(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0016】
図1(a)は、本発明の一実施の形態に係る打撃パッドの模式的断面図であり、非打撃状態を示している。本発明の打撃パッドは電子打楽器への適用が想定されるが、それに限られず、例えば練習専用の打撃パッドとして構成されてもよい。
【0017】
この打撃パッド10は、パッド部11、接続部12、リム部13及びケース15を有する。ケース15は、床面に載置されるか、または床面に対して不図示のスタンドによって支持される。パッド部11は軟質部19及び硬質部材14を有する。軟質部19には、鉄板等の硬質部材14が心材として内包される。軟質部19は硬質部材14より軟質であり、接続部12及びリム部13と共に、弾性を有するゴム材等の軟質材で一体に形成される。硬質部材14は、パッド部11の成形時に軟質部19に組み付けてもよいが、事後的に嵌め込み等によって内装してもよい。
【0018】
パッド部11の裏面にはピエゾ素子等で構成される打撃センサ17が配設される。打撃センサ17は、パッド部11の振動から打撃を検出する。
【0019】
本発明の特徴として、自身の弾性変形によって、支持部となるケース15とパッド部11との間の振動伝達を抑制する「振動抑制部」が設けられる。この振動抑制部は、パッド部11の軟質部19と同じ素材で軟質部19と一体に形成される。本実施の形態では、接続部12が振動抑制部として機能する。
【0020】
まず、接続部12は、パッド部11の周縁部とリム部13とを接続する。パッド部11の平面視形状は問わないが、例えば円形であるとすると、接続部12やリム部13は環状となる。リム部13はケース15に嵌め込み等で固定される。支持部であるケース15にリム部13が取り付けられることで、パッド部11が接続部12を介してケース15に支持される。接続部12は薄肉に形成され、予め(非打撃状態において)、スピーカのダンパのごとく波状に形成されている。
【0021】
図1(b)は、打撃状態における接続部12付近の模式図である。
【0022】
パッド部11の表面である打撃面11aがスティック等の打撃部材で打撃される。打撃部材による打撃方向は、打撃面11aに垂直な方向であり、打撃部材により押される方向である。
【0023】
接続部12はそれ自身で弾性を有するので、パッド部11の打撃時には自身が弾性変形することによって、パッド部11の全体が打撃方向に沈むのを許容する。本実施の形態では、パッド部11が打撃されて打撃方向に変位する行程において接続部12には、伸長及び/又は曲げを主とする弾性変形が生じる(
図1(b))。打撃されて沈んだパッド部11が元の位置に復帰する際に変位する方向を、打撃方向の反対側の方向と称する。
【0024】
本実施の形態の構成では、打撃時に主として接続部12が弾性変形してパッド部11が変位する。従って、従来の打撃パッドと比べると、接続部12の変形という局部的な変形によって、パッド部11とケース15との間の振動伝達が効果的に抑制され、打感が軟らかくなると共に衝撃音も小さくなる。
【0025】
また、接続部12が、パッド部11の軟質部19と同じ素材で軟質部19と一体に形成されるので、部品点数が削減されると共に、組み付け等の製造工数が削減される。それだけでなく、仮に、接続部12がパッド部11とは別部品であったとすると、製品設計時に打感の調整を行う際に、打面とインシュレータである接続部12の硬度を各々適切に設定し、両者のバランスをとる必要があり、手間がかかる。これに対し、同一材料により両者を一体成形できるため、両者が同じ硬度となり、両者のバランスを保ったまま打感を調整するのが容易となる。従って、打感調整の設計工数が削減される。工数削減はコスト低減に繋がる。
【0026】
よって、本実施の形態によれば、打感と静音性を向上させると共に、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0027】
(変形例)
振動抑制部を、パッド部11の軟質部19と同じ素材で軟質部19と一体に形成する構成は、
図1(a)、(b)に示した以外にも各種考えられる。以下、
図1(c)〜(f)、
図2、
図3で変形例を示す。なお、これらの変形例においては打撃センサ17の図示を省略している。
【0028】
図1(c)、(d)は、第1の変形例に係る打撃パッド10の非打撃状態における模式的断面図、打撃状態における振動抑制部付近の模式図である。
【0029】
この第1の変形例では、パッド部11の軟質部19の裏面側に、基部11bが軟質部19と一体に、打撃方向に複数突設形成される。各々の基部11bに、取り付け部21と接続部12とが一体に形成されている。取り付け部21は鉤型あるいは矢印型になっている。
【0030】
ケース15に形成された貫通穴に、取り付け部21の、断面が大きい先端部を挿通して係合させると、取り付け部21の先端部の弾性的な係合と接続部12の弾性的圧縮とによって、接続部12は圧縮状態で、打撃方向における先端がケース15に対して当接する。取り付け部21の先端部が抜け止めとなって、パッド部11がケース15に対して取り付けられる。
【0031】
この構成では、取り付け部21がケース15に弾性的に係合することで接続部12はケース15に常時接触するので、接続部12の振動抑制の機能を安定して発揮させることができる。なお、接続部12の先端はケース15に対して固着されてもよい。
【0032】
パッド部11が打撃されて打撃方向に変位する行程において、接続部12には、圧縮を主とする弾性変形が生じる(
図1(d))。接続部12の変形によって、パッド部11とケース15との間の振動伝達が抑制される。また、接続部12は、パッド部11の軟質部19と同じ素材で軟質部19と一体に形成される。従って、打感と静音性を向上させると共に、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0033】
図1(e)、(f)は、第2の変形例に係る打撃パッド10の非打撃状態における模式的断面図、打撃状態における振動抑制部付近の模式図である。
【0034】
この第2の変形例では、リム部13と取り付け部22とが振動抑制部である接続部12で接続される。従って、取り付け部22、接続部12及びリム部13が、パッド部11の軟質部19と同じ素材で軟質部19と一体に形成される。取り付け部22は、嵌め込み等によってケース15に固定される。
【0035】
パッド部11が打撃されて打撃方向に変位する行程において、接続部12には、圧縮を主とする弾性変形が生じる(
図1(f)))。接続部12の弾性変形によって、パッド部11の軟質部19とリム部13とがほぼ一体で打撃方向に沿って変位し、パッド部11とケース15との間の振動伝達が抑制される。従って、打感と静音性を向上させると共に、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0036】
図2(a)、(b)は、第3の変形例に係る打撃パッド10の非打撃状態における模式的断面図、打撃状態における振動抑制部付近の模式図である。
図2(c)は、第4の変形例に係る打撃パッド10の非打撃状態における模式的断面図である。
【0037】
第3、第4の変形例では、パッド部11を取り付け部に対して振動抑制部で吊り下げる形態で支持させる。
【0038】
まず第3の変形例(
図2(a))では、
図1(a)の構成に比し、接続部12の形状や接続位置が異なり、接続部12は、縦断面視でU字状部分を有する。パッド部11が打撃されて打撃方向に変位する行程において、接続部12には、伸長及び/又は曲げを主とする弾性変形が生じる(
図2(b))。パッド部11が吊り下げ形状で支持されているため、接続部12には常にある程度の引っ張り力が働いているが、打撃により、接続部12がさらに伸びて打撃力を吸収する。打感が軟らかくなり、打撃音も小さくなる。
【0039】
第4の変形例(
図2(c))では、パッド部11の軟質部19の裏面側に、基部11bが一体に打撃方向に突設形成される。この基部11bと取り付け部23とが接続部12で接続され、これらが軟質部19と同じ素材で一体に形成されている。取り付け部21は先端部に鉤型を有すると共に、先端部の手前にフランジ部を有する。ケース15に形成された貫通穴に先端部を挿通して係合させると、取り付け部21の先端部とフランジ部とでケース15を挟持する形となって、パッド部11がケース15に対して取り付けられる。
【0040】
この第4の変形例でも、第3の変形例と同様に、接続部12には常にある程度の引っ張り力が働いており、パッド部11が打撃されて打撃方向に変位する行程において、接続部12には主に、さらなる伸長及び曲げによる弾性変形が生じる。
【0041】
従って、第3、第4の変形例によっても、打感と静音性を向上させると共に、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0042】
図2(d)、(e)は、第5の変形例に係る打撃パッド10の非打撃状態における模式的断面図、打撃状態における振動抑制部付近の模式図である。
図2(f)は、第6の変形例に係る打撃パッド10の非打撃状態における模式的断面図である。
【0043】
第5、第6の変形例では、パッド部11を取り付け部に対して振動抑制部で持ち上げるような形態で支持させる。
図1(a)の構成に比し、接続部12の形状や接続位置が異なっている。非打撃状態において、打撃方向における、パッド部11に対する接続部12の接続位置の方が、リム部13に対する接続部12の接続位置よりも、打撃方向の反対側寄りの位置とされている。
【0044】
持ち上げる形にパッド部11が支持されるので、打撃によるパッド部11の打撃方向への変位行程において、接続部12には、当初は曲げ及び/又は圧縮を主とする弾性変形が生じる。中打時や強打時のように、打撃方向へのパッド部11の変位行程において接続部12に伸長を主とする弾性変形が生じる場合には、それが生じるよりも前に曲げ及び/又は圧縮を主とする弾性変形が生じる。これにより、打撃ストロークを十分に大きく確保することができる。従って、打感と静音性が向上する。
【0045】
特に第5の変形例(
図2(d))では、接続部12は、非打撃状態において、縦断面視で打撃方向の反対側に凸となるようドーム状に湾曲している。打撃されたとき、接続部12において湾曲した部分から大きな変形が始まる。従って、接続部12には、座屈のような急激な変形ではなく、円滑な曲げ変形が生じる(
図2(e))。湾曲した部分がその湾曲の度合いを打撃の強さに応じて高めていくので、パッド部11の沈み込みが打撃力に応じた緩やかなものとなり、演奏性が向上する。
【0046】
一方、第6の変形例(
図2(f))では、接続部12が直線的であるので、打撃パッド10の全体として、側面視でアコースティックドラムのヘッドのエッジを模擬した形状となり、外観が向上するという利点がある。
【0047】
従って、第5、第6の変形例によっても、打感と静音性を向上させると共に、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0048】
ところで、
図1(c)、(d)の例を除く、
図1、
図2で示した各例では、振動抑制部(接続部12)は、取り付け部(取り付け部22、23)とパッド部11とを接続するように形成されたので、振動抑制部の機能を安定して発揮させることができる。なお、
図1(a)に示した例でも、リム部13が取り付け部に相当すると考えれば、振動抑制部の機能を安定して発揮させるという効果は生じている。
【0049】
図3(a)、(b)は、第7の変形例に係る打撃パッド10の非打撃状態における模式的断面図、打撃状態における振動抑制部付近の模式図である。
図3(c)は、第8の変形例に係る打撃パッド10の非打撃状態における模式的断面図である。
【0050】
図1(a)の構成に対して、第7、第8の変形例では、振動抑制部として接続部12を設ける代わりに、振動抑制部を形状的に変形しやすい凸形を有する形状とする。
【0051】
まず、第7の変形例(
図3(a)、(b))では、パッド部11の軟質部19の裏面側に、基部31が軟質部19と一体に、打撃方向に複数突設形成される。各々の基部31に、取り付け部32が一体に形成されると共に、複数の突起部33が一体に形成される。取り付け部32は鉤型あるいは矢印型になっている。
【0052】
基部31及び突起部33のうち主として突起部33が振動抑制部として機能する。突起部33は、打撃方向に垂直な断面形状が例えば円形であり、その断面積は先端ほど小さくなっていて、先端は丸まっている。
【0053】
ケース15に形成された貫通穴に、取り付け部32の先端部を挿通して係合させると、取り付け部32の先端部の弾性的な係合によって突起部33の先端が常に圧縮状態でケース15に対して当接する。取り付け部32の先端部が抜け止めとなって、パッド部11がケース15に対して取り付けられる。
【0054】
パッド部11が打撃されて打撃方向に変位する行程において、突起部33がケース15から押圧力を受けて先端から潰れる。すなわち、圧縮を主とする弾性変形が生じる(
図3(b))。これにより、衝撃が効率よく吸収され、パッド部11とケース15との間の振動伝達が抑制される。取り付け部32がケース15に弾性的に係合することで突起部33はケース15に常時接触するので、突起部33の余計な跳ねやばたつき現象を回避でき、突起部33の振動抑制の機能を効率よく、安定して発揮させることができる。
【0055】
一方、第8の変形例(
図3(c))では、リム部13と取り付け部24とが、薄肉のヒンジ部18で接続され、複数の突起部33が、リム部13の裏面から一体に突設される。非打撃状態において、突起部33の先端は、取り付け部24の表側の面に近接している。取り付け部24、ヒンジ部18、及び、突起部33を含むリム部13が、パッド部11の軟質部19と同じ素材で軟質部19と一体に形成される。取り付け部24は、嵌め込み等によってケース15に固定される。
【0056】
パッド部11が打撃されて打撃方向に変位する行程において、ヒンジ部18が曲がることで、パッド部11の軟質部19とリム部13とがほぼ一体で打撃方向に沿って変位する。すると、突起部33が沈み、取り付け部24に対して当接し得る。一定以上の強さの打撃においては、突起部33が取り付け部24に当接し、突起部33が取り付け部24から押圧力を受けて先端から潰れる。すなわち、圧縮を主とする弾性変形が生じる。これにより、パッド部11とケース15との間の振動伝達が抑制される。
【0057】
従って、第7、第8の変形例によっても、打感と静音性を向上させると共に、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0058】
図3(d)は、第9の変形例に係る打撃パッド10の非打撃状態における模式的断面図である。
図3(e)、(f)は、第9の変形例の打撃状態における振動抑制部付近の模式図である。第7の変形例(
図3(a)、(b))の構成に対して、第9の変形例では、突起部を振動抑制部の側でなく支持部の側に設ける。
【0059】
まず、パッド部11の軟質部19の裏面側に、基部31が軟質部19と一体に、打撃方向に複数突設形成される。この基部31に、取り付け部32が一体に形成される。第7の変形例の構成に対して、基部31及び取り付け部32の構成は、突起部33が無い点以外は同じである。一方、取り付け部32に対向するケース15の面に突起部43を設ける。突起部43は、ケース15と一体または別体に構成され、例えば、硬質樹脂や金属等の硬質材で構成される。突起部43は、突起部33とは突設方向が逆となるだけで、形状については突起部33と同様である。
【0060】
第7の変形例(
図3(a))では、突起部33があるために基部31及び取り付け部32を含めた成形形状が複雑となる。離型時に成形品に損傷を与えるおそれもある。しかし第9の変形例(
図3(d))では、突起部43はケース15に設けられるので、軟質の基部31の形状が単純になり、成形工程が簡素化される。
【0061】
ケース15に形成された貫通穴に、取り付け部32の先端部を挿通して係合させると、取り付け部32の先端部の弾性的な係合によって突起部43の先端が常に基部31の裏面に対して当接して基部31を圧縮状態にする。取り付け部32の先端部が抜け止めとなって、パッド部11がケース15に対して取り付けられる。
【0062】
パッド部11が打撃されて打撃方向に変位する行程において、突起部43から押圧力を受けて基部31の裏面が窪む。すなわち、基部31に圧縮を主とする弾性変形が生じ、突起部43が基部31に食い込む(
図3(f))。
【0063】
パッド部11とケース15との間の振動伝達の抑制の作用については、第7の変形例と同様である。従って、第9の変形例によっても、打感と静音性を向上させると共に、製造コストの上昇を抑制することができる。それだけでなく、突起部43自体は弾性変形をほとんどせず、大きな肉部を有する基部31が弾性変形するため、振動抑制部の耐久性を向上させることができる。
【0064】
なお、
図3(a)、(b)に示す突起部33と、
図3(e)、(f)に示す突起部43との双方を設ける構成を採用してもよい。
【0065】
なお、上述した各種の変形例を含む構成において、リム部13、取り付け部21、22、32、24は、パッド部11の軟質部19と一体に形成されるとしたが、本発明の効果を奏する観点からは軟質部19と別体に形成されてもよい。
【0066】
自身の弾性変形によってパッド部11とケース15との間の振動伝達を抑制する振動抑制部として、接続部12、突起部33、基部31を例示したが、これらを設ける態様は例示に限定されない。すなわち、振動抑制部は、支持部に直接または間接的に固定されるかあるいは、少なくとも打撃時には支持部に接触し得るように設けられればよい。
【0067】
また、支持部としてケース15を例示したが、打撃時に床面に対して移動しない構成要素であればよい。
【0068】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。上述の各変形例の一部を適宜組み合わせてもよい。