(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405429
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】ランニングリザーブ検出を行う機械式計時器用ムーブメント
(51)【国際特許分類】
G04B 9/00 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
G04B9/00
【請求項の数】11
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-160964(P2017-160964)
(22)【出願日】2017年8月24日
(65)【公開番号】特開2018-59906(P2018-59906A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2017年8月24日
(31)【優先権主張番号】16192251.3
(32)【優先日】2016年10月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・サリーニ
【審査官】
藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】
スイス国特許出願公開第00710320(CH,A3)
【文献】
特開2008−224668(JP,A)
【文献】
特開2016−024196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 9/00− 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのバレルシステムを有するランニングリザーブの指示を行う機械式計時器用ムーブメント(1)であって、
巻き出力は、差動ギヤ(2)の巻き車(2c)に接続されており、
巻き緩め出力は、前記差動ギヤ(2)の巻き緩め車(2d)に接続されており、
当該計時器用ムーブメントは、前記差動ギヤ(2)の中間車(2i)によって回転駆動されるロック用車セット(5)を有し、
前記ロック用車セット(5)は、前記ランニングリザーブを表示するようにランニングリザーブインジケーター(7)に接続されており、
前記ロック用車セット(5)は、前記ランニングリザーブインジケーターがゼロを指示するときに、前記差動ギヤ(2)の前記巻き緩め車(2d)と接触して当該計時器用ムーブメントをロックするロック要素(15)を有し、
前記ロック用車セット(5)は、前記差動ギヤ(2)の前記中間車(2’)と直接接するように回転軸に固定されて回転駆動される第1の車(5’)を有する
ことを特徴とする機械式計時器用ムーブメント(1)。
【請求項2】
前記ロック用車セット(5)は、駆動車(6)を介して前記ランニングリザーブインジケーター(7)を駆動する
ことを特徴とする請求項1に記載の機械式計時器用ムーブメント(1)。
【請求項3】
前記駆動車(6)は、前記ランニングリザーブインジケーターの表示車(7)を回転駆動する
ことを特徴とする請求項2に記載の機械式計時器用ムーブメント(1)。
【請求項4】
前記ロック用車セット(5)は、前記第1の車(5’)と同軸かつ平行な回転軸にマウントされ固定された第2の車(5”)を有し、
前記第2の車(5”)は、駆動車(6)を介して前記ランニングリザーブインジケーター(7)を駆動する
ことを特徴とする請求項1に記載の機械式計時器用ムーブメント(1)。
【請求項5】
前記ロック用車セット(5)の前記ロック要素は、ロック位置にて1つの部分(15’)が前記巻き緩め車(2d)と接するフィンガー(15)の形態である
ことを特徴とする請求項1に記載の機械式計時器用ムーブメント(1)。
【請求項6】
接触する部分は、当該計時器用ムーブメントをロックする位置にて、前記差動ギヤ(2)の前記巻き緩め車(2d)の歯列の2つの歯の間に挿入される歯(15’)である
ことを特徴とする請求項5に記載の機械式計時器用ムーブメント(1)。
【請求項7】
前記フィンガー(15)は、前記ロック用車セット(5)の回転軸にマウントされる
ことを特徴とする請求項5に記載の機械式計時器用ムーブメント(1)。
【請求項8】
前記フィンガー(15)は、回転軸に固定された前記第1の車(5’)の内部に形成された円弧状の開口(25)の内部に配置される突起(15”)を有し、
前記第1の車(5’)は、前記差動ギヤ(2)の前記中間車(2i)と直接接触して回転駆動される
ことを特徴とする請求項7に記載の機械式計時器用ムーブメント(1)。
【請求項9】
バナナ形の前記開口(25)は、前記ロック用車セット(5)の回転軸のまわりの円弧を描く形であり、
前記フィンガー(15)は、前記回転軸のまわりを自由に回転し、前記第1の車(5’)の前記バナナ形の開口(25)の一端と接する前記突起(15”)を介して前記第1の車(5’)上で回転駆動される
ことを特徴とする請求項8に記載の機械式計時器用ムーブメント(1)。
【請求項10】
前記フィンガー(15)は、前記ロック用車セット(5)の前記第1の車(5’)と、前記ランニングリザーブインジケーター(7)と接する駆動車(6)を駆動する前記ロック用車セット(5)の第2の車(5”)の間に配置される
ことを特徴とする請求項8に記載の機械式計時器用ムーブメント(1)。
【請求項11】
前記ロック用車セット(5)の前記ロック要素は、ランニングリザーブがゼロであるときにロック位置にて前記差動ギヤ(2)の前記巻き緩め車(2d)と接するように意図されたキャッチの形態で突き出る前記第1の車(5’)上に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の機械式計時器用ムーブメント(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランニングリザーブ検出手段を備える機械式計時器用ムーブメントに関する。計時器用ムーブメントは、差動ギヤの巻き車及び差動ギヤの巻き緩め車に接続される少なくとも1つのバレルシステムを有する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、機械式計時器用ムーブメントは、巻き出力において少なくとも1つの車と、及び巻き緩め出力において1つの車とを駆動するバレルシステムを有する。これらはそれぞれ、差動ギヤの巻き車と巻き緩め車に接続される。差動ギヤの中間車に接続された車セットは、ランニングリザーブ表示を制御するが、ランニングリザーブがゼロになったときにムーブメントを止める動作を行うムーブメントの要素はない。
【0003】
欧州特許EP0568499B1は、機械式腕時計用のランニングリザーブインジケーターデバイスについて記載している。このインジケーターデバイスは、インジケーターメンバーを備えた少なくとも1つの星形車を有し、このインジケーターメンバーは、バレルの巻き又は巻き緩め時に回転駆動される。このインジケーターメンバーによって、腕時計のランニングリザーブを表示することができる。しかし、ランニングリザーブがゼロに近づいたときにムーブメントを止めることを確実にするためには何も設けられない。
【0004】
スイス特許CH698752B1は、2つのバレルを有するランニングリザーブインジケーター機構を有する計時器について記載している。これらのバレルは、互いに対向しており、共通のアーバーを介して接続しており、この共通のアーバーが、ランニングリザーブ表示機構を制御する。しかし、ランニングリザーブがゼロに近づいたときにムーブメントを止めることを確実にするために何も設けられていない。
【0005】
スイス特許出願CH710320A2は、バレルのような機械的なエネルギー源と、及び腕時計ケース内の制御デバイスに接続される制御メンバーとを有する計時器について記載している。この制御デバイスは、フレーム上で回転するようにマウントされ差動ギヤによってバレルに接続されるランニングリザーブ車を有する。これによって、このランニングリザーブ車の角度位置は、バレルの巻きのレベルに依存する。このランニングリザーブ車と同じ軸のまわりを回転するように、制御カムがマウントされる。この制御カムには、円弧の形を形成している穴がある。この穴の中に、ランニングリザーブ車と一体化されたピンが収容される。ランニングリザーブ車とカムの間にらせん状のばねがマウントされる。さらに、制御デバイスに接続されたランニングリザーブがゼロに近いときにムーブメントを止める止めレバーを有する止めデバイスが設けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ランニングリザーブ検出手段を備えランニングリザーブがゼロに近いときにムーブメントを止めるように動作することができる機械式計時器用ムーブメントを提案することによって、従来技術の課題を克服することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このために、本発明は、独立請求項1に記載の特徴を有するランニングリザーブ検出手段を備える機械式計時器用ムーブメントに関する。
【0008】
従属請求項2〜11には、この機械式計時器用ムーブメントの特定の実施形態が定められている。
【0009】
この機械式計時器用ムーブメントの1つの利点は、ランニングリザーブインジケーターを駆動するロック用車セットを用いてロック要素によってムーブメントをロックすることができることに基づいている。このロック要素は、車セットアーバーに配置されたフィンガーであることができる。ロック用車セットは、差動ギヤの中間車によって駆動される。好ましくは、フィンガーは、ランニングリザーブがゼロであるときに、差動ギヤの巻き緩め車と接する。ランニングリザーブの指示がゼロであっても、バレルシステムのバレルは、計時器用ムーブメントが約2時間動作することができる程度にまだ十分に巻かれている。
【0010】
図面を参照しながら以下の説明を読むことで、このようなランニングリザーブ検出手段を備える機械式計時器用ムーブメントの目的、利点及び特徴が、より明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1a】
図1aは、本発明に係るランニングリザーブ検出手段を備える機械式計時器用ムーブメントの1つの実施形態についての三次元的な平面図を示している。
【
図1b】
図1bは、本発明に係るランニングリザーブ検出手段を備える機械式計時器用ムーブメントの1つの実施形態についての三次元的な平面図を示している。
【
図2】
図2a及び2bは、本発明に係る機械式計時器用ムーブメントの
図1a及び1bのより詳細な平面図を示している。
【
図3】
図3a及び3bは、本発明に係る機械式計時器用ムーブメントの最大のランニングリザーブ位置及び最小のランニングリザーブ位置における差動ギヤ及びロック用車セットについての部分的に三次元的な図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の説明において、当業者に周知なランニングリザーブ検出手段を備える機械式計時器用ムーブメントの構成要素についてはすべて簡易的にのみ説明している。
【0013】
図1a及び1bは、機械式計時器用ムーブメント1の特定の構成要素の三次元的な平面図を示しており、
図1aには、通常の動作位置におけるもの、
図1bには、ムーブメントをロックしている位置におけるものを示している。機械式計時器用ムーブメント1は、少なくとも1つのバレルシステム(図示せず)を有し、このバレルシステムは、このムーブメントの腕時計プレート又は別の支持プレートの1つの面上に配置することができる。このバレルシステムは、単一のバレル又は2つのバレルを備え、巻き出力及び巻き緩め出力を備えた周知のシステムであることができる。これらの巻き出力及び巻き緩め出力は、特に、タイムベースギヤ列(図示せず)を駆動する。
【0014】
機械式計時器用ムーブメント1は、例えば、腕時計プレート100又は別の支持プレートの1つの面上にて、回転軸のまわりを回転するようにマウントされバレルシステムの巻き出力及び巻き緩め出力にそれぞれ接続される差動ギヤ2を有する。差動ギヤ2は、バレルシステムの巻き出力及び巻き緩め出力に、直接又は回転速度低減ステージないし回転速度低減列3、4を介して接続している。好ましくは、差動ギヤ2は、下で説明するランニングリザーブ検出のための回転を低減するように、バレルシステムの巻き出力及び巻き緩め出力に回転速度低減ステージ3、4を介して接続することができる。バレルシステムの巻き緩め出力から、例えば、歯車4a、4b、4c、4d、4eである、車セットを、バレルシステムの巻き緩め出力車と差動ギア2の間に設けることができる。もちろん、バレルシステムを巻くために、例えば、歯車3a、3b、3c、3dである、車セットを、バレルシステムの巻きメンバーと巻き出力の間で用いることができる。これは、この方向における速度増加ステージを形成する。
【0015】
差動ギヤ2は、好ましくは、第1の巻き車2cと、及びこの第1の巻き車2cと同じ回転軸に配置される第2の巻き緩め車2dとを有する。差動ギヤ2は、さらに、巻き車2cと巻き緩め車2dの間に中間車2iを有する。この中間車2iは、巻き車と巻き緩め車に、特に、ボール又はローラーベアリング構成を介して、接する。第1の巻き車2cは、巻き車セット3の第1の車3aを駆動することができ、第2の巻き緩め車2dは、巻き緩め車セット4の最後の車4aによって回転駆動することができる。
【0016】
バレルシステムを巻く動作の後の計時器用ムーブメントの通常の動作では、巻き車2cは回転せず不動状態を維持するが、巻き緩め車2dは回転する。このようにして、中間車2iは、巻き緩め車2dと同じ向きであるが巻き緩め車2dの回転速度よりも低い回転速度で、回転駆動される。しかし、バレルシステムを巻く動作のために、巻き車2cは、巻き緩め車の回転方向とは反対の方向に駆動される。また、このことによって、巻き車2cで発生する回転が巻き緩め車2dの回転よりも大きいので、巻き車2cの回転方向に中間車2iを駆動することになる。
【0017】
また、
図2a、2b、3a及び3bにも示すように、差動ギヤ2の中間車2iは、ロック用車セット5に接続している。このロック用車セット5は、
図2a及び3aに示した最大のランニングリザーブ位置から、
図2b及び3bに示した計時器用ムーブメントをロックする位置であるゼロランニングリザーブ位置へと、回転軸のまわりを回転することができる。
【0018】
ロック用車セット5は、回転軸に固定された第1の車5’を有する。この第1の車5’は、差動ギヤ2の中間車2iに接しており、前記中間車2iによって駆動される。第1の車5’は、中間車2iの歯列と噛み合う歯列を有することができる。ロック用車セット5は、さらに、回転軸に固定され第1の車5’の上にて第1の車5’と平行に同軸に配置された第2の車5”を有することができるこの第2の車5”は、ランニングリザーブインジケーター7に、直接又は駆動車6、6’を介して、接続するように構成している。
【0019】
なお、ロック用車セット5は、さらに、差動ギヤの中間車2iに接しておりランニングリザーブインジケーター7に直接又は駆動車6、6’を介して接続する車5’を1つのみ有することができる。
【0020】
ロック用車セット5は、さらに、回転軸にマウントされるロック要素15を有する。このロック要素15は、ランニングリザーブがゼロであるときに、差動ギヤ2の巻き緩め車2dと接触してムーブメントを止めるように意図されている。ロック要素15は、好ましくは、ロック用車セット5の第1の車5’と第2の車5”の間に配置される。このロック要素は、1つの部分15’がロック位置における巻き緩め車2dに接するようなフィンガー15の形態であることができる。この接触部分15’は、好ましくは、ムーブメントをロックするために差動ギヤ2の巻き緩め車2dの歯列の2つの歯の間に挿入される歯15’である。
【0021】
また、フィンガー15は、回転軸のまわりを自由に回転することができるようにマウントすることができ、フィンガー15には、さらに、ロック用車セット5の第1の車5’にて作られたバナナ形の開口25内に配置された突起15”が設けられている。差動ギヤの中間車2iの回転中に、フィンガー15の突起15”は、第1の車5’のバナナ形の開口25の一端に当接するように動く。これによって、
図1a、2a及び3aに示した最大のランニングリザーブ位置から、
図1b、2b及び3bに示したゼロランニングリザーブ位置へと、フィンガー15を駆動することができる。このゼロランニングリザーブ位置は、計時器用ムーブメントをロックする位置に対応している。バナナ形の開口25は、ロック用車セット5の回転軸のまわりの円弧を描く。これは、例えば、10°〜60°の角度である。
【0022】
図示していない実施形態において、ロック要素は、キャッチの形態で突き出る第1の車5’上に設けることができる。これは、ランニングリザーブがゼロであるときに、ロック位置の差動ギヤの巻き緩め車2dと接するように意図されている。
【0023】
図1a、1b、2a及び2bに示す実施形態によれば、駆動車6は、ロック用車セット5の第2の車5”によって回転駆動される。この駆動車6の周部には、第2の車5”の周部に形成された外側歯列と噛み合う歯列を有することができる。より小さな直径の駆動車6の中央ピニオン6’は、ランニングリザーブインジケーターの表示車7と接する。中央ピニオン6’は、ランニングリザーブインジケーター表示車7の歯列と噛み合う歯列を有する。腕時計プレート100にマウントされた表示車7の回転軸に固定されるように針を設けることができる。ランニングリザーブの指示のためのランニングリザーブインジケーター針を腕時計の表盤上で観察できるようにすることができる。
【0024】
上記の説明から、当業者であれば、請求の範囲によって定められる本発明の範囲から逸脱せずに、ランニングリザーブ検出手段を備えた機械式計時器用ムーブメントのいくつかの変形実施形態を想到することができるであろう。また、ロック用車セットのロック要素を、ロック用車セットの第1の車によって直線的な手法で駆動して、ランニングリザーブがゼロであるときに、差動ギヤの巻き緩め車をロックすることができる。計時器用ムーブメントは、すべての要素が内部に配置されるモジュールの形態であることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 計時器用ムーブメント
2 差動ギヤ
2’ 中間車
2c 巻き車
2d 巻き緩め車
2i 中間車
5 ロック用車セット
5’ 第1の車
5” 第2の車
6 駆動車
7 ランニングリザーブインジケーター
15 フィンガー
15” 突起
25 開口