(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガス透過性を有する材料を加工してなる複室培養容器であって、細胞を培養するための培養室が二つ以上形成され、各培養室は、少なくとも一つの他の培養室と連通し、かつ前記複室培養容器の外部と連通するための外部接続部を少なくとも一つ備え、
前記各培養室に、前記他の培養室と連通するための室間接続部がそれぞれ備えられ、
前記複室培養容器が略長方形状であり、前記複室培養容器の一つの辺に、チューブを用いて接続された二つ以上の前記室間接続部が備えられ、前記各培養室における前記室間接続部が備えられた辺と、前記複室培養容器の一つの辺との距離が、前記各培養室の並び順に大きく又は小さくなるように、前記各培養室が形成されたことを特徴とする複室培養容器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような細胞培養キットを用いても、その取り扱いの煩雑さを、十分に改善することはできなかった。
すなわち、このような細胞培養キットを用いた場合、接続する培養容器の数が多くなると、チューブが絡まったり、あるいは培養容器が入り乱れてどれがどれかがわからなくなったりするなど、やはりその取り扱いが煩雑になるという問題があった。
また、最近では、自動細胞培養装置を用いた細胞培養方法も提案されているが、このような複数の容器からなる細胞培養キットの自動細胞培養装置への取付け作業は、非常に煩雑になってしまうという問題もあった。
【0006】
また、リンパ球の培養を行う場合、従来は一般的に抗CD3抗体を固相化したフラスコにリンパ球を入れて活性化させた後、活性化したリンパ球を増幅用の培養バッグに移し変えて培養が行われていた。
現在は、技術的には、ガス透過化性を有するフィルム材からなる培養バッグの内面に抗CD3抗体を固相化して活性化用の培養バッグを作製し、これを増幅用の培養バッグに接続して細胞培養キットを構成し、自動細胞培養装置を用いてリンパ球の培養を行うことも可能になっている。
しかしながら、このような活性化用の培養バッグは、フラスコに比べてコストが相当大きくなるため、フラスコから活性化用の培養バッグへの置き換えは、簡単に行うことができなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは鋭意研究して、一つの培養バッグ内に複数の培養室を形成して、これらを連通することで、製造コストが低く、かつ取り扱いが極めて簡便な培養容器を製造することに成功し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、複数の異なる培養環境や培養条件で培養した細胞を、簡便な作業で移し変え可能な複室培養容器、及びこれを用いた細胞培養方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の複室培養容器は、ガス透過性を有する材料を加工してなる複室培養容器であって、細胞を培養するための培養室が二つ以上形成され、各培養室は、少なくとも一つの他の培養室と連通し、かつ前記複室培養容器の外部と連通するための外部接続部を少なくとも一つ備え
、前記各培養室に、前記他の培養室と連通するための室間接続部がそれぞれ備えられ、前記複室培養容器が略長方形状であり、前記複室培養容器の一つの辺に、チューブを用いて接続された二つ以上の前記室間接続部が備えられ、前記各培養室における前記室間接続部が備えられた辺と、前記複室培養容器の一つの辺との距離が、前記各培養室の並び順に大きく又は小さくなるように、前記各培養室が形成された構成としてある。
【0009】
また、本発明の細胞培養方法は、上記の複室培養容器を用いた細胞培養方法であって、前記複室培養容器における前記培養室として、リンパ球を活性化させるための抗CD3抗体が固相化された活性化培養室と、活性化されたリンパ球を増幅させるための増幅培養室とが形成され、リンパ球及び培養液を前記活性化培養室に注入して、前記活性化培養室においてリンパ球を活性化させ、前記活性化培養室から前記増幅培養室に活性化されたリンパ球及び培養液を移送して、前記増幅培養室においてリンパ球を増幅させる方法としてある。
【0010】
さらに、本発明の細胞培養方法は、上記の複室培養容器を用いた細胞培養方法であって、前記複室培養容器における前記培養室として、白血球をリンパ球と接着系細胞に分離して接着系細胞を培養するための接着系細胞培養室と、リンパ球を活性化させるための抗CD3抗体が固相化された活性化培養室と、リンパ球を増幅するための増幅培養室とが形成され、
血液から分離した白血球及び培養液を前記接着系細胞培養室に注入して静置し、前記白血球における接着系細胞を前記接着系細胞培養室内の底面に接着させ、次いで、前記接着系細胞培養室から前記活性化培養室に、前記白血球におけるリンパ球と培養液を移送して、前記活性化培養室においてリンパ球を活性化させ、前記接着系細胞培養室に樹状細胞への誘導因子を含む培養液を注入して前記接着系細胞を培養し、前記接着系細胞を樹状細胞に誘導し、前記活性化培養室から前記増幅培養室に活性化されたリンパ球及び培養液を移送して、前記増幅培養室においてリンパ球を増幅させる方法としてある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の異なる培養条件で培養した細胞を簡便な作業で移し変え可能な複室培養容器、及びこれを用いた細胞培養方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の複室培養容器及び細胞培養方法の実施形態について、詳細に説明する。
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態に係る複室培養容器及び細胞培養方法について、
図1を参照して説明する。
本実施形態の複室培養容器は、ガス透過性を有する材料を加工してなる複室培養容器であって、細胞を培養するための培養室が二つ以上形成され、各培養室は、少なくとも一つの他の培養室と連通し、かつ複室培養容器の外部と連通するための外部接続部を少なくとも一つ備えたことを特徴とする。
【0014】
具体的には、
図1において、複室培養容器1は、細胞を培養するための培養区画として、培養室11と培養室12を備えている。
培養室11には、複室培養容器1の外部と連通するための外部接続ポート111と、他の培養室と連通するための室間接続ポート112と、サンプリングを行うためのサンプリングポート113が備えられている。
外部接続ポート111は、図示しないが、チューブ2を介して培養液供給容器等に接続され、培養室11への培養液の供給のためなどに用いられる。
室間接続ポート112は、培養室12の室間接続ポート122にチューブ2を介して接続され、培養室12の内容液を培養室11に移送するために用いられる。
サンプリングポート113は、培養室11で培養された細胞のサンプリングを行うために用いられる。
【0015】
培養室12には、複室培養容器1の外部と連通するための外部接続ポート121と、他の培養室と連通するための室間接続ポート122が備えられている。
外部接続ポート121は、図示しないが、チューブ2を介して細胞供給容器等に接続され、培養室12への細胞の注入のためなどに用いられる。
室間接続ポート122は、培養室11の室間接続ポート112にチューブ2を介して接続され、培養室12の内容液を培養室11に移送するために用いられる。
【0016】
複室培養容器1を形成する材料としては、細胞の培養に必要なガス透過性を有していることが必要である。具体的には、5000ml/m
2・day・atm(37℃−80%RH)以上の酸素透過率を有することが好ましい。また、培養容器材料は、複室培養容器1における内容物を確認できるように、透明性を有していることが好ましい。さらに、培養容器材料は、高い細胞増殖効率を実現するために、低細胞毒性、低溶出性、及び放射線滅菌適性を有することが好ましい。
【0017】
このような条件を満たす材料としては、ポリエチレン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、例えばポリエチレン、エチレンとα−オレフィンの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、エチレンとアクリル酸やメタクリル酸共重合体と金属イオンを用いたアイオノマー等を挙げることができる。また、ポリオレフィン、スチレン系エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、シリコーン樹脂等を用いることもできる。
このようなガス透過性材料をヒートシール加工や圧空成形、真空成形などのシート成形することによって、本実施形態の複室培養容器1を製造することができる。
【0018】
本実施形態の複室培養容器1の形状は、特に限定されないが、略長方形状のものを好適に用いることができ、その内部に形成される各培養室の形状も、略長方形状にすることが好ましい。
【0019】
本実施形態の複室培養容器1において、各培養室に、それぞれ異なる培養基材を備えて、それぞれ異なる培養環境、培養条件での細胞培養を行えるようにすることも好ましい。培養室が、三つ以上ある場合には、全部の培養室にそれぞれ異なる培養基材を備えても、一部の培養室にそれぞれ異なる培養基材を備えても良い。
本実施形態の複室培養容器1による培養用途は特に限定されないが、例えば、リンパ球の培養、DC−LAK療法(樹状細胞、リンパ球の培養)、ES細胞の培養、iPS細胞の培養などに好適に用いることが可能である。
【0020】
以下、本実施形態の複室培養容器1において、複数の異なる培養環境、培養条件を設けた場合の細胞培養について、具体例を挙げて説明する。
【0021】
[リンパ球の培養]
リンパ球の培養を行う場合、培養室11は、その内面に特別な処理を行うことなく、リンパ球を増幅させるための増幅培養室として用い、培養室12は、その内面に抗CD3抗体をコーティング(固相化)して、リンパ球を活性化させるための活性化培養室として用いることができる。
そして、
図1に示すように、培養室11と培養室12を接続するチューブ2にクリップなどの流路開閉手段を取付けて、チューブ2における流路の開閉を制御する。なお、流路開閉手段としては、例えばピンチバルブや二方活栓などを用いることもできる。
【0022】
そして、リンパ球及び培養液を培養室12に注入して、培養室12においてリンパ球を活性化させる。培養室12に注入したリンパ球は、約3日間程度の抗CD3抗体の刺激によって、活性化される。
その後、チューブ2における流路を開放して、培養室12から培養室11に活性化されたリンパ球及び培養液を移送し、培養室11においてリンパ球を増幅させる。
このとき、リンパ球の増幅に併せて、培養室11に培養液を追加し、約4日から10日間程度で活性化されたTリンパ球を大量に得ることができる。
なお、培養室12の内面にその他の生理活性物質をコーティングして、その他の細胞を活性化させた後、これを培養室11に移送して、増幅させることもできる。
【0023】
[ES細胞の培養]
ES細胞の培養を行う場合、培養室11は、その内面にマトリゲルコート処理を行って、ES細胞を増幅させるためのES細胞培養室として用い、培養室12は、マイトマイシンC処理を施したMEF(マウス胎児線維芽細胞)を充填し、MEFを培養するためのMEF培養室として用いることができる。
【0024】
次に、培養室12からMEF用培養液を除去した後、ヒトES細胞用培養液で洗浄し、培養室12にヒトES細胞用培養液を充填して、37℃、2%二酸化炭素濃度の条件下で、MEFを一晩培養する。翌日、チューブ2における流路を開放して、培養室12から培養室11に培養上清を移送する。これによって、培養室11をMEF-conditioned培養液を備えた培養室として使用することができる。
そして、予め準備したヒトES細胞を培養室11に播種して、MEF-conditioned培養液(bFGFを添加しておく)により37℃、2%二酸化炭素濃度の条件下で培養して、ヒトES細胞を増幅させることができる。
【0025】
このように、本実施形態の複室培養容器1によれば、コンタミネーションの発生を防止でき、また培養室11と培養室12とを一体的に取り扱うことができるため、培養室11から培養室12への細胞の移し変え作業を、極めて容易に行うことが可能になっている。
【0026】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る複室培養容器及び細胞培養方法について、
図2を参照して説明する。
本実施形態の複室培養容器1aは、同図に示すように、培養室11と培養室12に加えて、さらに培養室13を備えている。
培養室13には、複室培養容器1aの外部と連通するための外部接続ポート131と、他の培養室と連通するための室間接続ポート132が備えられている。
外部接続ポート131は、図示しないが、チューブ2を介して細胞供給容器等に接続され、培養室13への細胞の注入のためなどに用いられる。室間接続ポート132は、培養室11の室間接続ポート112及び培養室12の室間接続ポート122にチューブ2を介して接続され、培養室13の内容液を培養室12等に移送するために用いることができる。培養室12における外部接続ポート121は、図示しないが、チューブ2を介して培養液供給容器等に接続され、培養室12に培養液を供給するためなどに用いることができる。
その他の点については、第一実施形態の複室培養容器1と同様の構成にすることができる。
【0027】
また、本実施形態の複室培養容器1aは、各培養室にそれぞれ異なる培養基材を備えることによって、様々な細胞培養を行う場合に用いることができる。例えば、次のような方法で、樹状細胞とリンパ球を培養することができる。
【0028】
[樹状細胞とリンパ球の培養]
培養室11は、その内面に特別な処理を行うことなく、リンパ球を増幅させるための増幅培養室として用い、培養室12は、その内面に抗CD3抗体をコーティングして、リンパ球を活性化させるための活性化培養室として用いる。また、培養室13は、その内面に接着系細胞を培養するための表面処理を行って、接着系細胞培養室として用いる。この接着系細胞培養室は、白血球をリンパ球と接着系細胞に分離して接着系細胞を培養するために用いられる。そして、
図2に示すように、培養室11と培養室12を接続するチューブ2上と、培養室12と培養室13を接続するチューブ2上にクリップなどの流路開閉手段を取付けて、チューブ2における流路の開閉を制御する。
【0029】
そして、培養室13に血液から分離した白血球(細胞浮遊液)と培養液を注入して、37℃で約2時間静置させる。これによって、白血球における接着系細胞は、培養室13の底面に接着する。
次に、培養室12と培養室13を接続するチューブ2における流路を開放して、培養室13から培養室12に、白血球における浮遊系細胞(リンパ球)と培養液を移送する。そして、培養室12において、リンパ球を活性化させる。
【0030】
次いで、培養室13に、100ng/mlのGM−CSF(Granulocyte Macrophage colony-stimulating Factor,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)と50ng/mlのIL−4(Interleukin-4,インターロイキン−4)(これらを樹状細胞への誘導因子と称する場合がある。)を添加した培養液(AIM-V,Life Technologies社製等)を加えて、接着系細胞を37℃、5%二酸化炭素濃度の条件下で、約5日間培養する。
このようにして接着系細胞から誘導された未熟樹状細胞に、癌抗原を提示して約2日間培養し、成熟した樹状細胞を得ることができる。
【0031】
一方、培養室12に移動したリンパ球は、約3日間程度の抗CD3抗体の刺激によって、活性化される。
その後、培養室11と培養室12を接続するチューブ2における流路を開放して、培養室12から培養室11に活性化されたリンパ球及び培養液を移送し、培養室11においてリンパ球を増幅させる。このとき、リンパ球の増幅に併せて、培養室11に培養液を追加し、約4日間程度で活性化されたTリンパ球(T細胞)を大量に得ることができる。
最終的には、これらの細胞を調製して、樹状細胞とリンパ球をそれぞれヒトに投与することができる。
【0032】
このように、本実施形態の複室培養容器1aによれば、培養室を三つ以上備えている場合でも、これらを一つの培養容器内に備えることによって、一体的に取り扱うことができるため、細胞の移し変え作業を容易に行うことができ、複雑な培養工程を簡単な操作で実施することが可能になる。
【0033】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る複室培養容器及び細胞培養方法について、
図3,及び
図4を参照して説明する。
本実施形態の複室培養容器は、その一つの辺に、チューブを用いて接続された二つ以上の室間接続部が備えられ、各培養室における室間接続部が備えられた辺と、複室培養容器における当該一つの辺との距離が、各培養室の並び順に大きく又は小さくなるように、各培養室が形成されたことを特徴とする。その他の点については、第一実施形態の複室培養容器1と同様の構成にすることができる。
【0034】
具体的には、
図3に示すように、室間接続ポート112と122が備えられた複室培養容器1bにおける辺と、培養室11における室間接続ポート112が備えられた辺との距離d1と、室間接続ポート112と122が備えられた複室培養容器1における辺と、培養室12における室間接続ポート122が備えられた辺との距離d2との差が、所定の大きさdとなるように、培養室11及び培養室12が形成されている。このd(=d2−d1)は、3mm以上とすることが好ましく、5mm〜50mmとすることがより好ましく、7mm〜20mmとすることがさらに好ましい。
これによって、複室培養容器1bを傾けるだけで、培養室12から培養室11への内容物の移送を、好適に行うことが可能となる。
【0035】
すなわち、本実施形態の複室培養容器1bを、各培養室11と12における室間接続部112と122が備えられた辺と、室間接続ポート112と122が備えられた複室培養容器1bにおける辺との距離が大きい培養室ほど上方に位置させ、かつ室間接続部112と122が備えられた複室培養容器1bにおける辺が下向きになるようにしつつ、複室培養容器1bの一つの角が最下端に位置するように複室培養容器1bを傾けて、上方に位置する培養室から下方に位置する培養室に向けて、内容物の移送を行う。
【0036】
具体的には、
図4に示すように、室間接続ポート112と122が備えられた複室培養容器1における辺と、室間接続ポートが備えられた培養室の辺との距離がより大きい培養室12を、上方に位置させ、かつ室間接続ポート112と122が備えられた複室培養容器1bにおける辺が斜め下向きになるようにしつつ、複室培養容器1bの一つの角が最下端に位置するように複室培養容器1bを傾ける。これによって、培養室12の内容物を、チューブ2を介して、培養室11に自然に移送させることが可能になる。
【0037】
一方、例えば、第一実施形態における複室培養容器1を、
図4のように傾けた場合は、培養室12から培養室11へ内容物を移送させるために十分な圧力差が得られず、培養室12内に内容物が残ってしまうという問題があった。
これに対して、本実施形態の複室培養容器1bによれば、培養室12における内容物の残存を大きく低減することが可能になっている。
【0038】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態に係る複室培養容器及び細胞培養方法について、
図5を参照して説明する。
本実施形態の複室培養容器は、各培養室を他の培養室と連通するための流路が、複室培養容器内において、フィルム材をヒートシール加工して形成されたことを特徴とする。
【0039】
具体的には、
図5に示すように、複室培養容器1cにおいて、培養室11と培養室12を連通する移送流路3が、形成されている。このため、培養室11と培養室12から、室間接続ポートが省略されている。その他の点については、第一実施形態の複室培養容器1と同様の構成にすることができる。
移送流路3は、物理的手段により開閉を制御できる。この物理的手段としては、例えば押圧部材などを用いることができ、その押込量を制御することで、移送流路3を開閉することができる。
【0040】
このような本実施形態の複室培養容器1cによれば、培養室11と培養室12をチューブ2で接続する必要がなく、また各培養室における室間接続ポートを省略することができ、より構造の簡単な複室培養容器を得ることが可能になる。また、各培養室間を接続するチューブがないため、その取り扱いが非常に簡単であり、自動培養装置に取付ける場合にも極めて容易に行うことが可能である。
【0041】
[第五実施形態]
次に、本発明の第五実施形態に係る複室培養容器及び細胞培養方法について、
図6を参照して説明する。
本実施形態の複室培養容器1dは、
図6に示すように、細胞を活性化させるための活性化培養室である培養室12と、細胞を増幅させるための増幅培養室である培養室11と、細胞をサンプリングするためのサンプリング室14と、細胞を回収するための回収室15とを備えている。
【0042】
そして、培養室12と培養室11を連通する移送流路3が形成されると共に、培養室11とサンプリング室14との間、及び培養室11と回収室15との間にも、移送流路3が、フィルム材をヒートシール加工して形成されている。
さらに、サンプリング室14と回収室15の周囲には、これらをそれぞれ容易に切り離し可能にするための、ミシン目、スリット、スコア、切欠等からなる易切断部4が設けられている。また、このような易切断部4を、各培養室を切り離すために設けても良い。
【0043】
本実施形態の複室培養容器1dは、例えば以下のようにして、リンパ球の培養などに用いることができる。
第一実施形態と同様に、培養室11を、その内面に特別な処理を行うことなく、リンパ球を増幅させるための増幅培養室として用い、培養室12を、その内面に抗CD3抗体を固相化して、リンパ球を活性化させるための活性化培養室として用いる。
また、サンプリング室14を、培養室11における培養細胞をサンプリングするために用い、回収室15を、培養室11における培養細胞の一定量を回収するために用いる。
【0044】
そして、培養室12と培養室11を連通する移送流路3を物理的手段により閉めた後、培養室12にリンパ球と培養液を注入して、リンパ球を活性化させる。また、サンプリング室14と培養室11、及び回収室15と培養室11を連通する移送流路3も物理的手段により閉めておく。
リンパ球を活性化した後、培養室12と培養室11間の移送流路3を開放して、培養室12からリンパ球と培養液を培養室11に押し出して、活性化したリンパ球を培養室11に移送させ、培養室11においてリンパ球を増幅させる。このとき、リンパ球の増幅に併せて、外部接続ポート111を介して、培養液供給容器から培養室11に必要な培養液を追加することができる。この培養液の追加は、無菌接合装置などを用いることで無菌的に行うことも可能である。また、培養液の成分を改良し、培養室11に追加培養液を予め充填しておくようにすることもできる。さらに、本実施形態の複室培養容器1dに培養液供給室を形成して、培養液供給室から培養室11に培養液を追加可能にすることもできる。
【0045】
また、培養室11において培養された細胞をサンプリングする場合には、サンプリング室14と培養室11間の移送流路3を開放して、培養室11からサンプリング室14へリンパ球と培養液を少量移送した後、サンプリング室14と培養室11間の移送流路3をヒートシール等で溶断し、サンプリング室14を易切断部4に沿って切り取って、細胞解析や検査等に用いることができる。
【0046】
さらに、培養細胞の一部を回収して、2回に分けて投与する医療方法などを行う場合には、回収室15と培養室11間の移送流路3を開放して、培養室11から回収室15へリンパ球と培養液を必要量移送した後、回収室15と培養室11間の移送流路3をヒートシール等で溶断して、回収室15を易切断部4に沿って切り取って、回収室15に収容されたリンパ球を投与などに用いることが可能である。
【0047】
このように、本実施形態の複室培養容器1dによれば、これらの作業を全て閉鎖系の複室培養容器1d内において実施できるため、無菌性を担保した状態で、細胞培養を簡便に行うことが可能となる。
また、本実施形態の複室培養容器1dは、流路が一体化された複室培養容器であるため、シールバーの設計を行うのみで、種々の室や流路を簡便に低コストで作製することが可能である。また、自動培養装置にセットする際にも、複雑なチューブの取り付けが不要になることから、作業効率が高まるだけでなく、取り付けミス等のリスクも低減することが可能になっている。
【0048】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記各実施形態を組み合わせたものにしたり、接着系細胞の移送のために、接着系細胞を培養室の内面から剥離するための酵素溶液を培養室に供給するための酵素溶液供給容器、及びその酵素の働きを阻害するための阻害剤溶液を培養室に供給するための阻害剤溶液供給容器を備えたものにしたりするなど、適宜変更することが可能である。