特許第6405768号(P6405768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405768
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】トンネルの断面拡大工法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/01 20060101AFI20181004BHJP
   E21D 19/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   E21D9/01
   E21D19/00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-151119(P2014-151119)
(22)【出願日】2014年7月24日
(65)【公開番号】特開2016-23536(P2016-23536A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松野 徹
(72)【発明者】
【氏名】泉水 大輔
(72)【発明者】
【氏名】木野村 有亮
(72)【発明者】
【氏名】寺園 浩武
(72)【発明者】
【氏名】永里 純一
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−328871(JP,A)
【文献】 特開2004−092072(JP,A)
【文献】 特開2002−295198(JP,A)
【文献】 特開2011−074676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00−19/06
E21D 23/00−23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通行空間を確保するためのプロテクタを既設トンネル内に設置し、既設トンネルの覆工コンクリートにおける側壁部を近傍の地山とともに掘削して、拡幅部を構築し断面を拡大する既設トンネルの断面拡大工法であって、
施工機械を搭載した内方に作業空間を有する門型架構造よりなる施工架台を、該施工架台の外側に設置される前記プロテクタと並列に前進させながら、前記側壁部のうちのいずれか一方側とその近傍の地山を掘削するとともに一次覆工を施工する掘削および一次覆工工程と、
前記施工架台にて掘削を進めながら、前記プロテクタの先頭部分が、前記施工架台の掘削による切羽より常に前方に位置するように、前記プロテクタを前進させるプロテクタ前進工程とを有し、
前記掘削および一次覆工工程と前記プロテクタ前進工程とを繰り返すことを特徴とする既設トンネルの断面拡大工法。
【請求項2】
前記プロテクタ前進工程において、前記切羽より前方に位置するプロテクタの先頭部分の長さが常に、少なくとも換気設備を設置可能な距離以上の長さとなるように、前記プロテクタを前進させることを特徴とする請求項1に記載の既設トンネルの断面拡大工法。
【請求項3】
前記プロテクタの上面に、拡幅部を構築するための作業ステージを設けることを特徴とする請求項1または2に記載の既設トンネルの断面拡大工法。
【請求項4】
前記プロテクタの、前記施工架台の掘削による切羽より前方に位置する外周面に設置され、前記既設トンネルの断面形状と同じ形状の外周面を有する隔壁を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の既設トンネルの断面拡大工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設トンネルを供用しながら断面を拡大するためのトンネルの断面拡大工法に関する
【背景技術】
【0002】
従来より、既設トンネル内にプロテクタを設置して、該プロテクタの内部に車両通行空間を確保することにより、既設トンネルを供用しながら断面を拡大する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、既設トンネル内において内部空間をより大きく確保できるように計画したプロテクタを既設トンネルの全線にわたって配置し、既設トンネル内に車両通行空間を確保する。次に、既設トンネルにおける覆工層の一方の側壁部の外側に拡幅部を掘削した後、当該拡幅部と既設トンネルの内方とを連通させるべく、覆工層の一方の側壁部を切断除去するとともに切断位置に仮設支柱を設置する。その後、車両通行空間を前記プロテクタの内部空間から拡幅部に切り替えてプロテクタを撤去し、既設トンネル内で既設トンネルの覆工層と拡幅部との連結整形作業を行う方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−64979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の既設トンネルの拡大方法では、内部空間を大きく確保するべく重機を上載しないプロテクタを既設トンネル内の全線にわたって配置しているため、以下に示すような課題を有している。
(1)プロテクタに重機を上載しないため、プロテクタの外部空間に作業スペースを用意しておらず、既設トンネルの覆工層と拡幅部との連結整形作業を行う際には、プロテクタを撤去するとともに車両通行空間を施工途中の拡幅部に切り替えて作業空間を確保する必要が生じる。このため、車両通行空間の切り替え作業やプロテクタの撤去作業等に多大な時間を必要とすることとなり、作業性に劣る。
(2)プロテクタを既設トンネルの全線にわたって配置していることから、プロテクタが巨大な設備となるため、組立作業および解体作業に多大な手間を要する。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、プロテクタにて既設トンネルを供用しながら、簡略な構成で作業効率よく、断面を拡大できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明の既設トンネルの断面拡大工法は、通行空間を確保するためのプロテクタを既設トンネル内に設置し、既設トンネルの覆工コンクリートにおける側壁部を近傍の地山とともに掘削して、拡幅部を構築し断面を拡大する既設トンネルの断面拡大工法であって、施工機械を搭載した内方に作業空間を有する門型架構造よりなる施工架台を、該施工架台の外側に設置される前記プロテクタと並列に前進させながら、前記側壁部のうちのいずれか一方側とその近傍の地山を掘削するとともに一次覆工を施工する掘削および一次覆工工程と、前記施工架台にて掘削を進めながら、前記プロテクタの先頭部分が、前記施工架台の掘削による切羽より常に前方に位置するように、前記プロテクタを前進させるプロテクタ前進工程とを有し、前記掘削および一次覆工工程と前記プロテクタ前進工程とを繰り返すことを特徴とする。
【0008】
上記の既設トンネルの断面拡大工法によれば、前記掘削および一次覆工工程に合わせてプロテクタを前進させるため、常に拡幅部の構築作業の影響を受ける範囲のみにプロテクタを配置することが可能となる。これにより、プロテクタの長さを最小限に抑えることができるため、トンネル全線にわたってプロテクタを設置する場合と比較して、経済的であるとともに、組立ておよび解体等に費やす作業時間を大幅に削減することができる。
【0009】
本発明の既設トンネルの断面拡大工法は、前記プロテクタ前進工程において、前記切羽より前方に位置するプロテクタの先頭部分の長さが常に、少なくとも換気設備を設置可能な距離以上の長さとなるように、前記プロテクタを前進させることを特徴とする。
【0010】
上記の既設トンネルの断面拡大工法によれば、プロテクタに換気設備を配置した場合であっても、該換気設備の配置空間と拡幅部の構築に係る作業空間とが錯綜しないため、作業性を向上することが可能となる。
【0011】
本発明の既設トンネルの断面拡大工法は、前記プロテクタ上に、拡幅部を構築するための作業ステージを設けることを特徴とする。
【0012】
上記の既設トンネルの断面拡大工法によれば、覆工コンクリートのクラウン部における拡幅部の構築作業をプロテクタ上にて実施できるため、新たに高所作業用の台車等を搬入する必要がなく、施工効率を大幅に向上することが可能となる。
【0013】
本発明の既設トンネルの断面拡大工法は、前記プロテクタの、前記施工架台の掘削による切羽より前方に位置する外周面に設置され、前記既設トンネルの断面形状と同じ形状の外周面を有する隔壁を備えることを特徴とする。
【0014】
上記の既設トンネルの断面拡大工法によれば、施工架台の上面と、その内方の空間を拡幅部の構築に係る作業空間として利用できるため、施工架台の幅の2倍の作業スペースを確保することが可能となり、プロテクタの内部空間を大きく確保しつつ、プロテクタ外部の作業空間も大きく確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、既設トンネル内にプロテクタを設置するとともに、これと並列に施工機械を搭載した施工架台を設置し、施工架台による掘削及び一次覆工工程とプロテクタの前進移動を交互に行うため、拡幅部の構築作業に係る影響を受ける区間のみにプロテクタを設置すればよく、簡略な構成で作業効率よく、プロテクタにて既設トンネルを供用しながら断面を拡大することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】既設トンネルにおける拡幅部の全体図である。
図2】既設トンネルにおける拡幅部の平面図および側面図である。
図3】既設トンネルにおける拡幅部の断面図である。
図4】既設トンネルの断面拡大工法の手順(その1)を示す図である。
図5】既設トンネルの断面拡大工法の手順(その2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の既設トンネルの断面拡大工法について、2車線の既設トンネルを3車線に拡幅する場合を事例とし、図1図5を用いて説明する。
【0019】
本発明では、既設トンネル1の断面を拡大するにあたり、図5(c)に示すように、既設トンネル1における覆工コンクリート11の一部分である一方の側壁部(以降、残置側側壁部11aという)側は拡幅することなく残置し、覆工コンクリート11のその他の部分である他方の側壁部(以降、拡幅側側壁部11bという)とクラウン部11c、およびその近傍の地山を掘削して拡幅部2を構築することで、既設トンネル1の断面を拡大するものである。
該拡幅部2は、図1の全体図に示すように、既設トンネル1の明かり部1aから、拡幅側側壁部11bとクラウン部11cをその近傍の地山とともに掘進することにより構築する。
【0020】
拡幅部2は、図2(a)に示すように、前記既設トンネル1の軸方向に延在し、前記拡幅側側壁部11bとその近傍の地山に向かい合うように配置される施工架台3と、該施工架台3に搭載される施工機械13にて構築される。
施工架台3は、図3の断面図に示すように、断面が門型に形成された長尺のテーブル形状に形成されており、下端には走行車輪3aが設置されて既設トンネル1の軸方向に移動可能な構成を有している。本実施の形態では、施工架台3が設置される地盤面に、走行車輪3aに対応するレール7を設置しているが、施工架台3の走行性や移動時の制御が確保できれば、必ずしもレール7を設ける必要はない。
【0021】
施工架台3の上面は、図2(b)および図3に示すように、拡幅部2を構築する際の作業ステージ3bとして利用される。また、施工架台3の内部空間は、拡幅部2の構築施工中に施工台車や重機等の作業車両が移動可能な内部作業空間3cとして利用される。したがって、拡幅部2の構築作業は、施工架台3の作業ステージ3bと内部作業空間3cの2つの空間で行うことが可能となる。
【0022】
施工架台3に搭載される施工機械13は、本実施の形態では、施工架台3の作業ステージ3bに少なくともマンゲージ、吹付ロボットおよびロックボルトを打設するための穿孔機を装備するとともに、内部作業空間3cに少なくとも自由断面掘削機、ズリ積機およびベルトコンベアを装備している。
なお、施工架台3に搭載する施工機械13は上記の機械に限定されるものではなく、山岳トンネルを構築する際に、少なくとも地山の掘削から一次覆工に至る作業に用いる施工機械であれば、いずれを搭載してもよい。
【0023】
上述した施工架台3は、既設トンネル1の明かり部1aにあらかじめ構築した追加車線12上であって、掘削しようとする既設トンネル1の拡幅側側壁部11bとその近傍の地山に向かい合わせて配置される。この後、施工架台3に搭載した施工機械13のうち自由断面掘削機にて拡幅側側壁部11bとともに近傍の地山に向けて掘進を開始し、図2に示すように、既設トンネル1の拡幅側側壁部11b側に拡幅部2を構築する。
【0024】
本発明では、施工架台3にて既設トンネル1の拡幅側側壁部11bとともに近傍の地山を掘削するにあたり、図2(a)の平面図に示すように、施工架台3に対して並列となるように、移動可能なプロテクタ4を設置する。
【0025】
プロテクタ4は、図2(a)および図3の断面図に示すように、断面が門型に形成された長尺体よりなり、既設トンネル1の軸方向に延在するように配置される。また、プロテクタ4の下端に走行車輪4aが設置されて、前記施工架台3と併走するようにして既設トンネル1の軸方向に移動する。本実施の形態では、プロテクタ4が設置される道路面に、走行車輪4aに対応する図示しないレールを設置しているが、プロテクタ4の走行性や移動時の制御が確保できれば、必ずしもレールを設ける必要はない。
なお、プロテクタ4が、少なくとも拡幅部2の構築作業に伴う上部からの落下物に対して、内部空間4bを保護可能な剛性を有していることはいうまでもない。
【0026】
上述したプロテクタ4は、その内部空間4bが、一般車両を走行させるための供用空間を確保できる大きさに形成されており、本実施の形態では図3の断面図に示すように、既存トンネル1で既に供用している2車線を囲うのに十分な断面を有している。
【0027】
これらプロテクタ4と前記施工架台3は併走が可能なように、ともに既設トンネル1の軸方向と平行に設置されるが、図2(a)に示すように、常にプロテクタ4の先頭部分4dが、施工架台3の掘削による切羽Fより前方に位置するように配置される。
このような、切羽Fより前方に位置するプロテクタ4の先頭部分4dには、隔壁5および換気設備6が配置され、その後方には、覆工コンクリート11のクラウン部11cを拡幅するための作業架台4cが設置されている。
【0028】
隔壁5は、既設トンネル1を、拡幅部2の構築施工が行われていない未施工区域1bと、拡幅部2の構築施工が行われている拡幅部構築作業区域1cとに分断するもので、鋼板等の板状体により形成される。この、隔壁5は、既設トンネル1の断面形状とほぼ同じ形状の外周面を有するとともに、プロテクタ4と略同形状に切り欠かれた切欠き部を有している。このため、当該切欠き部をプロテクタ4の外周面に設置することで、隔壁5はプロテクタ4とともに、既設トンネル1内を移動する。
【0029】
そして、隔壁5の外周面5aには、プロテクタ4の停止時に既設トンネル1の覆工コンクリート11に接するとともに、移動時には覆工コンクリート11と離間する、袋状の伸縮装置が設置されている。なお、隔壁5の移動時において覆工コンクリート11と隔壁5の外周面5aとの間に生じる摩擦を回避できるものであれば、必ずしも上記の伸縮装置に限定するものではない。例えば、隔壁5の外周面5aに摩擦低減材を配置し、既設トンネル1の覆工コンクリート11に接した状態で摺動する構成としてもよい。
【0030】
本実施の形態では、隔壁5とともに設置される換気設備6として、集塵装置を採用している。集塵装置は、拡幅部構築作業区域1c側における空気を吸引して、空気中に含有する拡幅部2の構築作業に伴い発生した粉塵等を分離補修して浄化し、これら浄化した空気を拡幅部2の構築作業が行われていない未施工区域1b側に排出するものである。
【0031】
本実施の形態では、換気設備6を、図2(a)に示すように、プロテクタ4に上載させているが、その取り付け位置はこれに限定されるものではなく、プロテクタ4の先頭部分4dに配置されていれば、例えばプロテクタ4の側部に設置する構成としてもよい。
また、拡幅部構築作業区域1cの空気を浄化する装置は必ずしも集塵装置に限定されるものではない。例えば、排気用送風機を採用するなどトンネルの構造等に応じて適宜最適な換気設備6を採用すればよい。
【0032】
プロテクタ4の上面であって、隔壁5および換気設備6の設置位置の後方には、作業架台4cが形成されている。
作業架台4cは、施工架台3にて作業することのできない覆工コンクリート11のクラウン部11cにおける拡幅部2の構築のための施工機械14が搭載されている。本実施の形態では作業架台4cに載置する施工機械14として、少なくともブレーカー、ロックボルトを打設するための穿孔機および支保工を建て込むためのエレクター装置としているが、地山の掘削から一次覆工に至る作業に必要な施工機械であれば、いずれを載置してもよい。
【0033】
なお、プロテクタ4において、少なくとも作業架台4cが形成されている部分は、拡幅部2の構築のための施工機械14を搭載可能な強度に形成されていることは、いうまでもない。また、本実施の形態では、自走式の施工機械14を作業架台4cに上載しているが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、作業架台4c上にレールを設置し、該レール上を施工機械14が移動可能な構成としてもよい。
【0034】
上述する施工架台3とプロテクタ4による既設トンネル1の拡大工法では、施工架台3に搭載した施工機械13による拡幅側側壁部11b及びその近傍の地山の所定長(例えば、1m)の掘削と、プロテクタ4の作業架台4cに搭載した施工機械14によるクラウン部11c及びその近傍の所定長(例えば、1m)の地山の掘削とを同時期に行った後、支保工の設置、吹付コンクリートの吹付、ロックボルトの設置等の一次覆工を施工するという一連の工程を1サイクルとして繰り返し行う。また、プロテクタ4を移動させる日間隔を設定し(例えば、週1回)、この日間隔中に掘削及び一次覆工工程が何サイクル行えるか算出して、プロテクタ4の移動日間隔における施工距離L1もあらかじめ設定しておく。
【0035】
このため、図2(a)に示すように、プロテクタ4の先頭部分4dは、拡幅部2の掘削作業の開始時において、換気設備6の設置長さL2と、上述した一連の掘削及び一次覆工工程のプロテクタ4の移動日間隔における施工距離L1とを足し合わせた貫入量Lだけ、切羽Fより既設トンネル1内の前方に配置させておく。これにより、プロテクタ4の上方において、換気設備6の配置空間とクラウン部1cにおける拡幅部2を構築するための作業空間とが錯綜することがない。また、切羽Fよりプロテクタ4の先頭部分4dが常に前方に位置するため、施工架台3による拡幅部2の構築作業から、プロテクタ4の内部空間4bを通過する車両等を保護することが可能となる。
【0036】
以下に、図4および図5を参照しながら、施工架台3とプロテクタ4を用いた既設トンネル1の拡大工法に係る施工手順を示す。
なお、上述のとおり、既設トンネル1の明かり部1aには、図1に示すように、構築予定の拡幅部2に連続する追加車線12をあらかじめ拡幅側側壁部11b側に構築しておく。
【0037】
まず、図4(a)に示すように、既設トンネル1の拡幅しない残置側側壁部11aにロックボルト8を打設して補強を行った後、図4(b)に示すように、既設トンネル1の供用している2車線を覆うようにして、プロテクタ4を明かり部1aから既設トンネル1内に至るよう敷設する。
なお、プロテクタ4は、明かり部1aにて組立てた上で、その先頭部分4dにおける既設トンネル1への貫入量Lが、図2(a)に示すように、上述した一連の掘削及び一次覆工工程を実施する際の施工距離L1と換気設備6の設置長さL2を足し合わせた貫入量Lとなるように配置する。
【0038】
次に、図4(c)に示すように、プロテクタ4に上載した図示しない切断機にて、覆工コンクリート11の一部を切断して切断面11dを形成し、当該切断面11dを境に残置する部分と拡幅部2を構築する部分とに分割する。ここでは、残置側側壁部11aとクラウン部11cの一部を残置し、残りのクラウン部11cと拡幅側側壁部11bを掘削する。
【0039】
この後、図5(a)に示すように、施工架台3を載置するためのレール7を明かり部1aの追加車線12に敷設し、その上に施工架台3を載置して拡幅部2の構築作業を開始する。
具体的には、施工架台3を前進させながら、これに搭載した施工機械13にて拡幅側側壁部11bとその近傍の地山を掘削するとともに、プロテクタ4の作業架台4cに搭載した施工機械14を自走させながら、クラウン部11cとその近傍の地山を掘削する。
なお、プロテクタ4の作業架台4cに搭載した施工機械14による掘削時に発生した掘削ズリは、施工架台3側に投下することで施工架台3の内部作業空間3bに配備されたズリ積機およびベルトコンベアにて坑外に排出される。
【0040】
次に、あらかじめ設定した1サイクル分に相当する長さだけ拡幅側側壁部11bとその近傍の地山およびクラウン部11cとその近傍の地山の掘削を行った後、残置した覆工コンクリート11の内周面と連結整形するように、施工架台3に搭載した吹付ロボットにてコンクリートを吹付るとともに、施工架台3およびプロテクタ4の作業架台4cに搭載した穿孔機にてロックボルト8’を打設し、一次覆工を完了する。
【0041】
なお、一次覆工に係る作業と同時に施工架台3の後方にて、図5(b)に示すように、プレキャスト製の二次覆工材9を設置する二次覆工を施工、あるいは一次覆工が完了した拡幅部2のインバート10を施工してもよい。インバート10は、拡幅部2の地盤を掘り下げた上でコンクリートを打設して、既設トンネル1のインバート10’と滑らかにすり付く形状に構築した後、その上部を既設トンネル1内の道路面と同じ高さまで埋戻しておく。
【0042】
本実施の形態では、施工架台3とプロテクタ4とにそれぞれ施工機械13、14が集約されているとともに、その後方でインバート10の施工を実施することができる。このため、掘削作業からインバート工に至る作業について、例えば、ICTによる自動化を図ることで集中管理し、急速施工を行うことも可能である。
【0043】
このようにして、一連の掘削及び一次覆工工程を繰り返して、あらかじめ設定したプロテクタ4の移動日間隔における施工距離L1だけ完了すると、プロテクタ4の先頭部分4dにおける、切羽Fより前方の既存トンネル1への貫入量Lは、換気設備6の設置長さL2に短縮された状態となる。そこで、次のプロテクタ4の移動日間隔における施工距離L1を、プロテクタ4の先頭部分4dに確保するべく、プロテクタ4を前進させる。
【0044】
この後、引き続き施工架台3を前進させながら、これに搭載した施工機械13にて拡幅側側壁部11bとその近傍の地山を掘削するとともに、プロテクタ4の作業架台4cに搭載した施工機械14を自走させながら、クラウン部11cとその近傍の地山を掘削した後、残置した覆工コンクリート11にわたって一次覆工を施工するとともに、インバート10の構築や二次覆工材9を設置する二次覆工を施工する。
【0045】
上記のとおり、拡幅側側壁部11bとその近傍の地山およびクラウン部11cとその近傍の地山を掘削するとともに一次覆工を施工する、掘削及び一次覆工工程と、プロテクタ4を前進させるプロテクタ前進工程とを繰り返すことで拡幅部2が構築され、既設トンネル1に断面拡大部が形成される。
【0046】
また、本実施の形態において、施工架台3の後方には、図1の全体図に示すように、一次覆工の施工完了後に行われる、断面が拡大したトンネル内の排水・防止工および二次覆工等、山岳トンネルを構築する際に必要な施工機械15が集約して配備されている。したがって、プロテクタ4の後端部4eは、二次覆工9が完了する地点にまで達していればよく、常に既設トンネル1の明かり部1aにまで達している必要はない。
【0047】
本発明の既設トンネル1の拡大方法によれば、拡幅側側壁部11bとその近傍の地山およびクラウン部11cとその近傍の地山を掘削するとともに、一次覆工を施工する一連の掘削及び一次覆工工程と、先頭部分が常に切羽Fよりも前方に位置するよう、プロテクタ4を前進させる工程とを繰り返すことで拡幅部2を構築し、既設トンネル1の断面を拡大する。
【0048】
このため、プロテクタ4を既設トンネル1の全長に設置しなくても、拡幅部2の構築作業の影響を受ける空間を常にプロテクタ4にて保護することが可能である。これにより、プロテクタ4は、既設トンネル1の全長に渡って配置するような巨大な設備とならない。また、プロテクタ4の内部空間4bにて常に車両通行空間を確保することができるため、施工中にプロテクタ4を解体するような煩雑な工程も不要となる。したがって、施工性が向上するとともに、簡略な構成で作業効率よく、プロテクタ4にて既設トンネル1を供用しながら断面を拡大することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1 既設トンネル
2 拡幅部
3 施工架台
4 プロテクタ
5 隔壁
6 換気設備
7 レール
8、8’ロックボルト
9 二次覆工
10 インバート
11 覆工コンクリート
12 追加車線
13 施工架台に搭載する施工機械
14 プロテクタに上載する施工機械
15 施工架台の後方に配備する施工機械
図1
図2
図3
図4
図5