特許第6405989号(P6405989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405989
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】立ち上がり補助装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 7/10 20060101AFI20181004BHJP
   A61G 5/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   A61G7/10
   A61G5/00 704
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-259580(P2014-259580)
(22)【出願日】2014年12月23日
(65)【公開番号】特開2016-116799(P2016-116799A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【弁理士】
【氏名又は名称】田下 明人
(74)【代理人】
【識別番号】100143454
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 克彦
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 洋
(72)【発明者】
【氏名】清原 武彦
【審査官】 小島 哲次
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/158023(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/122752(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 7/10
A61G 5/00
A61G 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被補助者の立ち上がりを補助する立ち上がり補助装置であって、
ベースと、
伸縮可能に構成され一端が前記ベースに対して傾動可能に連結されるアームと、
前記アームを前記ベースに対して傾動させる傾動機構と、
前記アームを伸縮させる伸縮機構と、
前記アームの他端に連結されて前記被補助者の胸部を支える支持部材と、
前記支持部材を前記ベースが設置される設置面に対して垂直方向に移動させる際に操作される垂直移動用操作手段と、
前記支持部材を前記設置面に対して水平方向に移動させる際に操作される水平移動用操作手段と、
前記傾動機構の傾動状態および前記伸縮機構の伸縮状態を検出する検出手段と、
前記垂直移動用操作手段および前記水平移動用操作手段による操作に応じて前記傾動機構および前記伸縮機構を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記垂直移動用操作手段が操作されると、前記検出手段による検出結果に基づいて、前記支持部材の水平方向への移動を抑制するように、前記傾動機構の傾動量および前記伸縮機構の伸縮量を単位移動毎に繰り返し設定して、この設定された傾動量および伸縮量に応じて前記傾動機構および前記伸縮機構を制御し、
前記水平移動用操作手段が操作されると、前記検出手段による検出結果に基づいて、前記支持部材の垂直方向への移動を抑制するように、前記傾動機構の傾動量および前記伸縮機構の伸縮量を単位移動毎に繰り返し設定して、この設定された傾動量および伸縮量に応じて前記傾動機構および前記伸縮機構を制御することを特徴とする立ち上がり補助装置。
【請求項2】
前記支持部材が移動可能な範囲に相当する座標空間について、この座標空間を前記垂直方向および前記水平方向にて格子状に分割する複数の格子点に関する座標情報と、各格子点間移動をするために必要な前記傾動量および前記伸縮量に相当する格子点間移動情報とが、予め記憶される記憶手段を備え、
前記制御手段は、前記座標情報に基づいて前記複数の格子点のうち移動目標点となる格子点を求めてこの移動目標点までの前記傾動量および前記伸縮量を算出した後、移動方向の格子点に応じた前記格子点間移動情報に基づいて前記傾動量および前記伸縮量を格子点間移動毎に繰り返し設定することを特徴とする請求項1に記載の立ち上がり補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被補助者の立ち上がりを補助する立ち上がり補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、椅子等に着座した姿勢から自力で立ち上がることが困難な高齢者・身障者等の被補助者の立ち上がりを補助する立ち上がり補助装置に関する技術として、下記特許文献1に開示される移乗機が知られている。この特許文献1には、被補助者の立ち上がりを補助する移乗機として、台車本体に対して座面およびアームが鉛直方向に昇降することで座面に座る被補助者の立ち上がりを補助する構成と、台車本体に対してアームが回転することで座面に座る被補助者の立ち上がりを補助する構成とが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4746147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に開示されるような構成では、直線運動するアームの動きもしくは直線運動の変換に応じて回転運動するアームの動きに応じて被補助者が持ち上げられることとなる。そうすると、被補助者が持ち上げられる軌跡が単調な軌跡(例えば、直線的な軌跡)となることから、人が自然に立ち上がる動作の軌跡と大きく異なってしまい、被補助者の体への負担が大きくなるという問題がある。また、この問題を解決するために、被補助者の胸部を支える支持部材を曲線的に移動させる機構を採用したとしても、被補助者や介護者等が、所望している位置調整に応じた操作を直感的に行うことは困難である。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、被補助者を支える支持部材の位置調整を容易に行うことができる立ち上がり補助装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載の請求項1の発明では、被補助者の立ち上がりを補助する立ち上がり補助装置(10)であって、ベース(20)と、伸縮可能に構成され一端が前記ベースに対して傾動可能に連結されるアーム(30)と、前記アームを前記ベースに対して傾動させる傾動機構(50)と、前記アームを伸縮させる伸縮機構(60)と、前記アームの他端に連結されて前記被補助者の胸部を支える支持部材(40)と、前記支持部材を前記ベースが設置される設置面(S)に対して垂直方向に移動させる際に操作される垂直移動用操作手段(74,75)と、前記支持部材を前記設置面に対して水平方向に移動させる際に操作される水平移動用操作手段(76,77)と、前記傾動機構の傾動状態および前記伸縮機構の伸縮状態を検出する検出手段(52,62)と、前記垂直移動用操作手段および前記水平移動用操作手段による操作に応じて前記傾動機構および前記伸縮機構を制御する制御手段(71)と、を備え、前記制御手段は、前記垂直移動用操作手段が操作されると、前記検出手段による検出結果に基づいて、前記支持部材の水平方向への移動を抑制するように、前記傾動機構の傾動量および前記伸縮機構の伸縮量を単位移動毎に繰り返し設定して、この設定された傾動量および伸縮量に応じて前記傾動機構および前記伸縮機構を制御し、前記水平移動用操作手段が操作されると、前記検出手段による検出結果に基づいて、前記支持部材の垂直方向への移動を抑制するように、前記傾動機構の傾動量および前記伸縮機構の伸縮量を単位移動毎に繰り返し設定して、この設定された傾動量および伸縮量に応じて前記傾動機構および前記伸縮機構を制御することを特徴とする。
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明では、被補助者の胸部を支える支持部材を、設置面に対して、垂直方向に移動させる際に操作される垂直移動用操作手段と、水平方向に移動させる際に操作される水平移動用操作手段とが設けられている。そして、制御手段は、垂直移動用操作手段が操作されると、検出手段による検出結果に基づいて、支持部材の水平方向への移動を抑制するように、傾動量および伸縮量を単位移動毎に繰り返し設定して、この設定された傾動量および伸縮量に応じて傾動機構および伸縮機構を制御する。また、制御手段は、水平移動用操作手段が操作されると、検出手段による検出結果に基づいて、支持部材の垂直方向への移動を抑制するように、傾動量および伸縮量を単位移動毎に繰り返し設定して、この設定された傾動量および伸縮量に応じて傾動機構および伸縮機構を制御する。
【0008】
これにより、支持部材を傾動機構および伸縮機構により曲線的に移動させることができる。特に、支持部材を一方向に移動させたい場合でも、垂直移動用操作手段を操作することで水平方向への移動が抑制されるようにして支持部材が垂直方向に移動し、水平移動用操作手段を操作することで垂直方向への移動が抑制されるようにして支持部材が水平方向に移動する。したがって、所望している位置調整に応じた操作を直感的に行うことができるので、被補助者を支える支持部材の位置調整を容易に行うことができる。
【0009】
請求項2の発明では、支持部材が移動可能な範囲に相当する座標空間を垂直方向および水平方向にて格子状に分割する複数の格子点に関する座標情報と、各格子点間移動をするために必要な傾動量および伸縮量に相当する格子点間移動情報とが、記憶手段に予め記憶されている。制御手段は、座標情報に基づいて複数の格子点のうち移動目標点となる格子点を求めてこの移動目標点までの傾動量および伸縮量を算出した後、移動方向の格子点に応じた格子点間移動情報に基づいて傾動量および伸縮量を格子点間移動毎に繰り返し設定する。
【0010】
これにより、支持部材がいずれかの格子点に相当する位置まで移動した後は、格子点間移動情報に基づいて傾動量および伸縮量を設定することで、傾動量および伸縮量を単位移動毎に繰り返し算出する必要もないので、傾動量および伸縮量の設定に関して制御負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る立ち上がり補助装置の正面図である。
図2図1の立ち上がり補助装置の側面図である。
図3】立ち上がり補助装置から胸当て等を外した状態を示す斜視図である。
図4】支持部の開閉状態を説明する説明図である。
図5図1の立ち上がり補助装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
図6】操作部の4つのキーの配置を示す説明図である。
図7】移動開始原点座標の算出方法を説明する説明図である。
図8】式(3)により算出される伸縮長さLvを説明する説明図である。
図9】式(4)により算出される伸縮長さLhを説明する説明図である。
図10】収容状態の立ち上がり補助装置を示す側面図である。
図11】第2実施形態における垂直方向移動処理および水平方向移動処理の要部を示す説明図である。
図12】垂直方向移動処理における目標格子点Poの設定方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る立ち上がり補助装置の一実施形態について図を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る立ち上がり補助装置10の正面図である。図2は、図1の立ち上がり補助装置10の側面図である。図3は、立ち上がり補助装置10から胸当て40等を外した状態を示す斜視図である。図4は、支持部41a,41bの開閉状態を説明する説明図である。図5は、図1の立ち上がり補助装置10の電気的構成を概略的に示すブロック図である。なお、図3では、便宜上、アーム本体32aの第2レール部材34等の図示を省略している。また、図4では、胸当て40の被補助者が接触するカバー部等が外されて胸当て用フレーム40aが露出する状態を示している。
【0013】
本実施形態に係る立ち上がり補助装置10は、椅子等に着座した姿勢から自力で立ち上がることが困難な高齢者・身障者等の被補助者の立ち上がりを補助する装置である。この立ち上がり補助装置10は、図1図5に示すように、主に、ベース20と、伸縮可能なアーム30と、胸当て40と、傾動機構50と、伸縮機構60と、傾動機構50および伸縮機構60を制御する制御ユニット70とを備えている。
【0014】
ベース20は、ベース本体21および4つの車輪22を備えている。ベース本体21は、被補助者が立ち上がり補助時に足を乗せるためのものであって、被補助者が踏む場所を明確にするため、その上面に足型21aが形成されている。各車輪22は、ベース本体21の下面の四隅に設けられている。また、ベース本体21の前端にはアーム30等を支える一対の支柱23a,23bが立設するように配置されている。また、両支柱23a,23bの上端部には、足型21aに足を乗せた被補助者の膝を支持するための膝当て24が設けられている。
【0015】
アーム30は、図3に示すように、両支柱23a,23bに対してそれぞれ傾動可能に連結される傾動片31a,31bと、伸縮可能な一対のアーム本体32a,32bとを備えている。アーム本体32aは、一端が傾動片31aに固定される第1レール部材33と、この第1レール部材33に対し摺動自在に設けられる第2レール部材34と、第2レール部材34に対してその長手方向の沿い回転自在に支持されるスクリューネジ35と、第1レール部材33に固定されて、スクリューネジ35の回転に応じて当該スクリューネジ35をその長手方向に相対的に移動させるナット部材36と、を備えている。また、アーム本体32bもアーム本体32aと同様に、一端が傾動片31bに固定される第1レール部材33、第2レール部材34、スクリューネジ35およびナット部材36を備えている。このように構成されるアーム本体32a,32bは、そのスクリューネジ35の回転に応じて第1レール部材33に対して第2レール部材34が相対的に摺動(スライド)することで、伸縮するように構成されている。
【0016】
これにより、アーム30は、伸縮可能に構成され、一端がベース20に対して傾動可能に連結されることとなる。
【0017】
胸当て40は、被補助者の胸部を支える支持部材であって、アーム30の両アーム本体32a,32bの他端に連結されて固定されている。胸当て40の両側部には、一対の支持部41a,41bが設けられている。
【0018】
両支持部41a,41bは、胸部が胸当て40に支持された被補助者の脇下を支持する部材である。両支持部41a,41bは、胸当て40と両支持部41a,41bとにより囲まれる空間に被補助者が入り込みやすくするため、開閉自在に胸当て40に組み付けられている。図4に示すように、この両支持部41a,41bの開閉(回動)により支持部間の距離が調整されることとなる。特に、両支持部41a,41bは、その開閉(回動)位置が図略のロック機構によりロック自在に構成されている。
【0019】
傾動機構50は、アーム30をベース20に対して傾動させるための機構であって、減速機付の傾動用モータ51を備えている。傾動用モータ51は、ベース20の支柱に設置されており、制御ユニット70により駆動制御されて、図2に示す点Pを基準に、ベース20に対するアーム30の傾動角度θを調整するように機能する。この傾動用モータ51には、その回転角等を検出する検出手段としてセンサ52が設けられており、このセンサ52の検出結果が制御ユニット70に出力されるように構成されている。
【0020】
伸縮機構60は、アーム30を伸縮させるための機構であって、減速機付の伸縮用モータ61を備えている。伸縮用モータ61は、胸当て40の裏面近傍に設置されており、制御ユニット70により駆動制御されて、アーム30のスクリューネジ35を回転させることで、アーム30を伸縮させてその伸縮長さLを調整するように機能する。この伸縮用モータ61には、その回転角等を検出する検出手段としてセンサ62が設けられており、このセンサ62の検出結果が制御ユニット70に出力されるように構成されている。
【0021】
図5に示すように、制御ユニット70は、主に、立ち上がり補助装置10の全体的制御を司る制御部71を備えており、この制御部71に、メモリ72および操作部73などが接続されている。制御部71は、マイコンを主体として構成されるものであり、CPU、システムバス、入出力インタフェース等を有し、メモリ72とともに情報処理装置として機能している。メモリ72は、ROM、RAM、不揮発性メモリなどの公知の半導体メモリなどによって構成されており、立ち上がり補助処理を動作させる動作プログラムや各種制御パターンなどの様々なデータを記憶可能に構成されている。なお、制御部71は、「制御手段」の一例に相当し、メモリ72は、「記憶手段」の一例に相当し得る。
【0022】
図6は、操作部73の4つのキー74〜77の配置を示す説明図である。
操作部73は、胸当て40を移動させる際に操作される4つのキー74〜77(図6参照)を含めた複数のキーを備えており、使用者のキー操作に応じて制御部71に対して操作信号を与える構成をなしている。特に、キー74は、胸当て40をベース20が設置される設置面S(図2参照)に対して垂直方向上側に移動させる際に操作されるキーとして構成されており、キー75は、胸当て40を垂直方向下側に移動させる際に操作されるキーとして構成されている。また、キー76は、胸当て40を水平方向右側に移動させる際に操作されるキーとして構成されており、キー77は、胸当て40を水平方向左側に移動させる際に操作されるキーとして構成されている。なお、キー74およびキー75は、「垂直移動用操作手段」の一例に相当し、キー76およびキー77は、「水平移動用操作手段」の一例に相当し得る。
【0023】
次に、このように構成される立ち上がり補助装置10において、傾動機構50および伸縮機構60を制御部71にて制御することでアーム30および胸当て40をベース20に対して移動させる立ち上がり補助処理について、以下に説明する。
本実施形態では、被補助者に適した立ち上がり補助を実現するため、被補助者の立ち上がりを補助する際の胸当て40の軌跡が複数パターン用意されている。この胸当て40の軌跡は、傾動用モータ51および伸縮用モータ61を所定の制御パターンで駆動制御することでなされるもので、その軌跡に関連付けられた複数の制御パターンが予め設定されてメモリ72に記憶されている。そして、胸当て40の軌跡を選択する操作部73の操作に応じて制御部71による立ち上がり補助処理が開始され、選択された胸当て40の軌跡に対応してメモリ72から読み出された制御パターンに基づいて傾動用モータ51および伸縮用モータ61が駆動制御されることで、被補助者の立ち上がり補助が実施される。
【0024】
また、上記立ち上がり補助処理では、操作部73のキー74またはキー75の押圧操作により、その位置から胸当て40を垂直方向に移動させるための処理(以下、垂直方向移動処理ともいう)がなされ、操作部73のキー76またはキー77の押圧操作により、その位置から胸当て40を水平方向に移動させるための処理(以下、水平方向移動処理ともいう)がなされる。
【0025】
このように各キー74〜77の操作に応じてなされる垂直方向移動処理および水平方向移動処理について、図7図9を参照して説明する。なお、図7は、移動開始原点座標(xo,yo)の算出方法を説明する説明図である。図8は、式(3)により算出される伸縮長さLvを説明する説明図である。図9は、式(4)により算出される伸縮長さLhを説明する説明図である。
【0026】
まず、二次元座標での胸当て40の位置を算出する移動開始原点座標の算出方法について、図7を参照して説明する。
図2からわかるように、伸縮機構60によるアーム30のスライド方向は、傾動機構50によるアーム30の傾倒中心(回動中心)からずれているため、移動開始原点座標を算出する際には図7に示すオフセット距離Hを考慮する必要がある。そうすると、センサ52およびセンサ62の検出結果から求められる傾動角度αおよび伸縮長さLoにおける二次元座標での胸当て40の位置を移動開始原点座標(xo,yo)とするとき、この移動開始原点座標(xo,yo)は、以下の式(1)(2)で算出することができる。
xo=Lo×cos(α)−H×cos(90°−α) ・・・(1)
yo=Lo×sin(α)+H×sin(90°−α) ・・・(2)
【0027】
次に、操作部73のキー74またはキー75が押圧操作されることでなされる垂直方向移動処理時について、図8を参照して説明する。
例えば、キー74が押圧操作されることで垂直方向上側への移動が指示されると、まず、上記式(1)(2)により移動開始原点座標(xo,yo)が算出される。そして、傾動角度がαからβになるように所定角度分だけ変更する際に、x座標がxoを維持するために必要な伸縮長さLvが下記の式(3)により算出される。なお、上記所定角度は、予め決められた所定値であり、傾動機構50による傾動可能な角度に対して十分に小さな値に設定されている。
Lv=(xo+H×cos(90°−β))/cos(β) ・・・(3)
【0028】
上記式(3)により伸縮長さLvが算出されると、制御部71は、傾動角度βとなるように傾動機構50の傾動用モータ51を駆動するとともに、伸縮長さLvとなるように伸縮機構60の伸縮用モータ61を駆動する。これにより、胸当て40は、(xo,yo)から目標座標(xo,y1)に向けて垂直移動することとなる。
【0029】
その際、制御部71は、傾動角度がβとなるタイミングと、伸縮長さがLvとなるタイミングとが一致するように傾動用モータ51および伸縮用モータ61を駆動することで、垂直方向への移動の直線性を高めている。特に、本実施形態では、伸縮長さがLvとなるまでに必要な伸縮用モータ61の回転量と傾動角度がβとなるまでに必要な傾動用モータ51の回転量とを比較して必要な回転量が少ない方のモータの回転数を低下させて、上記タイミングの一致を図っている。
【0030】
上述のように算出された伸縮長さLvに応じて胸当て40が(xo,yo)から目標座標(xo,y1)に移動している際に、(xo,y1)を移動開始原点座標として傾動角度をβからさらに上記所定角度分だけ変更する際に、x座標がxoを維持するために必要な伸縮長さLvが上記式(3)により算出される。そして、胸当て40が(xo,y1)に到達した後、改めて算出された伸縮長さLvに応じて胸当て40を(xo,y1)から新たな目標座標に向けて垂直移動させる。このような伸縮長さLvの算出と目標座標への垂直移動とをキー74の押圧操作中に繰り返すことで、胸当て40が垂直方向上側に移動することなる。すなわち、胸当て40の水平方向への移動を抑制するように、傾動機構50の傾動量および伸縮機構60の伸縮量を単位移動毎に繰り返し設定して、この設定された傾動量および伸縮量に応じて傾動機構50および伸縮機構60を制御する。
【0031】
次に、操作部73のキー76またはキー77が押圧操作されることでなされる水平方向移動処理時について、図9を参照して説明する。
例えば、キー77が押圧操作されることで水平方向左側への移動が指示されると、まず、上記式(1)(2)により移動開始原点座標(xo,yo)が算出される。そして、傾動角度がαからβになるように上記所定角度分だけ変更する際に、y座標がyoを維持するために必要な伸縮長さLhが下記の式(4)により算出される。
Lh=(yo−H×sin(90°−β))/sin(β) ・・・(4)
【0032】
上記式(4)により伸縮長さLhが算出されると、制御部71により、傾動角度βとなるように傾動機構50の傾動用モータ51が駆動されるとともに、伸縮長さLhとなるように伸縮機構60の伸縮用モータ61が駆動される。これにより、胸当て40は、(xo,yo)から目標座標(x1,yo)に向けて垂直移動することとなる。
【0033】
その際、制御部71は、P制御、PI制御などのフィードバック制御により、傾動角度がβとなるタイミングと伸縮長さがLvとなるタイミングとが一致するように、傾動用モータ51および伸縮用モータ61を駆動することで、水平方向への移動の直線性を高めている。特に、本実施形態では、伸縮長さがLhとなるまでに必要な伸縮用モータ61の回転量と傾動角度がβとなるまでに必要な傾動用モータ51の回転量とを比較して必要な回転量が少ない方のモータの回転数を低下させて、上記タイミングの一致を図っている。
【0034】
上述のように算出された伸縮長さLhに応じて胸当て40が(xo,yo)から目標座標(x1,yo)に移動している際に、(x1,yo)を移動開始原点座標として傾動角度をβからさらに上記所定角度分だけ変更する際に、y座標がyoを維持するために必要な伸縮長さLhが上記式(4)により算出される。そして、胸当て40が(x1,yo)に到達した後、改めて算出された伸縮長さLhに応じて胸当て40を(x1,yo)から新たな目標座標に向けて垂直移動させる。このような伸縮長さLhの算出と目標座標への垂直移動とをキー77の押圧操作中に繰り返すことで、胸当て40が水平方向左側に移動することなる。すなわち、胸当て40の垂直方向への移動を抑制するように、傾動機構50の傾動量および伸縮機構60の伸縮量を単位移動毎に繰り返し設定して、この設定された傾動量および伸縮量に応じて傾動機構50および伸縮機構60を制御する。
【0035】
図10は、収容状態の立ち上がり補助装置10を示す側面図である。なお、図10では、便宜上、アーム30の傾動片31aを保護するカバー等の図示を省略している。
また、このように構成される立ち上がり補助装置10は、収容時には、操作部73に対する収容用の操作に応じて、制御部71により、図10に示すように、アーム30が収縮するように伸縮機構60が制御されるとともに、アーム30がベース20に向かって傾動するように傾動機構50が制御される。これにより、ベース20に対して全長が短くなったアーム30が近接するため、立ち上がり補助装置10が折り畳まれて収容に適したコンパクトな状態となる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る立ち上がり補助装置10では、被補助者の胸部を支える胸当て40を、設置面Sに対して、垂直方向に移動させる際に操作されるキー74,75と、水平方向に移動させる際に操作されるキー76,77とが設けられている。そして、制御部71は、キー74,75が操作されると、センサ52およびセンサ62による検出結果に基づいて、胸当て40の水平方向への移動を抑制するように、傾動機構50の傾動量および伸縮機構60の伸縮量を単位移動毎に繰り返し設定して、この設定された傾動量および伸縮量に応じて傾動機構50および伸縮機構60を制御する。また、制御部71は、キー76,77が操作されると、センサ52およびセンサ62による検出結果に基づいて、胸当て40の垂直方向への移動を抑制するように、傾動機構50の傾動量および伸縮機構60の伸縮量を単位移動毎に繰り返し設定して、この設定された傾動量および伸縮量に応じて傾動機構50および伸縮機構60を制御する。
【0037】
これにより、胸当て40を傾動機構50および伸縮機構60により曲線的に移動させることができる。特に、胸当て40を一方向に移動させたい場合でも、キー74,75を操作することで水平方向への移動が抑制されるようにして胸当て40が垂直方向に移動し、キー76,77を操作することで垂直方向への移動が抑制されるようにして胸当て40が水平方向に移動する。したがって、所望している位置調整に応じた操作を直感的に行うことができるので、被補助者を支える胸当て40の位置調整を容易に行うことができる。
【0038】
なお、垂直方向移動処理および水平方向移動処理では、単位移動毎に傾動角度を所定角度分だけ変更することを前提に垂直方向または水平移動に必要な伸縮長さを繰り返し算出することに限らず、伸縮長さを所定長さ分だけ変更することを前提に垂直方向または水平移動に必要な傾動角度の差分を繰り返し算出してもよい。
【0039】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る立ち上がり補助装置について、図11および図12を用いて説明する。なお、図11は、第2実施形態における垂直方向移動処理および水平方向移動処理の要部を示す説明図である。図12は、垂直方向移動処理における目標格子点Poの設定方法を説明する説明図である。
本第2実施形態では、格子点間移動情報を利用することで垂直方向移動処理および水平方向移動処理における演算処理負荷を軽減する点が主に上記第1実施形態と異なる。このため、第1実施形態と実質的に同様の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
本実施形態では、垂直方向移動処理および水平方向移動処理における演算処理負荷を軽減することを目的に、図11に示すように、胸当て40が二次元座標にて移動可能な範囲に相当する座標空間を垂直方向および水平方向にて格子状に分割する複数の格子点Pnが予め設定される。そして、この複数の格子点Pnに関する座標情報と、各格子点間移動をするために必要な傾動機構50の傾動量および伸縮機構60の伸縮量に相当する格子点間移動情報とが、メモリ72に予め記憶されている。
【0041】
例えば、図11の格子点P1から格子点P2に移動するために必要な傾動量および伸縮量、格子点P3から格子点P4に移動するために必要な傾動量および伸縮量など、隣り合う格子点間全てについて傾動量および伸縮量が予め算出されて、格子点間移動情報としてメモリ72に記憶されている。特に、必要な傾動量および伸縮量は、格子点から隣接する次の格子点に移動する際にその方向にて移動の直線性が保たれるように設定されている。
【0042】
そして、垂直方向移動処理および水平方向移動処理では、座標情報に基づいて複数の格子点Pnのうち移動目標点となる格子点(以下、目標格子点Poともいう)を求めてこの目標格子点Poまでの傾動量および伸縮量を算出した後、移動方向の格子点に応じた格子点間移動情報に基づいて傾動量および伸縮量を格子点間移動毎に繰り返し設定する。
【0043】
具体的には、キー74〜77のいずれかが押圧操作されると、まず、上記式(1)(2)により移動開始原点座標(xo,yo)が算出される。次に、この移動開始原点座標(xo,yo)から最も近い格子点を求めて、この最も近い格子点に対して指示方向に位置する格子点が上記目標格子点Poとして設定される。
【0044】
例えば、キー74が押圧操作されることで垂直方向上側への移動が指示されて、図12に示すように移動開始原点座標(xo,yo)が算出されると、この移動開始原点座標(xo,yo)から最も近い格子点(図12のPm参照)が求められる。そして、この格子点Pmに対して垂直方向上側に位置する格子点が上記目標格子点Poとして設定される。
【0045】
このように上記目標格子点Poが設定されると、移動開始原点座標(xo,yo)から目標格子点Poに向かうように、制御部71により、傾動機構50の傾動用モータ51が駆動されるとともに伸縮機構60の伸縮用モータ61が駆動される。これにより、胸当て40は、(xo,yo)から目標格子点Poに向けて移動することとなる。
【0046】
上述のように胸当て40が目標格子点Poに移動している際に、この目標格子点Poの垂直方向上側に位置する格子点が次の目標格子点Poに設定される。次に、前回の目標格子点Poから次の目標格子点Poまで移動するための傾動量および伸縮量に相当する格子点間移動情報がメモリ72から読み出される。そして、胸当て40が前回の目標格子点Poに到達すると、上述のように読み出された格子点間移動情報に基づいて、次の目標格子点Poに向かうように、傾動機構50の傾動用モータ51が駆動されるとともに伸縮機構60の伸縮用モータ61が駆動される。これにより、胸当て40は、次の目標格子点Poに向けて垂直移動する。
【0047】
このような垂直方向上側に位置する目標格子点Poへの垂直移動をキー74の押圧操作中に繰り返すことで、胸当て40が垂直方向上側に移動することなる。すなわち、胸当て40の水平方向への移動を抑制するように、傾動機構50の傾動量および伸縮機構60の伸縮量を単位移動(格子間移動)毎に繰り返し設定して、この設定された傾動量および伸縮量に応じて傾動機構50および伸縮機構60を制御する。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る立ち上がり補助装置10では、複数の格子点Pnに関する座標情報と、各格子点間移動をするために必要な傾動量および伸縮量に相当する格子点間移動情報とが、メモリ72に予め記憶されている。制御部71は、座標情報に基づいて複数の格子点Pnのうち移動目標点となる目標格子点Poを求めてこの目標格子点Poまでの傾動量および伸縮量を算出した後、移動方向の格子点に応じた格子点間移動情報に基づいて傾動量および伸縮量を格子点間移動毎に繰り返し設定する。
【0049】
これにより、胸当て40がいずれかの格子点(目標格子点Po)に相当する位置まで移動した後は、格子点間移動情報に基づいて傾動量および伸縮量を設定することで、傾動量および伸縮量を単位移動毎に繰り返し算出する必要もないので、傾動量および伸縮量の設定に関して制御負荷を軽減することができる。
【0050】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、以下のように具体化してもよい。
(1)傾動機構50は、上述したように減速機付の傾動用モータ51によりアーム30をベース20に対して傾動させるように構成されることに限らず、他のアクチュエータ等を用いてアーム30をベース20に対して傾動させるように構成されてもよい。
【0051】
(2)伸縮機構60は、上述したようにスクリューネジ35を回転させることでアーム30を伸縮させるように構成されることに限らず、伸縮可能に構成されるアームを他のアクチュエータ等を用いて伸縮させるように構成されてもよい。
【0052】
(3)立ち上がり補助装置10は、胸当て40および両支持部41a,41bにより被補助者の上半身を保持することに限らず、胸当て40のみにより被補助者の上半身を保持してもよいし、さらに被補助者の上半身等を支持する支持用部材をも用いて被補助者の上半身を保持してもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…立ち上がり補助装置
20…ベース
30…アーム
40…胸当て(支持部材)
50…傾動機構
52…センサ(検出手段)
60…伸縮機構
62…センサ(検出手段)
71…制御部(制御手段)
73…操作部
74,75…キー(垂直移動用操作手段)
76,77…キー(水平移動用操作手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12