特許第6405700号(P6405700)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6405700-空気調和装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405700
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20181004BHJP
   F24F 11/70 20180101ALI20181004BHJP
   F24F 11/74 20180101ALI20181004BHJP
【FI】
   F25B1/00 341L
   F24F11/70
   F24F11/74
   F25B1/00 341C
   F25B1/00 341P
   F25B1/00 341R
   F25B1/00 383
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-106040(P2014-106040)
(22)【出願日】2014年5月22日
(65)【公開番号】特開2015-222136(P2015-222136A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2017年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(72)【発明者】
【氏名】丸山 佳代子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 政利
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−147038(JP,A)
【文献】 特開2012−197980(JP,A)
【文献】 実開昭55−013311(JP,U)
【文献】 特開平10−267371(JP,A)
【文献】 特開2002−340384(JP,A)
【文献】 特開2013−083425(JP,A)
【文献】 特開2013−083429(JP,A)
【文献】 特開2008−215770(JP,A)
【文献】 特開2012−167897(JP,A)
【文献】 特開平09−119693(JP,A)
【文献】 特開2004−170004(JP,A)
【文献】 特開2002−174450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F24F 11/70
F24F 11/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、室内熱交換器と、室内ファンとを有する空気調和装置であって、
前記室内熱交換器の温度を検出する室内熱交換器温度検出手段と、
外気温度を検出する外気温検出手段と、
前記圧縮機および室内ファンを制御する制御手段とを備えており、
前記制御手段は、
前記室内ファンの回転数を所定の回転数で保持する冷風防止モードと、
前記圧縮機の回転数を現在の回転数で所定時間保持する油吐出抑制モードと、を有し、
前記冷風防止モードによる運転は、前記室内熱交換器温度検出手段によって検出された前記室内熱交換器の温度が所定温度以下であることを条件として開始し、前記室内熱交換器温度検出手段によって検出された前記室内熱交換器の温度が所定温度を上回っていることを条件として解除し、
前記油吐出抑制モードによる運転は、前記冷風防止モードによる運転中であって前記室内熱交換器の温度が前記所定温度を上回っていること及び前記外気温検出手段によって検出された外気温度が所定値以下であることを条件として開始することを特徴とした空気調和装置。
【請求項2】
室内温度を検出する室温検出手段を備え、
前記油吐出抑制モードによる運転を開始する条件として、前記室内熱交換器の温度が前記所定温度を上回ったときの、前記室内熱交換器温度検出手段によって検出された室内熱交換器温度Tcと、室温検出手段によって検出された室内温度Tiとの差ΔT(=Tc−Ti)が所定値以上であることを加えた請求項1に記載の空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気調和装置に係り、特に、低外気温度における圧縮機起動時の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低外気温度(例えば、0℃以下)で空気調和装置を長時間停止していると、圧縮機内の潤滑油に冷媒が多く溶け込んだ状態となる。このような状態で圧縮機を起動させると、潤滑油が冷媒によって希釈されて粘度が低下しているため、潤滑不良となって圧縮機摺動部の故障を招く。また、起動直後は、圧縮機内の圧縮室から吐出された高温のガス冷媒は外気によって冷やされた圧縮機容器と熱交換し、圧縮機容器内で凝縮してしまう。圧縮機容器内で凝縮し潤滑油に混ざり込んだ液冷媒は、圧縮機から吐出される際に潤滑油とともに吐出されるため、圧縮機内の潤滑油量が低下してしまう。
【0003】
また、圧縮機から吐出される潤滑油の量は、圧縮機回転数の増加とともに増加する。そのため、従来は圧縮機の起動時に圧縮機の回転数を目標とする回転数まで段階的に引き上げる制御が行われている(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方、暖房運転起動時は、室内機吹出口から冷風が吹出されてユーザが肌寒く感じるのを防止するため、室内機に内蔵される室内熱交換器が所定の温度に達するまで室内ファンを低回転で運転させている(冷風防止モード)。室内熱交換器が所定の温度となったら、冷風防止モードを解除し、室内ファンの回転数を上昇させている。この時、室内ファンの回転数が上昇すると、室内熱交換器における熱交換量が増大する。暖房運転時は室内熱交換器は凝縮器として機能しており、室内熱交換器における熱交換量が増大すると凝縮液化が活発になる。室内熱交換器で凝縮液化が活発になることで、高圧側(圧縮機出口から膨張弁入口)の圧力が低下又は停滞する。
【0005】
冷媒回路における高圧側の圧力が低下若しくは停滞すると、圧縮機内の潤滑油に溶け込んでいた冷媒が急激に蒸発(オイルフォーミング)し、圧縮機内から潤滑油とともに冷媒回路へ吐出される。その結果、圧縮機内の潤滑油量が低下する。
【0006】
冷風防止の解除条件は、室内熱交換器温度が所定値以上となったときである。室内熱交換器温度が所定値以上となるタイミングと、圧縮機の回転数が上昇するタイミングが重なる場合がある。この場合、圧縮機から吐出される潤滑油の量が増大し、圧縮機内の潤滑油が規定量以下となる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−119693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、このような問題を解決するためになされたもので、低外気温度下での圧縮機の起動時において、圧縮機の回転数上昇のタイミングと冷風防止モードの解除のタイミングとをずらすことで、圧縮機から吐出される潤滑油の量を低減させる空気調和装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の空気調和装置は、圧縮機と、室内熱交換器と、室内ファンとを有する空気調和装置であって、前記室内熱交換器の温度を検出する室内熱交換器温度検出手段と、前記圧縮機および室内ファンを制御する制御手段とを備えており、前記制御手段は、前記室内ファンの回転数を所定の回転数で保持する冷風防止モードと、前記圧縮機の回転数を現在の回転数で所定時間保持する油吐出抑制モードと、を有し、前記冷風防止モードによる運転は、前記室内熱交換器温度検出手段によって検出された前記室内熱交換器の温度が所定温度以下であることを条件として開始し、前記室内熱交換器温度検出手段によって検出された前記室内熱交換器の温度が所定温度を上回っていることを条件として解除し、前記油吐出抑制モードによる運転は、前記冷風防止モードによる運転中であって前記室内熱交換器の温度が前記所定温度を上回っていることを条件として開始することを特徴としている。
【0010】
また、好ましくは、請求項1に記載の空気調和装置において、外気温度を検出する外気温検出手段を備え、前記油吐出抑制モードによる運転を開始する条件として、前記外気温検出手段によって検出された外気温度が所定値以下であることを加える。
【0011】
また、好ましくは、請求項1ないし2に記載の空気調和装置において、室内温度を検出する室温検出手段を備え、前記油吐出抑制モードによる運転を開始する条件として、前記室内熱交換器の温度が前記所定温度を上回ったときの、前記室内熱交換器温度検出手段によって検出された室内熱交換器温度Tcと、室温検出手段によって検出された室内温度Tiとの差ΔT(=Tc−Ti)が所定値以上であることを加える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧縮機の起動時において、圧縮機の回転数上昇のタイミングと冷風防止モードの解除のタイミングとをずらす制御を行うことで、圧縮機から吐出される潤滑油の量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の空気調和装置の冷凍サイクル全体を示す概略図である。
図2】本発明を実施しない場合の空気調和機の圧縮機回転数とオイルレベルと室内熱交換器温度の変化を示す図である。
図3】本実施例の空気調和装置の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明は以下の実施形態に限定されることはなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
【実施例】
【0015】
図1(A)に示すように、本実施例における空気調和機1は、屋外に設置される室外機2と、室外機2に液管4およびガス管5で接続された室内機3とを備えている。詳細には、液管4は、一端が室外機2の閉鎖弁25に、他端が室内機3の液管接続部34に接続されている。また、ガス管5は、一端が室外機2の閉鎖弁26に、他端が室内機3のガス管接続部35に接続されている。以上により、空気調和機1の冷媒回路10が構成されている。
【0016】
まずは、室外機2について説明する。室外機2は、圧縮機20と、四方弁22と、室外熱交換器23と、液管4の一端が接続された閉鎖弁25と、ガス管5の一端が接続された閉鎖弁26と、アキュムレータ21と、室外ファン24とを備えている。そして、室外ファン24を除くこれら各装置が以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路10の一部をなす室外機冷媒回路10aを構成している。
【0017】
圧縮機20は、図示しないインバータにより回転数が制御されるモータ201によって駆動されることで、運転能力を可変できる能力可変型圧縮機である。圧縮機20の冷媒吐出側は、四方弁22のポートaに吐出管61で接続されており、また、圧縮機20の冷媒吸入側は、アキュムレータ21の冷媒流出側に吸入管66で接続されている。
【0018】
四方弁22は、冷媒の流れる方向を切り換えるための弁であり、a、b、c、dの4つのポートを備えている。ポートaは、上述したように圧縮機20の冷媒吐出側に吐出管61で接続されている。ポートbは、室外熱交換器23の一方の冷媒出入口と冷媒配管62で接続されている。ポートcは、アキュムレータ21の冷媒流入側と冷媒配管65で接続されている。そして、ポートdは、閉鎖弁26と室外機ガス管64で接続されている。
【0019】
室外熱交換器23は、冷媒と、後述する室外ファン24の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気とを熱交換させるものである。室外熱交換器23の一方の冷媒出入口は、上述したように四方弁22のポートbに冷媒配管62で接続され、他方の冷媒出入口は室外機液管63で閉鎖弁25に接続されている。
【0020】
膨張弁27は、室外機液管63に設けられている。膨張弁27は電子膨張弁である。膨張弁27の開度制御の詳細な説明は、後述する。
【0021】
室外ファン24は樹脂材で形成されており、室外熱交換器23の近傍に配置されている。室外ファン24は、図示しないファンモータによって回転することで図示しない吸込口から室外機2の内部へ外気を取り込み、室外熱交換器23において冷媒と熱交換した外気を図示しない吹出口から室外機2の外部へ放出する。
【0022】
アキュムレータ21は、上述したように、冷媒流入側が四方弁22のポートcと冷媒配管65で接続され、冷媒流出側が圧縮機20の冷媒吸入側と吸入管66で接続されている。アキュムレータ21は、冷媒配管65からアキュムレータ21内部に流入した冷媒をガス冷媒と液冷媒とに分離してガス冷媒のみを圧縮機20に吸入させる。
【0023】
以上説明した構成の他に、室外機2には各種のセンサが設けられている。図1(A)に示すように、吐出管61には、圧縮機20から吐出される冷媒の温度を検出する吐出温度センサ73が設けられている。
【0024】
室外熱交換器23には、室外熱交換器23から流出、または、室外熱交換器23に流入する冷媒の温度を検知するための室外熱交換器温度センサ75が設けられている。そして、室外機2の図示しない吸込口付近には、室外機2の内部に流入する外気の温度、すなわち外気温度を検出する外気温度センサ76が備えられている。
【0025】
また、室外機2には、室外機制御手段100が備えられている。室外機制御手段100は、室外機2の図示しない電装品箱に格納されている制御基板に搭載されている。図1(B)に示すように、室外機制御手段100は、CPU110と、記憶部120と、通信部130と、検出値入力部140と、圧縮機制御部150とを備えている。
【0026】
記憶部120は、ROMやRAMで構成されており、室外機2の制御プログラムや各種センサからの検出信号に対応した検出値、圧縮機20や室外ファン24の制御状態等を記憶している。通信部130は、室内機3との通信を行うためのインターフェイスである。検出値入力部140は、室外機2の各種センサでの検出結果を取り込んでCPU110に出力する。圧縮機制御部150は、圧縮機に後述する圧縮機起動制御等を行う。
【0027】
CPU110は、前述した室外機2の各種センサでの検出結果を検出値入力部140を介して取り込む。また、CPU110は、室内機3から送信される制御信号を通信部130を介して取り込む。また、CPU110は、取り込んだ制御信号に基づいて、圧縮機20や室外ファン24の駆動制御を行う。さらには、CPU110は、取り込んだ検出結果や制御信号に基づいて、四方弁22の切り換え制御を行う。
【0028】
次に、図1(A)を用いて、室内機3について説明する。室内機3は、室内熱交換器31と、液管4の他端が接続された液管接続部34と、ガス管5の他端が接続されたガス管接続部35と、室内ファン33とを備えている。そして、室内ファン33を除くこれら各装置が以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路10の一部をなす室内機冷媒回路10bを構成している。
【0029】
室内熱交換器31は、冷媒と後述する室内ファン33により図示しない吸込口から室内機3の内部に取り込まれた室内空気とを熱交換させるものであり、一方の冷媒出入口が液管接続部34に室内機液管68で接続され、他方の冷媒出入口がガス管接続部35に室内機ガス管69で接続されている。室内熱交換器31は、室内機3が冷房運転を行う場合は蒸発器として機能し、室内機3が暖房運転を行う場合は凝縮器として機能する。尚、液管接続部34やガス管接続部35では、各冷媒配管が溶接やフレアナット等により接続されている。
【0030】
室内ファン33は樹脂材で形成されており、室内熱交換器31の近傍に配置されている。室内ファン31は、図示しないファンモータによって回転することで、図示しない吸込口から室内機3の内部に室内空気を取り込み、室内熱交換器31において冷媒と熱交換した室内空気を図示しない吹出口から室内へ吹き出す。
【0031】
以上説明した構成の他に、室内機3には各種のセンサが設けられている。室内熱交換器31には、室内熱交換器31を通過する冷媒の温度を検出する室内熱交換器温度センサ78が設けられている。そして、室内機3の図示しない吸込口付近には、室内機3の内部に流入する室内空気の温度、すなわち室内温度を検出する室内温度センサ79が備えられている。
【0032】
次に、本実施形態における空気調和機1の空調運転時の冷媒回路10における冷媒の流れや各部の動作について、図1(A)を用いて説明する。尚、以下の説明では、室内機3が暖房運転を行う場合について説明し、冷房運転を行う場合については詳細な説明を省略する。また、図1(A)における矢印は暖房運転時の冷媒の流れを示している。
【0033】
図1(A)に示すように、室内機3が暖房運転を行う場合、室外機制御手段100は、四方弁22を実線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートdとが連通するよう、また、ポートbとポートcとが連通するよう、切り換える。これにより、室外熱交換器23が蒸発器として機能するとともに、室内熱交換器31が凝縮器として機能する。
【0034】
圧縮機20から吐出された高圧の冷媒は、吐出管61を流れて四方弁22に流入し、四方弁22から室外機ガス管64を流れて閉鎖弁26を介してガス管5に流入する。ガス管5を流れた冷媒はガス管接続部35を介して室内機3の室内機ガス管69に流入する。室内機ガス管69を流れる冷媒は、室内熱交換器31に流入し、室内ファン33の回転により室内機3の内部に取り込まれた室内空気と熱交換を行って凝縮する。このように、室内熱交換器31が凝縮器として機能し、室内熱交換器31で冷媒と熱交換を行い加熱された室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることによって、室内機3が設置された室内の暖房が行われる。室内熱交換器31から流出した冷媒は室内機液管68を流れ、液管接続部34を介して液管4に流入する。
【0035】
液管4を流れて閉鎖弁25を介して室外機2に流入した冷媒は、室外機液管63に設けられた膨張弁27に流入する。膨張弁27を通過した冷媒は、減圧されて低圧の冷媒となる。膨張弁27を通過した冷媒はその後、室外熱交換器23に流入する。室外熱交換器23に流入した冷媒は、室外ファン24の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気と熱交換を行って蒸発する。室外熱交換器23から流出した冷媒は、順に冷媒配管62、四方弁22、冷媒配管65、アキュムレータ21、吸入管66を流れ、圧縮機20に吸入されて再び圧縮される。以上説明したように冷媒回路10を冷媒が循環することで、空気調和機1の暖房運転が行われる。
【0036】
なお、室内機3が冷房運転を行う場合、室外機制御手段100は、四方弁22が破線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートbとが連通するよう、また、ポートcとポートdとが連通するよう、切り換える。これにより、室外熱交換器23が凝縮器として機能するとともに、室内熱交換器31が蒸発器として機能する。
【0037】
次に、低外気温度下での圧縮機20の暖房運転起動時における従来の制御方法と、圧縮機20内における潤滑油の液面(オイルレベル)の推移について詳細に説明する。
【0038】
圧縮機20は起動時、要求された能力を発揮するため、回転数を目標となる回転数まで上昇させる。この際、冷媒回路10の急激な圧力変動の防止や、低外気温度時の油吐出抑制のため、目標とする回転数まで段階的に回転数を引き上げる圧縮機起動制御を行っている。この制御は、圧縮機20の回転数を圧縮機20が起動してからの経過時間に応じて予め定められた回転数とするものである。例えば、図2(a)のように起動してからt1(例えば100秒)はN1(例えば30rps)、t1〜t2(例えば200秒)はN2(例えば40rps)、t2〜t3(例えば300秒)はN3(例えば50rps)、t3〜t4(例えば400秒)はN4(例えば60rps)というように段階的に回転数を上昇させている。この時、実際の回転数が要求された回転数になるまでの過渡時間(ta)が生じる。
【0039】
低外気温度下での圧縮機20起動時のオイルレベルの変動を図2(b)に示す。なお、D0は圧縮機内の規定オイルレベルの下限であり、オイルレベルが規定オイルレベルD0を下回ると、圧縮機20内の摺動部に供給するための潤滑油量が不足していることになり、故障が発生するおそれがある。低外気温度下では、圧縮機20内の潤滑油に冷媒が多く溶け込んでいるため、停止時(t=0)のオイルレベルは比較的高い。起動直後、圧縮機20の圧縮室(図示しない)から吐出されたガス冷媒は、外気によって冷やされた温度の低い圧縮機20容器及び潤滑油と熱交換して凝縮する。その結果、液冷媒が圧縮機20容器内に滞留し、オイルレベルが一時的に増加する。その後、液冷媒と潤滑油とが冷媒回路10に吐出されていくため、オイルレベルは少し低下し、その後、安定する。
【0040】
一方、暖房運転を開始して圧縮機20起動後、室内熱交換器31の温度Tcが所定の温度Tcsとなるまで、室内ファン33を低回転で運転させる冷風防止モードを行っている。これは、まだ室内熱交換器31が温まっていないのにも関わらず室内ファン33を高回転で運転させると、室内機3の吹出口(図示しない)から室温に近い冷風が吹出され、ユーザが肌寒く感じてしまうためである。図2(c)に示すように、圧縮機20の起動後、室内熱交換器温度Tcは増加していき、室内熱交換器温度Tcが所定値Tcsとなったら、室内ファン33の回転数の増加を始める(冷風防止モードの解除)。
【0041】
室内ファン33の回転数が上昇すると、室内熱交換器31に送られる空気の量が増加するため、室内熱交換器31おける熱交換量が増大する。暖房運転時、室内熱交換器31は凝縮器として機能しており、室内熱交換器31における熱交換量が増大すると凝縮液化が促進される。室内熱交換器31で凝縮液化が活発になることで、高圧側(圧縮機20出口から膨張弁27入口)の圧力が低下若しくは停滞する。
【0042】
冷媒回路10における高圧側の圧力が低下若しくは停滞すると、圧縮機20内の潤滑油に溶け込んでいた冷媒が急激に蒸発(オイルフォーミング)し、圧縮機20内から潤滑油とともに冷媒回路10へ吐出される。その結果、圧縮機20内の潤滑油量が低下する。
【0043】
また、冷風防止モードを解除するタイミングt0が図2(a)に示すように、圧縮機20の回転数増加のタイミング(t2から過渡時間taが経過する間)と重なったとき、図2(b)に示すように圧縮機20から吐出される潤滑油及び液冷媒の量が増大し、圧縮機20内のオイルレベルDが規定オイルレベルD0以下となってしまう。
【0044】
したがって、冷風防止モードを解除するタイミングと、圧縮機20の回転数増加のタイミングとをずらす制御をする必要がある。以下に本発明の特徴となる制御方法について詳細に説明する。
【0045】
図3は、起動時の圧縮機20の制御方法を示すフローチャートである。STの後の数字はステップの番号を、YはYes、NはNoをそれぞれ表す。
【0046】
まず、ステップST101で暖房運転を開始し、圧縮機20の回転数がN1となるように制御する。その後、ステップST102で室内熱交換器31の温度Tcが所定の温度Tcsとなるまで、室内ファン33を低回転で運転させる冷風防止モードを行う。続いて、ステップST103でタイマによる計時を開始し、ステップST104〜105において上述した圧縮機起動制御を行う。
【0047】
圧縮機起動制御では、まず、ステップST104aでタイマの計時時間tがt1未満であるか否かを判定し、t1未満であった場合(ST104a−Y)、ステップST105aで圧縮機20の回転数がN1となるように制御する。ステップST104aでタイマの計時時間tがt1以上であった場合(ST104a−N)、ステップST104bに移行してタイマの計時時間tがt1よりも長いt2未満であるか否かを判定し、t2未満であった場合(ST104b−Y)、ステップST105bで圧縮機20の回転数がN1よりも大きいN2となるように制御する。ステップST104bでタイマの計時時間tがt2以上であった場合(ST104b−N)、ステップST104cに移行してタイマの計時時間tがt2よりも長いt3未満であるか否かを判定し、t3未満であった場合(ST104c−Y)、ステップST105cで圧縮機20の回転数がN2よりも大きいN3となるように制御する。ステップST104cでタイマの計時時間tがt3以上であった場合(ST104c−N)、ステップST104dに移行してタイマの計時時間tがt3よりも長いt4未満であるか否かを判定し、t4未満であった場合(ST104d−Y)、ステップST105dで圧縮機20の回転数がN3よりも大きいN4となるように制御する。ステップST104dでタイマの計時時間tがt4以上であった場合(ST104d−N)、ステップST105eで圧縮機20の回転数がN4よりも大きいN5となるように制御する。
【0048】
ステップST105a〜eを実行した後、ステップST106に移行し、現在冷風防止モード中であるか否かを判定する。冷風防止モード中である場合(ST106−Y)、ステップST107へ移行する。冷風防止モード中ではない場合(ST106−N)、ステップST115へ移行する。
【0049】
ステップST107では、室内熱交換器温度センサ78の検出値Tcが所定値Tcs以上であるか否かを判定する。これは、冷風防止モードの解除条件である。TcがTcs以上であった場合(ST107−Y)、ステップST108へ移行し、冷風防止モードの解除へと移る。TcがTcs未満であった場合(ST107−N)、ステップST104aへ戻り、圧縮機起動制御を継続する。
【0050】
ステップST108では、外気温度センサ76の検出値Toが所定値Tos以下であるか否かを判定する。これは、本発明の特徴点であり後述する油吐出抑制モードの第一開始条件である。外気温度Toが所定値Tos(例えば、Tos=0℃)以下だと、圧縮機20内の潤滑油へ溶け込んだ冷媒の量が多くなっているため、冷風防止モードを解除し室内ファン33の回転数を上昇させた時に高圧側の圧力が下がったときオイルレベルが大きく低下する。したがって、外気温度Toが所定値Tos以下の場合(ST108−Y)は、ステップST109の第二開始条件へと移行し、所定値Tosを上回る場合(ST108−N)は、ステップST114へと移行し、室内ファン33の回転数を増加させる(冷風防止モードの解除)。
【0051】
ステップST109では、室内温度センサ79の検出値Tiと室内熱交換器温度センサ78の検出値Tcとの差ΔT(=Tc−Ti)が所定値ΔTs以上であるか否かを判定する。これは、本発明の特徴点である後述する油吐出抑制モードの第二開始条件である。室内温度Tiと室内熱交換器温度Tcとの温度差ΔT(=Tc−Ti)が所定値ΔTs以上のとき、室内ファン33の回転数を増加させた場合、凝縮器として機能する室内熱交換器31における冷媒と空気との間の熱交換量が大きくなることで室内熱交換器31内での冷媒の凝縮液化が活発になり、高圧側の圧力が低下する。高圧側の圧力が低下すると、圧縮機20から吐出される潤滑油の量が増大する。したがって、差ΔTが所定値ΔTs以上の場合(ST109−Y)は、ステップST110の油吐出抑制モードへと移行し、所定値ΔTs未満の場合(ST109−N)は、ステップST114へと移行し、室内ファン33の回転数を増加させる(冷風防止モードの解除)。この時、所定値ΔTsは冷媒回路の高圧側の圧力低下が大きくなる程度とし、例えばΔTs=10degとする。
【0052】
ステップST110では、圧縮機20の現在の回転数を保持する油吐出抑制モードを行う。この制御によって、圧縮機20の回転数が上昇している最中(図2(a)におけるtaのような回転数変化)であった場合も、その時点の回転数で保持される。その後、ステップST111によって、室内ファン33の回転数を増加させる(冷風防止モードの解除)。これによって、圧縮機20の回転数上昇のタイミングと冷風防止モードを解除するタイミングとをずらすことができるため、圧縮機20から吐出される潤滑油の量を低減させることができる。
【0053】
その後、ステップST112において、所定時間ts経過したかを判定する。この所定時間tsは、冷風防止モードの解除に基づく高圧側の温度・圧力低下から安定するまでに必要な時間であり、例えば10〜20秒とする。所定時間ts経過した場合(ST112−Y)は、ステップST113へと移行し、油吐出抑制モード(ST110)を解除する。
【0054】
ステップST115では、圧縮機20の回転数Nが、目標回転数Nsに到達したか否かを判定する。目標回転数Nsに到達していない場合(ST115−N)は、ST104aに戻り、圧縮機起動制御(ST104〜ST105)を行う。目標回転数Nsに到達した場合は、安定時の通常の暖房運転制御を継続する。
【0055】
以上、本実施形態によれば、低外気温度下での空気調和機1の暖房運転起動時、圧縮機20の回転数上昇のタイミングと冷風防止モードを解除するタイミングとをずらすことができるため、圧縮機20から吐出される潤滑油の量を低減させることができる。
【0056】
なお、本実施例では、ステップST110において、圧縮機20の回転数を現在の回転数で保持する油吐出抑制モードを行っていたが、圧縮機20から吐出される潤滑油の量を低減させられることができれば制御方法はこの限りではなく、例えば、圧縮機20の回転数の上昇速度を下げる(図2(a)における過渡時間taが長くなるようにする)方法や、圧縮機起動制御における次の回転数までをさらに段階的に上昇させる方法などが考えられる。
【符号の説明】
【0057】
1 空気調和機
2 室外機
3 室内機
4 液管
5 ガス管
20 圧縮機
21 アキュムレータ
23 室外熱交換器
24 室外ファン
27 膨張弁
31 室内熱交換器
33 室内ファン
図1
図2
図3