(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
使用済みの研磨材を含む研磨材スラリーから、研磨材を再生する研磨材再生方法であって、当該研磨材が、酸化セリウムであり、かつ下記工程A〜Eを経て研磨材を再生するとともに、下記工程Dが下記工程B若しくは下記工程Cの後又は下記工程B若しくは下記工程Cと同時に行われ、
下記工程Dは、下記工程Eの直前までに行われることを特徴とする研磨材再生方法。
工程A:使用済みの研磨材を含む研磨材スラリーを回収するスラリー回収工程A
工程B:当該回収された研磨材スラリーに対し、無機塩としてアルカリ土類金属元素を含む金属塩を添加して研磨材を凝集させ、当該研磨材を母液より分離して濃縮する分離濃縮工程B
工程C:当該分離され、濃縮された研磨材を固液分離して回収する研磨材回収工程C
工程D:マグネティックフィルターにより、3000〜20000Gaussの範囲内の磁力及び0.5〜2.0L/minの範囲内の送液速度で、研磨材スラリーに混入する金属元素の粒子を濾過して取り除く濾過工程D
工程E:前記回収された研磨材の粒子径を調整する粒子径制御工程E
工程F:前記研磨材回収工程Cの後であって、前記粒子径制御工程Eの前に、前記回収された研磨材に対し濾過処理を施して2次濃縮を行う第2濃縮工程Fを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨材再生方法。
前記研磨材回収工程Cにおける研磨材の回収方法が、自然沈降によるデカンテーション分離法であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の研磨材再生方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本発明において示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0021】
以下、既存の研磨材、本発明に係る研磨材再生方法及び構成技術の詳細について説明する。
【0022】
〔研磨材〕
一般に、光学ガラスや半導体基板等の研磨材としては、ベンガラ(αFe
2O
3)、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、コロイダルシリカ等の微粒子を水や油に分散させてスラリー状にしたものが用いられているが、本発明の研磨材再生方法では、半導体基板の表面やガラスの研磨加工において、高精度に平坦性を維持しつつ、十分な加工速度を得るために、物理的な作用と化学的な作用の両方で研磨を行う、化学機械研磨(CMP)への適用が可能な酸化セリウム、ダイヤモンド、窒化ホウ素、炭化ケイ素、アルミナ、アルミナジルコニア及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の研磨材の回収に適用することを特徴とする。
【0023】
また、研磨材として使用される酸化セリウム(例えば、シーアイ化成社製、テクノライズ社製、和光純薬社製等)は、純粋な酸化セリウムよりは、バストネサイトと呼ばれる、希土類元素を多く含んだ鉱石を焼成した後、粉砕したものが多く利用されている。酸化セリウムが主成分ではあるが、その他成分として、ランタンやネオジウム、プラセオジウム等の希土類元素を含有し、酸化物以外にフッ化物等が含まれることもある。以下、使用される研磨材として酸化セリウムを用いて説明するが、一例であって、これに限定するものではない。
【0024】
本発明に使用される研磨材は、その成分及び形状に関しては、特に限定はなく、一般的に研磨材として市販されているものを使用することができ、研磨材含有量が50質量%以上である場合に、効果が大きく好ましい。
【0025】
次に、本発明の研磨材再生方法全体の工程フローについて、図を用いて説明する。
図1は、本発明の研磨材再生方法の基本的な工程フローの一例を示す模式図である。
本発明は、
図1で示すスラリー回収工程Aの前に行われる研磨工程で使用された使用済み研磨材を、再生研磨材として再生する研磨材再生方法である。研磨材の再生方法を説明する前に、研磨材による研磨工程について説明する。
【0026】
〔研磨工程〕
ガラス基板の研磨を例にとると、研磨工程では、研磨材スラリーの調製、研磨加工、研磨部の洗浄で一つの研磨工程を構成しているのが一般的である。
図1に示した研磨工程の全体の流れとしては、研磨機1は、不織布、合成樹脂発泡体、合成皮革などから構成される研磨布Kを貼付した研磨定盤2を有しており、この研磨定盤2は回転可能となっている。研磨作業時には、ケイ素を主成分とする被研磨物(例えば、光学ガラス、情報記録媒体用ガラス基板、シリコンウェハー等)3を、保持具Hを用いて、所定の押圧力Nで上記研磨定盤2に押し付けながら、研磨定盤2を回転させる。同時に、スラリーノズル5から、ポンプPを介して予め調製した研磨材液4(研磨材スラリー)を供給する。使用後の研磨材液4(使用済みの研磨材を含む研磨材スラリー)は、流路6を通じてスラリー槽T
1に貯留され、研磨機1とスラリー槽T
1との間を繰り返し循環する。
【0027】
また、研磨機1を洗浄するための洗浄水7は、洗浄水貯蔵槽T
2に貯留されており、洗浄水噴射ノズル8より、研磨部に吹き付けて洗浄を行い、研磨材を含む洗浄液10(使用済みの研磨材を含む研磨材スラリー)として、ポンプを介し、流路9を通じて、洗浄液貯蔵槽T
3に貯留される。この洗浄液貯蔵槽T
3は、洗浄(リンス)で使用された後の洗浄水を貯留するための槽である。この洗浄液貯蔵槽T
3内は、沈殿、凝集を防止するため、常時撹拌羽根によって撹拌される。
【0028】
また、研磨により生じ、スラリー槽T
1に貯留された後に循環して使用される研磨材液4と、洗浄液貯蔵槽T
3に貯留される洗浄液10は、研磨材粒子と共に、研磨された被研磨物3より削り取られた被研磨物由来のガラス成分等を含有した状態になっている。
【0029】
研磨工程における具体的な方法を説明する。
(1)研磨材スラリーの調製
研磨材の粉体を水等の溶媒に対して1〜40質量%の濃度範囲となるように添加、分散させて研磨材スラリーを調製する。この研磨材スラリーは、研磨機1に対して、
図1で示したように循環供給して使用される。研磨材として使用される粒子は、平均粒子径が数十nmから数μmの大きさの粒子が使用される。
【0030】
また、循環供給して使用される研磨材スラリーには、分散剤等を添加することにより、研磨材粒子の凝集を防止するとともに、撹拌機等を用いて常時撹拌して分散状態を維持することが好ましい。一般には、研磨機1の横に研磨材スラリー用のタンクを設置し、撹拌機等を使用して常時分散状態を維持し、供給用ポンプを使用して研磨機1に循環供給する方法を採用することが好ましい。
【0031】
(2)研磨
図1に示すように、研磨パット(研磨布K)と被研磨物3を接触させ、接触面に対して研磨材スラリーを供給しながら、加圧条件下でパットFと被研磨物3を相対運動させる。
【0032】
(3)洗浄
研磨された直後の被研磨物3及び研磨機1には大量の研磨材が付着している。そのため、研磨した後に研磨材スラリーの代わりに水等を供給し、被研磨物3及び研磨機1に付着した研磨材の洗浄が行われる。この際に、研磨材を含む洗浄液10は系外9に排出される。
【0033】
この洗浄操作で、一定量の研磨材が系外9に排出されるため、系内の研磨材量が減少する。この減少分を補うために、スラリー槽T
1に対して新たな研磨材スラリーを追加する。追加の方法は1加工毎に追加を行っても良いし、一定加工毎に追加を行っても良いが、溶媒に対して十分に分散された状態の研磨材を添加することが望ましい。
【0034】
〔使用済みの研磨材スラリー〕
本発明でいう使用済み研磨材スラリーとは、洗浄液貯蔵槽T
3に貯蔵される研磨材スラリー及び研磨機1、スラリー槽T
1及び洗浄液貯蔵槽T
3から構成される研磨工程の系外に排出される研磨材スラリーであって、主として以下の二種類がある。
【0035】
一つ目は、洗浄操作で排出された洗浄液を含む洗浄液貯蔵槽T
3に貯蔵されている研磨材スラリー(リンススラリー)であり、二つ目は一定加工回数使用された後に廃棄される、スラリー槽T
1に貯留されている使用済みの研磨材スラリー(ライフエンドスラリー)である。
【0036】
洗浄水を含むリンススラリーの特徴として、以下の2点が挙げられる。
【0037】
1)洗浄時に排出されるため、洗浄水が大量に混入し、研磨工程の系内の研磨材スラリーと比較して研磨材濃度が著しく低い。
【0038】
2)研磨布K等に付着している切削されたガラス成分も、洗浄時にこのリンススラリー中に混入する。
【0039】
一方、ライフエンドスラリーの特徴としては、新品の研磨材スラリーと比較してガラス成分の濃度が高くなっていることが挙げられる。
【0040】
〔研磨材再生方法〕
使用済みの研磨材を含む研磨材スラリーから高純度の研磨材を再生し、再生研磨材として再利用する本発明の研磨材再生方法は、
図1に示すように、スラリー回収工程A、分離濃縮工程B、研磨材回収工程C、第2濃縮工程F、濾過工程D及び粒子径制御工程Eの6つの工程を備える。なお、第2濃縮工程F及び粒子径制御工程Eは、再生研磨材として再利用する研磨材の種類、必要とされる濃度、純度等に応じて、どちらか一方又は両方の工程を適宜省略することができる。
【0041】
(1:スラリー回収工程A)
スラリー回収工程Aは、使用済みの研磨材を含む研磨材スラリーを回収する工程である。なお、回収された研磨材スラリーには、おおむね0.1〜40質量%の範囲で研磨材が含まれる。
【0042】
回収された研磨材スラリーは、回収後、直ちに分離濃縮工程Bに進めても良いし、一定量を回収するまで貯蔵しても良い。いずれの場合でも回収された研磨材スラリーは、常時撹拌し、粒子の凝集を防止し、安定した分散状態を維持することが好ましい。
【0043】
本発明においては、スラリー回収工程Aで回収された2種類の研磨材スラリーを混合して母液として調製した後、分離濃縮工程Bで処理する方法であっても、あるいはスラリー回収工程Aで回収したリンススラリーとライフエンドスラリーを、それぞれ独立した母液として、分離濃縮工程Bで、それぞれ処理してもよい。
【0044】
(2:分離濃縮工程B)
分離濃縮工程Cは、回収した研磨材スラリーに対し、無機塩としてアルカリ土類金属元素を含む金属塩を添加して研磨材を凝集させ、当該研磨材を母液より分離して濃縮する工程である。回収された使用済み研磨材スラリーは、被研磨物由来のガラス成分等が混入した状態にある。また、洗浄水の混入により濃度が低下しており、回収した研磨材を研磨加工に再度使用するためには、ガラス成分等の分離と、研磨材成分の濃縮化を行う必要がある。
【0045】
具体的には、分離濃縮工程Bは、スラリー回収工程Aで回収した研磨材スラリー(母液)に対して、特に、pH調整剤を添加しない状態で無機塩としてアルカリ土類金属塩を添加し、研磨材のみを凝集させ、非研磨成分(ガラス成分)を凝集させない状態で、該研磨材を母液より分離して濃縮する。これにより、研磨材成分のみを凝集沈殿させた後、ガラス成分の大半を上澄みに存在させて凝集沈殿を分離することができるため、研磨材成分とガラス成分との分離と、研磨材スラリーの濃縮を同時に行うことができる。
【0046】
〈アルカリ土類金属塩〉
本発明に係るアルカリ土類金属塩としては、例えば、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩を挙げることができるが、更には、本発明においては、広義として周期律表の第2族に属する元素も、アルカリ土類金属であると定義する。したがって、ベリリウム塩、マグネシウム塩も本発明でいうアルカリ土類金属塩に属する。
【0047】
また、本発明に係るアルカリ土類金属塩としては、水への溶解度が高い、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩等の形態であることが好ましい。
【0048】
また、本発明に適用可能なアルカリ土類金属塩としては、添加による溶液のpH変化が小さいマグネシウム塩が好ましい。マグネシウム塩としては、電解質として機能するものであれば限定はないが、水への溶解性が高い点から、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなどが好ましく、溶液のpH変化が小さく、沈降した研磨材及び廃液の処理が容易である点から、塩化マグネシウム及び硫酸マグネシウムが特に好ましい。
【0049】
〈無機塩の添加方法〉
次いで、本発明に係る無機塩の研磨材スラリー(母液)に対する添加方法を説明する。
【0050】
a)無機塩の濃度
添加する無機塩は、粉体を研磨材スラリー(母液)に直接供給しても良いし、水等の溶媒に溶解させてから研磨材スラリー(母液)に添加してもよいが、研磨材スラリーに添加した後に均一な状態になるように、溶媒に溶解させた状態で添加することが好ましい。
【0051】
好ましい無機塩の濃度は、0.5〜50質量%の濃度範囲の水溶液とすることである。系のpH変動を抑え、ガラス成分との分離を効率化するためには、10〜40質量%の濃度範囲内であることがより好ましい。
【0052】
b)無機塩の添加温度
無機塩を添加する際の温度は、回収した研磨材スラリーが凍結する温度以上であって、90℃までの範囲であれば適宜選択することができるが、ガラス成分との分離を効率的に行う観点からは、10〜40℃の範囲内であることが好ましく、15〜35℃の範囲内であることがより好ましい。
【0053】
c)無機塩の添加速度
無機塩の研磨材スラリー(母液)に対する添加速度としては、回収した研磨材スラリー中での無機塩濃度として、局部的に高濃度領域が発生することなく、均一になるように添加することが好ましい。1分間当たりの添加量が全添加量の20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0054】
d)添加の際のpH値
本発明の研磨材再生方法においては、分離濃縮工程Bで無機塩を添加する際に、あらかじめ回収した研磨材スラリーのpH値を調整しないことが好ましい態様である。一般に、回収した研磨材スラリーのpH値は、ガラス成分を含有しているためややアルカリ性を示し、8〜10未満の範囲であり、本発明においては、母液の25℃換算のpH値が10.0未満の条件で分離濃縮を行うことが好ましい。これは、pH値が10以上である場合は、被研磨物3であるガラス成分が凝集しやすく添加剤の添加により研磨材とともに凝集・沈降してしまうが、pH値が10未満であれば、溶解度の差が大きいため、2次粒子の状態に凝集した研磨材成分にガラス成分が取り込まれることが少ないためである。
【0055】
本発明において、pH値は、25℃で、ラコムテスター卓上型pHメーター(アズワン(株)製 pH1500)を使用して測定した値を用いる。
【0056】
本発明においては、無機塩を添加し、その後該濃縮物を分離するまで無機塩添加時のpH値以下に維持することが好ましい。ここでいう無機塩添加時のpH値とは、無機塩の添加が終了した直後のpH値のことをいう。
【0057】
したがって、沈殿した濃縮物を分離するまで、無機塩添加時のpH値以下の条件、具体的には10.0未満の条件を維持することが好ましい。
【0058】
e)無機塩添加後の撹拌
無機塩を添加した後、少なくとも10分以上撹拌を継続することが好ましく、より好ましくは30分以上である。無機塩を添加すると同時に研磨材粒子の凝集が開始されるが、撹拌状態を維持することで凝集状態が系全体で均一となり濃縮物の粒度分布が狭くなり、その後の分離が容易となる。
【0059】
(3:研磨材回収工程C)
研磨材回収工程Cは、分離濃縮工程Bにて分離され、濃縮された研磨材を固液分離して濃縮物を回収する工程である。
【0060】
無機塩の添加により凝集した研磨材の濃縮物と上澄み液とを分離する方法としては、一般的な濃縮物の固液分離法を採用することができる。すなわち、自然沈降を行って上澄み部分だけを分離する方法、あるいは遠心分離機等の機械的な方法を用いて強制的に分離する方法等を適用することができるが、本発明においては、下部に沈降する濃縮物に被研磨物3由来のガラス成分等の不純物を極力混入させることなく、高純度の再生研磨材を得る観点からからは、濃縮方法としては、自然沈降を適用することが好ましい。
【0061】
無機塩の添加により、回収研磨材粒子は凝集し、この状態で上澄み液と分離されていることから、濃縮物は、回収工程Aにて回収された研磨材スラリーと比較して比重が増加し、濃縮されていることとなる。この濃縮物には、回収された研磨材スラリー以上の濃度で使用済みの研磨材が含有されている。
【0062】
(4:第2濃縮工程F)
第2濃縮工程Fは、研磨材回収工程Cで回収した研磨材スラリーから使用済み研磨材を含む濃縮物を分離する工程である。第2濃縮工程Fで用いられる分離方法には、不純物の混入を防止するため自然沈降法による分離を適用している。この濃縮物には、上澄み液の一部が分離・除去されていない状態で混入しているため、更に、第2濃縮工程Fとして、濾過処理により濃縮物に混入している上澄み液を除去して、回収された使用済み研磨材の純度をより一層高くする処理を施す。この濾過処理は、分離濃縮工程Bより前に実施することも可能ではあるが、回収スラリー中に存在するガラス成分による目詰まりを防ぐため、分離濃縮工程B及び研磨材回収工程Cにおいて一定量のガラス成分等を除去した後に、第2濃縮工程Fを適用することが、生産効率の観点から好ましい。また、第2濃縮工程Fは、より純度の高い再生研磨材を得るために、適用することが望ましい工程であるが、再生する研磨材の種類、必要とされる濃度等に応じて適宜省略することができる。
【0063】
第2濃縮工程Fで用いる濾過フィルターとしては、特に制限はなく、例えば、中空糸フィルター、金属フィルター、糸巻フィルター、セラミックフィルター、ロール型ポリプロピレン製フィルター等を上げることができるが、本発明では、その中でも、セラミックフィルターを用いることが好ましい。
【0064】
本発明に適用可能なセラミックフィルターとしては、例えば、フランスTAMI社製のセラミックフィルター、ノリタケ社製セラミックフィルター、日本ガイシ社製セラミックフィルター(例えば、セラレックDPF、セフィルト等)等を用いることができる。
【0065】
(5:濾過工程D)
本発明の研磨材再生方法においては、第2濃縮工程Fの後に、マグネティックフィルターにより、使用済みの研磨材を含む研磨材スラリーに含まれる金属元素の粒子、例えば、分離濃縮工程Bにおいて添加されたアルカリ土類金属塩により混入した金属元素の粒子等、各工程における操作、装置等から混入した金属元素の粒子を濾過して取り除く濾過工程Dを備える。
【0066】
濾過工程Dにおいて用いられるマグネティックフィルターは、例えば、永久磁石、電磁石等の材料からなるフィルター部分を備える。研磨材を含む濃縮物等の液は、永久磁石、電磁石等の材料からなるフィルターを通過すると、上述した不純物である金属元素の粒子がフィルターの磁力により引きつけられることで研磨材から取り除かれる。また、マグネティックフィルターの材料として電磁石を用いる場合には、通電のオンオフにより磁力を簡便に制御することができる。
また、マグネティックフィルターの具体的な形状は、特に限定されないが、例えば、研磨材を含む溶液又は濃縮物が通過する流路に沿って棒状に形成されていてもよいし、溶液又は濃縮物が流れる方向の直交方向に沿って棒状に形成されていてもよい。また、棒状のマグネティックフィルターは、流路内に1つ又は複数形成されていてもよい。また、溶液又は濃縮物が通過する流路は、径の大きい部分(たまり部分)を1つ又は複数有していてもよく、たまり部分に棒状のマグネティックフィルターを備えていてもよい。マグネティックフィルターの形状は、使用済みの研磨材を含む研磨材スラリーの種類、粘度等に応じて適宜変更することができる。
【0067】
(6:粒子径制御工程E)
本発明の研磨材再生方法においては、上記各工程を経て回収した使用済みの研磨材を再利用するため、最終工程として、2次粒子状態で凝集している研磨材粒子を解膠して1次粒子状態の粒子径分布にする粒子径制御工程Eを備えてもよい。
【0068】
無機塩等を用いて、研磨材粒子を凝集して回収した濃縮物は、そのままの状態では、2次粒子としての塊状であり、再利用するために、凝集した研磨材粒子を分解して、単独粒子状態(1次粒子)にするための再分散処理を施すため、最後に粒子径制御工程Eを組み入れることが好ましい。
【0069】
粒子径制御工程Eは、濾過工程Dで得られた研磨材成分を再分散させて、処理前の研磨材スラリーと同等の粒度分布になるように粒子径を調整する工程である。
【0070】
凝集した研磨材粒子を再分散させる方法としては、a)水を添加し、処理液中の無機イオン濃度を低下させる方法、b)金属分離剤(分散剤ともいう)を添加することで研磨材に付着する金属イオン濃度を低下させる方法、c)分散機等を使用して、凝集した研磨材粒子を解砕する方法がある。
【0071】
これらの方法は、それぞれ単独で使用しても良いし、組み合わせて使用しても良いが、a)、b)、c)の内いずれか二つを組み合わせる方法が好ましく、a)、b)、c)を全て組み合わせて行う方法がより好ましい。
【0072】
水を添加する場合、その添加量は、濃縮したスラリーの体積によって適宜選択され、一般的には濃縮したスラリーの5〜50体積%であり、好ましくは10〜40体積%である。
【0073】
金属分離剤(分散剤)としては、カルボキシ基を有するポリカルボン酸系高分子分散剤が好ましく挙げられ、特にアクリル酸−マレイン酸の共重合であることが好ましい。具体的な金属分離剤(分散剤)としては、ポリティーA550(ライオン(株)製)等が挙げられる。金属分離剤(分散剤)の添加量としては、濃縮したスラリーに対して0.01〜5体積%である。
【0074】
また、分散機としては、超音波分散機、サンドミルやビーズミルなどの媒体撹拌ミルが適用可能であり、特には、超音波分散機を用いることが好ましい。
【0075】
また、超音波分散機としては、例えば、(株)エスエムテー、(株)ギンセン、タイテック(株)、BRANSON社、Kinematica社、(株)日本精機製作所等から市販されており、(株)エスエムテー UDU−1、UH−600MC、(株)ギンセン GSD600CVP、(株)日本精機製作所 RUS600TCVP等を使用することができる。超音波の周波数は、特に限定されない。
【0076】
機械的撹拌及び超音波分散を同時並行的に行う循環方式の装置としては、(株)エスエムテー UDU−1、UH−600MC、(株)ギンセン GSD600RCVP、GSD1200RCVP、(株)日本精機製作所 RUS600TCVP等を挙げることができるが、これに限ったものでない。
【0077】
この粒子径制御工程Eで得られる粒度分布としては、経時変動が少なく、1日経過後の粒度変動が少ないものが望ましい。
【0078】
〔再生研磨材〕
上記粒子径制御工程Eを経て得られる最終的な回収研磨材は、98質量%以上の高純度の研磨材を含有し、粒度分布の経時変動が小さく、回収した時の濃度より高く、無機塩の含有量としては、0.0005〜0.08質量%の範囲であることが好ましい。
【0079】
なお、研磨材再生方法において、濾過工程Dは、スラリー回収工程Aの後に備えられていればよく、例えば、分離濃縮工程B、研磨材回収工程C、第2濃縮工程Dの後、或いは、各工程と同時に行う構成であってもよい。また、粒子径制御工程Eを備える場合、粒子径制御工程Eは、研磨材粒子を2次粒子としての塊状から単独粒子(1次粒子)の状態にする再分散処理が施される研磨材再生方法の最終工程であるため、各工程の操作等により混入した金属元素の粒子を全て取り除くことができる粒子径制御工程Eの前に濾過工程Dによる濾過処理を行うことが望ましい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【0081】
《再生研磨材の調製》
〔再生研磨材1の調製:実施例1〕
以下の工程に従って、研磨材として酸化セリウムを用いた再生研磨材1を調製した。なお、特に断りがない限りは、研磨材再生工程は、基本的には、25℃、55%RHの条件下で行った。このとき、溶液等の温度も25℃である。
【0082】
1)スラリー回収工程A
図1に記載の研磨工程で、研磨材として酸化セリウム(シーアイ化成社製)を用いてハードディスク用ガラス基板の研磨加工を行った後、洗浄水を含むリンススラリーを210リットル、使用済み研磨材を含むライフエンドスラリーを30リットル回収し、回収スラリー液として240リットルとした。この回収スラリー液は比重1.03であり、8.5kgの酸化セリウムが含まれている。
【0083】
2)分離濃縮工程B
次いで、この回収スラリー液を酸化セリウムが沈降しない程度に撹拌しながら、無機塩として塩化マグネシウムの10質量%水溶液を2.0リットル、10分間かけて添加した。塩化マグネシウムを添加した直後の25℃換算のpH値は8.60であった。
【0084】
3)研磨材回収工程C
上記の状態で30分撹拌を継続した後、45分間静置して、自然沈降法により、上澄み液と濃縮物とを沈降・分離した。45分後に、排水ポンプを用いて、上澄み液を排出して、濃縮物を固液分離して回収した。回収した濃縮物は60リットルであった。
【0085】
4)第2濃縮工程F
第2濃縮工程Fは、図示しない濾過装置を用いる濾過処理により処理を行った。
【0086】
上記3)研磨材回収工程Cで回収した濃縮物を、2次粒子の状態で、ゆっくりと撹拌機で撹拌しながら、ポンプにより濾過装置に送液した。この濾過装置は、濾過フィルターを備え、濾過フィルター内に濃縮物を通過させ、ガラス成分を含む上澄み液を分離した。分離した上澄み液は、配管で系外に排出した。この濾過処理は、濃縮物を、濾過装置内を15分間、1.2L/minの流量で循環させ、濃縮物の初期液量の1/2となるまで濃縮濾過を行った。
【0087】
なお、第2濃縮工程Fで使用した濾過フィルターは、日本ガイシ社製のセラミックフィルター「セフィルト」(細孔径:0.5μm)を用いた。
【0088】
5)濾過工程D
濾過工程Dは、マグネティックフィルターにより研磨材に混入する金属元素の粒子を濾過して取り除く処理を行った。
具体的には、濾過工程Dは、マグネティックフィルターの磁力を3000
Gauss、濾過する濃縮物の送液速度を0.5L/minで濾過処理を行った。
【0089】
6)粒子径制御工程E
分離した濃縮物に水12リットルを添加した。さらに、金属分離剤(高分子分散剤)としてポリティーA550(ライオン(株)製)を300g添加し、30分撹拌した後、超音波分散機(BRANSON社製)を用いて、濃縮物を分散して解きほぐした。
【0090】
分散終了後、10ミクロンのメンブランフィルターで濾過を行って、再生酸化セリウムを含有する再生研磨材1を得た。
【0091】
〔再生研磨材2の調製:実施例2〕
上記再生研磨材1の調製において、濾過工程Dにおける送液速度を1.0L/minに変更した以外は同様にして再生研磨材2を得た。
【0092】
〔再生研磨材3の調製:実施例3〕
上記再生研磨材1の調製において、濾過工程Dにおける送液速度を2.0L/minに変更した以外は同様にして再生研磨材3を得た。
【0093】
〔再生研磨材4の調製:実施例4〕
上記再生研磨材1の調製において、濾過工程Dにおけるマグネティックフィルターの磁力を5000
Gaussに変更した以外は同様にして再生研磨材4を得た。
【0094】
〔再生研磨材5の調製:実施例5〕
上記再生研磨材2の調製において、濾過工程Dにおけるマグネティックフィルターの磁力を5000
Gaussに変更した以外は同様にして再生研磨材5を得た。
【0095】
〔再生研磨材6の調製:実施例6〕
上記再生研磨材3の調製において、濾過工程Dにおけるマグネティックフィルターの磁力を5000
Gaussに変更した以外は同様にして再生研磨材6を得た。
【0096】
〔再生研磨材7の調製:実施例7〕
上記再生研磨材2の調製において、濾過工程Dにおけるマグネティックフィルターの磁力を10000
Gaussに変更した以外は同様にして再生研磨材7を得た。
【0097】
〔再生研磨材8の調製:実施例8〕
上記再生研磨材3の調製において、濾過工程Dにおけるマグネティックフィルターの磁力を10000
Gaussに変更した以外は同様にして再生研磨材8を得た。
【0098】
〔再生研磨材9の調製:実施例9〕
上記再生研磨材1の調製において、濾過工程Dにおけるマグネティックフィルターの磁力を20000
Gaussに変更した以外は同様にして再生研磨材9を得た。
【0099】
〔再生研磨材10の調製:実施例10〕
上記再生研磨材2の調製において、濾過工程Dにおけるマグネティックフィルターの磁力を20000
Gaussに変更した以外は同様にして再生研磨材10を得た。
【0100】
〔再生研磨材11の調製:比較例1〕
上記再生研磨材2の調製において、濾過工程Dによる濾過処理を行わなかった以外は同様にして再生研磨材11を得た。
【0101】
《再生研磨材の評価》
〔加工キズ〕
実施例1から10及び比較例1について、被研磨物3である外径65mm、内径20mmのドーナツ状ガラス基板1枚当たりに存在する0.2μm以上の傷(キズ)の個数を調べた。
【0102】
以上の評価により得られた結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1からわかるように、実施例1から10は、マグネティックフィルターによる濾過工程Dによる処理を行わなかった比較例1よりも明らかに加工後のキズの数が少ない。また、実施例1から10については、送液速度が速くなることで、わずかな金属元素の粒子が研磨材中に残留し、キズの数が増加したものと考えられる。また、実施例1から10については、マグネティックフィルターの磁力を強めることにより、同じ送液速度の実施例と比較して加工後のキズの数が減っていることがわかる。
【0105】
以上のように、本実施形態の研磨材再生方法によれば、研磨材が、酸化セリウム、ダイヤモンド、窒化ホウ素、炭化ケイ素、アルミナ、アルミナジルコニア及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種であり、使用済みの研磨材を含む研磨材スラリーを回収するスラリー回収工程Aと、回収された研磨材スラリーに対し、無機塩としてアルカリ土類金属元素を含む金属塩を添加して研磨材を凝集させ、研磨材を母液より分離濃縮する分離濃縮工程Bと、分離され、濃縮された研磨材を固液分離して回収する研磨材回収工程Cと、マグネティックフィルターにより研磨材に混入する金属元素の粒子を濾過して取り除く濾過工程Dを経て使用済みの研磨材を含む研磨材スラリーから研磨材を再生するとともに、工程Dが工程A〜工程Cのいずれかの工程の後又は工程B若しくは工程Cと同時に行われる。これにより、被研磨物を研磨する工程において混入した金属元素の粒子や使用する装置等から混入した金属元素の粒子等の不純物を取り除くことができ、研磨材粒子よりも小さな粒子径の金属元素の粒子であっても取り除くことができるため、使用済みの研磨材を含む研磨材スラリーからより高純度の再生研磨材を得ることができる。
【0106】
また、マグネティックフィルターは、永久磁石材料又は電磁石材料により構成されているので、研磨材粒子の粒子径にかかわらず金属元素の粒子を除去できる。また、電磁石材料を用いる場合は、通電のオン・オフにより磁力を簡便に制御することができる。
【0107】
また、回収された研磨材の粒子径を調整する粒子径制御工程Eを備え、濾過工程Dは、粒子径制御工程Eの直前に行われるので、最終工程の直前に行うことで、各工程で混入した金属元素の粒子を全て取り除くことができる。
【0108】
また、研磨材回収工程Cの後であって、粒子径制御工程Eの前に、回収された研磨材に対し濾過処理を施して2次濃縮を行う第2濃縮工程Fを備えるので、より高い研磨材濃度の再生研磨材を得ることができる。
【0109】
また、分離濃縮工程Bで用いるアルカリ土類金属元素を含む金属塩が、マグネシウム塩であるので、添加による溶液のpH変化が小さく、沈降した研磨材及び廃液の処理を容易に行うことができる。
【0110】
また、研磨材回収工程Cにおける研磨材の回収方法が、自然沈降によるデカンテーション分離法であるので、沈降する濃縮物に被研磨物由来のガラス成分等の不純物を極力混入させることなく、高純度の再生研磨材を得ることができる。
【0111】
なお、マグネティックフィルターとして電磁石材料を用いる場合、所定時間毎に電磁石に流す電流の向きを変化させることにより、磁石の極を入れ替えてもよい。これにより、引き寄せられた金属元素の粒子をマグネティックフィルターの広範囲に吸着させることができる。
また、濾過工程Dにおける磁力、送液速度は、一例であって、研磨材の種類、濃度、粘度等に合わせて適宜変更することができる。また、本発明の研磨材再生方法において、濾過工程Dによる濾過処理を1度行う構成としたが、研磨材の種類等に応じて、複数回行う構成としてもよい。