(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂相は、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリエチレンの少なくとも一種と、前記第1、第2樹脂層の少なくとも一方を構成する熱可塑性樹脂と同じ熱可塑性樹脂とを含むことを特徴とする請求項1に記載のヒータ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ヒータ装置は、局所的な過昇温防止のために、ヒータ装置単体の保護機能として、発熱抵抗体が所定温度以上になったときに、特許文献1に記載のヒューズのように、発熱抵抗体自体の温度によって発熱抵抗体が溶断する自己溶断機能を有していることが望まれる。なお、局所的な過昇温する場合としては、外的応力による部分断線によって抵抗値が増加したり、ヒータ装置の表面に埃等の異物が付着したりする場合が挙げられる。自己溶断する温度は、異物が付着した場合の発火点以下の温度、例えば、250℃以下であることが望まれる。
【0006】
しかし、上記した従来のヒータ装置の発熱抵抗体に用いられる金属材料は、いずれも融点が数百度の高融点金属である。このため、上記した従来のヒータ装置は、異物が付着した場合の発火点以下の温度で、発熱抵抗体が自己溶断する機能を有していない。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、発熱抵抗体が自己溶断する機能を有するヒータ装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、
積層された第1樹脂層(2)および第2樹脂層(3)と、
第1樹脂層と第2樹脂層の間に配置され、通電されることにより発熱する薄膜状の発熱抵抗体(4)とを備え、
第1、第2樹脂層の少なくとも一方は、熱可塑性樹脂で構成されており、
発熱抵抗体は、連続形状の金属相(10)中に不連続形状の樹脂相(20)が混在する海島構造を有するとともに、熱可塑性樹脂によって封止されており、
金属相は、少なくともSn単独相(11)とSn合金相(13)を含んで構成され、
樹脂相は、Snの融点以下のガラス転移点を有するとともに、Snの融点以上の温度のときの体積膨張率が金属相の体積膨張率よりも大きいものであり、
発熱抵抗体は、Snの融点以上の温度のときに、樹脂相の体積膨張によりSn単独相が溶断することを特徴としている。
【0009】
本発明では、発熱抵抗体は、金属相中に樹脂相が混在する海島構造を有している。金属相は、Sn単独相を含んでいる。樹脂相は、Snの融点以下のガラス転移点を有するとともに、Snの融点以上の温度のときの体積膨張率が金属相の体積膨張率よりも大きいものである。このため、発熱抵抗体自体の温度が上昇してSnの融点である232℃付近の温度になったとき、樹脂相の体積膨張によって、Sn単独相が溶断する。なお、本発明では、発熱抵抗体が熱可塑性樹脂で封止されることによって、Sn単独相の酸化が防止されているので、Snの融点付近温度での発熱抵抗体の溶断が可能となる。
【0010】
したがって、本発明のヒータ装置は、異物が付着した場合の発火点以下の温度で、発熱抵抗体が自己溶断する機能を有している。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のヒータ装置の製造方法であって、
少なくとも一方が熱可塑性樹脂で構成された第1樹脂層(2)および第2樹脂層(3)を用意するとともに、Sn粒子、Cu粒子、樹脂および溶剤を含む発熱抵抗体形成用の導電性ペーストを用意する工程(S1)と、
第1樹脂層の一面上に、導電性ペーストを用いて薄膜を形成する工程(S2)と、
第1、第2樹脂層の間に薄膜を挟むように、第1樹脂層と第2樹脂層を積層して積層体を形成する工程(S3)と、
積層体を加熱プレスすることにより、第1樹脂層と第2樹脂層とを密着させるとともに、薄膜中のSn粒子とCu粒子とを反応させて発熱抵抗体を形成し、かつ、発熱抵抗体を熱可塑性樹脂で封止する工程(S4)とを有し、
熱可塑性樹脂および導電性ペースト中の樹脂として、Snの融点以下のガラス転移点を有するとともに、Snの融点以上の温度のときの体積膨張率が金属相の体積膨張率よりも大きいものを用い、
導電性ペーストとして、Sn粒子、Cu粒子、樹脂のそれぞれの比率が、Sn粒子とCu粒子と樹脂の3成分の合計質量を100%とし、各成分の比率が100%のときを頂点とする三角図表において、
点A1(Cu、Sn、樹脂)=(35、30、35)、
点A2(Cu、Sn、樹脂)=(25、40、35)、
点A3(Cu、Sn、樹脂)=(25、60、15)、
点A4(Cu、Sn、樹脂)=(30、60、10)、
点A5(Cu、Sn、樹脂)=(45、45、10)、
点A(Cu、Sn、樹脂)=(45、30、25)
の各点を記載の順に結ぶ直線で囲まれる領域内であるものを用いることを特徴としている。
【0012】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1に記載のヒータ装置の製造方法であって、
少なくとも一方が熱可塑性樹脂で構成された第1樹脂層(2)および第2樹脂層(3)を用意するとともに、Sn粒子、Ag粒子、樹脂および溶剤を含む発熱抵抗体形成用の導電性ペーストを用意する工程(S1)と、
第1樹脂層の一面上に、導電性ペーストを用いて薄膜を形成する工程(S2)と、
第1、第2樹脂層の間に薄膜を挟むように、第1樹脂層と第2樹脂層を積層して積層体を形成する工程(S3)と、
積層体を加熱プレスすることにより、第1樹脂層と第2樹脂層とを密着させるとともに、薄膜中のSn粒子とAg粒子とを反応させて発熱抵抗体を形成し、かつ、発熱抵抗体を熱可塑性樹脂で封止する工程(S4)とを有し、
熱可塑性樹脂および導電性ペースト中の樹脂として、Snの融点以下のガラス転移点を有するとともに、Snの融点以上の温度のときの体積膨張率が金属相の体積膨張率よりも大きいものを用い、
導電性ペーストとして、Sn粒子、Ag粒子、樹脂のそれぞれの比率が、Sn粒子、Ag粒子、樹脂の3成分の合計質量を100%とし、各成分の比率が100%のときを頂点とする三角図表において、
点D1(Ag、Sn、樹脂)=(40、30、30)、
点D2(Ag、Sn、樹脂)=(30、40、30)、
点D3(Ag、Sn、樹脂)=(30、50、20)、
点D4(Ag、Sn、樹脂)=(40、50、10)、
点D5(Ag、Sn、樹脂)=(50、40、10)、
点D6(Ag、Sn、樹脂)=(50、30、20)
の各点を記載の順に結ぶ直線で囲まれる領域内であるものを用いることを特徴としている。
【0013】
請求項5、6に記載の発明によれば、上記の通り、発熱抵抗体が自己溶断する機能を有する請求項1に記載のヒータ装置を製造することができる。
【0014】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0017】
(第1実施形態)
図1〜3に示す本実施形態のヒータ装置1は、車室内に設置されて乗員に対して輻射熱を放出する車両用暖房装置として用いられるものである。ヒータ装置1は、例えば、車室内のダッシュボードのアンダーカバーの表面やコラムカバーの表面に配置されて、運転者等に対して輻射熱を放出する。
【0018】
本実施形態のヒータ装置1は、第1樹脂層2と第2樹脂層3とが積層されており、積層された第1、第2樹脂層2、3の間に薄膜状の発熱抵抗体4が配置されている。
【0019】
第1樹脂層2は、平面矩形状の熱可塑性樹脂フィルムで構成されている。熱可塑性樹脂は、ポリエーテルイミド(PEI)である。なお、第1樹脂層2をPEI以外の熱可塑性樹脂で構成してもよい。
【0020】
第2樹脂層3は、平面矩形状の熱可塑性樹脂フィルムで構成されている。熱可塑性樹脂は、ポリイミド(PI)である。なお、第2樹脂層3をPI以外の熱可塑性樹脂で構成してもよい。本実施形態では、第2樹脂層3の平面方向に垂直な方向での厚さは、第1樹脂層2の平面方向に垂直な方向での厚さよりも薄くなっている。なお、第2樹脂層3の厚さは、第1樹脂層2の厚さと同じであってもよい。
【0021】
発熱抵抗体4は、通電されることにより発熱する抵抗体である。発熱抵抗体4は、一方向に帯状に長く延びた平面形状である。発熱抵抗体4は、第1樹脂層2の一面2aと他面2bのうち第2樹脂層3側に位置する一面2a上に形成されている。
【0022】
図2に示すように、本実施形態では、第1樹脂層2の一面2a上に、複数本の発熱抵抗体4が平行に互いに離間して配置されている。複数本の発熱抵抗体4は、それぞれ、長手方向一端側の部分が第1樹脂層2の一面2a上に形成された第1金属配線層5と接続されており、長手方向他端側の部分が第1樹脂層2の一面2a上に形成された第2金属配線層6と接続されている。第1、第2金属配線層5、6は、Ag等の金属材料で構成されている。このため、複数本の発熱抵抗体4は、第1金属配線層5と第2金属配線層6との間を並列に接続されている。なお、複数本の発熱抵抗体4は、並列でなく、直列に接続されていてもよい。
【0023】
発熱抵抗体4は、第1樹脂層2と第2樹脂層3に挟まれており、第1、第2樹脂層2、3によって封止されている。したがって、発熱抵抗体4は、熱可塑性樹脂によって封止されている。
【0024】
次に、発熱抵抗体4の内部構造について説明する。
【0025】
図4、5に示すように、発熱抵抗体4は、連続形状の金属相10中に不連続形状の樹脂相20が混在する海島構造を有している。海島構造とは、金属相10が海、樹脂相20が島のように存在する構造である。金属相10は、複数の隙間を有している。樹脂相20は、金属相10が有する複数の隙間に存在している。
【0026】
金属相10は、Sn単独相11とCu単独相12とCuSn合金相(以下、CuSn相という)13とを含んで構成されている。より具体的には、金属相10は、主としてSn単独相11によって構成されており、Sn単独相11中にCu単独相12およびCuSn相13が分散している。換言すると、Sn単独相11は、点在するCu単独相12およびCuSn相13を繋ぐように配置されている。
【0027】
CuSn相13は、Cu単独相12の周囲に存在している。換言すると、CuSn相13の内部にCu単独相12が存在している。なお、Cu単独相12が全てCuSn相13に置き換わっていてもよい。したがって、金属相10は、少なくともSn単独相11とCuSn相13を有して構成される。
【0028】
樹脂相20は、第1樹脂層2と同じPEIで構成された熱可塑性樹脂21と、アクリル樹脂22とを含んで構成されている。アクリル樹脂22は、Sn単独相11中に分散して存在しているとともに、Sn単独相11が有する隙間の表面上に存在している。PEIのガラス転移点(Tg)は220℃であり、アクリル樹脂のTgは60℃である。Snの融点は232℃である。したがって、樹脂相20は、Snの融点以下のガラス転移点を有している。また、PEIとアクリル樹脂は、どちらも、Snの融点以上の温度のときの体積膨張率が、金属相の体積膨張率よりも大きい。
【0029】
次に、本実施形態のヒータ装置1の製造方法について説明する。本実施形態のヒータ装置1は、
図6に示すように、用意工程S1、薄膜形成工程S2、積層体形成工程S3、加熱プレス工程S4を順に行うことで製造される。
【0030】
用意工程S1では、第1、第2樹脂層2、3をそれぞれ用意するとともに、発熱抵抗体4を形成するための発熱抵抗体形成用の導電性ペーストを用意する。第1、第2樹脂層2、3は、熱可塑性樹脂フィルムである。導電性ペーストは、Sn粒子、Cu粒子、樹脂および溶剤を含むものである。導電性ペースト中の樹脂は、印刷時に印刷された薄膜の形状を維持するためのバインダとしての役目を有するものである。本実施形態では、樹脂としてアクリル樹脂を用い、溶剤としてBCAを用いる。
【0031】
また、導電性ペースト中のSn粒子、Cu粒子、アクリル樹脂のそれぞれの比率が、発熱抵抗体4の海島構造の形成に大きく寄与する。このため、導電性ペースト中のSn粒子、Cu粒子、アクリル樹脂のそれぞれの比率を、後述する実施例に記載のように、発熱抵抗体4の海島構造の形成に必要な比率とする。
【0032】
薄膜形成工程S2では、第1樹脂層2の一面2a上に、導電性ペーストを用いて薄膜を形成する。具体的には、第1樹脂層2の一面2aのうち発熱抵抗体4の形成予定領域に、導電性ペーストを印刷して、発熱抵抗体4となる薄膜を形成する。印刷後、薄膜を100℃程度で加熱して溶剤を除去する。
【0033】
積層体形成工程S3では、第1、第2樹脂層2、3の間に薄膜を挟むように、第1樹脂層2と第2樹脂層3を積層して積層体を形成する。
【0034】
加熱プレス工程S4では、積層体を加熱プレスする。これにより、第1樹脂層2と第2樹脂層3とを密着させるとともに、薄膜中のSn粒子とCu粒子とを反応および焼結させて発熱抵抗体4を形成し、かつ、発熱抵抗体4を熱可塑性樹脂で封止する。このとき、発熱抵抗体4を熱可塑性樹脂で封止するために、加熱温度を260〜270℃とする。
【0035】
ここで、
図7A、7B、7Cを用いて、発熱抵抗体4の海島構造の形成メカニズムについて説明する。
図7A、7B、7Cは、ヒータ装置の平面方向に平行な薄膜の断面を示している。
【0036】
図7Aに示すように、積層体の温度Tが薄膜形成後の常温のときでは(T=常温)、薄膜30中にSn粒子31、Cu粒子32、アクリル樹脂22がそれぞれ独立して存在している。
【0037】
そして、
図7Bに示すように、加熱プレス時に積層体の温度Tが上昇してSnの融点T
Mである232℃以上になると(T≧T
M)、薄膜30中のSn粒子31が溶融し、溶融したSn単独相11がCu粒子32と反応する。より具体的には、Cu粒子32は鋲の役割をし、それを繋ぐようにSn単独相11のネットワークができる。また、Cu粒子32表面がSnと反応して、Cu粒子32の外周部にCuSn合金相13が生成し、Cu粒子32の未反応部分がCu単独相12として残る。このとき、プレス時間が長いほど、Cu単独相12の存在割合が少なくなり、CuSn相13の存在割合が多くなる。なお、CuSn相13は、Cu
6Sn
5またはCu
3Snである。なお、アクリル樹脂22は、金属相10(Sn単独相11)の表面上やSn単独相11の内部に存在している。
【0038】
さらに、
図7Cに示すように、加熱プレス時に、積層体の温度Tが270℃まで上昇すると(T=270℃)、Sn単独相11のネットワークの形成によって生じた隙間に、第1樹脂層2の一部21が入り込む。このようにして、金属相10と樹脂相20の海島構造が形成される。
【0039】
本実施形態の発熱抵抗体4は、Snの融点以上の温度のときに、自己溶断する機能を有している。以下では、
図8A、8B〜
図11A、11Bを用いて、発熱抵抗体4の自己溶断メカニズムについて説明する。
図8A、9A、10A、11Aはヒータ装置1の平面方向に平行な発熱抵抗体4の断面を示しており、
図8B、9B、10B、11Bはヒータ装置1の平面方向に垂直な発熱抵抗体4の断面を示している。
【0040】
図8A、8Bに示すように、発熱抵抗体4の温度Tが第1樹脂層2を構成する熱可塑性樹脂(PEI)のTgよりも低いとき(T<Tg)では、発熱抵抗体4の金属相10は、周囲の第1、第2樹脂層2、3から圧縮応力が印加された状態である。これは、加熱プレス工程S4において、積層体の温度が加熱プレス時の温度から常温まで低下したとき、発熱抵抗体4の金属相10よりも第1、第2樹脂層2、3の方が体積収縮率が大きいからである。
【0041】
そして、
図9A、9Bに示すように、発熱抵抗体4の温度Tが上昇してPEIのTg(220℃)以上のとき(Tg≦T<T
M)では、第1樹脂層2および樹脂相20の熱可塑性樹脂21、アクリル樹脂22が軟化して体積膨張することにより、発熱抵抗体4は、引張応力が印加された状態となる。
【0042】
さらに、
図10A、10Bに示すように、発熱抵抗体4の温度Tがさらに上昇してSnの融点T
M(232℃)以上のとき(T≧T
M)では、発熱抵抗体4中のSn単独相11が溶融する。このときも、発熱抵抗体4は、樹脂相20の体積膨張によって引張応力が印加された状態である。
【0043】
このため、
図11A、11Bに示すように、樹脂相20の体積膨張による引張応力によって、発熱抵抗体4の金属相10のうちSn単独相11が切断(溶断)される。なお、溶融したSnに働く表面張力も、発熱抵抗体4の溶断に寄与するものと考えられる。
【0044】
このようにして、発熱抵抗体が232℃以上の232℃付近の温度になったとき、発熱抵抗体4が自己溶断する。
【0045】
以上の説明の通り、本実施形態では、発熱抵抗体4を構成する金属相10が連続形状となっているので、発熱抵抗体4は通電されることにより発熱する機能を有している。
【0046】
さらに、発熱抵抗体4は、金属相10中に樹脂相20が混在しているとともに、金属相10がSn単独相11とSnCu相13を含んで構成されている。樹脂相20は、Snの融点以下のガラス転移点を有するとともに、Snの融点以上の温度のときの体積膨張率が金属相10の体積膨張率よりも大きいものである。
【0047】
このため、発熱抵抗体4自体の温度が上昇してSnの融点である232℃付近の温度になったとき、樹脂相20の体積膨張によって、Sn単独相11が溶断する。したがって、本実施形態のヒータ装置1は、異物が付着した場合の発火点以下の温度で、発熱抵抗体4が自己溶断する機能を有している
なお、Sn単独相11が酸化した場合、Snの酸化物はSnの融点付近の温度になっても、溶融しなくなるため、Sn単独相11の酸化防止対策が必要である。これに対して、本実施形態では、発熱抵抗体4を熱可塑性樹脂(第1、第2樹脂層2、3)で封止することで、Sn単独相の酸化を防止している。これにより、Snの融点付近温度での発熱抵抗体4の溶断が可能となっている。
【0048】
また、本実施形態では、発熱抵抗体4の金属相10はSn単独相11とCuSn相13を含んだ構成となっている。
【0049】
ここで、
図12A、12Bに、比較例1として、ヒータ装置1の製造の際に、発熱抵抗体形成用の導電性ペーストとして、金属成分がSn粒子のみのものを用いた場合の加熱プレス後の発熱抵抗体の様子を示す。本発明者が、発熱抵抗体4の金属相10をSn単独相11のみで構成することを目的として、金属成分がSn粒子のみである導電性ペーストを用いた場合、
図12A、12Bに示すように、海島構造の発熱抵抗体を形成できなかった。この場合、積層体の加熱プレス工程後において、Sn単独相11が連続した形状ではなく、Sn単独相11が飛び散って発熱抵抗体4の形成予定領域からはみ出していた。
【0050】
これに対して、本実施形態では、ヒータ装置1の製造の際に、発熱抵抗体形成用の導電性ペーストとして、Sn粒子とCu粒子を含むものを用いている。これにより、上記した発熱抵抗体4の海島構造の形成メカニズムでの説明の通り、Cu粒子32の存在によってSn単独相11のネットワークを形成でき、海島構造の発熱抵抗体4を形成できる。このとき、Cu粒子32と溶融したSnが反応してCuSn相13が生成する。
【0051】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、下記のように、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0052】
(1)第1実施形態では、第1、第2樹脂層2、3の両方が熱可塑性樹脂で構成されていたが、第1、第2樹脂層2、3の少なくとも一方が熱可塑性樹脂で構成されていればよい。第1、第2樹脂層2、3の少なくとも一方が熱可塑性樹脂で構成されていれば、発熱抵抗体4を熱可塑性樹脂で封止できるからである。したがって、この場合、ヒータ装置1の製造時の用意工程S1では、少なくとも一方が熱可塑性樹脂で構成された第1樹脂層2および第2樹脂層3を用意すればよい。
【0053】
(2)第1実施形態では、導電性ペーストに含まれるSn粒子以外の金属粒子として、Cu粒子を用いていたが、Cu粒子以外の他の金属粒子(X粒子)を用いてもよい。他の金属Xとしては、Ag、Zn、Sb等が挙げられる(X=Ag、Zn、Sb)。この場合、発熱抵抗体4を構成する金属相10は、Sn単独相と、X単独相と、X−Sn合金相とによって構成される。例えば、Ag粒子を用いた場合、Sn単独相と、Ag単独相と、AgSn合金相とによって構成される。なお、この場合も、X粒子が全てSnと反応してX−Sn合金相となり、金属相10中にX単独相が存在していなくてもよい。
【0054】
また、導電性ペーストに含まれるSn粒子以外の金属粒子は、1種類の金属粒子に限らず、複数種類の金属粒子であってもよい。この場合、発熱抵抗体4を構成する金属相10は、少なくともSn単独相と、Snと複数種類の金属との合金からなるSn合金相とによって構成される。
【0055】
(3)第1実施形態では、導電性ペースト中の樹脂として、アクリル樹脂を用いたが、アクリル樹脂の替わりに、ポリエステル、ポリエチレンを用いてもよい。ポリエステルとしてはTgが100〜150℃のものを用い、ポリエチレンとしてはTgが130〜140℃のものを用いることができる。
【0056】
(4)上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
Sn粒子、Cu粒子、樹脂の比率(質量比)が異なる導電性ペーストを用意し、第1実施形態で説明したヒータ装置の製造方法によって試験体(ヒータ装置)を作製し、作製した試験体の発熱抵抗体を評価した。
【0058】
用いた導電性ペーストの条件は、次の通りである。
・Cu粒子の平均粒径:5μm
・Sn粒子の平均粒径:4μm
・樹脂の種類:アクリル樹脂
・溶剤の種類:BCA
また、薄膜形成工程では、発熱抵抗体の目標厚さを12μmとして導電性ペーストを印刷した。加熱プレス工程では、加熱プレス条件を熱板温度260℃、圧力3MPaとした。
【0059】
また、試験体の発熱抵抗体の評価のために、発熱抵抗体の抵抗値を測定し、発熱抵抗体の溶断温度を測定した。そして、発熱抵抗体の抵抗値ばらつきの大きさや、発熱抵抗体の溶断温度を評価した。
【0060】
なお、溶断温度の測定では、発熱抵抗体に電流を印加し、発熱抵抗体が溶断するまで、印加する電流を徐々に増大させ、溶断時の印加電力の大きさから溶断温度を算出した。より詳細には、試験体表面に線状のキズを付け、試験体のキズ付け部を空中に浮かした状態で、試験体に電流を印加した。印加した電流と電圧の値を測定し、キズ付け部の温度をサーモビュアで測定した。得られた測定結果より、印加電力の大きさとキズ付け部の温度との関係を算出し、その関係と溶断時の印加電力の値とに基づいて、溶断時のキズ付け部の温度を算出した。
【0061】
図13に評価結果を示す。
図13は、Sn粒子、Cu粒子、樹脂の3成分の合計質量を100%とした三角図表である。三角図表は、正三角形の各頂点から右回りに各辺に0から100%までの目盛りを付したものである。したがって、三角図表の各頂点では、3成分のいずれか1つの比率が100%となる。なお、
図13中の○印が本発明の実施例を示し、
図13中の×印が参考例を示している。
【0062】
図13に示すように、導電性ペーストの各成分比率が○印の点A1〜点A13のとき、発熱抵抗体の抵抗値ばらつきが基準を満たしているとともに、溶断温度が232℃付近であり、発熱抵抗体は良品であった。抵抗値ばらつきが基準を満たすとは、抵抗値の測定値と抵抗値の平均値の差が平均値の5%以内であることを意味する。点A1〜点A13の質量比は、次の通りである。
点A1(Cu、Sn、樹脂)=(35、30、35)
点A2(Cu、Sn、樹脂)=(25、40、35)
点A3(Cu、Sn、樹脂)=(25、60、15)
点A4(Cu、Sn、樹脂)=(30、60、10)
点A5(Cu、Sn、樹脂)=(45、45、10)
点A6(Cu、Sn、樹脂)=(45、30、25)
点A7(Cu、Sn、樹脂)=(25、50、25)
点A8(Cu、Sn、樹脂)=(40、50、10)
点A9(Cu、Sn、樹脂)=(45、40、15)
点A10(Cu、Sn、樹脂)=(40、30、30)
点A11(Cu、Sn、樹脂)=(30、40、30)
点A12(Cu、Sn、樹脂)=(30、50、20)
点A13(Cu、Sn、樹脂)=(40、40、20)
この結果より、導電性ペーストの各成分比率が、点A1、点A2、点A3、点A4、点A5、点A6の各点を記載の順、すなわち、A1→A2→A3→A4→A5→A6→A1の順に結ぶ直線で囲まれる領域内のとき、良品の発熱抵抗体が得られるものと推測される。この領域は、
図13の三角図表中の斜線(実線)を付した領域である。したがって、発熱抵抗体4の形成のためには、導電性ペーストの各成分比率を、
図13の三角図表における点A1、点A2、点A3、点A4、点A5、点A6の各点を記載の順に結ぶ直線で囲まれる領域内の比率とすればよい。
【0063】
一方、導電性ペーストの各成分比率が
図13中の×印の点B1〜B20のとき、発熱抵抗体の抵抗値ばらつきが基準を満たしていたが、発熱抵抗体が232℃付近で溶断せず、発熱抵抗体が不良品1となっていた。このとき、金属相がCu
3Snのバルク体もしくはCuのバルク体であったため、発熱抵抗体が溶断しなかった。この結果より、導電性ペーストの各成分比率が、
図13の三角図表中の斜線(破線)を付した領域内のとき、発熱抵抗体が不良品1になるものと推測される。
【0064】
また、導電性ペーストの各成分比率が
図13中の×印の点C1〜C12のとき、発熱抵抗体の抵抗値ばらつきが基準を満たしていないか、試験体の作製直後の時点で発熱抵抗体が断線しており、発熱抵抗体が不良品2となっていた。この結果より、導電性ペーストの各成分比率が、
図13の三角図表中の模様を付していない領域内のとき、発熱抵抗体が不良品2になるものと推測される。
【0065】
なお、
図13は、平均粒径が5μmのCu粒子を用いたときの評価結果を示しているが、平均粒径が1.5μm、3μmのCu粒子を用いた場合においても、同様の評価結果が得られことを、本発明者は確認している。
【0066】
図14に、良品であった発熱抵抗体のSEM写真を示す。
図14は、
図5の領域XIVに対応している。
図14は、導電性ペーストの比率がCu:30%、Sn:40%、樹脂:30%のときの発熱抵抗体のSEM写真である。
図14に示すSEM写真より、発熱抵抗体4は、連続形状の金属相10と、熱可塑性樹脂21やアクリル樹脂22で構成された非連続形状の樹脂相20とを有し、金属相10と樹脂相20の海島構造を有することがわかる。
【0067】
図15−1、15−2、15−3、15−4に、良品であった発熱抵抗体の組成分析結果を示す。
図15−1は、
図5の領域XV−Iに対応している。
図15−1は、導電性ペーストの比率がCu:30%、Sn:50%、樹脂:20%のときの発熱抵抗体のSEM写真である。
図15−2、15−3、15−4は、EDS(エネルギー分散型X線分光器)による元素分析結果であり、
図15−1のSEM画像に元素分布を重ねて示している。
【0068】
図15−1において、明るい領域が発熱抵抗体4の金属相10である。
図15−2において、明るい領域がSn成分の検出領域である。
図15−3において、明るい領域がCu成分の検出領域である。
図15−4は、Sn成分とCu成分の両方の分布を重ねて示している。
図15−4において、最も明るい領域がSn成分の検出領域であり、2番目に明るい領域がCu成分の検出領域である。
図15−2、15−3、15−4に示す元素分布より、発熱抵抗体4の金属相10は、Sn単独相11と、Cu単独相12と、CuSn相13を含んでいることがわかる。
(実施例2)
Cu粒子に替えて、Ag粒子を用いて、実施例1と同様に、試験体を作製し、作製した試験体の発熱抵抗体を評価した。用いたAg粒子の平均粒径は5μmである。
【0069】
図16に評価結果を示す。
図16は、Sn粒子、Ag粒子、樹脂の3成分の合計質量を100%とした三角図表である。なお、
図16中の○印が本発明の実施例を示し、
図16中の×印が参考例を示している。
【0070】
導電性ペーストの比率が
図16中の○印の点D1〜D7のとき、発熱抵抗体の抵抗値ばらつきが基準を満たしているとともに、溶断温度が232℃付近であり、発熱抵抗体は良品であった。点D1〜点D7の質量比は、次の通りである。
点D1(Ag、Sn、樹脂)=(40、30、30)
点D2(Ag、Sn、樹脂)=(30、40、30)
点D3(Ag、Sn、樹脂)=(30、50、20)
点D4(Ag、Sn、樹脂)=(40、50、10)
点D5(Ag、Sn、樹脂)=(50、40、10)
点D6(Ag、Sn、樹脂)=(50、30、20)
点D7(Ag、Sn、樹脂)=(40、40、20)
この結果より、導電性ペーストの各成分比率が、点D1、点D2、点D3、点D4、点D5、点D6の各点を記載の順、すなわち、D1→D2→D3→D4→D5→D6→D1の順に結ぶ直線で囲まれる領域内のとき、良品の発熱抵抗体が得られるものと推測される。したがって、発熱抵抗体4の形成のためには、導電性ペーストの各成分比率を、
図16の三角図表における点D1、点D2、点D3、点D4、点D5、点D6の各点を記載の順に結ぶ直線で囲まれる領域内の比率とすればよい。
【0071】
一方、導電性ペーストの各成分比率が
図16中の×印の点E1〜E19とき、発熱抵抗体が不良品1となっていた。このとき、金属相がAg
3Snのバルク体もしくはAgのバルク体であったため、発熱抵抗体が溶断しなかった。この結果より、導電性ペーストの各成分比率が、
図16の三角図表中の破線を付した領域内のとき、発熱抵抗体が不良品1になるものと推測される。
【0072】
また、導電性ペーストの各成分比率が
図16中の×印の点F1〜F9のとき、発熱抵抗体が不良品2となっていた。この結果より、導電性ペーストの各成分比率が、
図16の三角図表中の模様を付していない領域内のとき、発熱抵抗体が不良品2になるものと推測される。
【0073】
なお、
図16は、平均粒径が5μmのAg粒子を用いたときの評価結果を示しているが、平均粒径が1.5μm、3μmのAg粒子を用いた場合においても、同様の評価結果が得られことを、本発明者は確認している。