特許第6405495号(P6405495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ワコムの特許一覧

特許6405495ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法
<>
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000002
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000003
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000004
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000005
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000006
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000007
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000008
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000009
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000010
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000011
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000012
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000013
  • 特許6405495-ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405495
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】ペン入力装置用シート及びペン入力装置用シートの製法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
   G06F3/041 460
【請求項の数】19
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-503888(P2018-503888)
(86)(22)【出願日】2016年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2016057134
(87)【国際公開番号】WO2017154095
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2018年6月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】100091546
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 正美
(74)【代理人】
【識別番号】100206379
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 正
(72)【発明者】
【氏名】加藤 壮
(72)【発明者】
【氏名】堀江 利彦
【審査官】 ▲高▼瀬 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−194921(JP,A)
【文献】 特開2004−259256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ペンにより指示された指示位置を検出するペン入力装置の、前記電子ペンの芯体の先端部と接触するペン入力装置用シートであって、
樹脂フィルム層を備え、
前記電子ペンの前記芯体の先端部の径をSRとし、前記電子ペンの前記芯体の先端部に荷重がかけられて接触ときに前記荷重に応じて変化する前記樹脂フィルムの沈み量をδとし、前記電子ペンの前記芯体の先端部に荷重がかけられて接触しているときの、前記樹脂フィルムと前記芯体の先端部との間の動摩擦係数をμとしたときに、
前記樹脂フィルム層は、
前記芯体の先端部に印加される荷重の変化に対して測定を行い、プロットしたデータの近似直線が、
μ∝δ/SR
なる比例関係を有する
ことを特徴とするペン入力装置用シート。
【請求項2】
前記比例関係は、先端部の径がSRである筆記具で紙に描いたときの関係に対応するものである
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項3】
前記樹脂フィルム層は、自己修復軟質樹脂層である
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項4】
前記樹脂フィルム層は、ウレタン樹脂からなる
ことを特徴とする請求項3に記載のペン入力装置用シート。
【請求項5】
前記荷重の変化範囲に対応する前記δ/SRの値の変化範囲が所定の範囲となるように、前記樹脂フィルム層の硬度及び/または厚さが選定されている
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項6】
前記比例関係は、動摩擦係数μが、0.1≦μ≦0.4の範囲であり、前記δ/SRが、0.01≦δ/SR≦0.5の範囲である
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項7】
前記樹脂フィルム層の上に、皮脂を含むコーティング剤が塗布されている
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項8】
前記コーティング剤は再塗布可能である
ことを特徴とする請求項7に記載のペン入力装置用シート。
【請求項9】
前記コーティング剤は、前記比例関係が所望のものとなるように塗布されている
ことを特徴とする請求項7に記載のペン入力装置用シート。
【請求項10】
前記樹脂フィルム層の前記電子ペンの芯体の先端部が接触する面側とは反対側には、透明基材層が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項11】
前記樹脂フィルム層の前記電子ペンの芯体の先端部が接触する面側とは反対側には、粘着層が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項12】
前記樹脂フィルム層の前記電子ペンの芯体の先端部が接触する面側とは反対側には、透明基材層が設けられていると共に、前記透明基材層の前記樹脂フィルム層とは反対側には、粘着層が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項13】
前記粘着層は、再剥離可能である
ことを特徴とする請求項11または請求項12に記載のペン入力装置用シート。
【請求項14】
前記ペン入力装置は、電磁誘導方式により前記電子ペンによる指示位置を検出するものである
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項15】
前記ペン入力装置は、静電容量方式により前記電子ペンによる指示位置を検出するものである
ことを特徴とする請求項1に記載のペン入力装置用シート。
【請求項16】
電子ペンにより指示された指示位置を検出するペン入力装置の、前記電子ペンの芯体の先端部と接触するペン入力装置用シートの製法であって、
前記ペン入力装置用シートが備える樹脂フィルム層を、
前記電子ペンの前記芯体の先端部の径をSRとし、前記電子ペンの前記芯体の先端部に荷重がかけられて接触ときに前記荷重に応じて変化する前記樹脂フィルムの沈み量をδとし、前記電子ペンの前記芯体の先端部に荷重がかけられて接触しているときの、前記樹脂フィルムと前記芯体の先端部との間の動摩擦係数をμとしたときに、
前記芯体の先端部に印加される荷重の変化に対して測定を行い、プロットしたデータの近似直線が、
μ∝δ/SR
なる比例関係を有するように調整する
ことを特徴とするペン入力装置用シートの製法。
【請求項17】
前記樹脂フィルム層の硬度及び/または厚さが、前記荷重の変化範囲に対応する前記δ/SRの値の変化範囲が所定の範囲となるように選定される
ことを特徴とする請求項16に記載のペン入力装置用シートの製法。
【請求項18】
前記樹脂フィルム層の上に、皮脂を含むコーティング剤を塗布する工程を有する
ことを特徴とする請求項16に記載のペン入力装置用シートの製法。
【請求項19】
前記コーティング剤は、前記比例関係が所望のものとなるように塗布される
ことを特徴とする請求項18に記載のペン入力装置用シートの製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子ペンと、この電子ペンにより指示された指示位置を検出する位置検出装置とからなるペン入力装置に用いる、電子ペンのペン先と接触するペン入力装置用シートに関する。また、この発明は、ペン入力装置用シートの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、スマートフォンと呼ばれる高機能携帯電話端末や、パッド型端末などの小型の電子機器の入力装置として、ペン入力装置が用いられるようになっている。このような小型の電子機器用のペン入力装置に使用される電子ペンは、細型化が進み、そのペン先は、市販のボールペンのペン先と同様の径のものも多くなってきている。
【0003】
このような背景もあって、電子ペンが、例えば、紙に対してボールペンで書くような書き味で入力することができるすることが求められるようになっている。この目的のため、従来から、ペン入力装置のペン指示入力面上に、上記のような書き味を現出するように工夫されたシート(ペン入力装置用シート)を貼付することが行われている。
【0004】
例えば特許文献1(特開2014−137640号公報)や特許文献2(特開2014−149817号公報)には、シート表面の凹凸形状を制御することで書き味を調整するようにしたペン入力装置用シート(フィルム)が提案されている。また、特許文献3(特開2006−119772号公報)には、シート表面に軟質樹脂のコーティングを施すことで書き味を現出するようにしたペン入力装置用シート(フィルム)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−137640号公報
【特許文献2】特開2014−149817号公報
【特許文献3】特開2006−119772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載のペン入力装置用シートの表面の凹凸形状を制御することで書き味を調整する手法では、ペンで紙に筆記した際の紙の凹みによる感触(書き味または筆圧感)を再現することができないという問題がある。また、ペン入力装置シートがディスプレイの表示画面(ペン指示入力面)上となる場合には、透明のシートの表面の凹凸により、ヘイズ値の上昇による濁りや、レンズ効果による虹色のギラツキによるディスプレイの表示画面の表示品質を損なうこととなるという問題があった。この表示品質の改善を図るために、ペン入力装置用シートの表面の凹凸を小さくすると、凹凸の効果による筆記感が低下してしまうという問題があった。
【0007】
なお、書き味または筆圧感とは、紙へ筆記具で記入した時の引っかかり具合をいう。特に漢字などにおいては、画数が多く、一筆ごとのメリハリを明確にしなければならない。そのため、書き始めの始点と書き終わりの終点の明確さが必要である。特に書き終わりとして、跳ね・止め・払いが有るが、その時の引っかかり具合によって、書き味は大きく異なる。
【0008】
また、特許文献3に記載の表面に軟質樹脂のコーティングを行う手法では、軟質樹脂層の厚みが「好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜100μmであり、特に好ましくは10〜50μm」とされており、筆圧によるペン入力装置用シート(フィルム)の沈み量も、当該軟質樹脂層の厚さ未満の小さい値となる。このため、筆圧によるペン入力装置用シート(フィルム)の沈み量によって生じるペン引っかかり抑制効果が少なくなり、素材の摩擦力により抵抗感を発生させるために重ねた紙に対するような書き味は得られないという問題がある。
【0009】
また、特許文献3には、軟質樹脂に再塗布不可能なコーティングを行う手法も開示されているが、この手法では、軟質樹脂に対応した強固なコーティングのための費用が掛かりコスト高となると共に、耐久性に難があり、筆記箇所のコーティングが剥落する問題がある。
【0010】
さらには、特許文献3に記載のペン入力装置用シートでは軟質樹脂層をPET(Polyethylene Terephthalate)フィルムなどの比較的硬質なフィルムの下に設けるという手法も開示されている。しかし、この手法の場合には、応力が分散して軟質樹脂層に作用するため、弱い筆圧では軟質樹脂層が無いフィルムと同様の筆記感となり、筆圧を高めても集中的に沈みが発生するのではなく、なだらかに全体が撓むような変位となるために、紙に書くときのような良好な筆記感を得られない恐れがあった。
【0011】
この発明は、以上の問題点を解決することができるようにしたペン入力装置用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、
電子ペンにより指示された指示位置を検出するペン入力装置の、前記電子ペンの芯体の先端部と接触するペン入力装置用シートであって、
樹脂フィルム層を備え、
前記電子ペンの前記芯体の先端部の径をSRとし、前記電子ペンの前記芯体の先端部に荷重がかけられて接触ときに前記荷重に応じて変化する前記樹脂フィルムの沈み量をδとし、前記電子ペンの前記芯体の先端部に荷重がかけられて接触しているときの、前記樹脂フィルムと前記芯体の先端部との間の動摩擦係数をμとしたときに、
前記樹脂フィルム層は、
前記芯体の先端部に印加される荷重の変化に対して測定を行い、プロットしたデータの近似直線が、
μ∝δ/SR
なる比例関係を有する
ことを特徴とするペン入力装置用シートを提供する。
【0013】
上記の(式1)の比例関係は、筆記具例えばボールペンにより紙に描いた場合に満足するものとなっている。このため、上述の構成の請求項1の発明によるペン入力装置用シートによれば、電子ペンをシートに接触させて指示入力したときに、筆記具例えばボールペンにより紙に描いた場合と同様の書き味を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によるペン入力装置用シートによれば、電子ペンをシートに接触させて指示入力したときに、筆記具例えばボールペンにより紙に描いた場合と同様の書き味を得ることができる。
【0015】
そして、この発明によるペン入力装置用シートは、シート表面に凹凸を設ける必要がないので、当該ペン入力装置用シートをディスプレイの表示画面の上に貼付したとしても、画面の表示品質の悪化を防ぐことができる。また、表面に形成した軟質樹脂の薄いコーティング層のみにより書き味を現出するものではなく、この発明においては、(式1)の特性を備える樹脂フィルム層を備えることで書き味を現出する構成であるので、厚さを所定の値以上のものとすることが容易にでき、筆圧によるペン入力装置用シートの沈み量によって生じるペン引っかかりの効果を十分に得られ、芯ではなく、フィルムを構成する素材の摩擦力及び変形により抵抗感を発生させるために、例えば重ねた紙に対するような書き味を得ることもできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明によるペン入力装置用シートが用いられるペン入力装置の例を示す図である。
図2】図の例のペン入力装置を構成する電子ペンの構成例を説明するための図である。
図3】図の例のペン入力装置を構成する位置検出装置の構成例を説明するための図である。
図4】図の例のペン入力装置における筆圧検出特性の例を示す図である。
図5】この発明によるペン入力装置用シートの実施形態の構成例を説明するための図である。
図6】この発明によるペン入力装置用シートの実施形態の要部を説明するために用いる図である。
図7】この発明によるペン入力装置用シートの実施形態の要部を説明するために用いる図である。
図8】この発明によるペン入力装置用シートの実施形態の要部を説明するために用いる図である。
図9】この発明によるペン入力装置用シートの実施形態の要部を説明するために用いる図である。
図10】この発明によるペン入力装置用シートの実施形態の要部を説明するために用いる図である。
図11】この発明によるペン入力装置用シートの実施形態の要部を説明するために用いる図である。
図12】この発明によるペン入力装置用シートの実施形態の製法を説明するための手順のフローチャートを示す図である。
図13】この発明によるペン入力装置用シートの実施形態の一例の特性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[ペン入力装置の構成例]
この発明によるペン入力装置用シートの実施形態及びその製法の実施形態を説明する前に、この発明が適用されるペン入力装置の構成例について説明する。
【0018】
図1は、この実施形態のペン入力装置の例としてのタブレット型情報端末200の一例を示すものである。この例では、タブレット型情報端末200は、表示装置、この例ではLCD(Liquid Crystal Display)を備えると共に、当該表示装置の表示画面202Dの下部(裏面側)には、電磁誘導方式の位置検出装置201を備えている。また、タブレット型情報端末200は、この位置検出装置201の位置検出センサに対して電磁誘導方式に位置指示を行う電子ぺン1を備える。そして、この実施形態では、タブレット型情報端末200の表示画面202Dの上には、この発明の実施形態のペン入力装置用シート100が貼付されて設けられている。
【0019】
使用者は、電子ペン1の芯体の先端部(ペン先)4aを、ペン入力装置用シート100に接触させ、ペン先4aに所定の筆圧を印加させた状態で、ペン入力装置用シート100上で線を描くなどの入力操作を行う。位置検出装置201は、電子ペン1によるペン入力装置用シート100上での描画入力を検出すると共に、当該描画入力時における電子ペン1の筆圧を検出する。
【0020】
[実施形態の電子ペン1の機構的構成例の説明]
図2は、この実施形態の電子ペン1の概要を示すものである。この例の電子ペン1は、軸心方向に細長であって、軸心方向の一方が開口2aとされると共に、軸心方向の他方が閉じられた有底の円筒状の筐体を構成するケース2(筐体)を備える。図2は、説明のために、電子ペン1のケース2のみを破断して、その内部を示したものである。
【0021】
ケース2の中空部内には、基板ホルダー3に、芯体4と、コイル5が巻回された磁性体コア、この例ではフェライトコア6とが結合されて収納される。芯体4の先端部4aは、ケース2の開口2aを通じて外部に突出して露呈するようにされている。
【0022】
フェライトコア6は、中心軸位置に所定の径の貫通孔6aを有し、芯体4の芯体本体部4bが、この貫通孔6aを挿通して、基板ホルダー3に設けられている筆圧検出モジュール7と結合されている。この場合に、芯体4は、フェライトコア6の貫通孔6aを通して、軸心方向に移動可能の状態で、筆圧検出モジュール7に結合されていると共に、挿脱可能とされている。
【0023】
基板ホルダー3は、電子ペン1の軸心方向となる長手方向に、筆圧検出モジュールホルダー部3a(以下、単にホルダー部3aという)と、プリント基板載置台部3bとが連続するように、例えば樹脂により構成されている。ホルダー部3aには、筆圧検出モジュール7を構成する複数個の部品が収納され、プリント基板載置台部3bには、プリント基板8が載置され、保持される。ホルダー部3aは、基板ホルダー3において、最も芯体4側に形成されており、このホルダー部3aに芯体4及びフェライトコア6が結合される。
【0024】
プリント基板8には、コイル5と共振回路を構成するキャパシタ9、その他の電子部品が設けられている。プリント基板8においては、コイル5の両端が、キャパシタの両端に接続されると共に、後述する筆圧検出モジュール7により構成される可変容量キャパシタが、コイル5及びキャパシタに並列に接続されるようにされている。
【0025】
次に、筆圧検出モジュール7を構成する部品について、以下に説明する。この例の筆圧検出モジュール7は、芯体4に印加される筆圧に応じて静電容量が変化する容量可変キャパシタを用いた場合である。基板ホルダー3のホルダー部3aは、中空部を備える筒状体により構成され、筆圧検出モジュール7を構成する部品を、その中空部内において軸心方向に並べて収納する構成とされている。
【0026】
この例の筆圧検出モジュール7を構成する部品は、誘電体71と、端子部材72と、保持部材73と、導電部材74と、弾性部材75との複数個の部品からなる。端子部材72は、筆圧検出モジュール7として構成される容量可変キャパシタの第1の電極を構成するもので、電気的にプリント基板8に導電パターンに接続されている。また、導電部材74と弾性部材75とは電気的に接続されて、前記容量可変キャパシタの第2の電極を構成するもので、電気的にプリント基板8に導電パターンに接続されている。端子部材72と導電部材74及び弾性部材75とは、誘電体71を介して軸心方向に対向するように配置される。
【0027】
端子部材72及び誘電体71とは、ホルダー部3a内において軸心方向には移動不可となるように配置される。そして、保持部材73に対して、その軸心方向に、弾性部材75を介して導電部材74が結合されたものが、ホルダー部3a内に挿入される。保持部材73は、ホルダー部3a内に係止される。ただし、保持部材73は、ホルダー部3aの中空部内に収納された状態において、軸心方向に移動可能となるように構成されている。そして、保持部材73は、その軸心方向の芯体4側となる側に、芯体4の芯体本体部4bを圧入嵌合させる凹穴73aを備えている。
【0028】
導電部材74は、導電性を有すると共に弾性変形可能な弾性部材からなるものとされており、例えば、シリコン導電ゴムや、加圧導電ゴムにより構成される。また、弾性部材75は、例えば導電性を有するコイルバネで構成される。保持部材73において、導電部材74と弾性部材75とが接触して、電気的に接続される状態となるようにされている。
【0029】
以上のような構成において、芯体4の先端部4aに圧力(筆圧=荷重)が印加されると、保持部材73を介して弾性部材75の弾性力に抗して導電部材74が軸心方向に誘電体71側に変位して、導電部材74と誘電体71との接触面積が、筆圧に応じて変化し、その変化が静電容量の変化となる。この筆圧検出モジュール7で構成される静電容量の変化により、共振回路の共振周波数が変化して、当該共振周波数の変化が位置検出装置201に伝達される。位置検出装置201では、この共振周波数の変化を検出することで、電子ペン1の筆圧検出モジュール7で構成される可変容量キャパシタの静電容量を検出することができ、この検出した静電容量から電子ペン1に印加されている筆圧(=荷重)を検出することができる。
【0030】
[電子ペン1と共に使用する位置検出装置における位置検出および筆圧検出のための回路構成]
次に、上述の電子ペン1による指示位置の検出および電子ペン1に印加される筆圧(=荷重)の検出を行う位置検出装置201の回路構成例及びその動作について、図3を参照して説明する。
【0031】
電子ペン1は、図3に示すように、コイル5と、筆圧検出モジュール7により構成される可変容量キャパシタ7Cと、プリント基板8に配設されているキャパシタとが並列に接続された共振回路を備える。
【0032】
一方、位置検出装置201には、X軸方向ループコイル群211と、Y軸方向ループコイル群212とが積層されて位置検出コイル210が形成されている。各ループコイル群211,212は、例えば、それぞれn,m本の矩形のループコイルからなっている。各ループコイル群211,212を構成する各ループコイルは、等間隔に並んで順次重なり合うように配置されている。
【0033】
また、位置検出装置201には、X軸方向ループコイル群211及びY軸方向ループコイル群212が接続される選択回路213が設けられている。この選択回路213は、2つのループコイル群211,212のうちの一のループコイルを順次選択する。
【0034】
さらに、位置検出装置201には、発振器221と、電流ドライバ222と、切り替え接続回路223と、受信アンプ224と、検波器225と、低域フィルタ226と、サンプルホールド回路227と、A/D変換回路228と、同期検波器229と、低域フィルタ230と、サンプルホールド回路231と、A/D変換回路232と、処理制御部233とが設けられている。処理制御部233は、マイクロコンピュータにより構成されている。
【0035】
発振器221は、周波数f0の交流信号を発生する。そして、発振器221は、発生した交流信号を、電流ドライバ222と同期検波器229に供給する。電流ドライバ222は、発振器221から供給された交流信号を電流に変換して切り替え接続回路223へ送出する。切り替え接続回路223は、処理制御部233からの制御により、選択回路213によって選択されたループコイルが接続される接続先(送信側端子T、受信側端子R)を切り替える。この接続先のうち、送信側端子Tには電流ドライバ222が、受信側端子Rには受信アンプ224が、それぞれ接続されている。
【0036】
選択回路213により選択されたループコイルに発生する誘導電圧は、選択回路213及び切り替え接続回路223を介して受信アンプ224に送られる。受信アンプ224は、ループコイルから供給された誘導電圧を増幅し、検波器225及び同期検波器229へ送出する。
【0037】
検波器225は、ループコイルに発生した誘導電圧、すなわち受信信号を検波し、低域フィルタ226へ送出する。低域フィルタ226は、前述した周波数f0より充分低い遮断周波数を有しており、検波器225の出力信号を直流信号に変換してサンプルホールド回路227へ送出する。サンプルホールド回路227は、低域フィルタ226の出力信号の所定のタイミング、具体的には受信期間中の所定のタイミングにおける電圧値を保持し、A/D(Analog to Digital)変換回路228へ送出する。A/D変換回路228は、サンプルホールド回路227のアナログ出力をデジタル信号に変換し、処理制御部233に出力する。
【0038】
一方、同期検波器229は、受信アンプ224の出力信号を発振器221からの交流信号で同期検波し、それらの間の位相差に応じたレベルの信号を低域フィルタ230に送出する。この低域フィルタ230は、周波数f0より充分低い遮断周波数を有しており、同期検波器229の出力信号を直流信号に変換してサンプルホールド回路231に送出する。このサンプルホールド回路231は、低域フィルタ230の出力信号の所定のタイミングにおける電圧値を保持し、A/D変換回路232へ送出する。A/D変換回路232は、サンプルホールド回路231のアナログ出力をデジタル信号に変換し、処理制御部233に出力する。
【0039】
処理制御部233は、位置検出装置201の各部を制御する。すなわち、処理制御部233は、選択回路213におけるループコイルの選択、切り替え接続回路223の切り替え、サンプルホールド回路227、231のタイミングを制御する。処理制御部233は、A/D変換回路228、232からの入力信号に基づき、X軸方向ループコイル群211及びY軸方向ループコイル群212から一定の送信継続時間(連続送信区間)をもって電波を送信させる。
【0040】
X軸方向ループコイル群211及びY軸方向ループコイル群212の各ループコイルには、電子ペン1から送信(帰還)される電波によって誘導電圧が発生する。処理制御部233は、この各ループコイルに発生した誘導電圧の電圧値のレベルに基づいて電子ペン1のX軸方向及びY軸方向の指示位置の座標値を算出する。また、処理制御部233は、送信した電波と受信した電波との位相差に応じた信号のレベルに基づいて筆圧を検出する。
【0041】
このようにして、位置検出装置201では、接近した電子ペン1の位置を処理制御部233で検出する。そして、受信した信号の位相を検出することにより、電子ペン1の筆圧値の情報を得る。図4に、位置検出装置201における筆圧検出特性の一例を示す。以上のことから判るように、後述する電子ペン1に印加される荷重(筆圧)は、当該位置検出装置201において検出することができる。
【0042】
[ペン入力装置用シート100の実施形態]
図5は、この実施形態のペン入力装置用シート100の構成例を説明するための図であり、ペン入力装置用シート100は、断面図で示されている。ただし、この図5は、説明のための図であるので、LCD202及び位置検出装置201は断面図では表されていない。前述したように、この実施形態のペン入力装置用シート100は、表示装置の例としてのLCD202の表示画面202Dの上に、設けられている。
【0043】
ペン入力装置用シート100は、樹脂フィルム層101を備える。この樹脂フィルム層101としては、この実施形態では、自己修復軟質樹脂フィルム層が用いられる。この樹脂フィルム層101の素材と、その厚さ及び硬度とは、後述するように、この実施形態では、電子ペン1を当該ペン入力装置用シート100に接触させて移動させることにより指示入力したときに、電子ペン1の使用者が所定の書き味を得られるように選定及び調整される。以下に説明する実施形態においては、一例として、筆記媒体の例としての紙に筆記具この例ではボールペンで書くときの書き味を有するようにするために調整される。
【0044】
この樹脂フィルム層101の、電子ペン1の接触側には、表面コーティング剤が塗布されることにより形成されたコート層102が設けられてもよい。このコート層102は、皮脂を含む例えばオイルやワックス、シリコーンまたは皮脂を含む再塗布可能なコーティング剤からなる。このコート層102も、電子ペン1の使用者が感得する所定の書き味に寄与する。
【0045】
このコート層102は、ペン入力装置用シート100として製造する際に塗布するようにしてもよいし、使用者が塗布するようにしてもよい。また、使用者が、ペン入力装置用シート100上で、電子ペン1による入力作業を行うことに伴い、当該ペン入力装置用シート100の樹脂フィルム層101上に自然と塗布される場合も含む。
【0046】
樹脂フィルム層101のコート層102側とは反対側には、この実施形態では透明基材層103が設けられている。透明基材層103の存在は、この実施形態のペン入力装置用シート100の取り扱いや製造を容易にする。この透明基材層103には、透明性の高い、例えばアクリル粘着剤を使用した光学フィルム用の粘着層104が塗布されており、この粘着層104により、ペン入力装置用シート100は、LCD202の表示画面202D上に貼付される。
【0047】
この粘着層104は、粘着剤を塗布することで構成することもできるし、粘着剤フィルムとされたものを、透明基材層103上に貼ることで構成することもできる。また、粘着層104は、再剥離可能な粘着剤フィルムで構成することもできる。また、粘着材付き透明フィルムを用いて構成することもできる。その場合には、表示装置202の表示画面202Dに貼付するペン入力装置用シート100は、使用者が好みに応じた書き味のものに貼り替えることができる。
【0048】
[紙にボールペンによって描画したときの書き味の特性について]
この実施形態のペン入力装置用シート100は、発明者による、紙にボールペンによって描画したときの書き味の数値化の研究の結果に基づいて創造されたものである。
【0049】
発明者は、書き味に関係すると思われる種々の因子(ペンについての因子と、紙(シート)についての因子)を考慮し、それら種々の因子と、ボールペンで紙上に書く時の書き味との相関性についての研究を行った。
【0050】
この研究において、発明者は、書き味に関係する因子として、図6(A)に示すように、ボールペン1Bのペン先の半径SRと、ボールペン1Bに荷重(筆圧)をかけたときのコピー用紙110の沈み量δと、ボールペン1Bで紙110上に書いたときの動摩擦係数μとに着目した。そして、沈み量δとボールペン1Bのペン先の半径SRとの比率δ/SRと、動摩擦係数μとの間の関係を調べたところ、以下に説明するような特筆すべき相関関係があることを発見した。この発明は、この発見に基づくものである。なお、この例では、紙110としては、67g/mかつ厚さ0.09mmのコピー用紙を用いた。
【0051】
図7は、ボールペン1Bに印加される荷重(筆圧)を変化させたときの紙110の沈み量δとボールペン1Bの先端の半径SRとの比率δ/SRの変化と、対応する動摩擦係数μの変化を測定して求めた結果である。
【0052】
この図7の例では、ボールペン1Bのペン先の直径としては、0.5mm(SR=0.25)のものと、1.00mm(SR=0.5)のものとの2種を用意した。また、ボールペン1Bには、50gf、100gf、200gfの3種の荷重を印加した。そして、紙110の厚さは、紙を重ねたときの枚数により代替し、図7の例では、1枚から5枚までのそれぞれの厚さについて、各荷重印加時における紙110の沈み量δとボールペン1Bの先端の半径SRとの比率δ/SRと、動摩擦係数μとを測定をした。
【0053】
こうして得た図7の結果を、縦軸に動摩擦係数μの値を、横軸に紙110の沈み量δとボールペン1Bの先端の半径SRとの比率δ/SRを、それぞれ割り当てて、グラフ化したものは、図8に示すようなものとなった。図8では、荷重の変化に対する動摩擦係数μの変化が示されている。主なものとして、図7における参照記号A〜Fで示すの場合の変化を対応する直線A〜直線Fにより結んで図8に示す。すなわち、直線Aは、SR=0.25で、コピー用紙5枚の場合、直線Bは、SR=0.25で、コピー用紙4枚の場合、直線Cは、SR=0.25で、コピー用紙3枚の場合、直線Dは、SR=0.25で、コピー用紙2枚の場合、直線Eは、SR=0.5で、コピー用紙5枚の場合、直線Fは、SR=0.5で、コピー用紙3枚の場合、のそれぞれを示している。
【0054】
この図8から明らかなように、動摩擦係数μと、比率δ/SRとの間には、ボールペン1Bのペン先に印加される荷重の変化に対して測定を行い、プロットしたデータの近似直線が、
μ∝δ/SR・・・・(式A)((式1)と同一)
なる比例関係が存在することが判明した。この(式A)は複数条件で測定し、プロットしたデータの近似直線を表しており、測定点が必ず直線状に結ばれることを表しているわけではない。この比例関係は、SRと紙の厚さを固定した場合、沈み量δはボールペン1Bのペン先に印加される荷重により増加するため、荷重を大きくするほどに動摩擦係数μが大きくなることを示している。
【0055】
すなわち、ボールペン1Bの紙110の上での書き味に大きく寄与すると考えられる動摩擦係数μと、紙110の沈み量δとボールペン1Bの先端の半径SRとの比率δ/SRとの間には、強い相関関係があり、その相関関係は、図8においてプロットされたデータの近似曲線を基に引かれた点線の直線TGで示すような比例関係であることが分かった。
【0056】
したがって、この研究結果を踏まえると、図8において点線の直線TGで示すような、(式A)で示される比例関係の特性を有するシートは、ボールペン1Bで紙110の上で描画するのと同様の書き味を呈することになる。すなわち、図(B)に示すように、電子ペン1の芯体4の先端部であるペン先4aの半径をSR、実施形態のペン入力装置用シート100における沈み量をδとすれば、近似直線が(式A)を満足するように、実施形態のペン入力装置用シート100を構成すれば、当該ペン入力装置用シート100は、ボールペン1Bで紙110の上で描画するのと同様の書き味を呈する。
【0057】
[実施形態のペン入力装置用シート100について]
以上のことを踏まえ、この実施形態のペン入力装置用シート100では、先ず、樹脂フィルム層101を、前述の内容にて(式A)を満足するように調整する。すなわち、この実施形態では、樹脂フィルム層101は、前述の内容にて(式A)を満足するように素材の成分を調整するようにする。この樹脂フィルム層101としては、例えばウレタン樹脂(ポリウレタン)やフッ素ゴムなどを用いることができる。この実施形態では、樹脂フィルム層101としては、自己修復軟質樹脂であるウレタン樹脂を用いる。
【0058】
この場合に、この実施形態における樹脂フィルム層101を構成するポリウレタン樹脂層を構成する素材の成分構成比率や、所定の混合物の混合などにより、前述の内容にて(式A)を満足するように調整することができる。調整の例としては、樹脂フィルムの分子同士の結合の強さを変更することが考えられる。同じ沈み込み量であっても、樹脂フィルムの分子同士の結合が強い場合は、ペン先を中心として周囲の分子を引っ張りながら広範囲で沈み込む。分子同士の結合が弱い場合とでは、ペン先の周辺でしか沈み込まない。したがって、筆記時のペン先に引っかかる樹脂フィルムの態様が変わることで、動摩擦係数μを変えることができる。しかし、この発明の要旨は、樹脂フィルム層101を構成するウレタン樹脂層の素材の具体的に同様に構成するかではないので、その成分構成の具体例については、ここでは、説明は省略する。
【0059】
こうして、樹脂フィルム層101の素材を調整することで、(式A)に示す傾向と同様の傾きの特性を有するペン入力装置用シート100を構成することができる。ここで、この樹脂フィルム層101の調整のみで、図8に示した直線TGと一致あるいは近似するような特性が得られれば、コート層102はなくてもよい。ここで、「直線TGに近似する」とは、図8に示すように、直線TGに平行であって動摩擦係数μが大きくなる方向に許容される上限の直線TGuと、直線TGに平行であって動摩擦係数μが小さくなる方向に許容される下限の直線TGdとに挟まれる領域にある直線であって、直線TGにできるだけ平行な直線のことをいう。
【0060】
しかし、図8に示した直線TGと一致あるいは近似するような特性が得られない場合もある。その場合には、後述のように図9を用いて詳しく説明をするが、コート層102を設けると共に、当該コート層102の素材と厚さを調整するようにする。樹脂フィルム層101によって上述の比例特性の直線の傾きは定まるが、コート層102により、当該樹脂フィルム層101の比例特性の直線が、図8の上限の直線TGuと、下限の直線TGdとに挟まれる領域内に入るように調整することができる。
【0061】
また、電子ペン1による筆記(指示入力)に対するペン入力装置用シート100の耐久性と、筆圧印加時のペン入力装置用シート100上での電子ペン1の筆記感の低下防止とを考慮して、樹脂フィルム層101の厚さと硬度とを選定または調整する。
【0062】
すなわち、電子ペン1によるペン入力装置用シート100上での筆記(以下、ペン筆記という)時におけるペン先の沈み量δ(図6参照)が大きくなりすぎるとペン筆記に対するペン入力装置用シート100の耐久性が低下してしまう。そこで、樹脂フィルム層101の硬度については、電子ペン1のペン先の沈み量δが、大きくなりすぎないような下限値が選定される。
【0063】
ここで、紙とボールペンとの間の書き味を再現するための範囲として、後述する図9で示されるターゲット範囲として楕円Atgを定めることができる。
【0064】
書き味に大きく寄与するのは動摩擦係数μと考えられる。したがって、書き味を定めるのに、動摩擦係数μの範囲を定めることは重要である。図7図8において、直線Aは、コピー用紙5枚厚の場合を示しているが、滑らかな板上で良好な書き味を引き出すための一般的な使用態様は、紙は2〜3枚置いて書く場合が想定される。すると、直線C、直線D、直線Fが実用的であると考えられる。このとき、動摩擦係数μは、0.10から0.40(0.1≦μ≦0.4)の範囲になる。この動摩擦係数μの範囲から導き出される比率δ/SRの範囲は、0.01〜0.5(0.01≦δ/SR≦0.5)となる。これが、紙とボールペンとの間の書き味を再現するための範囲と考えられ、この範囲をターゲット範囲楕円Atgと想定できる。
【0065】
図9は、樹脂フィルム層101の材質と厚さと硬度とを変えた場合のそれぞれについて、印加させる荷重(筆圧)を変化させたときの動摩擦係数μと、比率δ/SRとの関係を実測値の例である。この図9において、実線301〜実線306で示すものは、厚さがmmであって、硬度が互いに異なる樹脂フィルム材料の場合の実測値であり、また、破線401〜破線406で示すものは、厚さが1mmであって、硬度が互いに異なる樹脂フィルム材料の場合の実測値である。実線301〜実線306及び破線401〜破線406で示すものは、電子ペン1に、それぞれ荷重(筆圧)が50gf、100gf、200gfの3種を印加したときの、電子ペン1のペン先の半径SRと沈み量δとの比δ/SRに対する動摩擦係数μをプロットしたものである。この例は、電子ペン1の芯体4はPOM(Polyoxymethylene)で構成され、そのペン先の半径SRは0.7mm(直径は1.4mm)とされている場合である。
【0066】
図10に、実線301〜実線306及び破線401〜破線406で示すものの、樹脂フィルム材料と、その厚さ及び硬度の対応表を示す。
【0067】
この図9及び図10から分かるように、樹脂フィルムの硬度が柔らかいほど、沈み量δ及び動摩擦係数μが大きくなり、また、樹脂フィルムの硬度が硬いほど、沈み量δ及び動摩擦係数μが小さくなることが分かる。また、樹脂フィルムの厚さが厚い方が沈み量δが大きくなることが分かる。
【0068】
更に、例えば、樹脂フィルム層101の硬度がA70台を下回ると、筆圧に対する沈み量δが大きくなりすぎて、ペン筆記に対する耐久性が低下することが判明した。また、硬度が低くなるほど荷重あたりの変位量が増大するため、厚みを薄くするほど早期に変位が飽和し、式(A)に示す傾向を得られなくなることが理解できる。また、例えば、樹脂フィルム層101の硬度がA97を超えると、筆圧に対する沈み量δが小さくなり過ぎ、特に低筆圧時に筆記感が低下してしまう。
【0069】
以上のことと、上記のターゲット範囲Atgを考慮して、樹脂フィルム層101の硬度は、耐久性の観点から、例えばA70以上とすることが肝要であり、筆記感の観点からは、例えばA97以下とすることが良いとすることができる。
【0070】
また、以下に説明するような観点から、樹脂フィルム層101の厚さが選定される。すなわち、例えば、電子ペン1に50gfの荷重(筆圧)をかけたときの沈み量δが50μmを下回るペン入力装置用シート100の場合、特に低い筆圧時の筆記感が感じ取り難くなる。また、電子ペン1に300gfの荷重(筆圧)をかけたときの沈み量δが100μmを下回るペン入力装置用シート100の場合、電子ペン1に筆圧をかけても筆記感の改善が殆ど感じられない。さらに、沈み量δが400μmを上回るペン入力装置用シート100の場合、高筆圧をかけた際の沈み量が大きくなり過ぎることとなり、筆記感の低下をもたらす。
【0071】
図11に、樹脂フィルムの厚さ及び紙の厚さと、荷重による沈み量の関係を示す。この図11において、曲線701は紙1枚の場合、曲線702は紙2枚重ねの場合、曲線703は紙5枚重ねの場合、曲線704は紙10枚重ねの場合、曲線705は紙15枚重ねの場合、曲線706は紙20枚重ねの場合である。紙10枚重ね、紙15枚重ねや紙20枚重ねなどは、ノートやレポート用紙などで、下敷きを使用せずに、当該筆記対象の紙の下側に複数枚の紙が存在する場合を想定しているものである。
【0072】
そして、曲線707は、フィルム厚が100μmの樹脂フィルムの場合、曲線708は、フィルム厚が200μmの樹脂フィルムの場合、曲線709は、フィルム厚が350μmの樹脂フィルムの場合である。ここでは、樹脂フィルムの素材として樹脂ウレタンであって、硬度A92のフィルムを用いている。この図11により、樹脂フィルムの厚さと紙の枚数による違いを比較することができる。また、この図11より、所定の荷重(一般的な筆記時の筆圧50−300gf)を加えた時、紙2枚重ねを上回る変位量が得られるのがフィルム厚が200μmの樹脂フィルムであり、最も理想的である。フィルム厚が100μの樹脂フィルムでも紙1枚相当の変位量なので、紙1枚相当への書き味を実現することができる。更に、現実的ではないが、フィルム厚が350μの樹脂フィルムでも紙への書き味を再現することが可能と考えられる。
【0073】
以上のことを考慮して、この実施形態では、ペン入力装置用シート100の樹脂フィルム層101の厚さは、100μm以上が好ましく、また、タブレットやスマートフォンといった機器の取り扱い及びフィルムの光学特性との兼ね合いから、樹脂フィルム層101の厚さは、500μm以下が好ましく、この実施形態では、樹脂フィルム層101は、より好ましい厚さの範囲として例えば150μm〜350μmの範囲内となるように選定される。
【0074】
以上のことにより、樹脂フィルム層101の硬度と厚さを選定(調整)することで、目的とする書き味を呈するペン入力装置用シート100を得ることができる。
【0075】
例えば図9において、目的とする比例関係の直線TGにおいて、想定される荷重(筆圧)変化に対する沈み量δとペン先の半径SRとの比の範囲を、上述で定義したターゲット範囲楕円Atgと選定したときには、樹脂フィルム層101の硬度と厚さとを、この範囲内になるように調整すればよい。
【0076】
なお、図9図10に示した数々の樹脂シート層の中で、最も紙とボールペンとの関係に近いものは、破線404と実線304で示したものであることが判る。この実線304と破線404で示したものに対応する樹脂フィルムの厚さと硬さを更に調整することで理想的な樹脂シートを作り出すことが可能である。
【0077】
[ペン入力装置用シートの製法]
以上説明したペン入力装置用シート100の製法を、その手順の流れの一例を示す図12のフローチャートを参照しながら説明する。
【0078】
先ず、実施形態のペン入力装置用シート100上で描く電子ペン1を特定(選定)する(手順T101)。この電子ペン1の特定により、芯体4の先端部4aであるペン先の半径SRが特定される。また、芯体4の材料も特定されることになる。この場合、芯体4の材料としては、樹脂フィルム層101の硬度よりも硬い材料であればよく、この例では硬質の樹脂例えばPOMとされる。
【0079】
次に、前述した(式A)の比例関係を満足するように、樹脂フィルム層101の素材を調整する(手順T102)。このとき、(式A)におけるSRは、手順T101で特定された電子ペン1の芯体4の先端部4aのペン先の半径であり、また(式A)におけるδは、当該電子ペン1のペン先の樹脂フィルム層101における沈み量であることは言うまでもない。
【0080】
次に、図9を用いて説明したターゲット範囲を定めて、手順T102で調整した樹脂フィルム層101の硬度及び厚さを決定する(手順T103)。
【0081】
次に、所定の厚さの透明基材層103の上に、手順T103で決定した硬度の、手順T102で調整した樹脂フィルム層101を、手順T103で決定した厚さで形成する(手順T104)。
【0082】
次に、樹脂フィルム層101の表面に、コーティング剤を塗布して、書き味を、より、紙にボールペンで書いたときのものに近似させるように調整する(手順T105)。前述したように、図8に示した直線TGと一致あるいは近似するような特性が得られれば、手順T105はなくてもよい。
【0083】
以上により、この実施形態のペン入力装置用シート100を製造することができる。そして、図5に示したように、ペン入力装置用シート100を表示装置202の表示画面202Dに貼付する際には、透明基材層103に光学粘着層104を塗布して、当該光学粘着層104を介して表示画面202Dに貼付するようにする。
【0084】
なお、この実施形態のペン入力装置用シート100を、使用者が自分で表示装置202の表示画面202Dに貼付することを考慮する場合には、光学粘着層104の表面には、例えば剥離シートが貼付される。そして、剥離シートを剥がすことで、光学粘着層104が露呈して、表示画面202Dに貼付することができる。このようにペン入力装置用シート100を光学粘着層104を含んで構成する場合には、光学粘着層104を透明基材層103の下に張り付けた後に、樹脂フィルム層101を透明基材層103の上に形成するようにしてもよい。
【0085】
このように、ペン入力装置用シート100を光学粘着層104を含んで構成する場合に、光学粘着層104は再剥離可能な光学粘着層の構成とすると、更に便利である。すなわち、ペン入力装置用シート100が交換可能となるので、当該ペン入力装置用シート100として種々の書き味を備えるものを用意しておき、使用者が、希望する書き味のペン入力装置用シート100に交換することが容易にできるようになる。
【0086】
[実施例]
以上のようにして製造されたペン入力装置用シート100の実施例について説明する。この実施例のペン入力装置用シート100は、樹脂フィルム層101が、上述の(式A)を満足するように調整されたポリウレタン樹脂からなるものであって、厚さが190μmで、硬度がA91としたものである。そして、この樹脂フィルム層101の上に、コーティング剤の層102として油脂ワックス層が塗布されて調整されたものである。
【0087】
この実施例のペン入力装置用シート100上において、芯体4がPOMで構成され、当該芯体4の先端部4aのペン先の半径SRがSR=0.7mmとされた電子ペン1で描く場合の書き味を示す実測データを図13に示す。この図13には、参考のため、図8に示した紙にボールペンで書いたときの実測データも示されている。
【0088】
この図13において、3点の実測データ501,502,503は、この実施例のペン入力装置用シート100上において、上記の電子ペン1に、それぞれ、50gf、100gf、200gfの荷重(筆圧)を印加したときの実測値である。この実測データから、紙にボールペンで書いたときの比例関係の直線TGとほぼ同じ傾きを備え、当該直線TGに近接した位置の直線上の特性が得られることが分かる。なお、3点の実測データ501,502,503を結んだ直線と、直線TGとの間の間隔は、樹脂フィルム層101の上に塗布するコーティング剤の層102を調整することにより、より小さくすることができる余地がある。
【0089】
なお、以上の実施形態においては、電子ペン1及び位置検出装置201からなるペン入力装置が電磁誘導方式のものである場合であったが、この実施形態のペン入力装置用シート100は、検出方式に関係なく適用することができ、例えば静電容量方式の電子ペン及び位置検出装置からなるペン入力装置にも適用できる。静電容量方式の場合には、電子ペンの芯体は導電体で構成される。この静電容量方式の電子ペンの芯体が導電性の金属であるSUSで構成される場合にも、実施例のペン入力装置用シート100を用いることにより、紙にボールペンで書いたときの書き味と同様の書き味を呈するようにすることができる。
【0090】
図13において、3点の実測データ601,602,603は、この実施例のペン入力装置用シート100上において、上記の静電容量方式の電子ペンに、それぞれ、50gf、100gf、200gfの荷重(筆圧)を印加したときの実測値である。この場合に、当該電子ペンのSUSで構成される芯体のペン先の半径SRは、SR=0.5mmとされている。この実測データから、紙にボールペンで書いたときの比例関係の直線TGとほぼ同じ傾きを備えると共に、当該直線TGにほぼ重なっている直線上の特性が得られることが分かる。
【0091】
[実施形態の効果]
以上説明したように、この実施形態のペン入力装置用シートによれば、電子ペンで位置指示のために、当該ペン入力装置用シートに接触させながら所定の荷重(筆圧)をかけて操作入力したときに、紙にボールペンで書いたときの書き味と同様の書き味を、使用者は感得することができる。
【0092】
そして、この実施形態のペン入力装置用シートによれば、特許文献1や特許文献2のようにシートの表面に凹凸を形成するものではないので、当該ペン入力装置用シートをディスプレイの表示画面の上に貼付したときに、画面の表示品質を悪化させることはない。また、この実施形態のペン入力装置用シートにおいては、(式A)の特性を備える樹脂フィルム層を備えることで書き味を現出する構成であるので、厚さを所定の値以上のものとすることが容易にできる。そして、電子ペンに印加される筆圧によるペン入力装置用シートの沈み量も書き味に寄与する分を十分に得ることができるので、この沈み量によって生じるペン引っかかりの効果を十分に得られ、素材の摩擦力により抵抗感を発生させるために、例えば重ねた紙に対するような書き味を得ることもできるという効果を奏する。
【0093】
[他の実施形態及び変形例]
以上の実施形態では、電子ペンの書き味として近似する書き味の例としては、紙の例としてのコピー用紙に、筆記具の例としてのボールペンで書いたときの書き味を例に挙げた。しかし、紙としてはコピー用紙に限られるものではなく、また、筆記具としてはボールペンに限られるものではないことは言うまでもない。例えば紙としては、ノート用紙、画用紙、半紙、和紙、ボール紙など、種々の紙を対象とすることができる。また、筆記具としては、鉛筆、シャープペンシル、万年筆など、種々の筆記具を対象とすることができる。
【0094】
また、書き味を現出する筆記対象の媒体としては、紙に限られるものではなく、要は、プロットしたデータの近似曲線が、(式A)の比例関係を満足するような特性を有する媒体であれば、紙以外のどのような媒体であってもよい。
【0095】
なお、上述の実施形態では、透明基材層103の上に樹脂フィルム層101を形成するようにしたが、表示装置の表示画面に上に、樹脂フィルム層101を形成することで透明基材層103や粘着層104を省略することもできる。
【0096】
また、上述の実施形態では、ペン入力装置用シートは、表示装置の表示画面上に設けるようにしたが、この発明によるペン入力装置用シートは、表示装置の表示画面上に設ける場合に限られるものではないことは言うまでもない。その場合には、樹脂フィルム層101は、透明ではない基材層の上に形成することができる。また、粘着層も、光学フィルム用の透明の粘着層である必要はない。さらに、コート層102を形成するコーティング剤も、透明材料である必要はない。
【符号の説明】
【0097】
1…電子ペン、100…ペン入力装置用シート、101…樹脂フィルム層、102…コート層、103…透明基材層、104…粘着層、110…紙、200…タブレット型情報端末、201…位置検出装置、202…表示装置、202D…表示画面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13