(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405448
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】ラックのメタライゼーションを防止するための電気めっき用ラックの処理
(51)【国際特許分類】
C23C 18/31 20060101AFI20181004BHJP
C23C 18/16 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
C23C18/31 E
C23C18/16 Z
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-506664(P2017-506664)
(86)(22)【出願日】2015年8月4日
(65)【公表番号】特表2017-525850(P2017-525850A)
(43)【公表日】2017年9月7日
(86)【国際出願番号】US2015043570
(87)【国際公開番号】WO2016022535
(87)【国際公開日】20160211
【審査請求日】2017年3月17日
(31)【優先権主張番号】14/454,131
(32)【優先日】2014年8月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502304286
【氏名又は名称】マクダーミッド アキューメン インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】トレバー・ピアソン
(72)【発明者】
【氏名】ロデリック・ディー・ハードマン
(72)【発明者】
【氏名】ローシャン・ヴイ・チャパネリ
(72)【発明者】
【氏名】アリソン・ハイスロップ
【審査官】
神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】
特表2017−511843(JP,A)
【文献】
特開昭58−104197(JP,A)
【文献】
特開昭63−037166(JP,A)
【文献】
特開昭59−187031(JP,A)
【文献】
特開昭59−207913(JP,A)
【文献】
特開昭62−068839(JP,A)
【文献】
特開昭61−000247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08
C25D 5/00−7/12
Caplus/Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっきプロセスにおいて非導電性基材を支持するために用いられる電気めっき用ラックを被覆する方法であって、
a)前記電気めっき用ラックの少なくとも一部分を、下記構造:
【化1】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、ベンジル、置換ベンジル、フェニル又は置換フェニルからなる群から選択され、X=(S)
n(n=1〜6)である。);又は下記構造:
【化2】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、C1〜C10アルキル(直鎖又は分岐鎖)、ベンジル、置換ベンジル、フェニル、又は置換フェニルから選択され、Mは、2価の金属カチオンであり、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選択される。)で表される添加剤が有効量分散されているプラスチゾル組成物に接触させる工程と、
b)前記電気めっき用ラックの上で前記プラスチゾル組成物を硬化する工程とを含
み、
前記添加剤が、1%〜20重量%の範囲の濃度で、前記プラスチゾル組成物に存在することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記プラスチゾル組成物が、PVCプラスチゾルである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記添加剤が、テトラベンジルチウラムジスルフィド又はテトラフェニルチウラムジスルフィドを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記添加剤が、ジンクジメチル−ジチオカルバメート、ジンクジエチルジチオカルバメート、ジンクジブチルジチオカルバメート、ジンクエチルフェニルジチオカルバメート、ジンクジベンジルジチオカルバメート、ジンクペンタメチレンジチオカルバメート、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルジメチルジチオカルバメート、ジンクジイソノニルジチオカルバメート、及びこれらの1つ以上の組合せからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記添加剤が、ニッケルジメチルジチオカルバメートを含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記添加剤が、5%〜15重量%の範囲の濃度で、前記プラスチゾル組成物に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程a)及びb)を複数回繰り返す請求項1に記載の方法。
【請求項8】
非導電性基材をメタライゼーションする方法であって、
a)メタライゼーションする部品を、1つ以上の電気めっき用ラックに載置する工程において、前記電気めっき用ラックは、その少なくとも一部分の上に固体の絶縁性コーティングを形成するプラスチゾル組成物が被覆されており、前記プラスチゾル組成物は、下記構造:
【化3】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、ベンジル、置換ベンジル、フェニル又は置換フェニルからなる群から選択され、X=(S)n(n=1〜6)である。);又は下記構造:
【化4】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、C1〜C10アルキル(直鎖又は分岐鎖)、ベンジル、置換ベンジル、フェニル、又は置換フェニルから選択され、Mは、2価の金属カチオンであり、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選択される。)で表される添加剤が有効量分散されている工程と、
b)処理された前記電気めっき用ラックに載置された前記非導電性基材を、クロム酸を含有しないエッチング液でエッチングする工程と、
c)前記非導電性基材が載置された前記電気めっき用ラックを、パラジウムを含有する溶液に浸漬することによって、前記非導電性基材の表面を活性化する工程と、
d)エッチングと活性化がされた前記非導電性基材が載置された前記電気めっき用ラックを無電解メタライゼーション浴に浸漬し、無電解的に金属を堆積させる工程と、
e)前記非導電性基材を電気めっきし、金属をめっきする工程とを含み、
前記電気めっき用ラック上の改善された前記プラスチゾル組成物は、無電解で堆積された金属を含有しないことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記プラスチゾル組成物が、PVCプラスチゾルである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記添加剤が、テトラベンジルチウラムジスルフィド又はテトラフェニルチウラムジスルフィドを含む請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記添加剤が、ジンクジメチル−ジチオカルバメート、ジンクジエチルジチオカルバメート、ジンクジブチルジチオカルバメート、ジンクエチルフェニルジチオカルバメート、ジンクジベンジルジチオカルバメート、ジンクペンタメチレンジチオカルバメート、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルジメチルジチオカルバメート、ジンクジイソノニルジチオカルバメート、及びこれらの1つ以上の組合せからなる群から選択される請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記添加剤が、ニッケルジメチルジチオカルバメートを含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記添加剤が、1%〜20重量%の範囲の濃度で、前記プラスチゾル組成物に存在する請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記添加剤が、5%〜15重量%の範囲の濃度で、前記プラスチゾル組成物に存在する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
めっきプロセスにおいて非導電性基材を支持するために用いられる電気めっき用ラックであって、
a)プラスチゾル組成物で被覆された金属部材を含み、前記プラスチゾル組成物は、下記構造:
【化5】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、ベンジル、置換ベンジル、フェニル又は置換フェニルからなる群から選択され、X=(S)n(n=1〜6)である。);又は下記構造:
【化6】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、C1〜C10アルキル(直鎖又は分岐鎖)、ベンジル、置換ベンジル、フェニル、又は置換フェニルから選択され、Mは、2価の金属カチオンであり、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選択される。)で表される添加剤が有効量分散され、
前記添加剤が、1%〜20重量%の範囲の濃度で、前記プラスチゾル組成物に存在することを特徴とする電気めっき用ラック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、メタライゼーション工程の間に非導電性基材を支持するために使用される電気めっき用ラックの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長年に渡り、プラスチック基材への電着金属の析出を容易にするための加工が利用されてきた。一般的に、加工は、
1)その後適用される析出物が良好な接着性を有するように、プラスチックの表面を粗面化して濡れ性を付与するために適切なエッチング液中でプラスチックをエッチングする工程と;
2)自己触媒的に適用される金属コーティング(例えば、銅又はニッケル)の析出を開始することが可能な金属(通常はパラジウム)のコロイド溶液又はイオン溶液を使用し、プラスチックの表面を活性化する工程と;
3)自己触媒的に適用される金属の薄層を析出させる工程と;
4)メタライゼーションされたプラスチック基材上に金属の電着を行う工程と;
を含む。
【0003】
一般的に、銅、ニッケル、及び/又はクロムの層が適用されて完成品を製造する。
【0004】
最も広く使用されるプラスチック基材は、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)、又はABSのポリカーボネートとの混合(ABS/PC)である。これらの材料は、射出成形の工程によって容易に構成要素へと成形される。ABSは、アクリロニトリル/スチレン共重合体の比較的硬質のマトリックスとブタジエン重合体とを含み、分離相を形成する。様々な技術を用いて容易にエッチングすることができるのは、(ポリマー主鎖中に二重結合を含む)この軟性のポリブタジエン相である。
【0005】
従来、エッチングは、高温で動作するクロム酸と硫酸との混合物を用いて行われてきた。クロム酸は、ポリブタジエンポリマーの主鎖中の二重結合の酸化によってABSのポリブタジエン相を溶解可能であり、これは、幅広い範囲のABSプラスチック及びABS/PCプラスチックにおいて信頼性があり、効果的であることが証明されている。しかしながら、クロム酸の使用は、その毒性及び発がん性のため、次第に制限されつつある。このため、ABSプラスチックをエッチングする他の手段に対する数多くの研究があり、これを達成するための多くの方法が提案されている。
【0006】
例えば、酸性の過マンガン酸塩は、ポリブタジエン中の二重結合を酸化することが可能である。鎖切断は、ヨウ素酸イオンでの更なる酸化によって達成することができる。オゾンもまた、ポリブタジエンを酸化することが可能である。しかしながら、オゾンは使用上極めて危険であり、毒性が高い。同様に、ABSをエッチングするために三酸化硫黄を使用することができるが、これは一般的なめっきライン上では成功裏に達成されていない。ABSプラスチックをエッチングするための技術の他の例は、それぞれの主題の全体を参照により本明細書中に援用する特許文献1〜特許文献3に記載されている。
【0007】
更に最近では、その主題の全体を参照により本明細書中に援用する特許文献4に記載されるように、マンガン(III)イオンを含有する濃硫酸溶液中でABSプラスチック及びABS/PCプラスチックをエッチングすることができることが発見された。
【0008】
プラスチック部品をめっきするために、感作されメタライゼーションされるプラスチック部品へと電流を伝えるめっき用ラックにプラスチック部品が取り付けられる。めっき用ラックの組み立て後であって使用前に、ラックの少なくとも一部分をプラスチックなどの絶縁性コーティングで被覆するのが望ましく、一般に用いられる好ましい絶縁性コーティングは、可塑剤に分散させたポリ塩化ビニル樹脂などのプラスチゾル(即ち、「PVC」プラスチゾル(plastisol))である。プラスチゾルコーティングの使用は、電気めっきプロセスにおいて、ラックが金属で被覆されるのを防止する。PVCプラスチゾルなどのプラスチゾルを、ラックめっきで使用することは、その主題の全体を参照により本明細書に援用する特許文献5及び特許文献6に記載されるように、よく知られている。
【0009】
活性化前のエッチング段階におけるクロム酸の使用は、パラジウム活性化剤(通常、パラジウム及びスズのコロイド)での被覆後にメタライゼーションに対する耐性を有するようにプラスチゾルコーティングの表面を改質する上で有効である。しかしながら、クロム酸が、例えば過マンガン酸塩又はマンガン(III)を含有する工程を用いる他のエッチング技術で置換される場合、めっき用ラックのプラスチゾルコーティングは、活性剤で被覆された状態となり、続いて無電解めっき段階においてニッケル又は銅の層で被覆された状態となる。
【0010】
従って、エッチング段階でクロム酸を利用しない現在知られている全ての方法の主な問題は、ラックのコーティングが、後続の無電解めっき段階においてめっきされた状態となる傾向があることである。この現象は、「ラックめっき析出(rack plate up)」として知られており、あらゆる形態のクロムフリーのエッチング技術での主な問題である。
【0011】
本技術分野においては、ラックのメタライゼーションを伴うことなくクロムフリーエッチングプロセスで使用可能であり、プラスチゾルから浸出し、処理タンクで有害な作用をもたらす成分を含有しない、改善されたPVCプラスチゾルコーティングが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0199587号明細書(Bengston)
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0092757号明細書(Sakou等)
【特許文献3】米国特許第5,160,600号明細書(Gordhanbai等)
【特許文献4】米国特許出願公開第2013/0186774号明細書(Pearson等)
【特許文献5】米国特許第3,357,913号明細書(Zavarella)
【特許文献6】米国特許第4,297,197号明細書(Salman)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、非導電性基材の電気めっきプロセスにおけるラックめっき析出を抑制することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、非導電性基材がクロムフリーのエッチング液を用いてエッチングされる非導電性基材の電気めっきプロセスにおけるラックめっき析出を抑制することにある。
【0015】
本発明の更に別の目的は、電気めっきプロセスの間に非導電性基材を支持するために使用される電気めっき用ラックの改善されたプラスチゾルコーティングを提供することにある。
【0016】
本発明の更に別の目的は、コーティングの成分がプラスチゾルからめっきラインに浸出しない、改善されたプラスチゾルコーティングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的のために、1つの実施形態では、本発明は一般的に、めっきプロセスにおいて非導電性基材を支持するために用いられる電気めっき用ラックを被覆する方法であって、
a)前記電気めっき用ラックの少なくとも一部分を、下記構造:
【化1】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、ベンジル、置換ベンジル、フェニル又は置換フェニルからなる群から選択され、X=(S)
n(n=1〜6)である。);又は下記構造:
【化2】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、C1〜C10アルキル(直鎖又は分岐鎖)、ベンジル、置換ベンジル、フェニル、又は置換フェニルから選択され、Mは、2価の金属カチオンであり、好ましくは、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選択される。)で表される添加剤が有効量分散されているプラスチゾル組成物に接触させる工程と、
b)前記プラスチゾルを硬化し、前記電気めっき用ラックの上に固体の絶縁性コーティングを形成する工程とを含む方法に関する。
【0018】
他の実施形態においては、本発明は一般的に、非導電性基材をメタライゼーションする方法であって、
a)メタライゼーションする部品を、1つ以上の電気めっき用ラックに載置する工程において、前記電気めっき用ラックは、その少なくとも一部分がプラスチゾル組成物に被覆されており、前記プラスチゾル組成物は、下記構造:
【化3】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、ベンジル、置換ベンジル、フェニル又は置換フェニルからなる群から選択され、X=(S)
n(n=1〜6)である。);又は下記構造:
【化4】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、C1〜C10アルキル(直鎖又は分岐鎖)、ベンジル、置換ベンジル、フェニル、又は置換フェニルから選択され、Mは、2価の金属カチオンであり、好ましくは、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選択される。)で表される添加剤が有効量分散されている工程と、
b)処理された前記電気めっき用ラックに載置された前記非導電性基材を、クロム酸を含有しないエッチング液でエッチングする工程と、
c)前記非導電性基材が載置された前記電気めっき用ラックを、パラジウムを含有する溶液に浸漬することによって、前記非導電性基材の表面を活性化する工程と、
d)エッチングと活性化がされた前記非導電性基材が載置された前記電気めっき用ラックを無電解メタライゼーション浴に浸漬し、無電解的に金属を堆積させる工程と、
e)前記非導電性基材を電気めっきし、金属をめっきする工程とを含み、
前記電気めっき用ラック上の前記プラスチゾル組成物は、無電解で堆積された金属を含有しない方法に関する。
【0019】
本明細書においては、プラスチゾル組成物は、電気めっき用ラックに被覆し、硬化することができる任意の絶縁性プラスチック組成物を含む。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、メタライゼーションプロセスの間に非導電性基材を支持する目的で使用される電気めっき用ラックの処理を可能にする。本明細書に記載の方法は、クロム酸フリーのエッチング液がプラスチックの最初の粗面化に使用されるプロセスにおいて生じるラックの「めっき析出」の一般的な問題を回避しながら、クロム酸を使用することなくエッチングされたプラスチックの効果的な活性化を可能にする。また、本発明は、一般的に、クロム酸を含まない加工溶液中でエッチングされ、少なくとも部分的に被覆されたラック上の「めっき析出」の問題のない、ABSプラスチック及びABS/PCプラスチック等のプラスチックの触媒反応、及び後続のメタライゼーションに関する。
【0021】
本発明者らは、2つの特定の有機硫黄化合物のクラスが、プラスチゾルコーティングに含有させたときに、めっき用ラックに被覆されたプラスチゾルのめっき析出を防止する上で、特に有効であることを発見した。これらの化合物は、約1〜約20重量%、好ましくは、約5〜約15重量%の範囲の濃度で、プラスチゾルコーティングに含有されることが好ましい。有効な化合物としては、以下の構造1及び2から選択される化合物が挙げられる。
【化5】
式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、ベンジル、置換ベンジル、フェニル又は置換フェニルからなる群から選択され、X=(S)
n(n=1〜6)である。この構造の特に好ましい化合物は、テトラベンジルチウラムジスルフィドである。本発明者らは、芳香族置換基の存在が、大幅に改善された効果をもたらすと考えられることを見出した。
【化6】
式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、C1〜C10アルキル(直鎖又は分岐鎖)、ベンジル、置換ベンジル、フェニル、又は置換フェニルら選択され、Mは、2価の金属カチオンであり、好ましくは、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選択される。
【0022】
好適なジチオカルバメートとしては、例えば、ジンクジメチル−ジチオカルバメート(ZDMC)、ジンクジエチルジチオカルバメート(ZDEC)、ジンクジブチルジチオカルバメート(ZDBC)、ジンクエチルフェニルジチオカルバメート(ZEPC)、ジンクジベンジルジチオカルバメート(ZBEC)、ジンクペンタメチレンジチオカルバメート(Z5MC)、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルジメチルジチオカルバメート、及びジンクジイソノニルジチオカルバメートなどが挙げられる。この構造の特に好ましい化合物は、ニッケルジブチルジチオカルバメートであり、R、R’、R’’及びR’’’がいずれもブチル基であり、Mがニッケルである。
【0023】
本発明者らは、前述の化合物をプラスチゾルに含有させ、電気めっき用ラックのコーティングに用いると、前記改善されたプラスチゾルコーティングが、プラスチックコンポーネントのプロセシングにおいて、エッチング及び活性化後の無電解ニッケル堆積物の核生成を防止する上で非常に有効であることを見出した。更に、これらの化合物は、エッチング段階の効果を上げるためによく用いられる溶媒コンディショナーなどのプロセシング溶液における溶解性が非常に低い。
【0024】
したがって、1つの実施形態においては、本発明は一般的に、めっきプロセスにおいて非導電性基材を支持するために用いられる電気めっき用ラックを被覆する方法であって、
a)前記電気めっき用ラックの少なくとも一部分を、下記構造:
【化7】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、ベンジル、置換ベンジル、フェニル又は置換フェニルからなる群から選択され、X=(S)
n(n=1〜6)である。);又は下記構造:
【化8】
(式中、R、R’、R’’及びR’’’は、同一であっても異なっていてもよく、C1〜C10アルキル(直鎖又は分岐鎖)、ベンジル、置換ベンジル、フェニル、又は置換フェニルから選択され、Mは、2価の金属カチオンであり、好ましくは、ニッケル、銅、及び亜鉛からなる群から選択される。)で表される添加剤が有効量分散されているプラスチゾル組成物に接触させる工程と、
b)前記電気めっき用ラック上の前記プラスチゾルを硬化する工程とを含むことを特徴とする方法に関する。
【0025】
必要に応じて、電気めっき用ラックを粗面化して、適用されるプラスチゾルコーティングの接着をより良好にすることができる。その後、電気めっき用ラックは、プラスチゾルコーティングの適用に先立ち予め加熱されることが好ましく、こうして、プラスチゾルコーティングは、予め加熱された電気めっき用ラックに適用される。めっき用ラックを予め加熱する温度は、用いるプラスチゾルのタイプに依存するが、好ましくは、約300〜約500°F、より好ましくは、約350〜約450°Fの範囲である。
【0026】
好ましい実施形態においては、プラスチゾルコーティングは、電気めっき用ラックを、プラスチゾルの浴にディップコーティングすることにより適用される。プラスチゾルコーティングの厚みは、通常、約25ミル〜約100ミルまたはそれ以上の範囲である。
【0027】
十分なコーティング厚みを得るために、且つコーティングにピット及びボイドがないようにするために、電気めっき用ラックを、プラスチゾルの浴に複数回ディップすることができる。各ディッピング操作の間(複数回のディッピング工程を用いる場合)、電気めっき用ラックに被覆されたプラスチゾルは、好ましくは、オーブンで短時間、例えば、約1〜約10分間、より好ましくは、約3〜約6分間硬化される。所望の厚みを有するプラスチゾルコーティングを得た後、コーティングは、約300〜約400°F、より好ましくは、約325〜約375°Fの温度で、コーティングの厚み及びオーブンの効率に応じて、少なくとも30分間、3〜4時間硬化され、プラスチゾルをしっかりとベーク(即ち、硬化)し、固体の絶縁性コーティングを形成する。
【0028】
また、本発明は一般的に、非導電性基材をメタライゼーションする方法であって、
1)前述のようにプラスチゾルが被覆された電気めっき用ラックを準備する工程と、
2)メタライゼーションする部品を前記ラックに載置する工程と、
3)処理された前記ラックに載置されたプラスチックコンポーネントを、クロム酸を含有しないエッチング液(例えば、過マンガン酸塩又はマンガン(III)に基づくエッチング液など)中でエッチングする工程と、
4)前記めっき用ラックをパラジウムを含む溶液中に浸漬することにより、前記プラスチックの表面を活性化する工程と、
5)前記ラックを、(コロイド状のパラジウム/スズによる活性化の場合)加速プロセスにおいて浸漬して前記表面から保護スズ酸化物を除去する、又は前記ラックを、(イオン性パラジウムの場合)還元プロセスにおいて浸漬して前記表面上にパラジウム金属を形成する工程と、
6)エッチング及び活性化された前記部品を含む前記ラックをメタライゼーション浴中に浸漬し、ニッケル又は銅を前記活性化された部品の表面上へと化学的に析出させる工程と、
7)通常、銅、ニッケル、及び/又はクロムをめっきすることにより、前記部品を電気めっきする工程とを含む。
【0029】
以下、本発明を非限定的な実施例を参照して説明する。
【0030】
比較例1:
PVCプラスチゾルコーティング(Ohmax、MacDermid、Inc.の商標)で被覆しためっき用ラック試験片と、ABS試験パネルとを、以下のプロセス手順に付した。
1)アルカリ性クリーナー(ND7、MacDermid、Inc.の製品)中への、50℃で2分間の浸漬と、それに続く、水中でのすすぎ
2)プロピレンカーボネート(10%)とブチロラクトン(5%)を含む溶媒混合物中への、35℃で3分間の浸漬と、それに続く、水中でのすすぎ
3)40重量%の硫酸溶液中への1分間の浸漬
4)その主題の全体を参照により本明細書に援用する米国特許出願公開第2013/186774号明細書(Pearson等)に記載される教示に基づく、マンガン(III)イオンと硫酸を含有するプラスチックエッチング液中への、65℃で10分間の浸漬
5)水中でのすすぎ
6)アスコルビン酸を含有する酸溶液中での中和
7)水中でのすすぎ
8)30重量%の塩酸を含有する溶液中への、常温で1分間の浸漬
9)パラジウムコロイドを含有する活性化溶液(Mactivate D34c、MacDermid、Inc.から入手)中への、30℃で3分間の浸漬と、それに続く、水によるすすぎ
10)促進剤(Ultracel 9369、MacDermid、Inc.から入手)中への、50℃で2分間の浸漬と、それに続く、水によるすすぎ
11)無電解ニッケルめっき溶液(Macuplex J64、MacDermid、Inc.から入手)中への、30℃で7分間の浸漬と、それに続く、水によるすすぎ
12)試験用ラックの乾燥
【0031】
この処理に続き、試験片を試験したところ、ラックコーティングの約95%がニッケルに被覆されていることが分かった。次いで、50体積%の硝酸溶液を用いてラックからニッケル堆積物を除去し、フレッシュなABSパネルを各サイクルに用いて、工程1〜12を複数回繰り返した。試験結果によれば、常に、ラックコーティングの85%超の被覆、ABSパネルでは完全な被覆となった。
【0032】
比較例2:
プラスチゾル中の気泡の混入を避けるために、真空ミキサを用いてOhmaxプラスチゾルにテトラメチルチウラムモノスルフィドを5重量%含有させることにより、プラスチゾルコーティングを調製した。この改善されたプラスチゾルは、JP58−104−197の教示に包含される。前記プラスチゾルを用いて、めっき用ラック試験片を被覆し、次いで、比較例1で用いたのと同じプロセシング手順に付した。
【0033】
この場合には、めっき用ラックにニッケルめっきは観察されず、同時に処理したABSパネルは、完全なニッケル被覆を示した。フレッシュなABSパネルを各サイクルに用いて、プロセス手順を5回繰り返した。3回のサイクル後、ABS試験パネルは、不完全なニッケル被覆を示し始め、5回のサイクル後、ABS試験パネルは、テトラメチルチウラムモノスルフィドを含むプロセスタンクのコンタミネーションによる最小限のニッケル被覆を示した。
【0034】
実施例1:
プラスチゾル中の気泡の混入を避けるために、真空ミキサを用いてOhmaxプラスチゾルにニッケルジブチルジチオカルバメートを15重量%含有させることにより、プラスチゾルコーティングを調製した。この改善されたプラスチゾルを用いて、めっき用ラックを被覆し、次いで、比較例1で用いたのと同じプロセシング手順に付した。この場合には、めっき用ラックにニッケルめっきは観察されなかった。
【0035】
プロセス手順を30回繰り返し、同じ結果を得た。各サイクルにおいて、ABSパネルを同時に処理した。このパネルは、各サイクルでニッケルめっきの完全な被覆を示した。
【0036】
実施例2:
プラスチゾル中の気泡の混入を避けるために、真空ミキサを用いてOhmaxプラスチゾルにテトラベンジルチウラムジスルフィドを5重量%含有させることにより、プラスチゾルコーティングを調製した。この改善されたプラスチゾルを用いて、めっき用ラックを被覆し、次いで、比較例1で用いたのと同じプロセシング手順に付した。この場合には、めっき用ラックにニッケルめっきは観察されなかった。
【0037】
プロセス手順を30回繰り返し、同じ結果を得た。各サイクルにおいて、ABSパネルを同時に処理した。このパネルは、各サイクルでニッケルめっきの完全な被覆を示した。