(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405393
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】三価クロム析出物の色彩制御
(51)【国際特許分類】
C25D 21/12 20060101AFI20181004BHJP
C25D 3/06 20060101ALI20181004BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
C25D21/12 B
C25D21/12 C
C25D3/06
C25D7/00 P
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-4093(P2017-4093)
(22)【出願日】2017年1月13日
(62)【分割の表示】特願2014-557684(P2014-557684)の分割
【原出願日】2013年2月5日
(65)【公開番号】特開2017-106119(P2017-106119A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2017年1月26日
(31)【優先権主張番号】13/398,111
(32)【優先日】2012年2月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502304286
【氏名又は名称】マクダーミッド アキューメン インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】ステイシー・ヒングリー
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・トゥース
(72)【発明者】
【氏名】テレンス・クラーク
【審査官】
萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/043507(WO,A1)
【文献】
特開平09−095793(JP,A)
【文献】
特開2006−070894(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/026915(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価クロム析出物の色彩を制御する方法であって、
a)分光光度計を用いて三価クロム析出物の標準の色彩を測定して第1のCIELABのL*値を決定する工程と、
b)三価クロム電解液に1以上の色彩増強添加剤を添加する工程と、
c)基材を前記1以上の色彩増強添加剤を含有する前記三価クロム電解液と接触させて前記基材上に色彩が増強された三価クロム析出物を析出させる工程と、
d)前記分光光度計を用いて前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩を測定して前記色彩が増強された三価クロム析出物の第2のCIELABのL*値を決定する工程と、
e)前記第1のCIELABのL*値を前記第2のCIELABのL*値と比較する工程と、
f)必要に応じて、前記色彩が増強された三価クロム析出物の前記第2のCIELABのL*値が前記標準としての前記第1の標準CIELABのL*値からの所望の光学的変動外である場合には、前記三価クロム電解液中の前記1以上の色彩増強添加剤の量を調節する工程と、
を含み、
前記第2のCIELABのL*値が50.7以上65以下である方法。
【請求項2】
三価クロム電解液は、塩化物又は硫酸塩を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1以上の色彩増強添加剤は、シリカ、硫黄含有化合物、リン酸、及びこれらの1以上の組合せからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1以上の色彩増強添加剤は、チオシアン酸イオン及びコロイド状シリカの少なくともいずれかを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
色彩が増強された三価クロム析出物の第2のCIELABのL*値の、標準としての第1の標準CIELABのL*値からの動作範囲の光学変化は、三価クロム電解液における1以上の色彩増強添加剤を調節することにより、±2ΔE*単位内に維持される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
色彩が増強された三価クロム析出物のCIELABのL*値が、標準から±2ΔE*単位を超えて光学変動を有する場合に、1以上の色彩増強添加剤を用いて三価クロム電解液の調節が行われる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
基材を1以上の色彩増強添加剤を含有する三価クロム電解液と接触させる工程が、前記1以上の色彩増強添加剤を含有する三価クロム電解液中に基材を浸漬し、前記1以上の色彩増強添加剤を含有する三価クロム電解液に電流を流して前記基材上にクロムを電着する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
三価クロム析出物の色彩を制御する方法であって、
a)三価クロム析出物の標準の色彩を測定する工程と、
b)三価クロム電解液に1以上の色彩増強添加剤を添加する工程と、
c)基材を前記1以上の色彩増強添加剤を含有する前記三価クロム電解液と接触させて前記基材上に色彩が増強された三価クロム析出物を析出させる工程と、
d)前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩を測定する工程と、
e)前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩を前記標準三価クロム析出物の色彩と比較する工程と、
f)必要に応じて、前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩が前記標準三価クロム析出物の色彩からの所望の光学的変動外である場合には、前記三価クロム電解液中の前記1以上の色彩増強添加剤の量を調節する工程と、
を含む方法。
【請求項9】
三価クロム電解液は、塩化物又は硫酸塩を有する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
1以上の色彩増強添加剤は、シリカ、硫黄含有化合物、リン酸、及びこれらの1以上の組合せからなる群から選択される請求項8に記載の方法。
【請求項11】
1以上の色彩増強添加剤は、チオシアン酸イオン及びコロイド状シリカの少なくともいずれかを含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
基材を1以上の色彩増強添加剤を含有する三価クロム電解液と接触させる工程が、前記1以上の色彩増強添加剤を含有する三価クロム電解液中に基材を浸漬し、前記1以上の色彩増強添加剤を含有する三価クロム電解液に電流を流して前記基材上にクロムを電着する工程を含む請求項8に記載の方法。
【請求項13】
めっきされた金属析出物の色彩を制御する方法であって、
(a)めっきされた標準金属析出物の色彩を測定する工程と、
(b)めっき液に1以上の色彩増強添加剤を添加する工程と、
(c)色彩が増強された金属析出物を前記めっき液から基材上にめっきする工程と、
(d)前記色彩が増強された金属析出物の色彩を測定する工程と、
(e)前記標準金属析出物の色彩を前記色彩が増強された金属析出物の色彩と比較する工程と、
(f)必要に応じて、前記標準金属析出物の色彩を、前記色彩が増強された金属析出物の色彩と比較した差異が、設定された最大偏差を上回る場合には、前記めっき液中の前記1以上の色彩増強添加剤の量を調節する工程と、
を含み、
前記色彩が増強された金属析出物の色彩が、分光光度計を用いて決定されるCIELABのL*単位で50.7以上65以下である方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、三価クロム析出物の色彩を調節及び制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムめっきは、多くの金属の仕上げ用途に選択されるコーティングであり、クロムの明るい光沢のある仕上げの需要は拡大し続けている。クロムは、その比類のない美しさだけでなく、その腐食性能及び多基板で可能等の優れた技術力によって、他の仕上げの競争的挑戦に耐えてきた。クロムは、装飾クロムめっき及び硬質クロムめっきの両方の金属仕上げ業界において広く使用されている。
【0003】
クロムは、従来は六価クロムを含む電解液から電気めっきされているが、三価クロムイオンのみを含有する電解液を用いてクロムを電気めっきするための商業的に許容可能な方法を開発するために、過去50年間多くの試みがなされてきた。六価クロムは、深刻な健康上及び環境上の危険が伴うので、三価クロム塩を含む電解液を使用するインセンティブが生じている。六価クロム系の溶液からの廃棄物は、重大な環境問題を生み、六価クロム浴は、規制に従うために廃棄前に特別な処理を必要とする。従って、六価クロムイオン、及び六価クロムめっきすることが可能な溶液は、めっき浴の廃棄、及びすすぎ水の増え続けるコスト等の技術的な限界がある。
【0004】
三価クロムめっき液は、低毒性、及び増加した均一電着性(throwing power)等の様々な理由で、金属仕上げ産業において次第に六価クロムめっき液の一般的な代替となってきた。三価クロム液中で使用される全クロム金属濃度はまた、六価めっき液のものよりも著しく小さく、溶液の低粘度に加えてこの金属の減少が、長時間化及び廃水処理の低減に繋がる。三価クロム浴はまた、その優れた均一電着性の結果、典型的には生産される不良品を減少させ、六価クロムめっき浴と比較してラック密度の増加を可能にする。
【0005】
三価クロムのめっき速度及び析出物の硬度はまた、六価クロムのものと類似しており、三価クロム電解液はまた、六価クロム電解液と同じ温度範囲で機能する。しかしながら、三価クロム電解液は、六価クロム電解液よりも金属不純物に敏感な傾向がある。不純物は、イオン交換を用いて、又は沈殿剤及び後続の濾過によって除去することができる。
【0006】
三価クロム電解液の2つの主要な浴の化学的性質は、塩化物及び硫酸塩に基づく。幾つかの例では、硫酸塩系は、様々な理由から塩化物系よりも有益である。例えば、硫酸塩系からの析出物は、純度が高く、これが優れた腐食保護となり、六価クロムのものと近い色彩となる。硫酸塩系の化学的性質はまた、腐食性が低く、これがめっき環境及び部品領域の劣化を防止する。
【0007】
これまでは、三価クロム析出物の色彩は、六価クロム析出物の色彩よりも暗色であった。この問題は大幅に低減されてきたものの、依然として2つの仕上げの間には幾らかの僅かな色彩の違いがある。三価クロム析出物は、基本的に2つの形態で生成される。第1の形態は、可能な限り厳密に六価クロムの色彩を模倣するものであり、第2の形態は、所望の表面的な仕上げを生成するために異なる色彩を付与するよう特別に設計されたものである。
【0008】
また、暗色の三価クロムのコーティングは、当業界ではより一般的になってきている。六価クロムの試験条件に耐えることができる暗色で光沢のある仕上げの外観は、多くの用途において望ましく、外観及び技術要件の両方を満たす暗色の三価クロム溶液が開発されてきた。これらの溶液は、六価クロムと比較して、優れた被覆及び均一電着性、広い範囲の電流密度での一貫した色彩、及び低金属動作の利点を示すことが望ましい。
【0009】
着色添加剤は、分析及び制御が困難なことがあり、従って色彩の一貫性の実現が困難なことがある。析出物の色彩の一貫性を維持するために、三価クロム析出物の色彩を分析及び制御するための手段を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、三価クロム析出物の色彩を分析する方法を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、三価クロム析出物の色彩を制御する方法を提供することにある。
【0012】
本発明の更に別の目的は、三価クロムめっき浴への様々な色彩増強添加剤の添加を制御する方法を提供することにある。
【0013】
本発明の更に別の目的は、一貫した色彩を有する三価クロム析出物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的のために、一実施形態において、本発明は一般的に、三価クロム析出物の色彩を制御する方法であって、
a)三価クロム析出物の標準(基準)の色彩を測定する工程と、
b)三価クロム電解液に1以上の色彩増強添加剤を添加する工程と、
c)基材を前記1以上の色彩増強添加剤を含有する前記三価クロム電解液と接触させて前記基材上に色彩が増強された三価クロム析出物を析出させる工程と、
d)前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩を測定する工程と、
e)前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩を前記標準の色彩と比較する工程と、
f)必要に応じて、前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩が前記標準からの所望の光学的変動外である場合には、前記三価クロム電解液中の前記1以上の色彩増強添加剤の量を調節する工程と、
を含む方法に関する。
【0015】
別の実施形態において、本発明は一般的に、三価クロム析出物の色彩を制御する方法であって、
a)分光光度計を用いて三価クロム析出物の標準の色彩を測定して第1のCIELABのL
*値を決定する工程と、
b)三価クロム電解液に1以上の色彩増強添加剤を添加する工程と、
c)基材を前記1以上の色彩増強添加剤を含有する前記三価クロム電解液と接触させて前記基材上に色彩が増強された三価クロム析出物を析出させる工程と、
d)前記分光光度計を用いて前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩を測定して前記色彩が増強された三価クロム析出物のCIELABのL
*値を決定する工程と、
e)前記色彩が増強された三価クロム析出物のCIELABのL
*値を前記標準の前記第1のCIELABのL
*値と比較する工程と、
f)必要に応じて、前記色彩が増強された三価クロム析出物のCIELABのL
*値が前記標準としての前記第1のCIELABのL
*値からの所望の光学的変動外である場合には、前記三価クロム電解液中の前記1以上の色彩増強添加剤の量を調節する工程と、
を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、三価クロム電解浴への第1の色彩増強添加剤(パートA)の添加による三価クロム析出物のL
*値のグラフを示す。
【
図2】
図2は、三価クロム電解浴への第2の色彩増強添加剤(パートB)の添加による三価クロム析出物のL
*値のグラフを示し、L
*値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者等は、三価クロム析出物の色彩を調節及び制御するために必要な種々の添加剤の量を予測することが可能であることを見出した。本発明は、一般的に、三価クロム浴により生成される色彩を分光光度計を用いて管理し、標準Hullセルパネル又は加工部品のいずれかの色彩を測定した後、色彩範囲に影響を与える成分の化学的性質を正確に調節する方法に関する。
【0018】
一実施形態において、本発明は、三価クロム析出物の色彩を制御する方法であって、
a)三価クロム析出物の標準の色彩を測定する工程と、
b)三価クロム電解液に1以上の色彩増強添加剤を添加する工程と、
c)基材を前記1以上の色彩増強添加剤を含有する前記三価クロム電解液と接触させて前記基材上に色彩が増強された三価クロム析出物を析出させる工程と、
d)前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩を測定する工程と、
e)前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩を前記標準の色彩と比較する工程と、
f)必要に応じて、前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩が前記標準の色彩からの所望の光学的変動外である場合には、前記三価クロム電解液中の前記1以上の色彩増強添加剤の量を調節する工程と、
を含む方法に関する。
【0019】
上述のように、三価クロム浴のための2つの主要な浴の化学的性質は、塩化物及び硫酸塩に基づく。
【0020】
典型的な塩化物タイプの三価クロム電解浴は、以下を含む。
三価クロム 15g/L〜30g/L
ホウ酸(バッファー) 40g/L〜80g/L
塩化ナトリウム、塩化カリウム又は塩化アンモニウム 100g/L〜300g/L
Fe(II)/Fe(III) 30mg/L〜300mg/L
湿潤剤 0.05g/L〜1.0g/L
錯化剤 20g/L〜50g/L
【0021】
典型的な硫酸塩タイプの三価クロム電解浴は、以下を含む。
三価クロム 5g/L〜20g/L
ホウ酸(バッファー) 50g/L〜100g/L
硫酸ナトリウム、硫酸カリウム又は硫酸アンモニウム 100g/L〜300g/L
サッカリン 1g/L〜5g/L
触媒(有機物) 1mg/L〜5mg/L
湿潤剤 0.05g/L〜1.0g/L
錯化剤 5g/L〜30g/L
【0022】
湿潤剤は、溶液の表面張力を減少させるために広く使用され、析出物中の細孔の形成を最小化する効果を有する。硫酸塩タイプのクロム電解浴のための好適な湿潤剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウム及びエチルヘキシル硫酸ナトリウムが挙げられる。塩化物タイプの電解浴のための湿潤剤は、例えば、アルキルフェノールのポリエチレングリコールエーテル等の非硫黄含有の非イオン性界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
電解液溶液のpHを所望のレベルに維持するために、バッファーを添加することもできる。好適なバッファーとしては、ギ酸、酢酸、及びホウ酸が挙げられる。一実施形態では、バッファーはホウ酸である。
【0024】
典型的な工程では、三価クロム電解液を含む水性電解浴中にめっきされる表面を浸漬し、浴に電流を流して表面にクロムを電着する。
【0025】
すべての溶液について、均一な析出物の形成を補助するレベリング剤、又は明るいコーティングの析出を促進する光沢剤を介して、析出物の物理的形態を変更又は調整することができる。特定の場合に応じて、アノードの溶解を補助するために、及び溶液又は析出物のいずれかの他の特性を変更するために、他の化学添加物が必要とされ得る。また、溶液は、錯化剤又は導電性塩を含むこともできる。
【0026】
また、クロム電解浴は、クロム析出物の色彩制御のために1以上の添加剤を含んでもいてよい。これらの1以上の添加剤としては、シリカ、硫黄及びリン酸が挙げられ、シリカ及び硫黄は、色彩制御のための主要な要素である。幾つかの浴の化学的性質では、特別な腐食性能を付与するためにリン酸を使用することもでき、意図せず析出物を暗色化することもある。本発明者等は、他の浴添加剤又は動作条件によって析出物の色彩が殆ど影響されないことを見出した。銅及びニッケルによる汚染は、色彩に影響を与えることがあるが、これは電流密度に特異的な傾向があり、析出物の腐食耐性を劣化させる等の性能上の他の有害な影響を引き起こす。従って、汚染レベルを管理するためにイオン交換を使用し、任意の色彩又は性能、或いはその両方への影響を最小限に抑えることも望ましい。
【0027】
別の実施形態では、本発明は一般的に、三価クロム析出物の色彩を制御する方法であって、
a)分光光度計を用いて三価クロム析出物の標準の色彩を測定して第1のCIELABのL
*値を決定する工程と、
b)三価クロム電解液に1以上の色彩増強添加剤を添加する工程と、
c)基材を前記1以上の色彩増強添加剤を含有する前記三価クロム電解液と接触させて前記基材上に色彩が増強された三価クロム析出物を析出させる工程と、
d)前記分光光度計を用いて前記色彩が増強された三価クロム析出物の色彩を測定して前記色彩が増強された三価クロム析出物の第2のCIELABのL
*値を決定する工程と、
e)前記第1のCIELABのL
*値を前記第2のCIELABのL
*値と比較する工程と、
f)必要に応じて、前記色彩が増強された三価クロム析出物の前記第2のCIELABのL
*値が前記第1のCIELABのL
*値からの所望の光学的変動外である場合には、前記三価クロム電解液中の前記1以上の色彩増強添加剤の量を調節する工程と、
を含む方法に関する。
【0028】
CIEのL
*a
*b
*(CIELAB)は、国際照明委員会により規定された色空間であり、対照として使用される機器に依存しないモデルとして機能するよう作成されたものである。L
*a
*b
*色空間は全ての知覚可能な色彩を含み、L
*a
*b
*色空間の最も重要な属性の1つは機器非依存性であり、色彩がその生成の特性とは無関係であることを意味する。
【0029】
CIELABの3つの座標は、色の明るさ(L
*=0はブラックを生じ、L
*=100はディフューズホワイトを示す(スペキュラーホワイトはより高い可能性がある))、そのレッド/マゼンタとグリーンとの間の位置(a
*は、負の値はグリーン方向を示す一方、正の値はマゼンタ方向を示す)、及びそのイエローとブルーとの間の位置(b
*は、負の値はブルー方向を示し、正の値はイエロー方向を示す)を表す。
【0030】
L
*、a
*及びb
*の非線形関係は、眼の非線形応答を模倣することを意図している。更に、L
*a
*b
*色空間における成分の均一な変化は、知覚される色彩における均一変化に対応することを目指しており、L
*a
*b
*における任意の2色間の相対的な知覚の差異は、各色彩を三次元空間(3成分L
*a
*b
*による)内の点として処理し、それらの間のユークリッド距離をとることにより近似することができる。a
*軸及びb
*軸は、一般的に−60〜+60の範囲である。
【0031】
CIELABカラースケールに関連したデルタ値もある。ΔL
*、Δa
*及びΔb
*は、標準と試料とが、L
*、a
*及びb
*において互いにどの程度異なるかを示す。これらのデルタ値は、多くの場合、品質管理又は式の調節のために用いられる。デルタ値に許容範囲を設定してもよい。許容範囲外のデルタ値は、標準と試料との間に過度の差異があることを示している。総色差ΔE
*を算出することもできる。ΔE
*は、試料と標準とのL
*、a
*及びb
*の間の差を考慮した単一の値である。これは、ΔE
*が許容範囲外である場合にどのパラメータが許容範囲外であるかを示すものではない。
【0032】
本願明細書で記載するように、本発明の特定の実施形態は、「暗色」のクロム析出物を対象にしている。本願明細書で使用する「暗い」又は「暗色」とは、黒色の材料だけでなく、ダークグレイ、ダークブルー、ダークグリーン、及びダークブラウンを含むブラックに近い色彩を有する材料を指す。特定の実施形態では、暗色のクロム析出物は、クロム電解液の特定の組成及び析出物の所望の色相に応じてCIELABのL
*値が60〜80のコーティングを生成することができる。
【0033】
本発明に従い、ユーザはまず、塩化物又は硫酸塩の浴の化学的性質に基づき、三価クロムめっき電解液を作るであろう。ユーザは、分光光度計を用いて所望の色彩を有する三価クロム析出物の最初のベースラインの測定値を取得し、最初のCIELABのL
*値を決定する。次に、ユーザは、三価クロム電解液に1以上の色彩増強添加剤を添加し、次いで、三価クロム電解液への色彩増強添加剤の添加後の電解液からめっきされた三価クロム析出物に基づき、第2の測定値を取得する。次いで、特定の浴の化学的性質に基づき、標準のCIELAB動作範囲と一致させる調節を行うことができる。色彩測定値は、このようにして一定範囲内に維持することができる。例えば、色彩測定値は、一般的に観察可能とは思われない合理的な光学変化であると考えられる±2ΔE
*単位内に維持することができる。
【0034】
一実施形態では、クロム析出物の色彩制御のための1以上の添加剤は、チオシアン酸イオン又はナノコロイド状シリカ、或いはその両方を含む。他の硫黄含有添加剤又はシリカ添加剤、或いは添加剤の組合せも、本発明の実施において使用可能であろう。
【0035】
一般的に、各設備の稼動範囲及び限界が確定されるまで、上述の手順に従い、特定の三価クロム電解液の全ての処理バッチについてCIELABのL
*の測定値が取得される。測定値が工程の標準から±2ΔE
*単位(又は別の特定の変形)に近い変動を示す場合は、次いで色彩増強添加剤の添加によって調節が行われる。従って、三価クロム析出物のCIELABのL
*値は、特定の三価クロム電解浴について取得することができることが分かり、その値は、三価クロム析出物のCIELABのL
*値を一定の範囲内に維持して電解液からめっきされた三価クロム析出物の一貫性を正確に制御及び維持するために、具体的に決定された量の色彩増強添加剤を添加することによって調節することができる。
【0036】
表1は、様々な三価クロム電解工程の三価クロム析出物の典型的なCIELABのL
*値、及び六価クロム析出物のCIELABのL
*値を示す。
【0037】
様々な三価クロム電解液の典型的なCIELAB値及びΔE
*値
【表1】
(TriMacIII(登録商標)、TriMac(登録商標)、Twilite(登録商標)、Moonlite(登録商標)、及びMACrome(登録商標)CL3は、全てMacDermid,Inc.(コネチカット州、ウォーターベリー)から入手可能である。)
【実施例】
【0038】
実施例1
標準HullセルパネルからのCIELABのL
*色彩測定値を測定すると、CIELABのL
*色彩測定値は、2つの異なる色彩増強添加剤(パートA及びパートB)の濃度変化と関係していた。この情報から、析出物の色彩を調節及び制御するために必要な添加剤の量を予測することが可能であった。
【0039】
塩化物系の浴の化学的性質により、Moonlite(登録商標)の工程に従って組成物を調製した。工程の間、標準HullセルパネルからのCIELABのL
*値を測定すると、第1の色彩増強添加剤(チオシアン酸イオンの溶液を含む、パートA)、及び第2の色彩増強添加剤(コロイド状シリカを含む、パートB)の濃度変化に関連していた。この情報から、析出物の色彩を調節及び制御するために必要な添加剤の量を予測することが可能であった。
【0040】
パートA及びパートBのL
*値を、以下表2及び表3に示す。また、
図1は、パートAの添加剤が析出物の色彩にどの程度影響を与えたかを示すグラフである。
図2は、パートBの添加剤が析出物の色彩にどの程度影響を与えたかを示すグラフである。
【0041】
従って、様々な色彩増強添加剤の添加についてL
*値を決定し、めっき浴、ひいてはめっきされたクロム析出物の一貫した色彩を維持するために三価クロム電解浴に添加すべき色彩増強添加剤の量を決定するために、それらの値を使用することが可能であることが分かる。
【0042】
パートAの測定値
【表2】
【0043】
パートBの測定値
【表3】
【0044】
更に、本発明は、本願明細書中では三価クロム析出物の色彩を調節する文脈で記載されているが、本願明細書に記載の方法を用いて他のめっき析出物の色彩も調節及び制御され得ることが期待される。従って、様々な色彩増強添加剤が使用され、めっきされた析出物の厳密な色彩制御が望まれる様々な電解めっき液又は無電解めっき液の色彩を制御するために、本発明を使用可能であることが期待される。