(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸部材の後端側に雄ネジ部を有するとともに先端側にその軸線方向に沿って長孔が形成されているボルト本体と、前記長孔内において回転可能に支持されているとともにその長手方向を前記ボルト本体の軸線方向に一致させた場合に前記長孔内に収容される係止片とを有するワンサイド締結ボルトであって、
前記長孔は、先端面から軸線に沿って少なくとも長孔後端まで穿孔された長孔用下穴と、この長孔用下穴のあるボルト外周面の上部側および下部側に、それぞれ前記長孔用下穴に到達して前記長孔の幅に相当する開口幅の開口を形成する深さの溝であって前記長孔の長手方向の長さと同一幅を有し、かつその両端壁面が上下方向から見て直線状に形成された上部凹溝および下部凹溝とにより上下方向に貫通された孔として形成されており、
前記係止片には、その長手方向の上端側に前記ボルト本体の軸線方向と直交する方向に突出形成されているとともに前記上部凹溝上を前記軸線方向に移動しながら当該係止片の回転動作を支持する回転支持凸部と、その長手方向の下端側に前記ボルト本体の軸線方向と直交する方向に突出形成されているとともに前記下部凹溝を上方に向けた際に当該下部凹溝に掛止して当該係止片が前記長孔から脱落するのを防止する脱落防止凸部とが形成されている、前記ワンサイド締結ボルト。
前記係止片は、その長手方向を前記ボルト本体の軸線方向に一致させた場合において、その先端面が軸線に対して線対称の円弧状に形成されている、請求項1に記載のワンサイド締結ボルト。
前記回転支持凸部が、前記係止片の外側面に形成された貫通孔に挿通された後に拡径することで固定されるスプリングピンによって構成されている、請求項1または請求項2に記載のワンサイド締結ボルト。
前記係止片をボルト本体の軸線方向に沿って収納させた状態で保持するための係止片保持ピンを備えた請求項1から請求項3のいずれかに記載のワンサイド締結ボルトであって、
前記ボルト本体は、前記係止片保持ピンを固定するために、前記上部凹溝の後端壁面から軸線方向に沿ってボルト本体の後端まで形成された軸部ピン固定溝と、この軸部ピン固定溝に連続して前記ボルト本体の後端面に直径方向に形成された端面ピン固定溝とを有しており、
前記係止片は、その長手方向をボルト本体の軸線方向に一致させた場合に前記上部凹溝から突出する上方側の後端面にピン固定穴を有しており、
前記係止片保持ピンは、前記軸部ピン固定溝および前記端面ピン固定溝に嵌入されるとともにピン先端を前記ピン固定穴に挿入される略L字状のピン本体と、後端側を湾曲状に形成して弾力性をもたせた弾性部と、ピン後端を前記端面ピン固定溝から外方向に突出させることにより前記雄ネジ部に螺合されたナットの雌ネジ部に係止されるピン抜け防止部とを有する、前記ワンサイド締結ボルト。
軸部材の後端側に雄ネジ部を有するとともに先端側にその軸線方向に沿って長孔が形成されているボルト本体と、前記長孔内において回転可能に支持されているとともにその長手方向を前記ボルト本体の軸線方向に一致させた場合に前記長孔内に収容される係止片とを有するワンサイド締結ボルトの製造方法であって、
前記ボルト本体の先端面から軸線に沿って少なくとも長孔の後端に相当する位置まで長孔用下穴を穿孔し、
前記長孔用下穴のあるボルト外周面の上部側および下部側に、それぞれ前記長孔用下穴に到達して前記長孔の幅に相当する開口幅の開口を形成する深さの溝であって前記長孔の長手方向の長さと同一の幅を有し、かつその両端壁面が上下方向から見て直線状となる上部凹溝および下部凹溝を切削することにより、前記ボルト本体に上下方向に貫通された前記長孔を形成する、ワンサイド締結ボルトの製造方法。
前記係止片の長手方向の上端側に貫通孔を形成するとともに、前記長手方向の下端側に前記下部凹溝に掛止して当該係止片が前記長孔から脱落するのを防止する脱落防止凸部を形成し、
前記係止片を前記下部凹溝側から前記長孔に挿入するとともに、前記貫通孔にスプリングピンを挿通して拡径させることにより前記係止片の回転動作を支持する回転支持凸部を形成し、前記ボルト本体の長孔内に前記係止片を組み付ける、請求項5に記載のワンサイド締結ボルト製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような特許文献1に記載された発明等の中空状態の裏面側で回転させた係止片を下穴の裏面に係止させるワンサイド締結ボルトについては、加工の簡単な構造は維持しつつ、前記係止片を下穴の裏面側でよりスムーズに、かつより確実に回転させたいというニーズがある。
【0005】
本発明は、以上のようなニーズを解決するためになされたものであって、製造が容易であるとともに、かつ係止片を下穴の裏面側においてスムーズにかつ確実に回転させることのできる、ワンサイド締結ボルトおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るワンサイド締結ボルトは、係止片を下穴の裏面側においてスムーズにかつ確実に回転させるという課題を解決するために、軸部材の後端側に雄ネジ部を有するとともに先端側にその軸線方向に沿って長孔が形成されているボルト本体と、前記長孔内において回転可能に支持されているとともにその長手方向を前記ボルト本体の軸線方向に一致させた場合に前記長孔内に収容される係止片とを有するワンサイド締結ボルトであって、前記長孔は、先端面から軸線に沿って少なくとも長孔後端まで穿孔された長孔用下穴と、この長孔用下穴のあるボルト外周面の上部側および下部側に、それぞれ前記長孔用下穴に到達して前記長孔の幅に相当する開口幅の開口を形成する深さの溝であって前記長孔の長手方向の長さと同一幅を有し、かつその両端壁面が上下方向から見て直線状に形成された上部凹溝および下部凹溝とにより上下方向に貫通された孔として形成されており、前記係止片には、その長手方向の上端側に前記ボルト本体の軸線方向と直交する方向に突出形成されているとともに前記上部凹溝上を前記軸線方向に移動しながら当該係止片の回転動作を支持する回転支持凸部と、その長手方向の下端側に前記ボルト本体の軸線方向と直交する方向に突出形成されているとともに前記下部凹溝を上方に向けた際に当該下部凹溝に掛止して当該係止片が前記長孔から脱落するのを防止する脱落防止凸部とが形成されている。
【0007】
また、本発明の一態様として、係止片をスムーズにかつ確実に回転させるとともに、前記係止片の締結状態での破断を抑制するという課題を解決するために、前記係止片は、その長手方向を前記ボルト本体の軸線方向に一致させた場合において、その先端面が軸線に対して線対称の円弧状に形成されていてもよい。
【0008】
さらに、本発明の一態様として、回転支持凸部の上部凹溝上における軸線方向への移動をスムーズにするという課題を解決するために、前記回転支持凸部が、前記係止片の外側面に形成された貫通孔に挿通された後に拡径することで固定されるスプリングピンによって構成されていてもよい。
【0009】
また、本発明の一態様として、係止片をボルト本体の軸線方向に沿って収納させた状態で保持するという課題を解決するために、前記係止片をボルト本体の軸線方向に沿って収納させた状態で保持するための係止片保持ピンを備えた前記ワンサイド締結ボルトであって、前記ボルト本体は、前記係止片保持ピンを固定するために、前記上部凹溝の後端壁面から軸線方向に沿ってボルト本体の後端まで形成された軸部ピン固定溝と、この軸部ピン固定溝に連続して前記ボルト本体の後端面に直径方向に形成された端面ピン固定溝とを有しており、前記係止片は、その長手方向をボルト本体の軸線方向に一致させた場合に前記上部凹溝から突出する上方側の後端面にピン固定穴を有しており、前記係止片保持ピンは、前記軸部ピン固定溝および前記端面ピン固定溝に嵌入されるとともにピン先端を前記ピン固定穴に挿入される略L字状のピン本体と、後端側を湾曲状に形成して弾力性をもたせた弾性部と、ピン後端を前記端面ピン固定溝から外方向に突出させることにより前記雄ネジ部に螺合されたナットの雌ネジ部に係止されるピン抜け防止部とを有するようにしてもよい。
【0010】
本発明に係るワンサイド締結ボルトの製造方法は、長孔の形成を容易にするという課題を解決するために、軸部材の後端側に雄ネジ部を有するとともに先端側にその軸線方向に沿って長孔が形成されているボルト本体と、前記長孔内において回転可能に支持されているとともにその長手方向を前記ボルト本体の軸線方向に一致させた場合に前記長孔内に収容される係止片とを有するワンサイド締結ボルトの製造方法であって、前記ボルト本体の先端面から軸線に沿って少なくとも長孔の後端に相当する位置まで長孔用下穴を穿孔し、前記長孔用下穴のあるボルト外周面の上部側および下部側に、それぞれ前記長孔用下穴に到達して前記長孔の幅に相当する開口幅の開口を形成する深さの溝であって前記長孔の長手方向の長さと同一の幅を有し、かつその両端壁面が上下方向から見て直線状となる上部凹溝および下部凹溝を切削することにより、前記ボルト本体に上下方向に貫通された前記長孔を形成する。
【0011】
また、本発明の一態様として、ボルト本体の長孔内に係止片を組み付けるという課題を解決するために、前記係止片の長手方向の上端側に貫通孔を形成するとともに、前記長手方向の下端側に前記下部凹溝に掛止して当該係止片が前記長孔から脱落するのを防止する脱落防止凸部を形成し、前記係止片を前記下部凹溝側から前記長孔に挿入するとともに、前記貫通孔にスプリングピンを挿通して拡径させることにより前記係止片の回転動作を支持する回転支持凸部を形成し、前記ボルト本体の長孔内に前記係止片を組み付けるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造が容易であるとともに、かつ係止片を下穴の裏面側においてスムーズにかつ確実に回転させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るワンサイド締結ボルトの一実施形態について図面を用いて説明する。
【0015】
本実施形態のワンサイド締結ボルト1は、
図1に示すように、軸部材の先端側に長孔22が形成されているボルト本体2と、前記長孔22内において回転可能に支持されている係止片3と、この係止片3を前記ボルト本体2の軸線方向に沿って収納させた状態で保持するための係止片保持ピン4とからなる。以下、各構成について説明する。
【0016】
ボルト本体2は、被締結物6に形成された下穴61に挿通されるボルトであって、
図2に示すように、軸部材からなり、その後端側に雄ネジ部21と、その先端側に長孔22とを有する。また、本実施形態のボルト本体2は、係止片保持ピン4を固定するための軸部ピン固定溝23と、この軸部ピン固定溝23に連続した端面ピン固定溝24とを有する。
【0017】
雄ネジ部21は、外周面に雄ネジが形成されてナット5が螺合される部分である。本実施形態における雄ネジ部21は、軸部材の後端から軸線方向に沿って先端側の所定の長さ位置まで形成されている。なお、雄ネジ部21の長さは、被締結物6の厚さや係止片3の幅、厚さ等に応じて適宜選択される。
【0018】
長孔22は、ボルト本体2を下穴61に挿通させる際に係止片3を収容する空間となるものであり、前記ボルト本体2の先端側にその軸線方向に沿って形成されている。本実施形態における長孔22は、長孔用下穴25と、上部凹溝26および下部凹溝27とにより、上下方向に貫通された孔として形成される。
【0019】
長孔用下穴25は、ボルト本体2の先端面28から軸線に沿って少なくとも長孔22の後端の位置まで穿孔された下穴である。
【0020】
上部凹溝26は、ボルト外周面の上部側に形成される溝であって、その溝底面26c上で係止片3を回転支持するようになっている。前記上部凹溝26は、長孔用下穴25に到達して前記長孔22の幅に相当する開口幅Lの開口を形成する深さに形成されている。つまり、本実施形態における上部凹溝26は、ボルト外周面を切削して長孔用下穴25に到達してからの深さを調整することにより、前記長孔用下穴25と連通する開口幅Lの寸法を調整している。
【0021】
また、上部凹溝26は、前記長孔22の長手方向の長さlと同一幅に形成されているとともに、その両端壁面26a,26bが係止片3の回転動作を容易にするため平坦面状、つまり
図2に示すように、上下方向から見て直線状に形成されている。
【0022】
下部凹溝27は、上部凹溝26とともに長孔22を構成するボルト外周面の下部側に形成され溝である。この下部凹溝27は、上部凹溝26と同様に、長孔用下穴25に到達して前記長孔22の幅に相当する開口幅Lの開口を形成する深さの溝であって前記長孔22の長手方向の長さlと同一幅を有し、かつその両端壁面27a,27bが平坦面状、つまり上下方向から見て直線状に形成されている。
【0023】
軸部ピン固定溝23は、係止片保持ピン4を固定するための溝であり、
図2および
図3に示すように、上部凹溝26の後端壁面26bから軸線方向に沿ってボルト本体2の後端面29まで形成されている。本実施形態における軸部ピン固定溝23は、係止片保持ピン4を収容可能な程度の幅および深さに形成されている。
【0024】
端面ピン固定溝24は、軸部ピン固定溝23とともに係止片保持ピン4を固定するための溝であり、前記軸部ピン固定溝23に連続して前記ボルト本体2の後端面29に直径方向に形成されており、前記軸部ピン固定溝23と同様に、係止片保持ピン4を収容可能な程度の幅および深さに形成されている。
【0025】
ここで本実施形態におけるボルト本体2の製造方法について説明する。
【0026】
まず、
図3に示すように、軸部材の後端側をネジ加工して雄ネジ部21を形成する。ここで雄ネジ部21が形成された軸部材に、その上部凹溝26の後端壁面26bが形成される位置から軸線方向に沿ってボルト本体2の後端面29まで溝加工することで軸部ピン固定溝23を形成する。また、前記ボルト本体2の後端面29に前記軸部ピン固定溝23に連続するように溝加工することで端面ピン固定溝24を形成する。
【0027】
また、ボルト本体2の先端面28から軸線に沿って少なくとも長孔22の後端まで穿孔して長孔用下穴25を形成する。本実施形態では、ボルト本体2の外径の約1/2径に相当するドリルを用いた穴加工により長孔用下穴25を形成する。
【0028】
次に、長孔用下穴25が形成されたボルト本体2の先端側に上部凹溝26および下部凹溝27を形成し長孔22を形成する。本実施形態における上部凹溝26および下部凹溝27は、円盤状切削刃7を用いて形成される。例えば、
図4に示すように、前記長孔22の長手方向の長さlと同一の幅を有する円盤状切削刃7を前記軸線方向と直交する方向に回転させておき、前記ボルト本体2の外周面を上下のいずれかの方向から順次、前記長孔用下穴25に向けて切削し、当該長孔用下穴25に到達後、この下穴の開口幅が前記長孔22の開口幅Lとなるまで切削して長手方向の両端壁面26a,26b,27a,27bが上下方向から見て直線状となる上部凹溝26および下部凹溝27をそれぞれ形成する。
【0029】
これにより、上下方向に貫通された孔として長孔22が形成される。このように、長孔22が、長孔用下穴25、上部凹溝26および下部凹溝27の形成工程のみで形成が可能である。よって、従来の長孔のようにエンドミルで限られた深さを幾度も移動させて切削加工していた工程に比べて、加工作業が容易になり、加工作業に要する時間を短縮し加工コストも抑制される。
【0030】
また、エンドミルを用いた従来の長孔の形成方法では、
図10(a)に示すように、前記長孔の両端壁面が上下方向から見て半円状となって無駄な空間が形成されていたが、本実施形態では、両端壁面26a,26b,27a,27bが上下方向から見て直線状となり、無駄な空間がなくなる。このため長孔22を必要最短となる長さに加工することができ、ボルト本体2全体の軸方向の長さ寸法を短くすることができる。
【0031】
さらに、円盤状切削刃7の切削加工によって上部凹溝26および下部凹溝27を形成したことにより、
図5(a)に示すように、その底面26c、27cは長孔22から外周に向けて厚みが増すように傾斜された湾曲状に形成される。よって厚みの分だけ締結される際の引っ張り強度が増大される。
【0032】
なお、上部凹溝26および下部凹溝27の底面26c、27cは、湾曲状に形成されるものに限定されず、強度を確保できれば、
図5(b)に示すように、長孔22側と外周側とで厚みが一定な平坦状に形成してもよい。
【0033】
次に、係止片3について説明する。係止片3は、長孔22内において回転可能に支持されており、被締結物6の下穴61に挿通後に自重による重量バランスによって回転することで、下穴61の裏面側に係止可能になるものである。この係止片3は、略長方形の板状部材からなり、ボルト本体2の上部凹溝26上を軸線方向に移動しながら当該係止片3の回転動作を支持する回転支持凸部31と、下部凹溝27を上方に向けた際に当該下部凹溝27に掛止して当該係止片3が長孔22から脱落するのを防止する脱落防止凸部32と、係止片保持ピン4を挿入させるピン固定穴33とを有する。
【0034】
本実施形態における係止片3は、
図2に示すように、その長手方向を前記ボルト本体2の軸線方向に一致させた場合において、その先端面34が軸線に対して線対称(
図2(b)において上下対称)の円弧状に形成されている。これにより、係止片3が上部凹溝26上を軸線方向に移動しながら回転動作する際に、前記先端面34と前記上部凹溝26の先端壁面26aとの接触抵抗を低減させることができる。
【0035】
また、先端面34を円弧状に形成することで、当該係止片3の長手方向と直交する方向の幅が後端から先端近傍まで一定幅になる。このため、
図6に示すように、先端側が先細状に形成されている従来の係止片に比べて、下孔61の縁部と当接する箇所の断面積が大きくなり、下穴61との当接箇所から受けるせん断力により破断してしまうのを抑制することができる。
【0036】
回転支持凸部31は、
図1、
図2および
図10に示すように、係止片3の長手方向の上端側にボルト本体2の軸線方向と直交する方向に突出形成されているとともに、上部凹溝26上を軸線方向に移動しながら当該係止片3の回転動作を支持するものである。回転支持凸部31は、係止片3の外側面に形成された貫通孔36にスプリングピンが挿入されて拡径されることによって構成さる。本実施形態では、市販の波形スプリングピンが用いられている。
【0037】
脱落防止凸部32は、
図1および
図2に示すように、係止片3の長手方向の下端側にボルト本体2の軸線方向と直交する方向に突出形成されているとともに、下部凹溝27を上方に向けた際に当該下部凹溝27に掛止して当該係止片3が長孔22から脱落するのを防止するものである。本実施形態における脱落防止凸部32は、プレス加工により係止片3の下端側の外表面を塑性変形させて、ボルト本体2の軸線方向と直交する方向に突出するように形成される。
【0038】
ピン固定穴33は、係止片3をボルト本体2の軸線方向に沿って長孔22内に収納させた状態で保持するために、係止片保持ピン4を嵌め入れるための穴であり、
図7に示すように、前記係止片3の長手方向をボルト本体2の軸線方向に一致させた場合に前記上部凹溝26から突出する上方側の後端面35に形成されている。
【0039】
ここで、本実施形態における係止片3の組み付け方法について説明する。本実施形態における係止片3は、係止片3の長手方向の上端側に貫通孔36を穿孔するとともに、前記長手方向の下端側に脱落防止凸部32を形成する。そして、この係止片3を下部凹溝27側から前記長孔22に挿入する。このとき前記係止片3の上端側には回転支持凸部31がまだ形成されていないため、前記長孔22に挿入することができる。そして、長孔22に挿入された係止片3の貫通孔36に回転支持凸部31となるスプリングピンを挿通して拡径させることにより、前記スプリングピンを前記貫通孔36に固定する。これにより、係止片3は、長孔22内に組み付けられる。
【0040】
この係止片3の組み付け方法を採用することにより、従来の係止片を長孔に挿通させた状態で金型を用いたプレス加工することにより回転支持凸部および脱落防止凸部を同時に形成する組み付け方法に比べて、金型の調整やそのメンテナンスが不要になる。
【0041】
次に、係止片保持ピン4の構成について説明する。係止片保持ピン4は、
図7に示すように、軸部ピン固定溝23および端面ピン固定溝24に嵌入されるピン本体41と、後端側を湾曲状に形成して弾力性をもたせた弾性部42と、ピン後端を前記端面ピン固定溝24から外方向に突出させることにより前記雄ネジ部21に螺合されたナット5の雌ネジ部51に係止されるピン抜け防止部43とを有する。
【0042】
ピン本体41は、軸部ピン固定溝23および端面ピン固定溝24に嵌入されるように略L字状に形成されている。また、ピン本体41のピン先端は、係止片3の後端面35に形成されたピン固定穴33に挿入されるようになっている。
【0043】
弾性部42は、弾力性によってナット5の雌ネジ部51に係止されるピン抜け防止部43を付勢力をもって端面ピン固定溝24から外方向に突出させるものであって、ピン本体41の後端側を湾曲状に形成することで構成されている。本実施形態における弾性部42は、ヘアピン状に形成されており、一対の直線部分を挟持して、ピン抜け防止部43がナット5の雌ネジ部51に係止する付勢力を開放するようになっている。
【0044】
ピン抜け防止部43は、ピン後端を端面ピン固定溝24から外方向に突出させることにより雄ネジ部21に螺合されるナット5の雌ネジ部51に係止させるものである。本実施形態におけるピン抜け防止部43は、弾性部42の終端部から略直角方向に延出されており、その後端が端面ピン固定溝24から外方向に突出しうる長さに形成されている。
【0045】
次に、本実施形態のワンサイド締結ボルト1における各構成の作用について、被締結物6の締結手順とともに説明する。
【0046】
まず、
図7に示すように、係止片3をその長手方向が前記ボルト本体2の軸線方向に一致させた状態にし、この係止片3の後端面35にあるピン固定穴33に係止片保持ピン4のピン先端を嵌入する。そして、係止片保持ピン4のピン本体41を軸部ピン固定溝23および端面ピン固定溝24に嵌入する。このときピン抜け防止部43は端面ピン固定溝24から外方向に突出されている。そして、ナット5を雄ネジ部21に螺合させると、ピン抜け防止部43が弾性力に対抗しながら雌ネジ部51によって内方向に縮小し、ナット5内に収容される。これにより、係止片保持ピン4が係止片3を長孔22内に収容した状態で保持し、ボルト本体2に固定される。なお、
図7の一部拡大断面で示すように、ピン抜け防止部43がナット5の雌ネジ部51に係止されるため、係止片保持ピン4が係止片3のピン固定穴33や軸部ピン固定溝23、端面ピン固定溝24から抜け落ちることがない。
【0047】
本実施形態のワンサイド締結ボルト1により被締結物6に締結する場合、
図8(1)に示すように、その先端側から被締結物6の下穴61に挿入する。このとき、係止片3がボルト本体2の軸線方向に沿って長孔22内に収納されているため、例えば、
図9に示すように、下穴61に段差があったとしても従来品のように係止片が突き当たってしまうのを回避でき、スムーズに挿通させることができる。
【0048】
そして、係止片3を被締結物6の下穴61の裏側へ挿通させた後に、係止片保持ピン4を外す。本実施形態では、
図8(2)に示すように、ヘアピン状に形成された係止片保持ピン4の弾性部42における一対の直線部分を挟持する。これにより、ピン抜け防止部43がナット5の雌ネジ部51から外れて係止状態から解除される。そして、前記係止片保持ピン4を後端側に引き抜くことにより、ピン先端を係止片3のピン固定穴33から抜くことができる。
【0049】
係止片保持ピン4による保持力を失った係止片3は、
図10に示すように、回転支持凸部31に支持されつつ自重によって長手方向の先端面34が上方に向くように回転する。このとき、前記先端面34が円弧状に形成されているとともに、上部凹溝26の先端壁面26aが上下方向から見て直線状に形成されているため接触抵抗が低く、回転動作がスムーズである。また、回転支持凸部31がスプリングピンによって構成されていることにより、従来のプレス加工により形成される回転支持凸部のような引っかかりがなく、上部凹溝26上を軸線方向にスムーズに移動する。よって、係止片3は、被締結物6の裏面側において確実に回転動作する。
【0050】
係止片3を被締結物6の裏面側で回転動作させた後、
図8(3)に示すように、ナット5を螺進させることにより係止片3が被締結物6の裏面に当接して前記ナット5とともに挟持する。このとき、前記係止片3は下穴61の縁部と当接する箇所の断面積が大きいため当接箇所から受けるせん断力による破断が抑制される。
【0051】
以上のような本実施形態のワンサイド締結ボルト1によれば、以下の効果を奏することができる。
1.上部凹溝26の先端壁面26aを上下方向から見て直線状に形成することで、係止片3を回転させる際に前記先端壁面26aとの接触抵抗を抑制することができる。
2.回転支持凸部31は上部凹溝26上を軸線方向にスムーズに移動させながら係止片3を回転させることができる。
3.1および2の効果により係止片3は下孔61の裏面側で確実に回転動作することができる。
4.長孔22を長孔用下穴25と、上部凹溝26および下部凹溝27とにより、上下方向に貫通された孔として形成することで、加工作業が容易になり、加工作業に要する時間を短縮し加工コストも抑制することができる。
5.長孔22の両端壁面26a,26b,27a,27bを上下方向から見て直線状に形成することで、全体の長さを短く構成することができ、材料費を抑制することができる。
【0052】
なお、本発明に係るワンサイド締結ボルトは、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【課題】 製造が容易であるとともに、かつ係止片を下穴の裏面側においてスムーズにかつ確実に回転させることのできる、ワンサイド締結ボルトおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 長孔22が、先端面28から軸線に沿って少なくとも長孔22後端まで穿孔された長孔用下穴25と、この長孔用下穴25のあるボルト外周面の上部側および下部側に、それぞれ長孔用下穴25に到達して長孔22の幅に相当する開口幅Lの開口を形成する深さの溝であって長孔22の長手方向の長さlと同一幅を有し、かつその両端壁面26a,26b,27a,27bが上下方向から見て直線状に形成された上部凹溝26および下部凹溝27とにより上下方向に貫通された孔として形成されている。