(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
超音波プローブに列設された複数の振動子を選択的に駆動して被検体に超音波送信する送信イベントを複数回繰り返すとともに、各送信イベントに同期して被検体から反射超音波を受波し、受波した反射超音波に基づいて生成される複数のサブフレーム音響線信号に基づきフレーム音響線信号を合成する超音波信号処理装置であって、
1回の送信イベントにおいて前記複数の振動子の中から一部の振動子列である第1の振動子列が選択されて当該第1の振動子列から被検体に向けて超音波送信され、複数回繰り返される各送信イベントにおいて選択される前記第1の振動子列が列方向に順次移動するように制御されている送信部と、
各送信イベントに同期して前記複数の振動子の中から前記第1の振動子列の少なくとも一部を含む振動子列である第2の振動子列を選択し、当該第2の振動子列が被検体内から受波した反射超音波に基づいて、前記第2の振動子列中の振動子各々に対する受信信号列を生成する受信部と、
各送信イベントに対して前記サブフレーム音響線信号を生成する被検体内の対象領域を決定する対象領域決定部と、
各送信イベントに対して前記対象領域内の複数の観測点について、各観測点から得られた反射超音波に基づく前記受信信号列を整相加算することにより、前記サブフレーム音響線信号を生成する整相加算部と、
複数の送信イベントから得られた前記複数のサブフレーム音響線信号に基づき前記フレーム音響線信号を合成する合成部と、
反射超音波に基づき被検体像の動き量を検出する検出部とを備え、
前記検出部が、所定の閾値以上の動き量を検出したとき、前記対象領域決定部は、前記対象領域の前記振動子列方向の幅を、前記動き量が前記所定の閾値未満の場合の幅よりも小さくし、前記合成部による前記フレーム音響線信号内の一つの観測点に対する音響線信号の合成に寄与するサブフレーム音響線信号の数を減少させる
超音波信号処理装置。
前記合成部は、異なる送信イベントに対して生成された複数のサブフレーム音響線信号を、各サブフレーム音響線信号に含まれる各観測点に対する音響線信号を前記観測点の位置を指標として加算することにより前記フレーム音響線信号を合成する
請求項1に記載の超音波信号処理装置。
前記検出部は、前記合成され記録媒体に保持されている複数のフレーム音響線信号に含まれる同一位置の観測点に対する複数の音響線信号の値の差分に基づき動き量を検出する
請求項3に記載の超音波信号処理装置。
前記合成部は、さらに、各サブフレーム音響線信号に含まれる各観測点に対する音響線信号を、前記観測点の位置を指標として加算することにより前記フレーム音響線信号を合成する
請求項8に記載の超音波信号処理装置。
前記合成部は、異なる送信イベントに対して生成された複数のサブフレーム音響線信号に含まれる同一位置の観測点に対する音響線信号を加算して前記フレーム音響線信号を合成する
請求項2又は8の何れか1項に記載の超音波信号処理装置。
さらに、前記フレーム音響線信号の合成において前記フレーム音響線信号に含まれる各音響線信号の合成において加算が行われた回数に応じて決定した増幅率を当該各音響線信号に乗じる増幅処理部を備えた
請求項2、8、9又は10の何れか1項に記載の超音波信号処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪発明を実施するための形態に至った経緯≫
発明者は超音波診断装置において、超音波画像における分解能及び信号S/N比を向上させるために各種の検討を行った。
非特許文献1に記載の、従来の超音波診断装置では、一般に、複数の振動子によって行われる被検体への超音波送信が行われる際、被検体のある深さで超音波ビームがフォーカスを結ぶよう送信ビームフォーミングがなされる。このとき、観測点Pが送信フォーカス点近傍にある場合には、送信フォーカス点近傍では超音波ビームは絞り込まれているので超音波ビームの分解能は高まり、また、空間エネルギー密度が高いために得られる反射超音波の信号S/N比(対象観測点Pから放射されたエコー信号をS、それ以外の領域からの信号をNとする)も高くなる。その結果、得られる音響線信号の分解能及び信号S/N比が高く高画質な超音波画像を得ることができる。他方、観測点Pが送信超音波ビームの中心軸上に位置する場合であっても、送信フォーカス点近傍から離れた位置にある場合には、得られる音響線信号の分解能及び信号S/N比が低く高画質な超音波画像を得ることが難しい。
【0011】
また、従来の超音波診断装置では、送信超音波ビームの中心軸上に観測点Pを設定するために、超音波照射範囲中、送信超音波ビームの中心軸上に位置する観測点Pからの反射超音波だけに基づき受信ビームフォーミングが行われることとなる。そのため、1回の超音波送信イベントから送信超音波ビームの中心軸上にある1本若しくは少数本のの音響線信号しか生成することができず、超音波の利用効率が悪いという課題も存在する。
【0012】
これに対して、合成開口法(Synthetic Aperture Method)により、送信フォーカス点近傍以外の領域においても分解能の高い、高画質な画像を得る受信ビームフォーミング方法が考案されている(例えば、非特許文献2)。この方法によれば、超音波送信波の伝播経路と、その伝播経路による反射波の振動子への到達時間の両方を加味した遅延制御を行うことで、送信フォーカス点近傍以外に位置する超音波照射領域からの反射超音波も反映した受信ビームフォーミングを行うことができる。その結果、1回の超音波送信イベントから超音波照射領域全体に対して音響線信号を生成することができる。また、合成開口法では、複数の送信イベントから得た同一観測点Pに対する複数の受信信号をもとに仮想的に送信フォーカスを合わせることで、非特許文献1記載の受信ビームフォーミング方法と比較して、分解能及び信号S/N比の高い超音波画像を得ることが可能となる。
【0013】
しかしながら、合成開口法を用いた受信ビームフォーミング方法においては、被検体の体動やプローブ移動等の被検体と振動子との間の相対的な動きがある場合、動きに起因する画像ボケや虚像等のモーションアーチファクトが発生しやすい。非特許文献1記載の従来の受信ビームフォーミング方法では、通常1本若しくは少数本の音響線信号を並設させてフレーム超音波画像を構成する。そのため、体動やプローブ移動に起因するモーションアーチファクトによる画質低下は相対的に小さい。
【0014】
これに対し、合成開口法では、複数の送信イベントから得た同一観測点Pに対する複数の受信信号からフレーム超音波画像を合成するので、送信イベントの最中や送信イベント間に体動やプローブ移動がある場合には、本来重なるべき同一観測点Pに対する複数の受信信号が示す画像の位置に変動が生じる。その結果、合成開口法固有の画像ボケや虚像等のモーションアーチファクトが発生し、十分な画像品質が得られない場合があった。
【0015】
そこで、発明者は、上記課題に鑑み、合成開口法による受信ビームフォーミング方法おいて、分解能及び信号S/N比の高い超音波画像を生成とモーションアーチファクトの抑制とを両立する技術について検討を行い、実施の形態に係る超音波信号処理方法及びそれを用いた超音波診断装置に想到するに至ったものである。
以下、実施の形態に係る超音波画像処理方法及びそれを用いた超音波診断装置について図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
≪実施の形態1≫
<全体構成>
以下、実施の形態1に係る超音波診断装置100について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施の形態1に係る超音波診断システム1000の機能ブロック図である。
図1に示すように、超音波診断システム1000は、被検体に向けて超音波を送信しその反射波の受信する複数の振動子101aを有するプローブ101、プローブ101に超音波の送受信を行わせプローブ101からの出力信号に基づき超音波画像を生成する超音波診断装置100、超音波画像を画面上に表示する表示部106を有する。プローブ101、表示部106は、それぞれ、超音波診断装置100に各々接続可能に構成されている。
図1は超音波診断装置100に、プローブ101、表示部106が接続された状態を示している。なお、プローブ101と、表示部106とは、超音波診断装置100の内部にあってもよい。
【0017】
<超音波診断装置100の構成>
超音波診断装置100は、プローブ101の複数ある振動子101aのうち、送信又は受信の際に用いる振動子を各々に選択し、選択された振動子に対する入出力を確保するマルチプレクサ部102、超音波の送信を行うためにプローブ101の各振動子101aに対する高電圧印加のタイミングを制御する送信ビームフォーマ部103と、プローブ101で受信した超音波の反射波に基づき、複数の振動子101aで得られた電気信号を増幅し、A/D変換し、受信ビームフォーミングして音響線信号を生成する受信ビームフォーマ部104を有する。また、受信ビームフォーマ部104からの出力信号に基づいて超音波画像(Bモード画像)を生成する超音波画像生成部105、受信ビームフォーマ部104が出力する音響線信号及び超音波画像生成部105が出力する超音波画像を保存するデータ格納部107と、各構成要素を制御する制御部108を備える。
【0018】
このうち、マルチプレクサ部102、送信ビームフォーマ部103、受信ビームフォーマ部104、超音波画像生成部105は、超音波信号処理装置150を構成する。
超音波診断装置100を構成する各要素、例えば、マルチプレクサ部102、送信ビームフォーマ部103、受信ビームフォーマ部104、超音波画像生成部105、制御部108は、それぞれ、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Aplication Specific Ingegrated Circuit)などのハードウェア回路により実現される。あるいは、CPU(Central Processing Unit)やGPGPU(General−Purpose computing on Graphics Processing Unit)やプロセッサなどのプログラマブルデバイスとソフトウェアにより実現される構成であってもよい。これらの構成要素は一個の回路部品とすることができるし、複数の回路部品の集合体にすることもできる。また、複数の構成要素を組合せて一個の回路部品とすることができるし、複数の回路部品の集合体にすることもできる。
【0019】
データ格納部107は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、MO、DVD、DVD−RAM、半導体メモリ等を用いることができる。また、データ格納部107は、超音波診断装置100に外部から接続された記憶装置であってもよい。
なお、本実施の形態に係る超音波診断装置100は、
図1で示した構成の超音波診断装置に限定されない。例えば、マルチプレクサ部102が不要な構成もあるし、プローブ101に送信ビームフォーマ部103や受信ビームフォーマ部104、またその一部などが内蔵される構成であってもよい。
【0020】
<超音波診断装置100の主要部の構成>
実施の形態1に係る超音波診断装置100は、プローブ101の各振動子101aから超音波送信を行わせる送信ビームフォーマ部103と、プローブ101での超音波反射波の受信から得た電気信号を演算して超音波画像を生成するための音響線信号を生成する受信ビームフォーマ部104に特徴を有する。そのため、本明細書では、主に、送信ビームフォーマ部103及び受信ビームフォーマ部104について、その構成及び機能を説明する。なお、送信ビームフォーマ部103及び受信ビームフォーマ部104以外の構成については、公知の超音波診断装置に使われるものと同じ構成を適用可能であり、公知の超音波診断装置のビームフォーマ部に本実施の形態に係るビームフォーマ部を置き換えて使用することが可能である。
【0021】
以下、送信ビームフォーマ部103と、受信ビームフォーマ部104の構成について説明する。
1.送信ビームフォーマ部103
送信ビームフォーマ部103は、マルチプレクサ部102を介してプローブ101と接続され、プローブ101から超音波の送信を行うためにプローブ101に存する複数の振動子101aの全てもしくは一部に当たる送信振動子列からなる送信開口Txに含まれる複数の振動子の各々に対する高電圧印加のタイミングを制御する。送信ビームフォーマ部103は送信部1031から構成される。
【0022】
送信部1031は、制御部108からの送信制御信号に基づき、プローブ101に存する複数の振動子101a中、送信開口Txに含まれる各振動子に超音波ビームを送信させるためのパルス状の送信信号を供給する送信処理を行う。具体的には、送信部1031は、例えば、クロック発生回路、パルス発生回路、遅延回路を備えている。クロック発生回路は、超音波ビームの送信タイミングを決定するクロック信号を発生させる回路である。パルス発生回路は、各振動子を駆動するパルス信号を発生させるための回路である。遅延回路は、超音波ビームの送信タイミングを各振動子毎に遅延時間を設定し、遅延時間だけ超音波ビームの送信を遅延させて超音波ビームのフォーカシングを行うための回路である。
【0023】
送信部1031は、超音波送信ごとに送信開口Txを列方向に漸次移動させながら超音波送信を繰り返し、プローブ101に存する全ての振動子101aから超音波送信を行う。送信開口Txに含まれる振動子の位置を示す情報は制御部108を介してデータ格納部107に出力される。例えば、プローブ101に存する振動子101a全数を192としたとき、送信開口Txを構成する振動子列の数として、例えば20〜100を選択してもよく、超音波送信毎に漸次移動させる構成としてもよい。以後、送信部1031により同一の送信開口Txから行われる超音波送信を「送信イベント」と称呼する。
【0024】
図2は、送信ビームフォーマ部103による超音波送信波の伝播経路を示す模式図である。ある送信イベントにおいて、超音波送信に寄与するアレイ状に配列された振動子101aの列(送信振動子列)を送信開口Txとして図示している。また、送信開口Txの列長を送信開口長と呼ぶ。
送信ビームフォーマ部103において、送信開口Txの中心に位置する振動子ほど送信タイミングを遅らせるように各振動子の送信タイミングを制御することにより、送信開口Tx内の振動子列から送信された超音波送信波は、被検体のある深度(Focal depth)において、波面がある一点で送信フォーカス点F(Focal point)があう状態となる。送信フォーカス点Fの深さ(Focal depth)は、任意に設定することができる。送信フォーカス点Fで合焦した波面は、再び拡散し、送信開口Txを底とし送信フォーカス点Fを節とする交差する2つの直線で区切られた砂時計型の空間内を超音波送信波が伝播する。すなわち、送信開口Txで放射された超音波は、しだいにその空間上での幅(図中の横軸方向)を小さくし、送信フォーカス点Fでその幅を最小化し、それよりも深部(図中では上部)に進行するにしたがって、再び、その幅を大きくしながら拡散し、伝播することとなる。この砂時計型の領域(斜線ハッチングで示した領域)を超音波照射領域Axと称呼する。
【0025】
2.受信ビームフォーマ部104の構成
受信ビームフォーマ部104は、プローブ101で受信した超音波の反射波に基づき、複数の振動子101aで得られた電気信号から音響線信号を生成する。なお、「音響線信号」とは、整相加算処理がされたあとのある観測点に対する受信信号である。整相加算処理については後述する。
図3は、受信ビームフォーマ部104の構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、受信ビームフォーマ部104は、受信部1040、イベントごと整相加算部1041、対象領域決定部(以後、「決定部」とする)110、検出部109、合成部1049を備える。
【0026】
以下、受信ビームフォーマ部104を構成する各部の構成について説明する。
(1)受信部1040
受信部1040は、マルチプレクサ部102を介してプローブ101と接続され、送信イベントに同期してプローブ101での超音波反射波の受信から得た電気信号を増幅した後AD変換した受信信号(RF信号)を生成する回路である。送信イベントの順に時系列に受信信号を生成しデータ格納部107に出力し、データ格納部107に受信信号を保存する。
【0027】
ここで、受信信号(RF信号)とは、各振動子にて受信された反射超音波から変換された電気信号をA/D変換したデジタル信号であり、各振動子にて受信された超音波の送信方向(被検体の深さ方向)に連なった信号の列を形成している。
送信イベントでは、上述のとおり、送信部1031は、プローブ101に存する複数の振動子101a中、送信開口Txに含まれる複数の振動子の各々に超音波ビームを送信させる。これに対し、受信部1040は、送信イベントに同期してプローブ101に存する複数の振動子101aの一部又は全部にあたる振動子の各々が得た反射超音波に基づいて、各振動子に対する受信信号の列を生成する。ここで、反射超音波を受信する振動子を「受波振動子」と称呼する。受波振動子の数は、送信開口Txに含まれる振動子の数よりも多いことが好ましい。また、受波振動子の数はプローブ101に存する振動子101aの全数としてもよい。
【0028】
送信部1031は、送信イベントに同期して送信開口Txを列方向に漸次移動させながら超音波送信を繰り返し、プローブ101に存する複数の振動子101a全体から超音波送信を行う。受信部1040は、送信イベントに同期して各受波振動子に対する受信信号の列を生成し、生成された受信信号はデータ格納部107に保存される。
(2)検出部109
検出部109は、合成されデータ格納部107に保持されている複数のフレーム音響線信号を入力として画像解析を行い、複数のフレーム音響線信号間における被検体像の動きを示す動き量を検出する回路である。ここで、「フレーム」とは、1枚の超音波画像を構築する上で必要な1つのまとまった信号を形成する単位をさす。1フレーム分の合成された音響線信号を「フレーム音響線信号」とする。この動き量の検出は、例えば、少なくとも2フレームのフレーム音響線信号を比較し、フレーム音響線信号内の1又は複数の画素からなる各画像領域の信号強度や輝度の差異を検出することで行ことができる。画像解析の対象となるフレーム音響線信号には、合成されデータ格納部107に保持されているフレーム音響線信号のうち、合成された時刻が新しい少なくとも2フレームのフレーム音響線信号を選択することが好ましい。例えば、合成された最新の連続する2フレームのフレーム音響線信号のうち、新しい方を対象フレーム音響線信号とし、古い方を対比フレーム音響線信号として選択してもよい。
【0029】
本実施の形態では、検出部109は、データ格納部107から取得した取得時間の異なる2フレームのフレーム音響線信号が示す信号強度、又は輝度などをフレーム間差分することによりフレーム音響線信号における動き量を検出する。
なお、検出部109は、フレーム音響線信号に代えて、フレーム音響線信号に基づきゲイン処理、対数変換等を施してフレームの超音波画像信号に処理した輝度信号に基づいて動き量を検出する構成としてもよい。
図4は、検出部109における動き量の検出方法の一例を示す模式図である。
図4に示すように、検出部109は、データ格納部107から、過去に合成された対象フレーム音響線信号AfとAfよりさらに過去に合成された対比フレーム音響線信号Bfを読み出し、1又は複数の画素からなる同一の画素領域間で例えば信号強度又は輝度情報についてフレーム間で差分を行う。具体的には、対象フレーム音響線信号Afをブロックと呼ばれる細かい例えば矩形の着目画像領域A
(1,1)〜A
(n,m)(n、mは整数)に分割し、そして、着目画像領域A
(i,j)(1≦i≦n、1≦j≦m)と比較対象となる対比フレーム音響線信号Bfの対比画像領域B
(i,j)(1≦i≦n、1≦j≦m)とをブロックごとに対比して両画素領域内の平均信号強度(例えば、輝度)の差分を算出する。この差分が大きいほど両フレーム音響線信号の同一画素領域間の動き量が大きいとみなすことができる。この画素領域毎の動き量を、対象フレーム音響線信号Af上においてA
(1,1)からA
(n,m)を着目画素領域として算出したのち、これらを累積して対象フレーム音響線信号Afに含まれる各画素領域の動き量累積値を算出する。
【0030】
また、動き量の検出には、既存の他の技術を適用することができる。例えば、各画像領域の移動方向、及び、移動量を検出する方法として、ブロックマッチング処理を用いることができる。ブロックマッチング処理では、対象フレーム音響線信号Afを例えば矩形の着目画像領域A
(1,1)〜A
(n,m)に分割し、そして、着目画像領域A
(i,j)と対比フレーム音響線信号Bf内の対比画像領域B
(1,1)〜B
(an,bm)(a、bは係数)とをブロックごとに対比して、例えば相互相関処理を行い類似度を算出する。また、画像領域内の画素同士の信号強度又は輝度の差分の累積値が小さいほど画像領域間の類似度は高く画像領域同士の相関は高いとしてもよい。画像領域A
(i,j)と相関が高い対比画像領域B
(i,j)との位置関係から、画像領域A
(i,j)の移動方向及び移動量を算出する。
【0031】
また、オプティカルフロー検出処理を用いることができる。オプティカルフローとは、時間的に異なるフレーム間の各画素における速度ベクトルである。勾配法を用いたオプティカルフロー検出処理では、信号強度又は輝度勾配がフレーム間で変化する方向を、画像上の局所領域での明るさの変化は小さく移動前後の信号強度値又は輝度値は不変であるとの仮定のもとに算出してオプティカルフローを検出し、これを用いて画像上の特徴点の位置変化を求める。
【0032】
なお、何れの処理においても、動き量を検出するフレームは、連続したフレームである必要はなく、一定時間隔てたフレーム同士を比較しても構わない。
算出されたフレーム音響線信号の動き量は決定部110に出力される。
(3)決定部110
決定部110は、被検体内においてサブフレーム音響線信号の生成を行う領域を示す対象領域内Bxを決定する。ここで、「対象領域」とは、送信イベントに同期して被検体内においてサブフレーム音響線信号の生成が行われるべき信号上の領域であり、対象領域Bx内の観測点Pijについて音響線信号が生成される。対象領域Bxは、音響線信号の生成が行われる観測対象点の集合として、1回の送信イベントに同期して計算の便宜上決定される。
【0033】
また、1回の送信イベントから生成される対象領域Bx内に存在する全ての観測点Pijに対する音響線信号の集合を「サブフレーム音響線信号」と称呼する。なお、「サブフレーム」とは、1回の送信イベントで得られ、対象領域Bx内に存在する全ての観測点Pijに対応するまとまった信号を形成する単位をさす。取得時間の異なる複数のサブフレームを合成したものがフレームとなる。
【0034】
決定部110は、送信イベントに同期して、送信ビームフォーマ部103から取得する送信開口Txの位置を示す情報と、検出部109から取得する被検体像の動きを示す動き量とに基づき対象領域内Bxを決定する。
図5は、動き量の変化に伴う対象領域Bxの振動子列方向の幅の変化を示す模式図である。
図5に示すように、対象領域Bxの範囲は、超音波照射領域Axの内部に存在するよう決定される。そして、決定部110は、動き量が所定の閾値以上であるとき振動子101aの列方向に沿った幅を減じた対象領域Bxを決定する。
【0035】
動き量が所定の閾値以上に大きい場合に、対象領域Bxの振動子列方向に沿った幅を減じる理由は、後述する合成部1049において、フレーム音響線信号を合成する際に、加算に用いられる複数のサブフレーム音響線信号中、同一位置の観測点に対する音響線信号を含むサブフレーム音響線信号の数を減少するためである。その結果、動き量が大きいときに、フレーム音響線信号の合成に用いられるサブフレーム音響線信号間における被検体の受信振動子に対する相対的ズレを減少でき、動きに起因する画像ボケや虚像等のモーションアーチファクトを抑制できる。
【0036】
また、動き量が所定の閾値未満であるとき列方向に沿った幅を増した対象領域Bxを決定する。本実施の形態では、動き量が所定の閾値以上であるとき砂時計形状をした対象領域Bxの上辺と底辺の長さを所定値に減少し、動き量が所定の閾値以上であるとき対象領域Bxの上辺と底辺の長さを送信イベントに同期して漸増する構成としている。
動き量が所定の閾値以上であるとき対象領域Bxの長さを所定値に減少する構成としているのは、超音波検査中に、所定の閾値以上の動き量が検出された場合に即座に対象領域Bxを減じて超音波画像における画像ボケや虚像等のモーションアーチファクト抑制するためである。
【0037】
他方、動き量が所定の閾値以上であるとき対象領域Bxの長さを送信イベントに同期して漸増する構成としているのは、対象領域Bxの急激な拡大を防止し超音波画像におけるチラツキを防止するためである。
また、上記構成において、決定部110は送信イベントにおいて得られた動き量が所定の閾値以上である場合に、列方向の幅を最小にした対象領域を決定するようにしてもよい。このとき、対象領域Bxは、振動子列の列中心を通り前記列に垂直な線状の領域であってもよい。また、列方向の幅を最小にした対象領域Bxの列方向の幅は、振動子列の列中心に位置する振動子1個の幅と等価となるよう構成してもよい。超音波検査中に、所定の閾値以上の動き量が検出された場合に即座に対象領域Bxを最小値に減じることができモーションアーチファクト抑制の応答性をより一層向上し、検査者の使い勝手を向上することができる。
【0038】
しかしながら、動き量が所定の閾値以上であるとき、対象領域Bxの長さを送信イベントに同期して漸減する構成としてもよい。対象領域Bxの急激な減少を防止し超音波画像におけるチラツキを改善することができる。
また、動き量に基づく対象領域Bxの幅の増減は、複数の閾値を用いて多段階に対象領域Bxの幅を減少する構成としてもよい。より一層きめ細かい制御が可能となり、モーションアーチファクトの抑制とチラツキの抑制とをバランスすることができる。
【0039】
なお、対象領域Bxは、本実施の形態では、超音波照射領域Axの形状に類似した形状となるよう送信振動子列が接触する被検体表面を底辺とする砂時計形状の領域とした。超音波照射領域Axのほぼ全域に観測点を設定することができ照射された超音波の利用効率を向上することができるからである。
しかしながら、対象領域Bxの形状は、砂時計形状に限定されず他の形状としてもよい。例えば、送信振動子列から平行波による超音波送信が行われる場合等においては、対象領域Bxの形状は、送信振動子列が接触する被検体表面を底辺とする矩形形状としてもよい。この場合も、超音波照射領域Axのほぼ全域に観測点を設定することができ照射された超音波の利用効率を向上することができる。
【0040】
決定された対象領域Bxは整相加算部1041に出力される。
(4)整相加算部1041
整相加算部1041は、送信イベントに同期して対象領域Bx内に存する複数の観測点Pij各々について、観測点から各受信振動子Riが受信した受信信号列を整相加算する。そして、各観測点における音響線信号の列を算出することによりサブフレーム音響線信号を生成する回路である。
図6は、整相加算部1041の構成を示す機能ブロック図である。
図6に示すように、整相加算部1041は、受信開口設定部1042、送信時間算出部1043、受信時間算出部1044、遅延量算出部1045、遅延処理部1046、重み算出部1047、及び加算部1048を備える。
【0041】
以下、整相加算部1041を構成する各部の構成について説明する。
i)受信開口設定部1042
受信開口設定部1042は、制御部108からの制御信号と、送信ビームフォーマ部103からの送信開口Txの位置を示す情報とに基づき、プローブ101に存する複数の振動子の一部に当たり、列中心が送信開口Txに含まれる振動子列の列中心と合致する振動子列(受信振動子列)を受信振動子として選択して受信開口Rxを設定する回路である。
【0042】
受信開口設定部1042は、列中心が観測点Pに最も空間的に近接する振動子と合致するよう受信開口Rx振動子列を選択する。
図7は、受信開口設定部1042により設定された受信開口Rxと送信開口Txとの関係を示す模式図である。
図7に示すように、受信開口Rx振動子列の列中心が、観測点Pijに最も空間的に近接する振動子Xiと合致するように受信開口Rx振動子列が選択される。そのため、受信開口Rxの位置は、観測点Pijの位置によって定まり、送信イベントに同期して送信イベントに同期して変動する送信開口Txの位置に基づいては変化しない。すなわち、異なる送信イベントであっても、同一位置にある観測点Pijについての音響線信号を生成する処理においては、同一の受信開口Rx内の受信振動子Riによって取得された受信信号に基づき整相加算が行われる。
【0043】
また、超音波照射領域全体からの反射波を受信するために、受信開口Rxに含まれる振動子の数は、対応する送信イベントにおける送信開口Txに含まれる振動子の数以上に設定することが好ましい。受信開口Rxを構成する振動子列の数は、例えば32、64、96、128、192等としてもよい。
受信開口Rxの設定は、送信イベントに対応して、送信イベントと同じ回数だけ行われる。また、受信開口Rxの設定は、送信イベントに同期して漸次行われる構成であってもよく、あるいは、全ての送信イベントが終了した後に、各送信イベントに対応した受信開口Rxの設定が送信イベントの回数分まとめて行われる構成であってもよい。
【0044】
選択された受信開口Rxの位置を示す情報は制御部108を介してデータ格納部107に出力される。
データ格納部107は、受信開口Rxの位置を示す情報と受信振動子に対応する受信信号とを、送信時間算出部1043、受信時間算出部1044、遅延処理部1046、重み算出部1047に出力する。
【0045】
ii)送信時間算出部1043
送信時間算出部1043は、送信された超音波が被検体中の観測点Pに到達する送信時間を算出する回路である。送信イベントに対応して、データ格納部107から取得した、送信開口Txに含まれる振動子の位置を示す情報と、決定部110から取得した超音波照射領域Ax内に存在する対象領域Bxの位置を示す情報とに基づき対象領域Bx内に存在する任意の観測点Pijについて、送信された超音波が被検体中の観測点Pijに到達する送信時間を算出する。
【0046】
図8は、送信開口Txから放射され対象領域Bx内の任意の位置にある観測点Pijにおいて反射され受信開口Rx内に位置する受信振動子Riに到達する超音波の伝播経路を説明するための模式図である。
送信開口Txから放射された送信波は、経路401を通って送信フォーカス点Fにて波面が集まり、再び、拡散する中で観測点Pijに到達し、観測点Pijで音響インピーダンスに変化があれば反射波を生成し、その反射波がプローブ101における受信開口Rx内の受信振動子Riに戻っていく。送信フォーカス点Fは送信ビームフォーマ部103の設計値として規定されているので、送信フォーカス点Fから任意の観測点Pijまでの経路402の長さは幾何学的に算出することができる。
【0047】
送信時間算出部1043は、1回の送信イベントに対し、超音波照射領域Ax内に存在する対象領域Bx内の全ての観測点Pijについて、送信された超音波が被検体中の観測点Pijに到達する送信時間を算出して遅延量算出部1045に出力する。
iii)受信時間算出部1044
受信時間算出部1044は、観測点Pからの反射波が、受信開口Rxに含まれる受信振動子Riの各々に到達する受信時間を算出する回路である。送信イベントに対応して、データ格納部107から取得した受信振動子Riの位置を示す情報と、決定部110から取得した対象領域Bxの位置を示す情報とに基づき対象領域Bx内に存在する任意の観測点Pijについて、送信された超音波が被検体中の観測点Pijで反射され受信開口Rxの各受信振動子Riに到達する受信時間を算出する。
【0048】
上述のとおり、観測点Pijに到達した送信波は、観測点Pijで音響インピーダンスに変化があれば反射波を生成し、その反射波がプローブ101における受信開口Rx内の各受信振動子Riに戻っていく。受信開口Rx内の各受信振動子Riの位置情報はデータ格納部107から取得されるので、任意の観測点Pijから各受信振動子Riまでの経路403の長さは幾何学的に算出することができる。
【0049】
受信時間算出部1044は、1回の送信イベントに対し、対象領域Bx内に存在する全ての観測点Pijについて、送信された超音波が観測点Pijで反射して各受信振動子Riに到達する受信時間を算出して遅延量算出部1045に出力する。
iv)遅延量算出部1045
遅延量算出部1045は、送信時間と受信時間とから受信開口Rx内の各受信振動子Riへの総伝播時間を算出し、当該総伝播時間に基づいて、各受信振動子Riに対する受信信号の列に適用する遅延量を算出する回路である。遅延量算出部1045は、送信時間算出部1043から送信された超音波が観測点Pijに到達する送信時間と、観測点Pijで反射して各受信振動子Riに到達する受信時間を取得する。そして、送信された超音波が各受信振動子Riへ到達するまでの総伝播時間を算出し、各受信振動子Riに対する総伝播時間の差異により、各受信振動子Riに対する遅延量を算出する。遅延量算出部1045は、対象領域Bx内に存在する全ての観測点Pijについて、各受信振動子Riに対する受信信号の列に適用する遅延量を算出して遅延処理部1046に出力する。
【0050】
v)遅延処理部1046
遅延処理部1046は、受信開口Rx内の受信振動子Riに対する受信信号の列から、各受信振動子Riに対する遅延量に相当する受信信号を、観測点Pijからの反射超音波に基づく各受信振動子Riに対応する受信信号として同定する回路である。
遅延処理部1046は、送信イベントに対応して、受信開口設定部1042から受信振動子Riの位置を示す情報、データ格納部107から受信振動子Riに対応する受信信号、決定部110から取得した対象領域Bxの位置を示す情報、遅延量算出部1045から各受信振動子Riに対する受信信号の列に適用する遅延量を入力として取得する。そして、各受信振動子Riに対応する受信信号の列から、各受信振動子Riに対する遅延量を差引いた時間に対応する受信信号を観測点Pijからの反射波に基づく受信信号として同定し、加算部1048に出力する。
【0051】
vi)重み算出部1047
重み算出部1047は、受信開口Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるよう各受信振動子Riに対する重み数列(受信アボダイゼーション)を算出する回路である。
図5に示すように、重み数列は受信開口Rx内の各振動子に対応する受信信号に適用される重み係数の数列である。重み数列は、送信フォーカス点Fを中心として対称な分布をなす。重み数列の分布の形状は、ハミング窓、ハニング窓、矩形窓などを用いることができ、分布の形状は特に限定されない。重み数列は、受信開口Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるように設定され、重みの分布の中心軸は、受信開口中心軸Rxoと一致する。重み算出部1047は、受信開口設定部1042から出力される受信振動子Riの位置を示す情報を入力として、各受信振動子Riに対する重み数列を算出し加算部1048に出力する。
【0052】
vii)加算部1048
加算部1048は、遅延処理部1046から出力される各受信振動子Riに対応して同定された受信信号を入力として、それらを加算して、観測点Pijに対する整相加算された音響線信号を生成する回路である。あるいは、さらに、重み算出部1047から出力される各受信振動子Riに対する重み数列を入力として、各受信振動子Riに対応して同定された受信信号に、各受信振動子Riに対する重みを乗じて加算して、観測点Pijに対する音響線信号を生成する構成としてもよい。遅延処理部1046において受信開口Rx内に位置する各受信振動子Riが検出した受信信号の位相を整えて加算部1048にて加算処理をすることにより、観測点Pijからの反射波に基づいて各受信振動子Riで受信した受信信号を重ね合わせてその信号S/N比を増加し、観測点Pijからの受信信号を抽出することができる。
【0053】
1回の送信イベントとそれに伴う処理から、超音波照射領域Ax内に存在する対象領域Bx内の全ての観測点Pijについて音響線信号を生成することができる。そして、送信イベントに同期して送信開口Txを列方向に漸次移動させながら超音波送信を繰り返し、プローブ101に存する全ての振動子101aから超音波送信を行うことにより1フレームの合成された音響線信号であるフレーム音響線信号を生成する。
【0054】
また、フレーム音響線信号を構成する観測点ごとの合成された音響線信号を、以後、「合成音響線信号」と称呼する。
加算部1048により、送信イベントに同期して対象領域Bx内に存在する全ての観測点Pijに対するサブフレームの音響線信号が生成される。生成されたサブフレームの音響線信号は、データ格納部107に出力され保存される。
【0055】
(5)合成部1049
合成部1049は、送信イベントに同期して生成されるサブフレーム音響線信号からフレーム音響線信号を合成する回路である。
図9は、合成部1049の構成を示す機能ブロック図である。
図9に示すように、合成部1049は、加算処理部10491、増幅処理部10492を備える。
【0056】
以下、合成部1049を構成する各部の構成について説明する。
i)加算処理部10491
加算処理部10491は、フレーム音響線信号を合成するための一連のサブフレーム音響線信号の生成が終了したのち、データ格納部107に保持されている複数のサブフレーム音響線信号を読み出す。そして、各サブフレーム音響線信号に含まれる音響線信号が取得された観測点Pijの位置を指標として複数のサブフレーム音響線信号を加算することにより、各観測点に対する合成音響線信号を生成してフレーム音響線信号を合成する。そのため、複数のサブフレーム音響線信号に含まれる同一位置の観測点に対する音響線信号は加算されて合成音響線信号が生成される。
【0057】
図10は、加算処理部10491における合成音響線信号を合成する処理を示す模式図である。上述のとおり、送信イベントに同期して送信振動子列(送信開口Tx)に用いる振動子を振動子列方向に漸次異ならせて超音波送信が順次行われる。そのため、異なる送信イベントに基づく超音波照射領域Ax内に設定される対象領域Bxも送信イベントごとに同一方向に漸次位置が異なる。複数のサブフレーム音響線信号を、各サブフレーム音響線信号に含まれる音響線信号が取得された観測点Pijの位置を指標として加算することにより、全ての対象領域Bxを網羅したフレーム音響線信号が合成される。
【0058】
また、位置の異なる複数の対象領域Bxにまたがって存在する観測点Pijについては、各サブフレーム音響線信号における音響線信号の値が加算されるので、合成音響線信号は、跨りの程度に応じて大きな値を示す。以後、観測点Pijが異なる対象領域Bx含まれる回数を「重畳数」、振動子列方向における重畳数の最大値を「最大重畳数」と称する。
【0059】
図11は、合成音響線信号における最大重畳数を示す模式図であり、(a)は動き量が小さい場合、(b)は動き量が大きい場合を示す例である。
図11(a)に示すように、動き量が小さい場合には最大重畳数は増加し、本例では最大値pmaxとなる。他方、動き量が大きい場合には最大重畳数は減少し、本例では最大値pmaxよりも小さいqとなる。これは、動き量が大きい場合には、振動子列方向に沿った幅を減じた対象領域Bxが設定されるので重畳数は減少するのに対し、動き量が小さい場合には、振動子列方向に沿った幅を増した対象領域Bxが設定されるので重畳数が増加することに基づく。その結果、動き量に応じて合成音響線信号の信号強度の値は変化する。
【0060】
また、本実施の形態では、対象領域Bxは砂時計形状の領域としている。そのため、
図11(a)(b)に示すように、重畳数及び最大重畳数は被検体の深さ方向において変化するので、合成音響線信号の値も同様に深さ方向において変化する。
なお、各サブフレーム音響線信号に含まれる音響線信号が取得された観測点Pijの位置を指標として加算する際に、観測点Pijの位置を指標として重みづけしながら加算してもよい。
【0061】
合成されたフレーム音響線信号は増幅処理部10492に出力される。
ii)増幅処理部10492
上述のとおり、合成音響線信号の値は動き量に応じて変化する。また、被検体の深さ方向においても変化する。これを補うために、増幅処理部10492は、フレーム音響線信号に含まれる合成音響線信号の合成において、加算が行われた回数に応じて決定した増幅率を各合成音響線信号に乗じる増幅処理を行う。
【0062】
図12は、増幅処理部10492における増幅処理の概要を示す模式図であり、(a)は動き量が小さい場合、(b)は動き量が大きい場合を示す例である。
図12(a)(b)に示すように、最大重畳数は被検体の深さ方向において変化するので、この変化を補うように、最大重畳数に応じて決定された被検体深さ方向において変化する増幅率が合成音響線信号に乗じられる。このとき、増幅処理部10492は、対象領域Bxの振動子列方向の幅が大きいほど被検体深さ方向において大きく変化する増幅率を用いる。これにより、深さ方向における重畳数の変化に伴う合成音響線信号の変動要因は解消され、増幅処理後の合成音響線信号の値は深さ方向において均一化が図られる。
【0063】
また、重畳数に応じて決定された振動子列方向において変化する増幅率を合成音響線信号に乗じる処理を行ってもよい。振動子列方向において重畳数が変化する場合に、その変動要因を解消し、振動子列方向において増幅処理後の合成音響線信号の値の均一化が図られる。
なお、生成した各観測点に対する合成音響線信号に増幅処理を施した信号をフレーム音響線信号としてもよい。
【0064】
<動作について>
以上の構成からなる超音波診断装置100の動作について説明する。
図13は、受信ビームフォーマ部104のビームフォーミング処理動作を示すフローチャートである。
先ず、ステップS101において、送信部1031は、プローブ101に存する複数の振動子101a中送信開口Txに含まれる各振動子に超音波ビームを送信させるための送信信号を供給する送信処理(送信イベント)を行う。
【0065】
次に、ステップS102において、受信部1040は、プローブ101での超音波反射波の受信から得た電気信号に基づき受信信号を生成しデータ格納部107に出力し、データ格納部107に受信信号を保存する。プローブ101に存する全ての振動子101aから超音波送信が完了したか否かを判定する(ステップS103)。そして、完了していない場合にはステップS101に戻り、送信開口Txを列方向に漸次移動させながら送信イベントを行い、完了している場合にはステップS201に進む。
【0066】
次に、ステップS201において、検出部109は、合成されデータ格納部107に保持されている複数のフレーム音響線信号に基づき、複数のフレーム音響線信号間における被検体像の動きを示す動き量を検出し決定部110に出力する。
次に、ステップS202において、決定部110は、送信イベントに同期して、送信開口Txの位置を示す情報と動き量とに基づき対象領域内Bxを決定する。1回目のループでは初回の送信イベントにおける送信開口Txから求められる超音波照領域Ax内の対象領域内Bxが決定される。
【0067】
ここで、ステップS202における、観測点Pijについて対象領域内Bxを決定処理の動作について説明する。
図14は、受信ビームフォーマ部104における対象領域の設定理動作を示すフローチャートである。まず、決定部110は、送信イベントに同期して、送信ビームフォーマ部103からの送信開口Txの位置を示す情報と、検出部109から被検体像の動きを示す動き量とを取得する(ステップS2021)。動き量が所定の閾値以上であるか否かを判定し(ステップS2022)、閾値以上である場合には、振動子列方向に沿った幅を、例えば所定の最小値とした対象領域Bxを決定し(ステップS2023)、ステップS2027に進む。閾値未満である場合には、現在の対象領域Bxの振動子列方向の幅が設定可能な最大値であるか否かを判定する(ステップS2024)。最大値である場合には、振動子列方向に沿った幅を最大値に維持した対象領域Bxを決定し(ステップS2025)、ステップS2027に進む。最大値ではない場合には、振動子列方向に沿った幅を漸増した対象領域Bxを決定し(ステップS2026)、ステップS2027に進む。ステップS2027では、決定された対象領域Bxが整相加算部1041に出力される。
【0068】
このように、動き量が所定の閾値以上であるとき対象領域Bxの幅を所定の最小値に減少することにより、所定の閾値以上の動き量が検出された場合に即座に対象領域Bxを減じることができ、超音波画像における画像ボケや虚像等のモーションアーチファクト抑制の応答性を向上することができる。
他方、動き量が所定の閾値未満であるときは対象領域Bxの幅を送信イベントに同期して漸増することにより、対象領域Bxの急激な拡大を防止し超音波画像におけるチラツキを防止することができる。
【0069】
次に、
図13に戻り、観測点同期型ビームフォーミング処理(ステップS20(S204〜S211))に進む。ステップS20では、まず、観測点Pijの位置を示す座標ijを対象領域内Bx内の最小値に初期化し(ステップS205、S206)、受信開口設定部1042は、列中心が観測点Pijに最も空間的に近接する振動子Xiと合致するよう受信開口Rx振動子列を選択する(ステップS204)。
【0070】
次に、観測点Pijについて音響線信号を生成する(ステップS207)。
ここで、ステップS207における、観測点Pijについて音響線信号を生成する動作について説明する。
図15は、受信ビームフォーマ部104における観測点Pijについての音響線信号生成動作を示すフローチャートである。
図16は、受信ビームフォーマ部104における観測点Pijについての音響線信号生成動作を説明するための模式図である。
【0071】
先ず、ステップS2071において、送信時間算出部1043は、対象領域Bx内に存在する任意の観測点Pijについて、送信された超音波が被検体中の観測点Pijに到達する送信時間を算出する。送信時間は、幾何学的に定まる受信開口Rx内の受信振動子Riから送信フォーカス点Fを経由して観測点Pijに至る経路(401+402)の長さを超音波の音速csで除することにより算出できる。
【0072】
次に受信開口Rxから求められる受信開口Rx内の受信振動子Riの位置を示す座標iを受信開口Rx内の最小値に初期化し(ステップS2072)、送信された超音波が被検体中の観測点Pijで反射され受信開口Rxの受信振動子Riに到達する受信時間を算出する(ステップS2073)。受信時間は、幾何学的に定まる観測点Pijから受信振動子Riまでの経路403の長さを超音波の音速csで除することにより算出できる。さらに、送信時間と受信時間の合計から、送信開口Txから送信された超音波が観測点Pijで反射して受信振動子Riに到達するまでの総伝播時間を算出し(ステップS2074)、受信開口Rx内の各受信振動子Riに対する総伝播時間の差異により、各受信振動子Riに対する遅延量を算出する(ステップS2075)。
【0073】
受信開口Rx内に存在する全ての受信振動子Riについて遅延量の算出を完了したか否かを判定し(ステップS2076)、完了していない場合には座標iをインクリメント(ステップS2077)して、更に受信振動子Riについて遅延量の算出し(ステップS2073)、完了している場合にはステップS2078に進む。この段階では、受信開口Rx内に存在する全ての受信振動子Riについて観測点Pijからの反射波到達の遅延量が算出されている。
【0074】
ステップS2078において、遅延処理部1046は、受信開口Rx内の受信振動子Riに対応する受信信号の列から、各受信振動子Riに対する遅延量を差引いた時間に対応する受信信号を観測点Pijからの反射波に基づく受信信号として同定する。
次に、重み算出部1047は、受信開口Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるよう各受信振動子Riに対する重み数列を算出する(ステップS2079)。加算部1048は、各受信振動子Riに対応して同定された受信信号に、各受信振動子Riに対する重みを乗じて加算して、観測点Pijに対する音響線信号を生成し(ステップS2170)、生成された観測点Pijについて音響線信号はデータ格納部107に出力され保存される(ステップS2171)。
【0075】
次に、
図13に戻り、座標ijをインクリメントしてステップS207を繰り返すことにより、対象領域Bx内の座標ijに位置する全ての観測点Pij(
図16中の「・」)について音響線信号が生成される。対象領域Bx内に存在する全ての観測点Pijについて音響線信号の生成を完了したか否かを判定し(ステップS208、S210)、完了していない場合には座標ijをインクリメント(ステップS209、S211)して、観測点Pijについて音響線信号を生成し(ステップS207)、完了した場合にはステップS213に進む。この段階では、1回の送信イベントに伴う対象領域Bx内に存在する全ての観測点Pijについてのサブフレームの音響線信号が生成され、データ格納部107に出力され保存されている。
【0076】
次に、全ての送信イベントについて、サブフレームの音響線信号の生成が終了したか否かを判定し(ステップS213)、終了していない場合には、ステップS205に戻り、観測点Pijの位置を示す座標ijを、次の送信イベントでの送信開口Txから求められる対象領域Bx内の最小値に初期化し(ステップS205、S206)、受信開口Rxを設定する(ステップS204)し、終了している場合にはステップS301に進む。
【0077】
次に、ステップS301において、加算処理部10491は、データ格納部107に保持されている複数のサブフレーム音響線信号を読み出し、観測点Pijの位置を指標として複数のサブフレーム音響線信号を加算して各観測点Pijに対する合成音響線信号を生成してフレーム音響線信号を合成する。次に、増幅処理部10492は、フレーム音響線信号に含まれる各合成音響線信号の加算回数に応じて決定された増幅率を各合成音響線信号に乗じ(ステップS302)、増幅されたフレーム音響線信号を、超音波画像生成部105及びデータ格納部107に出力し(ステップS303)処理を終了する。
【0078】
<画質改善の評価>
1.モーションアーチファクト
超音波診断装置100における超音波画像の画質改善効果について、フレーム音響線信号に基づき超音波画像生成部105で生成したBモード画像を表示部106に表示させて確認した。
その結果、超音波診断装置100では、動き量が大きい場合から小さい場合まで、画像ボケの少ない明瞭な画像が得られており、モーションアーチファクトが抑制され、かつ分解能が高く雑音をより抑制した超音波画像が得られることを確認した。
【0079】
上述のとおり、超音波診断装置100における決定部110では、動き量が所定の閾値以上に大きい場合に、対象領域Bxの振動子列方向に沿った幅を減じる構成を採る。これにより、加算処理部10491において、フレーム音響線信号を合成する際に、加算に用いられる複数のサブフレーム音響線信号中、同一位置の観測点に対する音響線信号を含むサブフレーム音響線信号の数を減少できる。そして、同一観測点を含むサブフレームの数を減少することは、同一観測点に関して加算される音響線信号取得の基礎となった送信イベントの回数を減らすことを意味する。
【0080】
上述のとおり、送信イベントはイベントごとに送信開口Txを列方向に漸次移動させながら超音波送信を繰り返し時系列に行われる。そのため、動き量が大きいときに送信イベントの回数を減らすことは、各送信イベント間での被検体の受信振動子に対する相対移動量を減少させることとなる。そのため、フレーム音響線信号の合成に用いられるサブフレーム音響線信号間での被検体の受信振動子に対する相対的ズレを減少でき、動きに起因する画像ボケや虚像等のモーションアーチファクトを抑制できる。
【0081】
すなわち、動き量が所定の閾値以上に大きい場合に、対象領域Bxの振動子列方向に沿った幅を減じる構成を採ることにより、被検体の体動やプローブ移動等の被検体と振動子との間の相対的な動きがある場合に、動きに起因する画像ボケや虚像等モーションアーチファクトの発生を抑制することができる。
2.増幅処理による効果
次に、超音波診断装置100における増幅処理による画質改善効果をBモード画像表示から評価した。
【0082】
図17は、超音波診断装置100より合成したフレーム音響線信号に基づくBモード画像を示す写真である。各Bモード画像の横方向は振動子列方向、横方向は被検体深さ方向である。Bモード画像の上部の数値TXAPは、砂時計形状の対象領域Bxの底辺の振動子列方向の幅をその幅に相当する振動子数で示した数値である。
図18は、超音波診断装置100において増幅処理を行わない処理方法により合成したフレーム音響線信号に基づくBモード画像を示す写真である。
【0083】
図18では、TXAPの数値が小さいほど、Bモード画像の縦方向により明確な複数の濃度の段差が発生していることがわかる(図中の矢印部分)。すなわち、動き量が大きいほど、より明確な濃度の段差が発生している。この段差は、対象領域Bxの振動子列方向の幅が被検体深さ方向に沿って変わる境界位置に対応しており、対象領域Bxの振動子列方向の幅が狭まったことに起因して輝度上の段差が発生しているものと推定される。
図18と、増幅処理を施した
図17に示すBモード画像とを比較することにより、超音波診断装置100では、増幅処理を行うことにより動き量が大きい場合においても被検体の深さ方向に生じる濃度の段差が目立たなくなることが確認できる。
【0084】
<効 果>
以上、説明したように本実施の形態に係る超音波診断装置100によれば、合成開口法により、異なる送信イベントにより生成された同一位置にある観測点Pについての音響線信号に重ね合わせて合成する。これにより、複数の送信イベントに対して送信フォーカス点F以外の深度にある観測点Pにおいても、仮想的に送信フォーカスを行った効果が得られ空間分解能と信号S/N比を向上することができる。
【0085】
また、超音波診断装置100では、送信イベントに同期してフレーム音響線信号から動き量を検出してその大きさを判定し、動き量が所定の閾値以上である場合にサブフレーム音響線信号が生成されるべき領域を示す対象領域Bxの振動子列方向の幅を所定の最小値に減少する処理を行う。これにより、フレーム音響線信号から閾値以上の動き量が検出された場合に、フレーム音響線信号を合成するために使われるサブフレーム音響線信号の数を減じることができ、合成開口法固有の動きに起因する画像ボケや虚像等のモーションアーチファクトを抑制することができる。
【0086】
また、超音波診断装置100は、送信開口Txから送信された超音波が送信フォーカス点Fを経由して超音波照領域Ax内の観測点Pijで反射され受信開口Rxの受信振動子Riに到達するまでの総伝播時間を算出して総伝播経路に基づく遅延制御を行なうことで、超音波照領域Ax内に位置する全ての観測点Pijについて各点にフォーカスした整相加算を行い、当該点について音響線信号を生成する。これにより、1回の超音波送信イベントから、超音波照射範囲中、送信超音波ビームの中心軸上以外の範囲からの反射超音波に基づいても音響線信号を生成することができ、送信超音波の利用効率を向上することができる。
【0087】
また、超音波診断装置100では、受信開口設定部1042Aは、列中心が観測点Pに最も空間的に近接する振動子と合致するよう受信開口Rx振動子列を選択し、送信イベントに依存せず観測点Pの位置に基づいて、観測点Pを中心として対称な受信開口を用いて受信ビームフォーマを行う。そのため、送信フォーカス点Fを横軸方向に変化(移動)させる送信イベントに同期せず、受信開口の位置が一定となり、異なる送信イベントにおいても同一の観測点Pに対して同一の受信開口にて整相加算を行うことができる。併せて、観測点Pからの反射波を、観測点Pから距離が小さい振動子ほど大きな重み数列が適用されることができるので、超音波が伝播距離に依存して減衰することを鑑みても、観測点Pに対して最も感度よく反射波を受信することができる。その結果、局所的に高い空間分解能と信号S/N比を実現できる。
【0088】
<変形例1>
実施の形態1に係る超音波診断装置100では、受信開口設定部1042は、列中心が観測点Pに最も空間的に近接する振動子と合致するよう受信開口Rxを選択する構成とした。しかしながら、受信開口Rxの構成は、送信開口Txから送信された超音波が送信フォーカス点Fを経由して超音波照領域Ax内の観測点Pijで反射され受信開口Rxの受信振動子Riに到達するまでの総伝播時間を算出して総伝播経路に基づく遅延制御を行なうことで、超音波照領域Ax内に位置する対象領域Bx内の全ての観測点Pijについての音響線信号を生成するものであればよく、受信開口Rxの構成は適宜変更することができる。
【0089】
変形例1では、列中心が送信開口Tx振動子列の列中心と合致する受信開口Rx振動子列を選択する送信同期型受信開口設定部(以後、「Tx受信開口設定部」)を備えた点で実施の形態1と相違する。Tx受信開口設定部以外の構成については、実施の形態1に示した各要素と同じであり、同じ部分については説明を省略する。
図19は、Tx受信開口設定部により設定された受信開口Rxと送信開口Txとの関係を示す模式図である。変形例1では、受信開口Rx振動子列の列中心が送信開口Tx振動子列の列中心と合致するように受信開口Rx振動子列が選択される。受信開口Rxの中心軸Rxoの位置は、送信開口Txの中心軸Txoの位置と同一であり、受信開口Rxは、送信フォーカス点Fを中心として対称な開口である。したがって、送信イベントにごとに列方向に移動する送信開口Txの位置変化に同期して、受信開口Rxの位置も移動する。
【0090】
また、受信開口Rxの中心軸Rxo及び送信開口Txの中心軸Txo上に位置する振動子に対する重みが最大となるよう受信開口Rxの各受信振動子Riに対する重み数列(受信アボダイゼーション)は算出される。重み数列は、振動子Xiを中心として対称な分布をなす。重み数列の分布の形状は、ハミング窓、ハニング窓、矩形窓などを用いることができ、分布の形状は特に限定されない。
【0091】
<動作について>
図20は、変形例1に係る超音波診断装置の受信ビームフォーマ部のビームフォーミング処理動作を示すフローチャートである。本フローチャートでは、
図13における観測点同期型ビームフォーミング処理(ステップS20(S204〜S211))に替えて送信同期型ビームフォーミング処理(ステップS40(S404〜S411))を行う点にて相違する。ステップS40以外の処理については、
図13と同じであり、同し部分については説明を省略する。
【0092】
ステップS40の処理において、先ず、ステップS404では、Tx受信開口設定部は、送信イベントに対応して列中心が送信開口Txに含まれる振動子列の列中心と合致する振動子列を受信振動子Riとして選択して受信開口Rxを設定する。
次に、ステップS202で算出した対象領域Bx内の観測点Pijの位置を示す座標ijを対象領域Bx内の最小値に初期化し(ステップS405、S406)、観測点Pijについて音響線信号を生成する(ステップS407)。
図21は、変形例1に係る受信ビームフォーマ部における観測点Pijについての音響線信号生成動作を説明するための模式図である。実施の形態1に関する
図13とは、送信開口Txと受信開口Rxとの位置関係が異なる。ステップS407における処理方法については、
図13におけるステップS207(
図15におけるステップS2071〜ステップS2171)と同じである。
【0093】
座標ijをインクリメントしてステップS407を繰り返すことにより、対象領域Bx内の座標ijに位置する全ての観測点Pij(
図21中の「・」)について音響線信号が生成される。対象領域Bx内に存在する全ての観測点Pijについて音響線信号の生成を完了したか否かを判定し(ステップS408、S410)、完了していない場合には座標ijをインクリメント(ステップS409、S411)して、観測点Pijについて音響線信号を生成し(ステップS407)、完了している場合にはステップS213に進む。この段階で、1回の送信イベントに伴う対象領域Bx内に存在する全ての観測点Pijのサブフレームの音響線信号が生成されデータ格納部107に出力され保存されている。
【0094】
全ての送信イベントについて、サブフレームの音響線信号の生成が終了したか否かを判定し(ステップS213)、終了していない場合には、ステップS202に戻り、次の送信イベントでの送信開口Txに対応する対象領域Bx(ステップS202)と受信開口Rxを設定する(ステップS404)し、終了している場合には、ステップS301に進む。
【0095】
次に、観測点Pijの位置を指標として複数のサブフレーム音響線信号を加算して各観測点に対する合成音響線信号を生成してフレーム音響線信号を合成し(ステップS301)、合成における加算回数に応じて決定された増幅率を各合成音響線信号に乗じ(ステップS302)たのち、超音波画像生成部105及びデータ格納部107に出力し(ステップS303)て処理を終了する。
【0096】
<効 果>
以上説明した、変形例1に係る超音波診断装置では、実施の形態1において示した効果のうち観測点同期型の受信開口に関する部分を除いた効果に変えて、以下の効果を奏する。すなわち、変形例1では、Tx受信開口設定部は送信イベントに対応して列中心が送信開口Txに含まれる振動子列の列中心と合致する振動子列を受信振動子として選択して受信開口Rxを設定する。そのため、受信開口Rxの中心軸Rxoの位置は、送信開口Txの中心軸Txoの位置と同一であり、送信イベントにごとに列方向に移動する送信開口Txの位置変化に同期して、受信開口Rxの位置も変化(移動)する。よって、送信イベントに同期してそれぞれ異なる受信開口にて整相加算を行うことができ、複数の送信イベントにわたって受信時刻は異なるものの、結果としてより一層広い受信開口を用いた受信処理の効果が得られ、広い観測領域で空間分解能を均一にすることができる。
【0097】
≪実施の形態2≫
実施の形態1に係る超音波診断装置100では、検出部109は、複数のフレーム音響線信号を入力として画像解析を行い複数のフレーム音響線信号間における被検体像の動きを示す動き量を検出する構成とした。しかしながら、検出部109は、反射超音波に基づき被検体像の動きを示す動き量を検出するものであればよく、画像解析の対象となる信号はフレーム音響線信号に限られず適宜変更することができる。
【0098】
実施の形態2に係る超音波診断装置では、動き量検出における画像解析の対象となる信号をサブフレーム音響線信号とし、送信イベントに同期して複数のサブフレーム音響線信号に基づき動き量を検出し、送信イベントに同期してサブフレーム音響線信号に基づく動き量を反映した対象領域Bxを決定する点で実施の形態1と相違する。
<構 成>
以下、実施の形態2に係る超音波診断装置について、図面を参照しながら説明する。
図22は、実施の形態2に係る超音波診断装置の受信ビームフォーマ部104Aの構成を示す機能ブロック図である。実施の形態2に係る超音波診断装置は、送信イベントに同期して生成され記録媒体に保持されている複数のサブフレーム音響線信号に基づき複数のフレーム音響線信号間における被検体像の動きを示す動き量を検出する検出部109Aを備える。さらに、送信イベントに同期して検出される動き量に基づき、この動き量が所定の閾値以上であるとき振動子列方向の幅を減じた対象領域Bxを決定する決定部110Aを備え、これらの構成を備えた点に特徴を有する。検出部109A、及び決定部110A以外の構成については、実施の形態1に示した各要素と同じであり、同し部分については説明を省略する。
【0099】
(1)検出部109A
検出部109Aは、合成されデータ格納部107に保持されている複数のフレーム音響線信号を入力として画像解析を行い、複数のサブフレーム音響線信号間における被検体像の動きを示す動き量を検出する回路である。この動き量の検出は、送信イベントに同期して、例えば、2以上のサブフレーム音響線信号を比較し、サブフレーム音響線信号内の1又は複数の画素からなる各画像領域の信号強度や輝度の差異を検出することで行う。画像解析の対象となるサブフレーム音響線信号には、生成されデータ格納部107に保持されているサブフレーム音響線信号のうち、生成された時刻が新しい少なくとも2サブフレームのサブフレーム音響線信号を選択することが好ましい。例えば、直近の過去に合成された連続する2サブフレームのサブフレーム音響線信号のうち、新しい方を対象サブフレーム音響線信号とし、古い方を対比サブフレーム音響線信号として選択してもよい。
【0100】
実施の形態2では、検出部109Aは、データ格納部107から取得した2サブフレームのフレーム音響線信号が示す信号強度又は輝度をサブフレーム間で差分することによりサブフレーム音響線信号における動き量を検出する。検出部109Aにおける動き量の検出方法は、検出部109での動き量検出方法と同じであり、
図4に示す動き量検出方法における画像解析の対象をフレーム音響線信号からサブフレーム音響線信号に変更したものである。
【0101】
検出されたサブフレーム音響線信号の動き量は送信イベントに同期して決定部110Aに出力される。
なお、検出部109Aは、サブフレーム音響線信号に代えて、送信イベントに同期して反射超音波に基づき生成され整相加算がなされる前の受信信号列に基づいて動き量を検出する構成としてもよい。
【0102】
(2)決定部110A
決定部110Aは、送信イベントに同期して送信ビームフォーマ部103から取得する送信開口Txの位置を示す情報と、送信イベントに同期して検出部109Aから取得するサブフレーム音響線信号における被検体像の動きを示す動き量とに基づき対象領域内Bxを決定する。決定部110Aにおける対象領域Bxの範囲の変更は、
図5に示される決定部110での動き量の変化に伴う対象領域Bxの振動子列方向の幅の変化と同じ方法で行われる。
【0103】
上記構成において、決定部110Aは動き量が所定の閾値以上であるとき列方向の幅を最小にした対象領域を決定する構成としてもよい。
決定された対象領域Bxは整相加算部1041に出力される。
<動作について>
図23は、受信ビームフォーマ部104Aのビームフォーミング処理動作を示すフローチャートである。本フローチャートでは、
図13における動き量検出処理(ステップS201)、対象領域決定処理(ステップS202)に替えて、ステップS201A及びステップS202Aの処理を行う点で相違する。これ以外の処理については、
図13と同じであり、同し部分については説明を省略する。
【0104】
ステップS201Aの処理において、検出部109Aは、合成されデータ格納部107に保持されている複数のサブフレーム音響線信号に基づき、複数のサブフレーム音響線信号間における被検体像の動きを示す動き量を検出し決定部110Aに出力する。
次に、ステップS202Aにおいて、決定部110Aは、送信イベントに同期して取得する送信開口Txの位置を示す情報と、送信イベントに同期して検出されるサブフレーム音響線信号間における動き量とに基づき対象領域内Bxを決定する。
【0105】
ここで、ステップS202Aにおける、対象領域内Bxを決定処理方法は、
図14に示した処理方法(ステップS2021〜S2027)と同じである。決定された対象領域Bxは整相加算部1041に出力される。
次に、観測点同期型ビームフォーミング処理(ステップS20(S204〜S211))に進む。座標ijをインクリメントしてステップS207を繰り返すことにより、対象領域Bx内の座標ijに位置する全ての観測点Pijについて音響線信号が生成される。
【0106】
全ての送信イベントについて、サブフレームの音響線信号の生成が終了したか否かを判定し(ステップS213)、終了していない場合には、ステップS202Aに戻り、次の送信イベントにおいて、画像解析の対象となる複数のサブフレーム音響線信号を更新し、新たに生成されたサブフレーム音響線信号を含む複数のサブフレーム音響線信号間における被検体像の動きを示す動き量を検出する(ステップS202A)。そして、新たに検出した動き量と、次の送信イベントでの送信開口Txの位置に対応するよう対象領域Bxを決定し(ステップS202A)、受信開口Rxを設定する(ステップS404)。全ての送信イベントについて、処理を終了している場合には、ステップS301に進む。
【0107】
次に、観測点Pijの位置を指標として複数のサブフレーム音響線信号を加算して各観測点に対する合成音響線信号を生成してフレーム音響線信号を合成し(ステップS301)、合成における加算回数に応じて決定された増幅率を各合成音響線信号に乗じ(ステップS302)たのち、超音波画像生成部105及びデータ格納部107に出力し(ステップS303)て処理を終了する。
【0108】
<効 果>
以上、説明したように実施の形態2に係る超音波診断装置によれば、実施の形態1に係る超音波診断装置100と同様に、合成開口法固有のモーションアーチファクトを抑制し、かつ分解能が高く雑音をより抑制した高画質な超音波画像を生成することができる。
さらに、実施の形態2に係る超音波診断装置では、送信イベントに同期して動き量を検出してその大きさを判定し、動き量が所定の閾値以上である場合に対象領域Bxの幅を所定の最小値に減少する処理を行う。これにより、フレーム音響線信号を構成するための複数の送信イベントの途中で閾値以上の動き量が検出された場合に、即座に対象領域Bxを減じることができ超音波画像におけるモーションアーチファクト抑制の応答性を向上することができる。
【0109】
<変形例2>
実施の形態2に係る超音波診断装置の受信ビームフォーマ部104Aでは、合成部1049は、超音波診断装置100に係る受信ビームフォーマ部104と同様に、異なる送信イベントに基づき生成された複数のサブフレーム音響線信号を、各サブフレーム音響線信号に含まれる音響線信号が取得された観測点の位置を指標として加算することにより各観測点に対する合成音響線信号を生成してフレーム音響線信号を合成する構成としている。
【0110】
これに対し、変形例2に係る受信ビームフォーマ部では、決定部110Aが、送信イベントにおいて得られた動き量が所定の閾値以上であることに基づき列方向の幅を減じた対象領域を決定した場合に、合成部1049が異なる処理方法による合成音響線信号の合成を行う点に特徴がある。
変形例2に係る受信ビームフォーマ部では、合成部は、決定部110Aが送信イベントにおいて得られた動き量が所定の閾値以上であることに基づき列方向の幅を減じた対象領域を決定した場合に、この送信イベントより前に取得されたサブフレーム音響線信号における音響線信号の値を0とする。さらに、各サブフレーム音響線信号に含まれる音響線信号が取得された観測点の位置を指標として加算することにより各観測点に対する合成音響線信号を生成して前記フレーム音響線信号を合成してもよい。
【0111】
これにより、フレーム音響線信号を構成するための複数の送信イベントの途中で動き量が変動し対象領域Bxが列方向の幅が減少した場合において、Bモード画像の振動子列方向にサブフレーム音響線信号の重ね合わせ回数変動に起因するムラ(縞模様)が発生することを抑制でき、均一な超音波画像を生成することができる。
なお、上記構成において、決定部110Aが送信イベントにおいて得られた動き量が所定の閾値以上であるとき列方向の幅を最小にした対象領域を決定するようにしてもよい。
【0112】
<その他の変形例>
なお、本発明を上記実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の実施の形態に限定されず、以下のような場合も本発明に含まれる。
例えば、本発明は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、上記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、上記マイクロプロセッサは、上記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。例えば、本発明の超音波診断装置の診断方法のコンピュータプログラムを有しており、このプログラムに従って動作する(又は接続された各部位に動作を指示する)コンピュータシステムであってもよい。
【0113】
また、上記超音波診断装置の全部、もしくは一部、またビームフォーミング部の全部又は一部を、マイクロプロセッサ、ROM、RAM等の記録媒体、ハードディスクユニットなどから構成されるコンピュータシステムで構成した場合も本発明に含まれる。上記RAM又はハードディスクユニットには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。上記マイクロプロセッサが、上記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置はその機能を達成する。
【0114】
また、上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、1つのシステムLSI(Large Scale Integration(大規模集積回路))から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全てを含むように1チップ化されてもよい。なお、LSIは、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。上記RAMには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。上記マイクロプロセッサが、上記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。例えば、本発明のビームフォーミング方法がLSIのプログラムとして格納されており、このLSIがコンピュータ内に挿入され、所定のプログラム(ビームフォーミング方法)を実施する場合も本発明に含まれる。
【0115】
なお、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(FieldProgrammableGateArray)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサー(ReConfigurablleProcessor)を利用してもよい。
【0116】
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。
また、各実施の形態に係る、超音波診断装置の機能の一部又は全てを、CPU等のプロセッサがプログラムを実行することにより実現してもよい。上記超音波診断装置の診断方法や、ビームフォーミング方法を実施させるプログラムが記録された非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体であってもよい。プログラムや信号を記録媒体に記録して移送することにより、プログラムを独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい、また、上記プログラムは、インターネット等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。
【0117】
上記実施形態に係る超音波診断装置では、記憶装置であるデータ格納部を超音波診断装置内に含む構成としたが、記憶装置はこれに限定されず、半導体メモリ、ハードディスクドライブ、光ディスクドライブ、磁気記憶装置、等が、超音波診断装置に外部から接続される構成であってもよい。
また、ブロック図における機能ブロックの分割は一例であり、複数の機能ブロックを一つの機能ブロックとして実現したり、一つの機能ブロックを複数に分割したり、一部の機能を他の機能ブロックに移してもよい。また、類似する機能を有する複数の機能ブロックの機能を単一のハードウェア又はソフトウェアが並列又は時分割に処理してもよい。
【0118】
また、上記のステップが実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記ステップの一部が、他のステップと同時(並列)に実行されてもよい。
また、超音波診断装置には、プローブ及び表示部が外部から接続される構成としたが、これらは、超音波診断装置内に一体的に具備されている構成としてもよい。
【0119】
また、上記実施の形態においては、プローブは、複数の圧電素子が一次元方向に配列されたプローブ構成を示した。しかしながら、プローブの構成は、これに限定されるものではなく、例えば、複数の圧電変換素子を二次元方向に配列した二次元配列振動子や、一次元方向に配列された複数の振動子を機械的に揺動させて三次元の断層画像を取得する揺動型プローブを用いてもよく、測定に応じて適宜使い分けることができる。例えば、2次元に配列されたプローブを用いた場合、圧電変換素子に電圧を与えるタイミングや電圧の値を個々に変化させることによって、送信する超音波ビームの照射位置や方向を制御することができる。
【0120】
また、プローブは、送受信部の一部の機能をプローブに含んでいてもよい。例えば、送受信部から出力された送信電気信号を生成するための制御信号に基づき、プローブ内で送信電気信号を生成し、この送信電気信号を超音波に変換する。併せて、受信した反射超音波を受信電気信号に変換し、プローブ内で受信電気信号に基づき受信信号を生成する構成を採ることができる。
【0121】
また、各実施の形態に係る超音波診断装置、及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。更に上記で用いた数字は、全て本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。
さらに、本実施の形態に対して当業者が思いつく範囲内の変更を施した各種変形例も本発明に含まれる。
【0122】
≪まとめ≫
以上、説明したように、本実施の形態に係る超音波信号処理装置は、超音波プローブに列設された複数の振動子を選択的に駆動して被検体に超音波送信する送信イベントを複数回繰り返すとともに、各送信イベントに同期して被検体から反射超音波を受波し、受波した反射超音波に基づいて生成される複数のサブフレーム音響線信号に基づきフレーム音響線信号を合成する超音波信号処理装置であって、1回の送信イベントにおいて前記複数の振動子の中から一部の振動子列が選択されてその振動子列から被検体に向けて超音波送信され、複数回繰り返される各送信イベントにおいて選択される振動子列が列方向に順次移動するように制御されている送信部と、各送信イベントに同期して前記複数の振動子の中から他の一部の振動子列を選択し、当該他の一部の振動子列が被検体内から受波した反射超音波に基づいて、前記他の一部の振動子列中の振動子各々に対する受信信号列を生成する受信部と、各送信イベントに同期して被検体内において前記サブフレーム音響線信号が生成されるべき対象領域を決定する決定部と、各送信イベントに同期して前記対象領域内の複数の観測点について、各観測点から得られた反射等音波に基づく前記受信信号列を整相加算することにより、前記サブフレーム音響線信号を生成する整相加算部と、複数の送信イベントから得られた前記複数のサブフレーム音響線信号に基づき前記フレーム音響線信号を合成する合成部と、反射超音波に基づき被検体像の動き量を検出する検出部とを備え、前記検出部が、所定の閾値以上の動き量を検出したとき、前記合成部は、前記フレーム音響線信号内の一つの観測点に対する音響線信号(合成音響線信号)の合成に寄与するサブフレーム音響線信号のサブフレーム数を減少させることを特徴とする。係る構成により、モーションアーチファクトを抑制し、かつ分解能が高く雑音をより抑制した高画質な超音波画像を生成できる。
【0123】
また、別の態様では、前記決定部は、前記動き量が所定の閾値以上であるとき、前記列方向の幅を減じた前記対象領域を決定する構成としてもよい。係る構成により、反射超音波から閾値以上の動き量が検出された場合に、簡易な構成にてフレーム音響線信号内の一つの観測点に対する音響線信号(合成音響線信号)の合成に寄与するサブフレーム音響線信号のサブフレーム数を減じることができ、合成開口法固有の超音波画像における動きに起因する画像ボケや虚像等のモーションアーチファクトを抑制することができる。
【0124】
また、別の態様では、前記合成部は、異なる送信イベントに同期して生成された複数のサブフレーム音響線信号を、各サブフレーム音響線信号に含まれる各観測点に対する音響線信号を前記観測点の位置を指標として加算することにより前記フレーム音響線信号を合成する構成としてもよい。係る構成により、モーションアーチファクトを抑制し、かつ分解能が高く雑音をより抑制した高画質な超音波画像を生成できる超音波信号処理装置を簡易な構成にて実現できる。
【0125】
また、別の態様では、前記検出部は、合成され記録媒体に保持されている複数のフレーム音響線信号に基づき動き量を検出する構成としてもよい。係る構成により、フレーム音響線信号から閾値以上の動き量が検出された場合に、フレーム音響線信号を合成するために使われるサブフレーム音響線信号の数を減じることができ、合成開口法固有の超音波画像における動きに起因する画像ボケや虚像等のモーションアーチファクトを抑制することができる。
【0126】
また、別の態様では、前記検出部は、前記合成され記録媒体に保持されている複数のフレーム音響線信号に含まれる同一位置の観測点に対する複数の超音波信号の値の差分に基づき動き量を検出する構成としてもよい。係る構成により、簡易な構成により複数のフレーム音響線信号間における被検体像の動きを示す動き量を検出することができる。
また、別の態様では、前記フレーム音響線信号の合成に用いられる前記複数のサブフレーム音響線信号が生成されるべき前記対象領域は、前記複数のサブフレーム音響線信号間で同一である構成としてもよい。係る構成により、フレーム音響線信号を構成するための複数の送信イベントの途中で動き量が変動し対象領域Bxが列方向の幅が減少した場合において、Bモード画像の振動子列方向にサブフレーム音響線信号の重ね合わせ回数変動に起因するムラ(縞模様)が発生することを抑制でき、均一な超音波画像を生成することができる。
【0127】
また、別の態様では、前記検出部は、生成され記録媒体に保持されている複数のサブフレーム音響線信号に基づき動き量を検出し、前記決定部は、送信イベントに同期して前記動き量が
前記所定の閾値以上であるとき前記
振動子列方向の幅を減じた前記対象領域を決定する構成としてもよい。係る構成により、フレーム音響線信号を構成するための複数の送信イベントの途中で閾値以上の動き量が検出された場合に、即座に対象領域Bxを減じることができ超音波画像におけるモーションアーチファクト抑制の応答性を向上することができる。
【0128】
また、別の態様では、前記検出部は、前記複数のサブフレーム音響線信号に含まれる同一位置の観測点に対する複数の音響線信号の値の差分に基づき動き量を検出する構成としてもよい。係る構成により、簡易な構成により複数のサブフレーム音響線信号間における被検体像の動きを示す動き量を検出することができる。
また、別の態様では、前記決定部が、一回の送信イベントに同期して前記
振動子列方向の幅を減じた前記対象領域を決定したとき、前記合成部は、各送信イベントに同期して生成された複数のサブフレーム音響線信号を、前記一回の送信イベントより前の送信イベントに同期して生成されたサブフレーム音響線信号の値を0とする構成としてもよい。また、別の態様では、各サブフレーム音響線信号に含まれる各観測点に対する音響線信号を、前記観測点の位置を指標として加算することにより前記フレーム音響線信号を合成する構成としてもよい。係る構成により、フレーム音響線信号を構成するための複数の送信イベントの途中で動き量が変動し対象領域Bxが列方向の幅が減少した場合において、Bモード画像の振動子列方向にサブフレーム音響線信号の重ね合わせ回数変動に起因するムラ(縞模様)が発生することを抑制でき、均一な超音波画像を生成することができる。
【0129】
また、別の態様では、前記合成部は、異なる送信イベントに同期して生成された複数のサブフレーム音響線信号に含まれる同一位置の観測点に対する音響線信号を加算して前記フレーム音響線信号を合成する構成としてもよい。係る構成により、複数の送信イベントに対して送信フォーカス点F以外の深度にある観測点Pにおいても、仮想的に送信フォーカスを行った効果が得られ空間分解能と信号S/N比を向上することができる。
【0130】
また、別の態様では、前記決定部は、前記動き量が
前記閾値以上であるとき前記
振動子列方向の幅を最小にして前記対象領域を決定する構成としてもよい。係る構成により、超音波検査中に、所定の閾値以上の動き量が検出された場合に即座に対象領域Bxを減じることができ超音波画像における画像ボケや虚像等のモーションアーチファクト抑制の応答性を向上し使い勝手を向上することができる。
【0131】
また、別の態様では、前記決定部は、前記動き量が
前記閾値未満であって、直前の送信イベントに同期して決定された前記対象領域の前記
振動子列方向の幅が最大値未満であるとき、前記
振動子列方向の幅を増加した前記対象領域を決定する構成としてもよい。また、別の態様では、前記決定部は、前記動き量が
前記閾値未満であって、直前の送信イベントに同期して決定した前記対象領域の前記
振動子列方向の幅が
最大値であるとき、前記
振動子列方向の幅を前記最大値とした前記対象領域を決定する構成としてもよい。係る構成により、対象領域Bxの急激な拡大を防止し超音波画像におけるチラツキを防止することができる。
【0132】
また、別の態様では、前記決定部は、前記動き量が
前記閾値以上であるとき、前記
第1の振動子列の列中心を通り前記
振動子列に垂直な線状の領域を決定する構成としてもよい。係る構成により、合成開口法固有のサブフレーム音響線信号の重ね合わせに起因して生じる、超音波画像における動きに起因する画像ボケや虚像等のモーションアーチファクトを解消することができる。
【0133】
また、別の態様では、前記動き量が大きいほど、異なる送信イベントに同期して生成された複数のサブフレーム音響線信号に含まれる同一位置の観測点に対する音響線信号の数が減少する構成としてもよい。係る構成により、合成開口法固有のモーションアーチファクトを抑制することができる。
また、別の態様では、さらに、前記フレーム音響線信号の合成において前記フレーム音響線信号に含まれる各音響線信号の合成において加算が行われた回数に応じて決定した増幅率を当該各音響線信号(合成音響線信号)に乗じる増幅処理部を備えた構成としてもよい。また、別の態様では、前記対象領域は、前記
第1の振動子列が接触する被検体表面を底辺とする砂時計形状の領域であり、前記増幅率は被検体深さ方向において変化する構成としてもよい。また、別の態様では、前記増幅処理部は、前記対象領域の前記
振動子列方向の幅が大きいほど前記増幅率は前記深さ方向において大きく変化する構成としてもよい。係る構成により、被検体の深さ方向における重畳数の変化に伴う合成音響線信号の変動要因は解消され、増幅処理後の合成音響線信号の値は深さ方向において均一化が図られる。また、増幅処理を行うことにより動き量が大きい場合においても被検体の深さ方向に生じる濃度の段差を目立たなくすることができる。
【0134】
また、別の態様では、前記整相加算の対象となる受信信号列を取得する振動子の列の列中心は、前記受信信号列生成と同期した送信イベントが行われた前記
第1の振動子
列の列中心と合致する構成としてもよい。係る構成により、送信イベントに同期してそれぞれ異なる受信開口にて整相加算を行うことができ、複数の送信イベントにわたって受信時刻は異なるものの、結果としてより一層広い受信開口を用いた受信処理の効果が得られ、広い観測領域で空間分解能を均一にすることができる。
【0135】
また、別の態様では、前記整相加算の対象となる受信信号列を取得する振動子の列の列中心は、前記整相加算の対象となる観測点に最も空間上近接する振動子と合致する構成としてもよい。係る構成により、送信フォーカス点Fを横軸方向に変化(移動)させる送信イベントに同期せず、受信開口の位置が一定となり、異なる送信イベントにおいても同一の観測点Pに対して同一の受信開口にて整相加算を行うことができる。その結果、局所的に高い空間分解能と信号S/N比を実現できる。
【0136】
また、別の態様では、さらに、前記整相加算の対象となる受信信号列を取得する振動子の列の列中心おいて、重みが最大となるよう前記
振動子列中の各振動子に対する重み数列を算出する重み算出部を備え、前記整相加算部は、前記
振動子列を構成する各振動子に対応する受信信号列から同定される受信信号値に、前記各振動子に対する重みを乗じて加算する構成としてもよい。係る構成により、受信開口の中央に位置する振動子ほど大きな重み数列が適用されることができるので、感度よく反射波を受信することができる。
【0137】
また、別の態様では、前記超音波プローブが接続可能に構成された超音波診断装置としてもよい。係る構成により、モーションアーチファクトを抑制し、かつ分解能が高く雑音をより抑制した高画質な超音波画像を生成できる超音波診断装置を実現できる。
また、別の態様では、前記整相加算部は、送信された超音波が観測点で反射され各振動子に到達するまでの総伝播時間に基づき、前記観測点に対する音響線信号を生成する構成としてもよい。係る構成により、簡易な構成にて整相加算部を実現できる。
【0138】
≪補足≫
以上で説明した実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない工程については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0139】
また、発明の理解の容易のため、上記各実施の形態で挙げた各図の構成要素の縮尺は実際のものと異なる場合がある。また本発明は上記各実施の形態の記載によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
さらに、超音波診断装置においては基板上に回路部品、リード線等の部材も存在するが、電気的配線、電気回路について当該技術分野における通常の知識に基づいて様々な態様を実施可能であり、本発明の説明として直接的には無関係のため、説明を省略している。なお、上記示した各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示したものではない。