くこととなる。そこで、ピストン2は、第2キャビティ2eへのタンブル流の流入を抑制する構成となっている。
【0034】
図4は、ピストン2の冠面2aの正面図であり、
図2におけるIV矢視図である。
図4では、理解を容易とするため、上記のリセス2bの図示を省略する。
図4中、矢印は、冠面2aに沿ったタンブル流の流れを示す。
図4に示すように、タンブル流は、冠面2a上を、
図4中、右側(排気ポート8側)から左側(吸気ポート7側)に流れる。
【0035】
ここで、第1キャビティ2dのうち、第2キャビティ2eよりも、
図4中、右側の領域を上流部2d
4という。言い換えれば、上流部2d
4は、第1キャビティ2dのうち、第2キャビティ2eよりも、排気ポート8側の領域である。また、第1キャビティ2dのうち、第2キャビティ2eよりも、
図4中、左側の領域を下流部2d
5という。言い換えれば、下流部2d
5は、第1キャビティ2dのうち、第2キャビティ2eよりも、吸気ポート7側の領域である。
【0036】
そして、上流部2d
4は、下流部2d
5よりも、冠面2aに沿って流れるタンブル流の流れ方向(
図4中、左右方向)に長く延在している。すなわち、第1キャビティ2dは、冠面2aの大凡中央に設けられ、第2キャビティ2eは、冠面2aの中央に対して吸気ポート7側にずれて設けられている。
【0037】
図5は、上流部2d
4の長さによる作用を説明するための図である。
図5(a)には、本実施形態のエンジン1を示し、
図5(b)には、比較例のエンジンEを示す。
図5(b)に示すように、比較例のエンジンEでは、上流部Eaおよび下流部Ebは、冠面Ec上を流れるタンブル流の流れ方向の長さが大凡等しい。すなわち、比較例のエンジンEでは、第1キャビティEdおよび第2キャビティEeが冠面Ecの大凡中央に設けられている。
【0038】
比較例のエンジンEにおいて、タンブル流は、上流部Eaに沿って流れるものの、上流部Eaの長さが不足しており、左方向への流れに十分に付勢する以前に第2キャビティEeに到達してしまう。そのため、タンブル流が第2キャビティEeに流入し、流速が低下してしまう。
【0039】
一方、本実施形態では、
図5(a)に示すように、上流部2d
4が長いため、上流部2d
4に沿って流れたタンブル流は、左方向への流れに十分に付勢された後、第2キャビティ2eに到達する。第2キャビティ2eに到達したタンブル流は、流速が高いため冠面2aから剥離して、第2キャビティ2eに流入することなく、そのまま左方向に流れる。
【0040】
第2キャビティ2eに流入せずに第2キャビティ2eから距離を保ったタンブル流は、第2キャビティ2eの底面2e
2近傍の気体の粘性を受け難くなり、タンブル流の部分的な速度低下が回避される。こうして、タンブル流の流速の不均一化を抑え、タンブル流の質の低下を抑制することが可能となる。
【0041】
図6は、変形例におけるピストン102の冠面102a側の斜視図である。上述した実施形態では、第1キャビティ2dおよび第2キャビティ2eは、ピストン2を正面に捉えたとき(シリンダヘッド4側から見たとき)、大凡円形状となっている場合について説明した。変形例においては、
図6に示すように、第1キャビティ102dは大凡円形状となっているが、第2キャビティ102eは大凡楕円形状となっている。
【0042】
図7は、変形例におけるピストン102の冠面102aの正面図である。
図7中、矢印は、冠面102aに沿ったタンブル流の流れを示す。
図7に示すように、変形例では、上述した実施形態と同様、上流部102d
4は、下流部102d
5よりも、冠面102aに沿って流れるタンブル流の流れ方向(
図7中、左右方向)に長く延在している。
【0043】
また、第2キャビティ102eは、上記のように大凡楕円形状となっており、第2キャビティ102eの楕円の短辺がタンブル流の流れ方向に沿う向き(
図7中、左右方向)となっている。第2キャビティ102eの楕円の長辺は、タンブル流の流れ方向に直交する向きとなっている。
【0044】
第2キャビティ102eを楕円形状とする場合、第2キャビティ102eが円形状である場合に比べて、第2キャビティ102eが同じ容積に設計されたときに、上流部102d
4が長く確保される。すなわち、冠面102aを正面に見たとき、第2キャビティ102eの面積が同じであっても、円形状の直径よりも楕円形状の短辺の方が短いため、上流部102d
4が長く確保される。その結果、上述した実施形態と同様、上流部102d
4に沿って流れたタンブル流は、十分に左方向への流れに付勢された後、第2キャビティ102eに到達し、その流速により冠面102aから剥離して、第2キャビティ102eに流入することがない。よって、タンブル流の流速の不均一化をさらに効果的に抑え、タンブル流の質の低下を抑制することが可能となる。
【0045】
また、タンブル流は、第2キャビティ102eに到達して冠面102aから剥離するとき、第2キャビティ102eの外周102e
1の接線に直交する向きに、流れが変わる傾向がある。すなわち、
図7中、矢印で示すように、第2キャビティ102eの楕円形状の長辺の両端(
図7中、上端と下端)近傍を流れるタンブル流は、楕円形状の中心側へやや向きを変える。
【0046】
例えば、第2キャビティ102eは、楕円形状であるため、円形状に比べて(上記の面積が同じ場合を比較して)、タンブル流が剥離する外周102e
1の曲率が大きい。そのため、タンブル流の向きが楕円形状の中心側に変わっても、僅かな向きの変化に抑えられる。その結果、タンブル流が乱れずに、タンブル流の質の低下が抑制される。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0048】
例えば、上述した実施形態および変形例では、タンブル流が、吸気ポート7から
図3(a)中、右下に向かった後、時計回りに流れる場合について説明した。しかし、タンブル流は、
図3(a)中、反時計回りに流れてもよい。すなわち、タンブル流は、吸気ポート7から、
図3(a)中、下側に流れた後、右側に向かい、その後、排気ポート8側に向かう流れであってもよい。このように、タンブル流が、
図3(a)中、反時計回りに流れる場合、上流部2d
4、102d
4は、第1キャビティ2d、102dのうち、第2キャビティ2e、102eよりも、吸気ポート7側の領域となる。下流部2d
5、102d
5は、第1キャビティ2d、102dのうち、第2キャビティ2e、102eよりも、排気ポート8側の領域となる。