(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一対の信号線を有する差動ケーブルと、当該差動ケーブルの外側に配置されて当該差動ケーブルと相互作用させる測定子と、を含み、複数のポートを備える被測定物に対して、当該被測定物の当該複数のポート数より少ないポート数を有するネットワークアナライザにて、当該差動ケーブルを評価する差動ケーブルの評価方法であって、
前記被測定物の複数のポートから、前記ネットワークアナライザのポート数以下のポートを選択して、Sパラメータを測定するステップと、
測定の確度を評価するステップと、を含み、
前記被測定物の前記複数のポートのうち、選択されなかったポートがなくなるまでポートの組み合わせを変更しつつ、前記Sパラメータを測定するステップを繰り返して当該被測定物の当該複数のポートの全てに対するSパラメータを取得するとともに、
前記Sパラメータを測定するステップの繰り返しにおいて、前記被測定物の全てのポートの番号を添え字として含む複数のSパラメータを重複して測定し、
前記測定の確度を評価するステップにおいて、重複して測定した前記Sパラメータの差が、予め定められた閾値以下である割合により、測定の確度を評価する
ことを特徴とする差動ケーブルの評価方法。
前記被測定物が前記一対の信号線の4ポートと前記測定子の1ポートである場合に、ポート数が4の前記ネットワークアナライザにより、当該被測定物のSパラメータの測定を、当該一対の信号線の4ポートを選択した前記Sパラメータを測定するステップと、当該測定子の1ポートを含めて選択した2回の当該Sパラメータを測定するステップとで行うことを特徴とする請求項1に記載の差動ケーブルの評価方法。
前記被測定物が前記一対の信号線の4ポートであって、前記差動ケーブルに信号を送信する送信部側、当該差動ケーブルから信号を受信する受信部側、当該差動ケーブルの中央部のそれぞれに設置した複数の測定子に対して、4ポートの前記ネットワークアナライザにて、当該被測定物のSパラメータを測定する場合において、
前記被測定物の4ポートを選択した前記Sパラメータを測定するステップと、前記複数の測定子のうち2つの測定子を含むように選択した2回の当該Sパラメータを測定するステップと、当該複数の測定子のうち選択されなかった測定子を含むように選択した2回の当該Sパラメータを測定するステップとで行うことを特徴とする請求項4に記載の差動ケーブルの評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
[第1の実施の形態]
(差動ケーブル10)
図1は、第1の実施の形態の差動ケーブルの評価方法が適用される差動ケーブル10を含む被測定物1(DUT:Device Under Test)を示す図である。
DUT1は、差動ケーブル10と差動ケーブル10の外側に差動ケーブル10を取り巻くように設けられた測定子の一例としての電流クランプ20とを備えている。
そして、差動ケーブル10は、一対の信号線11、12とそれを包む被覆部13とを備えている。なお、被覆部13は、信号線11、12の保護及び絶縁のために設けられたプラスティックで構成されたフィルム層であってもよく、金属の編線で構成された電磁シールド層をさらに含んでもよい。
また、電流クランプ20は、差動ケーブル10と相互作用して、外部から差動ケーブル10に入るノイズ等が差動ケーブル10に与える影響を評価する。電流クランプ20の代わりに、電極、プローブ、探針などであってもよい。
【0010】
差動ケーブル10における一対の信号線11、12の一端部は、それぞれポート(Port)1、ポート2であって、送信部2に接続されている。信号線11、12の他端部は、それぞれポート3、ポート4であって、受信部3に接続されている。すなわち、差動ケーブル10は、送信部2と受信部3との間に設けられている。そして、送信部2からポート1、ポート2に送信された差動信号は、一対の信号線11、12を伝搬し、ポート3、ポート4から受信部3に受信される。
また、電流クランプ20は、ポート5に接続され、ポート5は、ノイズ発生源4に接続されている。
すなわち、
図1に示すDUT1は、5ポート回路である。
【0011】
“ポート”という用語は、DUT1において、信号の入出力に使用される端子に対して、広く用いられている。また、“ポート”という用語は、ネットワークアナライザ(NA:Network Analizer)(後述する
図2のNA5、
図3のNA6参照)において、信号の入出力に使用される端子にも広く用いられている。
そこで、DUT1のポートとNA5のポートとを区別するため、
図1に示すように、DUT1のポート1〜5を、ポートD1〜D5と表記する。そして、これ以降の図において、DUT1のポート1〜5を、D1〜D5と表記する。NA5、NA6については、後述する。
【0012】
なお、
図1では、差動ケーブル10の左側に送信部2が、右側に受信部3が設けられているが、逆であってもよい。
【0013】
(Sパラメータの測定方法)
図2は、第1の実施の形態において、5ポートのDUT1を5ポートのNA5に接続するとした場合の接続図、目的Sマトリクスを示す図である。
図2(a)が接続図、
図2(b)が目的Sマトリクスである。
NA5は、ポート1〜5を備えている。ここで、DUT1のポートと区別するために、NA5のポート1〜5を、ポートN1〜N5と表記する。そして、これ以降の図において、NA5のポート1〜5を、N1〜N5と表記する。
【0014】
図2(a)に示すように、DUT1のポートD1〜D5は、それぞれがNA5のポートN1〜N5に接続されている。DUT1はポートD1〜D5を備えた5ポート回路であるので、5ポートを備えたNA5を用いれば、DUT1のポートD1〜D5とNA5のポートN1〜N5がそれぞれ対応して、DUT1のSマトリクスの測定が1回で行える。
そして、
図2(b)に示すように、5×5の要素(Sパラメータ)を有するSマトリクスが得られる。このSパラメータの添え字(S11の1、1など)は、DUT1のポートの番号であるが、NA5のポートの番号に一致する。
そして、
図2(b)に示すSマトリクスが測定において目的とする(求めたい)Sマトリクス(以下では、目的Sマトリクスと表記する。)である。なお、目的Sマトリクスと測定Sマトリクス(後述する
図3参照)とを区別しない場合、又は両者を含める場合にはSマトリクスと表記する。
なお、Sマトリクス及びその要素であるSパラメータは、高周波回路の評価に使用されているので、詳細な説明を省略する。
【0015】
図1に示すように、電流クランプ20を備えない差動ケーブル10は4ポートであるので、その評価は、4ポートのネットワークアナライザで足りる。よって、ポート数が4以下のネットワークアナライザが普及している。一方、ポート数が5以上のネットワークアナライザは、高価である。
よって、ここでは、
図1に示した5ポートのDUT1を、4ポートのネットワークアナライザ(後述する
図3のNA6参照)を用いて測定する。
【0016】
図3は、第1の実施の形態における5ポートのDUT1の目的Sマトリクスを4ポートのNA6で測定する場合の接続図、測定Sマトリクス、目的Sマトリクスを示す図である。
図3(a)が測定1、
図3(b)が測定2、
図3(c)が測定3である。
図3(a)、(b)、(c)において、左側(左図)に接続図、右側(右図)にSマトリクスを示している。
すなわち、NA6は、ポート数が4(ポートN1〜N4)であって、DUT1のポート数(5)より少ない。
ここでは、4ポートのNA6による5ポートのDUT1の目的Sマトリクスの測定は、測定1〜測定3の3回の測定(ステップ)で行われる。なお、4ポートのネットワークアナライザをNA6とし、5ポートのネットワークアナライザであるNA5と区別している。
【0017】
ここで、DUT1のポートD1〜D5とNA6のポートN1〜N4との接続について説明する。
DUT1のポートD1〜D5には、それぞれコネクタが設けられている。そして、NA6のポートN1〜N4にも、それぞれコネクタが設けられている。そして、一端部にDUT1のポートD1〜D5の各コネクタと接続できるコネクタを備え、他端部にNA6のポートN1〜N4の各コネクタと接続できるコネクタを備えたケーブル(接続ケーブル)が用意されている。そして、DUT1のポートD1〜D5のそれぞれのコネクタとNA6のポートN1〜N4のそれぞれのコネクタとが接続ケーブルで接続される。
なお、NA6のポートN1〜N4は4個であるので、DUT1の5個のポートD1〜D5のすべてを同時に接続することができない。よって、NA6のポートN1〜N4とDUT1の5個のポートD1〜D5との接続関係を変えながら、複数のステップ(測定1〜3)によって、DUT1のSマトリクスを測定する。
【0018】
ここでは、NA6のポートN1〜N4の各コネクタには測定ケーブルが正常に接続されていて、外さないとする。そして、DUT1のポートD1〜D5の各コネクタにおいて、接続ケーブルを外して接続を変更するとする。なお、
図3(a)、(b)、(c)において、DUT1のポートD1〜D5のいずれにも接続されていない接続ケーブルの記載を省略する。
【0019】
測定1(
図3(a))では、左図に示すように、NA6のポートN1〜N4のコネクタに接続された接続ケーブルを、DUT1のポートD1〜D4のコネクタに取り付けて、Sマトリクスを測定する。なお、DUT1のポートD5のコネクタは、NA6のいずれの接続ケーブルにも取り付けられていない。
この測定1において、4×4のSマトリクスが得られる。このSマトリクスは、目的Sマトリクスと異なっている。ここでは、4ポートのNA6によって測定されるSマトリクスを測定Sマトリクスと表記する。なお、測定SマトリクスのSパラメータの添え字(S11の1、1など)は、NA6のポートN1〜N4の番号に対応する。一方、目的SマトリクスのSパラメータの添え字(S11の1、1など)は、DUT1のポートD1〜D5の番号に対応する。
よって、
図3(a)、(b)、(c)における右図には、測定Sマトリクス及び目的Sマトリクスを表記し、測定SマトリクスのSパラメータと目的SマトリクスのSパラメータとの対応関係を示している。
【0020】
測定1では、DUT1のポートD1〜D4の番号1〜4は、NA6のポートN1〜N4の番号1〜4と一致している。よって、破線で囲って示すように、測定1による測定SマトリクスのS11〜S44は、目的Sマトリクスにおける4×4のS11〜S44に対応する。
すなわち、測定1により、目的Sマトリクスにおける一部のSパラメータが得られる。
【0021】
測定2(
図3(b))では、DUT1のポートD3、D4のコネクタから接続ケーブルを取り外す。そして、ポートD3、D4のコネクタに終端素子TR(Terminal Resitor)を取り付ける。そして、ポートD5のコネクタに、NA6のポートN3に接続された接続ケーブルを取り付ける。
この場合、3×3の測定Sマトリクスが得られる。
測定2では、DUT1のポートD1、D2の番号1、2は、NA6のポートN1、N2の番号1、2と一致している。よって、破線で囲って示すように、測定SマトリクスのS11、S12、S21、S22が、目的SマトリクスのS11、S12、S21、S22に対応する。また、DUT1のポートD5が、NA6のポートN3に接続されているので、測定Sマトリクスにおける番号3が、目的Sマトリクスの番号5に対応する。よって、一点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS13、S23が、目的SマトリクスのS15、S25にそれぞれ対応し、二点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS31、S32が、目的SマトリクスのS51、S52にそれぞれ対応する。さらに、点線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS33が、目的SマトリクスのS55に対応する。
このようにして、測定2(
図3(b))において、測定1(
図3(a))で得られなかった目的Sマトリクスの一部のSパラメータが得られる。
なお、終端素子TRは、終端抵抗とも呼ばれ、一般的なネットワークアナライザでは50Ωである。
【0022】
そして、測定3(
図3(c))では、DUT1のポートD1、D2、D5のコネクタから接続ケーブルを取り外し、ポートD3、D4のコネクタから終端素子TRを取り外す。そして、ポートD1、D2のコネクタに終端素子TRを取り付ける。さらに、DUT1のポートD3、D4のコネクタに、NA6のポートN3、N4のそれぞれのコネクタに接続された接続ケーブルを取り付け、ポートD5のコネクタに、NA6のポートN1に接続されたケーブルを取り付ける。
この場合、3×3の測定Sマトリクスが得られる。
測定3では、DUT1のポートD3、D4の番号3、4は、NA6のポートN3、N4の番号3、4と一致している。よって、破線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS33、S34、S43、S44が、目的SマトリクスのS33、S34、S43、S44にそれぞれ対応する。また、DUT1のポートD5が、NA6のポートN1に接続されているので、測定Sマトリクスにおける番号1が、目的Sマトリクスの番号5に対応する。よって、一点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS31、S41が、目的SマトリクスのS35、S45にそれぞれ対応し、二点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS13、S14が、目的SマトリクスのS53、S54にそれぞれ対応する。さらに、点線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS11が、目的SマトリクスのS55に対応する。
【0023】
以上説明したように、測定1〜測定3の3回の測定により、目的Sマトリクスの5×5のすべてのSパラメータを求める(取得する)ことができる。
【0024】
さて、5ポートのDUT1を4ポートのNA6で測定する場合、上述したように、測定1〜3において、DUT1のポートD1〜D5とNA6のポートN1〜N4との間の接続が変更される。この接続の変更は、DUT1のそれぞれのポートにおけるコネクタから接続ケーブルを取り外して、DUT1の他のポートのコネクタに取り付け直したり、DUT1のポートにおけるコネクタに終端素子TRを取り付けたりすることで行われる。
この場合、DUT1の各ポートのコネクタに対する測定ケーブルや終端素子TRの緩みや誤接続などの接続ミスによる測定ミスや測定誤差が発生する恐れがある。このため、測定された結果(測定値)の確度(精度)を判断するために、測定1〜測定3の一連の測定を複数回繰り返し、測定値にばらつきがあるか否かにより判断していた。しかし、この方法は、煩雑であるとともに、時間を要していた。
【0025】
そこで、
図3(a)、(b)、(c)に示した測定1〜測定3の一連の測定によって得られるSパラメータを用いて、得られた測定値の確度を判断することとした。
測定2(
図3(b))及び測定3(
図3(c))において、ともにS55が測定されている。測定2において、NA6のポートN3のコネクタに接続されていた接続ケーブルが、測定3では、DUT1のポートD5のコネクタから取り外され、NA6のポートN1のコネクタに接続されていた接続ケーブルがDUT1のポートD5のコネクタに取り付け直されている。よって、測定2のS55と測定3のS55とを比較することにより、測定2及び測定3におけるDUT1のポートD5のコネクタに対する接続ケーブルの接続ミスが検出できる。
【0026】
また、測定1(
図3(a))及び測定2(
図3(b))において、ともにS21が測定されている。測定1において、DUT1のポートD3、D4のコネクタは、NA6のポートN3、N4のそれぞれのコネクタに接続された接続ケーブルに取り付けられていたが、測定2では、DUT1のポートD3、D4のコネクタは、接続ケーブルが取り外され、ともに終端素子TRに取り付け直されている。また、測定1において、DUT1のポートD5は、NA6のいずれのポートにも接続されていなかったが、測定2では、NA6のポートN3に接続されている。よって、測定1のS21と測定2のS21とを比較することにより、測定2におけるDUT1のポートD5のコネクタへの測定ケーブルの接続ミス、DUT1のポートD3、D4のコネクタへの終端素子TRの接続ミスが検知できる。
【0027】
さらに、測定1(
図3(a))及び測定3(
図3(c))において、ともにS43が測定されている。測定1及び測定2において、DUT1のポートD1、D2は、NA6のポートN1、N2に接続されていたが、測定3では、測定ケーブルが取り外されてともに終端素子TRに取り付け直されている。そして、測定2において、DUT1のポートD5は、NA6のポートN3に接続されていたが、測定3では、NA6のポートN1に接続し直されている。よって、測定1のS43と測定3のS43とを比較することにより、DUT1のポートD5のコネクタへの測定ケーブルの接続ミス、DUT1のポートD1、D2のコネクタへの終端素子TRの接続ミスが検知できる。
【0028】
ここでは、S55、S21、S43を比較するとした。S55、S21、S43にはDUT1のすべてのポートD1〜D5の番号が含まれている。よって、DUT1のすべてのポートD1〜D5における接続ミスが検知できる。
なお、S55、S21、S43のように、測定1〜測定3において、重複して測定されるSパラメータから、DUT1のすべてのポートD1〜D5を含むSパラメータを選択して、互いを比較することにより測定1〜3における接続ミスが検知できる。
【0029】
図4は、接続ミスがない場合におけるSパラメータ(|S55|、|S21|、|S43|)を比較した例である。
図4(a)は|S55|、
図4(b)は|S21|、
図4(c)は|S43|である。
図4(a)、(b)、(c)において、上側の図(上図)は、|S55|、|S21|、|S43|を示している。ここでは、測定1〜測定3において重複して測定された2個のSパラメータ(|S55|、|S21|、|S43|)を重ねて示している。横軸が周波数(GHz)、縦軸が測定されたSパラメータ(|S55|、|S21|、|S43|)(dB)である。下側の図(下図)は、重複して測定された2個のSパラメータ(|S55|、|S21|、|S43|)の差を示している。横軸が周波数(GHz)、縦軸がSパラメータ(|S55|、|S21|、|S43|)の差(dB)である。なお、ここでは、周波数1MHz〜1GHzの範囲において、1061ポイント(1061個の周波数)を設定し、それぞれのポイント(周波数)におけるSパラメータを示している。
【0030】
そして、|S55|では、例えば、±1dBを予め定められた閾値とし、重複して測定された|S55|の差(差分)が±1dB以内(閾値内)にあるポイント数が90%以上であれば、接続ミスがない(OK)と判断する。
図4(a)の下図に示すように、|S55|の差が±1dB以内にあるポイント数は92.95%である。よって、接続ミスがない(OK)と判断される。
次に、|S21|では、例えば、±3dBを予め定められた閾値とし、重複して測定された|S21|の差が±3dB以内(閾値内)にあるポイント数が90%以上であれば、接続ミスがない(OK)と判断する。
図4(b)の下図に示すように、|S21|の差が±3dB以内にあるポイント数は99.50%である。よって、接続ミスがない(OK)と判断される。
さらに、|S43|では、例えば、±3dBを予め定められた閾値とし、|S43|の差が±3dB以内(閾値内)にあるポイント数が90%以上であれば、接続ミスがない(OK)と判断する。
図4(c)の下図に示すように、|S43|の差が±3dB以内にあるポイント数は99.69%である。よって、接続ミスがない(OK)と判断される。
【0031】
なお、
図4は、接続ミスがないとした場合の例である。それにも拘わらず、上記の閾値内のポイント数が100%未満になるのは、
図4(b)の上図に示すように、周波数0.4GHz付近において、|S21|が小さいため、周波数0.4GHz付近において重複して測定された|S21|の差が大きく表れるためである。
このように、重複して測定されたSパラメータの差を、予め設定した閾値及び接続ミスがない(OK)と判断する基準(閾値内のポイント数の割合(%))により、接続ミスの検出ができる。これにより、測定1〜3の一連の測定(ステップ)を繰り返すことを要しないとともに、測定値の確度(精度)が確認できる。
なお、
図4(a)、(b)、(c)におけるそれぞれの上図において、重複して測定されたSパラメータの値はほぼ重なっている。これからも、測定の確度(精度)がよいと判断できる。
【0032】
図5は、接続ミスがある場合におけるSパラメータ(|S55|、|S21|、|S43|)を比較した例である。
図5(a)は|S55|、
図5(b)は|S21|、
図5(c)は|S43|である。測定2(
図3(b))において、NA6のポートN3に接続された接続ケーブルが、DUT1のポートD5のコネクタに緩く接続されていた場合である。
図5(a)、(b)、(c)における表記及び|S55|、|S21|、|S43|のそれぞれに対する閾値及び接続ミスがあるか否かを判断する閾値内のポイント数の割合(%)は、
図4の接続ミスがない場合と同じである。
【0033】
図5(a)の下図に示すように、|S55|の差が±1dB以内にあるポイント数は、84.83%と90%未満であるので、接続ミスがある(NG)と判断される。
そして、
図5(b)の下図に示すように、|S21|の差が±3dB以内にあるポイント数は、99.81%と90%以上であるので、接続ミスがない(OK)と判断される。
さらに、
図5(c)の下図に示すように、|S43|の差が±3dB以内にあるポイント数は、99.69%と90%以上であるので、接続ミスがない(OK)と判断される。
すなわち、測定2(
図3(b))において、NA6のポートN3のコネクタからのケーブルがDUT1のポートD5のコネクタに対して緩く接続されていた場合には、ポートD5に関連する“5”を含む要素である|S55|にその影響が表れる。
このように、測定1〜測定3の一連の測定(ステップ)を繰り返すことを要せずに、DUT1のポートD5に接続ミスがあったことが検知できる。よって、測定2を再度行って測定した|S55|と、前に行った測定3の|S55|と比較すればよい。これでも、|S55|の差が閾値内のポイント数の割合(%)が予め設定された値以上とならない場合には、測定3に接続ミスがあったと分かる。よって、測定3を再度行えばよい。
図5に示した例は、測定2(
図3(b))において、NA6のポートN3のコネクタに接続された接続ケーブルがDUT1のポートD5のコネクタに緩く接続されていた場合であるので、測定2を再度行えばよいことになる。
【0034】
図6は、接続ミスがある他の場合におけるSパラメータ(|S55|、|S21|、|S43|)を比較した例である。
図6(a)は|S55|、
図6(b)は|S21|、
図6(c)は|S43|である。測定2(
図3(b))と測定3(
図3(c))とを入れ替えて行った場合を示している。
図6(a)、(b)、(c)における表記及び|S55|、|S21|、|S43|のそれぞれに対する閾値及び接続ミスがあるか否かを判断する閾値内のポイント数の割合(%)は、
図4の接続ミスがない場合と同じである。
【0035】
図6(a)の下図に示すように、|S55|の差が±1dB以内にあるポイント数は、54.24%と90%未満であるので、接続ミスがある(NG)と判断される。
そして、
図6(b)の下図に示すように、|S21|の差が±3dB以内にあるポイント数は、9.79%と90%未満であるので、接続ミスがある(NG)と判断される。
さらに、
図6(c)の下図に示すように、|S43|の差が±3dB以内にあるポイント数は、9.42%と90%未満であるので、接続ミスがある(NG)と判断される。
すなわち、|S55|、|S21|、|S43|のいずれからも接続ミスがある(NG)と判断されたことから、測定1〜測定3において、測定の順序が間違っていたと判断できる。
なお、
図6(a)、(b)、(c)におけるそれぞれの上図において、重複して測定されたSパラメータの値が大きくずれている。これからも、測定の順序が間違っていたと判断できる。
【0036】
以上説明したように、5ポートのDUT1のSマトリクスを4ポートのNA6にて測定する場合、DUT1のポートD1〜D5とNA6のポートN1〜N4との接続関係を変更しつつ、複数回の測定(ステップ)(測定1〜3)を行うことが必要になる。しかし、測定1〜3において、重複して測定されるSパラメータを比較し、予め設定した閾値及び閾値内(閾値以下)のポイント数の割合(%)から、接続ミスを検知することができる。よって、5ポートのDUT1のSマトリクスを4ポートのNA6にて測定する場合であっても、接続ミスの検知により、測定の回数が増加することを抑制しつつ、確度の高い測定値が得られる。
なお、ここではポイント数の割合を用いたが、面積の割合などを用いてもよい。
【0037】
さらに、設定された閾値内のポイント数は、測定されたSパラメータから、コンピュータにより容易に算出できる。よって、例えば、
図4、
図5、
図6の上図における2個のSパラメータを測定者が目視によって比較する場合に比べ、迅速且つ客観的に判断できる。
【0038】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、
図2(b)に示したDUT1の目的Sマトリクスを、
図3おける測定1(
図3(a))、測定2(
図3(b))、測定3(
図3(c))のそれぞれの接続図に示した接続関係によって測定した。しかし、他の接続関係を用いて行ってもよい。
第2の実施の形態では、DUT1のポートD1〜D5とNA6のポートN1〜N4とを、
図3に示した接続関係と異なる他の接続関係で、DUT1の目的Sマトリクスを測定する。
【0039】
(Sパラメータの測定方法)
図7は、第2の実施の形態における5ポートのDUTの目的Sマトリクスを4ポートのNAで測定する場合の接続図、測定Sマトリクス、目的Sマトリクスを示す図である。
図7(a)が
図3(a)の測定1、
図7(b)が
図3(b)の測定2、
図7(c)が
図3(c)の測定3に対応する。
図7(a)、(b)、(c)において、左側(左図)に接続図、右側(右図)に測定Sマトリクス及び目的Sマトリクスを示している。
目的Sマトリクスは、
図2(b)と同じである。
【0040】
図7(a)、(b)、(c)のそれぞれの接続図と、
図3(a)、(b)、(c)の接続図とを比較すると、DUT1のポートD1〜D5は同じであるが、NA6のポートN2とポートN3とが入れ替わっている。よって、
図7(a)、(b)、(c)に示すように、
図3(a)、(b)、(c)の測定Sマトリクス及び目的SマトリクスのSパラメータにおいて、添え字の“2”と“3”とを入れ替えればよい。
これ以外は、第1の実施の形態と同じであるので、説明を省略する。
このように、DUT1のポートD1〜D5とNA6のポートN1〜N4との接続関係を変更しても、目的Sマトリクスを求めることができる。
【0041】
[第3の実施の形態]
第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、
図2(a)の接続図に示したDUT1のポートD1〜D5とNA5のポートN1〜N5の接続関係を前提にして、
図2(b)の目的Sマトリクスを求めた。第3の実施の形態は、
図2(a)の接続図に示した接続関係以外の接続関係を用いて、目的Sマトリクスを求める。
【0042】
(Sパラメータの測定方法)
図8は、第3の実施の形態において、5ポートのDUT1を5ポートのNA5に接続したとした場合の接続図、目的Sマトリクスを示す図である。
図8(a)が接続図、
図8(b)が目的Sマトリクスである。
図2(a)と
図8(a)とを比較すると、DUT1のポートD1〜D5において、ポートD2及びポートD3が入れ替わっている。しかし、DUT1のポートD1〜D5とNA5のポートN1〜N5との接続は、同じ番号のポート間で接続されている。よって、
図8(b)に示す目的SマトリクスのSパラメータの添え字(S12の“1”、“2”)は、DUT1のポートD1〜D5に対応し、NA5のポートN1〜N5にも一致する。
【0043】
図9は、第3の実施の形態における5ポートのDUT1の目的Sマトリクスを4ポートのNA6で測定する場合の接続図、測定Sマトリクス、目的Sマトリクスを示す図である。
図9(a)が
図3(a)の測定1、
図9(b)が
図3(b)の測定2、
図9(c)が
図3(c)の測定3に対応する。
図9(a)、(b)、(c)において、左側(左図)に接続図、右側(右図)に測定Sマトリクス及び目的Sマトリクスを示す。
【0044】
測定1(
図9(a))では、DUT1のポートD1〜D4がNA6のポートN1〜N4にそれぞれ接続されている。これにより、右図に示す4×4の測定Sマトリクスが得られる。破線で囲んで示すように、測定SマトリクスにおけるS11〜S44は、目的SマトリクスのS11〜S44に対応する。
【0045】
測定2(
図9(b))では、DUT1のポートD1、D3は、NA6のポートN1、N3に接続され、ポートD2、D4は、終端素子TRに接続され、ポートD5がNA6のポートN2に接続されている。これにより、右図に示す3×3の測定Sマトリクスが得られる。破線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS11、S13、S31、S33が、目的SマトリクスのS11、S13、S31、S33に対応する。一点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS21、S23が、目的SマトリクスのS51、S53にそれぞれ対応する。二点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS12、S32が、目的SマトリクスのS15、S35にそれぞれ対応する。点線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS22が、目的SマトリクスのS55に対応する。
【0046】
そして、測定3(
図9(c))では、DUT1のポートD1、D3は、終端素子TRに接続され、DUT1のポートD2、D4は、NA6のポートN2、N4に接続され、ポートD5がNA6のポートN1に接続されている。これにより、右図に示す3×3の測定Sマトリクスが得られる。破線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS22、S24、S42、S44が、目的SマトリクスのS22、S24、S42、S44にそれぞれ対応する。一点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS21、S41が、目的SマトリクスのS25、S45にそれぞれ対応する。二点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS12、S14が、目的SマトリクスのS52、S54にそれぞれ対応する。点線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS11が、目的SマトリクスのS55に対応する。
【0047】
第3の実施の形態に示したように、DUT1のポートD1〜D5とNA6のポートN1〜N4との接続関係を設定しても、測定1〜3の3回の測定(ステップ)により、DUT1のポートD1〜D5に対する目的Sマトリクスを得ることができる。
なお、DUT1のポートD1〜D5とNA6のポートN1〜N4との接続関係を、第1の実施の形態から第3の実施の形態に示した以外に設定してもよい。
そして、第1の実施の形態において説明したように、測定1〜測定3において、重複して測定されるSパラメータを比較することにより、接続ミスを検知することができる。よって、5ポートのDUT1のSマトリクスを4ポートのNA6にて測定する場合であっても、接続ミスの検知により、測定の回数が増加することを抑制しつつ、確度の高い測定値を得ることができる。
【0048】
[第4の実施の形態]
第1の実施の形態から第3の実施の形態では、
図1に示したように、電流クランプ20は、差動ケーブル10に対して、予め定められた一か所に設定されていた。
しかし、差動ケーブル10は、ノイズが加えられる位置(電流クランプ20の位置)によって、特性が変わることが考えられる。
【0049】
図10は、差動ケーブル10に対して電流クランプ20を異なる位置に設けた場合のDUT1を示す図である。
図10(a)は、電流クランプ20を設ける位置を示す図、
図10(b)は、電流クランプ20を送信部2に近い位置(差動ケーブル10の左側、図では#Lと表記する。)に設けた場合と電流クランプ20を受信部3に近い位置(差動ケーブル10の右側、図では#Rと表記する。)に設けた場合を示す図である。
ここでは、
図10(a)に示すように、電流クランプ20を差動ケーブル10の左側(送信部側)及び右側(受信部側)に配置した場合に加え、電流クランプ20を差動ケーブル10において中央の位置(中央部、図では#Cと表記する。)に設けた場合を考える。
ここでは、電流クランプ20を、差動ケーブル10の左側に設けた場合を電流クランプ20L、右側に設けた場合を電流クランプ20R、中央部に設けた場合を電流クランプ20Cと表記する。そして、電流クランプ20Lに対してポートD5
L、電流クランプ20Rに対してポートD5
R、電流クランプ20Cに対してポートD5
Cが設けられているとする。
【0050】
なお、
図10(a)では、電流クランプ20L、20R、20Cを、個別に設けているが、一つの電流クランプ20を上記の位置(#L、#C、#R)に移動させて用いてもよい。個別に設ける場合と、1個の電流クランプ20を移動させる場合との違いについては、後述する。
【0051】
まず、差動ケーブル10が、
図10(a)の紙面において左右対称である場合、すなわち、差動ケーブル10が、送信部2と受信部3とを入れ替えても同じ特性を示す場合を説明する。
この場合、
図10(b)の左側の図に示す電流クランプ20Lに対して得られる目的Sマトリクスと、
図10(b)の右側の図に示す電流クランプ20Rに対して得られる目的Sマトリクスとは同じになる。
【0052】
よって、差動ケーブル10に対して電流クランプ20の位置による影響を調べるために求める目的Sマトリクスは、電流クランプ20L又は電流クランプ20Rに対して測定した目的Sマトリクス(L又はR)と、電流クランプ20Cに対して測定した目的Sマトリクス(C)となる。
【0053】
次に、差動ケーブル10が、
図10(a)の紙面において左右対称でない場合、すなわち、送信部2と受信部3とを入れ替えると異なる特性となる場合を説明する。
図11は、差動ケーブル10に対して電流クランプ20を異なる位置に設けた他の場合のDUT1を示す図である。
図11(a)は、電流クランプ20を設ける位置を示す図、
図11(b)は、電流クランプ20を送信部2に近い位置(差動ケーブル10の左側、#L)に設けた場合と電流クランプ20を受信部3に近い位置(差動ケーブル10の右側、#R)に設けた場合を示す図である。
ここでも、
図11(a)に示すように、電流クランプ20を差動ケーブル10の左側及び右側に配置した場合に加え、電流クランプ20を差動ケーブル10において中央の位置(中央部、#C)に設けた場合を考える。
【0054】
図11では、差動ケーブル10の送信部2側に、フィルタ14が設けられている。フィルタ14は、例えば、信号線11、12と電気的に結合し、信号線11、12を伝送する信号の同相成分をキャンセルし、差動成分を透過する。
この場合、
図11(b)の左側の図に示す電流クランプ20Lに対する目的Sマトリクス(L)と、右側の図に示す電流クランプ20Rに対する目的Sマトリクス(R)とは異なる。
【0055】
よって、差動ケーブル10が、フィルタ14などを含むことにより、
図11(a)の紙面において左右対称でない場合には、電流クランプ20Lに対する目的Sマトリクス(L)、電流クランプ20Rに対する目的Sマトリクス(R)、電流クランプ20Cに対する目的Sマトリクス(C)を測定することが必要になる。
【0056】
(Sパラメータの測定方法)
図12は、差動ケーブル10が左右対称でない場合において、5ポートのNA5により目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)を測定するとした場合の接続図及び目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)を示す図である。
図12(a)は、目的Sマトリクス(L)を測定する場合、
図12(b)は、目的Sマトリクス(C)を測定する場合、
図12(c)は、目的Sマトリクス(R)を測定する場合である。
図12(a)に示す目的Sマトリクス(L)を測定する場合は、電流クランプ20Lの場合であって、DUT1のポートD5
Lに対して、目的Sマトリクス(L)が測定される。なお、ポートに“L”を付記したので、目的Sマトリクス(L)のSパラメータにおける添え字を“5
L”と表記している。
図12(b)に示す目的Sマトリクス(C)を測定する場合は、電流クランプ20Cの場合であって、DUT1のポートD5
Cに対して、目的Sマトリクス(C)が測定される。なお、ポートに“C”を付記したので、目的Sマトリクス(C)のSパラメータにおける添え字を“5
C”と表記している。
図12(c)に示す目的Sマトリクス(R)を測定する場合は、電流クランプ20Rの場合であって、DUT1のポートD5
Rに対して、目的Sマトリクス(R)が測定される。なお、ポートに“R”を付記したので、目的Sマトリクス(R)のSパラメータにおける添え字を“5
R”と表記している。
【0057】
上記のように、5ポートのDUT1を5ポートのNA5で目的Sマトリクスを測定すれば、測定の回数は、目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)をそれぞれ測定する3回となる。
しかし、第1の実施の形態で説明したように、5ポートのDUT1に対して4ポートのNA5で目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)を測定する場合、目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)のそれぞれに対して、第1の実施の形態で説明した測定1〜3を行うことになるため、9回の測定が必要になることになる。
しかし、
図3(a)に示した測定1は、DUT1のポートD1、D2、D3、D4に対して行なわれる。すなわち、目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)は、それぞれDUT1のポートD5
L、D5
C、D5
Rに対する測定により求められるが、測定1では、ポートD5
L、D5
C、D5
Rと無関係である。よって、測定1は、目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)のいずれか1つの測定において行えばよく、他の測定では省略できる。よって、5ポートのDUT1の目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)を4ポートのNA5で求める場合、7回の測定を行えばよい。
【0058】
図13は、5ポートのDUT1の目的Sマトリクス(L)を4ポートのNA5で測定する場合における接続図、測定Sマトリクス、目的Sマトリクス(L)を示す図である。
図13(a)が
図3(a)の測定1、
図13(b)が
図3(b)の測定2、
図13(c)が
図3(c)の測定3に対応する。そして、
図13(a)、(b)、(c)において、左側に接続図を、右側に対応する測定Sマトリクス及び目的Sマトリクス(L)を示している。
【0059】
図13(a)の接続図に示すように、測定1では、DUT1のポートD5
L(ポートD5
C、D5
Rでも同じ)は、NA6のポートN1、N2、N3のいずれにも接続されない。よって、測定される測定Sマトリクスは、目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)に共通である。よって、目的Sマトリクス(L、C、R)と表記し、目的SマトリクスのSパラメータの添え字を“5
x”と表記している。
なお、測定SマトリクスのSパラメータと、目的Sマトリクス(L)(目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)でも同じ)のSパラメータとの対応は、
図3(a)に示した第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0060】
図13(b)に示す測定2は、
図3(b)に示した第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
また、
図13(c)に示す測定3は、
図3(c)に示した第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
なお、
図13(b)、13(c)では、目的Sマトリクス(L)におけるSパラメータの添え字“5”を“5
L”としている。
【0061】
図14は、5ポートのDUT1の目的Sマトリクス(C)を4ポートのNA5で測定する場合における接続図、測定Sマトリクス、目的Sマトリクス(C)を示す図である。
図14(a)が
図3(b)の測定2、
図14(b)が
図3(c)の測定3に対応する。なお、前述したように、測定1は省略できる。そして、
図14(a)、(b)においても、左側に接続図を、右側に対応する測定Sマトリクス及び目的Sマトリクス(C)を示している。
【0062】
測定SマトリクスのSパラメータと目的Sマトリクス(C)のSパラメータとの対応は、
図3(b)、(c)に示したと同様であるので説明を省略する。なお、
図14(b)、14(c)では、目的Sマトリクス(C)におけるSパラメータの添え字“5”を“5
C”としている。
【0063】
図15は、5ポートのDUT1の目的Sマトリクス(R)を4ポートのNA5で測定する場合における接続図、測定Sマトリクス、目的Sマトリクス(R)を示す図である。
図15(a)が
図3(b)の測定2、
図15(b)が
図3(c)の測定3に対応する。なお、前述したように、測定1は省略できる。そして、
図15(a)、(b)においても、左側に接続図を、右側に対応する測定Sマトリクス及び目的Sマトリクス(R)を示している。
【0064】
測定SマトリクスのSパラメータと目的Sマトリクス(R)のSパラメータとの対応は、
図3(b)、(c)に示したと同様であるので説明を省略する。なお、
図15(a)、15(b)では、目的SマトリクスにおけるSパラメータの添え字“5”を“5
R”としている。
【0065】
上記したように、差動ケーブル10が送信部2側と受信部3側とで対称でない場合には、差動ケーブル10に対して電流クランプ20の位置を異ならせて、目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)を求めることが必要である。このとき、DUT1が5ポート回路となるため、4ポートのNA5で目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)を測定するためには、複数回の測定が必要になる。
上述したように、7回の測定により、目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)が求められる。
なお、
図13、14、15に示したように、電流クランプ20L、電流クランプ20C、電流クランプ20R毎に測定を行うので、1個の電流クランプ20を、差動ケーブル10に対する位置を移動させて測定を行うことができる。
【0066】
[第5の実施の形態]
第4の実施の形態では、7回の測定により、電流クランプ20L、電流クランプ20C、電流クランプ20Rのそれぞれに対して、目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)を求めた。しかし、
図13(b)、(c)、
図14(a)、(b)、
図15(a)、(b)では、NA6において、接続されていないポートが存在する。
そこで、第5の実施の形態では、複数の電流クランプ20をNA6の接続されていなかったポートに接続することで、測定の回数を減らしている。
この場合、電流クランプ20L、20C、20Rのうち、同時に接続される少なくとも2個が必要となる。
【0067】
(Sパラメータの測定方法)
図16は、5ポートのDUT1の目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)を4ポートのNA6で測定する場合において、
図3(a)の測定1に対応する接続図、測定Sマトリクス、目的Sマトリクスを示す図である。
図16において、左側に接続図を、右側に対応する測定Sマトリクス及び目的Sマトリクスを示している。測定1は、目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)に共通である。よって、目的Sマトリクス(L、C、R)と表記し、目的SマトリクスのSパラメータの添え字を“5
x”と表記している。
【0068】
第4の実施の形態で説明したように、測定1では、DUT1のポートD1〜D4が、NA6のポートN1〜N4に接続されている。すなわち、ポートD5
L、D5
C、D5
Rと無関係である。
なお、この測定1は、第4の実施の形態において、
図13(a)と同じであるので、説明を省略する。
【0069】
図17は、5ポートのDUT1の目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(R)を4ポートのNA6で測定する場合において、
図3(b)、(c)の測定2及び測定3に対応する接続図、測定Sマトリクス、目的Sマトリクスを示す図である。
図17(a)が
図3(b)の測定2、
図17(b)が
図3(c)の測定3に対応する。なお、測定1は、省略されている。
図17(a)、(b)において、左側に接続図を、右側に対応する測定Sマトリクス及び目的Sマトリクスを示している。
【0070】
図17(a)の接続図に示すように、測定2では、DUT1のポートD1、D2がNA6のポートN1、N2に接続され、ポートD3、D4が終端素子TRに接続されている。そして、DUT1のポートD5
LがNA6のポートN3に接続され、DUT1のポートD5
RがNA5のポートN4に接続されている。
この測定2において、4×4の測定Sマトリクスが得られる。破線で囲って示すように、測定SマトリクスのS11、S12、S21、S22が、目的Sマトリクス(L)及び目的Sマトリクス(R)のS11、S12、S21、S22に対応する。
一点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS13、S23が、目的Sマトリクス(L)のS15
L、S25
Lにそれぞれ対応する。また、測定SマトリクスのS14、S24が、目的Sマトリクス(R)のS15
R、S25
Rにそれぞれ対応する。
二点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS31、S32が、目的Sマトリクス(L)のS5
L1、S5
L2にそれぞれ対応する。また、測定SマトリクスのS41、S42が、目的Sマトリクス(R)のS5
R1、S5
R2にそれぞれ対応する。
点線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS33が、目的Sマトリクス(L)のS5
L5
Lに対応する。また、測定SマトリクスのS44が、目的Sマトリクス(R)のS5
R5
Rに対応する。
【0071】
図17(b)の接続図に示すように、測定3では、DUT1のポートD1、D2が終端素子TRに接続され、ポートD3、D4がNA6のポートN3、N4に接続されている。そして、DUT1のポートD5
LがNA6のポートN1に接続され、DUT1のポートD5
RがNA6のポートN2に接続されている。
この測定3において、4×4の測定Sマトリクスが得られる。破線で囲って示すように、測定SマトリクスのS33、S34、S43、S44が、目的Sマトリクス(L)及び目的Sマトリクス(R)のS33、S34、S43、S44に対応する。
一点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS13、S14が、目的Sマトリクス(L)のS5
L3、S5
L4にそれぞれ対応する。また、測定SマトリクスのS23、S24が、目的Sマトリクス(R)のS5
R3、S5
R4にそれぞれ対応する。
二点鎖線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS31、S41が、目的Sマトリクス(L)のS35
L、S45
Lにそれぞれ対応する。また、測定SマトリクスのS32、S42が、目的Sマトリクス(R)のS35
R、S45
Rにそれぞれ対応する。
点線で囲んで示すように、測定SマトリクスのS11が、目的Sマトリクス(L)のS5
L5
Lに対応する。また、測定SマトリクスのS22が、目的Sマトリクス(R)のS5
R5
Rに対応する。
このように、DUT1のポートD5
L、D5
Rを同時にNA6のポートに接続し、測定2、測定3を行うことで、目的Sマトリクス(L)及び目的Sマトリクス(R)を同時に求めることができる。
【0072】
図18は、5ポートのDUT1の目的Sマトリクス(C)を4ポートのNA6で測定する場合における接続図、測定Sマトリクス、目的Sマトリクス(C)を示す図である。
図18(a)が
図3(b)の測定2、
図18(b)が
図3(c)の測定3に対応する。なお、前述したように、測定1は省略できる。そして、
図18は、
図14と同じである。よって、説明を省略する。
【0073】
以上説明したように、第5の実施の形態では、目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)を求める測定の回数は、共通に適用できる測定1、目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(R)に対する測定2、測定3、測定Sマトリクス(C)に対する測定2、測定3の5回となる。
すなわち、DUT1のポートD5
L、D5
C、D5
Rのうちの2個を同時にNA6のポートに接続してSマトリクスを測定することにより、測定の回数を抑制することができる。
【0074】
(差動ケーブル10の評価例)
次に、上記の第4の実施の形態及び第5の実施の形態で説明した測定方法を適用して、2種類の差動ケーブル10(ケーブルA、ケーブルB)を評価した一例を説明する。
ここでは、差動ケーブル10(ケーブルA、ケーブルB)に対して測定された目的Sマトリクス(L)、目的Sマトリクス(C)、目的Sマトリクス(R)におけるS51とS53とを評価した。
S51は、DUT1のポートD1からポートD5(ポートD5
L、D5
C、D5
R)への伝達特性を示すSパラメータである。すなわち、送信部2側における差動ケーブル10の特性が評価できる。
一方、S53は、DUT1のポートD3からポートD5(ポートD5
L、D5
C、D5
R)への伝達特性を示すSパラメータである。すなわち、受信部3側における差動ケーブル10の特性が評価できる。
【0075】
図19は、ケーブルAにおけるS51及びS53を示した図である。
図19(a)はS51を、
図19(b)はS53を示している。横軸は、周波数(GHz)、縦軸は
図19(a)が|S51|(dB)、
図19(b)が|S53|(dB)である。なお、
図19(a)、(b)において示すS51及びS53は、ケーブルAに対して、電流クランプ20が左側(電流クランプ20L)、中央部(電流クランプ20C)、右側(電流クランプ20R)に配置された場合における実測値と近似直線とを示している。
なお、S51及びS53は、値が小さいほど(絶対値が大きいほど)、DUT1のポートD1、D3がポートD5の影響を受けにくいことを示す。
【0076】
送信部2側の特性を示すS51は、
図19(a)に示すように、電流クランプ20がケーブルAの中央部に配置された場合に、近似直線の傾きと平均値とが最も大きく、電流クランプ20が右側に配置された場合に、近似直線の傾きと平均値とが最も小さい。
一方、受信部3側の特性を示すS53は、
図19(b)に示すように、電流クランプ20が左側に配置された場合に、近似直線の傾きと平均値とが最も大きく、中央部に配置された場合に、近似直線の傾きと平均値とが最も小さい。
【0077】
図20は、ケーブルBにおけるS51及びS53を示した図である。
図20(a)はS51を、
図20(b)はS53を示している。横軸は、周波数(GHz)、縦軸は
図20(a)が|S51|(dB)、
図20(b)が|S53|(dB)である。なお、
図20(a)、(b)において示すS51及びS53は、ケーブルBに対して、電流クランプ20が左側(電流クランプ20L)、中央部(電流クランプ20C)、右側(電流クランプ20R)に配置された場合における実測値と平均値とを示している。
【0078】
送信部2側の特性を示すS51は、
図20(a)に示すように、電流クランプ20がケーブルBの中央部に配置された場合に、近似直線の傾きと平均値とが最も大きく、電流クランプ20がケーブルBの左側に配置された場合に、近似直線の傾きと平均値とが最も小さい。
一方、受信部3側の特性を示すS53は、
図20(b)に示すように、電流クランプ20がケーブルBの右側に配置された場合に、近似直線の傾きと平均値とが最も大きく、電流クランプ20が左側に配置された場合に、近似直線の傾きと平均値とが最も小さい。
表1は、ケーブルA及びケーブルBに対するS51及びS53の平均値である。数値が最も大きい欄を二重線で囲っている。
【0080】
表1に示すように、差動ケーブル10の特性は、差動ケーブル10の種類(ケーブルA、ケーブルB)によって異なるとともに、電流クランプ20の位置(電流クランプ20L、20C、20R)によっても異なることが分かる。
すなわち、差動ケーブル10は、
図1に示した差動ケーブル10の送信部2側のポートD1、D2と受信部3側のポートD3、D4との関係を求めるのみでは、評価が不十分であることが分かる。差動ケーブル10は、外部から入るノイズなどの影響を含めて評価することが必要である。
このため、差動ケーブル10を含むDUT1は、4ポート回路から少なくとも5ポート回路となる。このとき、前述した測定方法を使用することにより、4ポートのネットワークアナライザを用いても、測定の回数を抑制して、より効率よくSマトリクス(目的Sマトリクス)を求めることができる。
【0081】
なお、上記においては、差動ケーブル10としたが、回路基板上に設けられた配線などにも適用できる。