【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)総務省委託研究「電波資源拡大のための研究開発のうち“不要電波の広帯域化に対応した電波環境改善技術の研究開発”」成果に係る特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照すると、本実施の形態に係る複合磁性シート10は、有機バインダ102と、有機バインダ102内に分散された磁性扁平粉104とを備えている。磁性扁平粉104の表面には、絶縁被膜106が形成されている。複合磁性シート10は、難燃性向上等を目的として、さらに非磁性フィラーを含んでもよい。
【0017】
有機バインダ102は、特に限定されず、種々の結合剤を用いることができる。有機バインダ102として、例えば、アクリルゴム、アクリル酸アルキル共重合体等の(メタ)アクリル系ポリマー、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、ポリウレタン、ポリエチレン、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、BTレジン、ポリアミドイミド、あるいはポリイミド等を利用することができる。
【0018】
磁性扁平粉104は、飽和磁束密度Bsが1.6T(テスラ)以上の軟磁性金属からなる。飽和磁束密度Bsが1.6T未満だと、周波数5GHzでの減結合(デカップリング)に関わる複合磁性シート10の透磁率(μ、μ′、μ″)が得られないからである。このような軟磁性金属として、3d遷移金属元素のうちの少なくとも一種以上の元素を含む金属または合金がある。例えば、磁性扁平粉104は、Fe,Fe−Si,Fe−Si−Cr,Fe−Ni,Fe−Al,Fe−Co及びFe−Co−Vのうちのいずれかからなる。これらの金属または合金は、いずれも立方晶構造を有する結晶質の金属または合金である。なお、現時点において、2.45Tを超える飽和磁束密度Bsを有する3d遷移金属元素からなる軟磁性合金は知られていない。よって、磁性扁平粉104の飽和磁束密度Bsの上限は、2.45Tである。
【0019】
磁性扁平粉104は、また、複合磁性シート10の厚み方向断面において、長径方向に1μm以上30μm以下の粒径(メジアン径:D50)を有している。望ましくは、磁性扁平粉104の粒径は、10μm以上15μm以下である。粒径が1μm未満だと、断面アスペクト比が30以上の磁性扁平粉104を工業的に作製することが極めて困難であり、粒径が10μm未満だと、作製困難だからである。なお、断面アスペクト比を30以上とするのは、反磁界係数を低減するためである。また、粒径が15μmを超えると飽和磁束密度Bs=1.6Tの磁性扁平粉104を用いた場合に、周波数5GHzでの減結合に関わる複合磁性シート10の透磁率(μ、μ′、μ″)が十分に得られず、粒径が30μmを超えるとそれが得られないからである。磁性扁平粉104の粒径を30μm以下とすることで、複合磁性シート10における磁性扁平粉104の体積占有率を高くすること(40vol%以上)を可能にし、それによって、複素透磁率μの向上を実現する。なお、本実施の形態における粒径(メジアン径:D50)は、複合磁性シート10の厚み方向断面において、300個以上の磁性扁平粉104をランダムに選出し、その長径を測定して求めたものである。
【0020】
複合磁性シート10における磁性扁平粉104の体積占有率は、40vol%以上50vol%以下である。好ましくは、複合磁性シート10における磁性扁平粉104の体積占有率は、45vol%以上50vol%以下である。体積占有率が45vol%未満だと、周波数5GHzでの減結合に関わる複合磁性シート10の透磁率(μ、μ′、μ″)が十分に得られないからである。また、体積占有率が40vol%未満だと周波数5GHzでの減結合に関わる複合磁性シート10の透磁率(μ、μ′、μ″)が得られないからである。さらに、体積占有率が50vol%より大きいと、複合磁性シート10の膜質の劣化、可撓性の低下及びシートの表面抵抗率の減少等が起こるからである。
【0021】
絶縁被膜106は、5nm以上15nm以下、望ましくは5nm以上10nm以下の膜厚を有している。絶縁被膜106の膜厚が5nm未満だと、周波数5GHzでの減結合に関わる複合磁性シート10の誘電率εの低減に必要なシートの表面抵抗率ρsが得られないからである。また、絶縁被膜106の膜厚が10nmより厚いと周波数5GHzでの減結合に関わる複合磁性シート10の透磁率(μ、μ’、μ’’)が十分に得られないからである。さらに、絶縁被膜106の膜厚が15nmより厚いと、周波数5GHzでの減結合に関わる複合磁性シート10の透磁率(μ、μ’、μ’’)が得られないからである。前述のように、磁性扁平粉104の体積占有率の増加に伴い複合磁性シート10の表面抵抗率は減少する。その結果、複合磁性シート10において電磁波の反射が増加する。そこで、本実施の形態では、磁性扁平粉104の表面に絶縁被膜106を形成し、それによって、複合磁性シート10の表面抵抗率ρsの減少を抑える。
【0022】
上記のように構成された複合磁性シート10は、10Vの電圧を印加したときに、10
7Ω/sq.以上10
12Ω/sq.以下のシートの表面抵抗率ρsを有している。このように本実施の形態の複合磁性シート10は、高いシートの表面抵抗率ρsを有しているので、半導体チップ(図示せず)上に直接配置することができる。即ち、複合磁性シート10は、その配置の自由度が高い。
【0023】
次に、複合磁性シート10の製造方法について説明する。磁性扁平粉104は、出発原料として、粒径(D50)が10μm以下の概ね球形状の金属粉末を用いる。このような金属粉末の製造方法は特に限定されないが、例えば、高圧水アトマイズ法により作製することができる。合金粉末をボールミル等の扁平化装置により扁平化処理して磁性扁平粉104を得る。例えば、D50=5μmのFe−Si−Cr合金粉を扁平化処理することにより、D50=15μmの磁性扁平粉104を作製することができる。
【0024】
次に、磁性扁平粉104の表面に絶縁被膜106を形成する。絶縁被膜106の原料として、種々の材料を用いることができる。例えば、絶縁被膜106の原料として、ジルコニア(ZrO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、サファイア(Al
2O
3)、ガラス(リン酸塩系ガラス、Bi系ガラス)、窒化チタニウム(TiN)、ムコライト(3Al
2O
3・2SiO
2)、コージライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)、ステアタイト(MgO・SiO
2)、フォルステライト(2MgO・SiO
2)、イットリア(Y
2O
3)、チタニア系(チタン酸カルシウム系、チタン酸バリウム系)セラミックス、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、窒化アルミ(AlN)、シリカ(SiO
2)、及びサーメットなどの無機材料を使用することができる。また、絶縁被膜106の形成は、用いる原料に応じて様々な方法を用いて行うことができる。例えば、ジルコニアを用いる場合は次のように行うことができる。まず、ジルコニアナノ粒子(例えば、D50=12nm)を分散材及び水と混合し、超音波分散機を用いて分散処理することでジルコニアゾルを作製する。作製したジルコニアゾルと磁性扁平粉104とを混合し、混合物を大気中オーブンで乾燥させて、磁性扁平粉104の表面にジルコニア粒子層を形成し、絶縁被膜106とする。アルミナを原料とする場合も、ジルコニアの場合と同様の方法で形成することが可能である。また、多木化学株式会社製のタイノック(TiO
2)、セラメース(SnO
2)、ニードラール(CeO
2)、バイラール(Nb
2O
5、Al
2O
3、3Al
2O
3・2SiO
2、Fe
2O
3、ZrO
2、La
2O
3、Nd
2O
3)等の市販のゾルを用いれば、ゾルを作製する工程を省略して、絶縁被膜106を形成することができる。また、ガラスを原料とする場合は、メカノフュージョンにより絶縁被膜106を形成することができる。メカノフュージョンによる絶縁被膜106の形成は、磁性扁平粉104の製造工程(金属粉末の扁平化工程)と同時に行うことができる。さらに、TiNを原料とする場合は、熱プラズマ法を用いて絶縁被膜106を形成することができる。その他、原料によっては、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やスパッタ法を用いることもできる。
【0025】
次に、表面に絶縁被膜106が形成された磁性扁平粉104と有機バインダ102とを混合し、ドクターブレード法によりシート状に形成した後、乾燥させてグリーンシートを作製する。磁性扁平粉104と有機バインダ102とを混合する際、非磁性フィラー(難燃剤フィラー)をさらに加えてもよい。難燃剤フィラーとして、例えば、メラミンシアヌレート、水酸化アルミで被覆された赤燐、水酸化マグネシウム、ポリビスフェノキシホスファゼンなどを用いることができる。また、これらの難燃剤フィラーを二つ以上組み合わせてもよい。例えば、ポリビスフェノキシホスファゼンはチャー層形成により難燃化を実現し、メラミンシアヌレートや水酸化マグネシウムは吸熱により難燃化を実現する。このように特性の異なる難燃剤フィラーを組み合わせることで、非常に高い難燃性を実現することができる。
【0026】
次に、作製したグリーンシートを適当なサイズに切断する。切断されたグリーンシートを複数枚重ね合わせ積層体とする。得られた積層体を加熱プレスし、続いて加熱プレスされた積層体を冷却させる。こうして、複合磁性シート10が完成する。
【0027】
本実施の形態によれば、磁性扁平粉104の表面に絶縁被膜106を形成したことで、磁性扁平粉104間の電気的距離が増大し、複合磁性シート10の誘電率εが低減する。複合磁性シート10の誘電率εは、5GHzを含む超高周波帯(SHF)の電磁波抑制の阻害要因となるため、誘電率εが低減することで、複合磁性シート10の同周波数帯の減結合特性が向上する。
【0028】
また、本実施の形態によれば、飽和磁束密度Bsが1.6T以上の磁性扁平粉14を用いたことで、SHF帯における透磁率μの周波数特性を改善することができる。具体的には、複合磁性シート10の透磁率μの虚数成分μ″の周波数特性を高周波側へ延ばすことができる。これにより、SHF帯において磁気損失成分(虚数成分)μ″による電磁波抑制を実現することができる。
【0029】
また、本実施の形態によれば、粒径(D50)が30μm以下の磁性扁平粉104を用いたことで、磁性扁平粉104間の距離dが増加し、誘電率εが低下する。加えて、磁性扁平粉104の粒径を小さくするとSHF帯における透磁率μの周波数特性が改善される。これらの相乗効果により、複合磁性シート10のSHF帯における減結合特性が向上する。
【0030】
本実施の形態に係る複合磁性シート10の内部構造は、誘電体である有機バインダ中に金属層である磁性偏平粉が分散配置され、多数のキャパシタが形成された構成となっている。そのため、本実施の形態の複合磁性シート10は、ESD(静電放電)対策にも有効である。
【0031】
さらに、複合磁性シート10に難燃剤フィラーが加えられている場合には、難燃剤フィラーは絶縁物なので、磁性扁平粉104間に位置する難燃剤フィラーの存在が、磁性扁平粉104間の電気的距離をさらに長くする。その結果、複合磁性シート10の誘電率εが低下し、複合磁性シート10のSHF帯における減結合特性が向上する。
【0032】
また、難燃剤フィラーとしてのポリビスフェノキシホスファゼンを用いた場合には、ポリビスフェノキシホスファゼンが有機バインダ102に分子レベルで分散することから、磁性扁平粉104の体積充填率(占積率)を損なうことがない。しかも、ポリビスフェノキシホスファゼンは低い誘電率を有することから、複合磁性シート10の誘電率εを低減させる効果もある。これにより、ポリビスフェノキシホスファゼンの使用は、複合磁性シート10のSHF帯における減結合特性の改善に貢献する。
【0033】
以上のように、本実施の形態による複合磁性シート10は、UHF帯を超える周波数(SHF帯)における減結合特性が向上することから、例えば、5GHzの電磁波ノイズを抑制するのに有効である。
【0034】
ここで、複合磁性シート10による減結合は、複合磁性シート10の透磁率μの虚数成分(磁気損失成分)μ″に由来する。この磁気損失成分μ″は、周波数分散を有しているものの、特定の周波数に対してのみ影響を与えるものではない。即ち、複合磁性シート10の透磁率μの磁気損失成分μ″は、抑制したい周波数のみならず、抑制したくない周波数にも影響を与える。したがって、複合磁性シート10の透磁率μの磁気損失成分μ″は、抑制したい周波数においてより大きく、抑制したくない周波数においてより小さいことが望ましい。具体的には、磁気損失成分μ″が低周波数側において小さく、高周波数側において大きければ、複合磁性シート10は、通信に必要な低周波の信号を減衰させず、高周波のノイズを減衰させるローパスフィルタ的な性能を発揮する。
【0035】
図2(a)〜
図2(c)を参照すると、合金の透磁率μの磁気損失成分μ″は、二つのピーク値(極大値)、即ち、低周波分散(DII)のピーク値μ″
(DII)と高周波分散(DIII)のピーク値μ″
(DIII)を有している。高周波ノイズを抑制しつつ、信号に対する影響を低減するには、低周波分散(DII)のピーク値μ″
(DII)がより低く、高周波分散(DIII)のピーク値μ″
(DIII)がより高いことが望ましい。具体的には、
図2(a)に示されるように、高周波分散(DIII)のピーク値μ″
(DIII)が低周波分散(DII)のピーク値μ″
(DII)の0.8倍未満ではなく、
図2(b)又は
図2(c)に示されるように、高周波分散(DIII)のピーク値μ″
(DIII)が低周波分散(DII)のピーク値μ″
(DII)の0.8倍以上であることが望ましい。即ち、虚部透磁率μ″の低周波分散(DII)のピーク値μ″
(DII)に対する虚部透磁率μ″の高周波分散(DIII)のピーク値μ″
(DIII)の比率が、μ″
(DIII)/μ″
(DII)≧0.8、であることが望ましい。また、比率μ″
(DIII)/μ″
(DII)は、μ″
(DIII)/μ″
(DII)>1.0、であることがより望ましい。μ″(DIII)/μ″(DII)≧0.8の条件を満たすことにより、複合磁性シート10は、ローパスフィルタ的な性能を発揮することができる。このような性能を発揮する合金としては、Fe−Si,Fe−Si−Cr,Fe−Ni,Fe−Al,Fe−Co,Fe−Co−V等の合金がある。
【0036】
虚部透磁率μ″の低周波分散(DII)に対する虚部透磁率μ″の高周波分散(DIII)のピーク値の比率μ″
(DIII)/μ″
(DII)は、磁性扁平粉104の飽和磁歪λ
sに比例する。したがって、比率μ″
(DIII)/μ″
(DII)を高めるには、磁性扁平粉104の飽和磁歪λ
sを高めればよい。飽和磁歪λ
sが16以上であれば、μ″
(DIII)/μ″
(DII)≧0.8が満たされる。飽和磁歪λ
sを高めるには、磁性扁平粉104を構成する、上記に例示した合金の材料を適宜選択すればよい。
【0037】
次に、いくつかの実施例について説明する。
【0038】
(実施例1)
Fe−0.5Si粉末と2−プロパノールのスラリーを循環式メディア攪拌型ミルへ投入して扁平化処理を行い、扁平粉粒径D50=14μm、粉末比表面積S=2.2(m
2/g)の磁性扁平粉を得た。試料振動型磁力計(VSM)を使って、磁性扁平粉の飽和磁束密度Bsを測定したところ、Bs=2.0Tであった。
【0039】
次に、磁性扁平粉の表面に膜厚5nmの絶縁被膜を形成した。そして、表面に絶縁被膜が形成された磁性扁平粉と、3−アミノプロピルエトキシシランのシランカップリング剤とアクリル酸アルキル共重合体の有機結合材とを、適量のトルエンを添加しながらミキサーで混合し塗液を作製した。配合比は質量%で、磁性扁平粉:3−アミノプロピルエトキシシラン:アクリル酸アルキル共重合体=88.06:2.10:9.84、とした。なお、磁性扁平粉の理論上の密度は4.42g/ccである。
【0040】
次に、作製した塗液をドクターブレード法で成膜し、乾燥させてグリーンシートを作製した。作製したグリーンシートを適当なサイズにカットし、数枚積層した後、加熱プレスを行い厚さ100μmの複合磁性シート(実施例1)を得た。得られた複合磁性シートの断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察したところ、アクリル酸アルキル共重合体中に磁性扁平粉が分散した構造であることが確認された。
【0041】
作製した複合磁性シート(実施例1)の透磁率μ(μ′、μ″)を測定し、その周波数特性を求めた。具体的には、複合磁性シートを外径7mm、内径3.04mmに打ち抜いた環状の試験片を作製した。ネットワークアナライザENA E5080A(Keysight Technologies社製)と同軸管冶具CSH2−APC−7(関東電子応用開発社製)を用い、伝送線路法により試験片の透磁率μ(μ′、μ″)の周波数特性を測定した。同様に比較例1の透磁率μ(μ′、μ″)の周波数特性も測定した。測定結果を
図3及び表1に示す。
【表1】
表1には、周波数が5GHzのときの透磁率μ、その実数成分(実部透磁率)μ′及び虚数成分(虚部透磁率)μ″と、密度及びシートの表面抵抗率ρsの測定結果が含まれる。
図3において、実施例1の実部透磁率μ′211と虚部透磁率μ″212、及び比較例1の実部透磁率μ′231と虚部透磁率μ″232が示されている。
図3に示されるように、比較例1の虚部透磁率μ″232が5GHz近傍で極大を取るのに対して、実施例1の虚部透磁率μ″212は7GHz付近で極大を取っている。
【0042】
また、作製した複合磁性シート(実施例1)の表面抵抗率ρsを測定した。具体的には、表面抵抗計(ハイレスタ−UP:三菱化学アナリテック社製)を用い、印加電圧10Vで複合磁性シートの表面抵抗率ρsを測定した。測定結果は、8.6×10
7Ω/sq.であった。表面に絶縁被膜を形成していない磁性扁平粉を用いて上記と同様に作製した複合磁性シート(比較例1)の表面抵抗率ρsは、1.5×10
2Ω/sq.であった。このことから、実施例1の複合磁性シートの表面抵抗率ρsは、5桁向上していることが確認された。このように、実施例1は比較例1と比べて、透磁率μは総じて同等か若干低いものの、表面抵抗率ρsは著しく高いものであった。
【0043】
さらに、作製した複合磁性シートの結合レベル(減結合特性)を測定した。具体的には、ネットワークアナライザENA E5080A(Keysight Technologies社製)と、
図4に示される携帯電話機(又はスマートフォン)30における内部干渉を再現する
図5の非共振評価系40とを用いて、複合磁性シートの結合レベルを測定した。
図4に示される携帯電話機30は、金属筐体301、ガラスプレート302及び樹脂筐体303で囲まれた内部に半導体チップ304やアンテナ305を備えている。金属筐体301は、半導体チップ304等の内部機器(ノイズ源)から放射される不要電磁波311が外部へ漏れないように反射する。金属筐体301で反射された不要電磁波312は、他の内部機器(被害者)、例えばアンテナ305に入射し、誤動作等の原因となる。
図5に示される非共振評価系40は、金属筐体301を模した銅板401と、ノイズ源を模した送信アンテナ402と、被害者を模した受信アンテナ403とを有している。送信アンテナ402から送信された信号410を受信アンテナ403で受信したときの伝送率(dB)を、銅板401の表面に複合磁性シート(実施例1又は比較例1)405を貼り付けたときと、何も貼り付けていないときとの夫々について求め、その差を複合磁性シート405の結合レベルとした。その結果を
図6及び表2に示す。
【表2】
図6には、実施例1の結合レベル511と比較例1の結合レベル531が示されている。
図6において、結合レベルの値が小さいほど減結合特性が良いことを意味する。即ち、結合レベルの値が小さいほど、複合磁性シート405によって不要電磁波(ノイズ)が抑制(吸収)されている。
図6に示されるように、比較例1の結合レベル531は、3.4GHzを超えると正の値を取る。即ち、送信アンテナ402と受信アンテナ403との間に、複合磁性シート(比較例1)の反射による結合が生じている。これに対して、実施例1の結合レベル511は、6GHzでも負の値を取る。即ち、送信アンテナ402と受信アンテナ403との間に、複合磁性シート(実施例1)による減結合が生じている。このように、実施例1の複合磁性シートは、5GHzを超える高い周波数に対しても電磁ノイズ抑制効果がある。ここで、複合磁性シートの減結合特性は、虚部透磁率(磁気損失成分)μ″に大きく依存するものである。そして、高い周波数帯(2.7〜6GHz)において、比較例1の虚部透磁率μ″は、実施例1の虚部透磁率μ″を上回っている(
図3参照)。したがって、比較例1の結合レベルは、実施例1の結合レベルを下回ることが予想される。しかしながら、
図6に示されるように、実施例1の結合レベルは、高い周波数(2.7〜6GHz)において、比較例1の結合レベルを下回っている。これは、実施例1の表面抵抗率ρsが比較例1の表面抵抗率ρsよりも著しく高く、実施例1の誘電率εが比較例1の誘電率εよりも低いためであると考えられる。
【0044】
(実施例2)
Fe−3.5Si−4.5Cr粉末と2−プロパノールのスラリーを循環式メディア攪拌型ミルへ投入して扁平化処理を行い、扁平粉粒径D50=30μm、粉末比表面積S=0.9(m
2/g)の磁性扁平粉を得た。試料振動型磁力計(VSM)を使って、磁性扁平粉の飽和磁束密度Bsを測定したところ、Bs=1.7Tであった。
【0045】
次に、磁性扁平粉の表面に膜厚13nmの絶縁被膜を形成した。表面に絶縁被膜が形成された磁性扁平粉と、3−アミノプロピルエトキシシランのシランカップリング剤とアクリル酸アルキル共重合体の有機結合材とを、適量のトルエンを添加しながらミキサーで混合し塗液を作製した。配合比は質量%で、磁性扁平粉:3−アミノプロピルエトキシシラン:アクリル酸アルキル共重合体=88.06:2.10:9.84、とした。なお、磁性扁平粉の理論上の密度は4.34g/ccである。
【0046】
次に、作製した塗液をドクターブレード法で成膜し、乾燥させてグリーンシートを作製した。作製したグリーンシートを適当なサイズにカットし、数枚積層した後、加熱プレスを行い厚さ100μmの複合磁性シート(実施例2)を得た。得られた複合磁性シートの断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察したところ、アクリル酸アルキル共重合体中に磁性扁平粉が分散した構造であることが確認された。
【0047】
作製した複合磁性シート(実施例2)の透磁率μ(μ′、μ″)の周波数特性を測定した。測定は、実施例1の場合と同様に行った。また、比較例2の透磁率μ(μ′、μ″)の周波数特性も測定した。測定結果を
図7及び表3に示す。
【表3】
表3には、周波数が5GHzのときの透磁率μの大きさ、その実数成分(実部透磁率)μ′及び虚数成分(虚部透磁率)μ″と、密度とシートの表面抵抗率ρsの測定結果も含まれる。
図7において、実施例2の実部透磁率μ′611と虚部透磁率μ″612、及び比較例2の実部透磁率μ′631と虚部透磁率μ″632が示されている。
図7に示されるように、実施例2の虚部透磁率μ″612は比較例2の虚部透磁率μ″632と同程度の5GHz近傍で極大を取っている。
【0048】
また、作製した複合磁性シート(実施例2)の表面抵抗率ρsを測定した。測定は、実施例1の場合と同様に行った。測定結果は、3.5×10
10Ω/sq.であった。表面に絶縁被膜を形成していない磁性扁平粉を用いて上記と同様に作製した複合磁性シート(比較例2)の表面抵抗率ρsは、5.2×10
3Ω/sq.であった。このことから、実施例2の複合磁性シートの表面抵抗率ρsは、7桁向上していることが確認された。このように、実施例2は比較例2と比べて、透磁率μは総じて同等か若干低いものの、表面抵抗率ρsは著しく高いものであった。
【0049】
さらに、作製した複合磁性シートの結合レベル(減結合特性)を測定した。測定は、実施例1の場合と同様に行なった。また、比較例2についても結合レベルを測定した。測定結果を
図8及び表4に示す。
【表4】
図8には、実施例2の結合レベル711と比較例2の結合レベル731が示されている。
図8に示されるように、比較例2の結合レベル731は、4.8GHzを超えると正の値を取り、送信アンテナ402と受信アンテナ403との間に、複合磁性シート(比較例2)の反射による結合が生じている。これに対して、実施例2の結合レベル711は、5.8GHzでも負の値を取り、送信アンテナ402と受信アンテナ403との間に、複合磁性シート(実施例2)による減結合が生じている。このように、実施例2もまた、実施例1と同様に、5GHzを超える高い周波数に対して電磁ノイズ抑制効果がみられる。これも、実施例1の場合と同様に、実施例2の虚部透磁率μ″は高い周波数帯(3.2〜6GHz)において比較例2の虚部透磁率μ″を下回っている(
図7参照)が、実施例2の表面抵抗率ρsが比較例2の表面抵抗率ρsよりも著しく高く、実施例2の誘電率εが比較例2の誘電率εよりも低いためであると考えられる。
【0050】
(実施例3)
絶縁被膜が形成されていない磁性扁平粉を用い、磁性扁平粉の占積率が異なる複数の複合磁性シートを作製し、作製した複数の複合磁性シートの誘電率εと結合レベルとの関係を調べた。周波数が0.7GHz、2.4GHz及び5GHzの場合について、夫々誘電率εと結合レベルとの関係を調べた。その結果を
図9(a)〜
図9(c)に示す。また、絶縁被膜の膜厚が異なる複数の複合磁性シートを作製し、表面抵抗率ρsと誘電率εとの関係を調べた。周波数が0.7GHz、2.4GHz及び5GHzの場合について、夫々表面抵抗率ρsと誘電率εとの関係を調べた。その結果を
図10(a)〜
図10(c)に示す。
【0051】
図9(a)〜
図9(c)から理解されるように、周波数が0.7GHzや2.4GHzの場合の結合レベルは、誘電率εが増加しても増加することはない(むしろ減少している)。それに対して、周波数5GHzでは、誘電率εが増加すると結合レベルは増加している。このことから、5GHzを含むSHF帯においては、誘電率εを低減することで、減結合特性が改善されることが理解できる。また、
図10(a)〜
図10(c)から理解されるように、誘電率εは、表面抵抗率ρsが増加するに従って低下する。このことから、表面抵抗率ρsを増加させることにより、複合電磁シート10の誘電率εを低下させることができ、誘電率εを低下させれば、5GHzを含むSHF帯での複合電磁シート10の減結合特性を向上させることができると言える。本発明は、このような知見に基づいて、SHF帯の電磁波に対する減結合特性を向上させた複合磁性シート10を提供するものである。
【0052】
以上、本発明について実施の形態を掲げて具体的に説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形、変更が可能である。例えば、複合磁性シートの電気的特性あるいは物理的特性を制御するため、難燃剤フィラーとは異なる他の非磁性フィラーをさらに加えてもよい。