(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405380
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】脂肪吸引した脂肪をアリコートに分割するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
A61M1/00 170
A61M1/00 140
A61M1/00 130
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-530665(P2016-530665)
(86)(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公表番号】特表2016-527971(P2016-527971A)
(43)【公表日】2016年9月15日
(86)【国際出願番号】IB2014063634
(87)【国際公開番号】WO2015015471
(87)【国際公開日】20150205
【審査請求日】2017年7月25日
(31)【優先権主張番号】MO2013A000227
(32)【優先日】2013年8月2日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】516034762
【氏名又は名称】ビオメッド デバイス エス..アール.エル.
【氏名又は名称原語表記】BIOMED DEVICE S..R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【弁理士】
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 慎司
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(74)【代理人】
【識別番号】100153947
【弁理士】
【氏名又は名称】家成 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】ベルトーニ, マルコ
【審査官】
松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−526868(JP,A)
【文献】
特表2008−538514(JP,A)
【文献】
特表2012−525157(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0009837(US,A1)
【文献】
特表2005−519883(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/029270(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0207103(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪吸引によって得られた一定量の脂肪物質を容器から採取し、該採取した量を密閉保存する採取手段(2、3)を含む、脂肪吸引した脂肪をアリコートに分割するシステムにおいて、該システムはさらに、
前記採取手段(2、3)に連通可能であって前記の量の少なくとも一部を収容でき、前記脂肪物質を構成する水様液体から重力によって脂肪を分離させるために、プランジャを上に、嘴部を下に向けて配置された少なくとも1つの分離注射器(4)と、
該採取手段(2、3)を前記分離注射器(4)に密閉連通させる第1の連結手段(5)と、
前記分離注射器(4)に連通させ、該分離注射器(4)から排出された前記水様液体を収容できる少なくとも1つの廃棄用容器(6)と、
前記分離注射器(4)に密閉連通させ、該分離注射器(4)から排出された脂肪アリコートを収容でき、脂肪を密閉保存し、浸潤させるために注入できる少なくとも1つの注射装置(7、8)と、
前記分離注射器(4)と前記廃棄用容器(6)、または該分離注射器(4)と前記注射装置(7、8)とを交互に密閉連通できる第2の連結手段(9)とを含み、
該注射装置(7、8)は、相互に密閉連結された少なくとも1つの容器(7)および少なくとも1つの浸潤注射器(8)を含むとともに、取り外し可能に第2の連結手段(9)に連結可能であり、脂肪が充填されると、脂肪アリコートを収容して注入する可搬ユニットを構成することを特徴とする脂肪吸引した脂肪をアリコートに分割するシステム。
【請求項2】
前記注射装置(7、8)は、前記第2の連結手段(9)に取り外し可能な方法で連結できる取付手段(20)を含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム(1)。
【請求項3】
前記容器(7)は、第2の流路(11)を介して前記浸潤注射器(8)に密閉連結されることを特徴とする請求項1または2に記載のシステム(1)。
【請求項4】
前記浸潤注射器(8)は、前記浸潤注射器自体に収容されている脂肪が前記容器(7)に向かって流出することを防止する少なくとも1つの単動バルブ(12)を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のシステム(1)。
【請求項5】
前記システムは、前記注射器具(7、8)を前記第2の連結手段(9)に連結させる分岐流路(10)を含み、該分岐流路は前記取付手段(20)と該第2の連結手段(9)との間に配置されることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のシステム(1)。
【請求項6】
前記採取手段(2、3)は、脂肪物質を真空状態で密閉収容する容器に穿刺できる採取針(3)に連結された採取注射器(2)を含むことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のシステム(1)。
【請求項7】
前記第1の連結手段は、前記注射器(2)と前記針(3)との間に配置されて該針(3)を該採取注射器(2)に連通させ、または後者を前記分離注射器(4)に連通させることのできる第1のバルブ手段(5)を含むことを特徴とする請求項6に記載のシステム(1)。
【請求項8】
前記システムは、第3のバルブ手段(13)によって相互に並列に連結され前記第1および第2の連結手段(5、9)に前者の下流側且つ後者の上流側で直列に順に連結された複数の分離注射器(4)を含み、前記第3のバルブ手段(13)は、前記量の脂肪物質の各分の流入、および前記水様液体から分離された脂肪の流出を交互に行うことを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のシステム(1)。
【請求項9】
前記第2の連結手段は少なくとも1つの2方向コック(9)を含むことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のシステム(1)。
【請求項10】
前記第3のバルブ手段は3方向コックの傾斜板(13)を含むことを特徴とする請求項8または9に記載のシステム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪吸引によって採取した脂肪をアリコートに分割する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪吸引によって取り出された脂肪は、とくに美容医療において再建および/または再生を目的とした浸潤処置に使用されることが知られている。
【0003】
現在、最も数多く用いられる脂肪吸引手法はいわゆる「ウォータジェット脂肪吸引」であり、吸引時、吸引する皮下脂肪に圧力下で水噴流を当てて周囲の組織から脂肪を切り離す。
【0004】
吸引された脂肪はその水の一部とともに容器に入れ、その後、容器は真空状態で密封される。
【0005】
現状では、浸潤処置を行うには、その都度、容器を開封して、注射器を用いて脂肪を適用量分だけ取り出す。
【0006】
実際には、このような周知の手法は、密封されていない脂肪、つまり予想される汚染物質から隔離されていない脂肪を採取および注入する方式を規定しているだけで、適用量の脂肪を採取、注入する必要がある医師や医療専門家にとって非実用的なものとなっている。
【0007】
本発明は、主に、吸引した脂肪をアリコートに分割するシステムおよび方法を提供することを意図し、これにより、浸潤処置に用いる脂肪アリコートを提供することができる。
【0008】
その意図するところとして、本発明は、吸引した脂肪をアリコートに分割するまで、常に外部環境から隔離できるシステムおよび方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の別の目的は、従来の技術の欠点を克服し、簡易で、合理的、容易、且つ効果的な範囲で使用でき、手ごろな解決策となる、吸引した脂肪をアリコートに分割するシステムおよび方法を提供することにある。
【0010】
上記の目的は、請求項1に記載の吸引脂肪をアリコートに分割する本システムによって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の他の特徴と利点は、脂肪吸引した脂肪をアリコートに分割するシステムおよび方法の、好適だが非限定的な実施形態に関する記載によってさらに明確となろう。添付した図面に実施形態を非限定的な例示として示す。
【
図1】
図1は本発明に係るシステムの概略図である。
【0012】
この図を参照すると、全体を参照符号1で示すのが本発明に係るシステムである。
【0013】
システム1はまず、採取手段2、3を備え、脂肪吸引によって入手した脂肪物質を容器から一定量採取し、採取した量すべてを密封して保存する。
【0014】
本明細書では、用語「脂肪物質」とは、脂肪吸引処理によってヒトから直接的に取り出されたそのままの状態の物質を指す。
【0015】
したがって、従来のウォータジェット脂肪吸引法を用いた場合、容器内に保存される物質は実質的にヒトの脂肪と水様液体で構成され、水様液体はそのほとんどが脂肪吸引時に医師が使用した水である。
【0016】
また、周知のように脂肪物質は密閉容器で真空保存される。
【0017】
システム1は、また、採取手段2、3に連通させることのできる少なくとも1本の分離注射器4を備え(ただし以下に述べる理由から複数本が望ましく)、注射器で採取される一定量の脂肪物質の少なくとも一部を収容できる。
【0018】
分離注射器4は、注射器4自体に収容されている一定量の脂肪物質を構成する水様液体から重力によって脂肪を分離するために設けられ、縦置きにすることが望ましい。
【0019】
実際に、脂肪は水に混合できず、また、脂肪と水の比重は異なる。
【0020】
分離注射器4は、好適には縦置きにし(つまり長い方を縦にし)、あるいはいかなる場合も横置きにせず、水がその底部に流れて脂肪の下にくるようにする。
【0021】
さらに詳しくは、分離注射器4は、プランジャが上になり、いわゆる「嘴部」が下になるように容器胴部を立てて配置する。
【0022】
本発明はまた、採取手段2、3を密閉状態で分離注射器に連通させる第1の連結手段5を供する。
【0023】
好適には、採取手段は、脂肪物質を真空状態で密封収容する容器に穿刺できる採取針3に連結された採取注射器2を備える。
【0024】
この場合、第1の連結手段5は、採取注射器2と採取針3との間に配設された第1のバルブを備えて、採取針3を注射器2に、または注射器を分離注射器4に、交互に連通させることができる。例えば、このようなバルブ手段は少なくとも2方向または3方向コック5を備えていてもよい。
【0025】
さらに、提案するシステム1は少なくとも1つの廃棄用容器(例えば、一般的な点滴用バッグ)を備え、これは、分離注射器4に連通させて、分離注射器4自体から排出された分離液を収容できる(この件については、本発明の動作について述べる際に詳述する)。
【0026】
本発明はさらに、少なくとも1つの注射装置7、8を備え、これは、分離注射器に連通させて、分離注射器4自体から排出された1アリコートの脂肪を収容できる。注射装置7、8は脂肪を容器に密閉収容しては、浸潤処置のために脂肪を注入することができる。
【0027】
また、第2の連結手段9(好適には2方向または3方向コックを備える)が設けられ、分離注射器4と廃棄用容器6、あるいは分離注射器4と注射装置7、8を交互に密閉連通させることができる。
【0028】
注射装置7、8は、浸潤注射器8に密閉連結された点滴用バッグなどの容器7を備える。
【0029】
より具体的には、容器7は、例えば、第2の流路11を介して浸潤注射器8に密閉連結される。好適には、注射器8は、単動バルブ12を備える。単動バルブ12は、浸潤注射器8の胴体部の抜き出し口に配設されることに留意されたい。
【0030】
注射装置7、8は、第2の連結手段9に着脱自在に連結可能なコネクタ式(例えば、ルアーロック)の取付手段20を有し、脂肪が充填されると、脂肪アリコートを保存(隔離状態で)し、また注入するための可搬ユニット(すなわち、後の段落で述べる「浸潤キット」)を構成する。図示の好適な実施形態ではさらに、取付手段20と第2の連結手段9の間に、取付手段20および第2の連結手段9の両方にルアーロック式で連結される分岐流路10が配置されている。
【0031】
本発明の動作について述べる前に、上記のシステムは完全密閉システム1であることに留意されたい。すなわち、本システムに分離サブユニットが含まれる場合であっても、本システムに収容され処理された脂肪物質および脂肪を、周囲環境の空気を含むあらゆる汚染物質に接触させることなく、密閉された状態で収容するように工夫されている。
【0032】
本発明に係るシステム1の動作について以下に述べる。
【0033】
医師や医療専門家は、脂肪吸引した脂肪物質を収容する容器に採取手段の針3を使って穿刺し、注射器2によってその物質を吸引する。その際、針3と注射器2の間にコック5を配設して両者を連通させる構成にする。
【0034】
この時点で、水と脂肪を含む脂肪物質は、採取注射器2内に収容される。
【0035】
使用者は、第1の接続手段のコック5を操作して、採取注射器2と分離注射器4を連通させる。
【0036】
上述したように、好適には、複数本(例えば5本)の分離注射器4を第3のバルブ手段13によって並列に連結し、次に、第1および第2の連結手段5、9に、前者の下流側、且つ後者の上流側で直列に順に連結させる。
【0037】
このようにする理由は、分離注射器4がシステム1に多数設けられることで、分離作業が早まるからである。
【0038】
第3のバルブ手段(
図1に示すように傾斜板13の3方向コックでよい)は、前記量の脂肪物質のそれぞれの分を交互に流入させ、脂肪を上記水様液体から分離させた後に流出させるようにできる。
【0039】
この段階で、第3の連結手段13の各コックを操作して、第1の接続手段のコック5から、それぞれの注射器4、および傾斜板13の上流側と下流側のコックまでの流路を形成し、代わりに、傾斜板13の最後の下流側コック14を、上流側コックと各々の注射器4のみを連通させるように配置する。
【0040】
この時点で、脂肪物質を採取注射器2から押し出し、並列に縦置きされた分離注射器4内に吸引し、15〜30分間ほどの間分離注射器内に入れたままにし、この間に分離が起きる。
【0041】
その後、傾斜板13のコックを操作して、それぞれの注射器4を下流側および上流側コックと連通させる構成にし、この時、第1の上流側コック15の連通は、第1の連結手段のコック5でブロックされる構成とし、これに対し最後の下流側コック14はすべての経路が開となる構成とし、同時に、第2の連結手段のコック9を調節して、第3の接続手段の傾斜板13と廃棄用容器6との間の連通のみが可能となる構成にする。
【0042】
次に、注射器4を1つずつ順次に開放して水を排出し、排出された水は廃棄用容器6に流入させ、廃棄用容器はルアーロック式連結器を介して第2の連結手段のコック9に連結でき、したがって別の空の容器と交換できる。
【0043】
この時点で、分離注射器4を最上流側の注射器から最下流側の注射器へと1つずつ操作して、注射器に収容された脂肪を傾斜板13のコック内に転送し、充填する。
【0044】
次に、第2の連結手段のコック9を調節して、傾斜板13を注射装置7、8に連結し(任意で上記分岐流路10を挿入し)、分離注射器4のプランジャを押して脂肪の一部を容器7および浸潤注射器8内に移す。容器および浸潤注射器は、上述したように、脂肪を充填した後は、浸潤処置用に独立した可搬型キットを構成するように工夫することが望ましい。
【0045】
そして、そのようなキットは、充填を目的として別の注射装置と交換するために取り外すことができる。
【0046】
任意で、複数の浸潤キットを分離注射器4および対応する傾斜板13の下流側で並列に連結して(例えば、第2の連結手段9がそれぞれ複数のコックまたはバルブ手段をさまざまな方法で備えるものとする)、一度に複数の浸潤キットを構成できる。
【0047】
この場合、分離注射器または一連の分離注射器4はアリコートを2つ以上、すなわち各キットごとにアリコートを含む。
【0048】
さらに原則として、第1の連結手段5が上述のコックなど複数のコックを備えるか、あるいはさまざま方法による異なるバルブ手段を備える場合、いくつかの一連の分離注射器を対応する傾斜板などとともに並列に配置してもよい。
【0049】
上述のシステム1は、脂肪吸引によってヒトから取り出された脂肪を、後に浸潤処置を行うために、アリコートに分割する方法を実行するものであり、本方法は以下の工程を含む。すなわち、
脂肪吸引によって取り出された脂肪物質を真空状態で保存した密閉容器を準備し、
当該容器を穿孔して一定分量の脂肪物質を採取し、汚染物質から隔離して保存し、
上記分量の採取した脂肪物質を構成する水様液体から脂肪を分離して、少なくとも1つの脂肪アリコートを作り、
上記アリコートを、浸潤処置で使用するまで、汚染物質から隔離して、利用可能な状態で保存する。
【0050】
好適には、既にシステムに関する記載で述べたように、本発明の方法は、水様液体からなる脂肪物質を縦置きにされた容器4に入れて脂肪と水様液体(既述の理由により、実質的に水からなる)とを分離させるものであり、上記脂肪および上記水様液体は異なる比重を持つため、重力によって互いに分離する。
【0051】
実際、記載した発明によって意図した目的を達成する方法を見いだした。具体的には、密閉されたシステム1を設けて脂肪をアリコートに分割し、浸潤処置用にあらかじめ充填されたキットを準備することをとくに強調した。